• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1265658
審判番号 不服2011-8122  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-18 
確定日 2012-11-08 
事件の表示 特願2008-259484「オーディオデータ記録再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月12日出願公開,特開2009- 32394〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は,平成20年10月6日に,平成12年10月18日に出願された特願2000-317728号の明細書及び図面に記載された発明の一部を特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願としたものであって,平成22年8月23日付け拒絶の理由に対し,同年11月1日に手続補正がなされたが,平成23年1月11日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされたものであり,これに対し,同年4月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
この出願の平成22年11月1日付けで補正された特許請求の範囲に記載された請求項1の発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「複数のトラックで構成されるオーディオデータを編集可能なオーディオデータ記録再生装置において,
複数の音データを記憶する音データ記憶手段と,
前記複数のトラックの各トラック毎に,それぞれが前記音データ記憶手段に記憶されている何れか1の音データから切出す部分音データの範囲を示す切出範囲データおよび該部分音データの再生タイミングを示す再生タイミングデータにより規定される,複数のリージョンの連鎖で構成された仮想トラックを複数記憶可能にするとともに,前記複数のトラックの各トラック毎に現在選択されている1の仮想トラックを示す選択データを記憶するトラックデータ記憶手段と,
前記現在選択されている仮想トラックの前記複数のリージョンのうち少なくとも1つのリージョンに関して,該リージョンの部分音データの変更,追加ないし削除を指示する編集指示に応じて,該リージョンを規定する前記切出範囲データないし再生タイミングデータを編集し,該編集されたリージョンを含む仮想トラックを編集前の仮想トラックとは独立した新たな仮想トラックとして前記トラックデータ記憶手段に記憶するとともに,前記トラックデータ記憶手段に記憶された選択データを当該新たな仮想トラックを示す選択データに更新する編集手段と,
前記複数のトラックの各トラック毎に,前記選択データが示す仮想トラックを構成する前記連鎖された複数のリージョン各々を規定する前記切出範囲データおよび再生タイミングデータに従って,前記音データ記憶手段から前記切出範囲データの示す切出範囲の部分音データを前記再生タイミングデータの示す再生タイミングで読み出して,前記連鎖された複数のリージョンをそれぞれ再生するトラック再生手段と,
前記複数のトラックのうちの1のトラックについてのアンドゥの指示に応じて,前記トラックデータ記憶手段に記憶された当該トラックの前記選択データを,前記編集前の仮想トラックを示す選択データに更新するアンドゥ手段と,
を備えたことを特徴とするオーディオデータ記録再生装置。」

第3 刊行物の記載事項
1 文献1
この出願の出願日(特許法第44条第2項の規定により平成12年10月18日とみなされる。以下同じ。)前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由で引用された特開平6-275051号公報(以下,「文献1」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付したものである。
(1) 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,複数の音声ソースを使用した音声編集装置,特に音声ソースを編集するために前もって音声ソースを取り込む作業を独立に行うことなく音声の編集を可能にした非破壊編集機能を有する音声編集装置に関する。
【0002】
【従来の技術】音声などの編集を行う編集装置は,周知のように少なくとも編集用の素材となるソースの音声を再生する再生機(プレーヤ)と,再生された音声を取り込むため音声の特定区間(編集区間)を切り出し複数のソースを記録する記録機(レコーダ)とが必要である。
【0003】編集用プレーヤは使用するソースに応じて複数個用意するか,単一のプレーヤを共用し,ソースを選択しながら編集を実行する。編集用レコーダとしてはその記録媒体としてテープを使用したり,ハードディスクHDを使用したりするが,記録容量,非破壊編集などを考慮すればハードディスクを使用したレコーダを使用するのが好ましい。
【0004】以下説明する例は,ハードディスクを使用したレコーダについて説明する。
【0005】レコーダの記録媒体としてハードディスクを使用した音声編集装置にあって,従来では図7のように編集素材となる複数のソース(図ではソース1?ソース3)を用意し,夫々については音声素材10A,10B,10Cの各編集点(イン点及びアウト点)が定められているものとする。
【0006】次に,図8に示すようにソース1についてその音声素材10Aの音声がハードディスクに取り込まれ(アップロードされ),以下順にソース2とソース3の各音声素材10B,10Cがハードディスクにそれぞれアップロードされる。ハードディスクにアップロードされるたびに編集用CPU(図示はしない)内ではファイルが自動生成され,夫々別々のファイルに上述した音声素材10A,10B,10Cが格納される。
【0007】全ての音声素材についてのアップロードが終了したなら,次に図8に示すように自動作成されたファイル1?3を用いて編集作業が行なわれる。この編集のためにユーザが管理できるファイル(ミュージックファイル)を設定し,このユーザ管理ファイルが時間軸(タイムコード:00H00M00S00F)を基準にして管理される。編集作業が終了すると図9のように新たな音声素材によって組み立てられたミュージックソースができ上がる。」

(2) 「【0014】
【作用】ディスク16上ではデータはファイル単位で取り扱われるので,編集結果である音声素材を格納するファイルとしてユーザ管理ファイルを定義する。このユーザ管理ファイルのデータは,タイムコードをアドレスとしてリード,ライトされる。
【0015】切り出すべき音声素材の編集点を定め,この編集点に対応したタイムコードを指定すると,この音声素材がファイルとしてディスク上にタイムコードと共にストアされる。これを繰り返すことによって図3のような編集リストが作成される。編集リストがそのままユーザ管理ファイルとなり,1つのミュージックファイルとなる。
【0016】これら音声素材を組み立てて新たなソースを作成するには,前のタイムコードをそのまま使用したり,改めて新しいタイムコードを指定することによって行われる。編集はタイムコードの指定(変更,追加など)するだけであるからいわゆる非破壊編集となる。
【0017】これによって音声素材のディスク上への取り込みと同時に編集作業も同時に実行されることになり,編集を行うための前処理である音声素材のアップロード工程を省くことができる。
【0018】
【実施例】続いて,この発明に係る音声編集装置の一例をハードディスクをレコーダとするものに適用した場合について,図面を参照して詳細に説明する。
【0019】図1はこの発明に係る音声編集装置10の具体例であって,編集用プレーヤ10Aと編集用レコーダ10Bを有する。編集用プレーヤ10Aは単一のプレーヤでもよければ図のように複数のプレーヤ11a?11nを用いたものでもよい。コンパクトディスク(CD),ミニディスク(MD),ディジタルオーディオテープレコーダ(DAT)など異なるプレーヤを利用することができる。
【0020】夫々のプレーヤ11a?11nから通常異なった音声素材が再生される。これら音声素材は編集用レコーダ10Bに取り込まれて(アップロードされて),編集用デコーダ15に設けられた内蔵の記録媒体16に格納される。記録媒体16としては時間軸(タイムコード)の管理が容易で,記録容量が大きく非破壊編集Nが容易なハードディスクHDなどが使用される。
【0021】17は編集用プレーヤ10Aと編集用レコーダ10Bの制御を司る制御部としてのCPUであって,この例ではソースの選択,音声素材の切り出し点である編集点の決定,ハードディスク16に対するタイムコードの設定などの編集作業がキーボード18からの指令に基づいて実行される。編集作業の設定内容等についてはモニタ19上に表示される。20は編集前の音声素材や編集後の音声を確認するためのスピーカである。
【0022】続いて,この音声編集装置10を使用した編集動作を説明するが,編集すべき音声素材(ソース)としては図2に示すように3つのソースを例示する。それぞれの音声素材については切り出すべき編集点(イン点とアウト点)が予め判っているものとする。10A,10B,10Cがこれらの音声素材を示す。
【0023】ディスク16上ではデータはファイル単位で取り扱われるので,編集用レコーダ10Bにおける編集結果をストアするファイルとしてはユーザが管理できるユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)を用意する。ファイル中のデータはタイムコードをアドレスとして管理されるので,データをディスク上に記録する場合にはタイムコード(時間(H),分(M),秒(S),フレーム(F))を指定する。
【0024】このタイムコードは厳密な編集点を決めるタイムコードであってもよいが,通常は再編集などが行われる場合が多いので,ファイルを特定するための粗い時間軸管理情報としてタイムコードが指定される。
【0025】そして,図3のようにユーザ管理ファイル上で決めた(a),(b),(c)のそれぞれのポイントに音声素材10A,10B,10Cを置くような編集が行なわれる。例えばユーザ管理ファイル上の(a)点に10Aという音声素材を置くような編集を行なうには,編集用プレーヤ1をアクセスして(a)点でのタイムコードを指定する。指定されたこのタイムコードを基準に音声素材10Aのデータがディスク16上にファイル1としてストアされ,同時に図3に示すような編集リストが自動的に作成される。
【0026】(b),(c)についても同様にファイル2,ファイル3として,(b)点,(c)点として指定されたタイムコードに対して音声素材がストアされ,そして同様な編集リストがその都度作成される。
【0027】したがって,図3に示すユーザ管理ファイルに対してタイムコードを指定することによってそのタイムコードに対する音声素材が次々につながれて新しい連続した音声が再生される(図4参照)。
【0028】タイムコードの指定を変更したり,削除したり追加したりすることによって,音声素材の移動,コピー,削除等の編集作業を実行できるから,ディスク16上のデータを破壊することなくこの編集作業を行なうことができる。
【0029】図5は以上の編集動作をフローチャート化したもので,音声素材の決定,編集点の決定が行なわれたのちは(ステップ31),ディスク16上にユーザ管理ファイル(編集ファイル)を定義し,指定するタイムコードによってデータの管理を行ないつつ編集作業が行なわれる(ステップ32)。この処理が全ての音声素材について行なわれる(ステップ33,34)。
【0030】図6は音声編集装置10に設けられたモニタ19上の表示例を示す。この例では表示画面50が編集用プレーヤ10A側のモードを表示する領域51と,編集用レコーダ10B側のモードを表示する領域52と音声レベル設定領域53とに分かれている。
【0031】プレーヤ側モード表示領域51にあって,領域60にはプレーヤの種類が表示され,領域61には使用しているプレーヤの再生時間がタイムコードとして表示される。領域62にはプレーヤ10Aに内蔵されたイン点付近の音声素材をメモリするメモリ手段(図示はしない)へのデータ格納状態(斜線図示)がバーグラフ的に表示される。同様に,領域63にはアウト点付近の音声素材をメモリするメモリ手段(図示はしない)へのデータ格納状態(斜線図示)がバーグラフ的に表示される。
【0032】レコーダ側モード表示領域52にあって,領域54にはプレーヤの種類が表示され,領域56には使用しているレコーダ10Bの記録時間がタイムコードとして表示される。
【0033】領域55は2つのチャネルの音声素材を用いてクロスフェード処理などを行うときに使用される信号のエンベロープ表示領域であって,チャネル1とチャネル2のクロスフェード点を確認するときなどに便利である。破線矢印59は実際の再生時点を示すためのものである。この再生時点が領域56にタイムコードとして表示される。
【0034】57は予め決められたイン点を示す表示領域であり,58は同じくアウト点を示す表示領域である。レベル設定の表示領域53にあってはチャネル1と2において調整されたレベル状態が短かな黒バーで表示され,クロスフェード後のチャネルレベルはM領域に同じく短かな黒バーで表示される。
【0035】このように編集画面50によってプレーヤ10A側とレコーダ10B側のそれぞれの動作モードや再生時間などを管理できる。
【0036】
【発明の効果】以上説明したようにこの発明では音声素材をアップロードすると同時に必要なデータをディスクにファイルとしてストアするような同時編集作業であるため,特に音声素材を取り込む時間を必要とせず,非常に効率的な編集ができる特徴を有する。
【0037】素材編集用の媒体としてハードディスクを使用する場合には,非破壊編集が可能であり,またタイムコードを基準にしてデータを管理できるので音声素材の移動,コピー,削除などを自由に行なうことができ,多様な編集を実現できる。」

以上の記載及び図面の記載から,文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「音声素材及び編集点を決定し,当該音声素材を編集可能な,タイムコードの指定(変更,追加など)をするだけである非破壊編集機能を有する音声編集装置であって,
少なくとも編集用の素材となるソースの音声を再生する再生機(プレーヤ)と,再生された音声の音声を取り込むため音声の特定区間(編集区間)を切り出し複数のソースを記録する記録機(レコーダ)とを有し,
前記レコーダの記録媒体として,ハードディスクを備え,
編集結果をストアするファイルとして,タイムコードを基準に管理され,ユーザが管理できるユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)を有し,
前記ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)の複数の編集点のそれぞれのポイントに前記ソースに記憶されている複数の音声素材を置くような編集をする場合,音声素材の切り出すべき編集点(イン点とアウト点)でのタイムコードを指定すると,この音声素材がファイルとしてハードディスク上にタイムコードと共にストアされ,これを繰り返すことにより,編集リストからなるユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)が生成格納され,
タイムコードの指定を変更したり,削除したり追加したりすることによって,音声素材の移動,コピー,削除等の編集作業を実行でき,
ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)に対してタイムコードを指定することによってそのタイムコードに対する音声素材が次々につながれて連続した音声が再生される
音声編集装置。」

2 文献2
この出願の出願日前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由で引用された特開平10-293989号公報(以下,「文献2」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付したものである。
(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ミニディスク装置の編集作業における取り消し(アンドゥ)・再実行(リドゥ)処理に関するものである。
【0002】
【従来の技術】音楽信号等のデジタルオーディオデータに高能率圧縮符号化処理を施し,圧縮されたデジタルデータを記録した記録媒体としてミニディスク(MD:Mini Disk)が普及している。」

(2) 「【0014】図10は,記録可能MDの記録データの構成例を示す模式図である。例えば,記録可能MDでは,図10に示すように,その内周の所定の領域にリードイン領域が設けられ,最外周側にリードアウト領域が設けられている,そして,このリードイン領域とリードアウト領域の間に,標準データ(標準圧縮データ(ATRACデータ))記憶領域,すなわちユーザが所定のデータを記録可能な領域が設けられており,この標準データ記録領域の最内周側に,標準データ用の管理情報が記録される管理領域,すなわちユーザTOC(UTOC)領域が設けられ,そこにユーザが必要とするTOCデータを随時記録することができるようになされている。なお,このUTOC領域には,通常のミニディスクの場合,記録されている曲番のアドレス等が記録される。
【0015】より詳細には,UTOC領域には,3クラスタ繰り返して所定の内容が記録される。UTOC領域に記録されている内容は,セクタ0がATRACにより圧縮された各データトラックのアドレス情報,セクタ1がアルファベット(ASCIIコード)による各トラックネーム(曲名),セクタ2が各トラックの録音日時,セクタ4がISO-8859-1またはシフトJISによる各トラックネーム(曲名)というようになっており,記録可能MDでは,録音時,標準データ(圧縮データ)用の管理情報(標準データ(圧縮データ)の記録がなされたトラックのアドレス情報)をセクタ0に記録し,再生時は,この管理情報(アドレス情報)に基づいてデータの検索,再生が行われる。
【0016】また,ミニディスク装置におけるミニディスクに記録したデジタルオーディオデータの編集作業においては,デジタルオーディオデータ自体に変更は加えず,前述したUTOCのポインタ又はアドレスのデータを書き換えるだけで容易に行うことができる。標準的な編集作業としては,指定した曲を消去する消去(ERASE),指定した場所から2つに分割する分割(DIVIDE),連続した2曲をつなげて1曲にまとめる結合(COMBINE),指定した曲を指定した場所に移動して曲順を変える移動(MOVE)等がある。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】前述した編集作業において,ユーザが編集の出来上がりが気に入らず,もう一度やり直したい場合,UTOC領域のデータのバックアップを取っておき,バックアップのデータを利用して編集作業の取り消し(アンドゥ)又は再実行(リドゥ)等を行うことができる。
【0018】しかし,前述した編集作業においてアンドゥを行う場合には,UTOC領域のそれぞれのセクタ0,1,2,4と同じサイズのメモリ領域が,セクタ数分必要となる。また,前述した編集作業におけるリドゥは,少なくともアンドゥを1回行わなければ実行できないため,リドゥを行う場合には,UTOC領域のそれぞれのセクタ0,1,2,4と同じサイズのメモリ領域が,少なくとも2個以上必要となり,メモリの数によりアンドゥ又はリドゥを実行できる回数が決まる。」

第4 対比及び判断
1 対比
(1) 引用発明の「音声素材を編集可能」は本願発明の「オーディオデータを編集可能」に相当し,引用発明の「再生機」と「記録機」を有する「音声編集装置」は,本願発明の「記録再生装置」に相当する。
そして,引用発明の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」によって再生されるものは,「図3に示すユーザ管理ファイルに対してタイムコードを指定することによってそのタイムコードに対する音声素材が次々につながれて新しい連続した音声が再生される(図4参照)」(段落0027参照。)という記載から,「連続した音声」は,コンパクトカセットテープやコンパクトディスク(CD)など周知の記録媒体のトラックと同様の形態となっているから,引用発明において「編集可能」な「音声素材」は,本願発明の「トラックで構成されるオーディオデータ」同様,「トラックで構成」されたものということができる。
よって,引用発明と本願発明は,「トラックで構成されるオーディオデータを編集可能なオーディオデータ記録再生装置」である点で一致する。

(2) 引用発明は「レコーダの記録媒体として,ハードディスクを備え」ており,「複数の音声素材」「がファイルとしてハードディスク上にタイムコードと共にストアされ」るものであるから,引用発明は,本願発明の「複数の音データを記憶する音データ記憶手段」を備えている。

(3) 引用発明の「編集結果をストアするファイルとして,タイムコードを基準に管理され,ユーザが管理できるユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」は(1) で検討したように本願発明の「トラック」を形成するものであり,引用発明の「ストア」及び「格納」は本願発明の「記憶」に相当するから,引用発明の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」は,本願発明の「トラックデータ」に相当する。
そして,引用発明の「音声素材の切り出すべき編集点(イン点とアウト点)」が本願発明の「音データの範囲」に相当し,引用発明の「編集点の」「ポイント」が本願発明の「音データの再生タイミング」に相当し,引用発明の「切り出」された「音声素材」が本願発明の「部分音データ」に相当する。
すると,引用発明は,本願発明の「何れか1の音データから切出す部分音データの範囲を示す切出範囲データおよび該部分音データの再生タイミングを示す再生タイミングデータにより規定される」に相当するものを「タイムコードを基準に」「複数」もつことで,引用発明の「編集リストからなるユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」を生成するものといえるから,引用発明の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」は,本願発明の「複数のリージョンの連鎖で構成された」「トラックデータ」に相当する。
よって,引用発明は,本願発明の「前記音データ記憶手段に記憶されている何れか1の音データから切出す部分音データの範囲を示す切出範囲データおよび該部分音データの再生タイミングを示す再生タイミングデータにより規定される,複数のリージョンの連鎖で構成された」「トラックを」「記憶可能にする」「トラックデータ記憶手段」を備えている。

(4) 引用発明の「音声素材及び編集点を決定」すること,「複数の編集点のそれぞれのポイントに前記ソースに記憶されている複数の音声素材を置く」こと,「タイムコードの指定を変更したり,削除したり追加したりすることによって,音声素材の移動,コピー,削除等」をすることによる「編集」は,本願発明の「少なくとも1つのリージョンに関して,該リージョンの部分音データの変更,追加ないし削除を指示する編集指示に応じて,該リージョンを規定する前記切出範囲データないし再生タイミングデータを編集」することに相当する。
そして,引用発明はこれら編集の結果も「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」に「格納」されるから,本願発明の「該編集されたリージョンを含む」「トラックを」「前記トラックデータ記憶手段に記憶」に相当することがなされている。
なお,引用発明は,「音声素材の切り出すべき編集点(イン点とアウト点)」の指定にあたり「このタイムコードは厳密な編集点を決めるタイムコードであってもよいが,通常は再編集などが行われる場合が多いので,ファイルを特定するための粗い時間軸管理情報としてタイムコードが指定される」(摘記箇所「第3」1(2) の段落0024参照。)というものであり,その「再編集」にあたり,「粗い時間軸管理情報」が「厳密な編集点」にされる変更がなされることが明らかであるから,本願発明の「該リージョンを規定する前記切出範囲データ」の「編集」に相当する編集もなされている。
よって,引用発明は,本願発明の「トラックの前記複数のリージョンのうち少なくとも1つのリージョンに関して,該リージョンの部分音データの変更,追加ないし削除を指示する編集指示に応じて,該リージョンを規定する前記切出範囲データないし再生タイミングデータを編集し,該編集されたリージョンを含む」「トラックを」「前記トラックデータ記憶手段に記憶する」「編集手段」を備えている。

(5) 引用発明の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)に対してタイムコードを指定することによってそのタイムコードに対する音声素材が次々につながれて連続した音声が再生される」ことは,引用発明が「タイムコードの指定(変更,追加など)をするだけである非破壊編集」をするものであり,音声素材は「ファイルとしてハードディスク上にタイムコードと共にストアされ」ているものであることから,「音声素材が次々につながれて連続した音声が再生」は,「ファイルとしてハードディスク上に」「ストアされ」たものを,順次再生するものであることは明らかである。
すると,引用発明の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)に対してタイムコードを指定することによってそのタイムコードに対する音声素材が次々につながれて連続した音声が再生される」ことは,本願発明の「トラックを構成する前記連鎖された複数のリージョン各々を規定する前記切出範囲データおよび再生タイミングデータに従って,前記音データ記憶手段から前記切出範囲データの示す切出範囲の部分音データを前記再生タイミングデータの示す再生タイミングで読み出して,前記連鎖された複数のリージョンをそれぞれ再生する」ことに相当する。
よって,引用発明は,本願発明の「トラックを構成する前記連鎖された複数のリージョン各々を規定する前記切出範囲データおよび再生タイミングデータに従って,前記音データ記憶手段から前記切出範囲データの示す切出範囲の部分音データを前記再生タイミングデータの示す再生タイミングで読み出して,前記連鎖された複数のリージョンをそれぞれ再生するトラック再生手段」を備えている。

2 一致点及び相違点
以上より,本願発明と引用発明は以下の点で一致する。

「トラックで構成されるオーディオデータを編集可能なオーディオデータ記録再生装置において,
複数の音データを記憶する音データ記憶手段と,
それぞれが前記音データ記憶手段に記憶されている何れか1の音データから切出す部分音データの範囲を示す切出範囲データおよび該部分音データの再生タイミングを示す再生タイミングデータにより規定される,複数のリージョンの連鎖で構成されたトラックを記憶可能にするトラックデータ記憶手段と,
トラックの前記複数のリージョンのうち少なくとも1つのリージョンに関して,該リージョンの部分音データの変更,追加ないし削除を指示する編集指示に応じて,該リージョンを規定する前記切出範囲データないし再生タイミングデータを編集し,該編集されたリージョンを含むトラックを前記トラックデータ記憶手段に記憶する編集手段と,
トラックを構成する前記連鎖された複数のリージョン各々を規定する前記切出範囲データおよび再生タイミングデータに従って,前記音データ記憶手段から前記切出範囲データの示す切出範囲の部分音データを前記再生タイミングデータの示す再生タイミングで読み出して,前記連鎖された複数のリージョンをそれぞれ再生するトラック再生手段と,
を備えたことを特徴とするオーディオデータ記録再生装置。」

そして,以下の各点で相違する。

相違点1 本願発明は「複数のトラックで構成されるオーディオデータを編集可能」であり,「複数のトラックの各トラック毎に」「トラックデータ」の「記憶」がなされ,「複数のトラックの各トラック毎に」「トラック」の「再生」が行われるのに対し,引用発明の「音声編集装置」は図6を参照すると「CH1」及び「CH2」のような記載がみられるものの,「複数のトラックで構成されるオーディオデータ」を扱えるかどうかは不明である点。

相違点2 本願発明は「前記複数のトラックのうちの1のトラックについてのアンドゥの指示に応じて,前記トラックデータ記憶手段に記憶された当該トラックの前記選択データを,前記編集前の仮想トラックを示す選択データに更新するアンドゥ手段」を有し,関連して,「トラックデータ記憶手段」は「仮想トラックを複数記憶可能にするとともに,前記複数のトラックの各トラック毎に現在選択されている1の仮想トラックを示す選択データを記憶」するようにされ,「編集手段」は「前記現在選択されている仮想トラック」をその編集対象とし,「仮想トラックを編集前の仮想トラックとは独立した新たな仮想トラックとして前記トラックデータ記憶手段に記憶するとともに,前記トラックデータ記憶手段に記憶された選択データを当該新たな仮想トラックを示す選択データに更新する」ようにされ,「トラック再生手段」は「前記選択データが示す仮想トラックを」再生するようにされているのに対し,引用発明はアンドゥ手段を有していない点。

3 対比及び判断
(1) 相違点1について
この出願の出願前,複数のトラックのオーディオデータそれぞれについて編集を可能とするように構成された装置は,この出願の出願日前に頒布された刊行物である「特集 初めての宅録?デジタルMTRでデモ・テープ作り」(サウンド&レコーディングマガジン,平成11年9月1日発行,第18巻第9号,56-68ページ。)(以下,「周知例」という。)に,複数の製品が列挙されている程度に周知のものであるから,引用発明のものについて「複数のトラックで構成されるオーディオデータ」を扱えるようにすることは,当業者であれば適宜なし得ることである。

(2) 相違点2について
文献2には,音楽信号等のデジタルオーディオデータを記録したミニディスク装置の「編集作業における取り消し(アンドゥ)・再実行(リドゥ)処理」(摘記「第3」2(1) 参照。)について,「UTOC領域のデータのバックアップを取っておき,バックアップのデータを利用して編集作業の取り消し(アンドゥ)又は再実行(リドゥ)等を行うことができる」(摘記「第3」2(2) の段落0017参照。)ことが記載されている。
また,文献2には「記録可能MDでは,録音時,標準データ(圧縮データ)用の管理情報(標準データ(圧縮データ)の記録がなされたトラックのアドレス情報)をセクタ0に記録し,再生時は,この管理情報(アドレス情報)に基づいてデータの検索,再生が行われる。
また,ミニディスク装置におけるミニディスクに記録したデジタルオーディオデータの編集作業においては,デジタルオーディオデータ自体に変更は加えず,前述したUTOCのポインタ又はアドレスのデータを書き換えるだけで容易に行うことができる」(摘記「第3」2(2) の段落0015から0016参照。)こと,また,「メモリの数によりアンドゥ又はリドゥを実行できる回数が決まる」(摘記「第3」2(2) の段落0018参照。)ことも記載されている。
そして,引用発明と文献2記載の技術は,音声素材を記録したものについて非破壊編集をする装置である点で共通し,また,引用発明の「タイムコードを基準に管理され,ユーザが管理できる」「編集リストからなるユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」と,文献2の「デジタルオーディオデータ自体に変更は加えず,前述したUTOCのポインタ又はアドレスのデータを書き換えるだけ」の「ユーザTOC(UTOC)」は,引用発明でいう「編集リストからなるユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」である点で共通するものである。
よって,引用発明の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」が表すトラック情報を,文献2記載のアンドゥ技術により,バックアップをすることで,適宜の回数のアンドゥをするように構成することは,当業者であれば容易になし得ることであり,「仮想トラック」及び「現在選択されている1の仮想トラックを示す選択データ」も,引用発明の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」が表すトラック情報を文献2記載の技術によりバックアップすることにより,現在の編集又は再生対象の「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」が表す有効なトラック情報と,バックアップされている「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」が表す現在の編集又は再生対象とはならないトラック情報を,単一であるべきトラック情報が複数存在してしまうことから,その複数の存在を仮想のものと定め,該仮想のものから編集又は再生の対象として選択されたものをデータにより区別しようとした程度にすぎず,当業者であれば適宜定義し得る程度の事項を示しているにすぎない。

なお,この出願の出願日前,引用発明と同様のオーディオデータを編集可能とするように構成された装置に,やり直しのためのアンドゥ機能が設けられていることは,前記「周知例」に「編集作業の結果が気に入らない場合,パソコンのソフトと同様にアンドゥ(UNDO)をすればその操作を取り消して,元の状態に簡単に戻せる機能が用意されている機種もあります。」(第58ページ中欄第12行から第15行),「また編集結果に満足できなかったときに便利なのが“UNDO/REDO”機能だ。これはD8が編集前の状態を記憶していて,UNDOキーを押すと事前の状態に戻してくれる機能のことで,REDOはUNDOの取り消し。」(第63ページ中欄の本文第21行から第25行),「さらに,最大999レベルまでのアンドゥ」(第64ページ3段組の右欄第2行から第3行)という記載にみられるように一般的であり,引用発明に文献2に記載されたアンドゥ技術を適用することそれ自体に,特段,技術的な障壁があるとは認められない。

また,「仮想トラック」及び「選択データ」については前記のように判断したが,同じく前記「周知例」(第58ページ図4のうち「TYPE1」及び「●仮想トラック」の項参照。)に記載があるように,引用発明と同様のオーディオデータを編集可能とするように構成された装置では,1のトラックに対し複数の異なるトラックデータを保管することができるような「仮想トラック」が周知となっており,引用発明に文献2の技術を適用したことで複数のバックアップされたものが存在することとなる「ユーザ管理ファイル(ミュージックファイル)」が表すトラック情報について,先に存在していた周知の「仮想トラック」と同様の手法をもって管理しようとする程度のことに,困難があるともいえない。

(3) そして,引用発明に文献2記載の発明及び周知技術を適用することで,格別顕著な効果が生じるとは認められない。

4 小括
以上検討したように,本願発明は,引用発明,文献2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のように,本願発明は,引用発明,文献2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項について論及するまでもなく,この出願は,原査定の拒絶の理由により拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-04 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-24 
出願番号 特願2008-259484(P2008-259484)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 大介  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 齊藤 健一
関谷 隆一
発明の名称 オーディオデータ記録再生装置  
代理人 瀧野 文雄  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 松村 貞男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ