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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1265470
審判番号 不服2008-9544  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-17 
確定日 2012-10-31 
事件の表示 特願2000-549297「二重特異性抗HLAクラスII不変鎖X抗病原体抗体を使用した治療」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月25日国際公開、WO99/59633、平成14年 5月28日国内公表、特表2002-515460〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年5月19日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年5月20日 米国)とする国際出願であって、その請求項1、17及び18に係る発明は、平成23年11月17日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1、17及び18に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】病原体に対する少なくとも1つの特異性と、HLAクラスII不変鎖(Ii)に対する少なくとも1つの特異性とを有する多価抗体。」(以下、「本願発明1」という。)
「【請求項17】自己抗体の特異的結合部位に対する少なくとも1つの特異性と、HLAクラスII不変鎖(Ii)に対する少なくとも1つの特異性とを有する多価分子。」(以下、「本願発明17」という。)
「【請求項18】自己抗体の特異的結合部位に対する少なくとも1つの特異性とHLAクラスII不変鎖(Ii)に対する少なくとも1つの特異性とを有する多価分子と、製薬学的に許容されうる賦形剤とを含む製薬学的組成物。」(以下、「本願発明18」という。)

2.当審における拒絶の理由の概要
これに対して、当審において平成23年5月13日付で通知した拒絶の理由は、
(1)本願発明1、17及び18は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、
(2)本願の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明1、17及び18を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、
というものである。

3.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件を満足するためには、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比べて、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号判決(H17.11.1)参照)

(1-1)本願発明1
本願発明1の解決しようとする技術的課題は、本願明細書の「本発明の一つの目的は、種々の有害な物質の除去を誘導する製薬学的用途に好適である多価分子を提供することである。本発明のこの目的および他の目的によると、病原体などの有害な物質に対する少なくとも1つの特異性とHLAクラスII不変鎖(Ii)に対する少なくとも1つの特異性とを有する多価分子が提供される。本発明の一実施態様では、多価分子は多重特異的抗体分子である。別の実施態様では、少なくとも1つの特異性は真菌(fungus)などの微生物に対するものである。」(段落【0010】)との記載から、生体内からの病原体の除去を誘導することである。

(1-1-1)本願明細書の記載
本願明細書には、「除去されることが求められる病原体は、リーシュマニア、マラリア、トリパノソーマ病または住血吸虫病などの寄生体である。このような場合には、本発明の分子は、以下を含むが、それらに限定されない好適な寄生体関連エピトープに対して向けることができる。」(段落【0038】)と記載され、段落【0039】の表1には、5つの寄生体のエピトープ名及び参考文献名が列挙されている。同様に、病原体がウイルスである場合については、段落【0040】及び【0041】の表2に、バクテリアである場合については段落【0042】及び【0043】の表3に、それぞれ6つのウイルス又は4つのバクテリアのエピトープ名及び参考文献名が列挙され、また、段落【0047】?【0052】には、二重特異的抗体の一般的な作成方法が記載されている。
しかしながら、本願明細書には、病原体に対する少なくとも1つの特異性と、HLAクラスII不変鎖(以下、「Ii」という。)に対する少なくとも1つの特異性とを有する多価抗体を実際に製造した実施例は記載されておらず、その多価抗体により体内からの病原体の除去を誘導できることは確認されていない。
また、本願明細書に実施例として記載された実施例1?4は、病原体に対するものではない二重特異的抗体に関するものであるが、全て現在形で記載されており、仮想の実施例と考えられる。たとえば、実施例1には、血中にある腫瘍関連抗原(CEA)を除去するために、抗CEA抗体と抗Ii抗体とを架橋して製造される二重特異抗体を使用する一般的方法が記載されているが、多価抗体を投与しなかった場合のコントロールと比較してどの程度の除去効果があったのか等の具体的実験結果の記載はなく、また実施例2?4でも同様で、具体的な実験結果の記載はない。
このように、実施例1?4のいずれにも病原体を除去するための多価抗体は記載されておらず、本願明細書には、本願発明1の多価抗体を製造した具体的記載はなく、本願発明1の効果が確認されていない。
さらに、腫瘍関連抗原等に対する多価抗体についても、多価抗体が生体内で腫瘍関連抗原等とIiと同時に結合して、細胞のリソソームに取り込まれ、生体内から腫瘍関連抗原等を除去できたことを示す実験結果は記載されていないのは、上述のごとくである。

(1-1-2)当審の判断
本願発明1が本願の発明の詳細な説明に記載されている、又は裏付けられているといえるためには、本願発明1の多価抗体により、生体内から病原体を除去できることが本願明細書に記載されているか、あるいは記載されていなくても、本願出願当時の技術常識を参酌すれば、除去できることが当業者であれば認識できるように記載されていなければならない。
しかしながら、上記(1-1-1)に記載したとおり、そのような多価抗体を製造しておらず、病原体の除去ができることは本願明細書に記載されていない。しかも、「病原体」には寄生体、ウイルス、バクテリア、真菌等の、大きさ、組成、生物学的及び生化学的性質の異なるあらゆる病原体が含まれており、本願出願当時の技術常識を参酌しても、本願発明1の多価抗体が、そのような病原体を結合したまま生体の細胞のリソソームに効率良く取り込まれるかは不明であるし、仮に取り込まれたとしても、そのような病原体が分解され、もしくは除去されるとはいえないから、本願発明1がその課題を解決できることを、当業者であれば認識できるように本願明細書に記載されているとはいえない。
したがって、本願発明1は本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1-2)本願発明17
本願発明17の解決しようとする技術的課題は、本願明細書の「本発明の別の目的は、自己抗体の除去を誘導する際に有用である多価分子を提供することである。本発明のこの目的および他の目的によると、自己抗体の特異的結合部位に対する少なくとも1つの特異性とHLAクラスII不変鎖(Ii)に対する少なくとも1つの特異性とを有する多価分子が提供される。」(段落【0013】)との記載から、生体内からの自己抗体の除去を誘導することである。

(1-2-1)本願明細書の記載
本願明細書には、自己抗体の特異的結合部位に対する少なくとも1つの特異性と、Iiに対する少なくとも1つの特異性とを有する多価抗体を実際に製造した実施例は記載されておらず、その多価抗体により体内から自己抗体の除去を誘導できることは確認されていない。段落【0027】に「本発明の一実施態様では、本発明の治療薬の、少なくとも1つの別の特異性は自己抗体の特異的結合部位に対するものでありうる。自己抗体の特異的結合部位に対して別の特異性を向けることによって、有害である可能性がある特異性を有する抗体の除去は実施されるが、有用で正常な抗体の除去は回避される。」との一般的記載があるだけである。
そして、上記(1-1-1)で記載したとおり、本願明細書に実施例として記載された実施例1?4は、自己抗体の特異的結合部位に対するものではない、二重特異的抗体に関するものである。

(1-2-2)当審の判断
自己抗体の特異的結合部位に対する特異性と、Iiに対する特異性とを有する多価抗体は、上記(1-2-1)に記載したとおり、製造しておらず、自己抗体の除去ができることは、本願明細書に記載されていない。しかも、上記(1-1-1)に記載したとおり、本願明細書には、自己抗体以外の生体内の除去したい物質について、それと特異的に結合しかつIiと特異的に結合する多価抗体が、生体内で該物質とLiとに同時に結合して、それらが細胞のリソソームに取り込まれ、生体内から該物質を除去できることは、確認されていない。そして、本願出願時の技術常識を参酌しても、そのように生体内の物質を除去できることを当業者が理解できるよう、本願明細書に記載されているとはいえない。
そうすると、生体内の自己抗体についても、多価抗体を用いて除去することができることを当業者が認識できるように、本願明細書に記載されていないから、本願発明17は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第4項について
本願発明17は、上記(1-2-2)に記載した理由により、化学物質としての有用性が確認されていないから、本願発明17を当業者がどのように使用できるか記載されておらず、本願発明17を当業者が実施できる程度に、本願の発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとは認められず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、医薬についての用途発明である本願発明18の製薬学的組成物については、当業者が医薬を実際にその用途として使用できるか否か不明である場合には、出願当初の明細書に特定の薬理試験の結果である薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途を裏付ける必要がある。
しかしながら、本願明細書には、上記(1-2-2)で述べたとおり、本願発明18の有効成分である多価抗体を用いて、生体内の自己抗体が除去できるかは不明であるにもかかわらず、本願の出願当初の明細書に薬理データが記載されておらず、本願出願時の技術常識を考慮しても、医薬用途に使用できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。
したがって、本願発明18を当業者が実施できる程度に、本願の発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとは認められず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成23年11月17日付意見書中で、「本願発明の多価抗体又はそれを含む薬学的組成物に含まれるLL1といった抗不変鎖(Ii)抗体が生体の細胞のリソソームに効率良く取り込まれることは添付の証拠書類1又は2に記載のとおり本出願日以前に公知の事項であります。特に、証拠書類1の最後のパラグラフにはAb LL1が多数の分子のリソソームへの迅速な送達を可能にした旨が記載されています。
(3)更に、証拠書類3の例8には、CD20腫瘍異種抗原に接合した抗CD74(Ii)抗体が免疫系の樹状細胞への異種抗原の送達と、生体内での未感作T細胞のエフェクタT細胞への分化の誘発とに有効であった旨が記載されています。
同様に、証拠書類4の例2にはHLA-DRに対する抗体がポックスウイルス抗原ペプチドに接合し、生体内においてポックスウイルス抗原に対する全身性免疫応答を誘発可能であった旨が記載されています。 (…途中省略…)
(4)以上のことから、本願発明の構成要素である抗不変鎖(Ii)抗体が、生体の細胞のリソソームに効率良く取り込まれることは公知であり、更にこのことによって抗病原体免疫応答を誘発するのに有効な作用が生じるという効果の裏付けについても十分に説明されたと考えます。」(第1頁下から第14行?第2頁第7行)と主張している。
しかしながら、まず、証拠書類1は、原審の拒絶理由で引用例4として引用した文献であり、抗Ii抗体自体が、Iiを発現する細胞のリソソームに取り込まれることが記載されており、最後のパラグラフには、抗Ii抗体と結合させた抗癌剤等を用れば、抗Ii抗体のリソソームへの取り込みを利用して、Iiを発現するリンパ腫等の癌細胞を殺せる可能性が示唆されているだけであり、この示唆が、大きさや性質の異なるあらゆる病原体を取り込ませることが可能であるという根拠にはならない。
また、証拠書類3及び4は、ともに2011年という本願出願後11年以上たってから頒布された刊行物であるが、例えば証拠書類3には、Iiに対する抗体に腫瘍異種抗原を結合させた複合体が、樹状細胞内に送達され免疫応答を誘発し、癌ワクチンとして使用できる可能性が記載されており、この場合、Iiに対する抗体と腫瘍異種抗原は結合されており、Iiに対する抗体が細胞上のIiに結合すれば、一緒に細胞内に取り込まれる可能性が高いといえ、証拠書類4も同様である。
しかしながら、本願発明は、Iiに対する抗体と生体内の除去した物質に対する抗体からなる多価抗体であり、そもそもこの多価抗体が生体内で、Ii及び物質に同時に結合すること、次に一緒に細胞内に取り込まれることの両方が行われなければならないから、本願出願の11年後の証拠書類3及び4の記載をみても、本願発明の課題が解決できるとはいえない。さらに、証拠書類3、4は、本願明細書では記載も示唆もされていない抗原ペプチドを取り込むことにより免疫応答を誘発する効果であり、本願明細書の記載に基づかない効果を請求人は主張しており、審判請求人の上記主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1及び17に記載の発明について、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願請求項17及び18に記載の発明について、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-29 
結審通知日 2012-06-05 
審決日 2012-06-18 
出願番号 特願2000-549297(P2000-549297)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟引地 進  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 伏見 邦彦
冨永 みどり
発明の名称 二重特異性抗HLAクラスII不変鎖X抗病原体抗体を使用した治療  
代理人 柴田 雅仁  
代理人 高橋 剛一  
代理人 柏原 三枝子  

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