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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1265199
審判番号 不服2010-11572  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-31 
確定日 2012-10-22 
事件の表示 特願2003-559033「位相固定ループで駆動される多状態の直接ディジタルシンセサイザを備えるトランシーバ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月17日国際公開、WO03/58833、平成17年 5月19日国内公表、特表2005-514850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年12月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年1月7日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月5日付けで拒絶理由が通知され、平成21年5月7日付けで手続補正書が提出され、同年6月1日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月7日付けで手続補正書が提出され、平成22年2月2日付けで拒絶査定され、これに対して同年5月31日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。



第2 平成22年5月31日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年5月31日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正内容
平成22年5月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、本件補正前の平成21年12月7日付け手続補正書により補正された請求項13の内容を、

「【請求項13】
トランシーバ内で使用するための位相固定ループであって、変調信号によって変調された変調参照信号と、非変調参照信号と、の何れか一方を受信する位相検出器と、前記変調参照信号をフィルタリングする第1のフィルタと、前記非変調参照信号をフィルタリングする第2のフィルタと、を備える位相固定ループにおいて、
前記位相検出器は、前記トランシーバが送信モードであるときに前記変調参照信号を受信し、前記トランシーバが受信モードであるときに前記非変調参照信号を受信することを特徴とする位相固定ループ。」

から、

「【請求項5】
トランシーバ内で使用するための位相固定ループであって、変調信号によって変調された変調参照信号と、非変調参照信号と、の何れか一方を受信する位相検出器と、前記変調参照信号をフィルタリングする第1のフィルタと、前記第1のフィルタと異なって前記非変調参照信号をフィルタリングする第2のフィルタと、を備える位相固定ループにおいて、
前記位相検出器は、前記トランシーバが送信モードであるときに前記変調参照信号を受信し、前記トランシーバが受信モードであるときに前記非変調参照信号を受信するとともに、
スイッチが前記第1のフィルタと前記第2のフィルタとに結合されており、前記スイッチは、第1の制御信号に応答して第1のフィルタを選択し、第2の制御信号に応答して第2のフィルタを選択する、
ことを特徴とする位相固定ループ。」

に、変更する補正を含むものである。


2.補正の適否
上記補正は、補正前の請求項13における第1のフィルタ及び第2のフィルタについて、「スイッチが前記第1のフィルタと前記第2のフィルタとに結合されており、前記スイッチは、第1の制御信号に応答して第1のフィルタを選択し、第2の制御信号に応答して第2のフィルタを選択する」構成を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項5に係る発明(以下、「本件補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第5423076号明細書(以下、「引用例」という)には、下記の事項が記載されている。

(あ)「An operational cycle of the transceiver 10 contemplates alternate receive and transmit modes, such that the transceiver 10 operates either as a receiver 10 or as a transmitter 10.」(第4欄12行?15行)

(当審訳:「トランシーバー10の動作サイクルは、交互に受信モードと送信モードとなり、トランシーバ10が受信機10または送信機10のどちらかとして動作するものである。」)

(い)「An error signal resulting from the phase comparison is applied as a feedback signal through an accumulator or integrating circuit 152 through a low pass filter 153 as a control voltage signal to the second controlled voltage oscillator 131 of the second PLL 57. 」(第9欄53行?58行)

(当審訳:「位相比較に基づく誤差信号は、累算器または積分回路152を介したフィードバック信号として、ローパスフィルタ153を介した制御電圧信号として、第2のPLL57の第2電圧制御発振器131へ供給される。」)

(う)「It is to be noted that the DDS 58 is operated during a receive mode to step quickly through its range of 1.92 to 3.20 MHz. The stepping operation provides the described stepped input frequencies to the PLL 57 in generating a series of injection frequencies for the second signal injection at terminal 53. The series of injection frequencies is used in the process of acquiring and then ultimately locking in on a desired receive channel center frequency. But the DDS is further operated to provide a predetermined digitized frequency signal, also chosen from the same stepped frequency range of 1.92 to 3.20 MHz to provide a frequency component for conversion to the transmit carrier frequency. Thus, the second mixing stage and the DDS 58 as the frequency controlling component for the second loop is instrumental in the channel selection or tuning for channel width of 2.50 kHz. The DDS 58 is further functional, in accordance herewith, to digitally modulate the transmit carrier frequency component with intelligence. Various known modulation schemes may be implemented, though it should be realized that the bandwidth of the phase locked loop must be adequate to pass the modulation. According to a preferred example, the digitally generated signal is advantageously modulated by binary phase shift keyed (BPSK) modulation. Such BPSK modulation is well suited for digital data transmission at relatively low data rates as, for example, 600 or 1200 bits or samples per second. The BPSK modulation is further well suited for mobile communications systems using satellite relay stations. The modulation is ideally achieved in the DDS 58 by switching only a single binary signal input line 174 between logical high and logical low signal levels.」(第10欄38行?第11欄2行)

(当審訳:「DDS58は、受信モードの間、1.92?3.20MHzの範囲を素早くステップするよう動作させられることに注意されたい。ステップ動作は、端子53に第2の信号注入として一連の注入周波数を生成する際に、PLL57へ前記ステップされた入力周波数を供給する。一連の注入周波数は、捕捉過程に用いられ、最終的には所望の受信チャンネルの中心周波数にロックする。しかし、DDSは、前もって決められているディジタル化された周波数信号を提供するためにさらに動作させられ、送信搬送周波数への変換のための周波数コンポーネントを提供するために、1.92?3.20MHzの範囲で同じステップされた周波数から選ばれる。したがって、第2のミキシングステージと、第2ループのために周波数コントロールしているコンポーネントとしてのDDS58とは、2.50kHzのチャネル幅のチャネル選択またはチューニングに関与している。DDS58は、送信搬送周波数の情報成分をデジタル変調することができるように、さらに機能的である。当然のことながら、PLLの帯域幅は、変調を十分に通さなければならないが、様々な既知の変調スキームが実施されるであろう。好ましい例によれば、ディジタル的に生成された信号は、BPSK変調によって効果的に変調される。そのようなBPSK変調は、例えば600または1200bpsのような比較的低データレートのデジタルデータ伝送に適している。BPSK変調は、衛星中継局を使用したモバイル通信システムにさらに適している。変調は、2値信号の入力ライン174を論理的ハイと論理的ローの信号レベルの間で、スイッチングすることにより、DDS58において完全に達成することができる。」)

(え)図1には、トランシーバー10内にPLL57が設けられ、図3にはPLL57内に周波数位相比較回路148とローパスフィルタ153が設けられている構成が記載され、上記(い)には、周波数位相比較回路145から出力された位相比較に基づく誤差信号が、ローパスフィルタ153を介して電圧制御発振器へ供給されることが記載されているので、引用例には、トランシーバ内で使用するPLLが、周波数位相比較回路とローパスフィルタを備えていることが開示されている。

(お)上記(あ)には、トランシーバー10が、受信モードと送信モードで交互に動作することが記載され、上記(う)には、端子53に生じる信号がPLLにより所望の受信チャンネルの中心周波数にロックされたものであることが記載されていることから、引用例において、受信モード時にDDSからPLL内の周波数位相比較回路へ入力される信号は、所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号であることは明らかである。
また、上記(う)には、DDS58が送信搬送周波数の情報成分をデジタル変調することと、PLLの帯域幅が変調を十分に通すものであることが記載され、図3にはDDSに変調データが入力される構成が記載されていることから、引用例には、送信モード時にDDSからPLL内の周波数位相比較回路へ入力される信号は、変調データによって変調された信号であり、PLL内のローパスフィルタ153は該変調を十分に通す帯域を有するものであることは明らかである。

上記(あ)乃至(お)及び関連図面の記載から、引用例には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「トランシーバー内で使用するためのPLLであって、変調データによって変調された信号と、所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号と、の何れか一方を受信する周波数位相比較回路と、ローパスフィルタと、を備えるPLLにおいて、
前記周波数位相比較回路は、前記トランシーバーが送信モードであるときに前記変調データによって変調された信号を受信し、前記トランシーバーが受信モードであるときに前記所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号を受信するPLL。」


4.対比
(1)本件補正発明と引用発明との対応関係について
(ア)引用発明の「トランシーバー」、「PLL」は、本件補正発明の「トランシーバ」、「位相固定ループ」に相当する。
(イ)引用例には、周波数位相比較回路145が位相比較に基づく誤差信号を出力するものであることが上記3.(う)に記載されているので、引用発明の「周波数位相比較回路」は、本件補正発明の「位相検出器」に相当する。
(ウ)引用発明の「変調データによって変調された信号」は、PLLの参照信号として用いられるものであり、また、「所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号」は、変調された信号ではなくかつPLLの参照信号として用いられるものであるから、引用発明の「変調データによって変調された信号」、「所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号」は、本件補正発明の「変調信号によって変調された変調参照信号」、「非変調参照信号」に相当する。
(エ)本件補正発明では、「第1のフィルタ」及び「第2のフィルタ」が、位相検出器に入力される前の信号をフィルタリングするものなのか、位相検出器へ入力された信号の位相検出器での検出結果をフィルタリングすものもなのか必ずしも明確ではないところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、前者の構成は記載されていないが、後者の構成は図1及び段落24?25に記載されているので、本件補正発明の「第1のフィルタ」及び「第2のフィルタ」は、
位相検出器へ入力された信号の位相検出器での検出結果をフィルタリングすものであると認められる。これに対して、引用例の上記3.(お)の記載から、引用発明の「ローパスフィルタ」は、周波数位相比較回路へ入力された信号の位相比較結果をフィルタリングするものであることから、引用発明と本件補正発明は、「前記変調参照信号と前記非変調参照信号をフィルタリングするフィルタ」を備えている点で共通している。

(2)本件補正発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致する。

「トランシーバ内で使用するための位相固定ループであって、変調信号によって変調された変調参照信号と、非変調参照信号と、の何れか一方を受信する位相検出器と、前記変調参照信号と前記非変調参照信号をフィルタリングするフィルタと、を備える位相固定ループにおいて、
前記位相検出器は、前記トランシーバが送信モードであるときに前記変調参照信号を受信し、前記トランシーバが受信モードであるときに前記非変調参照信号を受信する、
ことを特徴とする位相固定ループ。」

(3)本件補正発明と引用発明の相違点について
本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。

本件補正発明は、「前記変調参照信号をフィルタリングする第1のフィルタと、前記第1のフィルタと異なって前記非変調参照信号をフィルタリングする第2のフィルタ」を備え、「前記第1のフィルタと前記第2のフィルタとに結合され」たスイッチにより、「第1の制御信号に応答して第1のフィルタを選択し、第2の制御信号に応答して第2のフィルタを選択する」ものであるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点。


5.当審の判断
(1)相違点について
引用発明の周波数位相比較回路には、変調データによって変調された信号、または、所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号が入力される構成になっているが、該「変調データによって変調された信号」は変調された信号であるため、信号の周波数や位相が変動幅を有するものであるのに対し、該「所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号」は、信号の周波数や位相が固定したものであるから、無変調信号と呼びうるものである。

そもそも、PLLにおけるループフィルタの時定数は、出力信号の周波数や位相の安定性及び出力信号に含まれるノイズ成分の除去と、入力される信号の変更に伴う追従性とのトレードオフの関係にあるため、ループフィルタの時定数を固定せず、入力される信号の特性に応じて時定数の異なるループフィルタを切り替えたり、ループフィルタの時定数を変更することは、次に示すように周知技術である。
PLLにおいて、位相比較器へ入力される信号の変動が小さい場合には、時定数の大きなループフィルタを選択して安定性を向上させ、位相比較器へ入力される信号の変動が大きい場合には、時定数の小さなループフィルタを選択して追従性を向上させるという構成が、例えば、特開平4-189029号公報に記載されており、また、PLLへ変調信号が入力しているときにはループフィルタの時定数を小さくして同期保持範囲から外れないように制御し、PLLへ無変調信号が入力しているときにはループフィルタの時定数を大きくして高C/Nの出力信号を得ることが、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-208005号公報に記載されている。

してみると、引用発明において、周波数位相比較回路へ「変調データによって変調された信号」を入力する場合には、入力された信号への追随性を向上させて同期保持範囲から外れないようにするためにPLLのローパスフィルタとして時定数の小さいものを用い、周波数位相比較回路へ「所望の受信チャンネルの中心周波数に対応した周波数の信号」を入力する場合には、安定性が向上した高C/Nの出力信号を得るためにPLLのローパスフィルタとして時定数の大きなものを用いることに、格別の困難性は認められない。

よって、引用発明に周知技術の構成を採用することで、引用発明に「前記変調参照信号をフィルタリングする第1のフィルタと、前記第1のフィルタと異なって前記非変調参照信号をフィルタリングする第2のフィルタ」を備え、「前記第1のフィルタと前記第2のフィルタとに結合され」たスイッチによって、「第1の制御信号に応答して第1のフィルタを選択し、第2の制御信号に応答して第2のフィルタを選択する」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)本件補正発明の作用効果について
また、本件補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


6.むすび
よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。



第3 補正却下の決定を踏まえた検討

1.本願発明
平成22年5月31日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成21年12月7日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、その請求項13に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「【請求項13】
トランシーバ内で使用するための位相固定ループであって、変調信号によって変調された変調参照信号と、非変調参照信号と、の何れか一方を受信する位相検出器と、前記変調参照信号をフィルタリングする第1のフィルタと、前記非変調参照信号をフィルタリングする第2のフィルタと、を備える位相固定ループにおいて、
前記位相検出器は、前記トランシーバが送信モードであるときに前記変調参照信号を受信し、前記トランシーバが受信モードであるときに前記非変調参照信号を受信することを特徴とする位相固定ループ。」


2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、上記第2 3.に記載したとおりである。


3.対比・判断
本願発明は、上記第2 2.で検討した本件補正発明における限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要素を全て含み、さらに特定の点に限定を施したものに相当する本件補正発明が、上記第2 5.に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-25 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-12 
出願番号 特願2003-559033(P2003-559033)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 昌敏  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 近藤 聡
飯田 清司
発明の名称 位相固定ループで駆動される多状態の直接ディジタルシンセサイザを備えるトランシーバ  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 関根 毅  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 赤岡 明  
代理人 川崎 康  

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