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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1265428
審判番号 不服2011-3063  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-09 
確定日 2012-11-01 
事件の表示 特願2007-230744「振動子、発振器及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月 7日出願公開、特開2008- 29030〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月25日に出願した特願2001-392904号(優先権主張:平成12年12月25日)の一部を平成16年6月21日に新たに特許出願した特願2004-182628号の一部を平成19年9月5日に新たに特許出願したものであって、平成22年2月12日付けで拒絶理由が通知され、同年4月26日付けで手続補正書が提出され、同年11月5日付けで拒絶査定され、これに対して平成23年2月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成23年2月9日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。

「基部と、この基部から突出して形成されている振動腕部と、を有する振動片であって、
前記基部には切り込み部が形成され、
前記振動腕部の表面部及び裏面部には有底の溝部が形成され、
前記振動腕部の短辺である振動腕部幅は、50μm以上150μm以下であり、
前記表面部及び裏面部の少なくともいずれか一方の溝部の深さは、前記振動腕部の深さ方向の全長である前記振動腕部の厚みに対して40%以上50%未満であり、
前記溝部の開口における短辺である溝幅であって、前記表面部及び裏面部の少なくともいずれか一方の溝幅は、前記振動腕部幅に対して40%以上100%未満であり、
前記振動片のCI値は100KΩ以下であることを特徴とする振動片。」


3.引用例
原査定において引用された国際公開第00/44092号(以下、「引用例」という)には、下記の事項が記載されている。

(あ)「(第2の実施の形態)
第3図は、第2の実施の形態に係る電極が設けられていない音叉型水晶振動子200を示す概略斜視図である。
この音叉型水晶振動子200は、例えば水晶の単結晶から切り出され音叉型に加工されて形成されている。このとき、第3図に示すX軸が電気軸、Y軸が機械軸及びZ軸が光軸となるように水晶の単結晶から切り出されることになる。このように電気軸が第3図のX軸方向に配置されることにより、高精度が要求される時計及び時計付き機器全般に好適な音叉型水晶振動子200となる。
また、水晶の単結晶から切り出す際、上述のX軸、Y軸及びZ軸からなる直交座標系において、X軸回りに、X軸とY軸とからなるXY平面を反時計方向に約1度乃至5度傾けた、所謂水晶Z板として、音叉型水晶振動子200が形成されることになる。
この音叉型水晶振動子200は、上述の第1の実施の形態に係る音叉型の振動子100と同様に、基部である固定部230と、この固定部230から図においてY軸方向に突出するように形成された例えば2本の振動細棒220とを有している。また、この2本の振動細棒220の第1及び第2の表面には、第3図に示すように溝220aがそれぞれ形成されている。
このように形成されている第3図に示す音叉型水晶振動子200には、第4図に示すように第1の電極である電極240a,第2の電極である電極240b,第3の電極である電極240cが配置されることになる。すなわち、電極を固定部230から振動細棒220にかけて配置するに際し、電極は振動細棒220の側面及び前記第1及び第2の表面には、それぞれ電極240b、240aが設けられている。また、電極240aは、振動細棒220の溝220aの内部にも設けられている。」(明細書第10頁第19行?第11頁第14行)

(い)「以上のように形成されている音叉型水晶振動子200は、例えば共振周波数が32.768kHであるにもかかわらず、従来の32.768kHの音叉型水晶振動子と比べ、小型となっている。例えば図5に示すように構成されている。
すなわち、図5に示す音叉型水晶振動子200のY軸方向の長さは、例えば約2.2mm程度となっており、音叉型水晶振動子200のX軸方向の幅は、約0.56mm程度となっている。この寸法は、図10の従来の音叉型水晶振動片10の寸法である、3.6mm(Y軸方向)、0.69mm(X軸方向)と比べ著しく小さくなっている。
また、図5に示す振動細棒220のX軸方向の長さは、例えば約1.6mm程度であり、各振動細棒220のX軸方向の幅は、例えば0.1mm程度となっている。このような振動細棒220の大きさは、図10に示す振動細棒12の寸法である2.4mm(Y軸方向)、0.23mm(X軸方向)と比べ、著しく小さくなっている。
一方、この音叉型水晶振動子200のZ軸方向である音叉型水晶振動子の厚みは、例えば約0.1mm程度となっており、これは、従来の音叉型水晶振動子200の厚みと略同様となっている。しかし、本実施の形態に係る音叉型水晶振動子200の振動細棒220には、上述のように溝220aが形成されており、この溝220aは、振動細棒220上においてY軸方向に例えば約1.3mm程度の長さに形成されている。この溝220aのX軸方向の幅は、図5に示すように例えば約0.07mm程度であり、そのZ軸方向の深さは、例えば約0.02mm程度となっている。」(明細書第12頁第4行?第24行)

(う)図5には、X軸方向にとられた振動細棒220の短辺の長さ、すなわち振動細棒220の幅の長さが0.1mmであり、同方向にとられた溝の幅の長さが0.07mmであることが記載されているので、溝の幅の長さは振動細棒220の幅の70%の長さになっている。

(え)上記(い)には、音叉型水晶振動子の厚みが0.1mm、溝の深さが0.02mmとすることが記載されているので、溝の深さは音叉型水晶振動子の厚みの20%の深さになっている。

(お)図6には、振動細棒220が有底の溝を有していることが記載されている。


上記(あ)乃至(お)及び関連図面の記載から、引用例には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「基部と、この基部から突出して形成されている振動細棒と、を有する振動子であって、
前記振動細棒の第1及び第2の表面には有底の溝が形成され、
前記振動細棒の短辺である振動細棒の幅は0.1mmであり、
前記溝の深さは、前記振動細棒の厚みに対して20%であり、
前記溝の幅は、前記振動細棒の幅に対して70%である振動子。」


4.対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
引用発明の「振動細棒」、「第1及び第2の表面」、「溝」は、本願発明の「振動腕部」、「振動腕部の表面部及び裏面部」、「溝部」に相当している。
引用発明の「振動子」は、基部と基部から突出して形成されている振動細棒とを有したものなので、本願発明の「振動片」に相当しているといえる。
引用発明の「振動細棒の幅は0.1mm」の値は、「50μm以上150μm以下」の値であるから、引用発明の「前記振動細棒の短辺である振動細棒の幅は0.1mm」は、本願発明の「前記振動腕部の短辺である振動腕部幅は、50μm以上150μm以下」に相当している。
引用発明の「振動細棒の幅に対して70%」の値は、「40%以上100%未満」の値であるから、引用発明の「前記溝の幅は、前記振動細棒の幅に対して70%」は、本願発明の「前記溝部の開口における短辺である溝幅であって、前記表面部及び裏面部の少なくともいずれか一方の溝幅は、前記振動腕部幅に対して40%以上100%未満」に相当している。

(2)本願発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、

「基部と、この基部から突出して形成されている振動腕部と、を有する振動片であって、
前記振動腕部の表面部及び裏面部には有底の溝部が形成され、
前記振動腕部の短辺である振動腕部幅は、50μm以上150μm以下であり、
前記溝部の開口における短辺である溝幅であって、前記表面部及び裏面部の少なくともいずれか一方の溝幅は、前記振動腕部幅に対して40%以上100%未満であることを特徴とする振動片。」

の点で一致する。

(3)本願発明と引用発明の相違点について
本願発明と引用発明は、下記の点で相違する。

(相違点A)
本願発明は、基部に切り込み部が形成されているのに対し、引用発明の基部には切り込み部が形成されていない点。

(相違点B)
本願発明の溝部の深さは、「前記表面部及び裏面部の少なくともいずれか一方の溝部の深さは、前記振動腕部の深さ方向の全長である前記振動腕部の厚みに対して40%以上50%未満」であるのに対し、引用発明の溝部の深さは20%である点。

(相違点C)
本願発明のCI値は、「前記振動片のCI値は100KΩ以下である」のに対し、引用発明はそのような値とはされていない点。


4.当審の判断
(1)相違点Aについて
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭59-183520号公報(第2頁右上欄14行?左下欄2行、第3頁右下欄13行?20行)には、基部に凹部(本願発明の「切り込み部」に相当)を設けることで、基部での振動モレを低減してR1が高くなることを防止できることが記載され、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭49-34789号公報(第1頁右下欄10行?17行、第2頁左上欄5行?10行)には、下方部(本願発明の「基部」に相当)に切込み部を形成することで、下方部分への振動の影響を無くすことができ、また、クリスタルインピーダンスを小さくすることができることが記載されているように、音叉型水晶振動子では、基部において振動漏れを生じることが周知の技術課題とされているところ、当該周知の技術課題を解決するために、基部に切り込み部を形成して振動漏れを防止しCI値の低減を図ることは周知技術となっている。

そして、引用発明は振動細棒に有底の溝が形成されているため、振動細棒に溝が形成されていない上記周知技術とは振動細棒の構造が異なるものの基本構造が音叉型振動子であることを考慮すれば、引用発明においても振動細棒に溝が形成されていない音叉型振動子が有する振動漏れが生じてCI値を増加させるという周知の技術課題が生じていることが予測できるので、当該周知の技術課題を解決するために上記周知技術である、基部に切り込み部を形成する構成を引用発明に適用して振動漏れを防ぎCI値の低減を図ることには、何ら困難性は認められない。

よって、引用発明の基部に上記周知技術の構成を採用して切り込み部を形成し相違点Aの構成とすることは、格別なものではない。

なお、請求人は、平成24年6月11日付け回答書の第4頁において、
「引用文献1に記載されている溝部を有する振動子では、振動腕部に形成される溝部の異形化により振動腕部の剛性、屈曲箇所の不均一化が生じ、振動腕部の屈曲振動に大きく影響を与える要素に大きな差が生じるので,このような要素に十分配慮して設計を行わなければなりません。・・・中略・・・このように振動特性について振動腕部の不均一化によるバラツキを回避することを十分に考慮して設計を行うという設計思想を有する引用文献1に記載されている発明に、振動腕部の不均一化による屈曲振動への影響を回避しようとすることに対する技術思想が記載も示唆もされていない引用文献2,3に記載されている振動子の切り込み部を組み合わせることは、当業者といえども容易に想到し得るものではありません。」
と主張している。
しかしながら、上述したように、引用発明の振動細棒に溝が形成されていたとしても、引用発明の基本構造は音叉型振動子であるから、振動漏れが生じてCI値を増加させるという周知の技術課題が生じることは当業者であれば予測の範囲内のものであり、また、振動漏れが生じてCI値を増加させる周知の技術課題に対して基部に切り込み部を形成する対処法が周知技術であれば、振動漏れの防止やCI値の低減のために当該対処法を試みることは当業者であれば自然なことであるから、上記請求人の主張を採用することはできない。

(2)相違点Bについて
引用発明では、溝の深さは振動細棒の厚みに対して20%に設定されているが、引用例には、10頁3行?4行に「溝120aの深さは深い方がよい」、同12行?13行に「電極140aを深さ方向にすべてにわたって形成できるならば、溝120aは表面、裏面で繋がってしまっても良い」(すなわち、溝の深さが厚みに対して50%)と記載されているように、溝の深さは振動細棒の厚みに対して20%だけではなく、20%を超えて50%以下の範囲のものが記載されているといえる。
さらに、引用例には、音叉型振動子の振動細棒に形成された溝の深さとCI値との関係について、14頁21行?22行には「第8図の表からも明らかなように溝220aの深さが深い程、CI値が下がり」と記載されている。
つまり、溝の深さは20%以上50%以下であって、溝の深さは深いほど好ましいのであるから、その範囲の中でより溝の深さが大きい範囲を選択することは設計的事項にすぎないということができる。なお、溝の深さが50%になれば、貫通してしまって溝ではなく孔になってしまうから、溝の深さを50%未満にとどめることに格別な点はない。

してみると、引用例の上記記載に接した当業者であれば、音叉型振動子のCI値のさらなる低減を図るために、有底の溝を有する引用発明の溝の深さを振動細棒の幅に対して20%よりも深い40%以上50%未満の範囲に設定することは、容易に推考できたものである。

よって、引用発明の溝の深さを振動細棒の厚みに対して40%以上50%未満として、相違点Bの構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

なお、請求人は、平成23年2月9日付け審判請求書の第4頁において、
「本願の請求項1に係る発明では、基部に切り込み部を形成し、振動腕部の表面部及び裏面部には有底の溝部を設けたことにより、振動子としての特性が引用文献1に記載された発明とは、全く異なるものとなり、当然溝の深さに対するCI値特性も引用文献1に記載された発明とは異なるものとなります。このようなCI値特性が全く異なる本願の請求項1に係る発明の構成において、CI値のバラツキを抑えるために、その溝部の深さを振動腕部の深さ方向の全長である振動腕部の厚みに対して40%以上50%未満に選択することは、当業者といえども容易に想到し得るものではありません。」
と主張している。
しかしながら、上述したように、引用例には溝の深さとCI値との関係について、14頁21行?22行には「第8図の表からも明らかなように溝220aの深さが深い程、CI値が下がり」と記載されており、音叉型振動子ではCI値の低減が求められていること、振動細棒の厚みに対する溝の深さの最大値は50%であることを考慮すれば、引用例に記載された1実施例である20%の溝の深さよりも深い40%以上50%以下の溝の深さの方がCI値が低くなるために望ましいことは明らかである。よって、引用例の第8図の記載に接した当業者であれば、振動細棒に有底の溝を形成する場合、溝の深さを40%以上50%未満に設定することの方がむしろ自然であるといえる。また第8図には溝の深さが深いほどCI値の変化幅が小さくなることが記載されていることから、引用発明においてCI値を低くするために溝の深さを40%以上50%未満に設定すれば、自ずとCI値の変化幅も小さなものとなることは明らかである。

(3)相違点Cについて
本願発明の「振動片のCI値が100KΩ以下」となる事項は、引用発明に対して上記相違点A及びBの構成を有したことにより実現できた効果に基づく数値限定であると認められるので、引用発明に対して相違点A及びBの構成を有する振動片を当業者が容易に発明できたとすれば、当該振動片は相違点Cの事項である数値範囲を実現できるものであるといえる。
そして、上記(1)及び(2)に記載されているように、引用発明に対して相違点A及びBの構成を有する振動片は当業者が容易に発明できたものであり、また、振動片が実現できるCI値の範囲においてCI値をどのような値にするかは、振動片を適用する用途に応じて適宜決定する事項であることを鑑みれば、引用発明の振動片を相違点Cの事項とすることは、格別なものとはいえない。

(4)本願発明の作用効果について
また、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-03 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-18 
出願番号 特願2007-230744(P2007-230744)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑中 博幸  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 飯田 清司
本郷 彰
発明の名称 振動子、発振器及び電子機器  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  

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