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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1265449
審判番号 不服2011-23004  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-25 
確定日 2012-11-01 
事件の表示 特願2006-513894「面発光体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 8日国際公開、WO2005/115740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年(2005年)5月24日(優先権主張 平成16年5月26日)を国際出願日とする特願2006-513894号であって、平成23年3月30日付けで拒絶理由が通知され、同年7月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成24年3月9日付けで前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋をなし、同年5月11日付けで回答書が提出された。

第2 平成23年10月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年10月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、国際出願時における特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「微粒子及びバインダーを含む複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板であって、複合薄膜の屈折率は透明性基材の屈折率より高く、複合薄膜内に含まれる微粒子とバインダーとの屈折率の差が0.1以上であり、及び複合薄膜における(微粒子の固形分質量)/(バインダーの固形分質量+微粒子の固形分質量)が0.01?0.5である面発光体用複合薄膜保持基板。」が

「シリカ微粒子及びバインダーを含む複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板であって、複合薄膜の屈折率は透明性基材の屈折率より高く、複合薄膜内に含まれるバインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大きく、かつ屈折率の差が0.1以上であり、及び複合薄膜における(シリカ微粒子の固形分質量)/(バインダーの固形分質量+シリカ微粒子の固形分質量)が0.01?0.5である面発光体用複合薄膜保持基板。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、補正前の「微粒子」について「シリカ微粒子」と限定する補正事項、及び、バインダーの屈折率とシリカ微粒子の屈折率について「バインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大き」いことを特定して限定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)特許法第29条第2項の規定違反について
ア 本願補正発明
本願補正発明は、平成23年10月25日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

イ 引用例
(ア)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-14385号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「(イ)引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気エネルギーの印加により発光を示す有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に関するものである。」

「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は、前述したように、僅かな電気エネルギーで自己発光を示すため、優れた表示材料と考えられているが、これまでに製品として開発された有機ELディスプレイでは、安定性が充分でないことや、発光効率が充分とは言えないことなどの問題点が指摘されている。特に、有機EL素子は、無機EL素子に比べて一般的に構成材料の屈折率が低いので、その光取り出し効率はやや高いというものの、発光量の20%程度に過ぎず、更なる改良が望まれている。
【0009】
従って、本発明は、従来と同程度の消費電力で、外部に充分な発光を取り出すことのできる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを主な目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者は、有機エレクトロルミネッセンス素子の問題点について研究した結果、発光層の背面側および/または前面側に、発光層の屈折率と同程度もしくはそれ以上の屈折率を示す高屈折率光散乱層を配置し、かつ発光層と高屈折率光散乱層との間に存在する材料の屈折率を、発光層の屈折率と同程度もしくはそれ以上高いレベルに維持することによって、発光層から発せられた光が外部に効率良く取り出されることを見い出し、本発明に到達した。」

「【0025】
図3は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の別の構成例を示す。図3において有機EL素子は、前面シート(支持体)31bの上に順に、高屈折率光散乱層(厚さ:1?50μm)35、光透過性前面電極(陽極、厚さ:0.01?20μm)32b、ホール注入層37、ホール輸送層34、有機エレクトロルミネッセンス発光層(電子輸送性、厚さ:10?100nm、層の平面方向にR、G、Bなどの色相の発光を示す各種の有機化合物がそれぞれ区画され配置されている)33、電子注入層36、光透過性背面電極32a(陰極、厚さ:0.01?20μm)、および光散乱反射層38が形成された構成を有する。
【0026】
発光層33より前面側に設けられた高屈折率光散乱層35は、発光層33と同等かそれ以上の屈折率を有する層である。また、発光層33と高屈折率光散乱層35との間にある中間層(ホール輸送層34、ホール注入層37および前面電極32b)はそれぞれ、発光層33から前面側に向かった光のうち40%以上(好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上)が高屈折率光散乱層35に入射するように、その屈折率が調整されている。
【0027】
前面側(図における下側)に配置された前面電極32bと背面電極32aとの間に直流電圧を印加すると、前面電極32bおよび背面電極32aからそれぞれホールと電子とが注入され、これらホールと電子はそれぞれ中間層を経て発光層33内の発光中心で再結合して有機分子を励起し、この有機分子が蛍光及び/又は燐光を発する。発光光のうち背面側に向かった光の大部分は、光散乱反射層38により反射されて前面側に向かう。そしてこの反射された光および前面側に向かった発光光は、屈折率が好適に調整された中間層により高効率で高屈折率光散乱層35に導かれ、そして高屈折率光散乱層25にて全反射することなく散乱して、高効率で前面シート31bに達する。よって、前面側から効率良く発光光を取り出すことができる。
【0028】なお、本発明の有機EL素子は、図3に示した構成に限定されるものではなく、電子注入層やホール注入層はなくてもよいし、あるいは各層間に各種の補助層が設けられていてもよい。高屈折率光散乱層の前面側には、光透過性保護膜、カラーフィルター層または光波長変換層などが設けられていてもよい。また、前面シートの代わりにガラス基板等からなる背面シートが設けられていてもよい。
【0029】
また、この場合にも、様々な二層、三層または単層構造をとることが可能である。具体的に二層構造の場合には、次のような基本構成をとることができる。
1)光散乱反射層/光透過性背面陰極/有機エレクトロルミネッセンス発光層/ホール輸送層/光透過性前面陽極/高屈折率光散乱層/前面シート
2)光散乱反射層/光透過性背面陽極/ホール輸送層/有機エレクトロルミネッセンス発光層/光透過性前面陰極/高屈折率光散乱層/前面シート
3)光散乱反射層/光透過性背面陰極/電子輸送層/有機エレクトロルミネッセンス発光層/光透過性前面陽極/高屈折率光散乱層/前面シート
4)光散乱反射層/光透過性背面陽極/有機エレクトロルミネッセンス発光層/電子輸送層/光透過性前面陰極/高屈折率光散乱層/前面シート
【0030】
三層構造の場合には、次のような基本構成をとることができる。
1)光散乱反射層/光透過性背面陰極/電子輸送層/有機エレクトロルミネッセンス発光層/ホール輸送層/光透過性前面陽極/高屈折率光散乱層/前面シート
2)光散乱反射層/光透過性背面陽極/ホール輸送層/有機エレクトロルミネッセンス発光層/電子輸送層/光透過性前面陽極/高屈折率光散乱層/前面シート
【0031】
単層構造の場合には、次のような基本構成をとることができる。
1)光散乱反射層/光透過性背面電極/有機エレクトロルミネッセンス発光層/光透過性前面電極/高屈折率光散乱層/前面シート
【0032】
有機EL素子が上記いずれの基本構成をとる場合であっても、発光層と高屈折率光散乱層との間にある各中間層の屈折率は、発光層からの光の一定量以上が高屈折率光散乱層に入射するように調整される。」

「【0034】
次に、本発明の有機EL素子の構成要素となる各層の材料やサイズなどの例を説明する。
【0035】
[背面シート及び前面シート]
背面シートは、支持体として機能するものであり、光不透過性であっても光透過性であってもよい。一般には、ガラス基板、または有機高分子物質からなる樹脂基板が用いられる。一方、前面シートも支持体として機能するが、光透過性でなければならず、一般にはガラス基板が用いられる。ガラス基板の材料の例としては、ノンアルカリガラス(バリウムボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス)を挙げることができる。
【0036】
[高屈折率光散乱層]
高屈折率光散乱層としては、Y_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)、BaTa_(2)O_(6)、BaTiO_(3)、TiO_(2)、Sr(Zr,Ti)O_(3)、SrTiO_(3)、PbTiO_(3)、Al_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)、ZnS、ZrO_(2)、PbNbO_(3)、Pb(Zr,Ti)O_(3)などの微粒子を樹脂中に分散させて層形成したものが用いられる。ただし、使用する樹脂の屈折率は、発光層の屈折率と略同等もしくはそれ以上の屈折率でなければならない。」

「【0050】
【実施例】
[実施例1]
支持体として、厚さ700μmのガラスシートを用意した。この支持体上に、ポリエステル樹脂中にTiO_(2)の微粒子(平均粒径:500nm)を分散してなる高屈折率光散乱層(白色光反射層を兼ねる、厚さ:約30μm)をスクリーン印刷により形成した。その上に、スパッタリングによりITO電極(厚さ:200nm)を形成した。さらに、真空蒸着により銅フタロシアニンからなる電子注入層(厚さ:10nm)、トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq_(3))からなる発光層(厚さ:60nm)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(1-ナフチル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(NPD)からなるホール輸送層(厚さ:40nm)、および銅フタロシアニンからなるホール注入層(厚さ:10nm)を順次形成した。次いで、スパッタリングによりITO電極(厚さ:200nm)を形成した。このようにして、図2に示した構成を有する本発明の有機EL素子を製造した。
【0051】
[実施例2]
支持体として、厚さ700μmのガラスシートを用意した。この支持体上に、ポリエステル樹脂中にTiO_(2)の微粒子(平均粒径:500nm)を分散してなる高屈折率光散乱層(厚さ:約30μm)をスクリーン印刷により形成した。その上に、スパッタリングによりAl電極(厚さ:20nm)を形成した。さらに、真空蒸着によりLiFからなる電子注入層(厚さ:2nm)、Alq_(3)からなる発光層(厚さ:60nm)、NPDからなるホール輸送層(厚さ:40nm)、および銅フタロシアニンからなるホール注入層(厚さ:10nm)を順次形成した。次いで、スパッタリングによりITO電極(厚さ:200nm)を形成した。このようにして、図2に示した構成を有する本発明の有機EL素子を製造した。」

「【0056】
[実施例3]
支持体として、厚さ700μmのガラスシートを用意した。この支持体上に、ポリエステル樹脂中にTiO_(2)の微粒子(平均粒径:500nm)を分散してなる高屈折率光散乱層(白色光反射層を兼ねる、厚さ:約30μm)をスクリーン印刷により形成した。その上に、スパッタリングによりITO電極(厚さ:200nm)を形成した。さらに、真空蒸着により銅フタロシアニンからなるホール注入層(厚さ:10nm)、NPDからなるホール輸送層(厚さ:40nm)、Alq_(3)からなる発光層(厚さ:60nm)、およびLiFからなる電子注入層(厚さ:2nm)を順次形成した。次いで、真空蒸着によりAl層(厚さ:10nm)、そしてスパッタリングによりITO電極(厚さ:200nm)を形成した。最後に、ポリエステル樹脂中にTiO_(2)の微粒子(平均粒径:500nm)を分散してなる光散乱反射層(厚さ:約30μm)をスクリーン印刷により形成した。このようにして、図3に示したような構成を有する本発明の有機EL素子を製造した。」

「【図3】



(イ)引用例1に記載された発明の認定
上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「光透過性の支持体である前面シート31bの上に順に、高屈折率光散乱層35、光透過性前面電極32b、ホール注入層37、ホール輸送層34、有機エレクトロルミネッセンス発光層33、電子注入層36、光透過性背面電極32a、および光散乱反射層38が形成された構成を有する高屈折率光散乱層が形成された光透過性の支持体である前面シートであって、
高屈折率光散乱層35は、発光層33と同等かそれ以上の屈折率を有する層であり、微粒子を樹脂中に分散させて層形成したものが用いられる、有機エレクトロルミネッセンス素子における高屈折率光散乱層が形成された光透過性の支持体である前面シート。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(ウ)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2003/26357号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

「技術分野
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子用基板およびこれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。」(明細書第1ページ第4?6行)

「発明を実施するための最良の形態
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用透明性基板はガラス、有機フィルムなど透明性基体の両面または一方に、発光素子からの発光に対して反射・屈折角に乱れを生じさせる領域として、表面が平滑な散乱層を設けたことを特徴とする。散乱層は基体表面を粗面化したのち透明性樹脂などで平坦化したものや基体表面に散乱性の構造物を設けること、または多孔質の層を設けることができるが、量産性や表面平滑性を考慮すると好ましくはこの散乱層は微粒子をバインダーに分散させ、塗布したものが用いられる。」(明細書第5ページ第14?21行)

「ここで用いられる微粒子とは、直径0.01?10μmの球形や板状などの粒子である。その材質は有機物、無機物を問わないがバインダー中での分散性や透明性基板への塗布性、屈折率や透明性などを考慮して決定される。また微粒子は単独でも2種以上の混合でも使用できる。2種以上の混合の場合には、屈折率の異なる2種以上の微粒子であってもよく、単に粒子径の異なる2種以上の微粒子であってもよい。
微粒子としては金、銀、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、鉄、アンチモン、白金及びロジウムなど金属微粒子、AgCl、AgBr、AgI、CsI、CsBr、CsI、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、AlAs、AlSb、GaP、GaAs、GaSb、InP、InAs、InSb、SiC、PbS、HgS、Si及びGeなど半導体微粒子、TiO_(2) 、SrTiO_(3)、SiO_(2) 、ZnO、MgO、Ag_(2)O、CuO、Al_(2)O_(3)、B_(2)O_(3) 、ZrO_(2) 、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)O、BaO、CaO、PbO、P_(2)O_(5)、Cs_(2)O、La_(2)O_(3) 、SrO、WO_(3) 、CdO及びTa_(2)O_(5)など無機酸化物微粒子及びこれらの混合物無機系の微粒子、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ベンゾグアナミン、シリコーン樹脂及びメラミン樹脂等の有機系の微粒子が用いられうるが、好ましくはシリカ微粒子、ポリアクリレート微粒子及びポリスチレン微粒子が適用される。
またバインダーとは、前記微粒子をよく分散させ、かつ透明性基板への塗布性に優れるものである。その材質は有機物、無機物を問わないが微粒子の分散性や透明性基板への塗布性、屈折率や透明性などを考慮して決定される。また、熱可塑性、熱硬化性、紫外線硬化性のバインダーを使用することもできる。
バインダーとしては、ウレタン系物質、アクリル系物質、アクリル-ウレタン共重合物質、エポキシ樹脂系物質、メラミン樹脂系物質、ポリビニルアセタール系物質、ポリビニルアルコール系物質、ポリカーボネート樹脂系及び金属アルコキシドの加水分解物であるゾルゲル材料等が用いられる。なかでも、アルコキシシランの加水分解物であるゾルゲル材料、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール及びポリカーボネート樹脂等が好ましい。
バインダーの屈折率に対する微粒子の相対屈折率(球状微粒子の屈折率を透明高分子バインダーの屈折率で割った値で、以下単に相対屈折率という)をnとしたときに、この相対屈折率nが、好ましくは、0.5<n<2.0、特に好ましくは、0.5<n<0.91または1.09<n<2.0であることが好適である。」(明細書第7ページ第12行?第8ページ第16行)

「実施例1
還流管を備えつけた反応フラスコにアルコキシシランとして、テトラエトキシシラン20.8gと、溶媒としてエタノールを70.1gを入れ、マグネチックスターラーを用いて攪拌、混合した。そこへ、触媒として蓚酸0.1gを水9gに溶解したものを添加し混合した。混合後、液温は約10℃発熱した。そのまま30分間攪拌を続け、次いで76℃で60分間加温し、その後、室温まで冷却して、固形分濃度がSiO_(2)として6質量%含まれる溶液を作成した。この溶液をシリコン基板に、焼成し、屈折率を測定したところ、1.32であった。
上記の溶液10gと、粒子径80nmでSiO_(2)として30質量%のシリカ粒子(屈折率は1.35)を含有しIPA(イソプロパノール)を分散媒とするシリカゾル13.3gと、溶媒としてエタノール34.2g及びブチルセロソルブ57.5gをマグネチックスターラーを用いて混合し、塗布液とした。この塗布液の固形分質量比は、6/40であった。
このようにして得られた塗布液を、波長550nmの透過率が91%の厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板上にスピンコーターを用いて成膜し、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、300℃のクリンオーブンで60分間加熱して、膜厚約1000Å(オングストローム)の硬化被膜とした。そして、波長550nmで分光光度計(島津製作所製、W-160型)により透過率の測定を行ったところ94.8%であった。
同様の方法によりシリコン基板上に膜厚約1000Å(オングストローム)の硬化被膜を作成し、屈折率の測定を行ったところ1.32であった。屈折率はエリプソメーター((株)溝尻光学工業所製)により測定した。
実施例2
ポリビニルブチラール700gをn-ブタノール630gに溶解した後、メタノール400g、水100g、さらに架橋剤としてテトラメトキシシラン5gを添加して均一になるまで撹拌した。次に、これに硬化触媒としてP-トルエンスルホン酸1g、及び界面活性剤1gを添加して撹拌した。バインダーのみの屈折率は1.40であった。そして、粒子径1μmの塩化銀微粒子(屈折率2.09)を分散させた水溶液(固形分濃度0.1質量%)20gを添加して、さらに1時間撹拌することによりコート液を作製した。低圧水銀ランプの紫外線を1分間照射して前処理を行ったアクリル製基板に前記コート液をディップコート法により引き上げ速度2mm/秒にて塗布した。100°Cで15分間の加熱処理を施すことにより硬化させて本実施例の散乱層付き透明性基板を作製した。
実施例3
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量4万、屈折率1.65)240gと塩化メチレン60gとを溶解し混合した。この混合溶液80体積%とアクリル樹脂製微粒子(綜研化学(株)製 数平均粒径:0.5μm、屈折率1.45)20体積%とを混合し、超音波により2時間分散させた。これをガラス基板上にスピンコート(840rpm;10秒)し、オーブンを用いて100℃で10分プリベーク後、230℃で20分ポストベークを行い、本実施例の散乱層付き透明性基板を作製した。
実施例4
上記実施例1?3より得られた散乱層を有する透明性基板、および散乱層を形成していない透明性基板を比較例として用いて、それぞれ有機エレクトロルミネッセンス素子を作成した。それぞれの透明性基板の散乱層の上に、透明性電極としてスパッタ法によりインジウムチンオキサイド(ITO)を100nmの厚みで成膜した。このときのシート抵抗値は20Ω/cm^(2)であった。この表面にホール輸送層材料としては本出願人が先に出願した特願2000-341775号に記載のオリゴアニリン誘導体(アニリン5量体をDMFに溶解させそれに3倍モル当量の5-スルホサリチルをドーピングしたもの)を70nmの厚みで、発光層としてはN,N’-ビス(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビスフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)を50nmの厚みで、電子輸送層としてはトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq_(3))を50nmの厚みで順次形成した。続いて陰極としてマグネシウム-銀合金を蒸着し形成した。このときの陰極の膜厚は200nmとした。
このようにして作成した有機エレクトロルミネッセンス素子の両電極に電圧を10V印加し、透明性基板正面からの発光量を測定し、比較例の測定値を1として実施例1と実施例2の透明性基板より作成した素子の測定値と比較した。
結果、実施例1の素子では1.1、実施例2の素子では1.5、実施例3の素子では1.3となり、このことから本発明による透明性基板を用いることで従来構造の有機エレクトロルミネッセンス素子の面発光輝度を大幅に上昇させることを確認するに至った。」(明細書第9ページ第12行?第11ページ第17行)

「2. 反射、屈折角に乱れを生じさせる領域が、微粒子とバインダーを含む散乱層からなり、かつ微粒子の屈折率とバインダーの屈折率が異なるものよりなる請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用基板」(明細書第12ページの請求項2)

ウ 本願補正発明と引用発明との対比
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「微粒子を樹脂中に分散させて層形成した」「高屈折率光散乱層35」と、本願補正発明の「シリカ微粒子及びバインダーを含む複合薄膜」とは、「微粒子及びバインダーを含む複合薄膜」である点で一致し、また、引用発明の「光透過性の支持体である前面シート31b」が、本願補正発明の「透明性基材」に相当する。さらに、引用発明の「高屈折率光散乱層が形成された光透過性の支持体である前面シート」が、本願補正発明の「複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板」に相当する。
よって、引用発明の「光透過性の支持体である前面シート31bの上に順に、高屈折率光散乱層35、光透過性前面電極32b、ホール注入層37、ホール輸送層34、有機エレクトロルミネッセンス発光層33、電子注入層36、光透過性背面電極32a、および光散乱反射層38が形成された構成を有する高屈折率光散乱層が形成された光透過性の支持体である前面シート」と、本願補正発明の「シリカ微粒子及びバインダーを含む複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板」とは、「微粒子及びバインダーを含む複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板」である点で一致する。

引用発明の「発光層」に関して、引用例1において【0050】【0051】【0056】に実施例として「Alq_(3)からなる発光層」が記載されており、その屈折率は1.7程度であることが知られており、また、前面シートとしてはガラス基材(【0035】においては「ノンアルカリガラス(バリウムボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス)」)が用いられ、その屈折率は1.5程度であるから、引用発明の「高屈折率光散乱層35」の「発光層33と同等かそれ以上の屈折率」は、「前面シート」の屈折率より高いことは明らかである。さらに、引用例1の【0050】【0051】【0056】に記載の実施例において、「高屈折率光散乱層」に実際に用いられている材料のポリエステル樹脂の屈折率が1.6程度(少なくとも1.5よりは大きい)、微粒子のTiO_(2)の屈折率が2.5程度であることが知られており、それらの値がともに「前面シート」の屈折率より高い値であることは明らかであり、これらの値からも、「高屈折率光散乱層35」の屈折率が「前面シート」の屈折率より高いことが裏付けられる。
よって、引用発明の「高屈折率光散乱層35は、発光層33と同等かそれ以上の屈折率を有する層であ」ることが、「複合薄膜の屈折率は透明性基材の屈折率より高」いことに相当する。

引用発明の「高屈折率光散乱層35」は「微粒子を樹脂中に分散させて層形成したもの」であり、樹脂と微粒子の屈折率の違いを利用して光を散乱するものであることから、引用発明の「微粒子」と「樹脂」は異なる屈折率を有するものであるといえる。
よって、引用発明の「高屈折率光散乱層35」は「微粒子を樹脂中に分散させて層形成したもの」であることと、本願補正発明の「複合薄膜内に含まれるバインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大きく、かつ屈折率の差が0.1以上であ」ることとは、「複合薄膜内に含まれるバインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率と異なる」点で一致する。

引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子における高屈折率光散乱層が形成された光透過性の支持体である前面シート」が、本願補正発明の「面発光体用複合薄膜保持基板」に相当する。

(イ)一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「微粒子及びバインダーを含む複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板であって、複合薄膜の屈折率は透明性基材の屈折率より高く、複合薄膜内に含まれるバインダーの屈折率は微粒子の屈折率と異なる面発光体用複合薄膜保持基板。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(ウ)相違点
a 相違点1
複合薄膜の微粒子が、本願補正発明は、「シリカ微粒子」であるのに対し、引用発明は、その点の特定がない点。

b 相違点2
複合薄膜内に含まれるバインダーと微粒子の屈折率について、本願補正発明は、「バインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大き」いのに対し、引用発明は、その点の特定がない点。

c 相違点3
複合薄膜内に含まれるバインダーと微粒子の屈折率について、「屈折率の差が0.1以上」であるのに対し、引用発明は、その点の特定がない点。

d 相違点4
複合薄膜内に含まれるバインダーと微粒子の含有される割合について、本願補正発明は、「(微粒子の固形分質量)/(バインダーの固形分質量+微粒子の固形分質量)が0.01?0.5」であるのに対して、引用発明は、その点の特定がない点

エ 当審の判断
(ア)上記各相違点について検討する。
a 相違点1について
基板の微粒子とバインダーからなる散乱層に含有させる微粒子として、「シリカ微粒子」を用いることは、引用例2にも記載されているように周知の技術である。
引用例1の【0036】の記載から、引用発明における「高屈折光散乱層」の「微粒子」は、樹脂中に分散されて光の散乱を生じさせるもの(すなわち、樹脂と屈折率が異なるもの)であれば足り、上記【0036】に列挙されているものに限らないことは明らかである。
よって、引用発明の高屈折光散乱層の微粒子として、上記の周知のシリカ微粒子を採用し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

b 相違点2について
バインダーの屈折率と微粒子の屈折率の大小関係について、本願の明細書の発明の詳細な説明には【0017】に次の事項が記載されている。
「ここで、複合薄膜内での微粒子とバインダー間の散乱を得るためには、微粒子とバインダーの屈折率が異なる必要がある。両者に屈折率の差があれば、どちらが大きくてもよい。」
上記記載によれば、散乱を得るために必要なことは、「微粒子とバインダーの屈折率が異なる」ことであって、その大小関係については、散乱に影響を及ぼさない要因であるといえる。また、「バインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大きい」とする場合の方が、「バインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より小さい」とする場合に比べて有利な効果を有するということは、明細書の発明の詳細な説明のどこにも記載されていない。
よって、「バインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大き」いとする特定は、当業者が適宜選択し得る単なる設計的事項に過ぎない。すなわち、上記相違点2は、当業者にとって格別のものではなく、当業者が容易に設定し得たことに過ぎない。

c 相違点3について
相違点3については、散乱を生じるためには、バインダー(樹脂)と微粒子の屈折率の差が大きい方が、より効果が生じることは技術常識から当然といえるから、屈折率の差ができるだけ大きくなるバインダー(樹脂)及び微粒子の素材を選択することは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、その下限について、「0.1以上」と特定したことについては、引用例2の記載から格別のことではないといえる。詳述すれば、引用例2には、「バインダーの屈折率に対する微粒子の相対屈折率(球状微粒子の屈折率を透明高分子バインダーの屈折率で割った値で、以下単に相対屈折率という)をnとしたときに、この相対屈折率nが」、「特に好ましくは、0.5<n<0.91または1.09<n<2.0であることが好適である」と記載され、また、実施例においてバインダーの屈折率は、1.32、1.40、1.65のものが列挙されている。これらのバインダーの屈折率に、上記の「0.5<n<0.91または1.09<n<2.0」の関係をあてはめると、微粒子とバインダーの屈折率の差は、それぞれ、少なくとも0.1188、0.126、0.1485となるから、いずれの場合も、微粒子とバインダーの屈折率の差が、0.1以上となることは明らかであり、微粒子とバインダーの屈折率の差の下限について、「0.1以上」と特定したことについても、引用例2に記載されていることに過ぎず、格別のことということはできない。
よって、上記相違点3は、当業者にとって格別のものではなく、当業者が容易に設定し得たことに過ぎない。

d 相違点4について
バインダーと微粒子の含有される割合については、含有される微粒子の割合をあまり小さくすると散乱の効果が小さくなり、その一方で、あまり大きくすると、微粒子同士の距離が小さくなってやはり散乱の効果が小さくなることは、技術常識から当業者が容易に想到し得ることであり、これらの要因を踏まえて、その割合をどの程度にするかは、当業者が適宜設定し得る設計的事項に過ぎない。また、相違点4の数値範囲に臨界値的意義も認められない。よって、上記相違点4は、当業者にとって格別のものではなく、当業者が容易に設定し得たことに過ぎない。

(イ)本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知の技術的事項から当業者が予測し得る程度のものである。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)特許法第29条の2の規定違反について
ア 先願明細書等
本願の優先日前に出願され、その後公開された特許出願である特願2004-11452号(特開2004-296429号)(以下「引用先願」という。)の最初に願書に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面には、次の事項が記載されている。(下記「(イ)先願明細書等に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)なお、引用先願の発明者は本願の発明者と同一ではなく、また本願の出願の時において、引用先願の出願人は本願の出願人と同一でもない。

「【請求項1】
発光層を含む少なくとも1層の有機層と、これを挟持する少なくとも一方が透明電極である陽極電極と陰極電極とからなる一対の電極とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、透明電極の光取り出し面側に隣接して、屈折率が上記発光層と同等またはそれ以上の透明層を設け、かつこの透明層の光取り出し面側に隣接してあるいは透明層の内部に実質的に光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域を設けたことを特徴とする有機エクトロルミネッセンス素子。」

「【0040】
本発明において、上記の透明層7に関し、屈折率が発光層と同等またはそれ以上とは、発光層の屈折率に対し、0.95倍以上、好ましくは発光層の屈折率以上、さらに好ましくは1.05倍以上であることを意味している。
なお、図1においては、光拡散層8を通過した光は、すべて外部に取り出されるが如く描かれているが、実際には光拡散層8を通過した光も、支持基板1の界面でやはり全反射を受けて、閉じ込められる。しかしながら、支持基板1と空気層の界面で全反射された光は、反射性電極3での反射、光拡散層8を再度通過、を幾度となく繰り返すことにより、最終的に外部に取り出されることになる。
【0041】
また、上記の光の反射・散乱角に乱れを生じさせる領域8は、図1の構成では透明層7の光取り出し面側に隣接して設けているが、図3に示すように透明層7の内部に部分的にまたは内部全体に設けてもよい。つまり、透明層7自体を前記した光拡散層8で構成してもよい。さらに、図4に示すように支持基板1として透明層材料からなるものを使用し、この基板1自体を透明層7とすることもできる。
また、この図4においては、透明層7を兼ねる支持基板1の光取り出し面側に隣接して前記同様の光拡散層8を形成しているが、この光拡散層8に代えて、図5に示すように、透明層7を兼ねる支持基板1の光取り出し面側にレンズアレイを形成したり、物理的な凹凸面を形成するようにしてもよい。
なお、上記した図3?図5において、その他の構成要素は、図1と同じであり、同一番号を付して、その説明を省略する。」

「【0065】
本発明において、光の反射・屈折角に乱れを生じさせる領域は、基本的に、全反射角以上の角度にある光の伝送角を効率良く全反射角以下の伝送角に乱すことができ、素子内部に閉じ込められている導波光をより多く外部に出射できるように形成されておればよく、その形成方法については、とくに限定はない。すなわち、従来より提案されているものをそのまま応用することができる。
【0066】
たとえば、前記した光拡散層として、透明材料中にこれとは屈折率の異なる透明材料または不透明材料を分散分布させた光拡散性部位を形成すればよい。具体的には、透明層材料であるポリカルボジイミド樹脂中にシリカ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、プラスチック粒子、液晶粒子、気泡などを分散分布させたものなどがある。
これらの屈折率および屈折率差や粒子の粒径などに限定はないが、光散乱を生じさせるという観点から、粒径は0.2?20μm、好ましくは0.3?10μm、より好ましくは0.5?5μmであり、屈折率差は0.05以上であるのがよい。」

「【0070】
つぎに、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
なお、以下の実施例で使用したポリカルボジイミド樹脂は、下記の合成例1,2により、合成したものである。両合成例は、窒素気流下で行った。また、IR測定は、FT/IR-230(日本電子社製)を用いて行った。
【0071】
<合成例1>
撹拌装置、滴下漏斗、還流冷却器、温度計を取り付けた500mlの四つ口フラスコに、トリレンジイソシアネート(異性体混合物:三井武田ケミカル社製の「T-80」)29.89g(171.6ミリモル)、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート94.48g(377.52ミリモル)、ナフタレンジイソシアネート64.92g(308.88ミリモル)、トルエン184.59gを入れ、混合した。これに1-ナフチルイソシアネート8.71g(51.48ミリモル)と3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-2-オキシド0.82g(4.29ミリモル)を加えて、撹拌しながら100℃に昇温し、2時間保持した。
反応の進行は、赤外分光法にて確認した。具体的には、イソシアネートのN-C-O伸縮振動(2,270cm^(-1))の吸収の減少とカルボジイミドのN-C-N伸縮振動(2,135cm^(-1))の吸収の増加を観測した。IRで反応の終点を確認し、反応液を室温まで冷却して、ポリカルボジイミド樹脂溶液を得た。
【0072】
<合成例2>
操絆装置、滴下漏斗、還流冷却器、温度計を取り付けた500mlの四つ口フラスコに、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート89.01g(355.68ミリモル)、ナフタレンジイソシアネート24.92g(118.56ミリモル)、ヘキサメチレンジイソシアネート44.87g(266.76ミリモル)、トルエン216.56gを入れ、混合した。これに1-ナフチルイソシアナート7.52g(44.46ミリモル)と3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-2-オキシド0.71g(3.705ミリモル)を加え、25℃で3時間撹拌したのち、撹拌しながら100℃に昇温し、さらに2時間保持した。
反応の進行は、赤外分光法にて確認した。具体的には、イソシアネートのN-C-O伸縮振動(2,270cm^(-1))の吸収の減少とカルボジイミドのN-C-N伸縮振動(2,135cm^(-1))の吸収の増加を観測した。IRで反応の終点を確認し、反応液を室温まで冷却して、ポリカルボジイミド樹脂溶液を得た。
【0073】
上記の合成例1,2で得られたポリカルボジイミド樹脂について、以下の屈折率試験を行った。すなわち、ポリカルボジイミド樹脂溶液を、剥離剤で処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータの上に塗布し、130℃で1分間加熱したのち、150℃で1分間加熱して、厚さが50μmのフィルム状サンプルを作製した。
このサンプルを1cm×2cmのサイズに切断し、120℃、150℃および175℃のキュア炉でそれぞれ1時間硬化させたのち、その屈折率を多波長アツペ屈折計(ASTAGO社製のDR-M4)で測定した。
結果は、表1に示されるとおりであった。この結果から、合成例1,2で得たポリカルボジイミド樹脂は、一般的なポリマー樹脂に比べて、高い屈折率を有しており、本発明に適応するに好ましいものであった。
【0074】
表1
┌────┬───────────────────────┐
│ │ 屈折率(波長:587.6nm) │
│ ├───────┬───────┬───────┤
│ │120℃キュア│150℃キュア│175℃キュア│
├────┼───────┼───────┼───────┤
│合成例1│ 1.7571│ 1.7479│ 1.7443│
│合成例2│ 1.7343│ 1.7245│ 1.7230│
└────┴───────┴───────┴───────┘
【実施例1】
【0075】
合成例1で得られたポリカルボジイミド樹脂溶液に、平均粒子径が0.5μmのシリカ粒子70重量%を含むトルエン溶液を、ポリカルボジイミド樹脂に対して、20重量%の割合で添加し、撹拌した。この分散液を、ガラス基板上に、アプリケータにより塗布し、150℃で1時間キュアして、厚さが1.1mmのガラス基板上に厚さが25μmの光拡散層を兼ねる透明層を形成した。

アッベ屈折計で測定したガラス基板の屈折率は、波長587.6nmにおいて、1.517であった。このサンプルのヘイズ値を反射・透過率計(村上色彩技術研究所社製の「HR-100」)で測定したところ、87.3%であった。
【0076】
つぎに、図3に示す有機EL素子を作製するべく、光拡散層を兼ねる透明層の面上に、ITOセラミックターゲット(In_(2) O_(3) :SnO_(2) =90重量%:10重量%)から、DCスパッタリング法にて、厚さが100nmのITO層を形成し、透明電極(陽極)を形成した。また、これとは別に、図7に示す有機EL素子を作製するべく、光拡散層を兼ねる透明層を形成せず、ガラス基板上に直接、上記と同様にITO層を形成し、透明電極(陽極)とした。
その後、この両透明電極に対して、フォトレジストを用いてITO層をエッチングし、発光面積が15mm×15mmとなるようにパターンを形成した。超音波洗浄を行ったのち、低圧紫外線ランプによりオゾン洗浄した。
【0077】
ついで、ITO面上に、真空蒸着法により、有機層を順次形成した。まず、正孔注入層として、式(3)で表されるCuPcを、蒸着速度0.3nm/sで、15nmの厚さに形成した。つぎに、正孔輸送層として、式(4)で表されるα-NPDを、蒸着速度0.3nm/sで、50nmの厚さに形成した。最後に、電子輸送性発光層として、式(5)で表されるAlqを、蒸着速度0.3nm/sで、140nmの厚さに形成した。」

「【0081】
この結果から明らかなように、光拡散層を兼ねる透明層を形成していない有機EL素子は、本発明の式(1)の関係を十分に満たすものであった。
また、この有機EL素子において、正孔と電子の再結合は、ほぼα-NPDとAlqの界面で起こる。よって、本発明でいう正孔と電子の再結合発光領域の中心部と反射性電極との距離dはおよそ140nmであった。また、励起光源にブラックライトを用い、ガラス基板上に蒸着したAlq薄膜に照射した際の蛍光スペクトルのピーク波長λは、およそ530nmであった。
さらに、分光エリプソメータを用いて測定したAlq簿膜の屈折率nは波長590nmにおいて、およそ1.67であった。よって、上記の有機EL素子は、本発明の式(2)の関係も満足するものであった。
【0082】
つぎに、光拡散層を兼ねる透明層を形成した本発明の有機EL素子に対して、上記と同様にして、15Vの電圧を印加した際の正面輝度を測定した結果、387cd/m^(2) であった。
光拡散層を兼ねる透明層において、マトリックス樹脂として用いた合成例1で得られたポリカルボジイミド樹脂は、150℃でキユアした場合、屈折率が1.7479であり、この屈折率は、発光層であるAlqの屈折率の約1.05倍であり、本発明の条件を満足するものであった。
この結果から明らかなように、本発明にしたがい、ITO透明電極上に、高い屈折率を有するポリカルボジイミド樹脂をマトリックスとした光拡散層を兼ねる透明層を形成してなる有機EL素子、とくに上記透明層を形成していないときの特性が本発明の式(1),式(2)の関係を満足する有機EL素子によれば、正面輝度の値が126cd/m^(2) から387cd/m^(2) と大きく増加するものであることが確認された。」

「【図1】


「【図3】



(イ)先願明細書等に記載された発明の認定
上記記載(図面の記載も含む)から、引用先願の最初に願書に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面には、
「ポリカルボジイミド樹脂溶液に、平均粒子径が0.5μmのシリカ粒子70重量%を含むトルエン溶液を、ポリカルボジイミド樹脂に対して、20重量%の割合で添加し、撹拌した分散液を、ガラス基板上に、アプリケータにより塗布し、150℃で1時間キュアして、厚さが1.1mmのガラス基板上に厚さが25μmの光拡散層を兼ねる透明層を形成した有機エクトロルミネッセンス素子の基板であって、
ポリカルボジイミド樹脂は、150℃でキユアした場合、屈折率が1.7479であり、
ガラス基板の屈折率は、1.517であり、
透明層7に関し、屈折率は、発光層の屈折率に対し、0.95倍以上であり、
発光層であるAlq簿膜の屈折率nは、およそ1.67である有機エクトロルミネッセンス素子の基板。」の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

イ 対比及び当審の判断
(ア)対比
ここで、本願補正発明と先願発明を対比する。

先願発明の「シリカ粒子」、「ポリカルボジイミド樹脂溶液」及び「ガラス基板」が、それぞれ、本願補正発明の「シリカ微粒子」、「バインダー」及び「透明性基材」に相当し、また、先願発明の「ポリカルボジイミド樹脂溶液に、平均粒子径が0.5μmのシリカ粒子70重量%を含むトルエン溶液」を「添加し、撹拌した分散液を、ガラス基板上に、アプリケータにより塗布し、150℃で1時間キュアして」形成された「透明層」が、本願補正発明の「シリカ微粒子及びバインダーを含む複合薄膜」に相当するから、先願発明の「ポリカルボジイミド樹脂溶液に、平均粒子径が0.5μmのシリカ粒子70重量%を含むトルエン溶液」を「添加し、撹拌した分散液を、ガラス基板上に、アプリケータにより塗布し、150℃で1時間キュアして」「透明層を形成した有機エクトロルミネッセンス素子の基板」が、本願補正発明の「シリカ微粒子及びバインダーを含む複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板」に相当する。

先願発明において「透明層7に関し、屈折率は、発光層の屈折率に対し、0.95倍以上であり」「発光層であるAlq簿膜の屈折率nは、およそ1.67である」ことから、透明層の屈折率は1.5865以上となり、ガラス基板の屈折率の1.517より大きいことは明らかである。
よって、先願発明の「ガラス基板の屈折率は、1.517であり」、「透明層7に関し、屈折率は、発光層の屈折率に対し、0.95倍以上であり」、「発光層であるAlq簿膜の屈折率nは、およそ1.67である」ことが、本願補正発明の「複合薄膜の屈折率は透明性基材の屈折率より高」いことに相当する。

先願発明の「シリカ粒子」は、屈折率が1.38程度であることが知られているから、先願発明における「リカルボジイミド樹脂」を「150℃でキユアした場合」の「屈折率」の「1.7479」が、「シリカ粒子」の屈折率より大きく、その差は0.3679となるから、両者の屈折率の差が0.1以上であることは明らかである。
よって、先願発明の「ポリカルボジイミド樹脂溶液に、平均粒子径が0.5μmのシリカ粒子70重量%を含むトルエン溶液」を「添加し、撹拌した分散液を、ガラス基板上に、アプリケータにより塗布し、150℃で1時間キュアして」形成された「透明層」において、「ポリカルボジイミド樹脂は、150℃でキユアした場合、屈折率が1.7479で」あることが、本願補正発明の「複合薄膜内に含まれるバインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大きく、かつ屈折率の差が0.1以上で」あることに相当する。

先願発明において「シリカ粒子70重量%を含むトルエン溶液を、ポリカルボジイミド樹脂に対して、20重量%の割合で添加」することから、シリカ粒子の割合は、ポリカルボジイミド樹脂に対して14重量%となり、(シリカ粒子の重量)/(ポリカルボジイミド樹脂の重量+シリカ粒子の重量)は、14/(100+14)=約0.123となり、この値が本願補正発明における「0.01?0.5」に含まれるから、先願発明の「シリカ粒子70重量%を含むトルエン溶液を、ポリカルボジイミド樹脂に対して、20重量%の割合で添加」することが、本願補正発明の「複合薄膜における(シリカ微粒子の固形分質量)/(バインダーの固形分質量+シリカ微粒子の固形分質量)が0.01?0.5である」ことに相当する。

先願発明の「有機エクトロルミネッセンス素子の基板」が、本願補正発明の「面発光体用複合薄膜保持基板」に相当する。

(イ)一致点、相違点、当審の判断
よって、本願補正発明と先願発明とは、
「シリカ微粒子及びバインダーを含む複合薄膜を透明性基材の表面上に製膜した透明性基板であって、複合薄膜の屈折率は透明性基材の屈折率より高く、複合薄膜内に含まれるバインダーの屈折率はシリカ微粒子の屈折率より大きく、かつ屈折率の差が0.1以上であり、及び複合薄膜における(シリカ微粒子の固形分質量)/(バインダーの固形分質量+シリカ微粒子の固形分質量)が0.01?0.5である面発光体用複合薄膜保持基板。」
の発明である点で一致し、両者の間に相違するところはない。
したがって、本願補正発明は先願発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

(ウ)補足(請求人の回答書での主張について)
請求人は、平成24年5月11日付けで提出された回答書において、
「(B)特許法第29条の2の理由について
上記しましたように、この理由は、審査過程の「拒絶理由通知書」では提示されておらず、今回の「前置報告書」で新たに提示されたものであります。
従いまして、その根拠とされる特願2004-11452号(特開2004-296429号、以下、引用出願1という。)も、本願に対して初めて引用されたものであり、出願人として、意見や補正の機会が与えられていないものであり、手続上失当であり、承服できません。 」
と主張する。
しかしながら、現行の特許法においては、補正の却下の決定において「意見書を提出する機会(及び補正の機会)を与える」ことは要請されておらず(特許法第159条第2項第50条第53条第1項の規定を参照)、上記の請求人の主張は、特許法の規定から逸脱した主張であり、採用することはできない。

(3)むすび
本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定に違反し特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができない。
また、特許法第29条の2の規定に違反し特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができない。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年10月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、国際出願日における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成23年10月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成23年10月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)特許法第29条第2項の規定違反について」の「イ 引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 平成23年10月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)特許法第29条第2項の規定違反について」の「ウ 本願補正発明と引用発明との対比」において記載したのと同様の対比の手法及び結果により、本願発明と引用発明は「(イ)一致点」において記載したのと同じ点で一致し、また、「ウ 相違点」における「c 相違点3」及び「d 相違点4」に相当する相違点(すなわち、上記「c 相違点3」及び「d 相違点4」において「本願補正発明」を「本願発明」と置き換えたもの)のみで相違する。
そして、上記の相違点3及び相違点4については、それぞれ、上記「第2 平成23年10月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)特許法第29条第2項の規定違反について」の「エ 当審の判断」の「(ア)」における「c 相違点3について」及び「d 相違点4について」で、検討したとおりであり、また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであることから、本願発明は、引用発明及び及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-31 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-20 
出願番号 特願2006-513894(P2006-513894)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 16- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 洋平  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
吉川 陽吾
発明の名称 面発光体  
代理人 泉名 謙治  
代理人 山本 量三  
代理人 小川 利春  

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