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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1265614
審判番号 不服2007-30586  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-12 
確定日 2012-09-19 
事件の表示 平成10年特許願第530674号「羊毛脂」拒絶査定不服審判事件〔平成10年7月16日国際公開、WO98/30532、平成13年6月19日国内公表、特表2001-508060〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1998年1月14日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 1997年1月14日 イギリス(GB)〕を国際出願日とする出願であって、平成18年11月22日付けの拒絶理由の通知に対し、平成19年6月4日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたが、平成19年8月6日付けで拒絶査定がなされ、その後、平成19年11月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年12月12日付けで手続補正がなされ、平成22年7月2日付けの審尋に対し、平成22年9月17日付けで回答書の提出がなされ、
平成23年3月8日付けで審判合議体による拒絶の理由が通知されるとともに、同日付けの補正の却下の決定により平成19年12月12日付けの手続補正が却下され、これに対し、平成23年9月14日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、さらにその後、平成23年9月30日付けの審尋に対し、平成24年4月4日付けで回答書の提出がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?23に記載された特許を受けようとする発明は、平成23年9月14日付けの手続補正により補正された請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「羊毛脂酸またはその誘導体から18-メチルエイコサン酸(18-MEA)および/またはα-ヒドロキシ酸(AHA)を回収する方法であって、羊毛脂酸またはその誘導体を1?48時間、100゜?230℃に加熱して、エストライド種およびポリマー種を形成することと;前記加熱後、蒸留して蒸留物(D1)および残渣(R1)を得ることと;該蒸留物から18-MEAを回収し、および/または前記残渣からAHAを回収することとを具備した方法。」

3.審判合議体による拒絶の理由
平成23年3月8日付けの拒絶理由通知書(以下、「先の拒絶理由通知書」という。)に示した審判合議体による拒絶の理由は、
理由3として、『本願の請求項1?5、7?9及び18?22に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。』という理由と、
理由4として、『本願の請求項1?22に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?8に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』という理由を含むものである。

4.理由3?4について
(1)引用刊行物及びその記載事項
ア.刊行物1の記載事項
先の拒絶理由通知書において「刊行物1」として引用した「特開平6-234994号公報」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1、8及び15
「【請求項1】ラノリン脂肪酸及びラノリン脂肪酸の炭素数1?4の低級アルコールのエステルから選ばれる1種又は2種以上のラノリン脂肪酸類をホウ酸処理して該ラノリン脂肪酸類中に含有されるヒドロキシ脂肪酸成分をホウ酸エステルとし、次いで減圧蒸留して上記ヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分と非ヒドロキシ脂肪酸成分とを分離、精製することを特徴とするラノリン脂肪酸類の分離法。…
【請求項8】請求項1で得られるヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分を更に加水分解し、ヒドロキシ脂肪酸成分を得ることを特徴とするラノリン脂肪酸のヒドロキシ脂肪酸成分の分離法。…
【請求項15】請求項8で得られるヒドロキシ脂肪酸成分を減圧蒸留することにより、α-ヒドロキシ脂肪酸成分及びω-ヒドロキシ脂肪酸成分を得ることを特徴とするラノリン脂肪酸のα-ヒドロキシ脂肪酸成分及びω-ヒドロキシ脂肪酸成分の分離法。」

摘記1b:段落0002?0003及び0011
「羊毛の表面に分泌される羊毛脂を鹸化分解して得られるラノリン脂肪酸は、その約2/3が…非ヒドロキシ脂肪酸からなり、残りの約1/3がヒドロキシ脂肪酸で、…その典型的な組成を表1に示す。…
表1 成 分 含有率(重量%)
非ヒドロキシ酸 ノルマル 12.1
イソ 22.1
アンテイソ 26.3
α-ヒドロキシ酸 ノルマル 21.8
イソ 4.5
アンテイソ 0.8
ω-ヒドロキシ酸 ノルマル 3.0
イソ 0.8
アンテイソ 1.3
不飽和酸 2.1
ポリヒドロキシ酸 4.7
合 計 99.5 …
本発明者らは、上記目的より鋭意研究を重ねた結果、ラノリン脂肪酸類に含まれるヒドロキシ脂肪酸成分はホウ酸エステルに変換して減圧蒸留することによって非ヒドロキシ脂肪酸成分と分離できるという事実と、このホウ酸エステルは加水分解によってヒドロキシ脂肪酸成分に変換することができ、しかもこれは引き続く減圧蒸留によって精製されたα-ヒドロキシ脂肪酸とω-ヒドロキシ脂肪酸とに分離できるという事実とを見い出し、更に、分離された各脂肪酸成分を化粧料や外用薬に配合することにより、肌や髪を滑らかにして艶を与え、仕上げの伸びを良くし、使用感がよくなるという事実を見い出した。」

摘記1c:段落0033
「従来、ラノリン脂肪酸のなかに含まれていた不鹸化物はホウ酸エステルを調製する際に同時にエステル化され、そのため、続く減圧蒸留の際に揮発しがたくなるので、非ヒドロキシ脂肪酸画分から除去できるという効果もある。」

摘記1d:段落0055
「実施例6 500gのラノリン脂肪酸(水酸基価50.1)に18.4gのホウ酸(H_(3)BO_(3))を加え、減圧下、120℃で6時間反応させた。次に、この反応物383.5gを減圧蒸留(蒸留温度170℃、減圧度0.02トール)して、主留分として93.2g(回収率24.3重量%)の非ヒドロキシ脂肪酸成分を、残渣として290.3g(回収率75.7重量%)のヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分を得た。このヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分を加水分解してホウ酸を除去することによってヒドロキシ脂肪酸成分を得た。」

摘記1e:段落0078及び0080?0081
「上記実施例で得られた各成分の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー分析によって調べた結果を表2?表5に示す。…
【表3】

…【表4】



イ.刊行物2の記載事項
先の拒絶理由通知書において「刊行物2」として引用した「国際公開第96/17818号」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記2a:第6頁第11?30行
「AHAエステル…α-ヒドロキシ酸は、これらの非ヒドロキシ相当物よりも相対的に反応性であり、ラクチドのような分子間縮合物を形成する傾向がある。」

摘記2b:第15頁第13?16行
「制御された鹸化技術を介して得られるAHA濃縮物の分子蒸留により、広く応用するのに好ましい色の薄くにおいの少ない生成物が得られる。」

ウ.刊行物5の記載事項
先の拒絶理由通知書において「刊行物5」として引用した「特公昭61-41889号公報」には、次の記載がある。

摘記5a:第3欄第22行?第4欄第26行
「ラノリン中のヒドロキシ脂肪酸など…ヒドロキシ脂肪酸は、当然のことながら、分子内に水酸基とカルボキシル基を有する為、アルコールとのエステル化反応以外に分子間及び分子内のエステル化反応も容易に起り、目的とするエステルを得ることは必ずしも簡単ではない。」

エ.刊行物7の記載事項
先の拒絶理由通知書において「刊行物7」として引用した「米国特許第2721188号明細書」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記7a:第18欄第57?65行
「(D)R-CHOH-COOH + R’-CHOH-COOH →
R-CHOH-COO-CHR’-COOH + H_(2)O
そのエストライドを形成するためのα-ヒドロキシ酸の反応は、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、硫酸、塩化スルホン酸、ボロン酸、ホスホン酸及び同様なものを含む酸性触媒の存在下で触媒される。」

摘記7b:第19欄第41行?第20欄第5行
「エストライドを形成するための触媒反応は50?100℃の温度範囲、好ましくは60?90℃の温度範囲、において最も好都合に実施される。…
α-ヒドロキシ酸からエストライドを形成するための非触媒反応は、より高い温度条件を採用しなければならないという点を除き、触媒反応とほとんど同様な様式で作用する。α-ヒドロキシ酸及び/又はα-ヒドロキシ酸の混合物並びにそのエストライドは、前述の炭化水素共沸剤の約10?1000重量%と混合され、100?150℃の温度範囲、好ましくは115?135℃の範囲で、αヒドロキシ酸からエストライドへの完全転化についての理論量の水が留去されるされるまで還流される。」

オ.参考例Aの記載事項
平成23年9月30日付け審尋において「参考例A」として提示した「米国特許第5380894号明細書」には、和訳にして、次の記載がある。

摘記A1:第3欄第19?34行
「エストライドは、低沸点のモノマー画分(不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸)を除去し、エストライドを含む残渣画分を残すための蒸留によって更に精製することができ、例えば、クロマトグラフィー又は蒸留の反応条件によって、自在の量のダイマー酸を除去することもできる。…
上述のように、エストライドはさらなる反応に供することなく回収してもよいし、或いは、他の選択肢として、エストライドは脂肪酸とヒドロキシ脂肪酸の混合物を生成するために加水分解されてもよい。」

(2)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「ラノリン脂肪酸類をホウ酸処理して該ラノリン脂肪酸類中に含有されるヒドロキシ脂肪酸成分をホウ酸エステルとし、次いで減圧蒸留して上記ヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分と非ヒドロキシ脂肪酸成分とを分離、精製する…ラノリン脂肪酸類の分離法。…得られるヒドロキシ脂肪酸成分を減圧蒸留することにより、α-ヒドロキシ脂肪酸成分…を得ることを特徴とするラノリン脂肪酸のα-ヒドロキシ脂肪酸成分…の分離法。」との記載、摘記1dの「実施例6…ラノリン脂肪酸…に…ホウ酸…を加え、減圧下、120℃で6時間反応させた。次に、この反応物…を減圧蒸留(蒸留温度170℃、減圧度0.02トール)して、主留分として93.2g(回収率24.3重量%)の非ヒドロキシ脂肪酸成分を、残渣として290.3g(回収率75.7重量%)のヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分を得た。このヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分を加水分解してホウ酸を除去することによってヒドロキシ脂肪酸成分を得た。」との記載、及び摘記1bの「ラノリン脂肪酸類に含まれるヒドロキシ脂肪酸成分はホウ酸エステルに変換して減圧蒸留することによって非ヒドロキシ脂肪酸成分と分離できるという事実と、このホウ酸エステルは加水分解によってヒドロキシ脂肪酸成分に変換することができ、しかもこれは引き続く減圧蒸留によって精製されたα-ヒドロキシ脂肪酸とω-ヒドロキシ脂肪酸とに分離できる」との記載からみて、刊行物1には、
『ラノリン脂肪酸から非ヒドロキシ脂肪酸成分およびヒドロキシ脂肪酸成分を得る方法であって、ラノリン脂肪酸とホウ酸を120℃で6時間反応させて該ラノリン脂肪酸中に含有されるヒドロキシ脂肪酸成分をホウ酸エステルとし、次に、この反応物を減圧蒸留して、主留分としての非ヒドロキシ脂肪酸成分と、残渣としてのヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分を得て、このヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分を加水分解して、引き続く減圧蒸留によって精製されたα-ヒドロキシ脂肪酸成分を得る方法。』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ラノリン脂肪酸」は、摘記1bの「羊毛脂を鹸化分解して得られるラノリン脂肪酸」との記載、及び本願明細書(以下、記載箇所については、平成11年7月14日付けの特許法第184条の5第1項の規定による書面に添付された外国語書面の翻訳文の頁数行数で示す。)の第4頁第13行の「好ましい供給原料は、羊毛脂の鹸化から得られる羊毛脂酸である」との記載からみて、本願発明の「羊毛脂酸またはその誘導体」に相当し、
引用発明の「非ヒドロキシ脂肪酸成分」は、摘記1eの「実施例6 非ヒドロキシ脂肪酸成分」の「アンテイソC11?C31」の欄についての記載からみて、アンテイソC21非ヒドロキシ脂肪酸を含む混合物と認められるから、本願発明の「18-メチルエイコサン酸(18-MEA)」を含む混合物に相当し、
引用発明の「精製されたα-ヒドロキシ脂肪酸成分」は、摘記1eの「上記実施例で得られた各成分の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー分析によって調べた」との記載からみて、純粋な「α-ヒドロキシ脂肪酸成分」に分離して回収される場合をも想定しているものであるから、本願発明の「α-ヒドロキシ酸(AHA)」に相当し、
引用発明の「得る方法」、「減圧蒸留」、「主留分」及び「残渣」は、本願発明の「回収する方法」、「蒸留」、「蒸留物(D1)」及び「残渣(R1)」に相当し、
引用発明の「主留分としての非ヒドロキシ脂肪酸成分…を得て」及び「残渣としてのヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル成分…を加水分解して、引き続く減圧蒸留によって精製されたα-ヒドロキシ脂肪酸成分を得る」は、そのうちの前者については、主留分から『18-MEAを単離して回収』するものではなく、あくまで『18-MEAを含む混合物として回収』している点で本願発明と蓋し(けだし)相違する可能性があるものの、そのうちの後者については、残渣から『α-ヒドロキシ脂肪酸を精製して回収』しているものであるから、本願発明の「および/または」という発明特定事項にも鑑みると、本願発明の「該蒸留物から18-MEAを回収し、および/または前記残渣からAHAを回収する」に相当し、
引用発明の「120℃で6時間反応させて…ホウ酸エステルとし、次に、この反応物を減圧蒸留して」は、引用発明の「ホウ酸エステル」も、本願発明の「エストライド種およびポリマー種」も、エステルの一種であることから、本願発明と『1?48時間、100°?230℃に加熱して、エステル種を形成することと;前記加熱後、蒸留して』という点において共通する。
してみると、本願発明と引用発明は、『羊毛脂酸またはその誘導体から18-メチルエイコサン酸(18-MEA)および/またはα-ヒドロキシ酸(AHA)を回収する方法であって、羊毛脂酸またはその誘導体を1?48時間、100°?230℃に加熱して、エステル種を形成することと;前記加熱後、蒸留して蒸留物(D1)および残渣(R1)を得ることと;該蒸留物から18-MEAを回収し、および/または前記残渣からAHAを回収することとを具備した方法。』に関するものである点において一致し、
形成されるエステル種が、本願発明においては「エストライド種およびポリマー種」であるのに対して、引用発明においては「ヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル」である点においてのみ一応相違している。

(4)判断
上記相違点について検討する。

刊行物2には、α-ヒドロキシ酸が分子間縮合物を形成する傾向にあることが記載されており(摘記2a)、刊行物5には、ラノリン中のヒドロキシ脂肪酸が分子間のエステル化反応を容易に起こすことが記載されており(摘記5a)、刊行物7には、触媒の存在下で60?90℃の温度範囲で、触媒の不存在下で115?135℃の温度範囲で、α-ヒドロキシ酸からエストライドを形成する反応が最も好都合に実施されることが記載されているところ(摘記7b)、このような刊行物公知ないし周知の科学的事実を考慮するならば、
引用発明の『ラノリン脂肪酸…を120℃で6時間反応』させた段階においては、そのラノリン脂肪酸の中に含まれている「α-ヒドロキシ酸」が、分子間のエステル化反応を容易に起こし、その「エストライド種およびポリマー種」を含む様々な生成物が当然に得られているものと推認される。

してみると、引用発明において形成されるエステル種としては、その「ヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル」のみならず、その「エストライド種およびポリマー種」も含まれると認められるから、本願発明と引用発明とに実質的な差異があるとは認められない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

また、仮に本願発明が刊行物1に記載された発明ではないとしても、
摘記1cの「エステル化され、そのため、続く減圧蒸留の際に揮発しがたくなるので、非ヒドロキシ脂肪酸画分から除去できる」との記載、及び摘記A1の「エストライドは、低沸点のモノマー画分(不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸)を除去し、エストライドを含む残渣画分を残すための蒸留によって更に精製することができ」との記載からみて、
α-ヒドロキシ酸をエステル化したもの(刊行物1においては主に「ホウ酸エステル」であり、参考例Aにおいては「エストライド」である。)が、続く減圧蒸留の際に揮発しがたくなり、低沸点の脂肪酸から容易に分離・精製できるようになることは、本願優先権主張日前の技術水準において当業者にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識になっていたと認められ、
摘記2aの「α-ヒドロキシ酸は、これらの非ヒドロキシ相当物よりも相対的に反応性であり、ラクチドのような分子間縮合物を形成する傾向がある。」との記載、及び摘記5aの「ヒドロキシ脂肪酸は、当然のことながら、分子内に水酸基とカルボキシル基を有する為、アルコールとのエステル化反応以外に分子間及び分子内のエステル化反応も容易に起こり」との記載からみて、さらに必要ならば、摘記7aの「α-ヒドロキシ酸からエストライドを形成するための非触媒反応」との記載からみて、
ラノリン脂肪酸の中に含まれる「α-ヒドロキシ酸」が、分子間のエステル化反応を容易に起こして「エストライド種」等を形成することも、本願優先権主張日前の技術水準において当業者にとって「通常の知識」の範囲内の技術常識になっていたと認められるから、
引用発明の残渣画分となるエステルの種類を「ヒドロキシ脂肪酸のホウ酸エステル」から「エストライド種およびポリマー種」に変更することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことと認められる。
また、本願発明に格別予想外の顕著な効果があるとも認められない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び本願優先権主張日前の技術水準における技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)請求人の主張について
平成24年4月4日付けの回答書の「摘記(き)に対して…刊行物1の実施例6には、ラノリン脂肪酸はホウ酸の存在下であることが明確に述べられています。したがって、刊行物1の全てのその他の例と同様に、加熱段階の際に、実際に生じる反応は、脂肪酸の分子間エステル化というよりも、むしろヒドロキシ脂肪酸とホウ酸との間で生じると考えられます。」との主張について、
同回答書の「摘記(お)に対して…エストライドは、潜在的な複数の生成物の一つとして、分子間エステル化により形成されると考えられます。…分子間エステル化反応から、様々な生成物が得られています。」との釈明をも参酌するに、
刊行物1の実施例6の具体例においては、分子間エステル化により様々な生成物が得られていることが自明であるから、ヒドロキシ脂肪酸とホウ酸との間で生じるエステルが主として形成される以外に、エストライド種およびポリマー種のエステルも同時に形成されているものと推認せざるを得ない。
また、刊行物1の実施例6の具体例においては、ラノリン脂肪酸を、120℃に加熱し、この加熱は6時間維持されており、本願明細書の第4頁第23?28行の「本発明の方法において、羊毛脂酸(または誘導体)供給原料は、100℃?230℃…に加熱される。この加熱は、…最も好ましくは5?10時間維持される。…この段階で触媒を使用してもよいが、この反応は触媒なしで充分に進むことを我々は発見した。」との記載にある反応条件を満たしているから、エストライド種およびポリマー種のエステルも形成されているものと推認せざるを得ない。
したがって、上記摘記(き)に対する主張によっては、本願発明に新規性ないし進歩性があると認めるに至らない。

また、平成24年4月4日付けの回答書の「摘記(く)に対して…引用された文献は、酸の沸点を変更し、蒸留工程を行わせる方法に言及しています。沸点を変更するこれらの異なる方法は、触媒(例えば、周知例Aのカラム1の64から65行目における酸の触媒反応)および/または共反応物(例えば、刊行物1のホウ酸)を使用して、高い沸点で反応生成物を生成しています。しかしながら、本願発明では、請求項1に記載される条件下で羊毛脂酸を単に加熱することにより、容易に蒸留できる反応混合物が得られ、その反応混合物から所望の生成物を得ることができます。」との主張について、
本願発明の発明特定事項は、触媒および/または共反応物を使用する場合を除外するのではなく、引用発明の120℃という反応温度は、本願発明の100?230℃に加熱という温度範囲に包含されるものであるから、上記摘記(く)に対する主張によっては、本願発明に新規性ないし進歩性があると認めるに至らない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許を受けることができないものである。
また、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び本願優先権主張日前の技術水準における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-18 
結審通知日 2012-04-24 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願平10-530674
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C07C)
P 1 8・ 121- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 東 裕子
木村 敏康
発明の名称 羊毛脂  
代理人 河野 哲  
代理人 福原 淑弘  
代理人 風間 鉄也  
代理人 峰 隆司  
代理人 橋本 良郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 白根 俊郎  
代理人 中村 誠  
代理人 野河 信久  
代理人 村松 貞男  

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