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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01M
管理番号 1265534
審判番号 不服2011-2106  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-28 
確定日 2012-10-31 
事件の表示 特願2000-208539「内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月13日出願公開、特開2001- 65327〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年7月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年7月9日、イタリア共和国)の出願であって、平成21年9月30日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年3月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年9月24日付けで拒絶査定がなされ、平成23年1月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書の特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成23年6月28日付けで書面による審尋がなされ、平成23年8月31日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年1月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成23年1月28日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年3月2日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(ア)を、下記(イ)と補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】 ブローバイガスを純化するための装置(7)を備えた内燃機関であり、この装置は、浮遊状態のオイルと粒子とを含むブローバイガスを受けるように、内燃機関(1)のクランクケース(4)の内部と連通した入口と、純化されたブローバイガスのための出口(9)と、前記入口と出口との間に設けられたフィルター(11)と、このフィルター(11)により分離されたオイルを集めるためのチャンバ(28)と、このチャンバ(28)と前記クランクケース(4)の内部との間に設けられ、チャンバ(28)内に蓄積されたオイルをクランクケース(4)に通すと共に、反対方向への純化されていないガスの逆流を防止するドレインバルブ(33)とを具備し、このドレインバルブ(33)は、前記チャンバ(28)からクランクケース(4)へオイルを通すための少なくとも1つの開口(34)と、前記クランクケース(4)内のガスの圧力の動作のもとで、前記開口(34)と液密的に共同するシール部材(38)とを有し、このシール部材(38)は、クランクケース(4)内の圧力変化を感知して、クランクケース(4)内の圧力が所定の閾値以下になったときに、オイルが前記開口を通って逃げることを可能にし、
前記開口(34)は、前記チャンバ(28)の壁(31)に形成されており、また、前記バルブ(33)は、弾性材で形成された閉塞部材(35)を有し、前記壁(31)並びにシール部材(38)に締め付けるための部分(36)を一体的に形成していることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】 前記締め付け部分は、前記壁(31)の孔(37)の中に強制的に適合されたスピゴット(36)であり、また、前記シール部材(38)は、前記スピゴット(36)の一端(39)から一体的に突出すると共に、前記チャンバ(28)の壁(31)の一側で前記少なくとも1つの開口(34)を囲むように延びた前記壁(31)の領域と液密的に共同するように設計された周縁舌部(40)を有する可撓性の環状フランジであることを特徴とする請求項1の内燃機関。
【請求項3】 前記バルブ(33)は、前記壁(31)に形成された前記孔(37)を等しい間隔で囲むように配設された複数の開口(34)を有することを特徴とする請求項2の内燃機関。
【請求項4】 前記フィルター(11)の上流側に配置されたインパクト分離器(10)をさらに具備することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1の内燃機関。
【請求項5】 前記インパクト分離器(10)とフィルター(11)とは、共通のケース(12)を有する一体的なユニットを形成していることを特徴とする請求項4の内燃機関。
【請求項6】 タイミング歯車(16)とフライホイール(17)とのための保護ケース(15)をさらに具備し、純化装置(7)の前記ケース(12)は、保護ケース(15)の開口(14)とアラインメントするようにして内燃機関 (1)に取着され、閉塞カバーを実質的に形成していることを特徴とする請求項5の内燃機関。
【請求項7】 前記フィルター(11)は、粗い形式のフィルターエレメント(22)を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1の内燃機関。
【請求項8】 前記フィルターエレメント(22)は、前記ブローバイガスに含まれている粒子を通過させ得る保持能力を有することを特徴とする請求項7の内燃機関。
【請求項9】 前記ケース(12)は、前記フィルターのための入口チャンバ(21)を一体的に規定しており、また、前記フィルターエレメント(22)は、ケース(12)に着脱可能に取着されたカバー(25)とケース(12)との間に設けられ、フィルター(11)の前記出口チャンバ(27)を前記チャンバ(28)に接続したドレインダクト(32)とフィルター(11)の出口チャンバ(27)とを規定していることを特徴とする請求項7もしくは8の内燃機関。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】 ブローバイガスを純化するための装置(7)を備えた内燃機関であり、この装置は、浮遊状態のオイルと粒子とを含むブローバイガスを受けるように、内燃機関(1)のクランクケース(4)の内部と連通した入口と、純化されたブローバイガスのための出口(9)と、前記入口と出口との間に設けられたフィルター(11)と、このフィルター(11)により分離されたオイルを集めるためのチャンバ(28)と、このチャンバ(28)と前記クランクケース(4)の内部との間に設けられ、チャンバ(28)内に蓄積されたオイルをクランクケース(4)に通すと共に、反対方向への純化されていないガスの逆流を防止するドレインバルブ(33)とを具備し、このドレインバルブ(33)は、前記チャンバ(28)からクランクケース(4)へオイルを通すための少なくとも1つの開口(34)と、前記クランクケース(4)内のガスの圧力の動作のもとで、前記開口(34)と液密的に共同するシール部材(38)とを有し、このシール部材(38)は、エンジンが動作しているときのクランクケース(4)内の周期的な圧力変化を感知して、クランクケース(4)内の圧力が所定の閾値以下になったときに、オイルが前記開口を通って逃げることを可能にし、
前記開口(34)は、前記チャンバ(28)の側壁(31)に形成されており、また、前記バルブ(33)は、弾性材で形成された閉塞部材(35)を有し、前記側壁(31)並びにシール部材(38)に締め付けるための部分(36)を一体的に形成していることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】 前記締め付け部分は、前記側壁(31)の孔(37)の中に強制的に適合されたスピゴット(36)であり、また、前記シール部材(38)は、前記スピゴット(36)の一端(39)から一体的に突出すると共に、前記チャンバ(28)の側壁(31)の一側で前記少なくとも1つの開口(34)を囲むように延びた前記側壁(31)の領域と液密的に共同するように設計された周縁舌部(40)を有する可撓性の環状フランジであることを特徴とする請求項1の内燃機関。
【請求項3】 前記バルブ(33)は、前記側壁(31)に形成された前記孔(37)を等しい間隔で囲むように配設された複数の開口(34)を有することを特徴とする請求項2の内燃機関。
【請求項4】 前記フィルター(11)の上流側に配置されたインパクト分離器(10)をさらに具備することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1の内燃機関。
【請求項5】 前記インパクト分離器(10)とフィルター(11)とは、共通のケース(12)を有する一体的なユニットを形成していることを特徴とする請求項4の内燃機関。
【請求項6】 タイミング歯車(16)とフライホイール(17)とのための保護ケース(15)をさらに具備し、純化装置(7)の前記ケース(12)は、保護ケース(15)の開口(14)とアラインメントするようにして内燃機関 (1)に取着され、閉塞カバーを実質的に形成していることを特徴とする請求項5の内燃機関。
【請求項7】 前記フィルター(11)は、粗い形式のフィルターエレメント(22)を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1の内燃機関。
【請求項8】 前記フィルターエレメント(22)は、前記ブローバイガスに含まれている粒子を通過させ得る保持能力を有することを特徴とする請求項7の内燃機関。
【請求項9】 前記ケース(12)は、前記フィルターのための入口チャンバ(21)を一体的に規定しており、また、前記フィルターエレメント(22)は、ケース(12)に着脱可能に取着されたカバー(25)とケース(12)との間に設けられ、フィルター(11)の前記出口チャンバ(27)を前記チャンバ(28)に接続したドレインダクト(32)とフィルター(11)の出口チャンバ(27)とを規定していることを特徴とする請求項7もしくは8の内燃機関。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付した。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「クランクケース(4)内の圧力変化」について、「エンジンが動作しているときのクランクケース(4)内の周期的な圧力変化」と限定するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された「チャンバ(28)の壁(31)」について、「チャンバ(28)の側壁(31)」と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である実願平1-27551号(実開平2-118116号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「2.実用新案登録請求の範囲
クランクケース室からのブローバイガス取入口と、気液分離した後のブローバイガスを吸入系に流出するブローバイガス出口とを有し、分離された液状オイルをオイルパンに戻すようにしたオイルセパレータにおいて、
上記オイルセパレータ内に上記ブローバイガス取入口から流入するブローバイガスの衝突方向に沿って傾斜した多孔質バッフル板を設置し、
上記オイルセパレータを、上記多孔質バッフル板により区画してブローバイガスの通路側隔室と、オイル戻り側隔室とに分離し、
上記オイル戻り側隔室より上記クランクケース室側オイルパンに連通する連通孔を形成したことを特徴とする内燃機関のオイルセパレータ。」(実用新案登録請求の範囲)

(イ)「3.考案の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本考案は、内燃機関のオイルセパレータに関し、さらに詳しくは、クランクケースで発生したブローバイガス中に含まれるオイルミストを気液分離して、ブローバイガスを吸入系へ環流し、液状オイルをオイルパン内に戻すようにしたオイルセパレータにおいて、オイルセパレータ内壁面に付着したオイルがブローバイガスと共に吸入系へ流れるオイル吹きを防止して、セパレータ機能を向上できるようにしたものである。(明細書第1ページ第18行ないし第2ページ第8行)

(ウ)「 〔実 施 例〕
以下、本考案による実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
第1図は本考案を直列型エンジンに適用した場合を示すものであり、図において、符号1はエンジンのシリンダブロックであり、この内部でクランクシャフト2が軸支されていて、シリンダ3内を往復動するピストン4がコンロッド5を介して連繋されている。
上記シリンダブロック1の一側端に形成されたデッドスペースに、オイルセパレータ6が形成されている。
上記オイルセパレータ6とクランクケース室1aとを仕切る隔壁1bには、ブローバイガス取入口7が開口しており、このブローバイガス取入口7より上方でオイルセパレータ6の上部には、オイルミスト分が分離されたブローバイガスをエンジンの図示しない吸入系へ戻すブローバイガス出口8が形成されている。
また、上記オイルセパレータ6内でブローバイガス出口8の下部には、一端をオイルセパレータ6の内壁面に固設され、他端に連通孔9aが形成された庇状のバッフル板9によってブローバイガス流出室6cが形成されており、上記バッフル板9とオイルセパレータ6の底面との間には、ブローバイガス取入口7から流入するブローバイガスが衝突する方向に沿って所定の角度だけ傾斜した多孔質バッフル板10が設置されている。
そして上記オイルセパレータ6は、上記多孔質バッフル板10によってブローバイガスの通路側隔室6aとオイル戻り側隔室6bとに分割され、上記オイル戻り側隔室6bの底部には、クランクケース室1a側のオイルパン11に連通する連通孔12が穿設されている。
上記多孔質バッフル板10には、ブローバイガス取入口7より流入するブローバイガス流が衝突して粘性の高いオイル分は慣性エネルギにより多孔質バッフル板10の小孔10aへ流入する。そして気液分離された後のブローバイガスのみが、庇状のバッフル板9の連通孔9aを介してブローバイガス流出室6cへ流入し、ブローバイガス出口8より図示しない吸入系へ流出する。
このとき、多孔質バッフル板10によっ仕切られたオイルセパレータ6のブローバイガス通路側隔室6aとオイル戻り側隔室6bとの間には、ブローバイガス流の動圧によって圧力差が生じているため、ブローバイガスはオイルパン11に連通する連通孔12からオイル戻り側隔室6bへ流入することがなく、多孔質バッフル板10の小孔10aを通ったオイル分はオイル戻り通路側隔室6b側に流出し、自然落下と共に、クランクケース室1a内が負圧時に連通孔12よりオイルパン11内に戻されるようになっている。
したがって、このように構成された内燃機関のオイルセパレータ6によれば、オイルミストを含むブローバイガスは、クランクケース室1a内の脈動によってクランクケース室1a内が正圧時にブローバイガス取入口7よりオイルセパレータ6の通路側隔室6aに流入し、多孔質バッフル板10に慣性エネルギをもって勢いよく衝突する。そして上記多孔質バッフル板10の小孔10aを介して粘性の高いオイルミストがオイル戻り側隔室6bへ流入され、気液分離したブローバイガスは、上部のブローバイガス流出室6cを経てブローバイガス出口8よりエンジンの吸入系に吸込まれると共に、上記多孔質バッフル板10の小孔10aから流出したオイルは、オイル戻り側隔室6b内に溜り、自然落下すると共に、クランクケース室1a内が負圧のときに連通孔12を通ってオイルパン11内に戻される。」(明細書第6ページ第4行ないし第9ページ第12行)

(エ)「 なお、第3図は本考案の他の実施例を示すオイルセパレータの断面図であり、オイルセパレータ6のブローバイガス取入口7には、クランクケース室1aが正圧時にクランクケース室1a側からのみブローバイガスがオイルセパレータ6内に流れるように一方向チェック弁15を設置し、多孔質バッフル板10によって仕切られたオイル戻り側隔室6bとクランクケース室1aとを連通する連通孔12には、クランクケース室1a内が負圧時にオイル戻り側隔室6bに溜った液状オイルをクランクケース室1a側のオイルパン11内に流下させる一方向チェック弁16を設置した構造にすることも可能である。」(明細書第9ページ第13行ないし第10ページ第4行)

(2)引用文献1の記載事項
(1)(ア)ないし(エ)及び第1ないし3図より、以下の事項が分かる。

(オ)(1)(ア)ないし(ウ)及び第1図より、引用文献1に記載された内燃機関は、オイルセパレータ6を備えるものであることが分かる。

(カ)内燃機関のブローバイガスには、浮遊状態のオイルのほか、未燃焼カーボン物質の粒子が含まれ、オイルセパレータによって分離されることは、技術常識(例えば、原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-115214号公報(以下、「引用文献2」という。)の【請求項1】及び段落【0003】等参照)であるから、引用文献1に記載された内燃機関に備えられたオイルセパレータ6は、浮遊状態のオイルと粒子とを含むブローバイガスを受け、分離するものであることが分かる。

(キ)(1)(ア)ないし(エ)、(2)(カ)及び第1ないし3図より、上記オイルセパレータ6は、浮遊状態のオイルと粒子とを含むブローバイガスを受けるように、内燃機関のクランクケース室1aと連通したブローバイガス取入口7と、オイルミスト分等が分離されたブローバイガスを吸入系へ戻すブローバイガス出口8と、多孔質バッフル板10と、この多孔質バッフル板10により分離された液状オイルが溜まるオイル戻り側隔室6bと、このオイル戻り側隔室6bとクランクケース室1a側との間に設けられ、オイル戻り側隔室6bに溜った液状オイルをクランクケース室1aに流下させる一方向チェック弁16とを具備するものであることが分かる。

(ク)(1)(ア)ないし(エ)及び第1ないし3図より、上記一方向チェック弁16は、クランクケース室1a内が負圧時にオイル戻り側隔室6bに溜まった液状オイルをクランクケース室1a側に流下させるものであり、通常、クランクケース室内の負圧は、エンジンが動作しているときに周期的に生じるものであるから、上記一方向チェック弁16は、前記オイル戻り側隔室6bからクランクケース室1aへ液状オイルを流下させるための孔を有し、エンジンが動作しているときのクランクケース室1a内の周期的な圧力変化を感知して、クランクケース室1a内が負圧時に、液状オイルが前記孔を通って流下することを可能とし、前記孔は前記オイル戻り側隔室6bの底壁に形成されているものであることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)(ア)ないし(エ)、(2)(オ)ないし(ク)及び図1ないし3から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「オイルセパレータ6を備えた内燃機関であり、このオイルセパレータ6は、浮遊状態のオイルと粒子とを含むブローバイガスを受けるように、内燃機関のクランクケース室1aと連通したブローバイガス取入口7と、オイルミスト分等が分離されたブローバイガスを吸入系へ戻すブローバイガス出口8と、多孔質バッフル板10と、この多孔質バッフル板10により分離された液状オイルが溜まるオイル戻り側隔室6bと、このオイル戻り側隔室6bとクランクケース室1a側との間に設けられ、オイル戻り側隔室6bに溜った液状オイルをクランクケース室1aに流下させる一方向チェック弁16とを具備し、この一方向チェック弁16は、前記オイル戻り側隔室6bからクランクケース室1aへ液状オイルを流下させるための孔を有し、エンジンが動作しているときのクランクケース室1a内の周期的な圧力変化を感知して、クランクケース室1a内が負圧時に、液状オイルが該孔を通って流下することを可能にし、前記孔は前記オイル戻り側隔室6bの底壁に形成されている内燃機関。」

2.-2 対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「オイルセパレータ6」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明における「ブローバイガスを純化するための装置」に相当し、以下、同様に、「クランクケース室1a」は「クランクケース」に、「ブローバイガス取入口7」は「入口」に、「オイルミスト分等が分離されたブローバイガス」は「純化されたブローバイガス」に、「ブローバイガス出口8」は「出口」に相当する。
また、「オイル分離手段」という限りにおいて、引用文献1記載の発明における「多孔質バッフル板10」は、本願補正発明における「フィルター」に相当し、「オイル分離手段により分離されたオイルを集めるためのオイル溜め室」という限りにおいて、引用文献1記載の発明における「多孔質バッフル板10により分離された液状オイルが溜まるオイル戻り側隔室6b」は、本願補正発明における「フィルターにより分離されたオイルを集めるためのチャンバ」に相当する。
さらに、「オイル溜め室とクランクケースの内部との間に設けられ、オイル溜め室に蓄積されたオイルをクランクケースに通すバルブ」という限りにおいて、引用文献1記載の発明における「このオイル戻り側隔室6bとクランクケース室1a側との間に設けられ、オイル戻り側隔室6bに溜った液状オイルをクランクケース室1aに流下させる一方向チェック弁16」は、本願補正発明における「このチャンバと前記クランクケースの内部との間に設けられ、チャンバ内に蓄積されたオイルをクランクケースへとオイルを通すと共に、反対方向への純化されていないガスの逆流を防止するドレインバルブ」に相当する。
そして、「上記バルブは、オイル溜め室からクランクケースへオイルを通すための少なくとも1つの開口を有し、クランクケース内の周期的な圧力変化を感知して、クランクケース内が低圧のときに、オイルが前記開口を通って逃げることを可能に」するものであるという限りにおいて、引用文献1記載の発明において「この一方向チェック弁16は、前記オイル戻り側隔室6bからクランクケース室1aへ液状オイルを流下させるための孔を有し、エンジンが動作しているときのクランクケース室1a内の周期的な圧力変化を感知して、クランクケース室1a内が負圧時に、液状オイルが該孔を通って流下することを可能に」するものであることは、本願補正発明において「このドレインバルブは、前記チャンバからクランクケースへオイルを通すための少なくとも1つの開口」を有し、「クランクケース内の圧力が所定の閾値以下になったときに、オイルが前記開口を通って逃げることを可能に」するものであることに相当する。

したがって、両者は、
「ブローバイガスを純化するための装置を備えた内燃機関であり、この装置は、浮遊状態のオイルと粒子とを含むブローバイガスを受けるように、内燃機関のクランクケースの内部と連通した入口と、純化されたブローバイガスのための出口と、オイル分離手段と、オイル分離手段により分離されたオイル溜め室と、このオイル溜め室とクランクケースの内部との間に設けられ、オイル溜め室に蓄積されたオイルをクランクケースに通すバルブとを具備し、上記バルブは、オイル溜め室からクランクケースへオイルを通すための少なくとも1つの開口を有し、エンジンが動作しているときのクランクケース内の周期的な圧力変化を感知して、クランクケース内の圧力が低圧のときに、オイルが前記開口を通って逃げることを可能にした内燃機関。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

〈相違点〉
(1)オイル分離手段に関し、本願補正発明においては、入口と出口との間に設けられたフィルターを用いるものであるのに対し、引用文献1記載の発明においては、多孔質バッフル板を用いるものである点(以下、「相違点1」という。)。
(2)「オイル溜め室とクランクケースの内部との間に設けられ、オイル溜め室に蓄積されたオイルをクランクケースに通すバルブ」に関し、本願補正発明におけるドレンバルブは、反対方向へ純化されていないガスの逆流を防止するものであるのに対し、引用文献1記載の発明における一方向チェック弁は、ガスの逆流を防止するものであるのか、オイルの逆流を防止するものであるのかが不明である点(以下、「相違点2」という。)。
(3)本願補正発明におけるドレンバルブは、チャンバの側壁に形成された開口と、クランクケース内のガスの圧力の動作のもとで、チャンバからクランクケースへオイルを通すための開口と液密的に共同するシール部材を有するほか、弾性材で形成された閉塞部材とを有し、前記側壁並びにシール部材に締め付けるための部分を一体的に形成しており、前記シール部材は、クランクケース内の圧力が所定の閾値以下になったときに、オイルが前記開口を通って逃げることを可能にするものであるのに対し、引用文献1記載の発明における一方向チェック弁16は、オイル戻り側隔室6bの底壁に形成された孔を有するほか、その具体的構造が不明であり、オイル戻り側隔室6bからクランクケース室1aへ液状オイルを流下させる所定の閾値があるか不明である点(以下、「相違点3」という。)。

2.-3 判断
まず、相違点1について検討すると、内燃機関のオイルセパレータにおいて、オイル分離手段として入口と出口との間に設けられたフィルターを用いるものは、周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭59-41256号(実開昭60-153806号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)の図面、引用文献2の【特許請求の範囲】の【請求項1】等参照)であって、引用文献1記載の発明において多孔質バッフル板に代えてフィルターを用いることによって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。

次に、相違点2について検討する。
審判請求人は、平成23年8月31日提出の回答書(以下、「回答書」という。)において、引用文献1記載の発明の一方向チェック弁16はガスの逆流を防止するための弁ではなく、オイルパン11内の液状オイルがオイル戻り側隔室6bに逆流するのを防止するための弁である旨を主張している。しかし、引用文献1の第1図をみれば、オイルパン11内のオイルの上面と連通孔12の間には空間があり、一方向チェック弁16は、その構造からみて、液状オイルだけでなく、ガスの逆流も防止する機能を有する弁であると認められる。したがって、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。
また、たとえ、引用文献1記載の発明の一方向チェック弁16がオイルパン11内の液状オイルがオイル戻り側隔室6bに逆流するのを防止するための弁であったとしても、内燃機関のオイルセパレータにおいて、ブローバイガスの逆流を防止することは一般的に行われていることであって、上記一方向チェック弁16をガスの逆流を防止する弁に置換することは、単なる設計上の事項にすぎない(例えば、引用文献2(段落【0023】)記載のドレン弁参照。)。したがって、たとえ、引用文献1記載の発明の一方向チェック弁16が液状オイルが逆流するのを防止するための弁であったとしても、相違点2は、発明を具体化する際の設計上の事項にすぎず、実質的な相違点とはいえない。

さらに、相違点3について検討すると、引用文献1記載の発明における一方向チェック弁16を設計する際には、液状オイルを流下させるクランクケース室1a内の負圧の大きさは、当然に決められるものである。
一方、上記引用文献3の明細書第7ページ第2ないし12行及び図面には、内燃機関のオイルセパレータにおいて、分離したオイルをクランクケース内に戻し、逆流を防ぐ傘型のチェックバルブを設け、該チェックバルブは、弾性材で形成された閉塞部材を有し、通路31、32を開放し、又は液密にシールするものであるとともに、部材29並びにシール部材に締め付けるための部分を一体的に形成するという技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。
したがって、引用文献1記載の発明において、一方向チェック弁16の具体的構造として、引用文献3記載の技術を採用するとともに、液状オイルを流下させるクランクケース室1a内の負圧の大きさを設計上定めることによって、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。
なお、審判請求人は審判請求書において、引用文献3記載の技術におけるチェックバルブ28は本願補正発明におけるドレインバルブと動作原理が異なる旨を主張している。しかし、「オイルが所定量になると該オイルの自重によってチェックバルブ28が開弁」(引用文献3の明細書第7ページ第8及び9行)するということは、オイル溜り27とクランクケース内との圧力差によってチェックバルブ28が開閉することにほかならず、開弁するときの圧力差の大きさは設計時、当然に定められるものであるから、引用文献1記載の発明において、一方向チェック弁16の具体的構造として、引用文献3記載の技術を採用することに格別な困難性は存しない。
また、審判請求人は審判請求書において、本願補正発明は、開口をチャンバの側壁に形成することによって、オイルに晒されることなく、オイルの加重を受けないから、耐久性に優れ、誤動作の恐れががない旨を主張している。しかし、本願の図3において、オイル収集チャンバの下方に波線で示されるようにオイルが溜まる場合には、ドレインバルブはオイルに晒され、オイルの加重を受けるものであり、図5に示されるようにチャンバ28の中に集まったオイルが開口34を通ってクランクケース4の中に流れるときには、当然にオイルに晒され、オイルの加重を受けることは明らかである。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用文献1記載の発明、引用文献3記載の技術及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。

以上により、本願補正発明は、引用文献1記載の発明、引用文献3記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.-4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成23年1月28日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明は、平成22年3月2日付けの手続補正書によって補正された明細書及び願書に添付された図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された上記(第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】)のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

2.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(実願平1-27551号(実開平2-118116号)のマイクロフィルム)に記載された発明(引用文献1記載の発明)は、第2.の[理由]2.-1(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-3に記載したとおり、引用文献1記載の発明、引用文献3記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明、引用文献3記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は上記回答書において、本願発明の効果を明確にするために「開口は、チャンバ(28)の底面と離間するように、側壁に形成されている」と限定するという補正案を示している。しかし、前記第2.の[理由]2.-3に記載したように、本願の図3において、オイル収集チャンバの下方に波線で示されるようにオイルが溜まる場合には、ドレインバルブはオイルに晒され、オイルの加重を受けるものであり、図5に示されるようにチャンバ28の中に集まったオイルが開口34を通ってクランクケース4の中に流れるときには、当然にオイルに晒され、オイルの加重を受けることは明らかである。したがって、請求項1を上記のとおり限定したとしても、引用文献1記載の発明、引用文献3記載の技術及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献3記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-30 
結審通知日 2012-06-05 
審決日 2012-06-18 
出願番号 特願2000-208539(P2000-208539)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01M)
P 1 8・ 121- Z (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 しのぶ  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
岡崎 克彦
発明の名称 内燃機関  
代理人 福原 淑弘  
代理人 岡田 貴志  
代理人 河野 哲  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  
代理人 砂川 克  
代理人 高倉 成男  
代理人 白根 俊郎  
代理人 堀内 美保子  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 村松 貞男  
代理人 佐藤 立志  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 竹内 将訓  
代理人 井関 守三  

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