• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1265384
審判番号 不服2011-14609  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-07 
確定日 2012-10-29 
事件の表示 特願2007- 41788「大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-224916〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本件出願は、2007年(平成19年)2月22日(パリ条約による優先権主張2006年(平成18年)2月24日、欧州特許庁(EP))の出願であって、平成22年7月14日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成23年1月13日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書及び意見書がそれぞれ提出され、同年2月1日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、同年3月24日付けで意見書が提出されたが、同年4月13日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同年7月7日付けで拒絶査定不服審判が請求され、当該審判の請求と同時に同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成24年1月23日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年4月20日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年7月7日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年7月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

平成23年7月7日付けで提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成23年1月13日付けで提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし10を、下記(2)に示す請求項1ないし10へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし10

「 【請求項1】
クランクシャフト(3)を受けるためのベース・プレート(2)と、2枚の外壁(4)を含むスタンド(5)と、該スタンドが、前記ベース・プレート(2)上に配置され、少なくとも1つの支持本体(6)を含むことと、該支持本体が横方向支持壁(7)によって2重壁に作られ、2つの隣り合うクロスヘッド(9)用の摺動表面(8)を有することと、シリンダを受けるためにスタンド(5)上に配置されるシリンダ・セクション(10)とを有し、前記ベース・プレート(2)、前記スタンド(5)及び前記シリンダ・セクション(10)が、前記スタンド(5)の区域で、前記2重壁支持本体(6)の内側を延びる少なくとも1本のタイ・ロッド(11)によって互いに連結され、且つ横方向支持要素(12)が前記ベース・プレート(2)に設けられ且つ単一壁で作られ、且つ、前記ベース・プレート(2)が前記クランクシャフト(3)をジャーナル支承するための少なくとも1つの軸受座(13)を有する大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン(1)であって、前記タイ・ロッド(11)が前記クランクシャフト(3)の長手方向軸(K)と前記スタンド(5)間の区域の前記軸受座(13)に、切欠部(14)から脱着可能な保持要素(15)を使用して前記切欠部に固定されることを特徴とする、大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン(1)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの支持本体(6)の横方向支持壁(7)が互いに平行に配置される、請求項1に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項3】
前記少なくとも1つの支持本体(6)の横方向支持壁(7)が前記シリンダ・セクション(10)の方向に、増加する間隔でV字形に延びる、請求項1又は2に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項4】
前記タイ・ロッド(11)が前記支持本体(6)の前記横方向支持壁(7)の間を中央に延びる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項5】
タイ・ロッド(11)が前記支持本体(6)の前記横方向支持壁(7)の間を非対称に延びる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項6】
前記タイ・ロッド(11)が、シリンダ軸(Z)に対して所定の角度(α)で、且つ前記クランクシャフト(3)の前記長手方向軸(K)に対して垂直に、好ましくは前記支持本体(6)の前記横方向支持壁(7)の間で0°から5°若しくは1°から3°の角度(α)で延びる、請求項1から5までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項7】
前記支持要素(12)が前記タイ・ロッド(11)の前記長手方向軸(Z)と位置合わせして配置される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項8】
2本のタイ・ロッド(11)が2つの隣り合うクロスヘッド(9)の間を正確に延びる、請求項1から7までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項9】
金属サイド・プレート(22)がベース・プレート(2)に設けられ、好ましくは伸長するサイド・プレート(22)として前記ベース・プレート(2)の一部分を形成する、大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項10】
前記スタンド(5)が金属ベース・プレート(18)、金属カバー・プレート(16)及び2つの対向して配設される摺動表面(8)の間に配置される中央壁(17)を含む、請求項1から9までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10

「 【請求項1】
クランクシャフト(3)を受けるためのベース・プレート(2)と、2枚の外壁(4)を含むスタンド(5)と、該スタンドが、前記ベース・プレート(2)上に配置され、少なくとも1つの支持本体(6)を含むことと、該支持本体が横方向支持壁(7)によって2重壁に作られ、2つの隣り合うクロスヘッド(9)用の摺動表面(8)を有することと、シリンダを受けるためにスタンド(5)上に配置されるシリンダ・セクション(10)とを有し、前記ベース・プレート(2)、前記スタンド(5)及び前記シリンダ・セクション(10)が、前記スタンド(5)の区域で、前記2重壁支持本体(6)の内側を延びる少なくとも1本のタイ・ロッド(11)によって互いに連結され、且つ横方向支持要素(12)が前記ベース・プレート(2)に設けられ且つ単一壁で作られ、且つ、前記ベース・プレート(2)が前記クランクシャフト(3)をジャーナル支承するための少なくとも1つの軸受座(13)を有する大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン(1)であって、前記タイ・ロッド(11)が前記クランクシャフト(3)の長手方向軸(K)と前記スタンド(5)間の区域の前記軸受座(13)に、切欠部(14)から脱着可能な保持要素(15)を使用して前記切欠部に固定され、
保持要素(15)とタイ・ロッド(11)とが相互に係合する時に、切欠部(14)の開口領域と保持要素(15)とは、タイ・ロッド(11)の長手方向に直角な方向に見て相互に重なり合うことを特徴とする、大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン(1)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの支持本体(6)の横方向支持壁(7)が互いに平行に配置される、請求項1に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項3】
前記少なくとも1つの支持本体(6)の横方向支持壁(7)が前記シリンダ・セクション(10)の方向に、増加する間隔でV字形に延びる、請求項1又は2に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項4】
前記タイ・ロッド(11)が前記支持本体(6)の前記横方向支持壁(7)の間を中央に延びる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・
エンジン。
【請求項5】
タイ・ロッド(11)が前記支持本体(6)の前記横方向支持壁(7)の間を非対称に延びる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項6】
前記タイ・ロッド(11)が、シリンダ軸(Z)に対して所定の角度(α)で、且つ前記クランクシャフト(3)の前記長手方向軸(K)に対して垂直に、好ましくは前記支持本体(6)の前記横方向支持壁(7)の間で0°から5°若しくは1°から3°の角度(α)で延びる、請求項1から5までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項7】
前記支持要素(12)が前記タイ・ロッド(11)の前記長手方向軸(Z)と位置合わせして配置される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項8】
2本のタイ・ロッド(11)が2つの隣り合うクロスヘッド(9)の間を正確に延びる、請求項1から7までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項9】
金属サイド・プレート(22)がベース・プレート(2)に設けられ、好ましくは伸長するサイド・プレート(22)として前記ベース・プレート(2)の一部分を形成する、大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。
【請求項10】
前記スタンド(5)が金属ベース・プレート(18)、金属カバー・プレート(16)及び2つの対向して配設される摺動表面(8)の間に配置される中央壁(17)を含む、請求項1から9までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン。」(なお、下線は本件補正箇所を示すために、本件審判請求人が付したものである。)

2.本件補正の適否(本件補正の目的要件について)

本件補正は、本件補正前の請求項1における「前記タイ・ロッド(11)が前記クランクシャフト(3)の長手方向軸(K)と前記スタンド(5)間の区域の前記軸受座(13)に、切欠部(14)から脱着可能な保持要素(15)を使用して前記切欠部に固定される」との発明特定事項に関して、願書に最初に添付した図面の図4の記載に基づき、「保持要素(15)とタイ・ロッド(11)とが相互に係合する時に、切欠部(14)の開口領域と保持要素(15)とは、タイ・ロッド(11)の長手方向に直角な方向に見て相互に重なり合う」点を限定する補正である。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。

3.本件補正の適否(本願補正発明の独立特許要件について)

上記2.のとおり、本件補正は「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(1)本願補正発明の認定

本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記1.(2)の【請求項1】に記載されたとおりのものと認める。

(2)刊行物に記載された発明

A.引用文献に記載された事項

本件出願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平8-338306号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

なお、下線は、発明の理解の一助として当審において付したものである。

(A)「【請求項8】 主ベアリングの下部分が一体になった横壁(11)を持つベッドプレートと、長さが1.5m乃至5mのステーボルトチューブが設けられたエンジンフレームボックスとを有し、ベッドプレート(1)、エンジンフレームボックス(2)、及びシリンダ区分(3)は、ステーボルト(13)で互いに固定されており、各ステーボルトは、関連したシリンダ区分から下方へエンジンフレームボックスのステーボルトチューブ(14)を通り、主ベアリングハウジングの下部分(12)よりも上の位置でベッドプレートの上部分に取り付けられており、ステーボルトによるクランプ力の影響がベッドプレートの主ベアリングの周囲の領域に実質的に及ぼされず、ステーボルトの下端(15)には、ベッドプレートの上部分の下方に向いた接触面と接触するナット(30)にねじ込まれる雄ねじが切ってある、大型の2ストローククロスヘッドエンジンにおいて、ベッドプレート(1)には、ナット(30)の下に、ステーボルトの長手方向でステーボルトの壊れて離れた下ピース(13b)がステーボルトの一半径よりも大きく下方に落下できるような程度の隙間がある、ことを特徴とする、大型の2ストローククロスヘッドエンジン。」(【請求項8】)

(B)「【0015】上方に開口したベッドプレートのねじ穴にステーボルトをねじ込む代わりに、ステーボルトのねじをベッドプレートの上部分の下向きの接触面と当接するナットにねじ込むことができる。本発明によれば、この実施例は、ステーボルトの長手方向でステーボルトの壊れて離れた下ピースがステーボルトの一半径よりも大きく下方に落下できるような程度の隙間がベッドプレートのナットの下にある、ことを特徴とする。ステーボルトがナットのねじのところで壊れた場合には、ナットとともに落下したボルトのピースをベッドプレートに設けた側開口部を通して取り出すことができる。ステーボルトがこれよりも高い場所で壊れた場合には、壊れて離れたピースは、ステーボルトのナットよりも高い部分を切除するためのアクセスを提供するため、ナットの上方のボルトのピースが十分に剥き出しになるように、隙間内に落ち、壊れた分割されたパーツを取り出すことができる。」(段落【0015】)

(C)「【0018】
【発明の実施の形態】図1は、例えば2000kw乃至75000kw程度の出力を持つ船舶用推進エンジン又は据え置き型発電用エンジンのような大型のクロスヘッドエンジン用のベッドプレート1の一方の半部を示す。このベッドプレートの上面上には、エンジンフレームボックス2並びにシリンダ区分3が取り付けられている。三つの主構成要素1、2、及び3は、エンジンの長手方向対称平面4を中心として対称である。シリンダ区分には、シリンダライナ(図示せず)が従来の方法で取り付けられており、シリンダ区分には、連結ロッド、クロスヘッド、ピストンロッド、及びピストンが取り付けられており、シリンダ区分の頂部にねじ込んだカバースタッドでシリンダカバーがクランプされている。これらの構成要素は、極めてよく知られた構成要素であり、基本的には本発明と関係がないため、図面には、明瞭化を図る目的で示さない。
【0019】エンジンフレームボックスは、シリンダ間が横方向補剛体5によって強化されている。この補剛体は、単層プレート壁又は二重壁フレームであるのがよい。横方向補剛体は、クロスヘッド用の案内体6を支持する。これらの案内体の外方に向いた背部には、横方向力をクロスヘッドから横方向補剛体5に伝達する補剛体が設けられている。クロスヘッド案内体6は、エンジンフレームボックスの底フランジ7の。かに上方で終端し、そのため主ベアリング8の上方には、ベアリングハウジングの上部分9を取り扱うための良好な空間を構成する隙間があり、ベアリングハウジングの上部分を持ち上げてベアリングスタッド10を外すことができる。
【0020】ベッドプレート1は、横方向補剛体5の下方に横壁11を有する。主ベアリングハウジングの下部分12は、壁11と一体に形成されている。上ハウジング部分が下ハウジング部分12と接触した高さで主ベアリングが壁11の上方に向いた端部と一体化している。ベッドプレートを製造するとき、主ベアリングを接合ボーリング作業で所定寸法にボーリングする。従って、エンジンのアライメントをできるだけ良好にするため、エンジンの組み立て中の下部分12の周囲の領域でのベッドプレートの変形をできるだけ小さくするのが望ましい。ベッドプレート、エンジンフレームボックス、及びシリンダクランプを互いにクランプすることによって生じる変形がベッドプレートに加わらないようにするため、これらの構成要素は、ベッドプレートの頂部に取り付けられたステーボルト13によって互いにクランプされる。ステーボルトの経路は、ステーボルトの長手方向軸線に沿って部分断面を挿入することによって図面に明瞭に示してある。
【0021】ステーボルト13は、シリンダ区分3の穴を通過し、エンジンフレームボックスのステーボルトチューブ14を通って更に下方に延びる。ステーボルトの下端15は、ベッドプレートの上向きの雌ねじ穴にねじ込んである。ステーボルトの上端にはねじ山が切ってあり、このねじ山にはナット17が螺合させてあり、シリンダ区分の上面に対して下方に締め付けられており、これと同時に、ステーボルトが弾性的に伸びる。
【0022】図示の実施例では、ステーボルトは、雌ねじを備えたブッシュ16で接合された二つの部品からなる。ブッシュは、シリンダ区分の穴の内側と接触し、ステーボルトを横方向で支持する。この設計は、ステーボルトが最大で9mに及ぶ大型エンジンで特に有利である。更に、ステーボルトを一部品で製作することもできる。」(段落【0018】ないし【0022】)

(D)「【0032】図5は、エンジンの第4実施例を示す。この実施例では、ベッドプレートの上部分に設けられた側方に向いたアクセス穴を通して凹所31に押し込んだナット30にステーボルトの下端がねじ込んである。ナットの上面は、凹所の天井を構成する下向きの接触面と当接する。ナットの上面は、ステーボルトチューブと同軸に凹所まで延びる通孔を中心として環状に延びる。凹所は、ベッドプレートにおいて、ステーボルトの長手方向でステーボルトの一半径よりも大きい隙間がナット30の下にあるような高さを有する。ステーボルトが壊れた場合には、壊れて離れたピースが凹所の底に落ち、これと同時に、ナットの上方のステーボルト部分が剥き出しになりそのため、必要であれば、側部穴を通して凹所に取り出す前にこれを切断することができる。」(段落【0032】)

B.上記A.の記載及び図面の記載から分かること

(E)図1について、特に「このベッドプレートの上面上には、エンジンフレームボックス2並びにシリンダ区分3が取り付けられている。三つの主構成要素1、2、及び3は、エンジンの長手方向対称平面4を中心として対称である。 」(上記(C)段落【0018】)との記載からみて、上記(A)ないし(D)並びに図1及び5の記載から、エンジンフレームボックス2は2枚の外壁を含むこと、及び、クロスヘッド用の案内体6が2つの隣り合うものであることが分かる。

(F)上記(A)ないし(D)並びに図1及び5の記載、及び、技術常識から、主ベアリングハウジングの下部分12を備えるベッドプレート1は、クランクシャフトを受けること、及び、クランクシャフトをジャーナル支承することは明らかである。

(G)上記(A)ないし(D)並びに図1及び5の記載からみて、ベッドプレート1、エンジンフレームボックス2及びシリンダ区分3が、エンジンフレームボックス2の区域で、エンジンフレームボックス2のステーボルトチューブ14を通って一部品で製作されたステーボルト13によって互いに連結されることが分かる。

C.引用発明

上記A.及びB.の記載並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「クランクシャフトを受けるためのベッドプレート1と、2枚の外壁を含むエンジンフレームボックス2と、該エンジンフレームボックス2が、前記ベッドプレート1上に配置され、横方向補剛体5を含み、横方向補剛体5が二重壁フレームで作られ、2つの隣り合うクロスヘッド用の案内体6を有することと、シリンダライナを取り付けるエンジンフレームボックス2上に配置されるシリンダ区分3とを有し、ベッドプレート1、エンジンフレームボックス2及びシリンダ区分3が、エンジンフレームボックス2の区域で、エンジンフレームボックス2のステーボルトチューブ14を通って一部品で製作されたステーボルト13によって互いに連結され、且つ横壁11がベッドプレート1に設けられ、且つ、ベッドプレート1がクランクシャフトをジャーナル支承するための主ベアリングハウジングの下部分12を有する大型の2ストローククロスヘッドエンジンであって、
ナット30がステーボルト13の下端にねじ込まれる時に、ベッドプレート2の上部分に側方に向いたアクセス穴を通して凹所31に押し込んだナット30を使用して固定する大型の2ストローククロスヘッドエンジン。」

(3)対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ベッドプレート1」は、その機能及び構造からみて、本願補正発明における「ベース・プレート(2)」に相当し、以下同様に、「エンジンフレームボックス2」は「スタンド(5)」に、「クロスヘッド用の案内体6」は「クロスヘッド(9)用の摺動表面(8)」に、「シリンダ区分3」は「シリンダ・セクション(10)」に、「シリンダライナを取り付けるエンジンフレームボックス2上に配置されるシリンダ区分3」は、「シリンダを受けるためにスタンド(5)上に配置されるシリンダ・セクション(10)」に、「一部品で製作されたステーボルト13」は「少なくとも1本のタイ・ロッド(11)」に、「横壁11」は「横方向支持要素(12)」に、「主ベアリングハウジングの下部分12」は「少なくとも1つの軸受座(13)」に、「ナット30」は「保持要素(15)」に、「凹所31」は「切欠部(14)」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明における「大型の2ストローククロスヘッドエンジン」は、「大型クロスヘッドエンジン」という限りにおいて、本願補正発明の「大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン(1)」に相当する。

してみると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>で一致し、次の<相違点>で相違する。

<一致点>

「クランクシャフトを受けるためのベース・プレートと、2枚の外壁を含むスタンドと、該スタンドが、前記ベース・プレート上に配置され、2つの隣り合うクロスヘッド用の摺動表面を有することと、シリンダを受けるためにスタンド上に配置されるシリンダ・セクションとを有し、前記ベース・プレート、前記スタンド及び前記シリンダ・セクションが、前記スタンドの区域で、少なくとも1本のタイ・ロッドによって互いに連結され、且つ横方向支持要素が前記ベース・プレートに設けられ、前記ベース・プレートが前記クランクシャフトをジャーナル支承するための少なくとも1つの軸受座を有する大型クロスヘッドエンジンであって、前記タイ・ロッドが保持要素を使用して前記切欠部に固定される大型クロスヘッド・エンジン。」

<相違点>

A.本願補正発明においては、スタンド(5)が「少なくとも1つの支持本体(6)を含むことと、該支持本体が横方向支持壁(7)によって2重壁に作られ」、タイ・ロッド(11)が「前記2重壁支持本体(6)の内側を延びる」のに対し、引用発明においては、エンジンフレームボックス2が「横方向補剛体5を含み、横方向補剛体5が二重壁フレームで作られ」、ステーボルト13が「エンジンフレームボックス2のステーボルトチューブ14を通って」である点(以下、「相違点1」という。)。

B.本願補正発明においては、横方向支持要素(12)が前記ベース・プレート(2)に設けられ且つ「単一壁」で作られるのに対し、引用発明においては、横壁11がベッドプレート1に設けられるものの単一壁であるかが不明である点(以下、「相違点2」という。)。

C.本願補正発明においては、「前記クランクシャフト(3)の長手方向軸(K)と前記スタンド(5)間の区域の前記軸受座(13)に、切欠部(14)から脱着可能な保持要素(15)」を使用して固定するのに対し、引用発明においては、「ベッドプレート2の上部分に側方に向いたアクセス穴を通して凹所31に押し込んだナット30」を使用して固定する点(以下、「相違点3」という。)。

D.本願補正発明においては、「保持要素(15)とタイ・ロッド(11)とが相互に係合する時に、切欠部(14)の開口領域と保持要素(15)とは、タイ・ロッド(11)の長手方向に直角な方向に見て相互に重なり合う」のに対し、引用発明においては、「ナット30がステーボルト13の下端にねじ込まれる時に、ベッドプレート2の上部分に側方に向いたアクセス穴を通して凹所31に押し込んだナット30を使用して固定する」ものであり、重なり合いに関して不明である点(以下、「相違点4」という。)。

E.本願補正発明及び引用発明が共に大型クロスヘッドエンジンとして技術が共通するものの、本願補正発明が、「大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン(1)」であるのに対し、引用発明が、「大型の2ストローククロスヘッドエンジン」である点(以下、「相違点5」という。)。

(4)判断

A.相違点1について

両者は二重壁からなる構造を採用することで技術が共通するものであるし、引用発明の「二重壁フレーム」からなる「横方向補剛体5」を、横方向の支持壁による二重壁により作られる支持本体とすることは当業者が適宜なし得る設計事項である。また、二重壁構造を採用するにあたり、部材内部を通過するステーボルトを、二重壁内の内側を延びるよう配置することに格別の創意は要しない。したがって、引用発明に基づき、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2004-44591号公報(以下、「参考文献」という。例えば、【請求項1】及び図1ないし3を参照のこと。)には、スタンドが少なくとも1つの支持本体を含み、該支持本体が横方向支持壁によって2重壁に作られること、及び、タイ・ロッドが2重壁支持本体の内側を延びる技術的事項(以下、「参考技術」という。)が記載されており、引用発明と参考技術とは、共に大型クロスヘッドエンジンとして同一の技術分野に属するものであるから、参考技術を踏まえ、引用発明に基づき、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

B.相違点2について

引用発明における「ベッドプレート1」を、例えば1つの「横壁11」による単一壁で作られたものとすることは、技術の具体化の際に当業者が適宜なし得る設計事項である。したがって、引用発明に基づき、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、上記参考文献(例えば、【請求項1】を参照のこと。)に記載されているように、部品を単一壁によるものとすることは慣用技術(以下、「慣用技術1」という。)である。したがって、引用発明及び慣用技術1に基づき、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

C.相違点3について

引用発明における「ベッドプレート2の上部分」とは、引用文献の図1に記載された内容を参照するに、クランクシャフトを配することが技術常識である「主ベアリング8」と「エンジンフレームボックス2」間の区域といえ、該区域を備える「ベッドプレート2」は「主ベアリングハウジングの下部分12」と一体に形成(上記A.(C)段落【0020】及び図1参照。)されるものであるから、クランクシャフトの長手方向軸と「エンジンフレームボックス2」(本願補正発明の「スタンド(5)」に相当。以下、同様。)間の区域の「主ベアリングハウジングの下部分12」(「軸受座(13)」)に、「凹所31」(「切欠部(14)」)に押し込んだ「ナット30」(「保持要素(15)」)を使用して固定することは、引用文献に記載されているに等しい事項である。また、仮に、部材の詳細な配置に関して両者が相違するとしても、それは、当業者が適宜なし得る設計事項である。
次に、引用発明の「側方に向いたアクセス穴を通して凹所31に押し込んだナット30」なる発明特定事項について検討すると、押し込まれたナット30を、それとは逆に取り出すことは通常可能であることから、「凹所31」(「切欠部(14)」)から「ナット30」(「保持要素(15)」)は脱着可能であるといえる。特に、引用発明の前記発明特定事項に関して、引用文献を参照すると、「ナットとともに落下したボルトのピースをベッドプレートに設けた側開口部を通して取り出すことができる。」(上記A.(C)段落【0015】)と記載されており、前記したとおり脱着可能とすることに困難性はない。
したがって、相違点3は実質的な相違点とはいえない。

また、引用文献には、(他の実施例として)保持要素に関し、「シャフトピース29は、ステーボルトの下端15の雄ねじと螺合する雌ねじ穴を有する。」(段落【0031】)、「ベッドプレートの上部分で横壁11に円筒形の穴を穿ち、この穴にシャフトピース29を焼き嵌めする。」(段落【0030】)及び「シャフトピースを壁11の円筒形アクセス穴から引き出す。次いで、新たなシャフトピースを冷却し、これを円筒形の穴に挿入することによって焼き嵌めし、新たなステーボルトを取り付けることができる。」(段落【0031】)と記載されており、該記載及び図4の記載を総合すると、同文献には、ステーボルトに螺合されるシャフトピースが、ベッドプレートに穿たれた穴から脱着可能である技術的事項(以下、「設計変更例」という。)が記載されているといえる。してみると、引用発明の、「アクセス穴」及び「凹所31」に係る寸法及び形状等を適宜変更し、(「アクセス穴」と一体の)「凹所31」により「ナット30」を脱着可能とすることは当業者が容易になし得る設計事項である。
したがって、引用発明及び設計変更例に基づき、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

D.相違点4について

引用発明の「ナット30がステーボルト13の下端にねじ込まれ」た部分は、「凹所31」内の配置となることから、「凹所31」と「ナット30」とは、「ステーボルト13」の長手方向に直角な方向の全周囲から見て相互に重なり合う配置である。さらに、「凹所31」と通じる「側方に向いたアクセス穴」箇所は、開口領域といえるものであるし、「側方」が「ステーボルト13」の長手方向に直角な方向を含むことは明らかである。してみると、「凹所31」の開口領域と「ナット30」とは、「ステーボルト13」の長手方向に直角な方向から見て相互に重なり合う配置であるといえる。
したがって、相違点4は実質的な相違点とはいえない。

また、上記C.で検討したように、(「アクセス穴」と一体の)「凹所31」であっても前記した重なり合う配置となることは明らかである。
したがって、引用発明及び設計変更例に基づき、上記相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

E.相違点5について

大型クロスヘッドエンジンの技術分野において、ディーゼルエンジンとして用いることは慣用技術(以下、「慣用技術2」という。参考文献の例えば、【従来の技術】段落【0004】及び【0005】を参照のこと。)である。
したがって、引用発明及び慣用技術2に基づき、上記相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

D.作用効果について

本願補正発明を全体としてみても、その作用効果は、引用発明、参考技術、設計変更例、慣用技術1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。

(5)小括

したがって、本願補正発明は、上記のとおり、引用発明、参考技術、設計変更例、慣用技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび

上記3.のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について

1.本願発明

平成23年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年1月13日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]1.(1)の【請求項1】に記載のとおりのものである。

2.刊行物に記載された発明

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開平8-338306号公報)の記載事項及び引用発明は、上記第2.[理由]3.(2)に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願補正発明は、上記第2.[理由]2.に記したように、本願発明に、「保持要素(15)とタイ・ロッド(11)とが相互に係合する時に、切欠部(14)の開口領域と保持要素(15)とは、タイ・ロッド(11)の長手方向に直角な方向に見て相互に重なり合う」点を限定したものである。

そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに本願発明を減縮したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3.に記載したとおり、引用発明、参考技術、設計変更例、慣用技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由(特に、相違点1ないし3並びに5に係る理由)により、引用発明、参考技術、設計変更例、慣用技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明、参考技術、設計変更例、慣用技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-29 
結審通知日 2012-06-01 
審決日 2012-06-18 
出願番号 特願2007-41788(P2007-41788)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
P 1 8・ 575- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 藤原 直欣
中川 隆司
発明の名称 大型ディーゼル・クロスヘッド・エンジン  
代理人 森 徹  
代理人 白江 克則  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ