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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C23C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C |
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管理番号 | 1265279 |
審判番号 | 不服2011-1886 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-01-26 |
確定日 | 2012-10-24 |
事件の表示 | 特願2005-507691「組成(AlyCr1-y)Xの少なくとも1層を含む層システムを有する工作物および工作材料を加工するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月15日国際公開、WO2004/059030、平成18年11月 2日国内公表、特表2006-524748〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年3月24日(パリ条約による優先権主張 2003年4月28日、10月17日、11月13日)を国際出願日とする出願であって、平成22年4月16日付けで拒絶理由が通知され、同年7月26日付けで手続補正がされ、同年9月29日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成23年1月26日に審判請求がされるとともに、特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。 その後、当審において、平成23年11月1日付けで前置報告書に基づく審尋がされ、同年12月20日付けで回答書が提出されている。 第2 平成23年1月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定 【結論】 平成23年1月26日付けの手続補正を却下する。 【理由】 I 補正の内容 平成23年1月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下のAからBとする補正事項を含む(下線は補正部分を示す。)。 A:「組成(Al_(y)Cr_(1-y))Xの少なくとも1層を含む層システムを有する工作物であって、X=N、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNOまたはCBNOでありかつ0.2≦y<0.7であり、上記層中の層組成は、実質的に一定であるか、または層厚にわたって連続的あるいは段階的に変化し、上記工作物は、以下の工作物のうちの1つであり、すなわちフライス、特にホブ盤、球頭フライス、プレーナフライスまたはプロファイルフライス、ブローチ、リーマ、回転およびフライス加工用のスローアウェイチップ、型込めまたは射出成型工具であり、組成(Al_(y)Cr_(1-y))Xの少なくとも1層のRa値は、0.05μm?0.2μmである、工作物。」 B:「組成(Al_(y)Cr_(1-y))Xの少なくとも1層を含む層システムを有する工作物であって、X=N、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNOまたはCBNOでありかつ0.40≦y≦0.68であり、上記層中の層組成は、実質的に一定であるか、または層厚にわたって連続的あるいは段階的に変化し、上記工作物は、以下の工作物のうちの1つであり、すなわちフライス、特にホブ盤、球頭フライス、プレーナフライスまたはプロファイルフライス、ブローチ、リーマ、回転およびフライス加工用のスローアウェイチップ、型込めまたは射出成型工具であり、組成(Al_(y)Cr_(1-y))Xの少なくとも1層のRa値は、0.05μm?0.2μmである、工作物。」 II 補正の目的 上記の補正事項は、補正前の請求項1に記載の「組成(Al_(y)Cr_(1-y))X」についての「y」の範囲を、「0.2≦y<0.7」から「0.40≦y≦0.68」へとより限定するものであるから、上記の補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正により特許請求の範囲が減縮された請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 III 独立特許要件 1 本件補正発明 本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記Bに記載された事項により特定されるとおりのものである。 2 刊行物及びその記載事項 原査定の拒絶理由に引用文献2として引用した特開平10-25566号公報には、以下の事項が記載されている。 [a]「【請求項3】真空チャンバー内に配置されたAlとCrのターゲットにスパッタリング又はアーク放電を用いてAlとCrの混合蒸気を発生させ、同時に窒素ガスを真空チャンバー内に導入して、前記混合蒸気と窒素ガスとの反応生成物であるAl-Cr-N系複合硬質皮膜を基板上に形成させることを特徴とするイオンプレーティングによる耐高温酸化特性に優れた複合硬質皮膜の形成法。 【請求項4】ルツボ内の金属又はターゲットが、Al25?75原子%,Cr75?25原子%からなるものであることを特徴とする請求項2又は3に記載のイオンプレーティングによる耐高温酸化特性に優れた複合硬質皮膜の形成法。」 [b]「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、イオンプレーティングをはじめとしたPVD法を用いて、基板上に高付加価値な皮膜を形成する技術の開発が盛んに試みられている。そして、イオンプレーティングで最も応用が進んでいるTiN皮膜は、従来にない優れた耐摩耗性や装飾性を有していることから、工具、金型、眼鏡や時計のフレーム等に多く適用されている。しかしながら、TiN皮膜は約500℃以上になると酸化がはじまるため、高温にさらされる機械部品、工具、金型等への適用は不可能である。」 [c]「【0003】 【課題を解決するための手段】本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、イオンプレーティングを用いて基板上に、従来に比して耐高温酸化特性を飛躍的に向上した複合硬質皮膜を形成させることに成功し、本願発明をなすに至った。 … 【0005】…真空チャンバー内におけるルツボ内の金属又はターゲットに、Al25?75原子%,Cr75?25原子%からなるものを使用することは、基板上に非常に優れた耐高温酸化特性を有する皮膜を形成可能となるために好ましい。」 [d]「0008】 【実施例】 実施例1:図6に概略構成図を示すイオンプレーティング装置を用いて、活性化反応性蒸着法(ARE法)により、Al-Cr-N系皮膜の形成を行った。… 実験のためルツボ内の蒸発源として用いた蒸着合金は、6種のAlCr合金であって、その内のCr含有率は、5原子%,10原子%,20原子%,25原子%,50原子%及び75原子%のものであった。…上記実験において蒸発源のAlとCrの組成比を変化させた場合に得られた各種皮膜のX線回折パターンの変化を図1に示す。…図1から、いずれの組成についても成膜が可能であるが、(b)Al75原子%,Cr25原子%を境界として、結晶構造が変化することが解る。…」 [e]「【0010】実施例2:イオンプレーティングの一つであるスパッタリング法により、Al50原子%Cr50原子%をターゲットとしてAl-Cr-N系膜の成膜を試みたところ、ARE法での結果と同様に成膜が可能であった。得られた成膜はARE法で作成したものと同様に1000℃においても、酸化されないことが明らかとなった。スパッタリング法にて作成した皮膜のオージェによる組成分布を図4に示す。スパッタリング法で作成した皮膜のAl,Cr及び窒素は、ARE法で作成したものと対比すると均一に分布している。この皮膜を1000℃で30分間酸化雰囲気中で保持後、急冷した後のオージェ分析の結果を図5に示す。図5より、酸化は皮膜のほぼ表面のみで停止しており、ARE法による皮膜と同様に優れた耐高温酸化特性を有していることが解る。」 [f]【図4】 3 引用文献2に記載された発明 ア 引用文献2には、[a]に記載の「真空チャンバー内に配置されたAlとCrのターゲットにスパッタリング…を用いてAlとCrの混合蒸気を発生させ、同時に窒素ガスを真空チャンバー内に導入して、前記混合蒸気と窒素ガスとの反応生成物であるAl-Cr-N系複合硬質皮膜を基板上に形成させる…イオンプレーティングによる耐高温酸化特性に優れた複合硬質皮膜の形成法」であって、「ターゲットが、Al25?75原子%,Cr75?25原子%からなるものである」形成法の発明について、[b]によると、この発明は、高温にさらされる工具、金型等への適用が可能な皮膜を形成することを解決しようとする課題としており、[e]には、この発明の具体例として、「イオンプレーティングの一つであるスパッタリング法により、Al50原子%Cr50原子%をターゲットとしてAl-Cr-N系膜を成膜」することが記載されており、当該皮膜の組成分布について、「Al,Cr及び窒素は、…均一に分布している」と記載されている。 以上によると、引用文献2には、Al-Cr-N系複合硬質皮膜を形成した工具、金型に関して、以下の発明が記載されていると認められる。 「Al-Cr-N系複合硬質皮膜を有する工具又は金型であって、 Al-Cr-N系複合硬質皮膜は、Al25?75原子%、Cr75?25原子%をターゲットとしてスパッタリング法により形成されたものであり、上記皮膜中の膜組成は実質的に一定である、工具又は金型」 (以下、「引用発明」という。) 4 本件補正発明と引用発明との対比 ア 本件補正発明と、引用発明とを対比すると、引用発明の「Al-Cr-N系複合硬質皮膜」は、本件補正発明の「組成(Al_(y)Cr_(1-y))Xの少なくとも1層を含む層システム」であって、「X=N」であるものに相当する。 また、引用発明の「工具又は金型」は、「工作物」の下位概念である。 イ したがって、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 組成(Al_(y)Cr_(1-y))Xの少なくとも1層を含む層システムを有する工作物であって、X=Nであり、上記層中の層組成は、実質的に一定である、工作物 <相違点> 相違点1: 本件補正発明は、(Al_(y)Cr_(1-y))Xについてのyの範囲が「0.40≦y≦0.68」であるのに対して、後者はAl25?75原子%、Cr75?25原子%をターゲットとしてスパッタリング法により形成されたものである点 相違点2: 本件補正発明は、工作物が、「フライス、特にホブ盤、球頭フライス、プレーナフライスまたはプロファイルフライス、ブローチ、リーマ、回転およびフライス加工用のスローアウェイチップ、型込めまたは射出成型工具」のうちの1つであるのに対して、引用発明は、工具又は金型である点 相違点3: 本件補正発明は、(Al_(y)Cr_(1-y))X層のRa値が、「0.05μm?0.2μmである」のに対して、引用発明は、Al-Cr-N系複合硬質皮膜のRa値が不明である点 5 相違点についての判断 (1)相違点1について ア 引用文献2の[e]、[f]の記載によると、組成比がAl50原子%、Cr50原子%のターゲットを用いて成膜される場合の引用発明における皮膜の金属成分におけるAlとCrの組成比は、Al約37原子%、Cr約63原子%と認められるから、(Al_(y)Cr_(1-y))Xで表すと、y=0.37に相当するところ、引用発明は、ターゲット組成をAl25?75原子%、Cr75?25原子%とするものであるから、成膜された皮膜のAlとCrとの組成比は、y=0.37を含むより広い範囲であって、「0.40≦y≦0.68」と重複する範囲を有すると認められる。 イ そこで、本件補正発明における「y」(Al含有量)の数値限定の意義について、以下、検討する。 Al含有量の上限値について、本件補正発明では、明細書【0015】の記載によると、六方晶系(B4)からより硬度の高い立方晶系(B1)の結晶構造となる値としている。 これに対して、引用文献2には、[d]に、蒸発源として用いる蒸着合金に関して、Al75原子%,Cr25原子%を境界として、皮膜の結晶構造が変化する旨が記載されており、引用発明においてターゲットの組成に関するAl含有量を75原子%以下とする理由も、これと同様であると認められるから、本件補正発明における上限値についての技術的意義は、引用発明と変わらないものと認められる。 次に、Al含有量の下限値について、本件補正発明では、明細書【0015】?【0018】の記載によると、CrN格子が存在しない値とされ、Cr含有量が80原子%以上(Al含有量が20原子%以下)でCrNが存在するとされている。 そうすると、技術的意義のあるAl含有量の下限値は、20原子%であって、40原子%であるとは認められない。 ウ 以上の検討により、本件補正発明における「y」(Al含有量)の数値限定に格別の技術的意義は認められない。 そして、引用発明は、Al含有量が約37原子%を含み、本件補正発明と重複する広い範囲をも含むから、相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。 (2)相違点2について 金型は、通常、型込めする工具であるであるから、相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。 また、仮に相違点であるとしても、硬質皮膜を有する工具として、エンドミル(フライスの一種)、チップ等の各種切削、旋削用の工具は、周知のものであるから(例えば、原査定の引用文献3である特開平11-335813号公報【0044】参照)、引用発明における工具としてフライス等を想定することは、当業者が極普通になし得ることである。 (3)相違点3について 硬質皮膜を有する工具や金型において、耐摩耗性の観点から、硬質皮膜の平滑性を高め、表面粗さRaを0.5μm以下や0.2μm以下、0.1μm以下に留めようとすることは、当該技術分野において周知の事項である(要すれば特開平10-68068号公報【0001】、【0021】?【0024】、特開2001-179506号公報 請求項2、【0001】、【0011】、【0015】、特開2002-346812号公報 請求項2、【0008】、【0044】、【0045】参照)。 そうすると、引用発明の工具又は金型において、耐摩耗性を勘案して、硬質皮膜を平滑化し、平滑化の程度をRa値0.05?0.2μm程度とすることは、上記の周知の事項に基いて、当業者が適宜なし得る設計的事項であるにすぎない。 (4)小括 したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)補足 - 回答書における主張に対して なお、請求人は、回答書において、引用文献1?11には、「組成(Al_(y)Cr_(1-y))X」について、「0.40≦y≦0.68」の上位概念が開示されているだけで、「y」の数値限定に基づく本件補正発明の特徴的構成は、開示されておらず、本件補正発明は、当該特徴的構成により「耐酸化性が格段に向上」する効果を有すると主張している。 しかしながら、上記「(1)相違点1について」にて検討したとおり、引用発明は、成膜された皮膜のAlとCrとの組成比において、本件補正発明と重複する範囲を有するものであって、本件補正発明における組成比の数値限定の上限値、下限値には、格別の技術的意義を見出せない。 しかも、引用文献2の[c]には、ターゲットにAl25?75原子%,Cr75?25原子%からなるものを使用すると、「基板上に非常に優れた耐高温酸化特性を有する皮膜を形成可能となるために好ましい」と記載されているから、引用文献2には、本件補正発明の効果に相当する効果も開示されている。 したがって、上記の主張は失当である。 IV まとめ 以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について I 本願発明 本件補正は、上記「第2」に示すとおり却下されたので、本願発明は、平成22年7月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、上記「第2」に「A」として示すとおりのものであり、以下、この発明を「本願発明」という。 II 原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 III 当審の判断 上記「第2 II」に示すとおり、本願発明を限定したものが本件補正発明であるから、本願発明は、本件補正発明の上位概念に当たる発明である。 そして、原査定の拒絶理由に引用した引用文献2に記載された発明(引用発明)は、上記「第2 III 3」において示すとおりのものと認定できるところ、「第2 III 4」、「同 5」に示すとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その上位概念に当たる本願発明も、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願は、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-05-22 |
結審通知日 | 2012-05-29 |
審決日 | 2012-06-12 |
出願番号 | 特願2005-507691(P2005-507691) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C23C)
P 1 8・ 575- Z (C23C) P 1 8・ 572- Z (C23C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 服部 智 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
野田 定文 小川 進 |
発明の名称 | 組成(AlyCr1-y)Xの少なくとも1層を含む層システムを有する工作物および工作材料を加工するための方法 |
代理人 | 荒川 伸夫 |
代理人 | 森田 俊雄 |
代理人 | 酒井 將行 |
代理人 | 仲村 義平 |
代理人 | 深見 久郎 |
代理人 | 堀井 豊 |
代理人 | 佐々木 眞人 |