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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01L
管理番号 1265436
審判番号 不服2011-13228  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-22 
確定日 2012-11-01 
事件の表示 特願2001-115085「トルクセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月23日出願公開、特開2002-310819〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成13年4月13日にされた特許出願である。そして、平成23年3月7日付けの手続補正により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされ、同年3月30日付けで拒絶査定がされ、同年4月5日に査定の謄本が送達された。これに対して、同年6月22日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。その後、当審の同年12月12日付け審尋に対し、平成24年2月8日付け回答書が提出された。

第2 本件補正の却下の決定
1.結論
本件補正を却下する。

2.理由
(1)補正の内容
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲(平成23年3月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲をいう。以下同じ。)の請求項1を以下のように補正するものである。なお、下線は、補正箇所を示す。

(本件補正前)
「【請求項1】ねじりトルクが加わるシャフトと、前記シャフトに対して同軸上に取り付けられ前記シャフトがねじれるのに伴って相対回転位置が変化する第一、第二リングと、前記第一、第二リングのそれぞれに軸方向に隙間を持って対峙する端面を有して前記第一、第二リングとはその回転方向に相対変位可能に支持される磁気回路構成部と、前記磁気回路構成部の対向する磁極間の磁束を検出する磁束密度検出手段と、前記第一、第二リングの相対回転位置が変化するのに伴って前記磁気回路構成部の磁場を変化させる磁場変化手段とを備えたことを特徴とするトルクセンサ。」

(本件補正後)
「【請求項1】ねじりトルクが加わるシャフトと、前記シャフトに対して同軸上に取り付けられ前記シャフトがねじれるのに伴って相対回転位置が変化する第一、第二リングと、前記第一、第二リングのそれぞれの端面に軸方向に隙間を持って対峙して、前記第一、第二リングとはその回転方向に相対変位可能に支持されるL字型の磁気回路構成部と、互いに対向する前記磁気回路構成部の端面の間に設けられ、当該端面間の磁束密度を検出し、該検出した磁束密度に応じた電圧信号を出力する磁束密度検出手段と、前記第一、第二リングの相対回転位置が変化するのに伴って前記磁気回路構成部の磁場を変化させて、前記磁束密度検出手段によって検出される前記磁気回路構成部の前記端面間の磁束密度を変化させる磁場変化手段とを備えたことを特徴とするトルクセンサ。」

本件補正は、本件補正前の「磁気回路構成部」、「磁束密度検出手段」及び「磁場変化手段」をそれぞれ限定するものであり、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
以下に掲げる刊行物1並びに周知例1及び2は、いずれも、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。

刊行物1:特開昭64-43737号公報
周知例1:特開平1-127927号公報
周知例2:実願昭53-119156号(実開昭55-36354号)
のマイクロフィルム

ア.刊行物1に記載された事項・引用発明
刊行物1には、以下の記載がある。

(ア)第1ページ左下欄第16行から第17行まで
「本発明は、電気式パワーステアリングの検出装置に関するものである。」

(イ)第1ページ右下欄第2行から第2ページ左上欄第19行まで
「本発明は、…(略)…入力軸と出力軸とを弾性カップリングにて連結し、…(略)…入力軸と出力軸のトルク差を検出する電気式パワーステアリングの検出装置で、無接点にてトルク差を検出するもので以下図面について説明する。
第1図は、本発明の実施例であって、1は増巾器、2A,2Bはヨーク、3A,3Bは該ヨーク2A,2Bの側壁に固定した永久磁石、4A,4Bは該永久磁石3A,3Bと相対向する位置に配したフランジで、第2図,第3図に図示しているようにフランジ4A,4Bにはそれぞれ突出部4A’,4B’が形成され、突出部4A’,4B’のそれぞれが所定の角度即ち50%ずつ重なり合った状態にて上記フランジ4A,4Bをそれぞれ弾性カップリング5に嵌入している。
6Aはステアリングハンドル(図示せず)からの操舵力が伝達される入力軸、6Bは出力軸、7は上記ヨーク2A,2Bとの間に配した磁気センサである。
入力軸6Aと出力軸6Bとの間に操舵力が働くと該出力軸6Bの反力により弾性カップリング5には歪を生じ、フランジ4Aと4Bの突出部(第1図,第2図,第3図において斜線部にて示されている。)の重なりが操舵力の向きにより増えたり、減ったりする。すると永久磁石3A,3B、ヨーク2A,2Bおよびフランジ4A,4Bで形成される磁気回路の抵抗が変化する。
その変化を磁気センサ7で検出し、増巾器1で増巾して入力軸6Aと出力軸6Bのトルク差を検出する。」

上記(イ)に記載されているように、入力軸6Aと出力軸6Bとが弾性カップリング5で連結されており、入力軸6Aにステアリングハンドルからの操舵力が伝達されることから、弾性カップリング5にねじりトルクが加わることは明らかである。また、フランジ4A、4Bが弾性カップリング5に嵌入していることから、弾性カップリング5がねじれるのに伴ってフランジ4A、4Bの相対回転位置が変化することも明らかである。
一方、第1図を参照すると、ヨーク2A、2Bの側壁に固定した永久磁石3A、3Bとフランジ4A、4Bの外周面とは、そのフランジ4A、4Bの半径方向に相対向していることが分かる。同じく第1図を参照すると、ヨーク2A、2Bとその側壁に固定した永久磁石3A、3Bとは、全体としてL字型をなしていることが分かる。
以上の(ア)及び(イ)の記載と第1図に示された事項とを総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「入力軸6Aと、出力軸6Bと、前記入力軸6A及び前記出力軸6Bを連結し、ねじりトルクが加わる弾性カップリング5と、
前記弾性カップリング5に嵌入し、前記弾性カップリング5がねじれるのに伴って相対回転位置が変化するフランジ4A及びフランジ4Bと、
ヨーク2A及びヨーク2Bと、当該ヨーク2A及び当該ヨーク2Bのそれぞれ側壁に固定され、前記フランジ4A及び前記フランジ4Bのそれぞれの外周面に半径方向に相対向して支持される永久磁石3A及び永久磁石3Bとからなり、全体としてL字型をなすヨーク2A、ヨーク2B、永久磁石3A及び永久磁石3Bと、
前記ヨーク2Aと前記ヨーク2Bとの間に配した磁気センサ7であって、前記ヨーク2A、前記ヨーク2B、前記永久磁石3A、前記永久磁石3B、前記フランジ4A及び前記フランジ4Bで形成される磁気回路の抵抗の変化を検出する磁気センサ7とを含み、
前記フランジ4Aと前記フランジ4Bの相対回転位置が変化するのに伴って、前記フランジ4Aの突出部4A’と前記フランジ4Bの突出部4B’との重なりが変化し、前記磁気回路の抵抗を変化させるトルク差検出装置。」

イ.周知例1に記載された事項
周知例1には、以下の記載がある。

(ア)第1ページ右下欄第11行から第15行まで
「本発明は、軸に生じたねじれ角を検出することによって、軸に加えられたトルクを検出するトルク検出装置に関し、特に自動車の電動パワーステアリングにおけるトルク検出用に適したトルク検出装置に関する。」

(イ)第3ページ右上欄第2行から左下欄第18行まで
「本発明の一実施例のトルク検出装置におけるトルクセンサについて、第1図を参照し説明する。
ねじれ棒1が被検出物としての軸に相当し、入力側1aと出力側1bとに分けて考える。…(略)…以上のねじれ軸1の入力側1aと出力側1bとにまたがるように、第1の磁極5、第2の磁極6、環状コイル9、固定鉄心7,8を備えたトルクセンサが設けられている。
第1の固定筒3及び第2の固定筒4はプラスチック等の絶縁物から成り、第1の回転筒3はねじれ棒1の入力側1aに第2の回転筒4は出力側1bにそれぞれ…(略)…固定されている。…(略)…
第1の磁極5と第2の磁極6は共にフェライト等の強磁性体から成り、第2図に示されるように一方の側面のそれぞれ歯状突起部5a,6aを有している。第1の磁極5は第1の回転筒3の外周に…(略)…固定される。第2の磁極6は第2回転筒4の外周に…(略)…固定される。環状コイル9は第1の磁極5と第2の磁極6との外周に設けられてあり、コイル端子12を有している。固定子鉄心7,8は共にフェライト等の強磁性体から成り、環状コイル9によりつくられた磁束が第1の磁極5と第2の磁極6との間を通って閉じられた磁路を形成するように、環状コイル9、第1の磁極5、第2の磁極6の外周に設けられている。」

(ウ)第4ページ左上欄第15行から右上欄第18行まで
「ねじれ軸1にトルクが加えられると、入力側1aと出力側1bとの間に相対的にねじれ角変位が生じる。これにより、入力側1aの外周に第1の回転筒を介して固定された第1の磁極5と、出力側1bの外周に第2の回転筒を介して固定された第2の磁極6との間に相対的に回転角変位が生じる。第1の磁極5の歯状突起部5aと第2の磁極6の歯状突起部6aの相対的に対向する面積がねじれ角変位に比例して変化し、環状コイル9の自己インダクタンスが変化する。
…(略)…
自己インダクタンスの変化した量は、第3図の検出回路によって電圧出力信号に変換される。」

上記(ア)から(ウ)までの記載を踏まえて第1図及び第2図を参照すると、周知例1に記載されたトルクセンサにおいて、閉じられた磁路を形成する第1の磁極5、第2の磁極6、固定子鉄心7及び固定子鉄心8は、互いにねじれ軸1の軸方向に対峙していることが分かる。

ウ.周知例2に記載された事項
周知例2には、以下の記載がある。

(ア)明細書第1ページ第15行から第17行まで
「本考案は被測定軸例えば自動車等の伝導軸の軸トルク出力を検出するための軸トルク検出装置に関する。」

(イ)明細書第2ページ第15行から第4ページ第13行まで
「本考案の第1実施例を示す第1図において、1は透磁性材からなる被測定軸で、これには軸方向に所定の間隔をおいて第1および第2の回転体22’が結合されている。両回転体2,2’は透磁性材からなり、それぞれ外周に周方向に等間隔で設けられた複数の歯2a,2a’を有している。3,3’は各回転体2,2’の外周側に配置された透磁性材からなる筒状の第1,第2の固定体で、それぞれベアリング4,4’により被測定軸1の回転によっても回転しないよう固定されている。この各固定体3,3’には各回転体2,2’の歯2a,2’aと同じ歯数で、かつこれと所定の空隙をおいて対向する歯3a,3’aがそれぞれ内周面に形成されている。5は円筒状で軸方向に着磁された永久磁石で、両固定体3,3’の間に介在された図示しないハウジングに固定されている。この磁石5の両極はそれぞれ両固定体3,3’の端面に接している。
6,6はそれぞれ非透磁性材からなるスペーサで、被測定軸1と各ベアリング4,4’との間に固定されている。7はコイルで、永久磁石5により供給され第1の固定体3、第1の回転体2,被測定軸1,第2の回転体2’および第2の固定体3’からなる磁気回路を通る磁束の変化を検出し得るよう永久磁石5の内周側で両固定体3,3’の間に固定されている。
…(略)…
上記構成において、被測定軸1が回転すると両回転体2,2’はこれと一体で回転する。そして両回転体2,2’の各歯2a,2’aは、対応する固定体3,3’の歯3a,3’aに順次対向していく。これにより磁気回路中に位置する各固定体と各回転体との間の空隙部の磁気抵抗が変化して磁気回路を流れる磁束数に変化が生じ、従つてコイル7に電圧が生じる。」

(ウ)明細書第7ページ第10行から第8ページ第10行まで
「第6図は本考案の第2実施例を示す。一般に固定体と被測定軸との間に配置されるベアリングは各回転体と固定体との空隙部の距離を一定に保つ機能を果すが、ベアリングは実際には微少のラジアルすきまをもつのが通常である。その際、ラジアル方向上で回転体の歯と固定体の歯とが対向する場合には、空隙部の距離の不規則な変動は、磁束数の変動となり、出力誤差要因となる。この点に着目してこの第2実施例は各回転体の歯と各固定体の歯とを被測定軸の軸方向に対向させ、各回転体のラジアル方向の変動によっても磁束数の変動がほとんど生じないようにしたものである。
すなわち、被測定軸11に結合された第1および第2の両回転体12,12’には、それぞれその外周部の側面に歯12a,12’aを設け、これに第1および第2の固定体13,13’の歯13a,13’aを軸11の軸方向から対向させている。16,16’は非透磁性材からなるリング、である。その他の構成は第1実施例と同様で14,14’はベアリング、15は永久磁石、17はコイルを示している。」

上記(ア)から(ウ)までの記載を踏まえて第6図を参照すると、周知例2に記載された軸トルク検出装置の第2実施例において、磁気回路を構成する被測定軸11、第1の回転体12、第1の固定体13、永久磁石15、第2の固定体13’及び第2の回転体12’のうち、第1の回転体12と第1の固定体13とが被測定軸11の軸方向に対峙し、第2の固定体13’と第2の回転体12’とが同じく被測定軸11の軸方向に対峙していることが分かる。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを比較すると、以下のとおりである。

引用発明の「入力軸6A」、「出力軸6B」及び「弾性カップリング5」は、「入力軸6A」と「出力軸6B」とが「弾性カップリング5」によって連結されて電動式パワーステアリングのステアリングシャフトを構成することが明らかであるから、引用発明の「入力軸6Aと、出力軸6Bと、前記入力軸6A及び前記出力軸6Bを連結し、ねじりトルクが加わる弾性カップリング5」は、本件補正発明の「ねじりトルクが加わるシャフト」に相当する。
引用発明の「前記弾性カップリング5に嵌入し、前記弾性カップリング5がねじれるのに伴って相対回転位置が変化するフランジ4A及びフランジ4B」は、本件補正発明の「前記シャフトに対して同軸上に取り付けられ前記シャフトがねじれるのに伴って相対回転位置が変化する第一、第二リング」に相当する。
引用発明の「ヨーク2A」、「ヨーク2B」、「永久磁石3A」及び「永久磁石3B」は、いずれも、回転する「入力軸6A」、「出力軸6B」及び「弾性カップリング5」から離れた位置に固定されていることが明らかであり、したがって、「弾性カップリング5」に嵌入する「フランジ4A」及び「フランジ4B」とはその回転方向に相対変位可能に支持されている。そうすると、引用発明の「ヨーク2A及びヨーク2Bと、当該ヨーク2A及び当該ヨーク2Bのそれぞれ側壁に固定され、前記フランジ4A及び前記フランジ4Bのそれぞれ…に相対向して支持される永久磁石3A及び永久磁石3Bとからなり、全体としてL字型をなすヨーク2A、ヨーク2B、永久磁石3A及び永久磁石3B」は、本件補正発明の「前記第一、第二リングのそれぞれ…に隙間を持って対峙して、前記第一、第二リングとはその回転方向に相対変位可能に支持されるL字型の磁気回路構成部」に相当する。
引用発明の「前記ヨーク2Aと前記ヨーク2Bとの間に配した磁気センサ7であって、前記ヨーク2A、前記ヨーク2B、前記永久磁石3A、前記永久磁石3B、前記フランジ4A及び前記フランジ4Bで形成される磁気回路の抵抗の変化を検出する磁気センサ7」は、本件補正発明の「互いに対向する前記磁気回路構成部の端面の間に設けられ、当該端面間の磁束密度を検出し、該検出した磁束密度に応じた電圧信号を出力する磁束密度検出手段」に相当する。
引用発明では、「前記フランジ4Aと前記フランジ4Bの相対回転位置が変化するのに伴って、前記フランジ4Aの突出部4A’と前記フランジ4Bの突出部4B’との重なりが変化し、前記磁気回路の抵抗を変化させる」から、引用発明の「フランジ4Aの突出部4A’」及び「フランジ4Bの突出部4B’」は、本件補正発明の「前記第一、第二リングの相対回転位置が変化するのに伴って前記磁気回路構成部の磁場を変化させて、前記磁束密度検出手段によって検出される前記磁気回路構成部の前記端面間の磁束密度を変化させる磁場変化手段」に相当する。
引用発明の「トルク差検出装置」は、本件補正発明の「トルクセンサ」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは、

「ねじりトルクが加わるシャフトと、
前記シャフトに対して同軸上に取り付けられ前記シャフトがねじれるのに伴って相対回転位置が変化する第一、第二リングと、
前記第一、第二リングのそれぞれに隙間を持って対峙して、前記第一、第二リングとはその回転方向に相対変位可能に支持されるL字型の磁気回路構成部と、
互いに対向する前記磁気回路構成部の端面の間に設けられ、当該端面間の磁束密度を検出し、該検出した磁束密度に応じた電圧信号を出力する磁束密度検出手段と、
前記第一、第二リングの相対回転位置が変化するのに伴って前記磁気回路構成部の磁場を変化させて、前記磁束密度検出手段によって検出される前記磁気回路構成部の前記端面間の磁束密度を変化させる磁場変化手段と
を備えるトルクセンサ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
L字型の磁気回路構成部が、本件補正発明では、第一、第二リングの「端面に軸方向に」対峙するのに対し、引用発明では、フランジ4A、フランジ4B(本件補正発明の「第一、第二リング」に相当する。)の「外周面に半径方向に」対峙する点。

(4)相違点についての判断
ねじりトルクが加わるシャフトの周囲に形成した磁気回路を通る磁束の変化を電気的に検出することによりトルクを検出するトルクセンサにおいて、磁気回路を形成する複数の部材を、互いにシャフトの軸方向に対峙するように配置することは、周知例1に記載され(上記(2)イ.参照)、また、周知例2に記載されている(上記(2)ウ.参照)ように、本願の出願前に周知の技術事項である。
引用発明は、ねじりトルクが加わるシャフトの周囲に形成した磁気回路を通る磁束の変化を電気的に検出することによりトルクを検出するトルクセンサ(トルク差検出装置)であるから、引用発明において、フランジ4A及びフランジ4Bのそれぞれの外周面に半径方向に相対向して支持される永久磁石3A及び永久磁石3Bを、フランジ4A及びフランジ4Bに軸方向に相対向して支持されるように変更することは、周知の技術事項の単なる適用にすぎない。その結果、永久磁石3A及び永久磁石3Bがフランジ4A及びフランジ4Bのそれぞれの端面に軸方向に対峙するようになることは明らかである。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の(3)4.において、次のように主張している。

「<引用文献1と引用文献2との組み合わせについて>
引用文献1(当審注:刊行物1)のトルク検出装置は、永久磁石3A、3Bを磁場発生源とし、磁束密度の変化を磁気センサ7で検出する、ホール素子式のものである。
これに対して、引用文献2(当審注:周知例1)のトルク検出装置は、環状コイル9を磁場発生源とし、磁束密度の変化を環状コイル9の自己インダクタンスの変化量を検出する、コイル式のものである。
このような検出方法が異なる引用文献1と引用文献2のトルク検出装置を組み合わせて、本願発明のトルク検出装置を想到することは、たとえ当業者であっても困難であると思慮する。」

請求人が主張するとおり、刊行物1に記載されたトルク差検出装置は、磁束密度の変化を磁気センサで検出している。これに対し、周知例1に記載されたトルクセンサは、磁束密度の変化を環状コイル9の自己インダクタンスの変化量として検出しており、周知例2に記載された軸トルク検出装置も、磁束数の変化をコイル7に生じる電圧として検出している。
しかし、刊行物1に記載されたトルク差検出装置と、周知例1に記載されたトルクセンサ及び周知例2に記載された軸トルク検出装置とは、ねじりトルクが加わるシャフトの周囲に形成した磁気回路を通る磁束の変化を電気的に検出することによりトルクを検出するトルクセンサであるという点で共通している。そして、磁気回路をどのようにして形成するかは、その磁気回路を通る磁束密度の変化を電気的に検出する具体的手段の選択とは別に決定し得る事項であるから、磁束密度の検出手段が異なるからといって、周知例1及び2に記載された周知の技術事項を引用発明に適用することが困難であるとは認められない。
請求人の主張は、採用することができない。

請求人はまた、回答書の「第2.1.」において、次のように主張している。

「本願発明のL字型の磁気回路構成部は、その磁極端部を相対回転する第一、第二リングに対して軸方向に対峙させることによって、シャフトの軸芯のブレによって磁気ギャップ幅が変動せず、検出精度の悪化を抑えられるとともに、L字型の磁気回路構成部がシャフトの径方向に大きく突出せず、装置の小型化がはかれます。」

請求人の主張のうち、装置の小型化が図れるという点について検討すると、磁気回路構成部がシャフトの径方向に大きく突出するか否かは、磁気回路構成部が第一、第二リングに軸方向に対峙するか半径方向に対峙するかに依存するだけでなく、磁気回路構成部のシャフトの半径方向の寸法にも依存する。したがって、磁気回路構成部を第一、第二リングに軸方向に対峙させたことが、直ちに装置の小型化につながるとは認められない。
また、シャフトの軸芯のブレによって磁気ギャップ幅が変動せず、検出精度の悪化を抑えられるという点については、本願の発明の詳細な説明の記載に基づく主張ではないから、参酌することができない。仮に参酌したとしても、そのような利点があることは、周知例2に記載されている(特に上記(2)ウ.(ウ)参照)から、当業者が当然に予想する程度のことである。
請求人の主張は、採用することができない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)と本願の出願前に周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願に係る発明についての判断
1.本願に係る発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1から5までのそれぞれに係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1から5までのそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】ねじりトルクが加わるシャフトと、前記シャフトに対して同軸上に取り付けられ前記シャフトがねじれるのに伴って相対回転位置が変化する第一、第二リングと、前記第一、第二リングのそれぞれに軸方向に隙間を持って対峙する端面を有して前記第一、第二リングとはその回転方向に相対変位可能に支持される磁気回路構成部と、前記磁気回路構成部の対向する磁極間の磁束を検出する磁束密度検出手段と、前記第一、第二リングの相対回転位置が変化するのに伴って前記磁気回路構成部の磁場を変化させる磁場変化手段とを備えたことを特徴とするトルクセンサ。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。

「本願の請求項1から5までのそれぞれに係る発明は、いずれも、本願の出願前に頒布された刊行物1から3までのそれぞれに記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開昭64-43737号公報(前掲の刊行物1)
刊行物2:特開平1-127927号公報(前掲の周知例1)
刊行物3:特開平1-318933号公報」

3.刊行物に記載された事項・引用発明
刊行物1に記載された発明(引用発明)は、上記「第2 2.(2)ア.」に記載したとおりであり、刊行物2に記載された事項は、上記「第2 2.(2)イ.」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、上記「第2 2.(1)」に記載した本件補正発明から、「磁気回路構成部」、「磁束密度検出手段」及び「磁場変化手段」のそれぞれについての限定を省いたものである。
そして、上記「第2 2.」に記載したとおり、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに「磁気回路構成部」、「磁束密度検出手段」及び「磁場変化手段」をそれぞれ限定した本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)と本願の出願前に周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明も同様に、刊行物1に記載された発明(引用発明)と本願の出願前に周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)と本願の出願前に周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-29 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-18 
出願番号 特願2001-115085(P2001-115085)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01L)
P 1 8・ 575- Z (G01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田邉 英治  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 山川 雅也
飯野 茂
発明の名称 トルクセンサ  
代理人 須藤 淳  
代理人 藤井 正弘  
代理人 飯田 雅昭  
代理人 後藤 政喜  

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