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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L |
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管理番号 | 1265416 |
審判番号 | 不服2010-11609 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-05-31 |
確定日 | 2012-11-01 |
事件の表示 | 特願2001-239026「密閉容器入り飲料の製造方法及び製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年4月15日出願公開、特開2003-111579〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成13年8月7日(優先権主張 平成13年7月31日)の出願であって、平成22年3月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年5月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成22年8月23日付けで、前置審査において拒絶理由が通知され、これに対して、平成22年11月1日に意見書が提出され、平成24年4月26日付けの審尋に対し、平成24年7月9日に回答書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成22年5月31日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「香料が添加された密閉容器入り飲料を製造するための密閉容器入り飲料の製造方法であって、 飲料原料液を加熱殺菌する加熱殺菌工程と、 前記加熱殺菌工程にて加熱殺菌された飲料原料液中に、無菌環境下で、バックインボックス中に無菌状態で貯留されている非加熱の香料を添加し、混合する混合工程と、 前記混合工程にて香料と混合された無菌状態の飲料原料液を、飲料充填部分だけがアセプティック環境下に置かれている充填装置により、無菌的に密閉容器内に充填する充填工程と、を含む密閉容器入り飲料の製造方法。」(以下、「本願発明」という。) 3 引用刊行物の記載事項 前置審査における拒絶理由に引用され、本願優先日前に頒布された以下の刊行物1及び2は、次の事項がそれぞれ記載されている。(下線は、当審で付した。) (1)刊行物1:特開2001-54374号公報の記載事項 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】加熱殺菌処理した飲料成分と濾過による除菌処理を行った香料とを無菌下で調合し、容器に充填することを特徴とする容器に充填された飲料の製造方法。」 (1b)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、味と香りに優れた、容器に充填された飲料を製造する方法に関する。 【0002】 【従来の技術及びその課題】例えば、コーヒー飲料は、コーヒー抽出液、乳成分、pH調整剤、酸化防止剤、甘味料、香料等から生成される。従来は、これらの混合して、加熱殺菌処理して、殺菌された容器に充填して、製品を製造する。その殺菌条件は、食品の衛生法上の観点から厳しいものであり、その為飲料素材が持っている本来の芳醇な香りや味を低下させ、特に香りが著しく損なわれる。」 (1c)「【0007】以上コーヒーについて説明したが、これは、コーヒーに限らず,紅茶、緑茶、果汁等の味と香りとが重視される種々の飲料にも言えることである。」 (1d)「【0010】 【実施例及び比較例】実施例1 図1に示した製造方法のごとく従来の公知の方法によってコーヒー抽出液(コーヒー固形分)を得て、表1の処方に基づくpH調整剤を添加した後、131℃にて30秒の殺菌をした(これを成分1とする)。又、これとは別に香料成分については、口径0.45μmサイズのフイルターにて濾過除菌した(これを成分2とする)。次に成分1及び2を無菌タンク内で混合調整した後、予め滅菌された容器内に無菌下にて充填を行い飲料を得た。」 (1e)「【0015】 【発明の効果】本発明によれば、香料を非加熱である濾過除菌することにより、従来の方法である加熱殺菌で生じていた劣化を抑えることができ、更に飲料素材の本来の香り、味を再現することができた。」 (2)刊行物2:特開平9-128643号公報の記載事項 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】カップ式飲料自動販売機内に、調理中ないし調理後に点滴注入物質を注入できるように点滴注入物質を保存する容器と、該容器から点滴注入物質を点滴する点滴注入装置と、該点滴注入装置の点滴注入量と注入のタイミングをコントロールする制御装置とを設けたことを特徴とする点滴注入装置付カップ式飲料自動販売機。」 (2b)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、カップ式飲料自動販売機内に、レギュラーコーヒーの品質向上を奏させるために、調理中ないし調理後に点滴注入物質を注入できるように点滴注入装置を設けたカップ式飲料自動販売機に関するものである。」 (2c)「【0012】そして、図1に示すように、1は抽出機、2はキャニスター、3は各種原料のシューター、4はミキシングボール、5は点滴注入装置、6はベンドステージ、7はカップ、8は保存容器、9は制御装置、10はコイン投入口、11は商品選択釦、12はコインメックである。以下このミキシングボール式自動販売機の全体像を概略説明する。 【0013】・・・調理済み飲料がカップ内に注がれると同時に点滴注入物質が点滴注入される。・・・ミキシングボール4で攪拌調理された飲料がベンドステージ6で待機しているカップ7に注がれる。この時に、点滴注入物質である液体香料や濃縮エキス等(以下点滴注入物質という)が保存された保存容器8を介して点滴注入装置5から点滴注入物質が点滴注入量と注入のタイミングを制御装置9によりコントロールされて注入される。」 (2d)「【0017】次に点滴注入装置の具体的な実施例を2例説明する。図5に示したものは、自然落下式のもので、保存容器8とホース13と点滴注入部14と電磁弁15からなり、自然落下式は、重力によって落ちるため、保存容器8にはどうしてもエアー抜きが必要になる。このエアー抜きは、保存容器8に入れる物質にもよるが、細菌に汚染されやすい物質には、除菌フィルターを付け、または揮発性の高い物質の場合は、電磁弁15等を装着し外気との遮断が必要になる。」 (2e)「【0018】図6に示したものは、ポンプ式のもので、保存容器8とホース13と点滴注入部14とホースポンプ16からなり、ポンプ式は、強制的に吸い上げるため、自然落下式のようなエアー抜きは必要なく、保存容器8をバックインボックスなどのように、フィルム状の袋にすることにより、完全密閉構造が可能なため、細菌に汚染されやすい物質、揮発性の高い物質にも対応が可能である。また、液体香料など、温度の変化による変性が考えられる物質の場合は、簡易冷却装置による保存容器8の冷却を、考える必要があるのはいうまでもない。」 (2f)「【0019】 【発明の効果】本発明は、以上の構成に基づいて、次の効果を得ることができる。 (1)調理中ないし調理後に、点滴注入物質である液体香料や濃縮エキス等を点滴注入できるようになり、レギュラーコーヒーなどの、劣化しやすい原料を使用する場合、飲料の香り、味を現状より長期間、維持向上させることが可能となる。 (2)まったく系統の違う香料や、濃縮エキスなどを注入することにより、新しいタイプの飲料の創造にもつながる。」 3 対比・判断 刊行物1の記載事項(上記(1a)(1d))から、刊行物1には、 「加熱殺菌処理した飲料成分と、濾過による除菌処理を行った香料とを、無菌タンク内で混合調整した後、予め滅菌された容器内に無菌下にて充填する飲料の製造方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。 (ア)刊行物1発明の「加熱殺菌処理した飲料成分」について、「飲料成分」は、刊行物1に「例えば、コーヒー飲料は、コーヒー抽出液、乳成分、pH調整剤、酸化防止剤、甘味料、香料等から生成される。」(上記(1b))と記載されていることから、飲料の原料となる液体成分であり、本願発明の「加熱殺菌工程にて加熱殺菌された飲料原料液」に相当する。 (イ)刊行物1発明の「濾過による除菌処理を行った香料」は、加熱殺菌による劣化を防止したものであるから(上記(1d)(1e))、当然非加熱のものであり、本願発明の「バックインボックス中に無菌状態で貯留されている非加熱の香料」とは、無菌状態の非加熱香料である点で共通する。 (ウ)刊行物1発明の「無菌タンク内で混合調整」することは、本願発明の「無菌環境下で」「混合する混合工程」に相当する。 (エ)刊行物1発明の「予め滅菌された容器内に無菌下にて充填する」ことについて、このような充填は、アセプチック環境下の充填装置で行われること、容器が密閉容器であることは技術常識であるから、本願発明の「飲料充填部分だけがアセプティック環境下に置かれている充填装置により、無菌的に密閉容器内に充填する充填工程」とは、アセプティック環境下の充填装置により、無菌的に密閉容器内に充填する充填工程である点で共通する。 (オ)刊行物1発明の「飲料の製造方法」は、その構成からみて、本願発明の「香料が添加された密閉容器入り飲料を製造するための密閉容器入り飲料の製造方法」に相当する。 そうすると、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 香料が添加された密閉容器入り飲料を製造するための密閉容器入り飲料の製造方法であって、 飲料原料液を加熱殺菌する加熱殺菌工程と、 前記加熱殺菌工程にて加熱殺菌された飲料原料液中に、無菌環境下で、無菌状態の非加熱の香料を添加し、混合する混合工程と、 前記混合工程にて香料と混合された無菌状態の飲料原料液を、アセプティック環境下の充填装置により、無菌的に密閉容器内に充填する充填工程と、を含む密閉容器入り飲料の製造方法である点。 (相違点1) 無菌状態の非加熱の香料が、本願発明では、バックインボックス中に貯留されているのに対し、刊行物1発明では、濾過による除菌処理を行ったものである点。 (相違点2) アセプティック環境下の充填装置が、本願発明では、飲料充填部分だけがアセプティック環境下に置かれている充填装置であるのに対して、刊行物1発明では、無菌下で充填することを規定するにとどまる点。 そこで、上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 刊行物2(上記(2a)(2c))には、カップ式飲料自動販売装置により、調理済みのコーヒー等の飲料に、液体香料等の点滴注入物質を保存容器から点滴注入装置により注入することが記載されている。 そして、この点滴注入装置が、自然落下式の場合は、保存容器8に除菌フィルターを付けて細菌による汚染を防止すること(上記(2d))、ポンプ式の場合は、保存容器8をバックインボックスなどにすることで、密閉構造として細菌による汚染を防止すること(上記(2e))が記載されている。 刊行物1発明と、刊行物2に記載されたものとは、飲料の製造形態は異なるものの、いずれも飲料製造時に細菌による汚染が問題となる点で共通するものであるから、刊行物1において、香料を濾過により除菌処理することに代えて、刊行物2に除菌フィルターによる除菌とともに記載された、香料等を密閉構造のバックインボックス中に貯留することを採用することは、当業者が容易になし得たことといえる。 (相違点2について) 飲食品等のアセプティック環境下での充填において、無菌室をできるだけ小型簡素化することが、本願出願前の周知の技術課題であることは、以下の周知例に記載のとおりである。 ・特開昭63-307026号公報(特許請求の範囲、2頁左上欄17行?右上欄1行)には、「無菌室内をできるだけ簡素化して、該無菌室内をできるだけ高水準の無菌雰囲気に維持することが必須の無菌充填方法」であり、「密封容器の首部をネックチャックで固定して、以下該ネックチャックで結果的に区画形成される無菌室内で、該密封容器の頭部回り外部を殺菌処理し・・・口部から容器内へ殺菌後の飲食品を充填して、更に該口部を別に殺菌処理したシール材で密封・・・する飲食品の無菌充填方法。」が記載され、飲料充填部分だけ無菌状態とすることが記載されている。 ・実願昭60-186235号(実開昭62-95595号)のマイクロフィルム(実用新案登録請求の範囲)には、「充填ノズルの周囲に清浄エアの噴射部を設け、清浄エアを充填ノズルの周囲から充填容器の容器開口部の周囲に向けて噴射させて充填ノズルと容器開口部との間に清浄エアカーテンを形成する・・・充填機。」が記載され、充填部分だけが、無菌状態とすることが記載されている。 そうすると、刊行物1発明において、無菌下で容器に充填する構成をできるだけ小さいものとし、充填部分だけがアセプティック環境下に置かれている充填装置で充填することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。 (本願発明の効果について) 本願発明の、香料を添加した調合液が加熱されないので、香料が熱的に劣化することがなく、香りが自然で新鮮な風味の密閉容器入り飲料を得ることができるという効果(【0043】)は、刊行物1及び2の記載事項から予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえいない。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-30 |
結審通知日 | 2012-09-04 |
審決日 | 2012-09-18 |
出願番号 | 特願2001-239026(P2001-239026) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 正展、田中 晴絵 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
▲高▼岡 裕美 関 美祝 |
発明の名称 | 密閉容器入り飲料の製造方法及び製造装置 |
代理人 | 正林 真之 |