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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1265446
審判番号 不服2011-20392  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-21 
確定日 2012-11-01 
事件の表示 特願2005-369729「自動変速機の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年7月5日出願公開,特開2007-170550〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯の概要
本願は,平成17年12月22日の出願であって,平成23年6月23日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年9月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされたところ,当審において平成24年5月29日付けで拒絶理由が通知され,平成24年7月25日に意見書の提出及び手続補正がなされたものである。

2 本願発明について
本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は,平成22年2月12日付け,平成22年11月24日付け及び平成24年7月25日付けの手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,平成24年7月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであるが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
油圧により作動する摩擦係合要素が解放している状態から係合している状態に移行することにより非走行状態から走行状態への移行が可能となる自動変速機の制御装置であって,
前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,車両の運転者により操作されるシフト操作機構の位置に基づいて,検知するための検知手段と,
前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段とを含み,
非零の前記予め定められた油圧は,全開状態の指令圧により前記摩擦係合要素が前記動力伝達状態になるまで前記摩擦係合要素へ供給される油圧を上昇させるときに,前記全開状態の指令圧が継続しても,前記摩擦係合要素の係合圧が前記指令圧を超えないように決定される油圧である,自動変速機の制御装置。」

3 引用例とその記載事項
(1)引用例
平成24年5月29日付けの拒絶理由通知にて引用した引用例は以下のとおりである。
引用例1:特開2005-48784号公報
引用例2:特開2004-197851号公報
引用例3:特開平10-141488号公報
引用例4:特開平9-280355号公報
(2)引用例に記載された事項
(i)引用例1
ア 引用例1には,「自動変速機の制御技術に関し,特に,ガレージシフト時などの自動変速機が非駆動ポジションから駆動ポジションへ変速する際のショックを防止する制御技術に関(し)」(段落【0001】),以下の事項が記載されている。
・「エンジンからの出力を変速して動力を伝達する自動変速機の変速制御装置であって,前記自動変速機は,駆動ポジションである場合に係合されて,非駆動ポジションである場合に解放される摩擦係合要素を含み,前記摩擦係合要素の係合圧は直接圧制御が可能であって,
前記非駆動ポジションであることを検知するための検知手段と,
前記非駆動ポジションであることが検知されている場合において,予め定められた条件を満足すると,前記非駆動ポジションから前記駆動ポジションに変更されたときに前記摩擦係合要素が直接圧制御されるような油路を予め構成するための構成手段と,
前記構成手段により油路が構成されている場合には,前記摩擦係合要素による動力の伝達が発生しないような油圧指令値を設定するための設定手段とを含む,自動変速機の変速制御装置。」(【請求項1】)
・「図7に示すように,N→D時において,入力クラッチC1が直接圧制御になる自動変速機の場合,ニュートラル(N)ポジション中においては,1st定常状態である入力クラッチC1にはライン圧が供給される油路の状態になっている。N→D操作でマニュアルバルブのDポートが開くタイミングが,N→D時のソレノイドパターン(入力クラッチC1は直接圧制御)に切換わるタイミングよりも早いと,入力クラッチC1にライン圧が供給され,スクォート制御を行なうブレーキ要素B2の係合も間に合わないで,変速ショックや車体の後部が沈み込むいわゆるスクォート現象が生じる。図7に示すように,一時的に入力クラッチC1にライン圧が供給されてしまい,ブレーキ要素B2係合圧の供給が遅れ,ブレーキ要素B2が係合する前に入力クラッチC1が係合して,アウトプットトルクが変動して,変速ショックが生じる。
本発明は,上述の課題を解決するためになされたものであって,その目的は,自動変速機の状態が,非駆動ポジションから駆動ポジションへ変更されたときに変速ショックを防止する,自動変速機の変速制御装置を提供することである。」(段落【0025】及び【0026】)
・「図2に自動変速機構300の作動表を示す。図2に示す作動表によると,摩擦要素であるクラッチ要素(図中のC1?C4)や,ブレーキ要素(B1?B4),ワンウェイクラッチ要素(F0?F3)が,どのギヤ段の場合に係合および解放されるかを示している。車両の発進時に使用される1速時には,クラッチ要素(C1),ワンウェイクラッチ要素(F0,F3)が係合する。これらのクラッチ要素の中で,特に,クラッチ要素C1を入力クラッチ(C1)310という。この入力クラッチ(C1)310は,前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ,図2の作動表に示すように,パーキング(P)ポジション,後進走行(R)ポジション,ニュートラル(N)ポジション以外の,車両が前進するための変速段を構成する際に必ず係合状態で使用される。したがって,ニュートラル(N)ポジションから前進走行(D)ポジションに変更されると,必ずこの入力クラッチ(C1)310が解放状態から係合状態に変更される。」(段落【0048】)
・「ECU1000では,自動変速機構300の状態がニュートラル(N)ポジションから前進走行(D)ポジションに変更される前において,N接点がオフする前から(当然D接点がオンする前である),入力クラッチ(C1)310へ係合圧を供給する油圧回路をライン圧供給回路ではなく直接圧制御回路に変更しておく。なお,D接点やN接点(他の接点を含む)は,自動変速機構300本体の横に搭載されたニュートラルスタートスイッチ(NSW)の電気的接点であって,それらの接点信号のオンオフ状態がECT_ECU1020に入力される。」(段落【0055】)
・「入力クラッチ(C1)310は,SRソレノイドバルブにより制御されるC4リレーバルブに接続されている。C4リレーバルブは,クラッチコントロールバルブおよびSL1リレーバルブを介してリニアソレノイドバルブ(SL1)に接続されている。SL1リレーバルブには,S4ソレノイドバルブにより制御される4-5シフトバルブを介して作動油が供給される。」(段落【0058】)
・「したがって,入力クラッチ(C1)310は,リニアソレノイドバルブ(SL1)により直接圧制御における油圧が調圧され,ブレーキ要素B2,リニアソレノイドバルブ(SL2)により直接圧制御における油圧が調圧される。また,SRソレノイドバルブがオフ(×)からオン(○)に切換わることにより,C4リレーバルブが左側の状態から右側の状態に切換わり,直接圧制御からライン圧制御に切換わる。」(段落【0060】)
・「ステップ(以下,ステップをSと略す。)100にて,ECT_ECU1020は,ニュートラル(N)ポジションであるか否かを判断する。この判断は,ニュートラルスタートスイッチ(NSW)のN接点のオンオフ状態に基づいて行われる。ニュートラル(N)ポジションであると(S100にてYES),処理はS110へ移される。もしそうでないと(S100にてNO),処理はS200へ移される。
S110にて,ECT_ECU1020は,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止しているか否かを判断する。ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止していると(S110にてYES),処理はS120へ移される。もしそうでないと(S110にてNO),処理はS140へ移される。
S120にて,ECT_ECU1020は,ガレージシフト制御中(R→N,D→N)でないか否かを判断する。ガレージシフト制御中でないと(S120にてYES),処理はS130へ移される。もしそうでないと(S120にてNO),処理はS150へ移される。
S130にて,ECT_ECU1020は,Nポジション時C1直接圧制御回路のソレノイドパターンを出力する。このとき,C1直接圧指令値は最小値に,B2直接圧指令値は最大に設定される。
S140にて,ECT_ECU1020は,通常ソレノイドパターンを出力する。このとき,通常C1直接圧指令値を最大値(すなわち,フェールセーフ上,係合側になるように),通常B2直接圧指令値を最小値(すなわち,フェールセーフ上,解放側になるように)とする制御指令値が,ECT_ECU1020からリニアソレノイドバルブに出力される。
S150にて,ECT_ECU1020は,ガレージシフト制御用C1直接圧制御回路のソレノイドパターンを出力する。このとき,ガレージシフト時の直接圧指令値がECT_ECU1020からリニアソレノイドに出力される。」(段落【0067】ないし【0072】)
・「シフトレバーがニュートラル(N)ポジションにあると(S100にてYES),車両の状態が判断される。ブレーキがオン状態であって,アクセルがオフ状態であってかつ車両が停止している状態であると(S110にてYES),ガレージシフト制御中でないかあるかが判断される。
ガレージシフト制御中でない場合には(S120にてYES),ニュートラルポジション時C1直圧制御回路のソレノイドパターンがECT_ECU1020から油圧回路に出力される。これにより,従来はニュートラル(N)ポジションにおいては,入力クラッチ(C1)310によるライン圧が供給されるような油路が構成されていたが,入力クラッチ(C1)310には直接圧制御により調圧された油圧が供給されるような油路が構成される。また,このとき,入力クラッチ(C1)310のC1直接圧指令値は入力クラッチ(C1)310がトルク容量を有さずにトルクを伝達しないような値に設定される。これにより,入力クラッチ(C1)310がトルク容量を持つことはなく,トルクが伝達されることはない。」(段落【0084】及び【0085】)
・「本実施の形態に係る制御装置であるECT_ECU1020においては,ニュートラル(N)ポジションにおいて予め定められた条件(ブレーキオンかつアクセルオフかつ車両停止)が成立し,かつガレージシフト制御中でない場合には,ニュートラルポジション時C1直圧制御回路のソレノイドパターンになるようにソレノイド信号が出力される。これにより,従来はニュートラル(N)ポジションにおいては入力クラッチ(C1)310に供給される作動油はライン圧が供給されるような油路が構成されていたが,予め定められた条件が満たされた場合にはニュートラル(N)ポジションであっても入力クラッチ(C1)310には直接圧制御により調圧された作動油が供給されるような油路が構成されるようになる。このとき,入力クラッチ(C1)310がトルク容量を有さずにトルクを伝達しないような値としてC1直接圧指令値が出力される。」(段落【0087】)
・「また,ニュートラル(N)ポジションから前進走行(D)ポジションに変更されると図6に示すようにC1直接圧制御指令値が予め定められた一定の遅れ時間を有してC1油圧制御が開始される。このため,従来のように入力クラッチ(C1)がライン圧が供給されて,スクォート制御を実行するブレーキ要素B2の係合圧が上昇する前に,入力クラッチ(C1)310の係合圧が上昇することがなくなる。すなわち,図6に示すアウトプットトルクの変動(点線)がなくなり,変速ショックがなくなる。」(段落【0089】)
・「このため,ニュートラル(N)ポジションから前進走行(D)ポジションへの変更が行なわれた場合,入力クラッチC1に係合圧を供給する油路は,既にライン圧を供給する油路ではなく直接圧制御により調圧された作動油を供給する油路に切換えられているため,ライン圧が入力クラッチC1に供給されることはなく入力クラッチC1が急に係合することはない。」(段落【0090】)
イ 以上の記載及び図面の記載からすると,引用例1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
(引用発明1)
「エンジンからの出力を変速して動力を伝達する自動変速機の変速制御装置であって,前記自動変速機は,駆動ポジションである前進走行(D)ポジションである場合に係合されて,非駆動ポジションであるニュートラル(N)ポジションである場合に解放されるクラッチ要素(C1)を含み,前記クラッチ要素(C1)の係合圧は直接圧制御が可能であって,
前記ニュートラル(N)ポジションであることを,ニュートラルスタートスイッチ(NSW)の電気的接点のオンオフ状態に基づいて検知する手段と,
前記ニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合において,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止時であるという条件を満足すると,前記ニュートラル(N)ポジションから前記前進走行(D)ポジションに変更されたときに前記クラッチ要素(C1)が直接圧制御されるような油路を予め構成し,前記クラッチ要素(C1)による動力の伝達が発生しないような油圧指令値を設定するための構成手段と
ニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合でも,前記条件を満足しないときは,クラッチ要素(C1)が係合側になるように最大値の油圧指令値を設定するための手段と,
を含む自動変速機の変速制御装置。」
(ii)引用例2
ア 引用例2には,「車両用動力伝達装置の油圧制御装置に係り,特に,シフト操作部材の操作位置をニュートラルポジションから走行ポジションへ操作したときに生じる切換えショックを好適に抑制する技術に関(し)」(段落【0001】),以下の事項が記載されている。
・「所定の油圧式摩擦係合装置の係合作動により走行状態とされる動力伝達装置と,シフト操作部材の操作によりニュートラルポジションおよび走行ポジションへ選択的に切り換えられるマニアルバルブを備え,該マニアルバルブが走行ポジションへ操作されているときに該マニアルバルブから出力される走行用出力圧に基づいて前記所定の油圧式摩擦係合装置を作動させる形式の車両用動力伝達装置の油圧制御装置であって,
前記シフト操作部材の操作位置を検出するシフトポジション検出手段と,
該シフトポジション検出手段により前記ニュートラルポジションが検出された時から前記走行ポジションが検出されるまでの間は所定の予備圧を前記マニアルバルブに供給し,該シフトポジション検出手段により前記走行ポジションが検出された後に,該油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油圧を該マニアルバルブに供給して該油圧式摩擦係合装置を係合作動させるシフト油圧制御手段と
を,含むことを特徴とする車両用動力伝達装置の油圧制御装置。」(【請求項1】)
・「たとえば,シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されると同時に切換弁が通常位置から過渡位置へ切り換えられるのであるが,運転者の操作力によって切り換えられるマニアルバルブに対して油圧により切り換えられる切換弁の切り換えが遅れる傾向にあることなどにより,油圧式摩擦係合装置用油圧源からの油圧が油圧式摩擦係合装置へ瞬間的に漏れ出ることから,その油圧式摩擦係合装置が係合或いは係合直前状態になるので,シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されたことに応答して,調圧弁により制御された係合過渡油圧が,過渡位置に切り換えられた切換弁,マニアルバルブを経て油圧式摩擦係合装置へ供給されると,直ちに油圧式摩擦係合装置が係合してショックが発生する不都合があった。上記漏れ出た油圧によって油圧式摩擦係合装置が係合させられる場合には,2段ショックが発生していた。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので,その目的とするところは,シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されたときのシフト操作時の係合ショックが好適に防止される油圧制御装置を提供することにある。」(段落【0006】及び【0007】)
・「このようにすれば,シフト油圧制御手段により,シフトポジション検出手段により前記ニュートラルポジションが検出された時から前記走行ポジションが検出されるまでの間は予備圧が前記マニアルバルブに供給され,そのシフトポジション検出手段により前記走行ポジションが検出された後には,その油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油圧がそのマニアルバルブに供給されてその油圧式摩擦係合装置が係合作動させられる。すなわち,シフト操作時より前に予備圧がマニアルバルブに供給され,それに続いてマニアルバルブが走行ポジションへ切り換えられると,たとえ漏れが発生したとしてもその予備圧が油圧式摩擦係合装置へ供給され,それに続いて油圧式摩擦係合装置を係合させるための作動油圧がそのマニアルバルブに供給されてその油圧式摩擦係合装置が係合させられるので,シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されたときのシフト操作時の係合ショックが好適に防止される。」(段落【0009】)
・「前後進切換装置16は,ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており,トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され,ベルト式無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方,キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され,リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので,何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置であり,前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されることにより,前後進切換装置16は一体回転状態とされることにより前進用動力伝達経路が成立させられて,前進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される一方,後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されることにより,前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立させられて,入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり,後進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される。また,前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると,前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
上記前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は,油圧制御回路86のマニュアルバルブ120(図3参照)がシフト操作部材として機能するシフトレバー77の操作に従って機械的に切り換えられることにより,係合,解放されるようになっている。シフトレバー77は,順次位置させられている駐車用の「P」ポジション,後進走行用の「R」ポジション,動力伝達を遮断する「N」ポジション,前進走行用の「D」ポジションおよび「L」ポジションへ択一的に操作されるようになっており,「P」ポジションおよび「N」ポジションでは,前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1内の作動油は何れもマニュアルバルブ120からドレーンされて共に解放される。マニュアルバルブ120の入力ポート120aには,ガレージシストバルブ114を介して,シフト操作過渡時にはガレージシフトコントロールバルブ112により調圧された係合過渡油圧PGが供給されるが,定常時には油圧式摩擦係合装置の油圧源として機能するモジュレータバルブ122によってライン圧から一定のモジュレータ油圧PMに調圧された作動油が供給される。このため,「R」ポジションでは,マニュアルバルブ120の後進用出力ポート120rからの後進走行用出力圧すなわち上記係合過渡油圧PGまたはモジュレータ油圧PMが後進用ブレーキB1に供給されてそれが係合させられるとともに,前進用クラッチC1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。また,「D」ポジションおよび「L」ポジションでは,マニュアルバルブ120の前進用出力ポート120fからの前進走行用出力圧すなわち上記係合過渡油圧PGまたはモジュレータ油圧PMが前進用クラッチC1に供給されてそれが係合させられるとともに,後進用ブレーキB1内の作動油はマニュアルバルブ120からドレーンされて解放される。」(段落【0017】及び【0018】)
・「図4において,シフトポジション検出手段90は,レバーポジションセンサ78からの信号に基づいて,シフトレバー(シフト操作部材)77或いはマニアルバルブ120の操作位置を検出する。
シフト油圧制御手段92は,そのシフトポジション検出手段90により『N(ニュートラル)』ポジションが検出されると,ガレージシフトバルブ114をその第1位置へ切り換えることによりガレージシフトコントロールバルブ112からの係合過渡油圧PGをマニアルバルブ120へ供給開始し,『N』ポジションが検出された時から『D(走行)』ポジション或いは『R(リバース)』ポジションが検出されるまでの間は,リニアソレノイド弁SLTからの制御油圧P_(SLT) を用いてガレージシフトコントロールバルブ112からマニアルバルブ120へ供給される係合過渡油圧PGを制御する直接圧制御を実行することにより,走行用の油圧式摩擦係合装置である前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1のトルク容量相当の大きさの所定の予備圧P_(W) を発生させる。次いで,シフトポジション検出手段90により走行ポジション(『D』ポジション或いは『R』ポジション)が検出されると,前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1に予め設定された昇圧手順に従って作動油を供給してそれを滑らかに係合作動させるシフト油圧制御を実行し,その前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合が完了すると,ガレージシフトバルブ114をその第2位置へ切り換えることにより,モジュレータ油圧PMをガレージシフトバルブ114およびマニアルバルブ120を経て前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1へ供給させる。
すなわち,上記シフト油圧制御手段92は,直接圧制御手段94およびシフト制御手段96を備えている。直接圧制御手段94は,シフトポジション検出手段90により『N』ポジションが検出された時から『D(走行)』ポジション或いは『R(リバース)』ポジションが検出されるまでの間は,図5のt_(1) 時点乃至t_(2) 時点に示されるように,リニアソレノイド弁SLTへの指令値(駆動電流値I_(SLT) )を予め小さく設定された所定の予備値I_(1) とし,リニアソレノイド弁SLTからの制御油圧P_(SLT) を用いてガレージシフトコントロールバルブ112からマニアルバルブ120へ供給される係合過渡油圧PGを,前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1のトルク容量相当の大きさの比較的小さな所定の予備圧P_(W) とする。シフト制御手段96は,シフトポジション検出手段90により『D(走行)』ポジション或いは『R(リバース)』ポジションが検出されると,作動油のファーストフィル(急速充填)のために,リニアソレノイド弁SLTへの指令値を予め大きく設定された所定のファーストフィル値I_(2) とし,次いで,t_(4) 時点まで一定の待機値I_(3) とした後で,タービン回転速度NTがゆるやかに減少するように連続的に増加させ,走行用の油圧式摩擦係合装置である前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合が完了(完全係合)すると,最大値I_(max) として係合過渡油圧PGをその最大値であるモジュレータ油圧PMとする。」(段落【0028】ないし【0030】)
・「以上のステップが繰り返し実行されるうちにS3の判断が肯定されると,前記シフト制御手段96に対応するS4においてN→Dシフト制御或いはN→Rシフト制御が開始される。図5のt_(2) 時点はこの状態を示している。このシフト制御では,『D(走行)』ポジション或いは『R(リバース)』ポジションが検出されると,前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の油圧シリンダ内に対して作動油を急速充填(ファーストフィル)するために,リニアソレノイド弁SLTへの指令値が予め大きく設定された所定のファーストフィル値I_(2) とし(図5のt_(2 )時点乃至t_(3) 時点),次いでt_(4) 時点まで一定の待機値I_(3) に減少させられた後で,タービン回転速度NTがゆるやかに減少するように連続的に増加させられ,走行用の油圧式摩擦係合装置である前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の係合が完了(完全係合)したと判定されると(t_(5 )時点),最大値I_(max) とされて係合過渡油圧PGがその最大値であるモジュレータ油圧PMとされる。」(段落【0034】)
・「本実施例によれば,シフト油圧制御手段92(S2,S4)により,シフトポジション検出手段90(S1)により『N』ポジションが検出された時から『D』ポジション或いは『R』ポジション(走行ポジション)が検出されるまでの間は前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1を比較的低い所定の係合圧とするための予備圧がマニアルバルブ120に供給され,シフトポジション検出手段90(S3)により前記走行ポジションが検出された後には,走行用伝達経路を成立させるためのその前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1( 油圧式摩擦係合装置) に作動油が供給されてその油圧式摩擦係合装置が係合作動させられる。すなわち,シフト操作時より前に油圧式摩擦係合装置が所定の係合圧とされ,それに続いてその油圧式摩擦係合装置へ作動油が供給されてそれが係合させられるので,シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されたときのシフト操作時の係合ショックが好適に防止される。」(段落【0035】)
イ 以上の記載及び図面の記載からすると,引用例2には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
(引用発明2)
「前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1の係合作動により前進走行又は後進走行状態とされる動力伝達装置と,シフトレバー77の操作によりニュートラルポジション及び走行ポジションである『D』ポジション又は『R』ポジションへ選択的に切り換えられるマニアルバルブ120を備え,該マニアルバルブ120が『D』ポジション又は『R』ポジションへ操作されているときに該マニアルバルブ120から出力される走行用出力圧に基づいて前記前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1を作動させる形式の車両用動力伝達装置の油圧制御装置であって,
前記シフトレバー77の操作位置を検出するシフトポジション検出手段90と,
該シフトポジション検出手段90により前記ニュートラルポジションが検出された時から前記『D』ポジション又は『R』ポジションが検出されるまでの間は,リニアソレノイド弁SLTへの指令値を予め小さく設定された所定の予備値I_(1) とし,リニアソレノイド弁SLTからの制御油圧P_(SLT) を用いてガレージシフトコントロールバルブ112からマニアルバルブ120へ供給される係合過渡油圧PGを,前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1のトルク容量相当の大きさの比較的小さな所定の予備圧P_(W) とし,該シフトポジション検出手段90により前記『D』ポジション又は『R』ポジションが検出された後に,該前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1を係合させるための作動油圧を該マニアルバルブ120に供給して該前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1を係合作動させるためのシフト油圧制御手段と
を,含む車両用動力伝達装置の油圧制御装置。」
(iii)引用例3
ア 引用例3には,「後進段選択時のセレクトショックの軽減と所要セレクト時間の短縮とを実現可能な自動変速機の油圧制御装置に関(し)」(段落【0001】),以下の事項が記載されている。
・「後進段選択の際にセレクトレバーと連動するマニュアルバルブを介して作動圧を供給する油圧式クラッチと油圧式ブレーキとを備え,
上記油圧式クラッチと上記マニュアルバルブとを第1の油圧通路を介して連通し,
上記油圧式ブレーキとライン圧通路とを第2の油圧通路を介して連通し,
上記第2の油圧通路に圧力制御弁を介装し,
上記第1の油圧通路と上記第2の油圧通路の上記圧力制御弁の下流とを第3の油圧通路を介して連通し,
上記第3の油圧通路に絞り部を設け,
上記第2の油圧通路と上記第3の油圧通路との合流部に該両油圧通路のうち高圧側の油圧通路が油圧ブレーキに接続するシャトル弁を設けたことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。」(【請求項1】)
・「このとき,上記リバースクラッチ及びL&Rブレーキに対して作動圧が急激に印加されると,エンジン出力が上記後進段を介して駆動系に急激に伝達される,いわゆるセレクトショックが生じる。」(段落【0003】)
・「本発明は,上記事情に鑑み,簡単な構成で後進段選択時の所要セレクト時間の短縮とセレクトショックの軽減を図り,安価で高い信頼性を得ることのできる自動変速機の油圧制御装置を提供することを目的とする。」(段落【0010】)
・「中立段(Nレンジ)から後進段(Rレンジ)へシフトすると,リバースクラッチ9とL&Rブレーキ15が作動して後進段が選択動作される。すなわち,上記L&Rブレーキ15が係合すると,フロントプラネタリキャリヤ6aが上記ロークラッチドラム13aを介して上記自動変速機ケース11に固定される。一方,リバースクラッチ9が係合すると,エンジン出力が上記入力軸5から上記リバースクラッチ9を介してフロントプラネタリギヤユニット6のサンギヤ6dに伝達される。このとき,このフロントキャリヤ6aが自動変速機ケース11に固定されているため,上記フロントリングギヤ6bがフロントピニオンギヤ6cにより入力軸5に対して逆方向へ減速された状態で回転し,この回転力がリヤプラネタリギヤユニット7のプラネタリキャリヤ7aを介して出力軸12に伝達され,後進段の動力が出力される。」(段落【0031】)
・「又,後進段選択時に係脱動作するリバースクラッチ9が第1の油圧通路20を介して上記マニュアルバルブ17の後進油圧ポート17bに接続されている。更に,後進段或いは1速のエンジンブレーキを必要とする場合に係合する上記L&Rブレーキ15が第2の油圧通路21を介してライン圧通路22に接続され,更に,この第2の油圧通路21に圧力制御弁の一例であるソレノイド弁23が介装されている。このソレノイド弁23は,比例電磁式減圧弁,或いはデューティ制式減圧弁であり,このソレノイド弁23の弁開度によりライン圧PLを所定に減圧して上記L&Rブレーキ15に予圧としてのプライマリ圧PSを供給し,或いはセレクトレバーが1速レンジにセレクトされたときは,上記L&Rブレーキ15に対して作動圧を滑らかに立ち上げながら供給して変速ショックを軽減する。尚,このプライマリ圧PSは上記L&Rブレーキ15に伝達トルクを発生させない程度の圧力に設定されている。
又,上記リバースクラッチ9に連通する油圧通路20と上記L&Rブレーキ15に連通する第2の油圧通路21の上記ソレノイド弁23の下流とが第3の油圧通路24を介して連通されていると共に,上記第2の油圧通路21と第3の油圧通路24との合流部に,この各油圧通路21,24を上記L&Rブレーキ15に対して差圧により選択的に連通するシャトル弁25が介装されている。
更に,上記第3の油圧通路24に絞り部としてのオリフィス26が介装されて,又,このオリフィス26の上流と下流とがバイパス通路27によりバイパス接続されている。このバイパス通路27に,上記チェツクボール25側から上記第1の油圧通路20側への流通のみを許容する逆止弁の一例であるチェックボール28が介装されている。
上記マニュアルバルブ17は図示しないセレクトレバーと連動しており,運転者が後進段(Rレンジ)を選択すると,図3に示すように上記マニュアルバルブ17を介してライン圧通路22と上記第1の油圧通路20とが連通され,又,セレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセレクトされた状態では第1の通路20と前進変速段側の油圧通路16との双方が上記ライン圧通路22から遮断されると共に,上記各油圧通路16,20の油圧が図示しないドレーン通路を経て排出され,各クラッチ,ブレーキ9,8,10,13の係合動作が解除される。」(段落【0034】ないし【0037】)
・「図示しないセレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセットされているとき,各油圧通路16,20が解放され,上記ライン圧通路22からのライン圧P_(L)は第2の油圧通路21にのみ供給される。すると,図4に示すように,上記第2の油圧通路21に介装されているソレノイド弁23にて調圧されたプライマリ圧P_(S)がシャトル弁25により第3の油圧通路24を閉塞すると共に,L&Rブレーキ15に予圧とし供給される(図8の時間0?t1)。このプライマリ圧P_(S)が,上記L&Rブレーキ15に対して伝達トルクが発生しない程度の油圧に上記ソレノイド弁23にて調圧されているためL&Rブレーキ15は非作動状態を維持する。
その後,運転者がセレクトレバーを後進段(Rレンジ)にセレクトすると(図8の時間t2),図3に示すように上記マニュアルバルブ17がライン圧通路22と第1の油圧通路20とを連通する。すると,図5に示すように,第1の油圧通路20に連通するリバースクラッチ9にライン圧P_(L)の供給が開始されると共に,この第1の油圧通路20に分岐接続する第3の油圧通路24側へもライン圧P_(L)が分流される。
その結果,上記リバースクラッチ9が上記ライン圧P_(L)をリバースクラッチ圧P_(R1)として係合動作し,一方,上記第3の油圧通路24側へ流通したライン圧P_(L)は途中に設けられているオリフィス26を介してリバースクラッチ圧P_(R1)として上記シャトル弁25側へ印加される。このチェツクボール25には上記第2の油圧通路21を流れるプライマリ圧P_(S)が印加されており,P_(R1)<P_(S)の間は,図5に示すように,上記第3の油圧通路24がシャトル弁25により閉塞され,上記L&Rブレーキ15には上記プライマリ圧P_(S)が依然予圧として印加され続ける。
その後,上記リバースクラッチ圧P_(R1)が上昇し,P_(R1)≧P_(S) になると(図8の時間t3),上記シャトル弁25が上記第3の油圧通路24を開き,同時に第2の油圧通路21を次第に閉塞する。その結果,図6に示すように上記L&Rブレーキ15に対し上記リバースクラッチ圧P_(R1)が作動圧P_(L&R/B)として供給され始める。
そして,上記L&Rブレーキ15に供給する作動圧P_(L&R/B)が上昇するに従い,上記L&Rブレーキ15のピストン15bが摩擦係合要素15aを皿ばね15cを介して押圧する。すると,この皿ばね15cが上記ピストン15bの押圧力を受けて撓み,この撓みにより上記ピストン15bの内容量が変化し,その分,上記摩擦係合要素15aに対する作動圧P_(L&R/B)の上昇が緩やかになる(図8の時間t4?t5)。その結果,上記摩擦係合要素15aは滑らかに係合され,セレクトショックが軽減される。
又,上記L&Rブレーキ15に対してはNレンジにおいてソレノイド弁23により調圧されたプライマリ圧P_(S)が予圧として供給されているため,リバースクラッチ圧P_(R1)を作動圧P_(L&R/B)として上記L&Rブレーキ15に供給する際の所要セレクト時間を短縮することが可能になる。
そして,上記作動圧P_(L&R/B)が上昇し,P_(L&R/B)=P_(L)になると(図8の時間t6),上記摩擦係合要素15aが定常圧で係合された定常状態となる。」(段落【0038】ないし【0044】)
・「一方,運転者がセレクトレバーを操作して後進段(Rレンジ)から中立段(Nレンジ)或いは前進変速段(Dレンジ,1?3速レンジ)へセレクトすると,上記セレクトレバーと連動するマニュアルバルブ17が上記第1の油圧通路20とライン圧通路22とを遮断すると共に,この第1の油圧通路20を油圧ドレーン側へ連通させる。又,ソレノイド23が油圧通路21からシャトル弁25への油圧の供給を遮断する。
すると,図7に示すように,上記L&Rブレーキ15に供給された作動圧P_(L&R/B)が第3の油圧通路24に介装されているオリフィス26をバイパスするバイパス通路27に介装されているチェックボール28を開き,第2の油圧通路20へ速やかに排出される。尚,図7の×は油圧ドレーンを示す。」(段落【0045】及び【0046】)
・「請求項1記載の発明によれば,後進選択時に動作する油圧式ブレーキに連通する第2の油圧通路をライン圧通路に接続すると共に,第2の油圧通路に圧力制御弁を介装し,又上記第1の油圧通路と上記第2の油圧通路の上記圧力制御弁の下流とを第3の油圧通路を介して連通したので,後進段選択時に上記第1の油圧通路を介して油圧式クラッチに供給する作動用油圧の一部が上記第3の油圧通路に分流されて上記油圧式ブレーキに供給され,しかもこの第3の油圧通路に絞り部を設けたことにより上記油圧式ブレーキに供給される作動圧が緩やかに昇圧されるので,後進段選択時のセレクトショックが軽減される。」(段落【0056】)
イ 以上の記載及び図面の記載からすると,引用例3には,以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
(引用発明3)
「後進段(Rレンジ)選択の際にセレクトレバーと連動するマニュアルバルブ17を介して作動圧を供給するリバースクラッチ9とL&Rブレーキ15とを備え,
上記リバースクラッチ9と上記マニュアルバルブ17とを第1の油圧通路20を介して連通し,
上記L&Rブレーキ15とライン圧通路22とを第2の油圧通路21を介して連通し,
上記第2の油圧通路21にソレノイド弁23を介装し,
上記第1の油圧通路20と上記第2の油圧通路21の上記ソレノイド弁23の下流とを第3の油圧通路24を介して連通し,
上記第3の油圧通路24にオリフィス26を設け,
上記第2の油圧通路21と上記第3の油圧通路24との合流部に該両油圧通路のうち高圧側の油圧通路がL&Rブレーキ15に接続するシャトル弁25を設け,
セレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセットされているとき,上記第1の油圧通路20が解放され,上記ライン圧通路22からのライン圧P_(L)が第2の油圧通路21にのみ供給され,上記ソレノイド弁23にて上記L&Rブレーキ15に対して伝達トルクが発生しない程度の油圧に調圧されたプライマリ圧P_(S)がシャトル弁25により第3の油圧通路24を閉塞するとともに,L&Rブレーキ15に予圧として供給され,L&Rブレーキ15が非作動状態を維持する,
自動変速機の油圧制御装置。」

3 対比及び検討
(1)理由1
(i) 本願発明と引用発明1とを,その有する機能に照らし対比すると,引用発明1の「クラッチ要素(C1)」は本願発明の「摩擦係合要素」に相当し,以下同様に,「ニュートラル(N)ポジション」は「第1のシフトポジション」に,「前進走行(D)ポジション」は「第2のシフトポジション」に,それぞれ相当する。
また,引用発明1の「ニュートラル(N)ポジションであることを,ニュートラルスタートスイッチ(NSW)の電気的接点のオンオフ状態に基づいて検知する手段」は,「前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,検知するための検知手段」である点で,本願発明の「前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,車両の運転者により操作されるシフト操作機構の位置に基づいて,検知するための検知手段」に相当する。
そして,引用発明1の「前記ニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合において,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止時であるという条件を満足すると,前記ニュートラル(N)ポジションから前記前進走行(D)ポジションに変更されたときに前記クラッチ要素(C1)が直接圧制御されるような油路を予め構成し,前記クラッチ要素(C1)による動力の伝達が発生しないような油圧指令値を設定するための構成手段」は,「シフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を供給するための油圧制御手段」である点で,本願発明の「前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明1とは,
(一致点1)
「油圧により作動する摩擦係合要素が解放している状態から係合している状態に移行することにより非走行状態から走行状態への移行が可能となる自動変速機の制御装置であって,
前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,検知するための検知手段と,
シフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を供給するための油圧制御手段とを含む,自動変速機の制御装置。」
である点で一致し,
(相違点1(1))
本願発明は,第1のシフトポジションおよび第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを検知するための検知手段に関し,「前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,車両の運転者により操作されるシフト操作機構の位置に基づいて,検知するための検知手段」を有するのに対し,引用発明1は,ニュートラル(N)ポジションであることを,ニュートラルスタートスイッチ(NSW)の電気的接点のオンオフ状態に基づいて,検知するための検知手段を有する点
(相違点1(2))
本願発明は,シフトポジションが第1のシフトポジションであることを検知している間に,摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を供給する手段に関し,「前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段」を有するのに対し,引用発明1は,ニュートラル(N)ポジションから前進走行(D)ポジションに変更されたときに前記クラッチ要素(C1)が直接圧制御されるような油路を予め構成し,前記クラッチ要素(C1)による動力の伝達が発生しないような油圧指令値を設定するための構成手段を有するが,ニュートラル(N)ポジションにおいては当該油圧指令値により設定された油圧をクラッチ要素(C1)へ供給するものではない点
(相違点1(3))
本願発明においては,「非零の予め定められた油圧」が,「全開状態の指令圧により前記摩擦係合要素が前記動力伝達状態になるまで前記摩擦係合要素へ供給される油圧を上昇させるときに,前記全開状態の指令圧が継続しても,前記摩擦係合要素の係合圧が前記指令圧を超えないように決定される油圧である」のに対し,引用発明1はニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合でも,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止時であるという条件を満足しないときは,クラッチ要素(C1)が係合側になるように最大値の油圧指令値を設定するものであるが,「クラッチ要素(C1)による動力の伝達が発生しないような油圧指令値」と当該「最大値の油圧指令値」との関係が不明である点
で相違する。
(ii)ア 相違点1(1)について
引用発明1において,ニュートラル(N)ポジションを検知することが可能であれば他の手段を採用できることは明らかであるから,引用発明2のように,シフトレバーの位置に基づいて検知する手段を採用することは,当業者が適宜になし得た事項である。
イ 相違点1(2)について
引用例2には,「すなわち,シフト操作時より前に油圧式摩擦係合装置が所定の係合圧とされ,それに続いてその油圧式摩擦係合装置へ作動油が供給されてそれが係合させられるので,シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されたときのシフト操作時の係合ショックが好適に防止される。」(引用例2段落【0035】)との記載があり,引用例3には,セレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセットされているとき,ソレノイド弁23にて,L&Rブレーキ15に対して伝達トルクが発生しない程度の油圧に調圧されたプライマリ圧P_(S)がL&Rブレーキ15に予圧として供給され,L&Rブレーキ15が非作動状態を維持することにより,「上記L&Rブレーキ15に対してはNレンジにおいてソレノイド弁23により調圧されたプライマリ圧P_(S)が予圧として供給されているため,リバースクラッチ圧P_(R1)を作動圧P_(L&R/B)として上記L&Rブレーキ15に供給する際の所要セレクト時間を短縮することが可能になる。」(同段落【0043】),「後進選択時に動作する油圧式ブレーキに連通する第2の油圧通路をライン圧通路に接続すると共に,第2の油圧通路に圧力制御弁を介装し,又上記第1の油圧通路と上記第2の油圧通路の上記圧力制御弁の下流とを第3の油圧通路を介して連通したので,後進段選択時に上記第1の油圧通路を介して油圧式クラッチに供給する作動用油圧の一部が上記第3の油圧通路に分流されて上記油圧式ブレーキに供給され,しかもこの第3の油圧通路に絞り部を設けたことにより上記油圧式ブレーキに供給される作動圧が緩やかに昇圧されるので,後進段選択時のセレクトショックが軽減される。」(段落【0056】)と記載されているように,変速ショックの防止や変速時の応答性向上の観点から,変速ニュートラル(N)ポジションにおいて所定の低い油圧を摩擦係合要素へ供給することが公知であることがわかる。
そして,引用発明1は「非駆動ポジションから駆動ポジションへ変更されたときに変速ショックを防止する」(引用例1段落【0026】)ことを目的とし,変速時の応答性向上といった課題は当然内在するものである。
そうすると,引用発明1において,ニュートラル(N)ポジションにおいて,クラッチ要素(C1)による動力の伝達が発生しないような油圧指令値を設定するとともに,当該油圧指令値により設定された油圧をクラッチ要素(C1)へ供給することは,当業者にとって格別困難なことではなく,引用発明1において相違点1(2)に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
ウ 相違点1(3)について
引用発明1は,ニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合でも,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止時であるという条件を満足しないときは,クラッチ要素(C1)が係合側になるように最大値の油圧指令値を設定するものである。
このような最大値の油圧指令値によりクラッチ要素(C1)を係合させる際,係合圧が指令値に係る油圧を越えることやハンチングするような状態にならないよう考慮することは,「非駆動ポジションから駆動ポジションへ変更されたときに変速ショックを防止する」(引用例1段落【0026】)といった,引用発明1の所期の目的に照らして当然であって,その観点から,当該「クラッチ要素(C1)による動力の伝達が発生しないような油圧指令値」を,最大値の油圧指令値が継続しても,クラッチ要素(C1)の係合圧が最大値の油圧指令値に係る油圧を超えないような大きさに決定することは,当業者が容易になし得ることである。
そうすると,引用発明1において相違点1(3)に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
エ よって,本願発明は,引用発明1に引用例2及び引用例3に記載された事項を適用することにより,容易想到である。
(2)理由2
(i) 本願発明と引用発明2とを,その有する機能に照らし対比すると,引用発明2の「前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1」は本願発明の「摩擦係合要素」に相当し,以下同様に,「ニュートラルポジション」は「第1のシフトポジション」に,「『D』ポジション又は『R』ポジション」は「第2のシフトポジション」に,「シフトポジション検出手段90」は「前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,検知するための検知手段」に,それぞれ相当する。
そして,引用発明2の「該シフトポジション検出手段90により前記ニュートラルポジションが検出された時から前記『D』ポジション又は『R』ポジションが検出されるまでの間は,リニアソレノイド弁SLTへの指令値を予め小さく設定された所定の予備値I_(1) とし,リニアソレノイド弁SLTからの制御油圧P_(SLT) を用いてガレージシフトコントロールバルブ112からマニアルバルブ120へ供給される係合過渡油圧PGを,前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1のトルク容量相当の大きさの比較的小さな所定の予備圧P_(W) とし,該シフトポジション検出手段90により前記『D』ポジション又は『R』ポジションが検出された後に,該前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1を係合させるための作動油圧を該マニアルバルブ120に供給して該前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1を係合作動させるためのシフト油圧制御手段」は,「前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を供給するための油圧制御手段」である点で,本願発明の「前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明2とは,
(一致点2)
「油圧により作動する摩擦係合要素が解放している状態から係合している状態に移行することにより非走行状態から走行状態への移行が可能となる自動変速機の制御装置であって,
前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,車両の運転者により操作されるシフト操作機構の位置に基づいて,検知するための検知手段と,
前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を供給するための油圧制御手段とを含む,自動変速機の制御装置。」
である点で一致し,
(相違点2(1))
本願発明は,シフトポジションが第1のシフトポジションであることを検知している間に,摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を供給する手段に関し,「前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段」を有するのに対し,引用発明2は,シフトポジション検出手段90によりニュートラルポジションが検出された時から「D」ポジション又は「R」ポジションが検出されるまでの間は前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1のトルク容量相当の大きさの比較的小さな所定の予備圧P_(W) を前記マニアルバルブ120に供給する手段を有するが,ニュートラルポジションにおいては当該予備圧P_(W) を前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1へ供給するものではない点
(相違点2(2))
本願発明においては,「非零の予め定められた油圧」が,「全開状態の指令圧により前記摩擦係合要素が前記動力伝達状態になるまで前記摩擦係合要素へ供給される油圧を上昇させるときに,前記全開状態の指令圧が継続しても,前記摩擦係合要素の係合圧が前記指令圧を超えないように決定される油圧である」のに対し,引用発明2においては,リニアソレノイド弁SLTへの指令値を最大値I_(max) としガレージシフトコントロールバルブ112を全開状態にした際の係合油圧PGと「比較的小さな所定の予備圧P_(W) 」との関係が不明である点
で相違する。
(ii)ア 相違点2(1)について
すでに検討したとおり,引用例2段落【0035】の記載や,引用例3段落【0043】及び【0056】の記載からすると,変速ショックの防止や変速時の応答性向上の観点から,変速ニュートラル(N)ポジションにおいて所定の低い油圧を摩擦係合要素へ供給することが公知であることがわかる。
そして,引用発明2は「シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されたときのシフト操作時の係合ショックが好適に防止される油圧制御装置を提供する」(引用例2段落【0007】)ことを目的とし,「『D(走行)』ポジション或いは『R(リバース)』ポジションが検出されると,前進用クラッチC1或いは後進用ブレーキB1の油圧シリンダ内に対して作動油を急速充填(ファーストフィル)するために,リニアソレノイド弁SLTへの指令値が予め大きく設定された所定のファーストフィル値I_(2) と(する)」(同段落【0034】)ように,応答性の向上を企図しているものである。
そうすると,引用発明2において,ニュートラルポジションにおいて,比較的小さな所定の予備圧P_(W) を設定するとともに,当該予備圧P_(W) を前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1へ供給することは当業者にとって格別困難なことではなく,引用発明2において相違点2(1)に係る本願発明の発明発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
イ 相違点2(2)について
引用発明1は,ニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合でも,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止時であるという条件を満足しないときは,フェールセーフ上,クラッチ要素(C1)が係合側になるように最大値の油圧指令値を設定するものであるが(引用例1段落【0068】ないし【0071】),このようなフェールセーフに係る事項を,引用発明2においても備えることは,当業者にとって格別困難なことではない。
その場合,このような最大値の油圧指令値,すなわち,リニアソレノイド弁SLTへの指令値を最大値I_(max) としガレージシフトコントロールバルブ112を全開状態にしたときの係合油圧PGによって,前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1を係合させる際,係合圧が指令値に係る油圧を越えることやハンチングするような状態にならないよう考慮することは,「シフト操作部材がニュートラルポジションから走行ポジションへ操作されたときのシフト操作時の係合ショックが好適に防止される油圧制御装置を提供する」(引用例2段落【0007】)といった,引用発明2の所期の目的に照らして当然であって,その観点から,「比較的小さな所定の予備圧P_(W) 」を,最大の油圧指令値が継続しても,前進用クラッチC1又は後進用ブレーキB1の係合圧が,指令値に係る油圧を超えないような大きさに設定することは,当業者が容易になし得ることである。
そうすると,引用発明2において相違点2(2)に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
ウ よって,本願発明は,引用発明2に引用例1ないし引用例3に記載された事項を適用することにより,容易想到である。
(3)理由3
(i) 本願発明と引用発明3とを,その有する機能に照らし対比すると,引用発明3の「L&Rブレーキ15」が本願発明の「摩擦係合要素」に相当し,以下同様に,「中立段(Nレンジ)」は「第1のシフトポジション」に,「後進段(Rレンジ)」は「第2のシフトポジション」に,それぞれ相当する。
そして,引用発明3において「セレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセットされているとき,上記第1の油圧通路20が解放され,上記ライン圧通路22からのライン圧P_(L)が第2の油圧通路21にのみ供給され,上記ソレノイド弁23にて上記L&Rブレーキ15に対して伝達トルクが発生しない程度の油圧に調圧されたプライマリ圧P_(S)がシャトル弁25により第3の油圧通路24を閉塞するとともに,L&Rブレーキ15に予圧として供給され,L&Rブレーキ15が非作動状態を維持する」点は,「シフトポジションが前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションである間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段」である点で,本願発明の「前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明3とは,
(一致点3)
「油圧により作動する摩擦係合要素が解放している状態から係合している状態に移行することにより非走行状態から走行状態への移行が可能となる自動変速機の制御装置であって,
シフトポジションが前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションである間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段とを含む,自動変速機の制御装置。」
である点で一致し,
(相違点3(1))
本願発明は,「前記非走行状態に対応する第1のシフトポジションおよび前記走行状態に対応する第2のシフトポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを,車両の運転者により操作されるシフト操作機構の位置に基づいて,検知するための手段」を有し,「前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を供給するための油圧制御手段とを含む」のに対し,引用発明3は,セレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセットされているとき,ソレノイド弁23にてL&Rブレーキ15に対して伝達トルクが発生しない程度の油圧に調圧されたプライマリ圧P_(S)がL&Rブレーキ15に予圧として供給されるものであるが,セレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセットされることとソレノイド弁23の調圧に関し,具体的構成が明らかでない点
(相違点3(2))
本願発明においては,「非零の予め定められた油圧」が,「全開状態の指令圧により前記摩擦係合要素が前記動力伝達状態になるまで前記摩擦係合要素へ供給される油圧を上昇させるときに,前記全開状態の指令圧が継続しても,前記摩擦係合要素の係合圧が前記指令圧を超えないように決定される油圧である」のに対し,引用発明3は,「比較的小さな所定の予備圧P_(W) 」をそのように決定していない点
で相違する。
(ii)ア 相違点3(1)について
引用発明3は,例えばDレンジを選択された場合に,ソレノイド弁23により油圧の供給が遮断され,L&Rブレーキ15に供給された油圧がドレーンされ,L&Rブレーキ15が解放されることが想定されているものであって,セレクトレバーの切り換え位置に応じてソレノイド弁23が開閉制御されるものであるところ,セレクトレバーが中立段(Nレンジ)にセットされていることを何らかの手段により検知していることは当然で,その手段として,引用発明2のように,セレクトレバーの位置に基づいて検知する手段を採用することは,当業者が適宜になし得た事項である。
イ 相違点3(2)について
引用発明1は,ニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合でも,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止時であるという条件を満足しないときは,フェールセーフ上,クラッチ要素(C1)が係合側になるように最大値の油圧指令値を設定するものであるが(引用例1段落【0068】ないし【0071】),このようなフェールセーフに係る事項を,引用発明3においても備えることは,当業者にとって格別困難なことではない。
その場合,ソレノイド弁23を全開状態にすることによって,L&Rブレーキ15を係合させることが合理的といえ,係合圧が指令値に係る油圧を越えることやハンチングするような状態にならないよう考慮することは,「簡単な構成で後進段選択時の所要セレクト時間の短縮とセレクトショックの軽減を図(る)」(引用例3段落【0010】)といった,引用発明3の所期の目的に照らして当然であって,その観点から,「L&Rブレーキ15に対して伝達トルクが発生しない程度の油圧に調圧されたプライマリ圧P_(S)」を,最大の油圧指令値が継続しても,L&Rブレーキ15の係合圧が指令値に係る油圧を超えないような大きさに設定することは,当業者が容易になし得ることである。
そうすると,引用発明3において相違点3(2)に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。
ウ よって,本願発明は,引用発明3に引用例1及び引用例2に記載された事項を適用することにより,容易想到である。
(4) 本願発明の奏する効果をみても,引用例1ないし引用例3に記載された事項から予測し得る範囲内のものである。
(5)(i) 請求人は概ね以下のように主張している。
・本願発明は「前記シフト操作機構の位置に基づくシフトポジションが前記第1のシフトポジションであることを前記検知手段が検知している間に,前記摩擦係合要素が動力伝達状態になる油圧よりも低い非零の予め定められた油圧を前記摩擦係合要素へ供給するための油圧制御手段」という特徴と,「非零の前記予め定められた油圧は,全開状態の指令圧により前記摩擦係合要素が前記動力伝達状態になるまで前記摩擦係合要素へ供給される油圧を上昇させるときに,前記全開状態の指令圧が継続しても,前記摩擦係合要素の係合圧が前記指令圧を超えないように決定される油圧である」という特徴とを構成要件として具備する。このような特徴により,たとえば,運転者のシフト操作機構の操作によってシフトポジションが走行状態に対応する第2のシフトポジションに切り換えられたにもかかわらず,検知手段の故障により第2のシフトポジションに切り換えられたことが検知できない場合であって,かつ,運転者がアクセルペダルを踏み込むなどして走行が要求されて,摩擦係合要素の指令圧の全開状態が継続する場合に,摩擦係合要素の係合圧が指令圧を超えることが抑制される。これにより,摩擦係合要素の係合圧のハンチングを抑制して,良好な発進性を確保できるという特段の顕著な作用効果が発生する。
・一方,引用例1ないし引用例4においては,上述したような摩擦係合要素の指令圧が全開状態になる場合について全く考慮されておらず,引用例1ないし引用例4のいずれにも本願発明の上記特徴について開示も示唆もない。
(ii) しかし,引用発明1は,ニュートラル(N)ポジションであることが検知されている場合でも,ブレーキがオンかつアクセルがオフかつ車両が停止時であるという条件を満足しないときは,フェールセーフ上,クラッチ要素(C1)が係合側になるように最大値の油圧指令値を設定するものであるから,摩擦係合要素の指令圧が全開状態になる場合について考慮しているものである。
また,上記のような引用発明1のフェールセーフに係る事項を,引用発明2や引用発明3においても備えることは,引用例2及び引用例3に明示や示唆が格別ないとしても,通常考慮し得る範囲内の事項であって,当業者にとって格別困難なことではない。
そして,すでに検討したとおり,このような最大値の油圧指令値により摩擦係合要素を係合させる際,係合圧が指令値に係る油圧を越えることやハンチングするような状態にならないよう考慮することは,引用発明1ないし引用発明3の所期の目的に照らして当然で,引用発明1ないし引用発明3に係る非零の予め定められた油圧を,最大値の油圧指令値が継続しても,係合圧が当該「最大値の油圧指令値」に係る油圧を超えないような大きさに決定することは,当業者が容易になし得ることである。
よって,請求人の主張は採用することができない。
(6) 以上総合すると,本願発明は,引用例1ないし引用例3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1ないし引用例3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
そして,本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上,本願の請求項2ないし請求項4に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-31 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-19 
出願番号 特願2005-369729(P2005-369729)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 所村 陽一
窪田 治彦
発明の名称 自動変速機の制御装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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