• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1265558
審判番号 不服2012-2801  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-13 
確定日 2012-10-31 
事件の表示 特願2006-135878号「薬効成分ナノ粒子分散液の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日出願公開、特開2007-306950号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年5月15日の出願であって、平成23年7月6日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成23年9月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年11月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年2月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成24年6月11日付けで当審により拒絶の理由が通知されたものであって、本願の請求項1?7に係る発明は、平成23年9月7日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「水に難溶又は不溶である医薬品の薬効成分を貧溶媒中に混入して懸濁液とした後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の薬効成分を粉砕してナノ粒子化する薬効成分ナノ粒子分散液の製造方法であって、
前記レーザーとして、波長200?800nmのパルスレーザーを用い、
前記懸濁液中の薬効成分にレーザーを吸収させて該薬効成分を粉砕することを特徴とする薬効成分ナノ粒子分散液の製造方法。」

2.刊行物の記載事項
(刊行物1)
原査定の拒絶の理由及び当審の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-26503号(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「・・・素材分野において微粒子を基盤とする新規材料を開発したり、また、創薬分野においては、微粒子化により難溶性または不溶性の創薬候補物質のADME試験(吸収・分布・代謝・排泄試験)などを実施できる可能性がある。・・(中略)・・このような目的を達成するために、本発明による微粒子の製造方法は、物質を光照射で微粒子化して、その微粒子を製造する製造方法であって、微粒子化対象の物質に対して波長λ_(Y)のレーザ光を照射することによって物質の粗破砕を行う粗破砕ステップと、粗破砕された物質に対してλ_(Y)よりも短い波長λ_(X)のレーザ光を照射することによって物質の本破砕を行って、その微粒子を生成する本破砕ステップとを備えることを特徴とする。」(段落【0004】?【0007】)

(イ)「まず、水などの溶媒4と、微粒子化対象となる物質の原料粒子5とを混合して被処理液2を調製し、処理チャンバ3内に被処理液2を導入する(準備ステップ)。このとき、原料粒子5は、溶解物質または非溶解物質の状態で溶媒4中に含まれた状態となる。また、必要があれば、被処理液2を攪拌して、溶媒4中において原料粒子5を分散させる。続いて、被処理液2に含まれる微粒子化対象の物質に対して微粒子化の目標となる粒子サイズW_(X)を設定し、その目標サイズW_(X)を入力装置26から入力する(ステップS101、目標入力ステップ)。目標の粒子サイズW_(X)は、例えば得られる微粒子の粒子径によって指定される。
次に、制御装置20において、被処理液2に対するレーザ光の照射条件を設定する。まず、波長選択部21において、相関データベース23から読み出したレーザ光の波長と得られる微粒子のサイズとの相関データを参照し、入力された目標サイズW_(X)に基づいて、微粒子化処理の第2段階で被処理液2に照射する本破砕用のレーザ光の波長λ_(X)を選択する。さらに、選択された波長λXを参照し、微粒子化処理の第1段階で被処理液2に照射する粗破砕用のレーザ光の波長λ_(Y)(λ_(Y)>λ_(X))を選択する。
また、強度選択部22において、相関データベース23から読み出したレーザ光の強度と得られる微粒子のサイズとの相関データを参照し、入力された目標サイズW_(X)、及び波長選択部21で選択された波長λ_(X)に基づいて、本破砕用のレーザ光の強度P_(X)を選択する。さらに、選択された波長λ_(X)、強度P_(X)、及び波長λ_(Y)を参照し、粗破砕用のレーザ光の強度P_(Y)を選択する。以上により、粗破砕及び本破砕のそれぞれでの被処理液2に対するレーザ光の照射条件が決定される(ステップS102、波長選択ステップ、強度選択ステップ)。
次に、被処理液2に対し、物質の粗破砕を行うための波長λ_(Y)、強度P_(Y)での第1段階(初期段階)のレーザ光照射を行う。まず、レーザ光照射装置10において、レーザ光源11?14のうちで、粗破砕用に選択された波長λ_(Y)に対応するレーザ光源からのレーザ光を被処理液2へと照射可能なように、照射光学系での光路を切換えて設定する(S103)。この光路の設定は、レーザ光制御部25により自動で、または操作者により手動で行うことができる。また、照射光学系における光路の切換えは、例えば、可動ミラーによる光路の変更や、シャッターによる不要な光路の遮断などによって行うことができる。
粗破砕用のレーザ光照射の光路の設定が終了したら、レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、波長選択部21、強度選択部22で選択された波長λ_(Y)、強度P_(Y)を有するレーザ光を、対応するレーザ光源から照射光学系を介して被処理液2へと照射する。この第1段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が、ある程度のサイズまで粗破砕される(S104、粗破砕ステップ)。
また、この粗破砕用のレーザ光照射を行いつつ、微粒子化状況モニタ装置30により、被処理液2での物質の粗破砕処理の進行状況がモニタされる(モニタステップ)。ここでは、例えば、被処理液2の溶媒4中での物質の粒子径分布がモニタされる。そして、そのモニタ結果に基づいて、微粒子化の第1段階である粗破砕処理が完了しているかどうかを判断する(S105)。被処理液2での物質の微粒子化状況が粗破砕の完了条件を満たしていなければ、さらに粗破砕処理を続行する。一方、その微粒子化状況が完了条件を満たしていれば、被処理液2への粗破砕用のレーザ光照射を停止する。
続いて、被処理液2に対し、物質の本破砕を行うための波長λ_(X)、強度P_(X)での第2段階(最終段階)のレーザ光照射を行う。まず、レーザ光照射装置10において、レーザ光源11?14のうちで、本破砕用に選択された波長λ_(X)に対応するレーザ光源からのレーザ光を被処理液2へと照射可能なように、照射光学系での光路を切換えて設定する(S106)。
本破砕用のレーザ光照射の光路の設定が終了したら、レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、波長選択部21、強度選択部22で選択された波長λ_(X)、強度P_(X)を有するレーザ光を、対応するレーザ光源から照射光学系を介して被処理液2へと照射する。この第2段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が所望のサイズまで本破砕され、その物質の微粒子が生成される(S107、本破砕ステップ)。このとき、上記したレーザ光の波長λ_(X)、強度P_(X)の選択により、本破砕によって生成される最終的な物質の微粒子のサイズが目標の粒子サイズW_(X)となるように、製造装置1Aでの微粒子化の処理条件が制御される。
また、この本破砕用のレーザ光照射を行いつつ、微粒子化状況モニタ装置30により、被処理液2での物質の本破砕処理の進行状況がモニタされる(モニタステップ)。ここでは、例えば、被処理液2の溶媒4中での物質の粒子径分布がモニタされる。そして、そのモニタ結果に基づいて、微粒子化の第2段階である本破砕処理が完了しているかどうかを判断する(S108)。被処理液2での物質の微粒子化状況が本破砕の完了条件を満たしていなければ、さらに本破砕処理を続行する。一方、その微粒子化状況が完了条件を満たしていれば、被処理液2への本破砕用のレーザ光照射を停止し、粗破砕処理及び本破砕処理を含む物質の微粒子化処理を終了する。」(段落【0039】?【0047】)

(ウ)「微粒子化処理におけるレーザ光の照射条件については、一般には、物質に照射するレーザ光の波長λ、及び強度Pに対する得られる微粒子のサイズWの依存性では、図3の例に示したように、レーザ光の波長λでは制御可能なサイズ範囲が広く、強度Pでは制御可能なサイズ範囲は比較的狭い。この場合、本破砕用のレーザ光の波長λ_(X)によって得られる微粒子のサイズWを粗調整するとともに、レーザ光の強度P_(X)によって微粒子のサイズWを微調整する構成とすることが好ましい。これにより、最終的に得られる微粒子のサイズを精度良く制御することが可能となる。
また、レーザ光の照射条件による微粒子のサイズの制御については、レーザ光の波長、または強度の一方を用いて、生成される物質の微粒子のサイズを制御する構成としても良い。
また、上記した実施形態では、レーザ光の波長を変えて2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行っている。これに対して、微粒子化処理に必要な具体的な条件等に応じて、レーザ光の波長ではなく強度を変えて2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行う方法を用いることも可能である。
この場合の微粒子の製造方法について概略的に説明する。まず、調製した被処理液2を処理チャンバ3内に導入する(準備ステップ)。続いて、被処理液2に含まれる微粒子化対象の物質に対して目標サイズW_(X)を設定し、その目標サイズW_(X)を入力装置26から入力する(目標入力ステップ)。
次に、制御装置20において、被処理液2に対して照射する所定波長のレーザ光の照射条件を設定する。まず、強度選択部22において、相関データベース23から読み出したレーザ光の強度と得られる微粒子のサイズとの相関データを参照し、入力された目標サイズW_(X)に基づいて、微粒子化処理の第2段階で被処理液2に照射する本破砕用のレーザ光の強度P_(X)を選択する。さらに、選択された強度P_(X)を参照し、微粒子化処理の第1段階で被処理液2に照射する粗破砕用のレーザ光の強度P_(Y)を選択する。これらの強度P_(X)、P_(Y)は、本破砕での強度P_(X)がP_(Y)よりも高い強度となる(P_(Y)<P_(X))ように選択される(強度選択ステップ)。
次に、被処理液2に対し、物質の粗破砕を行うための強度P_(Y)での第1段階のレーザ光照射を行う。レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、強度選択部22で選択された強度P_(Y)を有する所定波長のレーザ光を被処理液2へと照射する。この第1段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が、ある程度のサイズまで粗破砕される(粗破砕ステップ)。
続いて、被処理液2に対し、物質の本破砕を行うための強度P_(X)での第2段階のレーザ光照射を行う。レーザ光制御部25は、レーザ光照射装置10を駆動制御し、強度選択部22で選択された強度P_(X)を有する所定波長のレーザ光を被処理液2へと照射する。この第2段階のレーザ光照射により、処理チャンバ3内の被処理液2において溶媒4中にある原料粒子5が所望のサイズまで本破砕され、その物質の微粒子が生成される(本破砕ステップ)。
上記した製造方法では、微粒子化対象の原料粒子5の物質に対するレーザ光の照射条件について、微粒子化の初期段階において低強度P_(Y)のレーザ光を照射して物質の粗破砕を行い、続いて、高強度P_(X)のレーザ光を照射して本破砕を行うこととしている。ここで、レーザ光照射によって得られる物質の微粒子の粒子径は、上述したように、物質に照射するレーザ光の強度Pと相関を有し、強度Pが高いほど生成微粒子のサイズが小さくなる。したがって、上記のようにレーザ光の強度を変えて、2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行うことにより、レーザ光の波長を変えた場合と同様に、所望のサイズへの物質の微粒子化処理を効率良く行うことが可能となる。
このように、レーザ光の強度Pを変えて2段階のレーザ光照射で物質の微粒子化を行う場合、レーザ光の波長λを変える必要がなければ、図1に示した製造装置1Aの構成において、レーザ光照射装置10を、単一波長のレーザ光を供給する構成としても良い。あるいは、レーザ光の強度P及び波長λを組み合わせて制御する場合には、図1に示したように複数波長のレーザ光を供給可能な構成のレーザ光照射装置10を用いても良い。このようなレーザ光照射装置の構成、及び2段階のレーザ光照射での強度P及び波長λの選択については、微粒子化処理の具体的な条件等に応じて適宜設定すれば良い。」(段落【0055】?【0063】)

(エ)「被処理液2へのレーザ光の照射条件の具体的な制御方法については、レーザ光照射装置10の具体的な構成、微粒子のサイズについて必要とされる精度などに応じて適宜に設定して良い。例えば、図1に示した構成において、強度選択部22を設けずに波長のみを制御する構成としても良い。また、図1に示した構成において、波長選択部21を設けずに強度のみを制御する構成としても良い。あるいは、図4に示した構成において、波長選択部21に加えてさらに強度選択部を設け、微粒子のサイズを精度良く制御しても良い。なお、レーザ光照射手段から供給可能なレーザ光の波長については、物質の吸光特性などに基づいて、適切な波長または波長範囲を設定することが好ましい。また、必要に応じて、レーザ光照射装置10に対して減衰フィルタや光減衰器などの光強度調整手段を設けても良い。
また、図1及び図4に示した構成では、レーザ光の波長、及び強度の選択を、相関データベース23、24を参照して行っている。これにより、微粒子化対象の物質に対して、目標の粒子サイズに応じたレーザ光の波長、強度の選択を容易に行って、生成される物質の微粒子のサイズを確実に制御することができる。
相関データベースに含まれる相関データとしては、例えば、図3に示したようなレーザ光の波長、強度と、得られる物質の微粒子のサイズとの相関データがある。また、レーザ光の波長のみを制御する場合には、レーザ光の波長と、得られる物質の微粒子のサイズとの相関データを用いても良い。あるいは、レーザ光の強度のみを制御する場合には、レーザ光の強度と、得られる物質の微粒子のサイズとの相関データを用いても良い。また、具体的なレーザ光の波長、及び強度の選択方法としては、相関データベースを参照する方法以外にも、例えば相関を表す演算式を用いる方法など、他の方法を用いても良い。」(段落【0071】?【0073】)

(オ)「ここで、レーザ光照射装置10から被処理液2へと照射される粗破砕用、本破砕用のレーザ光の波長λ_(X)、λ_(Y)は、微粒子化する物質の電子遷移に起因する吸光帯よりも長い波長、あるいは吸光帯であることが好ましい。また、光劣化(光化学反応)を避ける必要のある物質の場合、赤外域の波長であることが好ましく、さらに、900nm以上の波長であることが好ましい。これにより、レーザ光照射による物質の微粒子化を、品質劣化を低減して好適に実現することができる。また、レーザ光照射装置10でのレーザ光源としては、パルスレーザ光源を用いることが好ましい。特に、被処理液2での余分な光化学反応や熱分解の発生を抑制しつつ、充分な効率で微粒子化を行うため、光照射による微粒子化現象を引き起こす光強度の閾値を超えているのであれば、1パルス当たりの照射エネルギーが低く、高い繰返し周波数を有するパルスレーザ光源を用いることが好ましい。」(段落【0076】)

(カ)「また、レーザ光照射による微粒子化対象となる原料粒子5の物質を有機化合物としても良い。有機化合物としては、例えば、有機顔料、芳香族縮合多環化合物、薬物(薬剤、医薬品関連物質)などが挙げられる。薬物の場合、上記した粗破砕処理、及び本破砕処理を行うことにより、所望のサイズへの微粒子化を効率良く行うことができ、レーザ光照射による薬物での光化学反応の防止に寄与する。このため、薬物の薬効を失うことなくその微粒子を製造することができる。また、光化学反応については、レーザ光の波長を好適に選択(例えば上記した900nm以上の波長に選択)することにより、光化学反応の発生をさらに抑制することが可能である。
詳述すると、薬物として用いられる有機化合物では、分子構造の中に比較的弱い化学結合を含むことが多いが、このような有機化合物に紫外光などの光を照射すると、微粒子を部分的に生成することはできるものの、同時に、一部で電子励起状態を経由して有機化合物の光化学反応が生じて不純物が生成されてしまう場合がある。特に、有機化合物が体内に投与される薬物(医薬品)の場合、そのような不純物は副作用の原因となり、生体に悪影響を与えるおそれもあるため、このような事態は極力避けなければならない。これに対して、物質の微粒子を所望のサイズで効率良く製造することが可能な、上記した好適に選択された波長、強度のレーザ光を用いた製造方法で有機化合物の微粒子を製造することにより、光化学反応の発生を抑制して、不純物の生成を充分に抑制することが可能となる。
また、上記のように、薬効を失うことなく保持しつつ薬物の微粒子化を実現することにより、微粒子化前の形態では評価できなかった物理化学的研究、スクリーニングなどの候補化合物の探索、決定や、ADME試験、動物での前臨床試験における一般毒性、一般薬理、薬効薬理、生化学的研究、及び臨床試験などができるようになる。また、上記した製造方法により、極めて多種類の生体に投与可能な薬物を得ることができる。このため、薬物の選択の幅を飛躍的に拡大することができる。また、薬物の微粒子化により薬物の表面積が増大し、生体組織への吸収性が向上するため、少量で有効な薬物微粒子を得ることができる。このような微粒子化処理は、薬物以外の有機化合物に対しても有効である。」(段落【0077】?【0079】)

(キ)「まず、レーザ光の波長を変えた場合について生成微粒子のサイズの変化を調べた。ここでは、微粒子化対象の原料粒子5の物質として、バナジルフタロシアニン(VOPc)の微粒子化を試みた。VOPcは、水に対して不溶性の顔料である。まず、原料粒子であるVOPcの粉体を濃度0.5mg/mlで溶媒である水中に懸濁したサンプルを微粒子化処理の被処理液として準備した。そして、10mm×10mm×40mmの石英角セルを処理チャンバとして被処理液を3mlずつ分注し、λ=1064nm、532nm、355nmの3波長のレーザ光のそれぞれによって、レーザ光照射によるVOPcの微粒子化を行った。VOPcの原料粉体の粒子径分布は、10μm?70μmである。」(段落【0084】)

(ク)「図6は、レーザ光の波長と、生成微粒子のサイズとの相関を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はレーザ光の波長λ(nm)を示し、縦軸はVOPcの生成微粒子の図5に示した粒子径分布での中心サイズW(中心粒子径、nm)を示している。これらの図5に示したグラフA?C、及び図6に示した相関のグラフより、被処理液に照射するレーザ光の波長λと、微粒子化によって生成される微粒子のサイズWとは、図1に示した製造装置1Aに関して上述したように、波長λが短いほど生成微粒子のサイズWが小さくなる相関を有することがわかる。」(段落【0089】)

(ケ)「このような2段階での微粒子化処理の具体例としては、レーザ光照射装置10として、光学結晶の選択によって1064nm、532nm、355nmの3波長のレーザ光を供給可能なYAGレーザを用い、物質の微粒子化の目標サイズをW_(X)=105nmとした場合、図6のグラフより、本破砕用のレーザ光の波長λ_(X)は532nmとなる。また、λ_(X)よりも長い粗破砕用のレーザ光の波長λ_(Y)はYAGレーザの基本波長である1064nmとなる。一方、目標サイズをW_(X)=50nmとした場合、図6のグラフより、本破砕用のレーザ光の波長λ_(X)は355nmとなる。また、λ_(X)よりも長い粗破砕用のレーザ光の波長λ_(Y)は、1064nm、及び532nmの2波長がその候補となる。ただし、YAGレーザの基本波長である1064nmとすることがフォトンの経済性の点から好ましい。」(段落【0092】)

上記(ア)?(ケ)の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「非溶解物質の状態で溶媒中に含まれる有機顔料、芳香族縮合多環化合物、薬剤などの有機化合物の原料粒子を水などの溶媒中に攪拌して溶媒中に原料粒子を分散させた被処理液とした後、被処理液に対してレーザ光を照射することにより、被処理液中の有機顔料、芳香族縮合多環化合物、薬剤などの有機化合物の原料粒子を破砕して微粒子化する微粒子が分散された被処理液の製造方法であって、被処理液中の有機顔料、芳香族縮合多環化合物、薬剤などの有機化合物の原料粒子にレーザ光を照射させて有機顔料、芳香族縮合多環化合物、薬剤などの有機化合物の原料粒子を破砕する、微粒子が分散された被処理液の製造方法」

また、刊行物1には、上記(オ)の記載事項から、以下の事項も記載されている。
(ケ)「レーザ光源としてパルスレーザ光源が好ましい点」

さらに、刊行物1には、上記(キ)、(ケ)の記載事項から、以下の事項も記載されている。
(コ)「照射するレーザーの波長として、λ=532nm、355nmを用いる点」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、その構造、機能、作用からみて、引用発明の「非溶解物質の状態で溶媒中に含まれる有機顔料、芳香族縮合多環化合物、薬剤などの有機化合物の原料粒子」は、本願発明1の「水に難溶又は不溶である医薬品の薬効成分」に相当し、以下同様に、「水などの溶媒」は「貧溶媒」に、「攪拌して溶媒中に原料粒子を分散させた被処理液とした」は「混入して懸濁液とした」に、「被処理液」は「懸濁液」に、「レーザ光」は「レーザー」に、「破砕」は「粉砕」に、「微粒子が分散された被処理液」は「薬効成分ナノ粒子分散液」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「微粒子」は、段落【0089】や【図6】に記載されているように、生成微粒子の中心サイズW(中心粒子径、nm)が数十から数百nmであるから、本願発明「ナノ粒子」に相当する。
また、引用発明の「原料粒子を破砕して微粒子化する」原理は、照射したレーザ光が原料粒子に吸収されて破砕されるものであるから、引用発明の「レーザ光を照射することにより」は、本願発明1の「レーザーを吸収させて」に相当する。

そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「水に難溶又は不溶である医薬品の薬効成分を貧溶媒中に混入して懸濁液とした後、懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の薬効成分を粉砕してナノ粒子化する薬効成分ナノ粒子分散液の製造方法であって、懸濁液中の薬効成分にレーザーを吸収させて薬効成分を粉砕する薬効成分ナノ粒子分散液の製造方法」

そして、両者は次の相違点1で相違する。
(相違点1)
本願発明1が、レーザーとして「波長200?800nmのパルスレーザー」を用いるのに対し、引用発明はそのような限定がない点。

以下、上記相違点1について判断する。

上記(ケ)で示したとおり、刊行物1には、レーザ光源としてパルスレーザ光源が好ましいことが記載されており、医薬品の薬効成分のナノ粒子化のため、照射するレーザーとしてパルスレーザーを採用することは当業者であれば想到し得ることと認められる。また、その用いるレーザーの波長について、刊行物1の上記(エ)には、物質の吸収特性などに基づいて、適切な波長または波長範囲を選択することが記載されており、また、刊行物1の上記(コ)には、照射するレーザーの波長として、波長200?800nmに含まれるλ=532nm、355nmを用いる点が記載されていることを考慮すれば、波長200?800nmのパルスレーザーを採用することは、所望の粒子径や粉砕効率を考慮して、当業者が容易になし得たものと認められる。

上記適用において、引用発明のレーザーに「波長200?800nmのパルスレーザー」を採用することについて、阻害要因があるか否か検討する。

刊行物1の段落【0077】には「・・・薬物の場合、上記した粗破砕処理、及び本破砕処理を行うことにより、所望のサイズへの微粒子化を効率良く行うことができ、レーザ光照射による薬物での光化学反応の防止に寄与する。このため、薬物の薬効を失うことなくその微粒子を製造することができる。また、光化学反応については、レーザ光の波長を好適に選択(例えば上記した900nm以上の波長に選択)することにより、光化学反応の発生をさらに抑制することが可能である。」と記載され、段落【0078】には「詳述すると、薬物として用いられる有機化合物では、分子構造の中に比較的弱い化学結合を含むことが多いが、このような有機化合物に紫外光などの光を照射すると、微粒子を部分的に生成することはできるものの、同時に、一部で電子励起状態を経由して有機化合物の光化学反応が生じて不純物が生成されてしまう場合がある。特に、有機化合物が体内に投与される薬物(医薬品)の場合、そのような不純物は副作用の原因となり、生体に悪影響を与えるおそれもあるため、このような事態は極力避けなければならない。これに対して、物質の微粒子を所望のサイズで効率良く製造することが可能な、上記した好適に選択された波長、強度のレーザ光を用いた製造方法で有機化合物の微粒子を製造することにより、光化学反応の発生を抑制して、不純物の生成を充分に抑制することが可能となる。」と記載されている。
しかしながら、この記載事項は、薬物として用いられる有機化合物のうち、分子構造の中に比較的弱い化学結合を含むものにおいて、900nm以上の波長が好ましいと記載しているのであって、有機化合物の薬物であっても、分子構造の中に比較的弱い化学結合を含まないものまで、900nm以上の波長が好ましいと記載されているものではない。
また、段落【0076】の記載も、光劣化を避ける必要のある物質の場合900nm以上の波長であることが好ましいことが記載されているのであって、その場合は900nm以上の波長を推奨はするものの、900nm以下の波長を除外しているのではなく、また、光劣化を避ける必要がない物質の場合まで、これを推奨しているものでもない。
そして、本願請求項1においては、単に「医薬品の薬効成分」と記載されるのみで、その薬物の物質や物性まで特定したものではなく、医薬品の薬効成分の全てのものが、900nm以下の波長の光で光劣化するものでないことはあきらかである。
したがって、引用発明の構成におけるレーザーに「波長200?800nmのパルスレーザー」を採用することについて、レーザー照射の対象が医薬品の薬効成分であることに起因する阻害要因も認められない。

4.むすび
したがって、本願発明1は、引用発明及び刊行物1に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-30 
結審通知日 2012-09-03 
審決日 2012-09-18 
出願番号 特願2006-135878(P2006-135878)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 昌司  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 関谷 一夫
高田 元樹
発明の名称 薬効成分ナノ粒子分散液の製造方法  
代理人 清原 義博  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ