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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1265214
審判番号 不服2011-27309  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-19 
確定日 2012-10-22 
事件の表示 特願2008-509269「累進めがねレンズ要素の列」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 9日国際公開、WO2006/116820、平成20年11月20日国内公表、特表2008-541142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2006年 5月 5日(パリ条約による優先権主張(外国庁受理)、2005年 5月 5日、オーストリア共和国(AU))を国際出願日とする出願であって、平成23年 3月17日付けで拒絶理由が通知されたところ、同年 6月20日付けで手続補正がなされ、同年 8月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月19日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?32に係る発明は、平成23年 6月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?32に記載されたとおりのものであり、うち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有する累進めがねレンズ要素の列であって、それぞれが、
遠用視力用の屈折度を提供する遠用領域と、
近用視力用の屈折度を提供する近用領域と、
前記遠用領域の屈折度から前記近用領域の屈折度へと変化する屈折度を有し、前記遠用領域に前記近用領域を連結する累進帯とを規定する一組のレンズ設計パラメータによって特徴付けられる累進レンズ設計を有し、
レンズ装用者の少なくとも1つのライフスタイル・パラメータ及びバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーの範囲に対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが各ライフスタイル・パラメータ及びバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに起因又は関連した各値又は特性をそれぞれ有する、異なる累進レンズ設計を提供する、累進めがねレンズ要素の列。」

3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由1?4は、
理由1:本願の請求項1に係る発明と請求項5?32に係る発明とは、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しないから、本願は特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
理由2:本願は、請求項4に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでない点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3:本願の請求項1?3に係る発明は、引用文献1、2又は4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由4:本願の請求項1?3に係る発明は、引用文献1、2又は4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
というものである。

4 引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由4に引用された、本願の優先日前である1998年4月23日に頒布された「国際公開第98/16862号」(原査定の引用文献4。以下「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「累進多焦点レンズは、少なくとも2つの屈折力の異なる領域を備えており、これらを累進部によって連続的に繋げた累進面を有している。従って、この累進面は単一な球面とはならないので、累進面の少なくともいずれかの領域では直交する2方向の曲率が異なり、それにより非点収差が発生する。しかしながら、例えば、乱視を伴わない眼鏡の使用者(ユーザー)においては、レンズに現れた非点収差が1.0ディオプトリ、望ましくは0.5ディオプトリ以下であれば、像のボケをそれほど知覚せずに明瞭な視覚が得られる。従って、遠くを見る機会の多いドライバーやスポーツ好きのユーザーに対しては、遠用部に明瞭な視覚が得られる領域(明視域)が広く設定された累進多焦点レンズが望ましいと言える。一方、近くを見る機会の多い事務職や編み物などが趣味のユーザーに対しては、近用部に明視域が広い累進多焦点レンズが望ましい。このように、累進多焦点レンズにおいては、ユーザーの視力に応じたレンズ性能が必要であることはもちろん、眼鏡の用途によってもレンズの性能を変えることが望ましい。
さらに、遠方から近傍への眼の動きには、眼球が鼻側に近づく動き(輻輳)が伴う。このため、遠用部から近用部に向かって延る主注視線(主子午線)は、これをこの目の輻輳を加味して若干鼻側に曲げることが望ましく、この主注視線に沿って明視域を配置することが望ましい。この輻輳の量もユーザーによって異なるので、ユーザーに適した明視域の配置となった累進多焦点レンズでないと明瞭な視野を十分に得ることができない。その他に、回旋角や累進帯の長さなど、累進多焦点レンズとユーザーとのマッチングに影響を与える幾つかの要素が存在する。」(1ページ26行?2ページ17行)

(2)「このため、本発明においては、一人一人のユーザーの眼の動きや生活に適合した累進面を備えた累進多焦点レンズを提供することを目的としており、使用環境の異なる各々のユーザーが常に快適な視野を得ることができる眼鏡レンズを提供することを目的としている。」(4ページ2?5行)

(3)「すなわち、本発明の、屈折力の異なる遠用部および近用部、およびこれらの間で屈折力が累進的に変化する累進部を構成する累進面を有する累進多焦点レンズの製造方法においては、各々のユーザーの眼に関連する情報およびユーザーの生活に関連する情報の少なくともいずれかを含むユーザー個別のカスタマイズ情報を反映した累進面を設計し、このカスタムメイドされた累進面を備えた累進多焦点レンズの加工データを導出するレンズ設計工程を有することを特徴としている。」(4ページ14?20行)

(4)「レンズ設計工程においては、カスタマイズ情報を累進面の設計パラメータに反映する設計パラメータ決定工程と、設計パラメータに基づきカスタムメイドされた累進面の座標データを導出する工程とを用いることにより、ユーザーの眼の度数や動きなどの眼に関連する情報、さらには、仕事や趣味といったライフスタイルに関連する情報に合致した累進面を設計し、その座標を求めることができる。」(5ページ1?5行)

(5)「本発明においては、個々のユーザーのカスタマイズ情報に基づいてユーザーに適合した累進面の設計を行えるようにしているので、様々な角度からユーザーに適合するように累進面の設計をトライすることができる。例えば、上述したようにカスタマイズ情報にユーザーのライフスタイルの情報として職業を設定し、その職業に合わせた累進面の設計を行うことも可能である。さらに、同一の職業のユーザーでも同一の累進面が適合しているとは限らないので、カスタマイズ情報にユーザーの生活に関連するカテゴリーの異なる少なくとも第1および第2の主ライフ情報、例えば、職業と趣味といった情報を設けることも可能である。そして、第1および第2の主ライフ情報がユーザーの眼に影響する比率を反映する副ライフ情報として、例えば、職業と趣味で眼鏡を使用する時間の割合や、趣味に費やす時間などを設けることができる。そして、設計パラメータ決定工程に、設計パラメータの内、少なくとも遠用部または近用部の明視域の設定に関する基礎パラメータを第1の主ライフ情報に基づき設定する第1の基礎パラメータ設定工程と、基礎パラメータを第2の主ライフ情報に基づき設定する第2の基礎パラメータ設定工程とを設け、これら第1および第2の基礎パラメータ設定工程で設定された複数の基礎パラメータを副ライフ情報に基づき調整し、累進面の設計パラメータとして採用する基礎パラメータ調整工程を設けることにより、同一の職業のユーザーでも趣味の差を反映した個々のユーザーにさらに適合した累進面を備えた眼鏡レンズを提供することができる。」(5ページ16行?6ページ5行)

(6)「本発明の累進多焦点レンズを製造するためには、まず、ユーザー個別の情報(カスタマイズ情報)1を収集することが必要である。ユーザーに適したカスタムメイドの累進多焦点レンズを製造するには、大きく分けてユーザーの眼に関連する情報と、ユーザーの生活に関連する情報とを得ることが望ましい。眼に関連する情報としては、度数(S度数、乱視を矯正する必要がある場合はC度数および軸)、遠用部と近用部の度数の差を示す加入度、瞳の位置を示す瞳孔距離、遠用部から近用部にかけての眼の動きである輻輳量、眼球が回転運動(視線移動)する範囲を示す回旋角、視線の動きなどがある。さらに、眼鏡を装着する際のフィッティングデータとして、レンズの眼球側の面と角膜との距離である角膜頂点間距離、顔の垂線とレンズ面との角度を示す前傾角、左右のレンズ同士の傾きを示すそり角などを含めることができる。これらの眼に関する情報は、眼科や販売店などにおいてユーザーの眼の動きなどを測定することにより主に得ることができる。
一方、ユーザーの生活に関連した情報としては、ユーザーの仕事や趣味などの眼鏡の主な用途に関連するライフ情報、現在あるいは過去に装着していた眼鏡との相性・好み、眼鏡の経験の有無などの履歴情報、さらには、ユーザーが選択した眼鏡用のフレーム形状などがある。これらのユーザーの生活に関連した情報は、主に、インタビューやアンケートといった方式で眼科や販売店などにおいて取得することができる。」(9ページ23行?10ページ11行)

(7)「本例の累進多焦点レンズの製造方法10においては、上記のように収集されたカスタマイズ情報1を反映して累進面を含めた累進多焦点レンズを設計し加工データを導出する設計工程2と、この加工データに基づき累進多焦点レンズおよび眼鏡レンズを製造する加工工程3と、ユーザーに合わせてカスタムメイドされたレンズを出荷する工程4を備えている。」(10ページ14?18行)

(8)「本例のカスタマイズ情報1を設計パラメータに反映する設計パラメータ決定工程5は、図3に示すように、大まかな処理ステップとして、累進多焦点レンズの基本的な性能に関する遠用/近用の基礎パラメータの決定を行うステップ11と、ベースカーブを求めて基礎パラメータに従って遠用部の度数(屈折力)分布を決定するステップ14と、基礎パラメータに従って近用部の度数分布を決定するステップ18と、これらの分布に基づき累進部の度数分布を決定するステップ22とを備えている。」(13ページ8?14行)

(9)「本例の累進多焦点レンズの製造方法においては、まず、ステップ11において、累進多焦点レンズの基本的な領域の設定を行う。このために、カスタマイズ情報1のライフスタイル1aに関連する情報(職業、趣味、活動の場所・範囲、過去の眼鏡の種類と評価など)によってステップ12において遠用部および近用部の基本的な位置および広さを決定する。」(13ページ21?25行)

(10)「従来のセミフィニッシュされた数種類のレンズの中から適当なレンズを選択するのとは異なり、本例の製造方法においては、累進面71の設計の初期段階であるので数十あるいはそれ以上の基本パターンの中から細かな選択が可能である。例えば、遠用部領域境界線72aの位置や角度、さらには、曲率などを自由に変えるとが可能であり、これによって遠用部の位置、広さを自由に設定できる。」(14ページ8?13行)

(11)「本例の製造方法においては、遠近の明視域の広さを設定する際に、ユーザーが快適な視野が得られるようにするためにユーザー個々に適した眼鏡の基礎パラメータを生活に関連した情報で設定できるようにしている。基礎パラメータを設定するための生活に関連した情報としては、上述したように、眼鏡の使用目的に密接した職業や趣味など(以下においては主ライフ情報と呼ぶ)を選択することが可能である。さらに、本例の製造方法においては、主ライフ情報の内の1つのカテゴリーの情報で基礎パラメータを設定するのではなく、異なった複数の面からユーザーの生活状況(ライフスタイル)を捉えてユーザー個々に最適の眼鏡レンズを供給できるように複数のカテゴリーの主ライフ情報で基礎パラメータを選択している。」(14ページ17?26行)

(12)『本発明の累進多焦点レンズの製造方法においては、累進面の設計から個々のユーザーに対応して行えるようにしてあるので、基礎パラメータとして多種多用な累進多焦点レンズのパターンを用意することができる。図5に、本例の基礎パラメータファイル51に用意された基礎パラメータの例を示してある。本例においては、累進帯上端から7mm上のフィッティングポイントにおける遠用部の水平方向の明視域(収差0.50D以下)の広さを5?50mmまで5mmピッチで設定し、さらに、累進帯下端から3mm下の近用部の水平方向の明視域の広さを2?20mmまで2mmピッチで設定し、これらのそれぞれの組み合わせを基本となる累進面の基礎パターン(基礎パラメータ)としてある。従って、基礎パラメータファイル51には100タイプの累進面を示す基礎パラメータが予め用意されている。図5には、中間視野を重視するタイプに区分けできるものを「中間」、遠中視野を重視するタイプに区分けできるものを「遠中」、遠用視野を重視するタイプに区分けできるものを「遠用」、中近視野を重視するタイプに区分けできるものを「中近」、遠中近のバランスをとったタイプに区分けできるものを「バラ」、近用視野を重視するタイプに区分けできるものを「近用」、遠近視野を重視するタイプに区分けできるものを「遠近」という名称をふってグループ分けして基礎パラメータとしているが、もちろん基礎パラメータがこれらの名称や区分けの基準に限定されるものではない。』(15ページ4?21行)

(13)「これらの基礎パラメータと職業を対応するデータが図6に示す職業ファイル52aに予め用意されている。例えば、過去の眼鏡レンズの販売実績などから弁護士は遠用部20mmおよび近用部10mmの明視域を備えた累進多焦点レンズが一般的に望ましいという結果が得られていると、弁護士という職業に対しては中近4という基礎パラメータが割り当てられる。同様に、医者という職業に対しては遠用部30mmおよび近用部12mmの明視域を備えた累進多焦点レンズが一般的に望ましいという結果が得られていると、中近13という基礎パラメータが割り当てられる。従って、ステップ12aでは、職業ファイル52aを参照してユーザーの職業に適した基礎パラメータを設定できる。
さらに、本例の多焦点レンズの製造方法においては、図7に示す趣味ファイル52bも用意されている。例えば、趣味がドライブの場合は、遠用部50mmおよび近用部2mmの明視域を備えた累進多焦点レンズが一般的に望ましいという結果が得られていれば、遠用2という基礎パラメータが割り当てられる。従って、ステップ12bでは、趣味ファイル52bを参照してユーザーの趣味に適した基礎パラメータを設定できる。図6および図7に示した基礎パラメータはもちろん例示にすぎず、過去の眼鏡レンズの販売実績やその後の追跡調査などによって設定されるものである。」(15ページ22行?16ページ9行)

(14)「次に、ステップ13においてカスタマイズ情報1に含まれる回旋角1bおよび輻輳量1cあるいは遠用から近用にかけてのユーザーの視線の使い方から上記の基礎パラメータによって設定された遠用部および近用部の広さおよび位置を補正する。本例においては、上記のカスタマイズ情報1によって累進帯の長さ、累進帯形状および累進帯における加入変化率を求め、これによって近用部の位置決めを最終的に行っている。
回旋角1bは、水平視線を基準に下方に回旋できる最大値(最大回旋角)をユーザー毎に測定することによってカスタマイズ情報1に含めることができる。眼鏡レンズの後面から眼球の回旋中心までを25mmとした場合に、最大回旋角Aを使用したときの視線の位置はレンズ上で近似的に25×tan(A)mmで得ることができる。例えば、最大回旋角Aが40°では、水平視線からレンズ面上で下方約20mmまで視線を移動できる。従って、この20mm下方の位置では度数的に安定した近用部領域を設定することが望ましい。このため、レンズ中心の3mm程度上方である水平視線の位置から17mm程度下方に近用開始点(累進帯下端)を設定する。また、通常のユーザーの視線は水平視線より5?6°程度下方にあるときが多く、これを常用視線というが、これを考慮して水平視線位置より2mm程度下方に累進開始点を設定する。従って、このような最大回旋角Aを備えたユーザーの場合は、上記のように近用部の位置決めが行われて累進帯長の長さが15(17-2)mmに設定される。
輻輳量1cは従来はレンズ上で片眼ほぼ2.5mmが一般的な値として設定されているが、眼筋の動きや調整力によって実際はユーザー毎に輻輳量1cは異なっている。さらに、近くをみるときに頭を傾げる癖などがあるユーザーでは、左右の輻輳量を変えることが望ましいこともあり、この場合は、左右の眼鏡レンズで異なった位置に近用部をそれぞれ設定することが望ましい。個々のユーザーの輻輳量1cは、例えば、遠用視線の位置を基準に近用視線の位置が何mm程度内側(鼻側)にあるかによって測定することが可能である。本例の累進多焦点レンズの製造方法においては、個々のユーザー毎に累進面を設計するようにしているので、このようなユーザー毎の癖や眼の動きを反映し、さらに左右の眼で異なった輻輳量を加味した累進面を備えた眼鏡レンズを提供することができる。」(17ページ20行?18ページ19行)

図5は次のとおりである。

【図5】


これらの摘記事項(1)?(14)及び図面を含む引用刊行物の全記載によると、引用刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「屈折力の異なる遠用部および近用部、およびこれらの間で屈折力が累進的に変化する累進部を構成する累進面を有する累進多焦点レンズの製造方法が、各々のユーザーの眼に関連する情報およびユーザーの生活に関連する情報の少なくともいずれかを含むユーザー個別のカスタマイズ情報を反映した累進面を設計するレンズ設計工程を有し、
前記レンズ設計工程で用いる累進面の設計パラメータが、遠用部又は近用部の明視域の設定に関する基礎パラメータを含み、
前記ユーザーの眼に関連する情報としては、瞳の位置を示す瞳孔距離、遠用部から近用部にかけての眼の動きである輻輳量、眼球が回転運動(視線移動)する範囲を示す回旋角、視線の動きなどを含み、
前記ユーザーの生活に関連する情報(ライフスタイルに関連する情報)としては、ユーザーの仕事(職業)、趣味、活動の場所・範囲などの眼鏡の主な用途に関連する情報を含み、
前記基礎パラメータは、多種多用な累進多焦点レンズのパターンであって、ユーザー個々に適した眼鏡の基礎パラメータであり、ユーザーの生活に関連した情報に対して前記基礎パラメータが割り当てられ、割り当てられた基礎パラメータによって、例えば、遠用部及び近用部の明視域の広さ及び位置が設定され、
さらに、前記ユーザーの眼に関連する情報によって、前記基礎パラメータによって設定された遠用部及び近用部の明視域の広さ及び位置を補正するものである。」

5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「遠用部」、「近用部」及び「これらの間で屈折率が累進的に変化する累進部」は、本願発明の「遠用視力用の屈折率を提供する遠用領域」、「近用視力用の屈折率を提供する近用領域」及び「前記遠用領域の屈折度から前記近用領域の屈折度へと変化する屈折度を有し、前記遠用領域に前記近用領域を連結する累進帯」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「累進面の設計パラメータ」は、遠用部、近用部及び累進部を含む累進面を規定するパラメータであると認められるから、本願発明の「一組のレンズ設計パラメータ」に相当するとともに、引用発明の「レンズ設計工程」は本願発明の「累進レンズ設計」に相当する。
また、引用発明の「ユーザーの生活に関連する情報」は、ユーザーの仕事(職業)、趣味、活動の場所・範囲などの眼鏡の主な用途に関連する情報を含むものであり、これは、本願明細書【0025】に例示される「近用視力必要度」や「装用者の仕事及び/又は余暇のパターン」の「値又はカテゴリー」と共通するから、本願発明の「ライフスタイル・パラメータ」に相当する。
また、引用発明の「ユーザーの眼に関連する情報」は、瞳の位置を示す瞳孔距離、遠用部から近用部にかけての眼の動きである輻輳量、眼球が回転運動(視線移動)する範囲を示す回旋角、視線の動きなどを含むものであり、これは、本願明細書【0026】に例示される「単眼瞳孔間距離」と共通する。さらに、「バイオメトリック・パラメータ」を字義どおりに解すれば身体計測値となることや、審判請求書(平成23年12月27日提出の手続補正書(方式)により補正)で、請求人が本願発明の「バイオメトリック・パラメータ」は、レンズ装用者の眼の特性を意味する旨主張していることも参照すれば、引用発明の「ユーザーの眼に関連する情報」は、本願発明の「バイオメトリック・パラメータ」に相当するといえる。
さらに、引用発明の「基礎パラメータ」は、引用刊行物の図5に示されたような、多種多様な累進多焦点レンズのパターンであり、本願明細書【0016】の「列(array)」は物理的な累進めがねレンズ要素そのものの完全な列に限定されない旨の記載も参照すれば、引用発明の「基礎パラメータ」は本願発明の「累進めがねレンズ要素の列」に相当する。
そして、「基礎パラメータ」の各々は、少なくとも、「遠用部の水平方向の明視域の広さ」と「近用部の水平方向の明視域の広さ」という2つの設計パラメータが、「ユーザーの生活に関連する情報」の特定のカテゴリーである「職業」や「趣味」に関連した値を有し、「ユーザーの眼に関連する情報」によって、前記基礎パラメータによって設定された「遠用部の水平方向の明視域の広さ」、「近用部の水平方向の明視域の広さ」及び位置が補正されるものであるから、ユーザーの少なくとも1つの生活に関連する情報及び眼に関連する情報の値又はカテゴリーの範囲に対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが各生活に関する情報及び眼に関する情報の特定の値又はカテゴリーに起因又は関連した各値をそれぞれ有するといえる。
したがって、両者は次の点で一致する。

[一致点]
「累進めがねレンズ要素の列であって、それぞれが、
遠用視力用の屈折度を提供する遠用領域と、
近用視力用の屈折度を提供する近用領域と、
前記遠用領域の屈折度から前記近用領域の屈折度へと変化する屈折度を有し、前記遠用領域に前記近用領域を連結する累進帯とを規定する一組のレンズ設計パラメータによって特徴付けられる累進レンズ設計を有し、
レンズ装用者の少なくとも1つのライフスタイル・パラメータ及びバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーの範囲に対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが各ライフスタイル・パラメータ及びバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに起因又は関連した各値をそれぞれ有する、異なる累進レンズ設計を提供する、累進めがねレンズ要素の列。」

一方、両者は、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明の「累進めがねレンズ要素の列」は、「実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有する」ものであるのに対し、引用発明の「基礎パラメータ」である多種多様な累進多焦点レンズのパターン(例えば、引用刊行物の図5)は、実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有するものであるかどうかについては引用刊行物に記載がなく明らかでない点。

6 当審の判断
上記相違点について検討すると、累進多焦点レンズの加工データが導出されるためには、累進面の形状(度数分布)が決定されなければならず、累進面の度数分布が決定されるためには、加入度や遠用視力(や近用視力や、場合によっては乱視度数及び軸)の視力処方が反映されなければならないことは明らかである。すると、引用発明において基礎パラメータには予め加入度や遠用視力の視力処方が含まれていないとすれば、その場合には、別途ファイルから読み出したこれらの視力処方に係る情報に、基礎パラメータから決定された遠用部・近用部の広さ・場所の設計パラメータを組み合わせて累進面の度数分布が決定されなければならないことも明らかである。
そこで、加入度や遠用視力パラメータを別途ファイルに用意し基礎パラメータファイルから読み出した基礎パラメータと組み合わせて使用するか(前者)、あるいは、予め遠用部・近用部の広さ・場所の設計パラメータに実質的に同一の加入度や遠用視力の視力処方を組み合わせた多数のパターンを用意して基礎パラメータファイルを構築するか(後者)は、単なるファイル設計上の事項であって、当業者が発明を実施するに当たって適宜いずれかを選択すればよい事項に過ぎないものである。
さらに、引用刊行物の、「本例の製造方法においては、・・・数十あるいはそれ以上の基本パターンの中から細かな選択が可能である」旨の記載(前記2(10)参照。)や、「基礎パラメータとして多種多用な累進多焦点レンズのパターンを用意することができる」旨の記載(前記2(12)参照。)は、後者を示唆しているといえる。そして、後者を選択した場合に格別当業者の予測が困難な効果が奏されるともいえない。
してみれば、前記相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことであるといわざるを得ない。

7 むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その余の請求項及び原査定のその他の拒絶の理由について検討するまでもなく、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-30 
結審通知日 2012-06-01 
審決日 2012-06-12 
出願番号 特願2008-509269(P2008-509269)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 住田 秀弘
金高 敏康
発明の名称 累進めがねレンズ要素の列  
代理人 田中 正  
代理人 浅村 皓  
代理人 森 徹  
代理人 浅村 肇  

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