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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1265211
審判番号 不服2011-21967  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-11 
確定日 2012-10-22 
事件の表示 特願2000-534245「腫瘍治療のための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月10日国際公開、WO99/44645、平成14年 2月19日国内公表、特表2002-505309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1999年3月4日(パリ条約による優先権主張1998年3月4日及び同年7月8日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年10月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成24年1月17日付け拒絶理由通知書に応答して、同年4月18日付けで手続補正書及び誤訳訂正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?10に係る発明は、平成24年4月18日付け手続補正書の特許請求の範囲1?10に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
p185、EGFR及び変異体EGFRのうちの2つからなるヘテロダイマーの形成を阻害することによりEGFR又は変異体EGFR蛋白質を含むマルチマー受容体集合物により提供されるキナーゼ活性を破壊する抗体の、erbB蛋白質媒介性腫瘍を有する個体を治療するための抗癌照射の前に投与される医薬の製造における使用であって、上記腫瘍は形質転換された表現型のチロシンキナーゼ活性を提供する上記EGFR又は変異体EGFRを含むマルチマー受容体集合物を有する腫瘍細胞により特徴付けされ、キナーゼ活性の破壊は腫瘍細胞の上記照射に対する感受性を増加させ、そして上記マルチマー受容体集合物が、p185/EGFRヘテロダイマー、p185/変異体EGFRヘテロダイマー、又はEGFR/変異体EGFRヘテロダイマーであるerbBヘテロダイマーである、上記使用。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が補正前の請求項1に関して平成24年1月17日付けで通知した拒絶の理由のうち、拒絶理由2は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものであり、拒絶理由3は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、拒絶理由5は、補正前の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

第4 当審の判断
上記拒絶理由通知に対し、請求人は平成24年4月18日付け手続補正書を提出して、請求項1の記載を上記「第2」で示したとおり補正した。
本願発明に関し、上記拒絶理由が解消したか否かを、以下検討する。

1 拒絶理由5(特許法第29条第2項)について
(1) 刊行物の記載
本願優先日前に頒布された刊行物である、下記の引用例1?3には、次の事項が記載されている。なお、引用例1は英文であるため、訳文を示す。また、下線は当審で付した。
引用例1:Leah N. Klapper, et al., A subclass of tumor-inhibitory monoclonal antibodies to ErbB2/HER2 blocks crosstalk with growth factor receptors. Oncogene, 1997, 14(17), pp.2099-2109
引用例2:メルクマニュアル 第16版、(有)メディカルブックサービス、1997年発行、日本語版第5刷、pp.1231-1247
引用例3:三橋紀夫ら、5.BRMによる放射線効果の修飾 基礎面より、癌の臨床、1990年発行、36(13)、pp.2272-2277

ア 引用例1
(ア) 2099頁左欄 要旨
「ErbB-2は、上皮成長因子(EGF)又はNeu分化因子(NDF/ニューレグリン)のいずれかのチロシンキナーゼ受容体のファミリーに属するオーファン受容体である。erbB-2プロトオンコジーンの過剰発現が、いくつかのヒト腺癌の悪性の臨床経過に頻繁に関連するため、エンコードされるタンパク質は免疫療法の魅力的な標的である。実際に、ErbB-2へのいくつかのモノクローナル抗体(mAbs)は、効果的に動物モデルや臨床試験で効果的に腫瘍の成長を阻害するが、根本的なメカニズムは完全にはわかっていない。この疑問を研究するため、我々はErbB-2へのmAbsの集団を、抗原決定基で分類して、作り出した。ほとんどの抗体がErbB-2のチロシンリン酸化を刺激した一方、それらの抗腫瘍作用は加速されたエンドサイトーシスによる分解と相互に関連した。1つの腫瘍阻害性mAbs(クラスII mAbs)はErbB-2の最も抗原性のある部位で生じたもので、NDF及びEGFのそれらの直接的な受容体への結合をトランスに阻害した。阻害作用はリガンドの解離の加速によるもので、その結果NDF及びEGFの細胞増殖シグナルを転写活性化するErbB-2の能力の減少という結果となった。これらの結論は、抗体に誘導される治療における2つの可能性があるメカニズム、ホモダイマー形成によるErbB-2のエンドサイトーシスの加速、及び、ErbB-2と成長因子受容体との間でのヘテロダイマー形成阻害、を確認する。」
(イ) 2099頁左欄下から2行?右欄7行
「受容体様チロシンキナーゼであるErbB-2は繰り返し細胞の形質転換に関与してきた(……)。対応する遺伝子の増幅及び当該タンパク質の過剰発現が、乳(……)、卵巣(……)、肺(……)、及び胃(……)における腺癌の20%から30%に観察された。」
(ウ) 2099頁右欄下から12行?下から3行
「受容体チロシンキナーゼの活性化は、特定のリガンドの結合により誘導される、受容体の二量体化に依存する(……)。しかしながら、ErbB-2は直接のリガンドがないときであってもシグナル伝達に関与し得、これはErbB-2が、そのファミリーメンバー、すなわち、ErbB-1(EGF受容体)や、2つのNDF/ニューレグリン受容体、ErbB-3及びErbB-4と、ヘテロダイマーの複合体を形成するからである(……)。」
(エ) 2102頁右欄23行?2104頁右欄17行
「クラスII mAbsが、対応するErbB-ファミリーとの相互作用を阻害する
その他のErbB-ファミリーチロシンキナーゼとのヘテロ複合体においてErbB-2が順調に機能していることは、EGF及びNDFが、それぞれの受容体と関連する際に、結合及びシグナル伝達の双方が増加することにより示された(……)。抗-ErbB-2 mAbsがヘテロダイマー形成を妨害するか否かを試験するため、リガンドが結合する複合体におけるErbB-2の関与の指標として、我々はリガンドの親和性を用いた。このアッセイは、ErbB-1、ErbB-2、及びErbB-3の受容体を発現するN87、及び、4種全てのErbBタンパク質を発現するヒトT47D乳がん細胞を含む、いくつかの細胞株で行われた。図5Aには、異なるErbB-2エピトープを指向する代表となるmAbsの存在下で、放射性標識が付されたNDF及びEGFに関する結合分析の結果が描かれる。いずれの抗体も他のErbBファミリーメンバーと交差反応しないことに留意することが重要である。その他のクラスII mAbsと同様、抗体L26は、細胞に結合したEGF及びNDFを、それぞれ最高で74%及び42%まで置換することができた。この現象は、その他の受容体の決定基を認識することができるmAbs(例えば、図5のmAbsのL431、L81及びL140)の特色ではなく、クラスIIからのmAbsが結合するエピトープが、ヘテロダイマーの形成に作用することを示唆するものであった。この仮説は、抗体L26の一価フラグメントによる、EGF及びNDFのT47D細胞への結合の阻害により更に支持された(図5B)。L26のFabフラグメントは、mAb全体での場合と類似する程度に、双方のリガンドの結合も阻害することができた一方、リガンドの結合を阻害できない抗体(N28)のFabではできなかった。ErbB-2の内在化による相違を排除するため、全ての我々のリガンド結合分析は4℃で行われたものであることに留意する価値がある。類似の結果はN87細胞株でも得られた(データ非公表)。クラスII mAbsがErbB-2を含むヘテロダイマーの形成を妨害することによりリガンドの結合を阻害する、という予想を直接的に試すため、我々はそれぞれの受容体を放射性標識が付されたリガンドで共有結合的に標識化し、ErbB-2と親和性のある標識化受容体の共沈殿を分析した。この実験はN87細胞で行われ、その結果は図6に示される。明らかに、単量体受容体種、二量体受容体種の双方が、抗-ErbB-2抗体により沈殿した。しかし、親和性標識化反応の間におけるmAb L26の存在により、ErbB-2との共沈殿は有意に減少した。この作用はEGFでのほうがNDFでの場合より大きく、リガンド置換アッセイ(図5A)の結果とも一致し、対照の非共有結合抗体(6B11)によっては誘導されなかった。しかしながら、ErbB-2に対する全てのmAbsは、特にEGFとの、親和性標識化の効率がわずかに減少したが、おそらく第1級アミノ基の非特異的マスキングのためであろう。
抗体が誘導する、リガンド結合の阻害の根底にあるメカニズムをさらに研究するため、我々は、EGF及びNDFのそれらの受容体に対する親和性への、mAb L26の作用を測定した(図7A)。クラスII mAbsとの共培養におけるリガンドの親和性の有意な減少(EGFで3倍、NDFで2倍)を除き、スカッチャート分析により、結合部位の数の点で最低限の作用が明らかになった。ErbB-2を含むヘテロダイマーには、比較的遅い程度のリガンド会合という特徴がある(……)ため、我々は、観察されるmAb L26の阻害作用のためにリガンド解離が加速するという予想を試みた。EGFとNDFの解離における動力学は、mAb L26の存在及び不存在で決定された。あきらかに、そのmAbにより、双方のリガンドのそれらの細胞における結合部位からの解離の程度が有意に増大した(図7B)。総合すれば、リガンド結合分析の結果は、クラスIIに属するmAbsは、ErbB-2と、そのファミリーメンバーすなわちEGF及びNDFの受容体との間で形成されるダイマーの安定性を妨害することができることを意味する。」
(オ) 2104頁左欄 図6
^(125)I-リガンドがEGFである場合について、mAbとしてL431、6B11を用いた場合、単量体受容体、二量体受容体の双方が共沈殿したことが確認できる一方、mAbとしてL26を用いた場合、前二者と比較してErbB-2との共沈殿は有意に減少したことが確認できる。
また、説明部分に以下の記載がある。「親和性標識化、及び、NDF及びEGF受容体とErbB-2との共免疫沈殿におけるmAbsの影響。……対照mAb、6B11も加えられた……単量体性受容体は、ヘテロダイマーに関与するであろう受容体が結合されたリガンドを表すことに留意せよ。」
(カ) 2104頁18行?2105頁左欄24行
「クラスII mAbsが、ErbB-2による増殖シグナルのトランス活性化を阻害する
ErbB-2の存在により達成されるNDF及びEGFの長期の結合は増殖シグナルを増加させるものと考えられる。実際、ErbB-2は、EGFの増殖作用を高める能力、及び、NDFのErbB-3の活性化により伝達される細胞分裂シグナルを再構成する能力を有する(……)。成長因子によるシグナル伝達における、抗体L26によるヘテロダイマー不安定化作用を試験するため、我々は、適切な受容体の組み合わせを発現する細胞でのDNA合成を測定した。mAb L26の存在下で試験した場合、ErbB-2と、ErbB-1(D12細胞と示される)又はErbB-3(D23細胞)のいずれかの組み合わせを発現する32D細胞は、EGF及びNDFによりそれぞれ発揮される細胞分裂作用が低減することを示した。抗体L26の存在下で示される低いリガンド親和性と矛盾なく、EGF及びNDFに誘導されるDNA合成の用量反応曲線は高いリガンド濃度にシフトした。さらに、得られる最大のシグナルはmAb L26の存在下で減少した(図8)。EGFにより伝達されるシグナルが、そのmAbによって、NDFの場合よりも大きく調整されるが、これは、抗体存在下での各々のリガンドの置換(図5A)でみられる相違を反映することに気づくのに関連する。結論として、我々の結果は腫瘍阻害性クラスII mAbsにより、ErbB-2が、NDF及びEGFの受容体と多くのヘテロマーシグナル複合体を形成する能力を阻害することができることを示唆する。」
(キ) 2106頁左欄14?28行
「考えられる限りにおいて、ErbB-2の過剰発現によって、ホモダイマー、又はNDFやEGFの受容体とのヘテロダイマー形成の実施による形質転換を生じうる。図9で図示的に示されるこのモデルによれば、おそらく、いずれのタイプのダイマーも、大変強力なErbB-2とのカップリングを、Ras-MAPキナーゼ経路に利用する(……)ため、それらは細胞の形質転換の強力な刺激因子である。それに続き、いずれかのタイプの受容体ダイマーの阻害によって腫瘍の成長を阻害することができる。しかし、ほとんどの腫瘍阻害性mAbsが細胞表面からのErbB-2ホモダイマーの除去の加速を通じて作用するのに対し、クラスII mAbsだけがヘテロダイマーにより進められる腫瘍形成性経路を直接に阻害することができる。」

イ 引用例2
(ア) 1241頁15行?1242頁下から7行
「治療に対する腫瘍の反応
……びまん性大細胞型リンパ腫(びまん性細網肉腫(DHL))、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性白血病はすべて治癒可能である。シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、(メトトレキセート、シタラビン、またはブレオマイシン併用ないし非併用)のレジメンで約80%の完全寛解率、約50%の5年生存率がえられる。
III期(進行性)精巣癌はシスプラチン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、の3剤(PVB)併用レジメンで治癒可能である。90%以上の患者で完全寛解がえられる。しかし、予後不良因子として高LDH、内胚葉洞腫瘍、後腹膜巨大腫瘤がある。縦隔胚細胞腫瘍はPVBレジメンまたはシスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンを含むレジメン(PEB)を、放射線と、場合によっては化学療法後の手術と共に治療する。
複合療法および補助療法によって治癒する腫瘍は表103-8に挙げられている。補助療法はX線または薬による。補助薬の使用は乳癌及び腋下リンパ節転移の患者の治療に一定の役割を果たす。補助薬の十分量投与(75%)を受けた女性は閉経前でも後でも生存率の向上が見られる。同様に5-FUとロムスチンの補助療法は胃癌患者の生存率を向上させる。
……
頭頸部のIIIおよびIV期進行性偏平上皮細胞癌は表130-8に示すように治癒可能性がある。もし治癒は無理にしても、症状の緩和はすぐにえられよう。治療には高用量シスプラチンと5-FUの持続注入が含まれる。シスプラチンと5-FUを3コース投与後に放射線照射するか外科的切除を行う。患者の20から40%が治癒しうる。
手術、放射線、薬剤がウィルムス腫瘍と胎児性横紋筋肉種の治療に一定の役割を果たす。小児の腎癌であるウィルムス腫瘍(腎芽細胞腫)においては、……。手術において、一旦正常なGI運動が再開したなら、ダクチノマイシンを6日間毎日、ビンクリスチンを毎週12週間による薬剤治療を開始する。ダクチノマイシンは、6から8週間毎に24か月投与を続ける。放射線照射は腹門または側腹部に行う。照射量は24から60Gy(2400から2600ラド)/2.5から3週間である。残った大きな病変領域はさらに追加の局部照射を加え後押しできる。
従来の薬剤と放射線では便益が証明されていない腫瘍:現在までのところ、薬剤単独または放射線併用で非小細胞肺癌、……の患者の延命できたという証拠はない。しかし、放射線はどんな癌に対しても疼痛のある骨転移、脳転移、あるいは後腹膜部腫瘤の緩和に効果的な方法である。
最近まで結腸癌(デュークスB2およびC病変)はこのグループに入っていた。最近の証拠では、5-FUとレバミソールを切除後に用いると無病生存期間の延長が示されている。」
(イ) 1242頁 表103-8
「複合療法で治療する癌の5年無病生存率」との題で、治療法として「手術と放射線」、「手術と薬剤」、「放射線と薬剤」、及び「手術、放射線および薬剤」が挙げられている。
(ウ) 1246頁15?1247頁11行
「ヒト腫瘍の免疫療法
癌の免疫療法は広範囲の主題、すなわち生物学的治療法、または生物学的応答修飾剤(BRMs)の応用の一部として、最もよく考えられている。これらの因子は次のような様々な機構の一つまたは複数を介して作用する。(1)エフェクター細胞の数を増加したり、一つまたはそれ以上の可溶性メディエーター(例、リンフォカイン)を産生したりすることによって宿主の抗腫瘍応答を刺激する。(2)エフェクターもしくはメディエイターとして働く。(3)宿主のサプレッサー機構を低下する。(4)腫瘍細胞の免疫原性を増すように変えたり、免疫過程においてより障害されやすくなる。(5)細胞毒や放射線療法に対する宿主の寛容性を増す(例、顆粒球コロニー刺激因子[G-CSF]や他の造血因子で骨髄機能を刺激することによって)。最初の4つの機構は免疫過程の操作ということができ、ゆえに文字通り免疫療法とみなされる。BRMは免疫学的作用と非免疫学的作用の両方をもちうる。例えば、インターフェロン-αは腫瘍細胞のTAAの発現を高めナチュラルキラー(NK)細胞活性を上昇させるが、非免疫学的機構によっても腫瘍細胞の増殖を妨げる。
……
体液性治療法
受動的免疫療法の形の抗腫瘍抗体の使用(宿主自身の免疫系の能動的な刺激と対照的に)は少なくとも一世紀の歴史がある。所定の特異性を持ったモノクローナル抗体を大量に産生するハイブリドーマ技術の利用により、最近はヒト免疫療法へのこのアプローチの可能性も増してきた。抗リンパ球血清が慢性リンパ性白血病、TおよびB細胞リンパ腫両者で用いられ、結果として一時的にリンパ球数やリンパ節の大きさが減少した。悪性黒色腫と関連して様々な抗原に対するネズミのモノクローナル抗体については何人かの研究者によって研究されており、全体として10%の患者に反応がみられている。ネズミの免疫グロブリンに対する受容者の免疫反応を避けるため、ヒトモノクローナル抗体の開発を通じてこれらの結果の改善が探られている。もう一つの改良としてはモノクローナル抗腫瘍抗体と毒素(例、リシンやジフテリア)や放射性同位元素との結合がある。結果として抗体はこれらの毒素を特異的に腫瘍細胞へ運搬する。細胞性そして体液性両方の機構を用いた最近のアプローチに“ヘテロ交差結合抗体”の開発がある。一つの抗体が、細胞毒性エフェクター細胞と反応している第二の抗体と結合した腫瘍細胞と反応するもので、後者をより特異的に腫瘍に向くようにする。」

ウ 引用例3
(ア) 2272頁左欄1?22行
「はじめに
小児頭大に至る腫瘍が、60Gy程度の分割照射で高率に治癒している事実は、腫瘍細胞の放射線感受性に基づく放射線照射効果のみでは説明しえないものがある。このもっとも大きな原因は宿主の免疫能の力とされ、放射線治療により腫瘍細胞数を10^(5)個程度まで減少させうれば、宿主の抗腫瘍性によって腫瘍を治癒に導くことができるとされている^(1))。こうしたことから、放射線照射と宿主の免疫能とに関して種々の報告がなされ、放射線治療が抗腫瘍性を増強するとする報告も多くみられる^(2・3))。一方、Biological Response Modifiers(以下BRMと略す)が臨床応用されるにつれて、放射線治療と併用される機会が急激に増加しているが^(4・5・6))、両者の併用が、十分な基礎的免疫学的根拠に基づいてなされているとは言い難く、BRMの効果と放射線照射の効果が、相互にどのように修飾されているのか、あるいは修飾されるべきなのか詳細に検討する必要があろう。
今回はこうした点を踏まえ、BRMの放射線効果の修飾に関して、われわれの基礎的検討をもとに、2、3の知見を報告する。」
(イ) 2272頁右欄15行?2274頁左欄24行
「2.放射線照射とBRMとの併用時期の違いによる照射効果の修飾の相違
放射線照射とBRMの併用は、腫瘍免疫を増強するばかりでなく、併用時期によっては免疫抑制的に作用するとの報告^(12、13))もあり極めて重要な問題であるが、併用時期の違いによる作用機序についての研究はまだあまり進んでいない。そこで、この点に関して、われわれが行った動物実験について紹介する。
1)照射前PSK投与が腫瘍増殖に及ぼす影響
C_(57)BL/6雄性マウスの腹腔内に、あらかじめPSKを50mg/kg隔日で6回投与し、PSK投与6週後にMC肉腫10^(6)個を大腿筋肉内に移植した。移植5日後に腫瘍移植部に20Gyの照射を行い、腫瘍増殖抑制効果を検討した。図1に示すごとく、PSK単独投与でも対照群に比して腫瘍増殖抑制効果が認められたが、照射と併用することによって、抑制効果はさらに明らかとなった^(14))。
2)照射後IL2投与が腫瘍増殖に及ぼす影響
前述の実験と同様の実験系を用いて検討を行った、MC肉腫10^(6)個を大腿筋肉内に移植し、移植5日後に腫瘍移植部に10Gyの照射を行い、翌日よりIL2の3.5×10^(4)JRUを隔日で腹腔内に6回投与し、腫瘍径を計測した。結果は図2に示すごとくで、IL2の単独投与では、腫瘍増殖抑制効果は認められなかったが、照射と併用することによって、照射単独群よりも有意に増殖が抑制された。しかし、BRMにもっとも期待するところである、生存率の延長は認められなかった(図3)。
3)BRMの併用時期の違いによる放射線照射効果の修飾機序
以上の2つの動物実験結果は、BRMは、投与時期にかかわらず放射線照射効果を増強する可能性を示唆したものであるが、照射効果増強の機序は必ずしも同じとは考えられず、併用時期によって異なる機序を有しているものと考えられる。そこで、併用時期の違いによって、BRMが放射線照射効果をどのように修飾するかについて考えてみたい。
(1)照射前BRM投与が照射効果に及ぼす影響
(利点)
a)担癌によって生ずる免疫抑制をあらかじめ除去し、放射線治療効果を高める。
b)良好な間質反応を照射部位に誘導する。
(欠点)
a)腫瘍細胞量が多いとBRMの効果は乏しいとされているため、効果が発現するかどうか疑問である。
b)無処置の腫瘍細胞の抗原性は低く、たとえBRMを併用したとしても抗腫瘍性を誘導しにくい。
c)活性化されたエフェクターが、照射によって破壊される危険性がある。
d)持続の短いBRMでは、照射期間中効果が持続しない。報告の中には、PSKの照射前投与は効果がないとするものもある^(15))。
(2)BRMの同時併用が照射効果に及ぼす影響
(利点)
a)放射線治療による免疫抑制を防止する。
b)良好な間質反応を誘導する。(局所照射1週間前後に、もっとも強免疫担当細胞浸潤や細胞障害性活性が認められるため3)、この時期にBRMが併用されることがもっとも効果的とも考えられる。)
c)放射線増感剤として作用し、照射による殺細胞効果を増強する。
d)照射によって強化された抗腫瘍性を、より増強する。
(欠点)
a)BMRによって誘導された局所の良好な免疫反応が、照射によって抑制される可能性がある。
(3)照射後BRM投与が照射効果に及ぼす影響
(利点)
a)BRMは腫瘍細胞量の少ないほど効果が大きいので、もっともBRMの効果がでやすい。
b)照射によって強化された抗腫瘍性を、より増強する。
(欠点)
a)抗腫瘍免疫の成立に必要な腫瘍特異抗原が不足する。
b)先行した照射により、細胞性免疫の抑制が生じる。(担癌によって生じた免疫抑制に対してはBRMは有効に働くが、照射などによって生じた免疫抑制には効果がないとする報告^(16))もある。)
c)照射による局所の線維化などにより、良好な間質反応が誘導できない。」

(2) 引用例1発明の認定、対比
引用例1には、上記(1)アの記載、特に、摘示事項(ア)、(エ)?(キ)の記載からみて、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ErbB-2とEGF受容体とのヘテロダイマーの形成を阻害する、腫瘍阻害性のモノクローナル抗体L26。」

引用例1発明の「ErbB-2」は、本願発明におけるerbB2、すなわち「p185」に相当する。また、引用例1発明の「EGF受容体」は引用例1において「ErbB-1」とも記載され、本願発明におけるerbB1、すなわち「EGFR」に相当する。そして、引用例1発明の「ErbB-2とEGF受容体とのヘテロダイマー」は、本願発明の「p185/EGFRヘテロダイマー」に相当する。
また、引用例1発明の「ErbB-2とEGF受容体とのヘテロダイマー」が形成されることでチロシンキナーゼ活性を示すことは、上記(1)アの摘示事項(イ)に記載されており、ヘテロダイマー形成が阻害されるとこのようなチロシンキナーゼ活性は示さなくなるものといえるから、引用例1発明の「ヘテロダイマー形成」の「阻害」は、本願発明の「p185/EGFRヘテロダイマー」にあたる「マルチマー受容体集合物」による「提供されるキナーゼ活性」の「破壊」に相当する。

そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、両発明は
「p185、EGFR及び変異体EGFRのうちの2つからなるヘテロダイマーの形成を阻害することによりEGFR又は変異体EGFR蛋白質を含むマルチマー受容体集合物により提供されるキナーゼ活性を破壊する抗体の使用であって、そして上記マルチマー受容体集合物が、p185/EGFRヘテロダイマー、p185/変異体EGFRヘテロダイマー、又はEGFR/変異体EGFRヘテロダイマーであるerbBヘテロダイマーである、上記使用。」で一致するが、以下の点で相違する。
<相違点>
(相違点1)本願発明では、抗体を「医薬の製造」において「使用」するものであって、「erbB蛋白質媒介性腫瘍を有する個体を治療するため」に用いられ、当該腫瘍が「形質転換された表現型のチロシンキナーゼ活性を提供する上記EGFR又は変異体EGFRを含むマルチマー受容体集合物を有する腫瘍細胞により特徴付けされ」るのに対し、引用例1発明では抗体をそのような目的で使用することが明らかにされていない。
(相違点2)本願発明では、抗体を「抗癌照射の前に投与される」ものとされるのに対し、引用例1発明では、抗癌照射やそのタイミングについて明らかにされていない。
(相違点3)本願発明では、「キナーゼ活性の破壊は腫瘍細胞の上記照射に対する感受性を増加させ」るものとされるのに対し、引用例1発明ではこの点が明らかにされていない。

(3) 相違点についての判断
これらの相違点について、以下、検討する。
ア 相違点1について
相違点1について、(a)erbB-2プロトオンコジーンの過剰発現、すなわち、過剰発現されたErbB-2が、いくつかのヒト腺癌の悪性の臨床経過に頻繁に関連するため、エンコードされるタンパク質は免疫療法の魅力的な標的であること、(b)受容体様チロシンキナーゼであるErbB-2の過剰発現が、乳、卵巣、肺、及び胃における腺癌の20%から30%に観察されたこと、及び、(c)受容体チロシンキナーゼの活性化は、特定のリガンドの結合により誘導される、受容体の二量体化に依存するところ、ErbB-2は、直接のリガンドがないときであっても、EGF受容体と、ヘテロダイマーの複合体を形成し、シグナル伝達に関与し得ることは、上記(1)アの摘示事項(ア)?(ウ)にあるように、いずれも引用例1に記載された事項である。
このように、引用例1には、ヒト腺癌にErbB-2が過剰発現されること、ErbB-2がEGF受容体とのヘテロダイマー複合体、すなわち二量体を形成し、これによって受容体チロシンキナーゼが活性化されることが記載されているから、引用例1に記載のヒト腺癌は、本願発明における「形質転換された表現型のチロシンキナーゼ活性を提供する上記EGFR又は変異体EGFRを含むマルチマー受容体集合物を有する腫瘍細胞」及び「erbB蛋白質媒介性腫瘍」に相当するとともに、過剰発現されたErbB-2は免疫療法の魅力的な標的であるといえる。
また、モノクローナル抗体L26がクラスII mAbsの一種であって、クラスII mAbsがErbB-2を標的とすることも、上記(1)アの摘示事項(ア)及び(エ)にあるように引用例1に記載されており、L26を上記ヒト腺癌でみられるErbB-2に対して用いることができるものといえる。
そうすると、引用例1発明のモノクローナル抗体L26を、「形質転換された表現型のチロシンキナーゼ活性を提供する上記EGFR又は変異体EGFRを含むマルチマー受容体集合物を有する腫瘍細胞により特徴付けされ」る「erbB蛋白質媒介性腫瘍を有する個体を治療するため」の「医薬の製造」において「使用」することは、当業者にとり格別困難な事項とはいえない。

イ 相違点2について
腫瘍の治療において、放射線や、抗体を含めた種々の薬剤がともに治療に用いられること、及び、放射線照射すなわち抗癌照射と薬剤投与を併用することは、上記(1)イの摘示事項(ア)?(ウ)、並びに(1)ウの摘示事項(ア)及び(イ)にあるように、引用例2及び3に記載され、本願優先日当時の当業者に周知の事項といえる。
ここで、腫瘍の治療に放射線と薬剤という2つの要素を併用する場合、これらをどのようなタイミングで用いるか、具体的には、(a)両者を同時に用いるか、(b)いずれか一方を先に使用し、残りを後で使用するか、については、当業者が検討する事項であることは自明であるところ、両者の併用が、腫瘍免疫を増強するばかりでなく、併用時期によっては免疫抑制的に作用するとの報告があり、重要な問題であることが、上記(1)ウの摘示事項(イ)にあるように、引用例3に記載され、また、薬剤を先に投与し、その後に放射線照射を行う場合、すなわち、医薬が「抗癌照射の前に投与される」場合の利点が、上記(1)ウの摘示事項(イ)にあるように引用例3に記載されるとともに、医薬が「抗癌照射の前に投与される」場合の具体例が、上記(1)イの摘示事項(ア)にあるように引用例2に記載される。
そうすると、腫瘍を治療するための放射線と薬剤の併用にあたり、その順序の重要性は当業者に認識されていたと認められるので、引用例1発明を抗癌照射と併用し、かつ、そのタイミングとして抗癌照射の前に薬剤として引用例1発明を投与するようにすることは、当業者にとり格別困難な事項とはいえない。

ウ 相違点3について
本願発明の「キナーゼ活性の破壊は腫瘍細胞の上記照射に対する感受性を増加させ」ることについて、(a)「キナーゼ活性の破壊」が生じれば必然的に「腫瘍細胞の上記照射に対する感受性」が増加する場合と、(b)「キナーゼ活性の破壊」が生じる際、そのうちの一部において「腫瘍細胞の上記照射に対する感受性」が増加する場合とがあり得る。ここで、(b)のように解した場合、どのような場合に「腫瘍細胞の上記照射に対する感受性」が増加するのかが問題となるが、発明の詳細な説明では、発明の詳細な説明では、「キナーゼ活性の破壊」が生じた際の特定の場合において「腫瘍細胞の上記照射に対する感受性」が増加することについての記載はないため、つまるところ(b)のように解する根拠はなく、(a)のように解することが自然といえる。
そして、(a)に関しては、引用例1発明がErbB-2とEGF受容体とのヘテロダイマーの形成を阻害するものであって、該ヘテロダイマー形成の阻害によりキナーゼ活性が破壊され、必然的に「腫瘍細胞の上記照射に対する感受性」が増加するから、この点は実質的な相違点とはならない。

(4) 本願発明の奏する効果について
本願発明の奏する効果に関する本願明細書の記載をみると、抗体に関連する試験として、実施例8に「抗-p185c-ErbB2模倣CDR4D5の放射線感受性化効果」、及び「抗-p185c-ErbB2模倣物CDR4D5の放射線感受性化効果」に関する記載がある。
しかし、拒絶理由2及び3について後で指摘するとおり、当該記載によってはその内容が明らかにされたとはいえず、当業者がそのような試験を行うことができる程度に明確かつ十分に記載されたものともいえないため、そのような実施例の記載によっては、本願発明が引用例1?3に記載された発明からみて格別優れた効果を示すものであると解することができない。

(5) 請求人の主張について
請求人は、当審が示した拒絶理由通知に対応して提出された平成24年4月18日付け意見書において、拒絶理由5について上記(2)及び(3)で指摘した事項に関し、引用例3には投与後照射の利点と欠点、投与と照射が同時の場合の利点と欠点、投与前照射の利点と欠点が列挙されているところ、投与後照射が常に最大の効果をもたらすことが示唆されているわけではなく、欠点も挙げられているから、引用例3をみた当業者が照射前投与のみを選択するとはいえない旨を主張する。
しかし、引用例3に照射前投与を選択することができない、又は、他の場合と比較して照射前投与が常に劣る旨の記載があるわけではなく、さらに、引用例2には照射前投与により効果を奏する例も具体的に記載されている。
そうすると、引用例3をみた当業者が照射前投与を選択することに格別の困難はなく、上記請求人の主張は採用することができない。

(6) 小括
したがって、本願発明は、引用例1?3の記載、並びに本願優先日当時の当業者に周知の事項を勘案し、引用例1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2 拒絶理由2及び3(特許法第36条第4項及び第6項第1号)について
(1)発明の詳細な説明、図面の簡単な説明、及び図面の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明、図面の簡単な説明、及び図面には、本願発明における「抗体」の、「erbB蛋白質媒介性腫瘍を有する個体を治療するための抗癌照射の前に投与される医薬の製造における使用」に関連する記載として、次のものがある。なお、下線は当審で付した。

ア 発明の詳細な説明
(ア) 「【0004】
発明の背景
erbBファミリーの受容体は、erbB1(EGFR)、erbB2(p185)およびerbB4を含む。……引用により編入されるSchechter,A.L.ら、(1984)Nature 312,513-516およびYamamoto,T.ら、(1986)Nature 319,230-234は、p185neu/erbB2を……記載する。」
(イ) 「【0031】
本発明は、腫瘍細胞において上昇したチロシンキナーゼ活性を生じるerbB蛋白質ダイマーの形成を阻害する組成物を個体に投与し、そして治療上有効な量の抗癌照射に個体を暴露する工程からなる、erbB蛋白質媒介腫瘍を有する個体を治療する方法に関する。……いくつかの態様において、腫瘍細胞内のerbB蛋白質と相互作用して、他のerbB蛋白質とダイマー形成するためにその低下した性質をもたらすのに十分なようにerbB蛋白質を改変する化合物は、抗体である。いくつかの態様において、抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの態様において、個体に投与される組成物は、腫瘍細胞内のerbB蛋白質と競合して相互作用することにより、他のerbB蛋白質とのダイマー形成を競合して阻害し、且つ上昇したチロシンキナーゼ活性を防ぐ化合物を含む。いくつかの態様において、腫瘍細胞内のerbB蛋白質と競合して相互作用することにより、他のerbB蛋白質とのダイマー形成を競合して阻害する化合物はペプチドである。いくつかの態様において、腫瘍細胞内のerbB蛋白質と競合して相互作用することにより、他のerbB蛋白質とのダイマー形成を競合して阻害する化合物は抗体である。……」
(ウ) 「【0032】
本発明は、形質転換された表現型に関連したキナーゼ活性を提供するマルチマー受容体集合物を有する腫瘍細胞により特徴付けされる腫瘍を有する個体を治療する方法に関する。該方法は、マルチマー受容体集合物に関連したキナーゼ活性を破壊する組成物を個体に投与し;そして治療上有効な量のガンマ照射に個体を暴露する工程からなる。いくつかの態様において、該腫瘍は、erbBホモダイマー、erbBヘテロダイマー、および血小板由来の成長因子受容体のマルチマーからなる群から選択されるマルチマー受容体集合物を有する腫瘍細胞により特徴付けられる。いくつかの態様において、該腫瘍は変異EGFRホモダイマーまたはp185ホモダイマーであるerbBホモダイマーを有する腫瘍細胞により特徴付けられる。いくつかの態様において、該腫瘍は、p185/EGFRヘテロダイマー、p185/変異体EGFRヘテロダイマー、p185/erbB3ヘテロダイマー;p185/erbB4ヘテロダイマーまたはEGFR/変異体EGFRヘテロダイマーであるerbBヘテロダイマーを有する腫瘍細胞により特徴付けられる。いくつかの態様において、マルチマー受容体集合物に関連したキナーゼ活性を破壊する組成物は、抗体、ペプチド、および非蛋白質様キナーゼ阻害剤からなる群から選択される活性因子を含む。いくつかの態様において、マルチマー受容体集合物に関連したキナーゼ活性を破壊する組成物は、集合物のモノマー成分と相互作用することにより該モノマー成分が集合物の第2のモノマー成分と相互作用することを防ぐ蛋白質またはペプチドをコードする核酸分子である活性因子を含む。」
(エ) 「【0034】
本発明は、EGFR種を含む腫瘍細胞を有する個体を治療する方法に関する。該方法は、EGFR種により媒介されるキナーゼ活性を破壊する組成物を上記個体に投与し;そして治療量のガンマ照射に上記個体を暴露し、および/または治療量の細胞障害性化学治療剤を上記個体に投与する工程からなる。いくつかの態様において、EGFR種は変異体EGFRである。いくつかの態様において、EGFR種により媒介されるキナーゼ活性を破壊する組成物は、抗体、ペプチド、および非蛋白質様キナーゼ阻害剤からなる群から選択される活性因子を含む。いくつかの態様において、EGFR種により媒介されるキナーゼ活性を破壊する組成物は、EGFR種の分子と相互作用することにより該モノマーが第2のモノマー成分とキナーゼ活性上昇性マルチマー集合物を形成することを防ぐ蛋白質またはペプチドをコードする核酸分子である活性因子を含む。……」
(オ) 「【0045】
neuオンコジーンの翻訳産物はp185であり、膜貫通糖蛋白質であって、チロシンキナーゼ活性を有し且つ該糖蛋白質上に電気泳動を実施し、そして公知分子量のマーカー蛋白質と移動度を比較することにより決定された約18,500ドルトンの分子量を有する。実験は、p185が他のp185分子または表皮成長因子受容体(EGFR)とダイマー形成すること、およびこれらのダイマーがそのようなダイマーを有する細胞において形質転換された表現型を生じる上昇チロシンキナーゼ活性を呈することを示した。」
(カ) 「【0099】
本明細書にて用いるとおり、用語「抗体」は、抗体並びに抗体断片例えばFAbおよびF(Ab)_(2)断片を称することを意味する。抗体は、いくつかの好ましい態様において、モノクローナル抗体またはヒト化抗体であってよい。p185に対する抗体は、引用により編入される1997年10月14日発行の米国特許第5,677,171号および引用により編入される1998年1月6日発行の米国特許第5,705,157号に記載され、EGFRに対する抗体も記載する。引用により編入される1995年11月28日発行の米国特許第5,470,571号もEGFRに対する抗体を記載する。
【0100】
いくつかの態様において、抗体を模倣するペプチドが提供され、マルチマー集合物形成を阻害してそのような形成と関連した上昇キナーゼ活性を阻害するように提供される。例えば、抗体からのCDR領域に相当する配列を有するペプチドがデザインされる。そのようなペプチドを作成する方法も、引用により編入される、1994年6月10日出願のシリアル番号第08/257,783号1995年6月6日出願のPCT出願番号PCT/US95/07157に記載される。p185に対する抗体のペプチド模倣は、引用により編入される1997年9月2日発行の米国特許第5,663,144号に記載される。」
(キ) 「【0188】
……
実施例8
バックグラウンド:
抗-p185^(neu)モノクローナル抗体(mAbs)はインビトロおよびインビボにおいて投薬量依存性様式においてp185^(neu)発現腫瘍の成長を阻害することがわかった。別のエピトープドメインと反応性の抗-p185^(neu)mAbsの組み合わせは、インビボにおける腫瘍のneu-過剰発現に対して相乗阻害効果を明らかにした。これらの研究はmAb-に基づく癌蛋白質特異的治療の可能性を証明した。
……
【0190】
細胞成長および形質転換の阻害は形質転換膠細胞においてerbB受容体のシグナリングを変調することにより達成できる。我々の最近の研究は、アポトーシスの誘導がヒトの癌の首尾良い治療の基礎となるかもしれないことを示す。erbB需要体シグナリングが切断neu T691のトランスフェクションにより阻害された放射線耐性ヒト膠芽腫細胞はDNA損傷に応答して増大した成長阻止およびアポトーシスを呈した。erbBシグナリングの阻害はアポトーシスの誘導のための有力な刺激である。erbB受容体メンバー間の近位の受容体相互作用は、即ち、DNA損傷に応答して活性化される細胞周期チェックポイント経路に影響する。よって、erbB受容体の無能力化はガンマ照射および他の細胞障害性治療に対する応答を改良するかもしれない。
【0191】
データは、完全なerbBシグナリング経路を必要とする放射線耐性ヒト腫瘍細胞が放射線感受性であり、且つアポトーシス経路においてerbBシグナリング経路の阻害によるあらゆるDNA損傷に対するように変わることができることを示唆する。
【0192】
抗-p185^(c-erbB-2)模倣物、CDR4D5をデザインし、開発し、そして、抗-p185^(c-erbB-2)Ab由来の模倣物CDR4D5がヒトの腫瘍細胞の増殖を阻害してガンマ照射後にアポトーシスを増強することが可能か否かを調査するために使用した。実施した実験は以下のとおりである。
1.ペプチド模倣デザイン
抗-erbB2抗体、4D5はerbB2受容体のダウン変調において効果的であることがわかった。ヒト化抗体の結晶構造(1FVD)を分析する。4D5のCDR3を鋳型として用いた。環状ペプチドのいくつかの類似体を生成した。用いてよいペプチドは以下を含む。
【0193】
【表3】


2.細胞系
可変レベルのp185c-erbB-2受容体を発現する以下のヒト腫瘍細胞系を用いた:a)……
3.表面c-erbB-2受容体発現のフローサイトメトリー分析
準コンフルエントな細胞をトリプシンを用いて瞬間処理(<3分)により回収して、氷上に保存した。……
4.細胞増殖アッセイ
MTT[3-(4,5-ジメチルチオアゾール-2-イル)-2,5-ヂフェニルテトラゾリウムブロミド]取り込みにより測定された増殖アッセイ。細胞系を96ウエルプレート(5,000細胞/ウエル)中に10%のDMEM中で、示された量の模倣CDR4D5と共にプレートし、そして48時間インキュベートした。MTTを4時間細胞に与えた。細胞を50%SDS/20%ジメチルスルフォキシド中で溶解して、37℃において一晩放置した。増殖は、ELISAリーダーを用いて570nmにおいて光学密度をとることにより評価した。このアッセイにおいて使用した細胞の数はこの細胞種の直線範囲内であることが決定された。
5.アポトーシスの形態学分析により決定されたとおりの抗-p185^(c-erbB-2)模倣CDR4D5の放射線感受性化効果
30,000細胞を一晩6ウエルのプレート中でカバースリップ上に付着させた。細胞を照射前に50μg/mlの模倣CDR4D5と48時間インキュベートした。10Gyの照射を与えて、細胞を37℃においてインキュベートした。核の形態は以下の時間点:照射後12、24、48および72時間において評価した。……
【0194】
細胞の計数は染色の30分以内に実施して、ツアイスアクシオプランエピフルオレッセンス顕微鏡上で写真を撮った。100細胞の少なくとも3つの個別の視野を各サンプルに関して計数した。
結果
1.表面c-erbB-2受容体の発現
フローサイトメトリー分析を用いることにより、ヒト腫瘍細胞上の表面p185^(c-erbB-2)受容体発現を測定した。表面c-erbB2受容体の発現はSkBR3において最高であり、MCF7において中度であり、U373MGにおいて低い中度であり、そしてU87MGにおいて検出されなかった。SKBR3の平均蛍光は対照の50倍であり、MCF7,U373MG,およびU87MGのそれは、対照のそれぞれ6.5、2及び1倍であった。
2.増殖の阻害
CDR4D5処理は、投薬量依存性様式および表面p185^(c-erbB-2)受容体密度逆依存性様式において腫瘍細胞増殖を阻害した。CDR4D5はc-erbB2非発現U373MG親細胞の増殖を阻害せず、そしてU373/T691は1μgの模倣CDR4D5で62%阻害された。MCF7およびSKBR3細胞の増殖は投薬量依存性養成期においてそれぞれ43%-53%、および39%-49%阻害された。
3.抗p185^(c-erbB-2)模倣物CDR4D5の放射線感受性化効果
全ての細胞においてアポトーシスは照射後72時間であった。U373MG細胞上の模倣CDR4D5処理は照射48時間後および72時間後に非処理のU373MGよりも20-28%多いアポトーシスをもたらした。U373MG細胞内のアポトーシスに対するCFR4D5の効果は、erbBシグナリングを無能力化して照射に応答したアポトーシスを誘導する阻害性受容体変異体である切断したneuを用いて得られた結果に匹敵した。CDR4D5の顕著な放射線感受性化効果はMCF7およびSKBR3細胞系において照射から72時間後に同じく観察された(図6B)。表面p185^(c-erbB-2)受容体レベルとアポトーシス性細胞死に対する感受性が逆に相関したので、表面c-erbB2受容体発現の量に従ってCDR4D5の量を増加させることが上記効果を改良するべきである。
【0195】
この4D5模倣物は約1.5KDのサイズの小ささであり、プロテアーゼ耐性ペプチドであり、ヒト表面p185^(c-erbB-2)受容体に特異的であり、完全長の抗体よりも低い抗原性である。該4D5模倣物は、癌の診断および治療における抗受容体模倣物の使用を例示し、ガンマ照射のような細胞障害性治療と組み合わせて相乗効果を生じるはずである。」

イ 図面の簡単な説明
(ア) 「【図6】
図6Aおよび6Bは、抗-p185^(c-erbB-2)模倣性CDR4D5が抗体ヒト腫瘍細胞をガンマ照射誘発アポトーシスに敏感にすることを示す。u3,u3t,SおよびMはそれぞれU373MGおよびU373/T691,SKBR3およびMCF7細胞系を示す。mおよびir mは、模倣性4D5および無関係の模倣性CD4-セリンを示す。」

ウ 図面
(ア) 「【図6】




(2) 特許法第36条第6項第1号について
ア 本願発明は「抗体」の「医薬の製造における使用」に関するものである。ここで本願発明をみると、「抗体」はどのようなものであってもよいわけではなく、「p185、EGFR及び変異体EGFRのうちの2つからなるヘテロダイマーの形成を阻害することによりEGFR又は変異体EGFR蛋白質を含むマルチマー受容体集合物により提供されるキナーゼ活性を破壊する」という性質を有するものに限定されている。そのため、本願発明が発明の詳細な説明に記載されているといえるためには、少なくとも、上記性質を有する「抗体」が発明の詳細な説明に記載されている必要がある。

イ この点について、上記(1)の各摘示事項をみると、(イ)?(エ)には、抗体がerbB蛋白質による他のerbBとのダイマー形成阻害やEGFR種により媒介されるキナーゼ活性の破壊という作用に関する記載があるが、具体的にどのような抗体を用いた場合に上記作用を奏したのかは記載されていない。また、(キ)には、「抗-p185^(neu)モノクローナル抗体(mAbs)はインビトロおよびインビボにおいて投薬量依存性様式においてp185^(neu)発現腫瘍の成長を阻害することがわかった。」と記載されるが、この抗体が具体的にどのようなものであるのかが特定されているわけではなく、この抗体が、erbB蛋白質による他のerbBとのダイマー形成阻害やEGFR種により媒介されるキナーゼ活性の破壊という作用を奏するものであるのかも記載されていない。

ウ 一方、erbB蛋白質に対する抗体が種々あることは知られているが、それらの抗体が一般に、本願発明で挙げられた、「p185、EGFR及び変異体EGFRのうちの2つからなるヘテロダイマーの形成を阻害することによりEGFR又は変異体EGFR蛋白質を含むマルチマー受容体集合物により提供されるキナーゼ活性を破壊する」という性質を有することが明らかなわけではなく、むしろ、多くのerbB2蛋白質に対する抗体では、上述のp185とEGFRとによるヘテロダイマー形成阻害に関与しないことが知られている(例えば、上記1(1)アの摘示事項(エ)及び(キ)参照。)。

エ そうすると、erbB蛋白質との関係で種々知られた抗体のうち、本願発明で用いられ得るものはそのごく一部にすぎないものと解され、そのような抗体は、当業者が一般に使用する程度のものであるともいえないから、上記(1)の摘示事項(イ)?(エ)及び(キ)の記載によって、このような抗体が記載されたものとはいえず、このような発明の詳細な説明の記載によっては、本願発明の「抗体」が記載されたものとはいえない。

オ そして、本願発明の「抗体」が記載されていないのであるから、そのような「抗体」を本願発明の「医薬の製造」において「使用」されたことについても、同様に記載されたものと解することはできない。

カ したがって、このような発明の詳細な説明の記載によっては、本願発明の「抗体」、及び、そのような「抗体」を本願発明の「医薬の製造」において「使用」されたことが記載されたものとはいえないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない
(特許法第36条第6項第1号違反)。

(3) 特許法第36条第4項について
ア 本願発明における「抗体」については、上記(2)アに記載のとおりであり、また本願発明をみると、「医薬の製造における使用」について、「形質転換された表現型のチロシンキナーゼ活性を提供する上記EGFR又は変異体EGFRを含むマルチマー受容体集合物を有する腫瘍細胞により特徴付けされ、キナーゼ活性の破壊は腫瘍細胞の上記照射に対する感受性を増加させ」るという「erbB蛋白質媒介性腫瘍」を有する、「個体を治療するための抗癌照射の前に投与される」「医薬の製造における使用」であると細かく限定されている。そのため、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて本願発明を実施できたといえるためには、発明の詳細な説明によって「抗体」を得ることができ、かつ、そのような「抗体」を所定の「医薬の製造」において「使用」できたことが、発明の詳細な説明に記載されている必要がある。

イ erbB蛋白質に対する抗体において、p185とEGFRとによるヘテロダイマー形成を阻害し、キナーゼ活性を破壊するものが得られ得ると解される(例えば、上記1(1)アの各摘示事項参照。)。このような抗体が有する性質として抗腫瘍作用が知られる(例えば、上記1(1)アの摘示事項(ア)参照。)ものの、本願発明の「抗体」が、上記「医薬の製造」において「使用」できたことまでが明らかになっていると解することはできない。

ウ この点について、発明の詳細な説明の記載、並びに、これに関連する図面の簡単な説明及び図面の記載をみると、実施例8として「抗-p185c-erbB-2模倣CDR4D5の放射線感受性化効果」、「抗p185c-erbB-2模倣物CDR4D5の放射線感受性化効果」について、その試験方法及び結果が記載されている(上記(1)のうち、アの摘示事項(キ)、イの摘示事項(ア)、及びウの摘示事項(ア)参照。)。
しかし、この試験は以下の(a)及び(b)の点で、本願発明の内容を反映したものとはいえないため、このような発明の詳細な説明等の記載をみても、抗体が上述の「医薬」の製造において使用できることが明らかにされたものと解することができない。
(a) 試験に用いられた成分が特定できないか、抗体以外の成分が用いられているため、本願発明の「抗体」が使用された試験とはいえない
段落【0193】、【0194】の記載をみると、放射線感受性化効果の確認に用いられた成分として、「抗-p185^(c-erbB-2)模倣CDR4D5」、「抗-p185^(c-erbB-2)模倣物CDR4D5」、「模倣CDR4D5」、「CDR4D5」、「4D5模倣物」等の記載があるが、
a) これらが同様のものであるのかが明確ではなく、
b) これらが同様のものを指すとしても、どのような構造を有するのかを明示する記載がなく、「erbB蛋白質に特異的な抗体」にあたるのかが明らかではない。
また、段落【0192】の「1.ペプチド模倣デザイン」の項において、抗-ErbB2抗体である4D5のCDR3を鋳型として用いて環状ペプチドのいくつかの類似体を生成したこと、及び、用いてよいペプチドの一部として配列番号1?16が挙げられているが、
c) これらのものと上記「4D5模倣物」等との関係が明らかではない。
さらに、「1.ペプチド模倣デザイン」の項における記載が上記「4D5模倣物」等の製造方法を記載したものと解した場合であっても、
d) 配列番号1?16で示されるのは用いてよいペプチドの一部であるし、配列番号1?16のものにおいても、鎖長やペプチド鎖を構成するアミノ酸が異なり活性が全般に同一であるとまでは解し得ないから、具体的にどのようなペプチドを用いて試験を行ったのかが依然として特定できず、加えて、
e) このようなペプチドは、「抗体並びに抗体断片例えばFAbおよびF(Ab)2断片を称することを意味する。」と定義され、抗体を模倣するペプチドと別のものとして挙げられる「抗体」(上記(1)アの摘示事項(カ)参照。)に含まれ得ず、その構造も抗体や抗体断片とは大きく異なるものであるから、これをもって「抗体」に関する試験であると解することはできない。
(b) 試験結果が、当業者が理解できるように記載されていないため、本願発明における「医薬の製造のための使用」に係る試験結果であることが理解できない
段落【0194】、図6A及び図6B、並びにこれらの図の説明をみると、「抗p185^(c-erbB-2)模倣CDR4D5の放射線感受性化効果」、「抗p185^(c-erbB-2)模倣物CDR4D5の放射線感受性化効果」に関する結果が記載されているものと解され、段落【0194】をみると、「CDR4D5の顕著な放射線感受性化効果はMCF7およびSKBR3細胞系において照射から72時間後に同じく観察された(図6B)。」と記載されている。
しかし、図6A及び図6Bで示された試験結果をみても、
a) 「細胞系」の項の「w/o」、「w/」、及び「m/3d」の意味が明示されておらず、これらの結果がどのような条件下でのものであるか判断できない。
また、棒グラフの凡例に従えば、多くのものでのアポトーシスの割合が12時間<48時間<24時間(例えば、図6Aの「u3 w/o m」、「u3 w/ m」)、48時間<24時間(例えば、図6Aの「u3 w/ir m」、図6Bの「S w/ m」)であると解されるが、
b) これは時間経過とともにアポトーシス状態にあった細胞がアポトーシス状態を脱したこと、すなわち、死細胞が生き返ることを意味することにほかならないから、明らかに技術常識に反するものであるにも関わらず、この点に関して何らの合理的説明もなされていないため、このグラフの意味するところが明らかではない。
さらに、段落【0194】の記載によれば、図6Bに72時間後の結果が記載されているものと解されるところ、
c) 図6Bをみても、凡例における72時間にあたるデータがないため、上記記載と図6Bとの関係が明らかではない。

エ したがって、このような発明の詳細な説明の記載によっては、当業者が、本願発明における抗体を上述の「医薬」の製造において使用することができるよう、発明の詳細な説明が記載されているものとはいえない(特許法第36条第4項違反)。

(4) 請求人の主張について
ア 請求人は、当審が示した拒絶理由通知に対応して提出された平成24年4月18日付け意見書において、拒絶理由2及び3について上記(2)及び(3)で指摘した事項に関し、以下の(ア)及び(イ)の点を挙げて、本願は上記拒絶理由2及び3を有さない旨を主張する。
(ア) erbB蛋白質に相互作用する抗体が必ずerbB蛋白質を含む集合物のキナーゼ活性を破壊するという機能を有するとは認められないとの拒絶理由通知書における記載に鑑み、抗体が有する機能を限定する補正を行って、ダイマー形成を阻害するからそのダイマー(集合物)により提供される活性を破壊する(阻害する)、ということを明確にした。
(イ) 拒絶理由通知書の、図面等の記載に関する指摘は、「erbB蛋白質に相互作用する抗体が必ずerbB蛋白質を含むマルチマー受容体集合物に関連したキナーゼ活性を破壊する」という根拠を示すことを目的としてなされたものと思料しており、補正によりチロシンキナーゼはp185のダイマー形成により生じる活性であり、ダイマー形成を阻害する抗体であればダイマーにより提供されるキナーゼ活性を破壊する蓋然性が高いと理解するのに無理はない。

イ しかしながら、請求人の上記主張は、以下の(ア)及び(イ)のとおりであり、いずれも採用することができない。
(ア) 請求人が本願発明の抗体に関して行った補正は、ヘテロダイマー形成の阻害やキナーゼ活性の破壊など、その機能を限定するものであるが、そのような機能を示す抗体は当業者にとって一般的なものではないから、少なくとも、本願発明で用いられる抗体に関して、発明の詳細な説明に記載されている必要があるところ、その記載事項を検討しても、本願発明で用いられる抗体が記載されたものと解することができない。
(イ) 拒絶理由通知書における
『なお、erbB蛋白質に特異的な抗体が、必ず、「erbB蛋白質に相互作用することによりerbB蛋白質を含むマルチマー受容体集合物に関連したキナーゼ活性を破壊する」という機能を示すことが技術常識であると主張する場合には、客観的な資料を示すなどして、この点が明らかになるよう合理的に説明されたい。』
という記載は、erbB蛋白質に特異的な抗体であれば、どのようなものであっても「erbB蛋白質に相互作用することによりerbB蛋白質を含むマルチマー受容体集合物に関連したキナーゼ活性を破壊する」という機能を有するのであれば、実施例8や図6A、6Bの記載事項によることなく当業者が本願発明を実施できることになり、かつ、そのような抗体は当業者に自明で発明の詳細な説明に記載されたものといえるため、この点が説明できるのであれば特段の補正を行うことなく拒絶理由が解消する旨の付言である。
しかし、現在の本願発明で用いられる抗体は補正によりその機能が限定されており、下線を付した前提を欠いたものとなっているとともに、(ア)でも指摘したように、発明の詳細な説明の記載では、当該機能を有する抗体が記載されたものともいえない。

(5) 小括
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項に規定される要件を満足するものではないとともに、本願発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、同法第36条第6項第1号に規定される要件を満足するものでもない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第49条第4号の規定により拒絶すべきであるとともに、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-29 
結審通知日 2012-05-30 
審決日 2012-06-12 
出願番号 特願2000-534245(P2000-534245)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春田 由香松波 由美子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 前田 佳与子
荒木 英則
発明の名称 腫瘍治療のための組成物および方法  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  

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