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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1265605
審判番号 無効2011-800180  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-21 
確定日 2012-11-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第2785254号発明「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
第1 事案の概要

本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第2785254号(以下「本件特許」という。平成5年6月28日出願、平成10年5月29日登録、請求項の数は4である。)の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効にすることを求める事案である。

第2 本件審判の経緯は、以下のとおりである。

平成23年 9月21日 審判請求
平成23年12月 9日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成24年 4月11日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 4月11日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 4月25日 口頭審理
平成24年 5月 9日 上申書提出(被請求人)
平成24年 6月 6日 上申書提出(請求人)

第3 本件発明

1 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、次のとおりのものと認められる(以下「請求項1ないし4に係る各発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。)

「【請求項1】 n型窒化ガリウム系化合物半導体層とp型窒化ガリウム系化合物半導体層との間に、n型In_(X)Ga_(1-X)N(0<X<1)層を発光層として具備するダブルへテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であって、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層、および/または前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層のキャリア濃度が、前記In_(X)Ga_(1-X)N層に接近するにつれて小さくなるように調整されており、前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層は、キャリア濃度の大きいp^(+)型GaN層と、p^(+)型GaN層よりもキャリア濃度の小さいp型Ga_(1-Z)Al_(Z)N(0<Z<1)層とからなることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項2】 前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層は、キャリア濃度の大きいn^(+)型GaN層と、n^(+)型GaN層よりもキャリア濃度の小さいn型Ga_(1-Y)Al_(Y)N(0≦Y<1)層とからなることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項3】 前記n型In_(X)Ga_(1-X)N層は、n型ドーパントとp型ドーパントとがドープされてn型とされていることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項4】 前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層は400℃以上でアニーリングされてp型とされていることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」

2 本件発明1は上記1のとおりであるところ、これを分説すると、次のとおりである。
A n型窒化ガリウム系化合物半導体層とp型窒化ガリウム系化合物
半導体層との間に、n型In_(X)Ga_(1-X)N(0<X<1)層を発光 層として具備するダブルへテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体 発光素子であって、
B 前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層、および/または前記p型 窒化ガリウム系化合物半導体層のキャリア濃度が、
前記In_(X)Ga_(1-X)N層に接近するにつれて小さくなるように調整さ れており、
C-1 前記p型窒化ガリウム系化合物半導体層は、キャリア濃度の大きい p^(+)型GaN層と、
C-2 p^(+)型GaN層よりもキャリア濃度の小さいp型Ga_(1-Z)Al_(Z)N
(0<Z<1)層とからなることを特徴とする窒化ガリウム系
化合物半導体発光素子。

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法

1 無効理由
(1)無効理由1
本件特許の請求項1ないし請求項4に係る発明は、本件特許の出願日前に頒布された甲第1号証に記載の発明と同一、又は甲第1号証に記載の発明及び本件特許出願時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし請求項4に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件特許の請求項4に係る発明は不明確であるので、本件特許出願は、平成6年法律第116号による改正特許法第120条の4第3項において準用する、平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という)第36条第5項に規定する要件を満たしていないものであり、請求項4に係る特許は旧特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

2 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。
(1)甲第1号証 特開平4-242985号公報
(2)甲第2号証 Shuji Nakamura et al. “p-GaN/N-InGaN/N-GaN Double-Heterostructure Blue-Light-Emitting Diodes” Japanese Journal of Applied Physics Vol.32 No.1A/B 1993年1月15日発行 L8?L11頁
(3)甲第3号証 S.Strite et al. “GaN, AlN, and InN:A review” Journal of Vacuum Science & Technology B Vol.10 No.4 1992年発行 1237?1266頁
(4)甲第4号証 特開平4-68579号公報
(5)甲第5号証 特開平2-229475号公報
(6)甲第6号証 天野浩他「GaN pn接合青色・紫外発光ダイオード」 応用物理 第60巻 第2号 1991年2月10日発行 163?166頁
(7)甲第7号証 特開昭51-25086号公報
(8)甲第8号証 特開昭52-28887号公報
(9)甲第9号証 特開昭54-93380号公報
(10)甲第10号証 特許第2778405号公報
(11)甲第11号証 東京高等裁判所 平成12年(行ケ)第53号 審決取消請求事件 判決(最高裁判所ホームページ)
(12)甲第12号証 特開平4-163969号公報
(13)甲第13号証 特開平3-252177号公報
(14)甲第14号証 松下保彦他「SiC pn接合型青色発光ダイオード」 応用物理 第60巻 第2号 1991年2月10日発行 159?162頁
(15)甲第15号証 特開平2-264483号公報
(16)甲第16号証 中村修二「GaN青色LED」 平成4年 電気学会 電子・情報・システム部門第2回大会 講演論文集 社団法人電気学会 電子・情報・システム部門 平成4年8月発行 39?42頁
(17)甲第17号証 Shuji Nakamura et al. “Thermal Annealing Effects on P-Type Mg-Doped GaN Films” Japanese Journal of Applied Physics Vol.31 No.2B 1992年2月15日発行 L139?L142頁
(18)甲第18号証 M. Glade et al. “Activation of Zn and Cd acceptors in InP grown by metalorganic vapor phase epitaxy” Applied Physics Letters Vol.54 No.24 1989年6月12日発行 2411?2413頁
(19)甲第19号証 特開平2-111016号公報
(20)甲第20号証 J.I.Pankove et al. “Neutralization of Shallow Acceptor Levels in Silicon by Atomic Hydrogen” Physical Review Letters Vo1.51 No.24 1983年12月12日発行 2224?2225頁
(21)甲第21号証 特許庁編 特許・実用新案 審査基準 第I部明細書 第1章 明細書の記載要件 3.特許請求の範囲 3.3 特許法第36条第5項第2号 「3.3.1 特許法第36条第5項第2号違反の類型」
(22)甲第22号証 前田和夫「最新LSIプロセス技術」 株式会社工業調査会 1985年5月25日発行 385頁
(以上、審判請求書に添付して提出。)
(23)甲第23号証 特許第3091593号公報
(24)甲第24号証 特開平3-171679号公報
(25)甲第25号証 特開平4-100278号公報
(26)甲第26号証 特開平5-82903号公報
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
(27)甲第27号証 特開平4-212479号公報
(以上、上申書に添付して提出。)

第5 被請求人の主張の概要

1 無効理由1(新規性欠如及び進歩性欠如)に対して
新規性欠如〕
本件発明1は、p型クラッド層が1層からなりその組成も異なる甲第1号証発明と同一ではない。よって、請求人の主張する新規性欠如についての無効理由はない。
進歩性欠如〕
当業者といえども、本件発明は、甲第1?11号証から容易に想到できるものではない。よって、請求人の主張する進歩性欠如についての無効理由はない。

2 無効理由2に対して
p型窒化ガリウム系化合物半導体層を400℃以上でアニーリングするといえば、その熱処理内容は、当業者にとって明らかである。したがって、「400℃以上」及び「アニーリング」の記載不備についての無効理由はない。

第6 本件発明の技術的意義

1 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は窒化ガリウム系化合物半導体を用いた発光素子に係り、特に順方向電圧(Vf)が低く、さらに発光出力が高い窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に関する。
【従来の技術】GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等の窒化ガリウム系化合物半導体は直接遷移を有し、バンドギャップが1.95eV?6eVまで変化するため、発光ダイオード、レーザダイオード等、発光素子の材料として有望視されている。現在、この材料を用いた発光素子には、n型窒化ガリウム系化合物半導体の上に、p型ドーパントをドープした高抵抗なi型の窒化ガリウム系化合物半導体を積層したいわゆるMIS構造の青色発光ダイオードが知られている。
【0002】MIS構造の発光素子の一例として、特開平3-252176号公報、特開平3-252177号公報、特開平3-252178号公報において、n型窒化ガリウム系化合物半導体層を、i層に近い順から低キャリア濃度のn層と、高キャリア濃度のn^(+)層との2層構造とする技術、および/またはi層の不純物濃度をn層に近い順から低不純物濃度のi層と、高不純物濃度のi^(+)層と2層構造とする技術が開示されている。しかしながら、これらMIS構造の発光素子は発光強度、発光出力共非常に低く、さらに高抵抗なi層を発光層としているため順方向電圧(Vf)が20V以上と高いため発光効率が悪く、実用化するには不十分であった。
【0003】一方、p-n接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体を利用した発光素子のアイデアとして、例えば、特開昭59-228776号公報では、GaAlN層を発光層とするダブルへテロ構造のLEDが提案されており、また、特開平4-209577号公報では、ノンドープのInGaNを発光層とするダブルへテロ構造のLEDが提案されている。またこれら公報の他、従来p-n接合を用いたダブルヘテロ構造の発光素子は数々の構造が提案されている。しかしながら、これらの技術は、窒化ガリウム系化合物半導体層のp型化が困難であったため、実現されてはいなかった。
【0004】高抵抗なi型を低抵抗なp型とし、発光出力を向上させたp-n接合の発光素子を実現するための技術として、我々は特願平3-357046号で、i型窒化ガリウム系化合物半導体層を400℃以上でアニーリングすることにより低抵抗なp型とする技術を提案した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】我々は、上記技術により窒化ガリウム系化合物半導体のp型化を行い、初めてp-n接合を用いたダブルヘテロ構造の発光素子を実現したところ、従来提案されていたダブルヘテロ構造では、n型層とp型層との間に電流が均一に流れず、窒化ガリウム系化合物半導体が面内均一に発光しないことを発見した。また、我々の実験によると、積層する窒化ガリウム系化合物半導体の組み合わせ、組成比等の要因で発光出力に大きな差が現れた。しかも、p型窒化ガリウム系化合物半導体に形成する電極のオーミック性が、そのp型層の結晶性、種類等の要因によって左右され、定められた順方向電流に対し、順方向電圧(Vf)が高くなり、発光効率が低下するという問題があった。
【0006】従って、本発明は上記問題点を解決することを目的として成されたものであり第1の目的は、新規なダブルヘテロ構造の発光素子の構造を提供することにより、窒化ガリウム系化合物半導体層を面内均一に発光させ、発光素子の発光出力を向上させることにあり、第2の目的は、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子のVfを低下させ、発光効率を向上させることにある。」

(2)【0013】図1において、pクラッド層はp型Ga_(1-Z)Al_(Z)N層4と、p^(+)型GaN層5とを積層した2層構造としているが、nクラッド層と同じく、特にこの層を2層構造とする必要はなく、このpクラッド層のキャリア濃度を発光層4に接近するほど小さく調整してあれば、pクラッド層を3層以上積層した多層膜層構造としてもよい。好ましくは、電極を形成する層をキャリア濃度の最も大きいp^(+)型GaNとすることにより、電極材料と好ましいオーミックコンタクトが得られ、発光素子のVfを低下させて、発光効率を向上させることができる。また、pクラッド層のキャリア濃度を変化させるには、前記したp型ドーパントのドープ量を適宜変更することにより実現でき、キャリア濃度を1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(22)/cm^(3)の範囲に調整することが好ましい。
【0014】さらに、前記pクラッド層は、前にも述べたように我々が先に出願した特願平3-357046号に開示するように、400℃以上でアニーリングすることにより、さらに低抵抗なp型を得ることができ、発光素子の発光出力を向上させることができる。
【0015】
【作用】図1を元に本発明の発光素子の作用を説明する。正電極8と、負電極7とに通電すると、電流は高キャリア濃度のp^(+)型GaN層6で面内均一に広がる。電流値を増加させ、ある程度の電界がかかると、p^(+)型GaN層6に広がった電流は低キャリア濃度のp型Ga_(1-Z)Al_(Z)N層にも均一に広がり、In_(X)Ga_(1-X)N層3を均一に発光させることができる。nクラッド層についても同様の作用があり、nクラッド層をn^(+)型GaN層2とn型Ga_(1-Y)Al_(Y)N層3とに分けることにより、In_(X)Ga_(1-X)N層3に均一に電流が流れて均一な発光が得られ、発光出力を増大させることができる。
【0017】また、pクラッド層で最もキャリア濃度の大きい層をGaNと限定することにより、そのp^(+)型GaN層の上に形成する正電極とのオーミック性が良くなり、Vfを低下させて発光効率を向上させることができる。」

(3)「【0018】
【実施例】以下有機金属気相成長法により、本発明の発光素子を製造する方法を述べる。・・・
【0024】次に、原料ガス、ドーパントガスを止め、再び温度を1020℃まで上昇させ、原料ガスとしてTMGとアンモニア、ドーパントガスとしてCp_(2)Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)とを用い、Mgをドープしたp型GaN層を0.2μm成長させる。
【0025】続いてCp_(2)Mgガスの流量を多くして、Mgをp型GaN層よりも多くドープしたp^(+)型GaN層を0.3μm成長させる。このようにしてpクラッド層をキャリア濃度の異なる2層構造とする。
【0026】p^(+)型GaN層成長後、基板を反応容器から取り出し、アニーリング装置にて窒素雰囲気中、700℃で20分間アニーリングを行い、p型GaN層、およびp^(+)型GaN層をさらに低抵抗化する。なお、p型GaN層のキャリア濃度は1×10^(16)/cm^(3)、p^(+)GaN層のキャリア濃度は1×10^(17)/cm^(3)であった。
【0027】以上のようにして得られたウエハーのpクラッド層、n型In_(0.15)Ga_(0.85)N層、およびn型GaN層の一部をエッチングにより取り除き、n^(+)型GaN層を露出させ、p^(+)型GaN層と、n^(+)型GaN層とにオーミック電極を設け、500μm角のチップにカットした後、常法に従い発光ダイオードとしたところ、サファイア基板面から観測して全面に均一な発光が得られ、20mAにおいてVf4.0V、発光出力700μW、発光波長490nm、輝度1.1cdが得られた。」

2 上記1によれば、本件特許明細書には、本件発明の技術的意義に関して、概略、以下の事項が記載されていることが認められる。
(1)本件発明は、窒化ガリウム系化合物半導体を用いた発光素子に係り、特に順方向電圧(Vf)が低く、さらに発光出力が高い窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に関し、p-n接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体を利用した発光素子のアイデアとして、特開平4-209577号公報では、ノンドープのInGaNを発光層とするダブルへテロ構造のLEDが提案されているが、窒化ガリウム系化合物半導体層のp型化が困難であったため、実現されてはいなかった。
そこで、高抵抗なi型を低抵抗なp型とし、発光出力を向上させたp-n接合の発光素子を実現するための技術として、特願平3-357046号で、i型窒化ガリウム系化合物半導体層を400℃以上でアニーリングすることにより低抵抗なp型とする技術を提案し、上記技術により窒化ガリウム系化合物半導体のp型化を行い、初めてp-n接合を用いたダブルヘテロ構造の発光素子を実現したところ、従来提案されていたダブルヘテロ構造では、n型層とp型層との間に電流が均一に流れず、窒化ガリウム系化合物半導体が面内均一に発光しないことを発見したため、新規なダブルヘテロ構造の発光素子の構造を提供することにより、窒化ガリウム系化合物半導体層を面内均一に発光させ、発光素子の発光出力を向上させるとともに、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子のVfを低下させ、発光効率を向上させることを目的とする。
pクラッド層はp型Ga_(1-Z)Al_(Z)N層4と、p^(+)型GaN層5とを積層した2層構造としているが、nクラッド層と同じく、特にこの層を2層構造とする必要はなく、このpクラッド層のキャリア濃度を発光層4に接近するほど小さく調整してあれば、pクラッド層を3層以上積層した多層膜層構造としてもよい。好ましくは、電極を形成する層をキャリア濃度の最も大きいp^(+)型GaNとすることにより、電極材料と好ましいオーミックコンタクトが得られ、発光素子のVfを低下させて、発光効率を向上させることができるものであって、前記pクラッド層は、特願平3-357046号に開示するように、400℃以上でアニーリングすることにより、さらに低抵抗なp型を得ることができ、発光素子の発光出力を向上させることができる。

(2)有機金属気相成長法により、本発明の発光素子を製造する方法の実施例として、Mgをドープしたp型GaN層を0.2μm成長させ、続いてCp_(2)Mgガスの流量を多くして、Mgをp型GaN層よりも多くドープしたp^(+)型GaN層を0.3μm成長させる。このようにしてpクラッド層をキャリア濃度の異なる2層構造とする。p^(+)型GaN層成長後、基板を反応容器から取り出し、アニーリング装置にて窒素雰囲気中、700℃で20分間アニーリングを行い、p型GaN層、およびp^(+)型GaN層をさらに低抵抗化する。

第7 無効理由についての当審の判断
1 無効理由2について
事案にかんがみて、無効理由2についてまず検討する。
(1)請求人は、本件発明4の構成要件「p型窒化ガリウム系化合物半導体層は400℃以上でアニーリングされてp型とされている」について、
ア 「本件発明4においては、『400℃以上で』アニーリングを行うことが構成要件となっているが、『400℃以上で』という下限だけを示すような数値限定を用いた表現を用いている。その結果、いかなる温度範囲をもって『400℃以上での温度で』と記載しているのか不明となっている。」、
イ 「本件発明4において窒化ガリウム化合物半導体の成長に用いられる気相成長法においては、400℃を超える高温で結晶を成長させることが通常であるところ、気相成長法による結晶成長を終えた後、温度を400℃以上に維持すること(400℃以上での結晶成長後、室温に冷却する途中において、400℃未満になるまでの間の状態を含む)が『アニーリング』にあたるのか、それとも一度400℃未満に冷却後に再加熱する必要があるのか、いかなる工程をもって『アニーリング』と記載しているのか不明となっている。また、本件特許の出願日(平成5年6月28日)前の1985年(昭和60年)5月25日に頒布された「最新LSIプロセス技術」(甲第22号証)の「第8章アニール技術」「8.1 概要」欄(385頁)において、『アニールはいわば“焼鈍”であり、本来、材料に加熱処理を行なったあと急冷せずに徐冷したり、長時間低温熱処理することによりその物質の構造や物性を安定化させる方法である。』(2行?4行)、『アニールの方法そのものも多様化しており、レーザ、電子ビーム、ランプ、グラファイトピーク等工夫がされている。』(下5行?下4行)と記載されているとおり、そもそも『アニーリング』とは、レーザ、電子ビーム、電気炉などの多くの手法が含まれる多義的な用語であって、このうちいかなるものが本件発明4の『アニーリング』に含まれるのか、明らかではない。」
と主張し、「本件発明4の『400℃以上』及び『アニーリング』は不明確であり、結果として本件各発明は不明確であるので、本件明細書の特許請求の範囲には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとは認められず、本件特許出願のうち請求項4にかかる部分は旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないものである」と主張する(審判請求書45?46頁)。

(2)しかるに、上記第6、1(3)のとおり、本件特許明細書には、実施例として、アニーリング装置にて窒素雰囲気中で、700℃で20分間アニーリングを行うことにより、p型GaN層及びp^(+)型GaN層をさらに低抵抗化することが記載されているものと認められるところであり、本件発明において、アニーリング温度の上限を特定することが発明の構成に欠くことができない事項と認めるべき事情があるものとは認められない。また、400℃以上の温度のうち、どのような温度において「(低抵抗な)p型」とするかについても、アニーリングを行う時間などを含めて、当業者が設計上適宜定めるべき事項と認められるから、400℃以上の温度のうち、いかなる温度範囲において「(低抵抗な)p型」となるかが明らかにされなければならないものとは認められない。また、上記のとおり、実施例として「アニーリング装置にて窒素雰囲気中で、700℃で20分間」行うことにより、「p型GaN層及びp^(+)型GaN層をさらに低抵抗化する」ことが記載されていることに照らせば、本件発明における「アニーリング」は、400℃以上の所定の温度で所定時間保持するものと解することができ、その技術的な意味内容が明確でないということはできない。
したがって、本件発明4に係る「400℃以上」及び「アニーリング」が明確でないとはいえず、旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

2 無効理由1について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平4-242985号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項4】 禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N:0≦x’≦1,0≦y’≦1,但しx’=y’=1は含まない)から成る層を、相互に禁制帯幅及び混晶組成が同一又は異なり、前記層に対して禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N:0≦x≦1,0≦y≦1,x≠x’及び/又はy≠y’)から成るp型導電性を示す層とn型導電性を示す層との2つの層で、両側から挟んだ構造の接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。」(2頁左欄24?32行)
(イ)「【0022】まず、同一組成同士の結晶によるpn接合構造を作製する場合につき述べる。・・・サファイア基板表面にAlN薄膜緩衝層を形成する。・・・n型(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N単結晶の成長を行う。・・・マグネシウム(Mg)・・・を含む化合物を成長炉に導入してアクセプタ不純物をドープした(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N単結晶(p層)の成長を行う。・・・アクセプタドープ(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N層の電子線照射処理を行う。・・・金属を接触させ、p層に対するオーム性電極を形成する。」(3頁左欄44行?右欄39行)
(ウ)「【0033】単一のヘテロ接合を形成する場合、同一混晶組成の結晶によるpn接合に加え、更にn層側に禁制帯幅が大きいn型の結晶を接合して少数キャリアである正孔の拡散阻止層とする。・・・(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N系単結晶の禁制帯幅付近の発光はn層で特に強いため、活性層はn型結晶を用いる必要がある。」(4頁左欄7?13行)
(エ)「【0035】二つのヘテロ接合を形成する場合、禁制帯幅の比較的小さいn型の結晶の両側に各々禁制帯幅の大きいn型及びp型の結晶を接合し禁制帯幅の小さいn型の結晶を挟む構造とする。・・・(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N系単結晶の禁制帯幅付近での光の屈折率は禁制帯幅が小さい程大きいため、他の(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)As系単結晶や(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)P系単結晶による半導体レーザダイオードと同様、禁制帯幅の大きい結晶で挟むヘテロ構造は光の閉じ込めにも効果がある。」(4頁左欄20?34行)
(オ)「【0038】ヘテロ接合を利用する場合も、同一組成の結晶によるpn接合の場合と同様に、オーム性電極組成を容易にするため電極と接触する部分付近のキャリア濃度は高濃度にしても良い。・・・又、特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合してもよい。」(4頁左欄35?44行)
(カ)「【0041】(1)サファイア基板の場合
図1は、サファイア基板を用いた半導体レーザダイオードの構造を示した断面図である。・・・サファイア基板1上に50nm程度の膜厚を持つAlN層2を形成する。・・・Siドープn型GaAlN層3(n層)を成長する。・・・0.5μmのGaN層4を成長させる。次に、TMA及びビスシクロペンタディエニルマクネシウム(Cp_(2)Mg)を更に供給してドープGaAlN層5(p層)を0.5μm成長する。・・・ドープGaAlN層5(p層)に電子線照射処理を行う。・・・ドープGaAlN層5(p層)の窓8の部分と、Siドープn型GaAlN層3(n層)に、それぞれ、金属電極を形成する。」(4頁右欄2?43行)
(キ)「【0049】(3)6H-SiC基板の場合
6H-SiC基板上に作成したレーザダイオードを図3に示す。・・・n型GaN緩衝層17を0.5?1μm程度成長する。・・・n型GaAN層18(n層)を成長する。・・・GaN 層19を0.5μm、MgドープGaAlN層20(p層)を0.5μmの厚さに形成した。・・・MgドープGaAlN層20(p層)に電子線を照射した。・・・MgドープGaAlN層20(p層)に対する電極21Aを形成し」(5頁左欄21?41行)
(ク)「【0056】上記のいづれの構造のレーザダイオードも、室温においてレーザ発振した。」(5頁右欄21?22行)
(ケ)図1及び3は、次のものである。


イ 甲第2号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証「p-GaN/N-InGaN/N-GaN Double-Heterostructure Blue-Light-Emitting Diodes」には、以下の記載がある。
(ア)“P-GaN/n-InGaN/n-GaN double-heterostructure (DH) blue-light-emitting diodes(LEDs) were fabricated successfully for the first time.”(L8頁要約欄1行?2行。和訳:「P-GaN/n-InGaN/n-GaN二重ヘテロ構造(DH)を有する青色発光ダイオード(LED)が初めて首尾よく作られた。」)
(イ)“A wide-band-gap semiconductor,(In,Ga,Al)N,a III-V compound system, was proposed by Matsuoka et al. Utilizing this system, a band-gap energy from 2 to 6.2 eV can be chosen. For high-performance optical devices, a double heterostructure (DH) is indispensable. This material enables DH construction.”(L8頁左欄24?29行。和訳:「ワイドバンドギャップのIII-V化合物である(In,Ga,Al)N半導体が、松岡らにより提案された。この化合物では、2?6.2eVのバンドギャップエネルギを選ぶことができる。高機能発光素子のためには、ダブルヘテロ構造(DH)が不可欠である。この材料によればDH構造ができる。」)
(ウ)“If the InGaN semiconductor compound is used as an active layer in the DH, a GaN/InGaN/GaN DH can be considered for blue-emitting devices.”(L8頁左欄下13行?下10行。和訳:「もしInGaN半導体化合物がDHの活性層として使用されるならば、GaN/InGaN/GaN DHが青色発光装置として考慮されることができる。」)
(エ)“the substrate temperature was lowered to 510℃ to grow the GaN buffer layer…Next, the substrate temperature was elevated to 1020℃ to grow GaN films…the temperature was decreased to 800℃, and Si-doped InGaN film was grown for 7 minutes…the temperature was increased to 1020℃ to grow Mg-doped p-type GaN film.…After the growth, low-energy electron-beam irradiation (LEEBI) treatment was performed to obtain a highly p-type GaN layer…Next, an Au contact was evaporated onto the p-type GaN layer…The structure of an InGaN/GaN DH LED is shown in Fig.1.”(L8頁右欄29行?L9頁左欄29行。和訳:「510℃に下げて、GaNバッフア層を成長する。・・・(中略)・・・次に、1020℃に上げて、GaN薄膜を成長する。・・・(中略)・・・800℃に下げて、SiドープInGaN薄膜を7分間成長する。・・・(中略)・・・基板温度を1020℃に上げて、Mgドープp型GaN薄膜を成長する。・・・(中略)・・・成長後、より高いp型GaN層を得るために、低エネルギ電子線照射処理(LEEBI)を行う。・・・(中略)・・・次に、p型GaN層の上にAuコンタクトを蒸着する。・・・(中略)・・・図1はInGaN/GaN DH LEDの構造を示している。」)
(オ)“this blue emission can be assumed to result from recombination between the electrons injected into the conduction band and holes injected into the valence band of the InGaN active layer.”(L9頁右欄11行?15行。和訳:「この青色発光は伝導帯内に注入された電子とInGaN活性層の価電子帯内に注入された正孔との間の再組み合わせから生じると思われる。」)
(カ)Figure 1.(L8頁 「図1;p-GaN/n-InGaN/n-GaN二重ヘテロ構造青色LEDの構造。」
(キ)Figure 1.は、次のものである。



ウ 甲第3号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証「GaN, AIN, and InN:A review」には、以下の記載がある。

“The most efficient blue laser designs will call for strained InGaN QWs in the active region and AlGaN cladding.”(1261頁右欄下19行?下17行。和訳:「最も効率的な青色レーザー設計は、活性層中のひずみInGaN量子井戸及びAlGaNクラッディングを要求する。」)

エ 甲第4号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開平4-68579号公報)には、以下の第3及び4図が記載されている。


オ 甲第5号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平2-229475号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「前記単結晶基板上に格子整合して成長したIn_(x)Ga_(y)Al_(z)N(x+y+z=1、かつ、0≦x、y、z≦1)薄膜の少なくとも一層が含まれてなることを特徴とする半導体発光素子」(2頁左下欄5?8行)
(イ)「第13図に(001)面上の格子定数とバンドギャップエネルギとの関係を示す。InN-GaN間及びInN-AlN間のボーイングパラメータは、それぞれ文献(2)及び(3)による。この図から判るように、InN、GaN及びAlNから成る二元、三元、或いは四元混晶等を用いることにより、基板に格子整合してバンドギャップエネルギの異なる材料の多層構造を形成することができる。」(2頁左下欄12?19行)
(ウ)「第9図は本発明の第3の実施例を説明する図であり、素子の断面を示す。本素子はレーザである。基本的構造はダブルヘテロ構造を有する埋め込みレーザであり、Al_(2)MgO_(4)基板17、膜厚5μmのSnドープn形InGaAlNクラッド層18、膜厚0.1μmのノンドープInGaN活性層19、膜厚2μmのZnドープp形InGaAlNクラッド層20、Znドープp形InGaAlN埋め込み層21、Snドープn形InGaAlN埋め込み層22、p形クラッド層のオーミック電極23、n形クラッド層のオーミック電極24から成る。・・・クラッド層及び埋め込み層と活性層とのバンドギャップエネルギ差が0.3evとなるように、InGaAlNクラッド層の組成を第13図から選んだ。」(5頁右下欄下9行?6頁左上欄7行)
(エ)「また、p形電極のオーミック抵抗を下げるために、p形クラッド層と電極との間に低抵抗になり易いバンドギャップの狭いInGaAlN層のp形層をキャップ層として一層入れても良い。」(6頁右上欄15?19行)
(オ)下記第13図には、上記(イ)のとおり、(001)面上のInN-GaN-AlN-InN間の格子定数とバンドギャップエネルギとの関係が示されている。
(カ)第13図は、次のものである。


カ 甲第6号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証「GaN pn接合青色・紫外発光ダイオード」には、以下の記載がある。
(ア)「最近、われわれはマグネシウム(Mg)ドープ高抵抗GaN(GaN:Mg)に電子線を照射すると電気的特性が変化し、比抵抗数十Ω・cm程度のp型結晶となることを見いだした。さらにこれを利用して、3.pn接合の形成にも初めて成功した。」(163頁右欄8?12行)
(イ)「LEDの作製方法について示す。サファイヤ基板上にAIN緩衝層(審決注:「AlN」の誤記と思われる)を堆積の後、n型GaNを約3μm育成して・・・(中略)・・・GaN:Mgを約0.5μm育成したのち、表面から電子線照射処理する。・・・(中略)・・・p層の電極は金(Au)によりオーム性接触を形成する。」(165頁左欄24行?右欄10行)

キ 甲第7号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開昭51-25086号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「第1図はTJSレーザ装置として知られるダブルヘテロ接合を有する半導体レーザ装置の構成を示す一部破断斜視図で、(1)はGaAs基板、(2)は第1のGaAlAs層、(3)はn型のGaAs層、(4)は第2のGaAlAs層で、第1のGaAlAs層(2)、第2のGaAlAs層(4)はそれぞれGaAs層(3)よりも広い禁制帯巾を有し、GaAs基板(1)上に順次形成されたものである。更にこれらの三層は、図中破線で示すように亜鉛等のp型不純物が、左右二分する形で拡散され、それぞれp型の層(2p),(3p),(4P)を形成し、このうち(3p),(3n)のp-n接合面が発光部(5)を形成する。・・・(6a),(6b)は電極である。」(1頁左欄18行?右欄12行)
(イ)「従来ダブルヘテロ接合レーザで行なわれてきたようにオーム接触を良好とするために成長層表面に付加されていたGaAs層を必要としない点があげられる。このGaAs層は、第1図に示した従来例においては、説明の便宜上その記載を省略しているが、第2のGaAlAs層(4)と電極(6a)との接触抵抗を下げるために設けられるものであり、・・・しかるに、この発明により上記のオーミックコンタクトをとるためのGaAs層は不要となり、従って、第2のGaAlAs層(4)も1層構造とすることができるため、製造工程が簡単となる。」(2頁左下欄17行?右下欄12行)
(ウ)第1図は、次のものである。


ク 甲第8号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開昭52-28887号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明に係る半導体発光装置を形成するにあたり、まず第1図の如きヘテロ構造を形成する。・・・活性層となるp型のガリウム・アルミニウム砒素(Ga_(1-y)Al_(y)Asただしy:0?0.1)層3を液相成長させ」(2頁左上欄3?10行)
(イ)「続いてその上に光及びキャリアの閉じ込め層となるP型のガリウム・アルミニウム・砒素(Ga_(1-x)Al_(x)As)層7を成長させる。・・・次にガリウム・アルミニウム・砒素層7の上に、P型のガリウム・砒素(GaAs)層8を形成する。この層8はその表面全面に設ける電極9の金属とオーミックなコンタクトを形成するためのものである。電極9はP型ガリウム・砒素層8全面にコンタクトするので、そのコンタクト抵抗は十分低い。」(2頁右上欄9行?左下欄10行)
(ウ)第1図は、次のものである。


ケ 甲第9号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開昭54-93380号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明は、埋込みヘテロ構造の半導体レーザに於ける・・・第1図乃至第3図は、本発明一実施例を製造する場合の工程説明図である。」(1頁右欄4?9行)
(イ)「(3)多層液相エピタキシャル成長法を適用してn型GaAlAs結晶からなるクラッド層4、GaAs結晶からなる活性層5、p型GaAlAs結晶からなるクラッド層6、p型GaAs結晶からなる電極コンタクト層7を成長させる。」(2頁左上欄1?5行)

コ 甲第16号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第16号証「GaN青色LED」には、以下の記載がある。
(ア)「成長直後の高抵抗MgドープGaN膜を窒素雰囲気中でアニーリングした。結果を温度の関数として図7に示す。アニーリング条件は各温度で20分間した。図のように温度400℃あたりから急激に抵抗率が減少している。このようにアニーリングのみでも電子線照射と同様に低抵抗P型GaN膜を得ることができる。」(41頁下9行?下3行)
(イ)図7は、次のものである。



サ 甲第17号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第17号証「Thermal Annealing Effects on P-Type Mg-Doped GaN Films」には、以下の記載がある。
(ア)“Therefore, the temperature dependence was measured to determine the mechanism of the thermal annealing effects on the p-type conductivity of Mg-doped GaN films. Figure 3 shows the annealing temperature dependence of the intensity of the blue emissions in PL measurements. Between room temperature and 400℃, the intensity of blue emissions is almost constant. When the temperature exceeds 400℃, this intensity strengthens gradually and shows a maximum at 700℃”(L140頁右欄下19行?下10行。和訳:「従って、温度依存性はMgがドープされたGaN膜のp型伝導性における熱アニーリングの効果を決定するために測定された。図3はPL測定における青色発光強度のアニーリング温度依存性を示す。室温と400℃の間においては、青色発光強度は一定である。温度が400℃を超えると、この強度は徐々に強くなり、700℃で最高値を示す。」)
(イ)Figure 3.は、次のものである。


シ 甲第18号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第18号証「Activation of Zn and Cd acceptors in InP grown by metalorganic vapor phase epitaxy」には、以下の記載がある。
(ア)“We have investigated the activation by post-deposition annealing of Zn and Cd acceptors incorporated in InP during epitaxial growth using metalorganic vapor phase epitaxy.”(2411頁要約欄1行?2行。和訳:「我々は、有機金属気相成長を用いたエピタキシャル成長中にInPに導入されたZn及びCdアクセプタの堆積後のアニーリングによる活性化を研究した。」)
(イ)“Post-epitaxial annealing in a N_(2) atmosphere at temperatures in the range of 370-470℃ leads to complete activation of the acceptors.”(2411頁要約欄4行?6行。和訳:「370?470℃の温度範囲でN_(2)雰囲気におけるエピタキシャル後のアニーリングはアクセプタの完全な活性化をもたらした。」)
(ウ)“Further investigation revealed that in most cases a considerable amount of hydrogen is contained in those samples. It appears likely that hydrogen plays an important role in the deactivation phenomenon. Full activation of the acceptor can be obtained by post-epitaxial annealing in N_(2).”(2411頁左欄9行?13行。和訳:「さらなる研究により、ほとんどの場合において、かなりの量の水素がそれらのサンプルに含まれていることが判明した。明らかに、水素が不活性化現象において重要な役割を果たしているようだ。N_(2)中でのエピタキシャル後のアニーリングにより、アクセプタの完全な活性化が得られる。」)
(エ)“Post-epitaxial annealing was carried out at temperatures between 370 and 470℃ in a N_(2) atmosphere.”(2411頁左欄下2行?末行。和訳:「エピタキシャル後のアニーリングは、N_(2)雰囲気中において370?470℃の温度で実行された。」)

ス 甲第19号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第19号証(特開平2-111016号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「水素を優先的に除き、所望ドーパントのはるかに減少した補償、したがってはるかに低い抵抗率を有する半導体が達成される。」(5頁右上欄8行?11行)
(イ)「所望のアクセプタ又はドナー不純物を半導体中に残しながら、補償水素を選択的に除く若干の方法が知られている。例えば、同一温度で第1ドーパントの外への拡散の速度に比べて材料からの水素の比較的速い外への拡散を起こすのに十分な温度に材料を加熱することができる。約100?500℃、いっそう、好ましくは約150?450℃の温度が一般に有効である。実際の好ましい温度は、使用する特定の第1ドーパント種を含む多くの因子に依存する。水素の高い移動度により、水素は、それより移動度の低い第1ドーパントが半導体内に残ることができるようにしながら拡散して出る。」(5頁右下欄下8行?6頁左上欄4行)

セ 甲第20号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第20号証「Neutralization of Shallow Acceptor Levels in Silicon by Atomic Hydrogen」には、以下の記載がある。
(ア)“This experiment consisted in measuring the change in resistivity of a B-doped Si single crystal after exposure to atomic hydrogen at various temperatures for about 1h.”(2224頁左欄15行?18行。和訳:「この実験は、約1時間さまざまな温度で水素原子にさらされたBがドープされたSi単結晶の抵抗の変化を計測することから成る。」)
(イ)“Heating a treated sample at 500℃ for 1h [to dehydrogenate it (Ref. 9 and 10)]resulted in the recovery of a flat resistivity profile at nearly the initial bulk value, thus confirming that the change in resistivity is due to the resence of hydrogen.”(2224頁右欄7?11行。和訳:「[水素を除くため(Ref9及び10)]処理されたサンプルを500℃で1時間加熱した結果、最初のバルク値にほぼ近い低い抵抗値を回復した。よって抵抗値の変化は水素の存在によるものであることを確認した。」)

(2)甲第1号証に記載された発明
前記(1)アによれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N:0≦x’≦1,0≦y’≦1,但しx’=y’=1は含まない)から成る層を、相互に禁制帯幅及び混晶組成が同一又は異なり、前記層に対して禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N:0≦x≦1,0≦y≦1,x≠x’及び/又はy≠y’)から成るp型導電性を示す層とn型導電性を示す層との2つの層で、両側から挟んだ構造の接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードであって、
まず、同一組成同士の結晶によるpn接合構造を作製する場合には、サファイア基板表面にAlN薄膜緩衝層を形成し、n型(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N単結晶の成長を行い、マグネシウム(Mg)を含む化合物を成長炉に導入してアクセプタ不純物をドープした(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N単結晶(p層)の成長を行い、アクセプタドープ(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N層の電子線照射処理を行い、金属を接触させ、p層に対するオーム性電極を形成し、
二つのヘテロ接合を形成する場合は、禁制帯幅の比較的小さいn型の結晶の両側に各々禁制帯幅の大きいn型及びp型の結晶を接合し禁制帯幅の小さいn型の結晶を挟む構造とし、(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N系単結晶の禁制帯幅付近での光の屈折率は禁制帯幅が小さい程大きいため、他の(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)As系単結晶や(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)P系単結晶による半導体レーザダイオードと同様、禁制帯幅の大きい結晶で挟むヘテロ構造は光の閉じ込めにも効果があるものであって、
ヘテロ接合を利用する場合も、同一組成の結晶によるpn接合の場合と同様に、オーム性電極組成を容易にするため電極と接触する部分付近のキャリア濃度は高濃度にしても良く、又、特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合してもよい、窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。」(以下「甲1発明」という。)

(3)本件発明と甲1発明との対比、判断
ア 構成要件Aについて
(ア)甲1発明は、「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体から成る層を、相互に禁制帯幅及び混晶組成が同一又は異なり、前記層に対して禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型導電性を示す層とn型導電性を示す層との2つの層で、両側から挟んだ構造の接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードであ」って、「二つのヘテロ接合を形成する」ものであるから、
「禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体から成る」「n型導電性を示す層」と「禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型導電性を示す層」との間に、「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」を具備する「二つのヘテロ接合」の「窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード」の構成を備える。
また、「n層側に禁制帯幅が大きいn型の結晶を接合して少数キャリアである正孔の拡散阻止層とする。」及び「(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N系単結晶の禁制帯幅付近の発光はn層で特に強いため、活性層はn型結晶を用いる必要がある。」(上記2(1)ア(ウ))との記載からみて、「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」は「活性層」といえる。
しかるところ、甲1発明の「『禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体から成る』『n型導電性を示す層』」、「禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型導電性を示す層」、「活性層」、「二つのヘテロ接合」及び「窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード」は、本件発明1の「n型窒化ガリウム系化合物半導体層」、「p型窒化ガリウム系化合物半導体層」、「発光層」、「ダブルへテロ構造」及び「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」にそれぞれ対応するから、甲1発明は、本件発明1の「n型窒化ガリウム系化合物半導体層とp型窒化ガリウム系化合物半導体層との間に、発光層を具備するダブルへテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の構成を備える。

(イ)そして、「活性層」である「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」が、甲1発明では、「(Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N:0≦x’≦1,0≦y’≦1,但しx’=y’=1は含まない」であるから、甲1発明は、「活性層」である「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」が、x’=0であって、「Ga_(y’)In_(1-y’)N:0≦y’≦1」となるものであってよいことが理解できる。

(ウ)加えて、発光層にInGaN層を用いることが、本件特許の出願前に頒布された甲第2?5号証に記載されていることに照らしても(甲第2号証の記載「If the InGaN semiconductor compound is used as an active layer in the DH」(上記(1)イ(ウ))、甲第3号証の記載「The most efficient blue laser designs will call for strained InGaN QWs in the active region」(上記(1)ウ)、甲第4号証の第3図(上記(1)エ)からみてとれる「GaInN:O n型発光層20」、及び、甲第5号証の記載「膜厚0.1μmのノンドープInGaN活性層19」(上記(1)オ(ウ))参照)、甲1発明の「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N:0≦x’≦1,0≦y’≦1,但しx’=y’=1は含まない)から成る層」が、x’=0であって、「(Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N」が「In_(1-y’)Ga_(y’)N」であるものが開示されているといえる。
そして、上記「In_(1-y’)Ga_(y’)N(0≦y’≦1)」が「In_(X)Ga_(1-X)N(0<X<1)」であってよいことは明らかであるから、甲1発明は本件発明1の「n型窒化ガリウム系化合物半導体層とp型窒化ガリウム系化合物半導体層との間に、n型In_(X)Ga_(1-X)N(0<X<1)層を発光層として具備するダブルへテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の構成を備える点で一致すると認められる。

イ 上記アによれば、本件発明1と甲1発明とは
「n型窒化ガリウム系化合物半導体層とp型窒化ガリウム系化合物半導体層との間に、n型In_(X)Ga_(1-X)N(0<X<1)層を発光層として具備するダブルへテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の構成を備える点で一致し、「p型窒化ガリウム系化合物半導体層」が、本件発明では、「キャリア濃度の大きいp^(+)型GaN層と、p^(+)型GaN層よりもキャリア濃度の小さいp型Ga_(1-Z)Al_(Z)N(0<Z<1)層とからなる」(構成要件C-1及びC-2)のに対して、甲1発明では、このように構成されていない点(以下「相違点」という。)で相違するものと認められる。

ウ 相違点について
(ア)請求人は、
a 甲第1号証には、オーム性電極組成を容易にするため電極と接触する部分付近のキャリア濃度は高濃度にすることや、オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合することが開示されている旨(審判請求書11?12頁)、
b 甲第1号証には、p型層について、オーム性電極形成を容易にするため、高キャリア濃度実現が可能な結晶を金属電極との接触用に、キャリア濃度の小さいp型GaAlN層にさらに接合することが開示されている旨(審判請求書12頁)、
c オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶は、p型GaAlNクラッド層と電極との間に形成されるp型コンタクト層であって、GaNを実質的に意味している旨(審判請求書13?15頁、口頭審理陳述要領書10?12頁及び平成24年6月6日付けの上申書2?4頁)、
d キャリア濃度の大きいp型コンタクト層であるオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶をGaNとすることは、甲第2号証及び甲第6号証の記載から周知であった旨(審判請求書21?23頁)e 甲第5号証の記載から、本件特許出願時において、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、p型電極とのオーミック抵抗を下げるために、バンドギャップの狭い窒化ガリウム系化合物半導体をクラッド層と電極との間に形成することは周知であった旨(審判請求書23?25頁)、
f 甲第7?9号証の記載から、本件特許出願当時、ダブルヘテロ構造を有するIII-V族化合物半導体において、三元系のp型GaAlAsから成るクラッド層上に、電極と接合する二元系のp型GaAsから成るコンタクト層を用いることが周知であった旨(審判請求書25?29頁)、
g ヒ化ガリウム系で周知・慣用技術となっていたp型のGaAlAsクラッド層(三元系)に対してGaAsコンタクト層(二元系)を用いるというロジックを、甲第1号証の窒化ガリウム系に適用するくらいのことは、当業者にとっては何の困難性もなく、容易に想到することができたというべきである旨(審判請求書29?32頁)、
h p型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層上に形成するコンタクト層として、GaNを選択肢として挙げることは当業者にとっては容易に想到し得るものというべきである。そして、p型GaNのドーパントとしてMgを用いる点は、自明のことである。そうすると、コンタクト層の具体的組成として、「MgがドープされたGaN」とすることは当業者が容易に想到し得ることである旨(審判請求書33?34頁)、及び、
i もともとp型クラッド層の中の高キャリア濃度の部分と同じ役割を有する層を設けるのが高キャリア濃度層であるから、かかる層がクラッド層としての機能も有することは、当業者であれば容易に理解できる旨(口頭審理陳述要領書7?8頁)主張している。

(イ)甲1発明は、「二つのヘテロ接合を形成する場合は、禁制帯幅の比較的小さいn型の結晶」(上記ア(ア)で検討したとおり「発光層」に相当する)の両側に「各々禁制帯幅の大きいn型及びp型の結晶を接合し禁制帯幅の小さいn型の結晶を挟む構造」とするものであるから、「発光層」に接する「禁制帯幅の大きいp型の結晶」(以下「p型層」という。)を備える構成であって、「オーム性電極組成を容易にするため電極と接触する部分付近のキャリア濃度は高濃度にしても良く、又、特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合してもよい」ものであるといえる。
しかしながら、甲1発明では、「キャリア濃度」を「高濃度」にするのは「電極と接触する部分付近」であり、また、「高キャリア濃度実現が容易な結晶」を「金属との接触用に更に接合」するものであるところ、甲第1号証の上記(1)ア(カ)に記載され、上記(1)ア(ケ)の図1からみてとれるドープGaAlN層5(p層)の窓8(審決注 図1では7A)の部分に形成される金属電極6A、及び、甲第1号証の上記(1)ア(キ)に記載され、上記(1)ア(ケ)の図3からみてとれるMgドープGaAlN層20(p層)に対する電極21Aのいずれも、p層(p型層)の一部を覆うものであって、p型層全体を覆うものではない。
してみれば、甲1発明の電極の「電極と接触する部分付近」、あるいは、「金属との接触用に更に接合」する部分が、層からなるということはできないし、甲第1号証におけるような形状の金属電極6Aないし電極21Aの「電極と接触する部分付近」、あるいは、「金属との接触用に更に接合」する部分を層からなると解すべき根拠はみあたらない。
また、p型層に、金属電極とのオーム性電極形成を容易にするために接触する、高キャリア濃度実現が可能な結晶を、キャリア濃度の大きいp^(+)型GaN層とすべき根拠もみあたらない。
そうすると、上記(ア)a?iのとおり、請求人が主張しているように、p型層に、オーム性電極形成を容易にするため、高キャリア濃度実現が可能なGaN等の結晶を金属電極との接触用に、キャリア濃度の小さいp型GaAlN層にさらに接合することが周知であるかどうかにかかわらず、甲1発明の、「電極と接触する部分付近」や、「金属との接触用に更に接合」する部分をキャリア濃度の大きいp^(+)型GaN層からなるとする理由を見いだすことはできず、このようにすることが、当業者にとって想到容易であったとはいえない。
したがって、甲1発明は、「キャリア濃度の大きいp^(+)型GaN層と、p^(+)型GaN層よりもキャリア濃度の小さいp型Ga_(1-Z)Al_(Z)N(0<Z<1)層」(構成要件C-1及びC-2)からなるものではなく、また、請求人が示した周知技術によっても、本件発明1の構成要件C-1及びC-2の構成とすることが容易に想到できたとすることはできないから、甲第1号証に記載された発明についての、上記ウ(ア)の請求人の主張は採用できない。

エ 相違点について検討する。
上記ウ(イ)のとおり、甲1発明は、「p型窒化ガリウム系化合物半導体層」に関して、構成要件C-1及びC-2を備えるものではないため、本件発明1と甲1発明は同一の発明ではなく、また、上記(1)イ及びオないしケ(甲第2、5?9号証)の記載事項は、本件発明1のような構成要件C-1及びC-2の構成とすることを教示するものではないし、かかる構成とすることが、当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る証拠は、本件各証拠を通じてみても、見いだすことができない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記(3)のとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上、本件発明2ないし4が、甲第1号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第29条第1項第3号あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第123条第1項第2号に該当しない。
また、本件特許明細書の記載が、旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないものということはできないから、本件発明4についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当しない。
したがって、請求人が主張する理由によって、本件発明1ないし4についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-14 
結審通知日 2012-06-18 
審決日 2012-06-29 
出願番号 特願平5-157219
審決分類 P 1 113・ 537- Y (H01L)
P 1 113・ 113- Y (H01L)
P 1 113・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 博生杉山 輝和  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 江成 克己
松川 直樹
登録日 1998-05-29 
登録番号 特許第2785254号(P2785254)
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子  
代理人 黒田 健二  
代理人 言上 恵一  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 吉村 誠  
代理人 門松 慎治  
代理人 鮫島 睦  
代理人 奥西 祐之  
代理人 田村 啓  

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