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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1265283
審判番号 不服2011-10891  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-24 
確定日 2012-10-24 
事件の表示 特願2006-516970「発光素子及び発光素子の蛍光体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日国際公開、WO2005/098972、平成18年11月30日国内公表、特表2006-527501〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年4月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年4月7日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成21年4月13日付けで拒絶理由(最初)が通知され、これに対して同年7月17日付けで手続補正書が提出され、さらに平成22年2月9日付けで拒絶理由(最後)が通知され、これに対して同年5月13日付けで手続補正書が提出され、さらに同年9月13日付けで拒絶理由(最後)が通知され、これに対して同年12月22日付けで手続補正書が提出されたが、同年12月22日付け手続補正は平成23年1月18日付けで補正却下され、同日付で拒絶査定がなされたものである。
その後、平成23年5月24日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、前置審査において、同年7月28日付けで拒絶理由(最後)が通知されたが、請求人からは何ら応答がなかったものである。

第2 平成23年5月24日付け手続補正
1 補正内容
(1)平成23年5月24日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするものであり、その特許請求の範囲については、
本件補正前(平成22年5月13日付け手続補正後のもの)に、
「【請求項1】
青色光を出射する発光チップ、及び
前記発光チップから出射される出射光が通過される蛍光体が含まれて、
前記蛍光体には前記出射光によって第1主ピークの光が励起される第1シリケート系蛍光体と、前記出射光によって第2主ピークの光が励起される第2シリケート系蛍光体が混合され、
前記第1シリケート系蛍光体は、Sr_(3-X)SiO_(5):Eu^(2+)_(X)(0 前記第2シリケート系蛍光体は、Ca_(1-X)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)_(X)(0.001≦x≦1)の化学式を持ち、
前記第1主ピークは550?600nm領域であり、
前記第2主ピークは500?550nm領域であり、
前記第1シリケート蛍光体は黄色系列であり、前記第2シリケート系蛍光体は緑色系列であることを特徴とする、発光素子。
【請求項2】
前記第1シリケート系蛍光体と第2シリケート系蛍光体の割合は1:1?1:9又は9:1?1:1であることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記蛍光体の粒子の大きさはd90≦20μm、5≦d50≦10μmであることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記蛍光体は前記発光チップ周囲又は上側にモールドされることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項5】
前記蛍光体は光透過樹脂に前記蛍光体が混入されて製作されることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項6】
前記光透過樹脂はエポキシ樹脂又はシリコン樹脂であることを特徴とする、請求項5に記載の発光素子。」とあったものを、

「【請求項1】
青色光を出射する発光チップ、及び
前記発光チップから出射される出射光が通過される蛍光体が含まれて、
前記蛍光体には前記出射光によって第1主ピークの光が励起される第1シリケート系蛍光体と、前記出射光によって第2主ピークの光が励起される第2シリケート系蛍光体が混合され、
前記第1シリケート系蛍光体は、Sr_(3-X)SiO_(5):Eu^(2+)_(X)(0 前記第2シリケート系蛍光体は、Ca_(2-X)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)_(X)(0.001≦x≦1)の化学式を持ち、
前記第1主ピークは550?600nm領域であり、
前記第2主ピークは500?550nm領域であり、
前記第1シリケート蛍光体は黄色系列であり、前記第2シリケート系蛍光体は緑色系列であることを特徴とする、発光素子。
【請求項2】
前記第1シリケート系蛍光体と第2シリケート系蛍光体の割合は1:1?1:9又は9:1?1:1であることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記蛍光体の粒子の大きさはd90≦20μm、5≦d50≦10μmであることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記蛍光体は前記発光チップ周囲又は上側にモールドされることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項5】
前記蛍光体は光透過樹脂に前記蛍光体が混入されて製作されることを特徴とする、請求項1に記載の発光素子。
【請求項6】
前記光透過樹脂はエポキシ樹脂又はシリコン樹脂であることを特徴とする、請求項5に記載の発光素子。」と補正するものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)上記(1)の補正内容は、次の内容からなる。
本件補正前の請求項1の「Ca_(1-X)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)_(X)」を「Ca_(2-X)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)_(X)」とする補正。

2 補正目的
(1)上記「1(2)」の補正内容は、シリケート系蛍光体を示す組成表記の誤記を訂正することを目的とするものであると認められるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

(2)補正の適否についてのまとめ
以上検討したとおりであるから、本件補正は適法になされたものである。

第3 本願発明
上記「第2」において検討したとおり、本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

第4 本願発明の進歩性
1 引用文献に記載の事項
前置審査における拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第03/021691号(以下「引用文献」という。)には図とともに以下の事項が記載されている。

(1)1. 光取り出し面を有し、該光取り出し面から青色光を放つ少なくとも1つの青色発光素子と、
上記青色発光素子の少なくとも上記光取り出し部を覆うように設けられ、上記青色発光素子が放つ青色光を吸収して黄色系の蛍光を放つ,黄色系蛍光体を含む蛍光体層と
を備えている半導体発光デバイスであって、
上記黄色系蛍光体は、下記の化学式
(Sr_(1-a1-b1-x)Ba_(a1)Ca_(b1)Eu_(x))_(2)SiO_(4)(0≦a1≦0.3、0≦b1≦0.8、0<x<1)
で表される少なくとも1種類の化合物を主体にして構成される珪酸塩蛍光体であることを特徴とする半導体発光デバイス。

・・・(略)・・・

5. 請求項4の半導体発光デバイスにおいて、
上記黄色系蛍光体は、550nm以上で600nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光を放つことを特徴とする半導体発光デバイス。

・・・(略)・・・・

9.請求項1?8のうちいずれか1つの半導体発光デバイスにおいて、
上記蛍光体層は、波長600nmを超え660nm以下の赤色系領域に主発光ピークを有する赤色系蛍光体をさらに備えていることを特徴とする半導体発光デバイス。
10. 請求項9の半導体発光デバイスにおいて、
上記蛍光体層は、波長500nm以上で550nm未満の緑色系領域に主発光ピークを有する緑色系蛍光体をさらに備えていることを特徴とする半導体発光デバイス。
11. 請求項10の半導体発光デバイスにおいて、
上記緑色系蛍光体は、下記化学式
(Sr_(1-a3-b3-x)Ba_(a3)Ca_(b3)Eu_(x))_(2)SiO_(4)(0≦a3≦1、0≦b3≦1、0<x<1)
で表される化合物を主体にして構成される珪酸塩蛍光体であることを特徴とする半導体発光デバイス。(第87ないし88頁)

(2)技術分野
本発明は、青色発光ダイオード(以後、青色LEDという)と黄色系蛍光体を組み合わせて白色光を放つ半導体発光デバイス、半導体発光デバイスを用いた発光装置及び半導体発光デバイスの製造方法に関するものである。(第1頁第3ないし6行)

(3)発明の開示
本発明の目的は、青色発光素子と蛍光体とを組み合わせてなる半導体発光デバイスの色むらを抑制し、色むらが少ない半導体発光デバイスや半導体発光装置、特に従来のYAG系蛍光体と青色発光素子とを組み合わせた白色半導体発光デバイスと同等以上の高い光束を示す白色半導体発光デバイスおよび色むらが少なく高光束の発光装置を提供することにある。(第10頁12ないし17行)

(4)ここで、上記青色発光素子は、良好な白色光を放つ半導体発光デバイスを得ることができる観点から、430nmを超え500nm以下、好ましくは440nm以上490nm以下、さらに好ましくは450nm以上480nm以下の波長領域に主発光ピークを有する発光を放つ青色発光素子であることが望ましい。また、上記黄色系蛍光体は、550nm以上600nm以下、好ましくは560nm以上590nm以下、さらに好ましくは565nm以上585nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光を放つ黄色系蛍光体であることが望ましい。(第10頁下から2行目ないし第11頁第5行)

(5)このような赤色蛍光体や緑色蛍光体の材料についても、本実施形態において用いた材料に特に限定されるものではなく、無機化合物からなる蛍光体であってもよいし、有機化合物で構成される蛍光体であってもよい。
また、このような赤色蛍光体や緑色蛍光体の用い方についても特に本実施形態の方法に限定されるものではなく、これらの蛍光体(蛍光物質)をさらに有する半導体発光デバイスになっていればよい。これら蛍光体は、蛍光体層中に含めてもよいし、蛍光体層とは別に配置していてもよい。上記青色光を吸収して赤色または緑色の発光を放つようになっていればよく、青色光が少なくとも蛍光体層を通過するようにすればよい。(第30頁第16ないし24行)

(6)図40は、Eu濃度(x)が種々の異なる(Sr_(1-x)Eu_(x))_(2)SiO_(4)蛍光体の発光スペクトルを参考のために示す図である。
図41は、(Sr_(0.95-x)Ba_(0.05)Eu_(x))_(2)SiO_(4)蛍光体の発光スペクトルを参考のために示す図である。
図42は、(Sr_(1-x)Eu_(x) )_(2)SiO_(4) 蛍光体と、(Sr_(0.95-x)Ba_(0.05)Eu_(x) )_(2)SiO_(4 )蛍光体との主発光ピーク波長とEu濃度依存性を示す図である。
図43は、蛍光体の発光特性と発光中心濃度との関係の例を示す図である。(第25頁第20ないし27行)

(7)図42は、(Sr_(1-x)Eu_(x))_(2)SiO_(4)蛍光体と、(Sr_(0.95-x)Ba_(0.05)Eu_(x))_(2)SiO_(4)蛍光体との主発光ピーク波長のEu濃度依存性を示す図である。同図に示すように、既に説明した珪酸塩蛍光体の結晶構造と発光色との間には相関関係がある。すなわち、単斜晶系の結晶構造を有する、少なくともEu濃度(x)が0.001≦x≦0.1の範囲内にある(Sr_(1-x)Eu_(x))_(2)SiO_(4)蛍光体の主発光ピーク波長が500nm以上550nm未満の緑色領域にあるのに対して、斜方晶系の結晶構造を有する、少なくともEu濃度(x)が0.001≦x≦0.3の範囲内の(Sr_(0.95-x)Ba_(0.05)Eu_(x))_(2)SiO_(4)蛍光体と、x=0.3の(Sr_(1-x)Eu_(x))_(2)SiO_(4)蛍光体との主発光ピーク波長は、550nm以上で600nm以下の黄色領域にある。(第75頁第3ないし13行)

(8)図40より、
Eu濃度(x)が高くなると、発光強度が弱くなることが読みとれる。

(9)図42より、
Eu濃度が変化すると、主発光ピーク波長も変化することが読みとれる。

2 引用文献に記載された発明
(1)上記「1(1)」に記載された蛍光体の組成表記は、「:」で区切られたものではないが、Srの一部が付活剤であるEuで置換されるものであるから、黄色系蛍光体及び緑色系蛍光体は「Euで付活された珪酸塩蛍光体」である。

(2)上記「1(2)及び(3)」の記載に照らせば、上記「1(1)」に記載された「半導体発光デバイス」は「白色光を放つ半導体発光デバイス」である。

(3)上記「1(5)」の記載に照らせば、蛍光体層には、黄色系蛍光体及び緑色系蛍光体が含まれることになる。

(4)してみれば、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「光取り出し面を有し、該光取り出し面から青色光を放つ少なくとも1つの青色発光素子と、
上記青色発光素子の少なくとも上記光取り出し部を覆うように設けられ、上記青色発光素子が放つ青色光を吸収して蛍光を放つ、黄色系蛍光体及び緑色系蛍光体を含む蛍光体層と
を備えた、白色光を放つ半導体発光デバイスであって、
黄色系蛍光体は、
Euで付活された珪酸塩蛍光体であり、
550nm以上で600nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光を放ち、
緑色系蛍光体は、
Euで付活された珪酸塩蛍光体であり、
波長500nm以上で550nm未満の緑色系領域に主発光ピークを有する蛍光を放つ、
半導体発光デバイス。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「青色発光素子」は本願発明の「青色光を出射する発光チップ」に相当し、同様に、
「珪酸塩蛍光体」は「シリケート系蛍光体」に、
「『550nm以上で600nm以下の波長領域』の『主発光ピーク』」は「第1主ピーク」に、
「『波長500nm以上で550nm未満の緑色系領域』の『主発光ピーク』」は「第2主ピーク」に、
「半導体発光デバイス」は「発光素子」に、それぞれ、相当する。

(2)本願発明では、先ず母結晶の化合物の化学式を書き、「:」で区切り、その後に付活剤を書くという組成表記がなされているから、本願発明の「シリケート蛍光体」は「Euで付活された蛍光体」である。
してみると、引用発明の「珪酸塩蛍光体」と本願発明の「シリケート系蛍光体」とは、Euで付活されている点で共通する。

(3)してみると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「青色光を出射する発光チップ、及び
前記発光チップから出射される出射光が通過される蛍光体が含まれて、
前記蛍光体には前記出射光によって第1主ピークの光が励起される第1シリケート系蛍光体と、前記出射光によって第2主ピークの光が励起される第2シリケート系蛍光体が含まれ、
前記第1シリケート系蛍光体は、Euで付活され、
前記第2シリケート系蛍光体は、Euで付活され、
前記第1主ピークは550?600nm領域であり、
前記第2主ピークは500?550nm領域であり、
前記第1シリケート蛍光体は黄色系列であり、前記第2シリケート系蛍光体は緑色系列である、発光素子。」

(4)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
黄色系列である第1シリケート系蛍光体に関し
本願発明が「Sr_(3-X)SiO_(5):Eu^(2+)_(X)(0 引用発明では、そのような化学式を持つ蛍光体でない点。

<相違点2>
緑色系列である第2シリケート系蛍光体に関し
本願発明が「Ca_(2-X)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)_(X)(0.001≦x≦1)の化学式」を持つものであるのに対して、
引用発明では、そのような化学式を持つ蛍光体でない点。

<相違点3>
第1シリケート系蛍光体と第2シリケート系蛍光体の状態に関し
本願発明が「混合され」たものであるのに対して、
引用発明では、混合されたものであるか否か不明である点。

4 判断
(1)上記<相違点1>について検討する。
ア 黄色の波長領域に主ピークを有する「Sr_(3)SiO_(5):Eu」の化学式を持つシリケート系蛍光体は、本願の優先日前に周知である(例えば、
(ア)Joung Kyu Park et al.、Application of strontium silicate yellow phosphor for white light-emitting diodes、Appl. Phys. Lett.、その他、2004.03.08、vol.84、No.10、p.1647-1649
上記文献の第1647頁の右欄には、
Eu^(2+)で付活した「Sr_(3)SiO_(5)」のサンプルにおいて、0.15原子モルのEu^(2+)まで、570nm付近の黄色の発光が見られた旨記載されている。
図1より、Eu^(2+)が「0.1」より多くなると、発光強度が低下することが読みとれる。
上記「0.15原子モルのEu^(2+)」は本願発明の「x=0.15」に相当することから、「Sr_(2.85)SiO_(5):Eu^(2+)_(0.15)」の化学式を持つシリケート系蛍光体が例示されていることになる。

(イ)G. Blasse et al.、Fluorescence of Eu^(2+)-Activated Silicates、Philips Research Reports (A Journal of Theoretical and Experimental Research in Physics、Chemistry and Allied Fields)、1968、Vol.23、No.2、p.189-200
上記文献の第190頁に示された表1の欄の上部に記載の「composition(Eu^(2+) conc.2at.%)」に照らせば、表1の各蛍光体は「2at.%のEu^(2+)」により付活され、上から5番目の「Sr_(3)SiO_(5)-Eu」の最大発光波長が「545nm」であることが読みとれる。
上記「Eu^(2+) conc.2at.%」は本願発明の「x=0.02」に相当することから、「Sr_(2.98)SiO_(5):Eu^(2+)_(0.02)」の化学式を持つシリケート系蛍光体が例示されていることになる。
以下「周知技術1」という。)。

イ してみれば、引用発明の「第1シリケート系蛍光体(黄色系蛍光体)」として、「Sr_(3)SiO_(5):Eu」の化学式を持つシリケート系蛍光体を利用することは、当業者が上記周知技術1に基づいて容易になし得たことである。

ウ そして、発光中心を形成する付活剤の多寡が、引用文献にも記載されているように、主ピークや発光強度等に影響を及ぼすことが知られているのであるから(摘記(6)ないし(9)等を参照。)、その量をどの程度とするかは、当業者が引用発明を実施する上で適宜定めるべき設計的事項であるところ、主ピークが「550?600nm領域」となるように付活剤の量を設定することに格別の困難があるとは認められない。

エ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点1>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術1及び引用文献に記載の事項に基づいて容易になし得たことである。

(2)上記<相違点2>について検討する。
ア 緑色の波長領域に主ピークを有する「Ca_(2)MgSi_(2)O_(7):Eu」の化学式を持つシリケート系蛍光体は、本願の優先日前に周知である(例えば、
(ア)上記周知技術1で例示した「(イ)の文献」
上記文献の第190頁に示された表1の中程に記載された「Ca_(2)MgSi_(2)O_(7)-Eu」の最大発光波長が「535nm」であることが読みとれる。
上記「Eu^(2+) conc.2at.%」は本願発明の「x=0.02」に相当することから、「Ca_(1.98)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+)_(0.02)」の化学式を持つシリケート系蛍光体が例示されていることになる。

(イ)Ling Jiang et al.、Concentration quenching of Eu^(2+) in Ca_(2)MgSi_(2)O_(7):Eu^(2+) phosphor、Materials Science and Engineering B、その他、2003、Vol.103、p.271-275
上記文献の第271頁右欄第1行には「(Ca_(2-x)Eu_(x))MgSi_(2)O_(7)(x=0.004-0.08)」と記載されている。
また、第273頁の図2(b)より、主ピークが520nm程度であり、その発光強度が「Eu」の量に依存することが読みとれる。
以下「周知技術2」という。)。

イ してみれば、引用発明の「第2シリケート系蛍光体(緑色系蛍光体)」として、「Ca_(2)MgSi_(2)O_(7):Eu」の化学式を持つシリケート系蛍光体を利用することは、当業者が上記周知技術2に基づいて容易になし得たことである。

ウ そして、発光中心を形成する付活剤の多寡が、引用文献にも記載されているように、主ピークや発光強度等に影響を及ぼすことが知られているのであるから、その量をどの程度とするかは、当業者が引用発明を実施する上で適宜定めるべき設計的事項であるところ、主ピークが「500?550nm領域」となるように付活剤の量を設定することに格別の困難があるとは認められない。

エ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点2>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術2及び引用文献に記載の事項に基づいて容易になし得たことである。

(3)上記<相違点3>について検討する。
ア 引用発明において、
「Sr_(3)SiO_(5):Eu」の化学式を持つシリケート系蛍光体及び「Ca_(2)MgSi_(2)O_(7):Eu」の化学式を持つシリケート系蛍光体を利用する点については、上記「(1)及び(2)」で検討した。

イ そして、複数の異なる蛍光体を混合して混合蛍光体を調製することは、本願の優先日前に周知である(例えば、
(ア)特開2003-110150号公報の【0079】を参照。
青色蛍光体と黄色蛍光体の混合重量割合を35:15として混合蛍光体を調製する旨記載されている。

(イ)特開2003-41252号公報の【0025】を参照。
赤色発光蛍光体、青色発光蛍光体及び緑色発光蛍光体を10:3:3の割合で混合する旨記載されている。

(ウ)特開2003-105336号公報の【請求項12】を参照。
被覆体を、複数の蛍光体を混合してキャップ状に成形する旨記載されている。
以下「周知技術3」という。)。

ウ してみれば、上記アのようにした引用発明において、
2つの異なるシリケート系蛍光体を混合することは、当業者が上記周知技術3に基づいて容易になし得たことである。

エ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点3>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術3に基づいて容易になし得たことである。

(4)また、本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果及び周知技術1ないし周知技術3から予測し得る範囲内のものである。

5 進歩性についてのまとめ
本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-23 
結審通知日 2012-05-29 
審決日 2012-06-11 
出願番号 特願2006-516970(P2006-516970)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉田 翠  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 北川 創
星野 浩一
発明の名称 発光素子及び発光素子の蛍光体  
代理人 森下 賢樹  
代理人 森下 賢樹  

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