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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1265362
審判番号 無効2011-800171  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-14 
確定日 2012-10-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2748818号発明「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第2748818号(以下「本件特許」という。平成5年5月31日出願、平成10年2月20日登録、請求項の数は3である。)の請求項3に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件審判の経緯は、以下のとおりである。

平成23年 9月14日 審判請求
平成23年12月12日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成24年 3月19日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 3月19日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 4月 2日 口頭審理
平成24年 4月16日 上申書提出(被請求人)
平成24年 5月18日 上申書提出(請求人)

第3 本件発明
本件特許の請求項3に係る発明(以下「本件発明」という。)は、次のとおりのものと認められる。
「基板上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層及びp型窒化ガリウム系化合物半導体層とを有し、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の表面にp電極が形成され、ほぼ矩形をなすp型窒化ガリウム系化合物半導体層の一部が除去されて露出されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面にn電極が形成され、p電極とn電極とが同一面側に形成されてなる窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、
前記p電極は、前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層の一つの隅部の一部に形成されたワイヤーボンディング用の台座電極と、その台座電極の下にp型窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極とからなり、
前記n電極は、ほぼ矩形をなすn型窒化ガリウム系化合物半導体層において、前記台座電極と対角をなす位置で、p型窒化ガリウム系化合物半導体層がエッチング除去されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に形成された、ワイヤーボンディング用の電極からなり、 前記透光性電極が、対角の位置にある台座電極とn電極との間で、かつ発光観測面となるp型窒化ガリウム系化合物半導体層表面のほぼ全面にあり、台座電極とn電極との通電により、透光性電極の下にあるp型窒化ガリウム系化合物半導体層に均一に電流を広げ、ほぼ均一な発光が観測される発光面を有することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1
本件発明は、甲第1号証(特開平3-218625号公報)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明についての特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 無効理由2
本件発明は、甲第2号証(特開平3-183173公報)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明についての特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。

甲第1号証 特開平3-218625号公報
甲第2号証 特開平3-183173公報
甲第3号証 特開平5-13812号公報
甲第4号証 特開昭63-311777号公報
甲第5号証 特開昭62-101089号公報
甲第6号証 特開平5-129658号公報
甲第7号証 特開昭62-287675号公報
甲第8号証 特開昭62-2675号公報
甲第9号証 実願昭61-155375号(実開昭63-61161号)のマイクロフィルム
甲第10号証 実開平2-88236号公報
甲第11号証 Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)pp.L9-L11 Part2.No.1A/B、15 January 1993 「P-GaN/N-InGaN/N-GaN Double-Heterostructure Blue-Light-Emitting Diodes」
甲第12号証 特開平4-209577公報
甲第13号証 平成4年電気学会電子・情報・システム部門第2回大会講演論文集4月8日「GaN青色LED」
(以上、審判請求書に添付して提出。)
甲第14号証 特開平3-21084号公報
甲第15号証 特開平3-234069号公報
甲第16号証 特開昭63-249384号公報
甲第17号証 特開平3-245579号公報
甲第18号証 特開平2-257679号公報
甲第19号証 応用物理 第60巻第2号(1991年2月10日発行)163?166頁 「GaNpn接合青色・紫外発光ダイオード」
甲第20号証 EXTENDED ABSTACTS(EA-21) 「Electronic,Optical and Device properties of layered Structures」 165頁?168頁 「FABRICATION AND PROPERTIES OF GaN P-N JUNCTION LED」
甲第21号証 Japanese Journal of Applied Physics Vol.28 No.12 pp.L2112-L2114 「P-Type Conduction in Mg-Doped GaN Treated with Low-Energy Electron Beam Irradiation(LEEBI)」
甲第22号証 固体物理 1990 Vol.25 No.6 35頁?41頁 「GaN青色光・紫外線発光素子」
甲第23号証 Proceedings,SPIE-The International Society For Optical Engineering,28 October 「Physical Concepts of Materials for Novel Optoelectronic Device Applications I:Materials Growth and Characterization」 138頁?149頁 「High efficiency UV and blue emitting Devices prepared by MOVPE and low energy electron beam irradiation treatment」
甲第24号証 Inst.Phys.Conf.Ser.No.106:Chapter 10 725頁?730頁 「UV and blue electroluminescence from Al/GaN:Mg/Gan LED treated with low-energy electron beam irradiation(LEEBI)」
甲第25号証 特開平3-171679号公報
甲第26号証 特開昭56-81986号公報
甲第27号証 特開昭61-5585号公報
甲第28号証 特開昭61-6880号公報
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
甲第29号証 特開平6-338632号公報
甲第30号証 登録実用新案第3027676号公報
(以上、上申書に添付して提出。)

第5 被請求人の主張の概要
1 無効理由1に対して
本件発明は、甲第1号証の発明に、甲第2号証ないし甲第6号証に記載の透光性電極と、甲第7号証ないし甲第10号証に記載の対角配置された2つの電極とを適用することにより容易に得られるものではない。

2 無効理由2に対して
本件発明は、甲第2号証に記載された発明に、甲第1号証及び甲第11号証ないし甲第13号証に記載されたp型層を除去してn型層の一部を露出させること、甲第7号証ないし甲第10号証に記載の対角配置された2つの電極を適用することにより容易に得られるものではない。

3 乙号証
被請求人が提出した乙号証は、次のものである。

乙第1号証 特開平4-199752号公報

第6 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平3-218625号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「本発明によれば、量産性および膜厚制御性に優れる有機金属化合物気相成長法を用いているためp-n接合による発光素子の作製は容易である。第1図に示すように、サファイア基板1上に、故意に不純物を添加しない(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)Nの単結晶層(n形、0≦x<1,0≦y<1))2を形成し、次いでアクセプタ、本例ではMgを添加した(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層3を形成する。しかるのちそのMg添加層3を本発明により低速電子線照射した後、その一部を反応性イオンエッチングなどの方法により除去し、
n形(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)層を表出させる。次に表出した単結晶層2および3のそれぞれに金属電極4A,4Bを形成し、それら各々にリード線5A,5Bを接続して、発光ダイオードを形成する。」(4頁左下欄3行?下から2行)

(イ)「第1図は、本発明を利用したp-n接合形(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)発光ダイオードの概略構成図、
・・・
1・・・サファイア基板
2・・・故意に不純物を添加していないn形(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層
3・・・Mg添加した低速電子線照射処理された(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層
4A,4B・・・電極
5A,5B・・・リード線」(4頁右下欄下から2行?5頁左上欄末行)
ここで、第1図は次のものである。


イ 甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平3-183173公報)には、以下の記載がある。

(ア)「第1図は本発明の発光素子の概念的模式図である。本発明の発光素子100は、下部より基体101、第一導電層102、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層104、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106が順次積層された構造を有し、更にコンタクト電極107、109及びリード線108、110が設けられている。」(2頁左上欄13行?右上欄3行)

(イ)「本発明において使用される第一導電層102及び第二導電層106の材質としては、例えば、Ni,Cr,Al,In,Sn,Mo,Ag,Au,Nb,Ta,V,Ti,Pt,Pb等の金属の単体またはこれらの合金、例えばステンレス鋼、あるいは酸化物、例えばIn_(2)O_(3)、ITO(In_(2)O_(3)+SnO_(2))等が挙げられる。」(2頁左下欄7行?12行)

(ウ)「本発明において第一電荷注入層103及び第二電荷注入層105に導入される不純物としては、ベリリウム原子(Be)、マグネシウム原子(M)、亜鉛原子(Zn)、カドミウム原子(Cd)、炭素原子(C)、ケイ素原子(Si)、ゲルマニウム原子(Ge)、イオウ原子(S)、セレン原子(Se)等の単独、あるいはこれらのうちの2種以上を混合したものが挙げられる。」(3頁左上欄2行?9行)

(エ)「本発明において使用される第二導電層は、基体101側に光を放出する場合には透光性であっても、非透光性であってもよい。第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性であることが望ましい。」(4頁右下欄下から2行?5頁左上欄3行)

(オ)「本発明において使用されるコンタクト電極は、リード線と、第一または第二導電層との間の電気的導通性をよくする材料が望ましい。その様な材料として、Ag,Pt,Al等が挙げられる。コンタクト電極は、第一または第二の導電層上にマスクを置いてこれらの金属を蒸着させることによって形成することが可能である。」(5頁左上欄4行?10行)
ここで、第1図は次のものである。


ウ 甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平5-13812号公報)には、次の記載がある。

「【請求項1】n型炭化珪素基板の上にn型炭化珪素層及びp型炭化珪素層がこの順に形成され、該炭化珪素基板側から該p型炭化珪素層へ向かって発光し、かつ、p型炭化珪素層に対して形成したオーム性電極が光透過性のある金属膜からなる発光ダイオード。」、
「【請求項4】前記金属膜の上に、該金属膜より面積の小さい第2の金属膜が形成された請求項1、請求項2又は請求項3のいずれか1つに記載の発光ダイオード。」、
「【0012】
【作用】本発明にあっては、炭化珪素基板側から該p型炭化珪素層へ向かって発光するように構成している。よって、基板側をマウントさせることができる。
【0013】また、p型炭化珪素層の上に形成したオーム性電極が光透過性を有する金属膜からなっているので、このオーム性電極の面積を広くすることにより、チップ内を通る電流をチップ全域へ広げることができ、また、これにより従来必要であった厚肉の低抵抗p型炭化珪素層を不要にできる。」、
「【0015】図1は本実施例の発光ダイオードの構造を示す断面図である。
この発光ダイオードは、pn接合型の青色発光タイプであり、禁制帯幅が約3.01Vである6H型の単結晶からなるn型炭化珪素基板1上に、単結晶のn型炭化珪素層2および単結晶のp型炭化珪素層3がこの順に形成されている。上記n型炭化珪素基板1の表面(図の下面)には、例えばNiからなる狭幅のn側オーム性電極6が4条平行に設けられている。オーム性電極6の形成箇所は、基板1の下面の対向する2端縁部と、その内側の2箇所である。
【0016】一方、p型炭化珪素層3の上面には、下側をチタン膜、上側をアルミニウム膜として積層された金属膜7がほぼ全面に形成され、この金属膜7の上の中央部にはアルミニウム電極8が設けられている。」、
「【0024】次いで、pn接合部の形成された基板1を反応管21から取り出し、p型炭化珪素層3上に、例えば真空蒸着法によりチタン(Ti)膜を30nm、アルミニウム(Al)膜を50nm堆積して金属膜7を形成した。この金属膜7はp側オーム性電極であり、p型炭化珪素層3との良好なオーム性を得るために、形成後に1000゜Cのアルゴン雰囲気中で5分の熱処理を行った。」、
「【0026】したがって、このような構成の発光ダイオードにおいては次のような効果がある。上記アルミニウム電極8とオーム性電極6との間に順方法の電流を通電すると、炭化珪素基板1側からp型炭化珪素層3側へ向かって発光する。このため、基板1側をマウントさせることができ、マウントの際に問題となる漏れ電流の発生を防止して歩留りの向上を図れる。なお、この実施例では金属膜7の上に、それよりも面積の小さいアルミニウム電極8を形成したが、このアルミニウム電極8は必ずしも必要ではなく、形成を省略してもよい。但し、形成した場合には、金属膜7における電流の流れを、アルミニウム電極8を中心とした放射状とすることができ、チップ全体へより広げることが可能となる利点がある。
【0027】また、p型炭化珪素層3の上に形成したオーム性電極が光透過性を有する金属膜7からなっているので、このオーム性電極の形成面積を広くすることにより、チップ内を通る電流をチップ全域へ広げることができる。」
ここで、図1は次のものである。


エ 甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開昭63-311777号公報)には、以下の記載がある。

「発光面側に透明電極が設けられている半導体発光素子」(1頁左下欄、特許請求の範囲)、
「第1図(a)は本発明の一実施例に係るLED素子の側面図、同図(b)は平面図である。第1図(a)、(b)において、内部にPN接合が形成されているLED素子1の発光面側には、SnO_(2)の透明電極膜2がほぼ全面に形成され、電極2の一つの角の部分に、ワイヤボンディング用のAl電極3が形成されている。」(2頁左上欄下から4行?右上欄3行)、
「上述のとおり、本発明では、具備する発光素子の透明電極膜は、LED素子に光を励起させるに十分の電子をLED全面に効率よく運ぶため、発光量を十分確保できる。又、発光した光が透明電極を透過するため、発光効率も改善される効果がある。」(2頁右上欄下から4行?左下欄2行)
ここで、第1図は次のものである。


オ 甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開昭62-101089号公報)には、次の記載がある(表記の都合上、丸数字は、○1のように示した。)。

「本発明はZnSeを活性層に用いた青色発光素子に関する。」(1頁右下欄10行?11行)、
「第2図は本発明の実施例に於けるMIS型構造の青色発光素子の断面構造図である。第2図は第1図の素子本体に相当する部分のみを示した。Si基板面上に、グレーデイングをつけたZnSxSe1-x層○15及びn-ZnSe○16をエピタキシヤル成長させ、そのn-ZnSe○16上に絶縁層○17を形成する。n-ZnSe○16と絶縁層○17の一部を、絶縁層○17の全部とn-ZnSe○16の一部を含むようエッチングで除き表面に出たn-ZnSe○16の部分にInを蒸着、アニールし、n型オーミック電極○18を形成する。そして絶縁層○17上に金電極○19を発光が取り出せる程度の厚さの部分と電極の取り出しが可能な程度の厚さの部分とができるように形成する。」(2頁右下欄10行?3頁左上欄3行)
ここで、第2図は次のものである。


カ 甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平5-129658号公報)には、次の記載がある。

「【0011】
【作用】半絶縁性のi層に対して透明導電膜から成る第1の電極を形成している。この第1の電極を介して光が放射される。この第1の電極の面積が発光面積を規定している。又、第1の電極は導電性を有するので、第1の電極に対してスポットで電流を注入させても、第1の電極全体を均一の電位とし、第1の電極の下方の全面から発光する。
【0012】
【発明の効果】上述のように、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、第1の電極(発光電極)として透明導電膜を用いており、透明導電膜が可視光に対して透明であることを利用しているので、発光電極側からの光の取り出しが可能である。このため以下に例示する種々の作用効果を奏する。
【0013】1.電極を上面にして実装できるため、ハンダを用いずに通常のワイヤボンディングによって接続でき、第1の電極に対してスポット的にリード線を接続しても、第1の電極の導電性により、平面方向にも電流が拡散するので、第1の電極全体を均一電位とすることができる。よって、第1の電極に対するワイヤボンディングパットは狭くできる。従って、第1の電極(発光電極)と第2の電極(n層電極)は、フォトリソグラフやエッチング、リフトオフなど、素子作製のプロセスにおいて短絡を防ぐために必要とされる間隔があれば良い。即ち、従来のフリップチップ方式では、2つの電極間距離は、2つの電極に対するハンダ間の短絡を防止することから、フォトリソグラフやエッチング技術の限界からくる距離よりも遙に長い距離を必要とするので、第1の電極の面積を広くできない。本発明では、この点、チップ面積に対する第1の電極面積の占有率を向上させることができるので、発光効率を向上させることができる。また、二つの電極間距離は、従来のフリップ方式よりもかなり小さくでき、素子の電気的な抵抗成分を減少させることができる。」、
「【0017】
【実施例】以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。図1は、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を適用した発光ダイオードの構成を示す断面図である。発光ダイオード10はサファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1上には 500ÅのAlNのバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、膜厚約 2.5μm のn型GaNから成るn層4が形成されている。さらに、n層4の上に膜厚約 0.2μm の半絶縁性GaN から成るi層5が形成されている。そしてi層5の表面からi層5を貫通しn層4に達する凹部21が形成されている。この凹部21を覆うようにn層4に接続する金属製のn層4のための第2の電極8が形成されている。この第2の電極8と離間してi層5上に錫添加酸化インジウム(以下ITOと略す)から成る透明導電膜のi層5のための第1の電極7が形成されている。第1の電極7の隅の一部分には取出電極9が形成されている。その取出電極9はNi 層9bとAu 層9cとの2層で構成されている。又、第2の電極8はn層4に接合するAl 層8aとNi 層8bとAu 層8cとの3層で構成されている。この構造の発光ダイオード10のサファイア基板1の裏面にはAl の反射膜13が蒸着されている。
【0018】次に、この構造の発光ダイオード10は基板40に接合されており、基板40に立設されたリードピン41、42と電気的に接続されている。即ち、第1の電極7に接合した取出電極9のAu 層9cとリードピン41とがAu 線43により接続されており、第2の電極8のAu 層8cとリードピン42とがAu 線44により接続されている。」
ここで、図1は次のものである。


(2)甲第1号証に記載された発明
ア 前記(1)ア(ア)によれば、甲第1号証には、
「p-n接合による発光素子であって、サファイア基板1上に、故意に不純物を添加しない(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)Nの単結晶層(n形、0≦x<1,0≦y<1))2を形成し、次いで、Mgを添加したアクセプタである(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層3を形成したのちそのMg添加層3を低速電子線照射した後、その一部を反応性イオンエッチングなどの方法により除去し、n形(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)層を表出させ、表出した単結晶層2及び3のそれぞれに金属電極4A,4Bを形成し、それら各々にリード線5A,5Bを接続して形成した、発光ダイオード。」(以下「甲1発明」という。)
が記載されているものと認められる。

イ 請求人は、甲第1号証の第1図においては、p側の金属電極4Aが、p側のワイヤーボンディング位置とn側の金属電極4Bとの間で、かつ、発光観測面となるp形(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)のほぼ全面にある一部にリード線5Aがワイヤーボンディングされていることが開示されている旨、また、ワイヤーボンディングされていることから、当業者であれば、通常は、サファイア基板側ではなく、p層側が発光面であることも極めて容易に理解できる旨主張する(審判請求書12頁)。
しかし、甲第1号証の第1図からは、p側の金属電極4Aは、Mgを添加した(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層3すなわちp形の層の相当程度の部分を覆うものであることが推測されるものの、p側のワイヤーボンディング位置とn側の金属電極4Bとの間で、かつ、上記単結晶層3のほぼ全面にあるとは認められない。また、該金属電極4Aは透光性のものとは認められないのであるが、上記のとおり、p側の金属電極4A、すなわち透光性でない金属電極4Aが上記単結晶層3の相当程度の部分を覆うものと推測されることに照らせば、甲1発明において、p層側が発光面であるとは直ちには認めがたいところである。なお、請求人が主張するように、金属電極4Aが単結晶層3のほぼ全面にあるとすれば、p層側が発光面であるとは到底認められない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(3)本件発明と甲1発明との対比、判断
ア 対比
本件発明と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「サファイア基板」、「n形(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層2」、「Mg添加した低速電子線照射処理された(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層3」、「金属電極4A」及び「金属電極4B」は、それぞれ、本件発明の「基板」、「n型窒化ガリウム系化合物半導体層」、「p型窒化ガリウム系化合物半導体層」、「p電極」及び「n電極」に相当し、甲1発明の「発光ダイオード」は、本件発明の「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」に相当する。

(イ)甲1発明は、「『p-n接合による発光素子』である『発光ダイオード』」であるところ、発光素子は通常矩形であって、甲1発明がこれと異なるものと解さなければならない特段の事情も認められない。そうすると、甲1発明における「サファイア基板1」及びこの上に順次形成された「(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)Nの単結晶層(n形、0≦x<1,0≦y<1))2」、「Mgを添加したアクセプタである(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層3」のいずれも矩形のものと解される。
そして、甲1発明は、「Mgを添加したアクセプタである(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)の単結晶層3を形成したのちそのMg添加層3を低速電子線照射した後、その一部を反応性イオンエッチングなどの方法により除去し、n形(Ga_(1-x)Al_(x))_(1-y)In_(y)N(0≦x<1,0≦y<1)層を表出させ、表出した単結晶層2及び3のそれぞれに金属電極4A,4Bを形成」するものであるから、「ほぼ矩形をなすp型窒化ガリウム系化合物半導体層の一部が除去されて露出されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面にn電極が形成され、p電極とn電極とが同一面側に形成されてなる」ものといえ、この点において本件発明と一致する。

(ウ)甲1発明の「『表出した単結晶層2』に形成した『金属電極4A』」は、「リード線5A」を接続するものであるから、「ほぼ矩形をなすn型窒化ガリウム系化合物半導体層において、p型窒化ガリウム系化合物半導体層がエッチング除去されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に形成された、ワイヤーボンディング用の電極からな」る点において、本件発明の「n電極」と共通するものといえる。

(エ)以上によれば、本件発明と甲1発明とは、
「基板上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層及びp型窒化ガリウム系化合物半導体層とを有し、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の表面にp電極が形成され、ほぼ矩形をなすp型窒化ガリウム系化合物半導体層の一部が除去されて露出されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面にn電極が形成され、p電極とn電極とが同一面側に形成されてなる窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記n電極は、ほぼ矩形をなすn型窒化ガリウム系化合物半導体層において、p型窒化ガリウム系化合物半導体層がエッチング除去されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に形成された、ワイヤーボンディング用の電極からなる窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」
である点において一致し、次の点で相違するものと認められる。

「本件発明では、前記p電極が、前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層の一つの隅部の一部に形成されたワイヤーボンディング用の台座電極と、その台座電極の下にp型窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極とからなり、n電極が、前記台座電極と対角をなす位置で形成され、前記透光性電極が、対角の位置にある台座電極とn電極との間で、かつ発光観測面となるp型窒化ガリウム系化合物半導体層表面のほぼ全面にあり、台座電極とn電極との通電により、透光性電極の下にあるp型窒化ガリウム系化合物半導体層に均一に電流を広げ、ほぼ均一な発光が観測される発光面を有するのに対して、甲1発明では、前記p電極及びn電極が、リード線5Bを接続する金属電極4B及びリード線5Aを接続する金属電極4Aであり、これらがどのような位置関係にあるのか特定されるものではなく、これら電極の通電によりp型窒化ガリウム系化合物半導体層に均一に電流を広げ、ほぼ均一な発光が観測される発光面を有するものではない点。」(以下「相違点1」という。)

(オ)請求人は、台座電極とn電極との通電により、透光性電極の下にあるp型窒化ガリウム系化合物半導体層に均一に電流を広げ、ほぼ均一な発光が観測される発光面を有するという記載については、かかる記載はほぼ全面に形成された透光性電極によってもたらされる効果にすぎず、進歩性判断において対比する必要はない旨主張するが、台座電極とn電極との通電により、透光性電極の下にあるp型窒化ガリウム系化合物半導体層に均一に電流を広げ、ほぼ均一な発光が観測される発光面を有するとの事項が、ほぼ全面に形成された透光性電極によってもたらされる効果であるか否かにかかわらず、本件発明を特定する事項である以上、甲1発明との対比において検討されるべき事項であることは明らかであり、進歩性判断において対比する必要がないとする理由は認められないから、請求人の上記主張は、採用できない。

イ 判断
(ア)相違点1に係る本件発明の構成のうち、「『p電極』が、『前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層の一つ』の『一部に形成されたワイヤーボンディング用の台座電極』と、『その台座電極の下にp型窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極』とからな」る構成について、甲1発明においてかかる構成を備えるものとすることが当業者にとって想到容易であったといえるか、まず検討する(なお、相違点1に係る本件発明のその余の構成は、上記構成を前提とするものと認められる。)。

(イ)甲1発明における金属電極4Aは、リード線5Aを接続するものであるから、ワイヤーボンディング用の機能を果たす点において、本件発明の「ワイヤーボンディング用の台座電極」に相当するものといえる。
そして、本件発明のp電極は、台座電極の下に電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極が形成されたものと認められるから、甲1発明を出発点として本件発明が想到容易といえるためには、甲1発明における金属電極4Aの下に電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極を設けることの想到容易性について検討する必要があるものと考えられる。

(ウ)しかるところ、前記(2)イのとおり、甲1発明において、p層側が発光面であるとは直ちには認めがたいから、台座電極の下に形成する電極を透光性とすることについて、当業者が容易になし得たこととはいいがたいし、そもそも、甲第1号証の第1図からは、金属電極4Aがp形の層である単結晶層3の相当程度の部分を覆うものと推測されることに照らせば、甲1発明における金属電極4Aの下に電流拡散用、かつオーミック用の電極を設ける必要性に乏しいものというべきである。

(エ)してみれば、甲1発明において、金属電極4Aの下に電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極を設けるべき理由を見いだしがたく、このようにすることが、当業者にとって容易に想到し得たものということはできない。
すなわち、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の「『p電極』が、『前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層の一つ』の『一部に形成されたワイヤーボンディング用の台座電極』と、『その台座電極の下にp型窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極』とからな」る構成を備えるものとすることが当業者にとって想到容易であったとはいえない。
そして、相違点1に係る本件発明のその余の構成は、上記構成を前提とするものであるから、結局、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成を備えるものとすることが当業者にとって想到容易であったとはいえない。

(オ)請求人は、甲第2号証ないし甲第6号証を挙げ、本件特許出願当時、半導体発光素子の分野において、発光面側の電極を金属の透光性電極とし、当該透光性電極にワイヤーボンデイング用の台座電極を形成することは周知慣用技術であったから、甲第1号証に記載された発明に当該周知慣用技術を適用して、同発明のp側の金属電極4Aを、ワイヤーボンデイング用の台座電極と、その台座電極の下にp型窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極とすることは容易である旨主張する(審判請求書16頁?23頁)。
しかし、上記(イ)のとおり、甲1発明を出発点として本件発明が想到容易といえるためには、甲1発明における金属電極4Aの下に電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極を設けることの想到容易性について検討する必要があるものと考えられるところであり、そのようにすることが当業者にとって想到容易であったといえないことは、上記で検討したとおりである。
なお、請求人の上記主張に沿って、甲1発明において、金属電極4Aを、金属の透光性電極にワイヤーボンデイング用の台座電極を形成したものに置き換えることを想定してみても、前記(1)イないし(カ)の甲第2号証ないし甲第6号証の記載から、そのような置き換えを行うべき理由を見いだすことはできず、このようにすることが、当業者にとって想到容易であったとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

(カ)請求人は、GaAs系化合物半導体発光素子の比抵抗と厚さについて甲第14号証ないし甲第17号証を、GaN系化合物半導体発光素子の比抵抗と厚さについて甲第1号証及び甲第18号証ないし甲第24号証を挙げ、本件特許出願当時、GaN系化合物半導体発光素子において、電流が横方向に十分に拡散しないという技術的課題は周知である旨主張するとともに、発光素子の電流拡散に関する公知例として甲第14号証ないし甲第17号証及び甲第25号証ないし甲第28号証を挙げ、上記技術的課題を解決するための手段としては、
a p型層上に透光性電極を設ける、
b 例えば、線状の如き所定のパターンの電極を設ける
という2つの解決手段が存在し、このうち1つの解決手段であるaを選択することは当業者であれば容易に推考できた旨主張する(口頭審理陳述要領書5頁?19頁)。
しかし、発光素子の比抵抗と厚さについて請求人が挙げる各甲号証には、GaN系化合物半導体発光素子において、電流が横方向に十分に拡散しないという知見は全く開示されていないし、これら甲号証の記載から、当業者にとってかかる知見を容易に得ることができるものとも認められない。
加えて、上記(ウ)で検討したとおり、甲1発明は、そもそも、金属電極4Aの下に電流拡散用、かつオーミック用の電極を設ける必要性に乏しいものというべきであるから、請求人の上記主張は、上記(エ)の判断を左右するものではない。

(キ) 請求人は、甲第7号証ないし甲第10号証を挙げ、半導体発光素子(半導体素子)の分野において、同一面側に存在するワイヤーボンディング用の2つの電極を対角をなす位置に配置することは周知慣用技術であったから、甲第1号証に記載された発明に当該周知慣用技術を適用して、甲第1号証発明のn側の金属電極4Bを、ワイヤーボンディング用の台座電極と、対角をなす位置に配置することは容易である旨主張する(審判請求書23頁?25頁)。
しかし、相違点1に係る本件発明の「n電極が、前記台座電極と対角をなす位置で形成され」との構成は、「前記p電極が、前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層の一つの隅部の一部に形成されたワイヤーボンディング用の台座電極と、その台座電極の下にp型窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなる透光性電極とからなり」との構成を前提とするものと認められるところ、甲1発明において、同構成を備えるものとすることが当業者にとって想到容易であったといえず、結局、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成を備えるものとすることが当業者にとって想到容易であったといえないことは、上記(エ)のとおりである。
そして、請求人の上記主張は、上記判断を左右するものではない。

(4)小括
以上の検討によれば、本件発明が、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。

2 無効理由2について
(1)甲号証の記載
ア 甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平3-183173公報)には、前記1(1)イの記載があり、以下に再掲する。

(ア)「第1図は本発明の発光素子の概念的模式図である。本発明の発光素子100は、下部より基体101、第一導電層102、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層104、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106が順次積層された構造を有し、更にコンタクト電極107、109及びリード線108、110が設けられている。」(2頁左上欄13行?右上欄3行)

(イ)「本発明において使用される第一導電層102及び第二導電層106の材質としては、例えば、Ni,Cr,Al,In,Sn,Mo,Ag,Au,Nb,Ta,V,Ti,Pt,Pb等の金属の単体またはこれらの合金、例えばステンレス鋼、あるいは酸化物、例えばIn_(2)O_(3)、ITO(In_(2)O_(3)+SnO_(2))等が挙げられる。」(2頁左下欄7行?12行)

(ウ)「本発明において第一電荷注入層103及び第二電荷注入層105に導入される不純物としては、ベリリウム原子(Be)、マグネシウム原子(M)、亜鉛原子(Zn)、カドミウム原子(Cd)、炭素原子(C)、ケイ素原子(Si)、ゲルマニウム原子(Ge)、イオウ原子(S)、セレン原子(Se)等の単独、あるいはこれらのうちの2種以上を混合したものが挙げられる。」(3頁左上欄2行?9行)

(エ)「本発明において使用される第二導電層は、基体101側に光を放出する場合には透光性であっても、非透光性であってもよい。第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性であることが望ましい。」(4頁右下欄下から2行?5頁左上欄3行)

(オ)「本発明において使用されるコンタクト電極は、リード線と、第一または第二導電層との間の電気的導通性をよくする材料が望ましい。その様な材料として、Ag,Pt,Al等が挙げられる。コンタクト電極は、第一または第二の導電層上にマスクを置いてこれらの金属を蒸着させることによって形成することが可能である。」(5頁左上欄4行?10行)
ここで、第1図は次のものである。


イ 甲第11号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第11号証(「P-GaN/N-InGaN/N-GaN Double-Heterostructure Blue-Light-Emitting Diodes」)には、以下の記載がある。

「Fabrication of LED chips was accomplished as follows: the surface of the p-type GaN layer was partially etched until the n-type layer was exposed (see Fig.1). Next,an Au contact was evaporated onto the p-type GaN layer and an Al contact onto the n-type GaN layer. The wafer was cut into a rectangular shape (0.6mm×0.5mm).」(L9頁左欄17行?23行)
(和訳:「LEDの作製は次のとおり実施された:p型GaN層の表面は、n型層が露出するまで、部分的にエッチングされた。次に、Auコンタクトがp型GaN層上に蒸着され、A1コンタクトもn型GaN上に蒸着された。ウエハは矩形にカットされた(0.6mm×0.5mm)。」)、


「The structure of an InGaN/GaN DH LED is shown in Fig1.」(L9頁左欄28行?29行)
(和訳:「InGaN/GaN DH LEDの構造が図1に示される。」)

ウ 甲第12号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第12号証(特開平4-209577公報)には、次の記載がある。

「【00010】(実施例2)図3は本発明の第二の実施例を説明する図であって、発光素子の断面を示す。この発光素子はMgO(111)基板10の上に成長した膜厚500ÅのアンドープInGaNバッファ層11、膜厚5μmのSnドープn型InGaAlNクラッド層12、膜厚0.5μmのアンドープInGaN活性層13、膜厚2μmのMgドープp型InGaAlNクラッド層14、p型クラッド層のオーミック電極15、n型クラッド層のオーミック電極16からなる。・・・
【0011】(実施例3)図4は本発明の第三の実施例を説明する図であって、発光素子の断面を示す。この発光素子は低抵抗ZnO(111)基板17の上に成長した膜厚500ÅのアンドープAlNバッファ層18、膜厚5μmのSnドープn型InGaAlNクラッド層19、膜厚0.5μmのアンドープInGaN活性層20、膜厚2μmのMgドープp型InGaAlNクラッド層21、p型クラッド層のオーミック電極22、n型クラッド層のオーミック電極23からなる。・・・
ここで、図3及び図4は、次のものである。


エ 甲第13号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第13号証(「GaN青色LED」)には、以下の記載がある。

「まず、サファイア基板上に500℃でGaNバッファ一層を成長し、次に1030℃でSiドープN型GaNを4μm成長し、次にMgドープP型GaN層を0.8μm成長した。成長後、低抵抗P型層を得るため表面から電子線照射を行った。その後P型層にAu電極を付け、N型層にA1電極を付けた。その後、チップにカットしリードフレームにセットし、モールドした。素子の構造を図5に示す。」(41頁18?26行)
ここで、図5は、次のものである。


(2)甲第2号証に記載された発明
ア 前記(1)ア(ア)によれば、甲第2号証には、「下部より基体101、第一導電層102、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層104、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106が順次積層された構造を有し、更にコンタクト電極107、109及びリード線108、110が設けられている発光素子100」が記載されているものと認められる。

イ 同(イ)ないし(エ)によれば、上記発光素子100において使用される第一導電層102及び第二導電層106の材質としては、例えば、Ni,Cr,Al,In,Sn,Mo,Ag,Au,Nb,Ta,V,Ti,Pt,Pb等の金属の単体またはこれらの合金、例えばステンレス鋼、あるいは酸化物、例えばIn_(2)O_(3)、ITO(In_(2)O_(3)+SnO_(2))等が挙げられ、第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性であることが望ましいこと、第一電荷注入層103及び第二電荷注入層105に導入される不純物としては、ベリリウム原子(Be)、マグネシウム原子(M)、亜鉛原子(Zn)、カドミウム原子(Cd)、炭素原子(C)、ケイ素原子(Si)、ゲルマニウム原子(Ge)、イオウ原子(S)、セレン原子(Se)等の単独、あるいはこれらのうちの2種以上を混合したものが挙げられることが認められる。

ウ 同(オ)及び第1図によれば、第一導電層102の上面の一部が露出しており、この露出した部分の一部にコンタクト電極109が形成され、第二導電層106の上面の一部にコンタクト電極107が形成されていることが認められる。

エ 以上によれば、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「下部より基体101、第一導電層102、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層104、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106が順次積層された構造を有し、更にコンタクト電極107、109及びリード線108、110が設けられている発光素子100であって、第一導電層102及び第二導電層106の材質としては、例えば、Ni,Cr,Al,In,Sn,Mo,Ag,Au,Nb,Ta,V,Ti,Pt,Pb等の金属の単体またはこれらの合金、例えばステンレス鋼、あるいは酸化物、例えばIn_(2)O_(3)、ITO(In_(2)O_(3)+SnO_(2))等が挙げられ、第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性であることが望ましく、第一電荷注入層103及び第二電荷注入層105に導入される不純物としては、ベリリウム原子(Be)、マグネシウム原子(M)、亜鉛原子(Zn)、カドミウム原子(Cd)、炭素原子(C)、ケイ素原子(Si)、ゲルマニウム原子(Ge)、イオウ原子(S)、セレン原子(Se)等の単独、あるいはこれらのうちの2種以上を混合したものが挙げられ、第一導電層102の上面の一部が露出しており、この露出した部分の一部にコンタクト電極109が形成され、第二導電層106の上面の一部にコンタクト電極107が形成されている発光素子100。」(以下「甲2発明」という。)

(3)本件発明と甲2発明との対比、判断
ア 対比
本件発明と甲2発明とを対比する。

(ア)甲2発明の「基体101」は、本件発明の「基板」に相当する。

(イ)甲2発明の「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103」及び「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105」は、発光素子が「基板上」に有する「窒化ガリウム系化合物半導体層」である点において、本件発明の「n型窒化ガリウム系化合物半導体層」及び「p型窒化ガリウム系化合物半導体層」と一致し、本件発明と甲2発明とは、「基板上に二つの窒化ガリウム系化合物半導体層を有する」点において一致する。

(ウ)甲2発明は、「第一導電層102の上面の一部が露出しており、この露出した部分の一部にコンタクト電極109が形成され、第二導電層106の上面の一部にコンタクト電極107が形成されている」ものであるから、二つの電極が同一面側に形成されてなるものといえる。そして、本件発明も、「p電極とn電極とが同一面側に形成されてなる」ものであるから、二つの電極が同一面側に形成されてなるものといえ、この点において、両者は一致する。

(エ)甲2発明の「コンタクト電極107」及び「コンタクト電極109」は、「ワイヤーボンディング用の電極」と認められ、該「コンタクト電極109」は、「ワイヤーボンディング用の電極からなる電極」であるといえ、この点で、本件発明の「n電極」と一致する。
そして、甲2発明は、「第二導電層106の上面の一部にコンタクト電極107が形成されている」ものであって、「第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性であることが望まし」いものであるから、「第二導電層106」は、「ワイヤーボンディング用の台座電極の下に形成された台座電極よりも大面積を有する透光性電極」といえる。
また、甲1発明は、「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106が順次積層」されたものであるから、「第二導電層106」は一方の窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成したものといえる。
したがって、甲2発明の「コンタクト電極107」及び「第二導電層106」は、「ワイヤーボンディング用の台座電極と、その台座電極の下に一方の窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する透光性電極とからなる電極」であるといえ、この点で、本件発明の「p電極」と一致する。
してみると、甲2発明と本件発明とは、いずれも「一方の電極は、ワイヤーボンディング用の台座電極と、その台座電極の下に一方の窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する透光性電極とからなり、他方の電極は、ワイヤーボンディング用の電極からなる」ものといえ,両者はこの点において一致する。

(オ)以上によれば、本件発明と甲2発明とは、
「基板上に二つの窒化ガリウム系化合物半導体層を有し、二つの電極が同一面側に形成されてなる発光素子において、一方の電極は、ワイヤーボンディング用の台座電極と、その台座電極の下に一方の窒化ガリウム系化合物半導体に接して形成された台座電極よりも大面積を有する透光性電極とからなり、他方の電極は、ワイヤーボンディング用の電極からなる発光素子。」
である点において一致し、以下のaないしcの点で相違するものと認められる。

a 本件発明は、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であるのに対して、甲2発明は、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層104、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105などが順次積層された構造を有する発光素子である点(以下「相違点2」という。)

b 本件発明では、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の表面にp電極が形成され、ほぼ矩形をなすp型窒化ガリウム系化合物半導体層の一部が除去されて露出されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面にn電極が形成され、前記p電極は、前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層の一つの隅部の一部に形成され、前記n電極は、ほぼ矩形をなすn型窒化ガリウム系化合物半導体層において、前記台座電極と対角をなす位置で、p型窒化ガリウム系化合物半導体層がエッチング除去されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に形成されているのに対して、甲2発明では、第一導電層102の上面の一部が露出しており、この露出した部分の一部にコンタクト電極109が形成され、第二導電層106の上面の一部にコンタクト電極107が形成されており、二つの電極の各々がp電極あるいはn電極か不明である点(以下「相違点3」という。)

c 本件発明は、透光性電極が、電流拡散用、かつオーミック用の金属薄膜よりなるものであって、対角の位置にある台座電極とn電極との間で、かつ発光観測面となるp型窒化ガリウム系化合物半導体層表面のほぼ全面にあり、台座電極とn電極との通電により、透光性電極の下にあるp型窒化ガリウム系化合物半導体層に均一に電流を広げ、ほぼ均一な発光が観測される発光面を有するものであるのに対して、甲2発明は、そのように特定されるものではない点(以下「相違点4」という。)

イ 判断
(ア)事案にかんがみ、相違点3についてまず検討するに、甲2発明の二つの電極の各々がp電極あるいはn電極であるかどうかはさておき、本件発明が、「p型窒化ガリウム系化合物半導体層の表面にp電極が形成され、ほぼ矩形をなすp型窒化ガリウム系化合物半導体層の一部が除去されて露出されたn型窒化ガリウム系化合物半導体層表面にn電極が形成され」るものであることに照らすと、甲2発明においてかかる構成を備えるには、少なくとも、「第一導電層102の上面の一部が露出しており、この露出した部分の一部にコンタクト電極109が形成される」構成を「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103の上面の一部が露出しており、この露出した部分の一部にコンタクト電極109が形成される」構成に置換することを要するものと認められる。
しかし、そもそも、甲2発明においてかかる置換を行う、すなわち、第一導電層102の上面に形成するとされるコンタクト電極109を、第一電荷注入層103の上面の一部を露出させて、この露出した部分の一部に形成する理由を想定することはできず、そのようにすることについて、当業者が容易に想到し得たと認めるに足る根拠は、本件各証拠を通じてみても、見いだすことができない。
してみると、相違点3に係るその余の構成、更には、相違点2及び4について検討するまでもなく、本件発明が、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(イ)請求人は、甲第1号証(前記1(1)アを参照。)及び甲第11号証ないし甲第13号証を挙げ、本件特許出願当時、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の分野において、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の一部を除去してn型窒化ガリウム系化合物半導体層を露出させることは周知慣用技術であったから、甲第2号証発明に当該周知慣用技術を適用して、甲第2号証発明において、マグネシウム原子(Mg)を導入してp型とした窒化ガリウムで構成される第二電荷注入層105の一部を除去し、ケイ素原子(Si)を導入してn型とした窒化ガリウムで構成される第一電荷注入層103を露出させ、その表面にコンタクト電極109を形成することは極めて容易なことである旨主張する(審判請求書35頁?38頁)が、そのようにする理由を想定できないことは、上記(ア)のとおりであるから、同主張は、採用できない。

ウ 小括
よって、本件発明が、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明が、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、本件発明が、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第123条第1項第2号に該当しないから、請求人が主張する理由によって、本件発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-01 
結審通知日 2012-06-05 
審決日 2012-06-18 
出願番号 特願平5-129313
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 かづよ後藤 時男  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 吉野 公夫
松川 直樹
登録日 1998-02-20 
登録番号 特許第2748818号(P2748818)
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 吉村 誠  
代理人 黒田 健二  
代理人 田村 啓  
代理人 言上 恵一  
代理人 鮫島 睦  

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