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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03B
管理番号 1265388
審判番号 不服2010-13409  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-18 
確定日 2012-11-02 
事件の表示 特願2006-344697「構造化された表面を有するガラス部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年7月19日出願公開、特開2007-182372〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成18年12月21日(パリ条約による優先権主張2005年12月29日)の出願であって、平成21年7月17日付けで拒絶理由が通知され、同年12月21日付けで意見書および手続補正書が提出されたが、平成22年2月5日付けで拒絶査定されたので、同年6月18日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年6月18日付けで誤訳訂正書により明細書が補正され、平成23年12月28日付けで特許法第164条3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、平成24年3月27日に回答書が提出されたものである。

第2 平成22年6月18日付け誤訳訂正書による手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年6月18日付け誤訳訂正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正前及び補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、「少なくとも1つの凹部(16、16a、16b)を有する鋳型(10、10a、10b)を提供するステップ」における凹部の形成方法として、「前記凹部が、前記鋳型に対して、ドリルで穴をあけること、切削、またはレーザを用いた方法によって形成されるステップ」によることを限定するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。
本願補正発明は、次のとおりのものである。
「構造化された表面を有するガラス部材を製造する方法であって、
表面(20)を有し、そこから延びる少なくとも1つの凹部(16、16a、16b)を有する鋳型(10、10a、10b)を提供するステップであって、前記凹部が、前記鋳型に対して、ドリルで穴をあけること、切削、またはレーザを用いた方法によって形成されるステップと、
前記鋳型(10、10a、10b)の前記表面(20)上にガラス基板(12)を載置するステップと、
前記鋳型(10、10a、10b)および前記基板(12)をガラス転移点Tgより高い温度に加熱するステップと、
前記凹部(16、16a、16b)の底部(30)に接触することなく、前記鋳型の各凹部(16、16a、16b)で凸部(18)を生成するために、前記鋳型(10、10a、10b)の前記表面(20)に前記ガラス基板(12)をプレスするステップであって、このガラス基板の(12)の粘度が、0.5・10^(8)dPas?2・10^(9)dPasで、かつ、プレス圧力が1?6MPaであるステップと、を含む方法。」

2.刊行物に記載された発明
ア 引用例1の記載事項
これに対し、本願優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開平7-149528号公報(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。
(ア)「耐熱性があり高強度な母材と、前記母材のプレス面に形成された貴金属系合金保護層とからなり、マイクロレンズに対応する孔を多数個配列したマイクロレンズアレイ成形用型。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「貴金属系合金保護層に塗布したレジストにマスクを通して露光、現像し、エッチングにより前記保護層にマイクロレンズに対応する孔を多数個形成することを特徴とするマイクロレンズアレイ成形用型の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項4)
(ウ)「露光後、感光した部分のレジストを現像して除去した。図1(b)はこの時の状態を示している。次にAr^(+ )イオンビームによりレジスト2に覆われていない部分の保護層3を垂直方向に深さにして7μmエッチングし、その後表面に残っていたレジストを除去した。」【0016】
(エ)「次に、この様にして得た型を使用して、ガラス板をプレス成形することにより、マイクロレンズアレイを製造する方法を示す。図3(a)に示すように、前記マイクロレンズアレイ成形用型と平面型との間に、転移点430℃のSF系の平板状のガラス素材5を設置した。この平面型もマイクロレンズアレイ成形用型と同様に、WCを主成分とする超硬合金からなる母材7上にPt-Ir合金の保護層6を形成したものを使用した。」【0018】
(オ)「成形は窒素雰囲気中で行い、ガラス素材5を予め加熱した後に、プレス成形する。その結果図3(b)に示すように、成形型のエッチング除去された窪みの部分でガラスの表面に凸形状が形成されてマイクロレンズアレイ5が製造される。勿論、この場合、窪みの深さは、図示の通り、形成するマイクロレンズの厚みよりも深く形成されている。」【0019】
(カ)「以上のように、成形型には、マイクロレンズのレンズ曲面と異なる形状の孔が形成されているため、温度、圧力、時間の各成形条件を調整することによりマイクロレンズのレンズ曲面を所望の形状に制御することが可能である。」【0022】

イ 引用例1に記載された発明
まず、成形用型に関しては、記載事項(ア)によれば、引用例1には、マイクロレンズに対応する孔を多数個配列したマイクロレンズアレイ成形用型が記載されており、同(イ)によれば、当該孔は、エッチングにより形成されるものであり、同(ウ)によれば、具体的には、Ar^(+ )イオンビームにより7μm程度の深さにエッチングされている。そして、同(オ)の記載によれば、当該孔の深さは、マイクロレンズを成形するに十分な深さであるといえる。
次に、当該成形用型を用いてマイクロレンズアレイを製造する方法に関しては、マイクロレンズアレイ成形用型と平面型との間に、平板状のガラス素材を設置し(同(エ))、窒素雰囲気中で該ガラス素材を予め加熱した後にプレス成形することにより行う(同(オ))。
したがって、引用例1には、次の発明(以下「引用例1発明」という)が記載されている。
「マイクロレンズアレイを製造するにあたり、エッチングにより形成された孔が多数配列された成形用型を用い、該成形用型と平面型との間にガラス素材を設置し、該ガラス素材を予め加熱した後にプレス成形することからなるマイクロレンズアレイ製造方法。」

3.対比と判断
(1)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明は「マイクロレンズアレイ製造方法」に関する発明であるが、これはガラス基板上にマイクロレンズを形成する方法であるので、本願補正発明の「構造化された表面を有するガラス部材を製造する方法」に相当する。
そして、使用する型に関しては、引用例1発明の成形型も本願補正発明の鋳型も、予め加熱されたガラス素材に加圧して、成形型(鋳型)の孔(凹部)に対応する部分に凸部を形成するという共通の機能を有する。このため、引用例1発明における「多数配列された孔」、「成形型」は、それぞれ、本願補正発明における「少なくとも1つの凹部」、「鋳型」に対応する。
また、当該鋳型を使用したマイクロレンズアレイの製造方法に関しては、引用例1発明と本願補正発明とは、鋳型の表面上にガラス基板を載置し、鋳型および前記基板を高温度に加熱し、鋳型の各凹部で凸部を生成するために鋳型の前記表面にガラス基板をプレスする点で共通する。
さらに、引用例1発明でも、凹部は形成するマイクロレンズの厚みよりも深く形成されている(同(オ))ので、プレス成形にあたりガラス表面は凹部の底部に接触することはない。このため、ガラス基板は「凹部の底部に接触することなく」成形されている点で、本願補正発明と共通する。
したがって、引用例1発明と本願補正発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
ア 一致点
「構造化された表面を有するガラス部材を製造する方法であって、
表面を有し、そこから延びる少なくとも1つの凹部を有する鋳型を提供するステップと、
前記鋳型の前記表面上にガラス基板を載置するステップと、
前記基板を加熱するステップと、
前記凹部の底部に接触することなく、鋳型の各凹部で凸部を生成するために鋳型の表面にガラス基板をプレスするステップを含む方法。」
イ 相違点
(i)凹部の形成方法に関し、本願補正発明は、「鋳型に対して、ドリルで穴をあけること、切削、またはレーザを用いた方法によって形成される」のに対し、引用例1発明は、エッチングにより形成する点。
(ii)鋳型を用いた成型方法に関し、本願補正発明が、鋳型およびガラス基板を「ガラス転移点Tgより高い温度に」加熱し、ガラス基板の粘度を0.5・10^(8)dPas?2・10^(9)dPasとし、プレス圧力が1?6MPaでプレスする点に関し、引用例1発明では具体的に明記していない点。

(2)判断
ア 相違点(i)について
審判請求人は、相違点(i)に関して審判請求書において、(a)本願補正発明はドリル、切削、レーザーにより凹部を形成するので、例えばエッチングにより形成する場合に比べて凹部を深く形成できる旨を主張する。また、回答書では、(b)ドリルで穴を開けたり、切削加工を行うことは、一般的な光学部品の製造には適していない旨を主張する。
しかし、(a)の主張に関しては、引用例1発明においても、記載事項(オ)に記載されているように、窪みの深さは、形成するマイクロレンズの厚みよりも深く形成されているので、必要な深さの凹部を形成しているといえる。このため、必要な深さの凹部を形成する点で、ドリル、切削加工、レーザーによることは、エッチングによることと技術的な差異はない。
また、(b)の主張に関しては、一般的なガラス製品の成形型の製造にあたり、例えば切削加工を行うことは、当業者が通常採用するところである。この点について、必要なら、例えば次の刊行物を参照されたい。特開平8-40731号公報の0014段落、特開2004-339000号公報の0002、0005段落。
したがって、引用例1発明で凹部形成に採用されているエッチングに代えて、切削加工を採用することは、当業者が容易になしうるところであり、その効果も格別のものとすることはできない。

イ 相違点(ii)について
記載事項(カ)に記載されているように、引用例1発明においても、温度、圧力、時間の各成形条件を調整することによりマイクロレンズのレンズ曲面を所望の形状に制御することとしているので、その制御の過程で、ガラス基板の粘度、プレス圧力等は適切な範囲に調整されていると認める。
また、本願補正発明では、鋳型とガラス基板を加熱することとするが、引用例1発明はガラス基板の加熱とあわせて鋳型を加熱することまでは明記していないが、鋳型は加熱されたガラスに加圧成形する以上、ガラス基板と同等の温度に予め加熱することは当然のことである。
したがって、引用例1発明において相違点(ii)の点を採用することは、当業者が適宜なしうるところである。

4.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成22年6月18日付け誤訳訂正書による手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成21年12月21日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「構造化された表面を有するガラス部材を製造する方法であって、
表面(20)を有し、そこから延びる少なくとも1つの凹部(16、16a、16b)を有する鋳型(10、10a、10b)を提供するステップと、
前記鋳型(10、10a、10b)の前記表面(20)上にガラス基板(12)を載置するステップと、
前記鋳型(10、10a、10b)および前記基板(12)をガラス転移点Tgより高い温度に加熱するステップと、
前記凹部(16、16a、16b)の底部(30)に接触することなく、前記鋳型の各凹部(16、16a、16b)で凸部(18)を生成するために、前記鋳型(10、10a、10b)の前記表面(20)に前記ガラス基板(12)をプレスするステップであって、このガラス基板の(12)の粘度が、0.5・10^(8)dPas?2・10^(9)dPasで、かつ、プレス圧力が1?6MPaであるステップと、を含む方法。」

2.進歩性の判断
本願発明は、上記第2[理由]で検討した本願補正発明の「少なくとも1つの凹部(16、16a、16b)を有する鋳型(10、10a、10b)を提供するステップ」について、「前記凹部が、前記鋳型に対して、ドリルで穴をあけること、切削、またはレーザを用いた方法によって形成されるステップ」によることの特定事項を解除したものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2の[理由]3(2)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-31 
結審通知日 2012-06-07 
審決日 2012-06-22 
出願番号 特願2006-344697(P2006-344697)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03B)
P 1 8・ 575- Z (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増山 淳子  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官
田中 則充
斉藤 信人
発明の名称 構造化された表面を有するガラス部材の製造方法  
代理人 川崎 実夫  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 河津 康一  

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