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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C |
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管理番号 | 1265184 |
審判番号 | 不服2011-13477 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-24 |
確定日 | 2012-10-26 |
事件の表示 | 特願2006- 37708「射出成形機の運転状態監視方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月30日出願公開、特開2007-216449〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成18年2月15日の出願であって,平成23年3月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年6月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共にその請求と同時に手続補正がなされたものである。その後,当審において平成24年4月12日付けで拒絶理由が通知され,平成24年6月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 平成24年6月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,本願の請求項1ないし2に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項によって特定されるものと認める。その請求項2の記載は,次のとおりである。(以下,請求項2に係る発明を「本願発明」という。) 「 【請求項2】 射出成形機の運転状態を監視する射出成形機の運転状態監視装置において,スクリュ位置,充填圧力,速度-圧力切換位置,保圧切換,保圧位置又はエジェクタピン位置を含む運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して,正常状態を外れ,かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定する条件設定手段と,運転中における前記状態項目に係わる状態を検出する状態検出手段と,この状態検出手段により検出した状態が前記非正常条件を満たすか否かをショット毎に判別処理する状態判別処理手段と,この状態判別処理手段により任意のショットが非正常条件を満たすと判別したなら,非正常状態が発生したことを示すアイコンをディスプレイに自動表示するとともに,手動操作により非正常状態の内容を表示可能にし,任意のショットが終了したならリセットする表示処理手段を備えることを特徴とする射出成形機の運転状態監視装置。」 3.当審の拒絶理由の概要 平成24年4月12日付けで通知した拒絶理由の概要は,以下のとおりである。 この出願の請求項1,2に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1-3に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物 1.特開昭64-14015号公報 2.特開平3-214397号公報 3.特開2002-140797号公報 4.引用例の記載事項及び記載の発明 (1)当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭64-14015号公報(以下「引用例」という。)には,次の記載がある。 1a 「(産業上の利用分野) 本発明は,射出成形機における成形品の品質管理装置に関する。」(第1頁左欄第17行-第19行) 1b 「(発明が解決しようとする問題点) しかしながら,上記した射出成形機によって得られる成形品は製造後にその良否を判定し,製品を良品,不良品に選別するようにしているので,一度不良品が発生すると,多大な損失を生じることになる。特に,自動化による大量生産が進んだ今日ではその損害は益々増大するといった問題があった。 本発明は,ショットデータを制御装置の実績データ記憶部に連続的に記憶して,成形実績データを連続的に管理し,成形品が不良の傾向にあることが検出されると,即座に警報を出したり,又は,機械を止める等の処理を行い,不良品の発生を防止するようにしたのである。 (問題点を解決するための手段) 本発明は,射出成形機における成形品の品質を管理するために,射出シリンダの油圧若しくは金型内の樹脂圧力を検出する圧力検出器と,スクリュの移動速度及び位置を検出する速度及び位置検出器と,各成形工程における各成形条件と,それに対応した一部若しくは全ての条件の上限及び下限の監視条件を設定し,それらの監視条件データと各検出器からの検出値とを比較し,異常を予測する制御装置とを設けるようにしたものである。 (作用) 本発明によれば,上記のように構成したので,事前に,次ショットが不良の傾向にあることを使用者に知らせる警報を出力することで,使用者がその時点で成形条件を変えたり,不良品が製造される前に射出成形機を停止することもできる。従って,事前に不良品の製造を防止することができ,成形品の品質の向上を図ることができる。また,樹脂の無駄や製品の判別に要する後工程の省力化を図ることができる。」(第1頁右欄第9行-第2頁右上欄第2行) 1c 「ところで,射出成形における各種の監視項目と上限及び下限値例を示すと,第2図の様である。即ち,計量工程の開始から終了までの計量時間においてはその上限値は30秒,その下限値は20秒であり,射出する寸前のスクリュ位置で示される射出前位置においてはその上限値は80.0mm,その下限値は75mmであり,射出工程において必要とした時間(この間のスクリュ移動量は決められており,速度を間接的に監視することにより計測する)においてはその上限値は10秒,その下限値は5秒であり,射出工程から保圧工程へ切換られる時のスクリュ位置で示されるV-P切換位置においてはその上限値は3.0mm,その下限値は1.5mmであり,スクリュが射出,保圧工程において最も前進する位置で示されるクッション位置においてはその上限値は10.0mm,その下限値は6.0mmであり,保圧工程終了時におけるスクリュ位置で示される保圧完了位置はその上限値は5.0mm,下限値は3.0mmである。 このように設定された場合,第3図に示すような実績値が得られた場合には,実績値(a)においては,全項目上限値と下限値の範囲内にあるために,その1ショットでの成形品は良品であると判断できる。一方,実績値(b)においては,射出前位置及び保圧完了位置の2項目が監視設定の上限を越えているので,その1ショットでの成形品は良品であると判断できる。 そこで,本発明における射出成形機の品質監視は,例えば,以下の様に行う。 第4図において,中間値Meを中心にして,上限監視値Ma,下限監視値Miを設定しておき,各時点の成形実績データを制御装置10の成形実績データ記憶部10-2に記憶していき,連続7点以上が上昇又は下降の傾向を示した場合は,そのロットは異常と判断する。 この場合何「連」にするかは,射出成形機の各機種毎に予備実験を予め典型的な数金型で実施し,その実験値を収集して「7」が良いか,「6」が良いかを分析して,その数値を「連」の数値として,予め入出力装置12から制御装置10の監視条件の記憶部10-3に記憶しておく。 このように,射出成形機において,成形実績を連続的に記憶し,例えば,第4図に示すような判断基準により,異常と判断される前時点,例えば,連続6点の下降傾向にある時点で制御装置10から警報装置11に信号を送出し,警報を発する。 更に,本発明の射出成形機における品質監視の手順を示すと, 1*(審決注,原文は,○に1。以下同様。)まず,監視項目に対応した上限値Ma,下限値Miを含む監視条件データMdを予め制御装置10の記憶部10-3へ記憶しておく。 2* 次に,射出成形を行い,各検出器よりデータを制御装置10に読み込み,その実績データRd_(1),を記憶部10-2に記憶する。 3* 次に,実績データRd_(1)に対する監視条件データMdの上限値Maと下限値Miとを比較する。 4* その結果,Rd_(1)>Ma又はRd_(1)<Miであれば,不良とし,その時点で制御装置10から警報装置11に不良信号を送出する。 5* 次に,各検出器より制御装置10に読み込まれた前記実績データRd_(1),と次の実績データRd_(2)とを比較し,大小を判断する。 6* その判断の結果を記憶する。 7* 以下,次のサイクルでも同様にこれを繰り返し,比較データは更新していく。前記したように予測結果が不良と判断されると,その時点で制御装置10から警報装置11に不良信号を送出する。 このように監視項目の上限値及び下限値を設定し,射出成形実績データを連続的に記憶して,その上限値と下限値間を越える傾向が示される場合には,制御装置10より警報装置11に出力信号を送出する。」(第2頁右上欄第18行-第3頁右上欄第9行) (2)上記1aないし1cから,以下のことが分かる。 1d 上記1cにおいて「各検出器よりデータを制御装置10に読み込み,その実績データRd_(1),を記憶部10-2に記憶する」としているから,「射出シリンダの油圧若しくは金型内の樹脂圧力を検出する圧力検出器と,スクリュの移動速度及び位置を検出する速度及び位置検出器」(上記1b参照)は,監視項目に係わる成形実績データを検出するものであることが分かる。 1e 「次ショットが不良の傾向にあることを使用者に知らせる警報」(上記1b参照),及び「制御装置10から警報装置11に信号を送出し,警報を発する。」(上記1c参照)の記載からみて,警報装置11は,制御装置10からの信号を受けて,次ショットが不良の傾向にあることを使用者に知らせる警報を発することが分かる。 (3)以上の1aないし1e,及び図面の記載からみて,引用例には次の発明が記載されているといえる。 「射出成型機における成型品の品質管理装置において, 射出する寸前のスクリュ位置で示される射出前位置,射出工程から保圧工程へ切換られる時のスクリュ位置で示されるV-P切換位置,スクリュが射出,保圧工程において最も前進する位置で示されるクッション位置,又は保圧工程終了時におけるスクリュ位置で示される保圧完了位置を含む監視項目に対応した上限値Ma,下限値Miを含む監視条件データMdと,成形実績データの連続7点以上が上昇又は下降の傾向を示した場合はそのロットは異常と判断するという「連」の数値と,を予め記憶しておく制御装置10の記憶部10-3と, 監視項目に係わる成形実績データを検出する,射出シリンダの油圧若しくは金型内の樹脂圧力を検出する圧力検出器と,スクリュの移動速度及び位置を検出する速度及び位置検出器と, 異常と判断される前時点,例えば,連続6点の下降傾向にある時点などの,上限値と下限値間を越える傾向が示される場合には,警報装置11に信号を送出する制御装置10と, 制御装置10からの信号を受けて,次ショットが不良の傾向にあることを使用者に知らせる警報を発する警報装置11と,を備える射出成型機における成型品の品質管理装置。」(以下「引用発明」という。) 5.対比 (1)本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「射出する寸前のスクリュ位置で示される射出前位置,射出工程から保圧工程へ切換られる時のスクリュ位置で示されるV-P切換位置,スクリュが射出,保圧工程において最も前進する位置で示されるクッション位置,又は保圧工程終了時におけるスクリュ位置で示される保圧完了位置を含む監視項目」は,射出成型機の運転状態に係わるものであり, 本願発明の「スクリュ位置,充填圧力,速度-圧力切換位置,保圧切換,保圧位置又はエジェクタピン位置を含む運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目」に相当する。 引用発明の「射出成型機における成型品の品質管理装置」は,監視項目として射出成形機の運転状態を監視しているから, 本願発明の「射出成形機の運転状態を監視する射出成形機の運転状態監視装置」に相当する。 引用発明の「次ショットが不良の傾向にある」は, 本願発明の「正常状態を外れ,かつ異常状態には達しない非正常状態となる」に相当する。 引用発明の「成形実績データの連続7点以上が上昇又は下降の傾向を示した場合はそのロットは異常と判断」するものにおいて,「異常と判断される前時点,例えば,連続6点の下降傾向にある時点などの,上限値と下限値間を越える傾向が示される」という条件は, 本願発明の「所定の非正常条件」に相当する。 引用発明の「制御装置10の記憶部10-3」は,上限値Ma,下限値Miを含む監視条件データMdと,「連」の数値と,を予め記憶しておくものであるから,次ショットが不良の傾向にある「異常と判断される前時点,例えば,連続6点の下降傾向にある時点などの,上限値と下限値間を越える傾向が示される」という条件を設定しているものである。 よって,引用発明の「監視項目に対応した上限値Ma,下限値Miを含む監視条件データMdと,成形実績データの連続7点以上が上昇又は下降の傾向を示した場合はそのロットは異常と判断するという「連」の数値と,を予め記憶しておく制御装置10の記憶部10-3」は, 本願発明の「状態項目に対して,正常状態を外れ,かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定する条件設定手段」に相当する。 引用発明の「監視項目に係わる成形実績データを検出する,射出シリンダの油圧若しくは金型内の樹脂圧力を検出する圧力検出器と,スクリュの移動速度及び位置を検出する速度及び位置検出器」は, 本願発明の「運転中における前記状態項目に係わる状態を検出する状態検出手段」に相当する。 引用発明は「次ショットが不良の傾向にあることを使用者に知らせる」ものであるが,ショット毎に次ショットの不良の傾向は変化するので,「次ショットが不良の傾向にあることを使用者に知らせる」ためには,ショット毎に不良の傾向にあるか否かを判別する必要がある。よって,引用発明の「制御装置10」は,上限値と下限値間を越える傾向が示されるか否かを,ショット毎に判別しているといえる。 その結果,引用発明の「異常と判断される前時点,例えば,連続6点の下降傾向にある時点などの,上限値と下限値間を越える傾向が示される場合には,警報装置11に信号を送出する制御装置10」は, 本願発明の「状態検出手段により検出した状態が前記非正常条件を満たすか否かをショット毎に判別処理する状態判別処理手段」に相当する。 引用発明の「制御装置10からの信号を受けて,次ショットが不良の傾向にあることを使用者に知らせる警報を発する警報装置11」と, 本願発明の「状態判別処理手段により任意のショットが非正常条件を満たすと判別したなら,非正常状態が発生したことを示すアイコンをディスプレイに自動表示するとともに,手動操作により非正常状態の内容を表示可能にし,任意のショットが終了したならリセットする表示処理手段」とは, 「状態判別処理手段により任意のショットが非正常条件を満たすと判別したなら,非正常状態が発生したことを示す手段」という限りで共通する。 (2)したがって,本願発明と引用発明とは,本願発明の表記に倣うと次の点で一致する。 《一致点》 射出成形機の運転状態を監視する射出成形機の運転状態監視装置において, スクリュ位置,充填圧力,速度-圧力切換位置,保圧切換,保圧位置又はエジェクタピン位置を含む運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して,正常状態を外れ,かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定する条件設定手段と, 運転中における前記状態項目に係わる状態を検出する状態検出手段と, この状態検出手段により検出した状態が前記非正常条件を満たすか否かをショット毎に判別処理する状態判別処理手段と, この状態判別処理手段により任意のショットが非正常条件を満たすと判別したなら,非正常状態が発生したことを示す手段 を備える射出成形機の運転状態監視装置。 (3)そして,本願発明と引用発明とは,次の相違点で相違する。 《相違点》 非正常状態が発生したことを示す手段に関して, 本願発明は, 「非正常状態が発生したことを示すアイコンをディスプレイに自動表示するとともに,手動操作により非正常状態の内容を表示可能にし,任意のショットが終了したならリセットする表示処理手段」であるのに対し, 引用発明は, 警報装置11が,そのような表示処理手段ではない点。 6.判断 上記相違点について検討する。 警報装置として,注意すべき状態が発生したことを示すアイコンをディスプレイに自動表示するとともに,手動操作により注意すべき状態の内容を表示可能にすることは,例えば,特開平3-214397号公報(特許請求の範囲),特開2002-140797号公報(【0030】)に例示されるごとく,従来周知の技術である。 また,引用発明は,任意のショットが終了したなら警報装置11をリセットする点について特定はないものの,5.(1)で述べたように引用発明の「制御装置10」は,上限値と下限値間を越える傾向が示されるか否かを,ショット毎に判断しているのであり,「次のサイクルでも同様にこれを繰り返」す(上記1c参照)ために,任意のショットが終了したなら警報装置11をリセットすることは当業者であれば適宜なしうるものである。 よって,引用発明の警報装置11において,上記従来周知の警報装置を適用し,さらに任意のショットが終了したならリセットして,本願発明の上記相違点に係る構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たものである。 そして,本願発明が全体として奏する効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測できたものであって,格別顕著なものとはいえない。 したがって,本願発明は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。 7.むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明ついて検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-23 |
結審通知日 | 2012-08-29 |
審決日 | 2012-09-12 |
出願番号 | 特願2006-37708(P2006-37708) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B29C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田口 昌浩、佐藤 健史 |
特許庁審判長 |
竹之内 秀明 |
特許庁審判官 |
亀田 貴志 森川 元嗣 |
発明の名称 | 射出成形機の運転状態監視方法及び装置 |
代理人 | 下田 茂 |