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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1265103
審判番号 不服2012-10670  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-07 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 特願2007-334214「エコ運転支援装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月16日出願公開、特開2009-156132〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年12月26日の出願であって、平成23年7月19日付けで手続補正書が提出され、平成23年9月26日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年11月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年1月10日付けの最後の拒絶理由通知に対し、平成24年2月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年3月2日付けで平成24年2月20日付けの手続補正書による補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、平成24年6月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、また、同日付けで早期審理に関する事情説明書が提出されたものである。

第2.平成24年6月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年6月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成24年6月7日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし5に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年11月28日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1ないし5の下記(ア)を、下記(イ)と補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし5
「 【請求項1】
車両の運転状態がエコ状態であるか否かの判定を判定しきい値に基づいて判定するエコ状態判定手段と、
前記エコ状態判定手段の判定結果に基づいて、車両の運転状態のエコ度合いを報知するように制御する報知制御手段と、
車両の走行状態に応じて運転者のエコ運転に関する熟練度を判断する熟練度判断手段と、
少なくとも前記熟練度判断手段によって判断された熟練度に基づいて前記判定しきい値を変化させる判定しきい値変更手段と、を有することを特徴とするエコ運転支援装置。
【請求項2】
前記判定しきい値変更手段は、前記判定しきい値を、初期の判定しきい値からエコ状態であると判定されにくい判定しきい値に、徐々に変化させることを特徴とする請求項1に記載のエコ運転支援装置。
【請求項3】
前記初期の判定しきい値は、運転者の運転特性に基づいて設定されることを特徴とする請求項2記載のエコ運転支援装置。
【請求項4】
前記判定しきい値変更手段は、車両の走行距離、走行時間、の少なくとも1つにも基づいて、判定しきい値を変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のエコ運転支援装置。
【請求項5】
前記熟練度判断手段は、前記運転者のエコ運転に関する熟練度を、前記エコ状態判定手段によって、エコ状態であると判定される頻度に基づいて判断することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のエコ運転支援装置。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5
「 【請求項1】
車両の運転状態がエコ状態であるか否かの判定を少なくとも三段階以上の判定しきい値に基づいて判定するエコ状態判定手段と、
前記エコ状態判定手段の判定結果に基づいて、車両の運転状態のエコ度合いを報知するように制御する報知制御手段と、
車両の走行状態に応じて運転者のエコ運転に関する熟練度を判断する熟練度判断手段と、
少なくとも前記熟練度判断手段によって判断された熟練度に基づいて、前記判定しきい値を、前記三段階以上の判定しきい値のうちエコ状態であると判定されやすいしきい値である初期の判定しきい値から一段階ずつ徐々に変化させる判定しきい値変更手段と、を有することを特徴とするエコ運転支援装置。
【請求項2】
前記判定しきい値変更手段は、前記判定しきい値を、初期の判定しきい値からエコ状態であると判定されにくい判定しきい値に、一段階ずつ徐々に変化させることを特徴とする請求項1に記載のエコ運転支援装置。
【請求項3】
前記初期の判定しきい値は、運転者の運転特性に基づいて設定されることを特徴とする請求項2記載のエコ運転支援装置。
【請求項4】
前記判定しきい値変更手段は、車両の走行距離、走行時間、の少なくとも1つにも基づいて、判定しきい値を変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のエコ運転支援装置。
【請求項5】
前記熟練度判断手段は、前記運転者のエコ運転に関する熟練度を、前記エコ状態判定手段によって、エコ状態であると判定される頻度に基づいて判断することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のエコ運転支援装置。」(なお、下線は、補正箇所を明示するために当審が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「エコ状態判定手段」について、判定しきい値が「少なくとも三段階以上」であることを限定するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「判定しきい値変更手段」について、判定しきい値の変更を「前記三段階以上の判定しきい値のうちエコ状態であると判定されやすいしきい値である初期の判定しきい値から一段階ずつ徐々に変化させる」ものであることを限定し、さらに本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された「判定しきい値変更手段」について、判定しきい値の変更を「一段階ずつ」行うことを限定するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-284049号公報(平成19年11月1日公開。以下、「引用文献1」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて経済的且つ安全な車両の運転を支援するエコドライブ支援装置であって、
GPS衛星からの電波を受信して測位データを所定時間間隔で出力するGPS受信手段と、
画面表示可能なディスプレイと、
前記GPS受信手段からの前記測位データに基づいて、所定の警告条件に該当するか否かを判定する警告条件判定手段と、
その警告条件判定手段による判定結果に基づいて前記ディスプレイに警告メッセージを表示させる警告メッセージ表示制御手段と
を備えたことを特徴とするエコドライブ支援装置。
‥‥(中略)‥‥
【請求項8】
前記GPS受信手段からの前記測位データに基づいて走行状況の履歴を記憶する走行履歴記憶手段と、
その走行履歴記憶手段に記憶された走行状況の履歴に基づいてエコドライブの評価を行う評価手段と
を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のエコドライブ支援装置。
‥‥(中略)‥‥
【請求項13】
前記評価手段は、エコドライブの習熟度に応じた2段階以上の評価基準を有することを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載のエコドライブ支援装置。
‥‥(後略)‥‥」(【特許請求の範囲】)

(イ)「【0001】
本発明は、経済的且つ安全な車両の運転を支援するためのエコドライブ支援装置、カーナビゲーションシステム及びエコドライブ支援プログラムに関する。‥‥(後略)‥‥」(段落【0001】)

(ウ)「【0031】
13.前記評価手段は、エコドライブの習熟度に応じた2段階以上の評価基準を有することを特徴とする手段8乃至12のいずれかに記載のエコドライブ支援装置。
【0032】
手段13によれば、評価手段は、エコドライブの習熟度に応じた2段階以上の評価基準を有するので、例えば、最初はエコドライブ初心者用の評価基準を使用し、習熟度の向上に合わせて熟練者用の評価基準に替えることにより、段階的にエコドライブを習熟させることができる。」(段落【0031】及び【0032】)

(エ)「【0060】
以下、本発明のエコドライブ支援装置を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。‥‥(中略)‥‥尚、本明細書では、「エコドライブ」という用語を、経済的且つ安全であり、環境に配慮した車両の運転を意味するものとして用いる。」(段落【0060】)

(オ)「【0066】
次に、エコドライブ支援装置1において実行される処理の流れについて、図3乃至図9に示す画面表示例及び図10乃至図17に示すフローチャートに基づいて説明する。まず、携帯情報端末10に設けられたタッチパネル式液晶ディスプレイ15の画面上でエコドライブ支援プログラム14aのアイコン(図示せず)をクリックすると、エコドライブ支援プログラム14aが起動されて図10に示すメインルーチンの実行が開始される。
【0067】
最初に、初期化処理が行われ(ステップ1。以下、ステップ1をS1と略記する。他のステップも同様。)、続いて、新規運行か継続運行かを選択させる新規/継続選択モードに移り(S2)、図3に示すように、”新しい運行の計測を行います。よろしいですか?”という確認メッセージと”はい”、”いいえ”の各ボタンとが画面表示される(S3)。S3で、”はい”がクリックされた場合は、S5へ進む。一方、S3で、”いいえ”が選択された場合、フラッシュROM13から前回運行データの読込み(S4)を行った後、S5へ進む。
【0068】
S5では、入力画面処理が実行される。入力画面処理では、図4に示す入力画面150がタッチパネル式液晶ディスプレイ15に表示され、各入力項目の選択を行うことができる。入力画面150には、日付表示部1501、給油表示部1502、車輌名表示部1503、運転者表示部1504、評価モード表示部1505、警告予告チェックボックス1506、登録ボタン1507、戻るボタン1508、評価ボタン1509、ログ削除ボタン1510が表示され、車輌名、運転者、評価モード、及び警告予告アラームを行うか否かの選択をそれぞれ行うことができる。
【0069】
車輌名の選択は、車輌名表示部1503右端の逆三角マークをクリックして車輌名一覧をプルダウン表示させ、この状態でいずれかの車輌名をクリックすることにより行われる。このようにして選択された車輌名は、車輌名表示部1503に表示される。運転者の選択は、運転者表示部1504右端の逆三角マークをクリックして運転者一覧をプルダウン表示させ、この状態でいずれかの運転者名をクリックすることにより行われる。このようにして選択された運転者は、運転者表示部1504に表示される。評価モードの選択は、評価モード表示部1505右端の逆三角マークをクリックして、”エコビギナー”及び”ベテラン”をプルダウン表示させ、この状態でいずれか一方のモードをクリックすることにより行われる。このようにして選択された評価モードは、評価モード表示部1505に表示される。
【0070】
ここで、”エコビギナー”とは、エコドライブ初心者向けのエコドライブ判定モードであり、一方、”ベテラン”は、エコドライブ熟練者向けのエコドライブ判定モードである。そして、”ベテラン”では、”エコビギナー”よりも、厳しいエコドライブ判定となるように、各項目の判定基準値が設定されている。図18は、エコビギナー及びベテランについての各項目の判定基準値を示す表である。」(段落【0066】ないし【0070】)

(カ)「【0077】
運行状態表示・判定ルーチンでは、図12に示すように、まず、通信バッファの読み込みを行う(S101)。続いて、通信バッファから読み込まれたGPS測位データの解析を行う(S102)。すなわち、GPS測位データに基づいて、速度/加速度、受信状態/方位/標高、移動距離/経過時間、速度超過時間/アイドル時間、急加速回数/急減速回数を解析し、運行状態データの更新を行う。
【0078】
具体的には、図13のGPSデータ解析ルーチンにおいて、まず、GPS測位データの移動速度(単位:ノット)から現在速度(km/h)を算出する(S201)。また、現在速度の変化に基づいて現在加速度(km/h/s)を算出する(S202)。さらに、GPS測位データに基づいて、衛星受信状態/方位/標高の更新(S203)、移動距離/経過時間の更新(S204)を行う。次に、現在速度が速度閾値を超過しているか否かを判定し(S205)、超過していない場合(S205:No)、速度超過タイマのカウントを停止し、カウント値を速度超過時間に加算して、カウント値をリセットした後(S206)、S209へ進む。現在速度が速度閾値を超過している場合(S205:Yes)、速度超過タイマがオンしているか否かを判定し(S207)、オンしていない場合は(S207:No)、速度超過タイマをオンした後(S208)、S209へ進む。一方、速度超過タイマがオンしている場合は(S207:Yes)、S209へ進む。
【0079】
次に、現在速度が4km/h未満であるかを判定し(S209)、4km/h以上(すなわち、走行中)である場合(S209:No)、アイドリングタイマのカウントを停止し、カウント値が3分以上の場合にのみアイドリング時間に加算して、カウント値をリセットした後(S210)、S213へ進む。現在速度が4km/h未満(すなわち、停車状態)である場合(S209:Yes)、アイドリングタイマがオンしているか否かを判定し(S211)、オンしていない場合は(S211:No)、アイドリングタイマをオンした後(S212)、S213へ進む。一方、アイドリングタイマがオンしている場合は(S211:Yes)、S213へ進む。
【0081】
次に、S102におけるGPSデータの解析結果を用いて、メイン画面151に運行状態データの表示を行う(S103)。具体的には、速度、経過時間、移動距離、標高、速度超過時間、アイドル時間、急加速回数、急減速回数をそれぞれ表示する。
【0082】
続いて、運行状態グラフの表示処理を行う(S104?S108)。まず、現在速度が4km/h以上であるか否かを判定する(S104)。現在速度が4km/h以上である場合(S104:Yes)、図5(b)に示すように、速度グラフパネル1511の略左半分を速度インジケータパネル1531とし、現在速度をインジケータ表示する(S105)。インジケータは、数値の大きさによってブロックの高さが変化する。さらに、速度グラフパネル1511の残りの略右半分を加速度インジケータパネル1532とし、現在加速度をインジケータ表示する(S106)。
【0083】
尚、速度インジケータパネル1531及び加速度インジケータパネル1532では、速度・加速度の帯域によってインジケータ色をそれぞれ変化させて表示する。速度インジケータパネル1531では、例えば、30km/h未満:水色、30km/h?速度判定基準値-5km/h未満:青、速度判定基準値-5km/h?速度判定基準値未満:黄色、速度判定基準値?速度判定基準値+10km/h以下:オレンジ、速度判定基準値+10km/hを超えた場合:赤、の各色でそれぞれインジケータ表示される。一方、加速度インジケータパネル1532では、例えば、3km/h/s未満又は急加速判定基準値-3km/h/s未満:緑、急加速判定基準値-3km/h/s?急加速判定基準値-1km/h/s未満:黄色、急加速判定基準値-1km/h/s?急加速判定基準値以下:オレンジ、急加速判定基準値を超えた場合:赤、の各色でそれぞれインジケータ表示される。このような表示を行うことにより、運転者が、速度メーターの目盛りを見なくても、経済速度・加速度で走行しているか瞬時に判別可能となる。」(段落【0077】ないし【0083】)

(キ)「【0108】
また、フラッシュROM14に記憶された走行状況の履歴(運行データファイル14b)に基づいてエコドライブの評価を行うので、運転者に、走行状況の履歴に基づくエコドライブの評価を与えることによって、経済的且つ安全な車両の運転を支援することができる。また、エコドライブの習熟度に応じた2段階の評価基準(エコビギナー/ベテラン)を有するので、例えば、最初はエコドライブ初心者用の評価基準を使用し、習熟度の向上に合わせて熟練者用の評価基準に替えることにより、段階的にエコドライブを習熟させることができる。」(段落【0108】)

(ク)「【0111】
また、前記実施形態では、エコビギナー及びベテランの2段階の評価基準を設ける構成としたが、初級、中級、上級の3段階のランクを設けるようにしてもよい。例えば、初級では、平均的な運転操作を行う運転者に対して、比較的高いスコアが出るようにし、急激な運転操作をする運転者に対して、低いスコアが出るように考慮する。中級では、ある程度、エコドライブに近い運転が出来るようになった運転者に対して、比較的高いスコアが出るようにし、平均的な運転操作を行う運転者でも低いスコアになるようにする。上級では、最適なエコドライブが出来る運転者には、高いスコアが出るようにし、それ以外は、高いスコアが出ないように考慮する。」(段落【0111】)

(2)引用文献1の記載事項
上記(1)(ア)ないし(ク)並びに図面より、以下の事項が分かる。

(ケ)上記(1)(ア)、(イ)及び(エ)より、引用文献1には、エコドライブ支援装置が記載されていることが分かる。

(コ)上記(1)(ア)、(エ)ないし(カ)並びに図面より、引用文献1に記載されたエコドライブ支援装置は、環境に配慮した車両の運転であるか否かの評価を少なくとも2段階以上の評価基準値に基づいて判定するエコドライブの評価を行う評価手段を有することが分かる。

(サ)上記(1)(カ)及び図面より、引用文献1に記載されたエコドライブ支援装置は、評価手段の評価結果に基づいて、車両のエコドライブの度合を表示するように制御する表示制御手段を有することが分かる。

(シ)上記(1)(オ)及び図面より、引用文献1に記載されたエコドライブ支援装置は、運転者が、エコドライブの熟練度を自ら判断して入力するものであることが分かる。

(ス)上記(1)(オ)、(キ)並びに図面より、引用文献1に記載されたエコドライブ支援装置は、運転者が自ら判断して入力したエコドライブの熟練度に基づいて、評価基準値を変更する手段を有することが分かる。

(セ)上記(1)(ク)より、評価基準値は3段階であっても良いことが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)(ア)ないし(ク)、(2)(ケ)ないし(セ)並びに図面から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「環境に配慮した車両の運転であるか否かの判定を3段階の評価基準値に基づいて判定するエコドライブの評価を行う評価手段と、
前記評価手段の評価結果に基づいて、車両のエコドライブの度合を表示するように制御する表示制御手段と、
運転者が、該運転者のエコドライブの熟練度を自ら判断して入力したエコドライブの熟練度に基づいて、前記評価基準値を、前記3段階の評価基準値において変更する手段と、を有するエコドライブ支援装置。」

2.-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2002-362185号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】燃費を悪化させる運転が行われたことを検出する手段と、
前記燃費を悪化させる運転が行われたことが検出された場合に、実際に消費された燃料量と、その燃費を悪化させる運転が行なわれずに走行したとした場合に消費される燃料量とをそれぞれ演算する手段と、
前記実際に消費された燃料量から前記燃費を悪化させる運転が行われずに走行したとした場合に消費される燃料量を減じて前記燃費を悪化させる運転によって過剰に消費された燃料量を演算する手段と、
前記演算された過剰燃料消費量を運転者に対して表示する手段と、を備えたことを特徴とする車両運転状態評価システム。
‥‥(中略)‥‥
【請求項8】前記燃費を悪化させる運転が行われた頻度に基づき運転者の運転技術をランク付けする手段と、
前記運転技術のランクを運転者あるいはその管理者に対して表示する手段と、を備えたことを特徴とする請求項1から7のいずれかひとつに記載の車両運転状態評価システム。
【請求項9】前記燃費を悪化させる運転が行われた頻度に基づき運転者の運転技術をランク付けする手段を備え、
前記運転技術のランクが高くなるほど前記急加速判定値を小さくすることを特徴とする請求項2に記載の車両運転状態評価システム。
‥‥(後略)‥‥」(【特許請求の範囲】)

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、燃費等の車両の運転状態を評価するためのシステムに関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0012】本発明はこのような点に着目してなされたもので、運転者に対して運転技術の向上に役立つ情報を提示し、運転操作の改善による燃費の向上、ひいては低公害化を実現することを目的とするものである。」(段落【0012】)

(エ)「【0035】また、燃費を悪化させる運転が行なわれる頻度により運転者の運転技術をランク付けし、これを運転者あるいは管理者に対して表示するようにすれば、運転者はさらに高いランクを目指して運転操作を改善するので、運転技術のさらなる向上が期待できる(第8の発明)。
【0036】また、ランクが上がるにつれ上記急加速、急減速の判定を行なう際の判定しきい値(急加速判定値、急減速判定値)を小さな値に更新するようにすれば、運転技術の向上に対応してさらに慎重な加減速操作(ペダル操作)が要求されるようになり、運転者の運転レベルが上がってもさらなる運転技術の向上が期待できる(第9、第10の発明)。」(段落【0035】及び【0036】)

(オ)「【0136】図6は表示部4の具体的な構成を示したものである。表示部4は、過剰駆動力率等を表示するメータ(エコグラフメータ)41、現在及び過去の燃費を表示する燃費表示部42、過剰燃料消費量等の運転状態を表示する運転状態表示部43、急加速時が行われたとき等に警告メッセージを表示する警告表示部44、メモリカード7の空き容量を表示するメモリ残量表示部45、現在の時刻や運転継続時間を選択的に表示する時刻表示部46で構成される。なお、エコグラフメータ41には過剰駆動力率以外の値(図11のステップS11、S13で演算される割合)も表示されうるが、以下の説明では過剰駆動力率が表示される場合を中心に説明する。
【0137】エコグラフメータ41は過剰駆動力率の大きさを棒グラフ形式で表示するものであり12個の一列に並んだマス目で構成される。過剰駆動力率が大きくなるに従い図中左側のマス目から順に点灯するが、各マス目の点灯色、及び過剰駆動力率に応じて点灯するマス目の数は運転技術のランク(後述するエコグラフメータのランク)に応じて変更される。
【0138】図7はエコグラフメータ41の表示形式が運転技術のランクに応じて変更される様子を示したものである。エコグラフメータ41は緑、黄、赤に色分けされた12分割のマス目で構成される。最低ランクEではメータ無点灯時が過剰駆動力率0%、メータ全点灯時が過剰駆動力率100%の状態に対応するように設定されるが、ランクが上がるに従ってメータ全点灯時の過剰駆動力率が小さくなり、ランクDでは過剰駆動力率80%、ランクCでは過剰駆動力率60%で全点灯と徐々に小さな値に設定され、ランクAでは過剰駆動力率40%で全点灯するように設定される。
【0139】過剰駆動力率0%から40%を緑色し、40%から60%を黄色、60%から100%を赤色で表示するとした場合、最低ランクEでは緑色、黄色、赤色のマス目の数が4個づつになり、過剰駆動力率の増大に伴い左側のマス目から順に点灯すると、運転者はなるべく赤色のランプ(あるいは黄色のランプ)が点灯しないように運転するようになる。したがって、このときの運転者の目標とする過剰駆動力率は40%から60%程度となる。
【0140】運転技術のランクが上がって緑色の表示エリアが大きくなると、運転者は今度はなるべく黄色のランプが点灯しないように運転するようになる。したがって、このときの運転者の目標とする過剰駆動力率は40%程度となり、運転者の目標はランクEの時よりも高くなっている。
【0141】さらにランクが上がって最高ランクAに達すると各マス目の点灯色が全て緑色になると、運転者は今度はこの緑色の点灯する数を減らすように運転するようになる。したがって、このときにの運転者の目標とする過剰駆動力率は40%以下まで下がり、運転者の目標は更に高くなっている。
【0142】このように、運転者が表示形式を運転技術のランクに応じて表示形式を変更するようにしたことにより、運転者にその人の運転技術にふさわしい目標を持たせることができ、熟練者、非熟練者を問わず運転技術の向上が期待できる。」(段落【0136】ないし【0142】)

(2)引用文献2の記載事項
上記(1)(ア)ないし(オ)並びに図面より、以下の事項が分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(ウ)より、引用文献2には、運転者に対して運転技術の向上に役立つ情報を提示し、運転操作の改善による燃費の向上、ひいては低公害化を実現することを目的として、燃費等の車両の運転状態を評価するためのシステムに係る技術が記載されていることが分かる。

(キ)上記(ア)、(エ)及び(オ)並びに図面より、引用文献2に記載された燃費等の車両の運転状態を評価するためのシステムに係る技術は、車両の運転状態に応じて運転技術をランク付けする手段を設けるものであることが分かる。

(3)引用文献2記載の発明
上記(1)(ア)ないし(オ)、(2)(カ)及び(キ)並びに図面より、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「運転者に対して運転技術の向上に役立つ情報を提示し、運転操作の改善による燃費の向上、ひいては低公害化を実現することを目的として、燃費等の車両の運転状態を評価するためのシステムにおいて、車両の運転状態に応じて運転技術をランク付けする手段を設けるという技術。」

2.-3 対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明において「環境に配慮した車両の運転であるか否か」を評価することは、本願補正発明において「車両の運転状態がエコ状態であるか否か」を判定することにほかならない。また、引用文献1記載の発明における「評価基準値」は、その意義からみて、本願補正発明における「判定しきい値」に相当する。
したがって、「車両の運転状態がエコ状態であるか否かの判定を少なくとも三段階以上の判定しきい値に基づいて判定するエコ状態判定手段」という限りにおいて、引用文献1記載の発明における「環境に配慮した車両の運転であるか否かの評価を3段階の評価基準値に基づいて判定するエコドライブの評価を行う評価手段」は、本願補正発明における「車両の運転状態がエコ状態であるか否かの判定を少なくとも三段階以上の判定しきい値に基づいて判定するエコ状態判定手段」に相当する。
また、引用文献1記載の発明において、車両のエコドライブの度合いを表示するのは、運転者に車両の運転状態のエコ度合いを報知するためであるから、引用文献1記載の発明における「前記評価手段の評価結果に基づいて、車両のエコドライブの度合を表示するように制御する表示制御手段」は、本願補正発明における「前記エコ状態判定手段の判定結果に基づいて、車両の運転状態のエコ度合いを報知するように制御する報知制御手段」に相当する。
そして、引用文献1記載の発明における「運転者のエコドライブの熟練度」は、本願補正発明における「運転者のエコ運転に関する熟練度」に相当する。
したがって「運転者のエコ運転の熟練度に基づいて、前記判定しきい値を、前記三段階以上の判定しきい値を変化させる判定しきい値変更手段」という限りにおいて、引用文献1記載の発明における「運転者が、エコドライブの熟練度を自ら判断して入力したエコドライブの熟練度に基づいて、前記評価基準値を、前記3段階の評価基準値において変更する手段」は、本願補正発明における「少なくとも前記熟練度判断手段によって判断された熟練度に基づいて、前記判定しきい値を、前記三段階以上の判定しきい値のうちエコ状態であると判定されやすいしきい値である初期の判定しきい値から一段階ずつ徐々に変化させる判定しきい値変更手段」に相当する。

したがって、両者は、
「 車両の運転状態がエコ状態であるか否かの判定を少なくとも三段階以上の判定しきい値に基づいて判定するエコ状態判定手段と、
前記エコ状態判定手段の判定結果に基づいて、車両の運転状態のエコ度合いを報知するように制御する報知制御手段と、
運転者のエコ運転の熟練度に基づいて、前記判定しきい値を、前記三段階以上の判定しきい値において変化させる判定しきい値変更手段と、を有するエコ運転支援装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点〉
(a)本願補正発明においては、車両の走行状態に応じて運転者のエコ運転に関する熟練度を判断する熟練度判断手段を有し、少なくとも前記熟練度判断手段によって判断された熟練度に基づいて、判定しきい値を変化させるのに対し、引用文献1記載の発明においては、運転者が該運転者のエコドライブの熟練度を,自ら判断して入力したエコドライブの熟練度に基づいて、評価基準値を変更する点(以下、「相違点1」という。)。

(b)本願補正発明においては、判定しきい値変更手段が、三段階以上の判定しきい値のうちエコ状態であると判定されやすいしきい値である初期の判定しきい値から一段階ずつ徐々に変化させるのに対し、引用文献1記載の発明においては、評価基準値を変更する手段が、3段階の評価基準値をどのように変更するか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

2.-4 判断
上記相違点について検討する。
まず、相違点1に関し、本願補正発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「運転者に対して運転技術の向上に役立つ情報を提示し、運転操作の改善による燃費の向上、ひいては低公害化を実現することを目的」として、「燃費等の車両の運転状態を評価するためのシステム」は、エコ運転を支援する装置であると言えるから、本願補正発明における「エコ運転支援装置」に相当する。また、引用文献2記載の技術における「車両の運転状態に応じて運転技術をランク付けする手段」は、燃料費等の車両の運転状態に応じた運転技術を評価する手段を意味するから、本願補正発明における「エコドライブ運転に関する熟練度を判断する」手段に相当する。
したがって、引用文献2記載の技術を本願補正発明の用語を用いて表現すると、
「エコ運転支援装置において、エコドライブ運転に関する熟練度を判断する手段を設けるという技術。」
といえる。
そして、引用文献1記載の発明において、運転者が、該運転者のエコドライブの熟練度を自ら判断して入力することに代えて、引用文献2記載の技術を適用することによって、相違点1に係る本願補正発明の特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2に関し、引用文献1記載の発明は、エコドライブの習熟度に応じた2段階以上の評価基準を有し、例えば、最初はエコドライブ初心者用の評価基準を使用し、習熟度の向上に合わせて熟練者用の評価基準に替えることにより、段階的にエコドライブを習熟させることができる(上記2.-1(1)(ウ)参照)ものであるから、引用文献1記載の発明において、3段階の評価基準値を初級、中級、上級と1段階ずつ徐々に変化させ、相違点2に係る本願発明の特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。

以上により、本願補正発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.-5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成24年6月7日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明は、平成23年11月28日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された上記(第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】)のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

2.引用文献
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術は、それぞれ前記第2.の[理由]2.-1及び2.-2に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(1)及び(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-1ないし2.-5に記載したとおり、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-24 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-11 
出願番号 特願2007-334214(P2007-334214)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介小川 恭司  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 岡崎 克彦
金澤 俊郎
発明の名称 エコ運転支援装置  
代理人 片山 修平  

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