• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1265267
審判番号 不服2010-10650  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-19 
確定日 2012-10-24 
事件の表示 特願2005-371846「トランス」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月11日出願公開、特開2007- 5755〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年12月26日(パリ優先権主張:平成17年6月23日(大韓民国))の出願であって、平成20年11月28日付け拒絶理由に対して平成21年3月31日付けで手続補正書が提出されたが、平成22年1月12日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成22年5月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正書が提出されたものである。

2.平成22年5月19日付け手続補正の適否

当該補正は、特許請求の範囲において、補正前の請求項1?5を削除し、補正前の請求項1?5を引用するものである請求項6を新たな請求項1?5とするとともに、補正前の請求項7?11を新たな請求項6?10に繰り上げ、また、補正前の請求項12?13を削除し、補正前の請求項12?13を引用するものである請求項14を新たな請求項12?13とするとともに、補正前の請求項15を新たな請求項14に繰り上げる補正であるから、特許法第17条の2第4項第1号に規定する事項を目的とする適法な補正である。

3.本願発明の認定

したがって、本願の発明は、平成22年5月19日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定されるとおりのものと認められる。
請求項1に係る発明は、下記のとおりである。

【請求項1】
第1の端子及び第2の端子を有する1個の一次巻線部と、それぞれ2つの出力端子を有する2n(n:正数)個の二次巻線部とが形成されたボビンと、
前記1個の一次巻線部に巻線された一次コイルと、
前記2n個の二次巻線部に巻線された二次コイルと、
前記ボビンの内部に設けられた挿入溝に挿入されるコアと、
を備え、
前記一次巻線部の第1の端子と第2の端子が全て同じ方向に位置し、前記二次巻線部の出力端子が全て同じ方向に位置し、前記一次巻線部の第1の端子と前記二次巻線部の出力端子とが互いに反対方向に位置することを特徴とするトランス。
(以下、これを「本願発明」という。)

3.引用刊行物記載の発明

原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1(特開2004-247280号公報)には、以下(ア)から(オ)に示す事項が記載されているともに、【図2】に出力トランスの説明裏面図、【図5】に出力トランスの側面図が示されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の冷陰極型蛍光ランプなどを駆動する出力トランスを用いたランプ駆動用電源装置に関する。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光ランプ(放電型ランプ)の一方の電極を巻線型トランスの二次側高圧端子に接続し、他方の電極をアースに落として蛍光ランプを駆動する方式は、蛍光ランプの一端側が高圧で他端側が低圧となり、トランス接続側が明るく、アース側が暗くなり、輝度にムラが生じてしまうという問題点がある。2本の蛍光ランプを直列に接続し、2個の巻線型トランスで2本の蛍光ランプを駆動する方式は、2本の蛍光ランプの両端に高圧がかかり、明るさのムラの発生を解消することができるが蛍光ランプごとに巻線トランスが必要となってしまい、巻線トランスの小型化に適しないという問題点がある。
本発明は上記問題点を解決することを目的とするものである。」

(ウ)「 【発明の効果】
【0009】
本発明は高圧出力用のトランスの複数出力を用いて複数の放電型ランプを明るさにムラが生じないように効率的に駆動することができる。」

(エ)「 【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を添付した図面を参照して詳細に説明する。
図2において、2は巻線型トランス44のボビンであり、その角筒部には所定の間隔を存して四角形の絶縁耐圧用の板状のパーティション4,6,8,10,12,14が複数固設され、ボビン2上に、巻線用の凹入部を形成している。前記ボビン2の軸方向の両端には該ボビン2の軸方向に対して直角方向に延びる端子台16,18が固設され、これに端子20,22,24,26,28,30が固着されている。
【0011】
ボビン2の一端側の端子台16には、その一方側に二次高圧端子24が配置され、その他方側に、一次入力端子22と二次グランド端子20が配置されている。一次入力端子22とグランド端子20は、二次高圧端子24の高電圧の影響を受けないように、できるだけ離して、端子台16の他方側に配置されている。ボビン2の他端側の端子台18には、その一方側に二次高圧端子30が配置され、これからできるだけ離れた他方側に一次入力端子28と二次グランド端子26が配置されている。前記端子台16,18の前記端子20,22と26,28取付側に形成されたガイド取付溝16a,18a間には細長状の絶縁体から成る遮蔽体34が架設され、該遮蔽体34の凹部34bが対応するパーティション4,6,8,10,12,14の外縁に嵌合している。前記遮蔽体34には、その長手方向に沿って、前記ボビン2と対面する側とは反対側に開放された溝から成るリード線ガイド部34aが設けられている。」

(オ)「【0015】
そのため、一次巻線32と二次巻線39,41との間の絶縁耐圧構造を簡単な構造とすることができる。一次巻線32と、二次巻線39,41のグランド側は、電位差が小さいので、共通のリード線ガイド部34aを通して、両者を平行に配置しても絶縁耐圧に問題はない。なお、遮蔽体34に複数のリード線ガイド部を設け、リード線を一本ずつリード線ガイド部に配置するようにしても良い。42はコアであり、2個のE型コアが接合されて構成され、外縁部分がボビン2の外側に配置されるとともに、該コア42の内側部分42aがボビン2の筒部内に配置されている。上記した巻線型トランス44は、1入力2出力を構成し、このトランスを用いて2本の冷陰極蛍光ランプを明るさに明暗のムラのない状態で駆動することができる。この場合、2本のランプは、両端が二次巻線39,41の高圧側に接続されるので、ランプの両端に明るさの差が生じることがない。」

したがって、これらを総合すれば、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1には、次の(カ)なる発明が記載されている。(以下、これを「引用発明」という。)

[引用発明]
(カ)1個の一次巻線32と、2個の二次巻線39,41を備え、
該一次巻線32と2個の二次巻線39,41は、ボビンに巻回形成されるものであって、該2個の個々の2次巻線39,41の巻回されたボビンが、1次巻線32の巻回されたボビンの両側に配置されるものであり、
一次入力端子22とグランド端子20は、二次高圧端子24の高電圧の影響を受けないように、できるだけ離して配置されており、同様に、一次入力端子28と二次グランド端子26は、二次高圧端子30からできるだけ離れた他方側にが配置されており、
ボビンの筒部内部にはE型コア42の一部であるコア42aが挿入されている、
蛍光型ランプ(放電型ランプ)駆動用電源装置に用いられる高圧トランス。

4.本願発明と引用発明との対比

両者を対比する。
本願発明と引用発明とも、蛍光型ランプ(放電型ランプ)駆動用電源装置に用いられる高圧トランスである。

引用発明は、2個の個々の2次巻線39,41の巻回されたボビンが、1次巻線32の巻回されたボビンの両側に配置されるものであるから、2N個(n=1)の2次巻線部が形成されたボビンを有するものである。
そして、引用発明における「一次入力端子22」、「一次入力端子28」は本願発明における「第1の端子」及び「第2の端子」に相当し、引用発明における「二次高圧端子24」と「グランド端子20」、及び「二次高圧端子28」と「グランド端子26」が、本願発明における2次巻線部における「それぞれ2つの出力端子」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、次の(キ)の点で一致し、(ク)の点で相違がある。

[一致点]
(キ)第1の端子及び第2の端子を有する1個の一次巻線部と、それぞれ2つの出力端子を有する2n(n:正数)個の二次巻線部とが形成されたボビンと、
前記1個の一次巻線部に巻線された一次コイルと、
前記2n個の二次巻線部に巻線された二次コイルと、
前記ボビンの内部に設けられた挿入溝に挿入されるコアと、
を備えたトランス。

[相違点]
(ク)端子の配置位置に関して、本願発明における端子配置が、「前記一次巻線部の第1の端子と第2の端子が全て同じ方向に位置し、前記二次巻線部の出力端子が全て同じ方向に位置し、前記一次巻線部の第1の端子と前記二次巻線部の出力端子とが互いに反対方向に位置する」ものであるのに対し、引用発明は、二次高圧端子24、30の高電圧の影響を受けないように、一次入力端子22、28と二次グランド端子20、26が、二次高圧端子24、30からできるだけ離れて配置され、個々の2次巻線部の出力端子は同じ方向に位置しているものの、一次巻線部の第1の端子と第2の端子が全て同じ方向に位置し、二次巻線部の出力端子が全て同じ方向に位置し、一次巻線部の第1の端子と二次巻線部の出力端子とが互いに反対方向に位置するものではない点。

5.相違点の判断

上記相違点(ク)について検討する。

装置設計において、装置を構成する個々の要素部品の端子配置をどのような箇所に設けるかは、ある構成要素と他の構成要素との物理的配置を考慮してなされるものである。
したがって、蛍光型ランプ(放電型ランプ)駆動用電源装置に用いられる高圧トランスにおいても、低圧側端子、高圧側端子は入力側回路、出力である蛍光型ランプ(放電型ランプ)の物理的位置に考慮して各端子が配置されることが普通である。
さらに、トランス等、低圧入力に対して高圧出力をする部品、ユニットにおいては、低圧入力端子と高圧入力端子を、その部品、ユニットに対して反対側に位置させることも極めて普通の設計方法である。

したがって、蛍光型ランプ(放電型ランプ)駆動用電源装置に用いられる高圧トランスにおいて、一次巻線部の第1の端子と第2の端子が全て同じ方向に位置し、二次巻線部の出力端子が全て同じ方向に位置し、一次巻線部の第1の端子と前記二次巻線部の出力端子とが互いに反対方向に位置させることは、引例を示すまでもなく、基本的な設計的事項にすぎないことである。

なお、蛍光型ランプ(放電型ランプ)駆動用電源装置に用いられる高圧トランスにおいて、一次巻線部の第1の端子と第2の端子が全て同じ方向に位置し、二次巻線部の出力端子が全て同じ方向に位置し、一次巻線部の第1の端子と前記二次巻線部の出力端子とが互いに反対方向に位置するもの自体も周知である。
審尋として提示された前置報告書に例示された刊行物である特開2005-012176号公報、特開2003-282338号公報には、何れにも、そのような端子配置の構成が記載されている。

したがって、相違点(ク)は格別想考困難なことではなく、本願発明は、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

ところで、審判請求人は、本願発明と引用発明とは基本構成が相違するため、本願発明が引用発明から容易に想到するものではない旨の主張をしている。
確かに、引用発明は、1つの二次巻線の端子の一方であるグランド端子が、二次高圧端子からできるだけ離れた他方側、すなわち一次巻線の端子側に配置されるものであるから、その構成において一応の違いはある。
しかしながら、これは二次巻線の端子の一方をグランド端子として接地するか否かによって自ずと決まる問題であって、そのような引用発明の構成が周知技術の適用を阻害することにはならない。

蛍光型ランプ(放電型ランプ)駆動用電源装置に用いられる高圧トランスの二次巻線の端子と蛍光型ランプ(放電型ランプ)の接続部の一方を接地するか接地しないかは必要に応じて適宜決めることであって、接地する構成も、しない構成の何れも周知である。
(接地しない構成は、例えば拒絶理由通知において提示された刊行物2(特開2002-75762号公報)にも示されている。)
そして、高圧トランスの二次巻線の端子が接地されない構成であれば、高圧トランスの二次巻線の端子の両端子は、一次巻線の端子とできるだけ離れた位置に配置することは当然のことにすぎない。
したがって、引用発明における二次巻線の一方がグランド端子であることにより、1つの二次巻線の端子の一方であるグランド端子が、二次高圧端子からできるだけ離れた他方側、すなわち一次巻線の端子側に配置されるという構成は、周知技術を適用することへの阻害要件とはならない。

6.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

7.付記

審判請求人は、平成24年2月29日付け回答書において、引用文献1?3、周知文献1?3との差異をより明確にして権利の安定化を図るためとして補正案を提示し、補正の機会を求めている。

しかしながら、当該補正案による補正事項は、出願当初の図面から読み取れ、新規事項ではないものの、そもそも明細書に、該補正事項に係る構成が発明の特徴として記載されているわけではなく、単に一実施例として記載されている図面から、新たな要件を見出して、請求項に係る発明として新たに異なる要件を付加するものである。
係る補正は、特許請求の範囲の内容を減縮するものであっても、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定的に減縮するものではない
そのような補正は特許法第17条の2第4項第2号に規定する要件を目的とする補正とは認められない。
また、同条同項第1号、第3号、第4号に規定する要件を目的とするものとも認められない。

したがって、当該補正案を採用することはできない。

なお、仮に提示されている補正案の構成を本願発明としても、そのような構成は、上記した本件審決の判断における論理の結果としての当然の帰着であって、設計的事項の域を超えるものではないから、提示された補正案に係る発明は特許を受けることのできるものではない。

よって、補正の機会を与えることにはならない。
 
審理終結日 2012-05-25 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-12 
出願番号 特願2005-371846(P2005-371846)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 勝則  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 山田 洋一
齊藤 健一
発明の名称 トランス  
代理人 加藤 公延  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ