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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1265660
審判番号 不服2011-11752  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-02 
確定日 2012-11-08 
事件の表示 特願2004-526227「無線通信システムにおける搬送波周波数オフセットの推定」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日国際公開、WO2004/014008、平成18年 6月15日国内公表、特表2006-516071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、2003年7月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2002年8月2日、2003年7月22日 米国)に国際出願したものであって、原審において平成23年1月31日付けで拒絶査定となり、これに対し同年6月2日に審判請求がなされたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項13に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、平成22年8月23日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項13に記載された以下のとおりのものと認める。

「無線通信システムで搬送波周波数オフセット(CFO)を推定するための方法であって、
シンボルの少なくとも1つが基準シンボルである複数のシンボルを含むパスバンド信号を受信するステップと、
前記パスバンド信号をベースバンド信号に変換するステップと、
前記ベースバンド信号を周波数領域コンステレーションに変換するステップと、
前記基準シンボルに少なくとも部分的に基づき前記周波数領域コンステレーションを修正するステップと、
第1の受信シンボルについての第1の位相誤差および少なくとも後続の受信シンボルについての第2の位相誤差を計算するステップと、
前記第1位相誤差と前記第2の位相誤差の間の差を表す第1の制御信号を発生するステップと、
前記第1の制御信号に応答して前記ベースバンド信号の位相を修正するステップとを含む方法。」

2.引用発明
これに対して、原審の拒絶理由に引用された特開平8-265293号公報(以下、「引用例」という。)には、「直交周波数分割多重伝送方式とその送信装置および受信装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0020】さらに本発明の受信装置は、直交復調用の再生搬送波周波数を制御するための周波数制御手段を追加して設け、この周波数制御手段において、変動検出手段により検出された位相変動量を平均して周波数制御信号を生成し、この周波数制御信号を前記受信手段の直交復調手段に供給して再生搬送波周波数を制御することも特徴としている。」(4頁6欄)

ロ.「【0034】
【実施例】
(第1の実施例)図1は、本発明の第1の実施例に係わるOFDM伝送方式を説明するためのもので、OFDMシンボルのキャリア数がN、1フレームのOFDMシンボル数がMの場合の伝送フレームフォーマットを示している。すなわち、この実施例では、1フレームは周波数方向および時間方向にN×M個のシンボルデータにより構成される。
【0035】図1において、フレームの1番目の時間スロットでは、全キャリアとも振幅が零(0)のOFDMシンボルが伝送される。これは、ヌルシンボルと呼ばれ、受信装置における同期用の基準シンボルとして用いられる。2番目の時間スロットでは、各キャリアの位相および振幅が既知である基準OFDMシンボルが伝送される。これは、受信装置において同期用の基準シンボルとして用いられるとともに、各キャリアの位相および振幅を復調するための基準信号として利用される。3番目以降の時間スロットでは、多値QAMシンボルを主とする情報シンボルが伝送される。
【0036】ところで、上記3番目以降の情報シンボル領域では、図1に示すごとく多値QAMシンボルに混じって、周波数方向および時間方向に所定の間隔でQPSKシンボルが配置される。QPSKシンボルの時間間隔および周波数間隔は、伝送路のコヒーレンス時間およびコヒーレンス帯域幅を考慮して設定される。
【0037】一方、上記のような伝送フォーマットのOFDM変調波信号を受信する側では、基準シンボルを受信した時点で各キャリアの振幅および位相がわかるので、それ以降はこれら振幅および位相を基準にして情報シンボルの復調を行なう。しかし、フェージング伝送路では、受信波の振幅および位相は時間的および周波数的に変動する。そこで、この振幅および位相の変動量を、上記情報シンボル中に周期的に含まれるQPSKシンボルにより検出する。QPSKシンボルは、振幅が一定でありかつ90°間隔で4つの位相を表わす。このため、QPSKシンボルが伝送される間隔で受信波の位相変化が±45°以内であれば、振幅および位相の変動量の検出が可能である。また、QPSKシンボルが伝送されない時間スロットおよび周波数スロットについては、QPSKシンボルの検出結果を時間方向および周波数方向に補間する。
【0038】受信側では、以上のようにして求めた振幅および位相の変動量を用いて基準シンボルの検出結果を補正する。そして、この補正した基準シンボルの検出結果に基づいて各時間スロットおよび周波数スロットの情報シンボルを復調する。」(6頁9-10欄)

ハ.「【0044】一方、図3はOFDM受信装置の要部構成を示す回路ブロック図である。同図において、送信装置から無線伝送路を介して到来した無線変調波信号は、周波数変換器21で所定の中間周波数に周波数変換されたのち、アナログ/ディジタル(A/D)変換器22によりディジタル信号に変換されて、直交検波器23に入力される。この直交検波器23は、入力された中間周波のOFDM変調波信号を再生キャリアで直交検波し、ベースバンドのOFDM変調波信号を出力する。
【0045】自動周波数制御(AFC)回路25は、上記直交検波器23から出力されたOFDM変調波信号の周波数を基に再生キャリアの周波数誤差を検出し、再生キャリア周波数を制御するための信号を生成する。そして、この周波数制御信号を直交検波器23に帰還し、これにより直交検波器23内で発生される再生キャリア周波数を可変制御することによりキャリア同期を達成している。また、上記直交検波器23から出力されたOFDM変調波信号はタイミング再生回路26にも入力される。このタイミング回路26は、上記OFDM変調波信号に含まれる基準シンボルを基に、シンボル同期信号およびフレーム同期信号などのタイミング信号を再生するとともにクロックを再生し、これらのタイミング信号およびクロックを受信装置内の各回路に供給する。またそれとともに、OFDMシンボルの有効シンボル部を示すFFTウィンドゥを生成し、これを高速離散フーリエ変換(FFT)回路24に供給する。
【0046】FFT回路24は、上記タイミング回路26から供給されたFFTウィンドゥに応じて、前記直交検波器22から出力されたOFDM変調波信号中のOFDMシンボルの有効シンボル部に対してFFT演算を行なう。このFFT演算により各キャリアの振幅および位相を表わす複素データが得られる。この複素データはメモリ27に入力される。このメモリ27では、伝送フレームの情報シンボル領域の中でQPSKシンボルを含む所定の領域が保持される。これは、後述するQPSKシンボルを基に伝送路の振幅および位相の変動量を検出して、その検出結果を時間方向および周波数方向に補間することによりQPSKシンボルが伝送されない部分の変動量を求めるためである。上記メモリ27から読み出された情報シンボルは等化回路31に入力され、この等化回路31において等化処理が行なわれる。
【0047】また、上記FFT回路24から出力された複素データは、基準シンボル誤差検出器28にも入力される。この基準シンボル誤差検出器28では、受信した基準シンボルと基準シンボル発生器29から発生された基準シンボルとが比較され、これにより各キャリアの振幅誤差および位相誤差が検出される。この基準シンボル誤差検出器28で検出された各キャリアの振幅誤差および位相誤差は補正回路30に供給されて保持される。なお、上記基準シンボル発生器29では、伝送フレームの2番目の時間スロットにて伝送されたN個の基準シンボルデータが発生される。
【0048】ところで、本実施例の受信装置は、QPSKシンボル誤差検出器32と、補間回路33と、補正回路30とを備えている。QPSKシンボル誤差検出器32は、等化回路31から出力されたシンボルデータ中に含まれるQPSKシンボルの、本来の振幅値および位相値からのずれを検出する。これらの検出値はフェージングによる受信波の振幅および位相の変動量を表わす。
【0049】補間回路33は、メモリ27に保持された情報シンボル領域の中でQPSKシンボルが伝送されていないスロットについて、QPSKシンボル誤差検出器32の出力を補間する。これにより、メモリ27に保持されたすべての時間スロットおよび周波数スロットについて、基準シンボル受信時点からの振幅および位相の変動量が検出される。
【0050】補正回路30は、基準シンボルにより検出された振幅誤差信号および位相誤差信号を、上記補間回路33による補間データを基に補正する。そして、この補正した振幅誤差信号および位相誤差信号を上記等化回路31に供給し、これらの誤差信号を基に上記メモリ27に保持された情報シンボルの等化を行なわせる。
【0051】等化回路31から出力されたシンボルデータは、メモリ34に一時保持されたのちデマルチプレクサ35に供給される。デマルチプレクサ35は、ヌルシンボルおよび基準シンボルを除いて、QAMシンボルおよびQPSKシンボルを分離して出力する。
【0052】このような構成であるから、直交検波器23およびFFT回路24から復調された1フレーム目のシンボルデータが出力されたとする。そうすると、この1フレームのシンボルデータのうち先ず最初のデータ領域がメモリ27に保持される。またこのとき基準シンボル誤差検出器28では、上記復調されたシンボルデータ中の基準シンボルと本来の基準シンボルとが比較されて、これにより各キャリアの振幅誤差および位相誤差が検出され、その振幅誤差信号および位相誤差信号が補正回路30を介して等化回路31に供給される。このため等化回路31では、この供給された振幅誤差信号および位相誤差信号を基に、上記メモリ27に保持された最初のデータ領域のシンボルデータの等化が行なわれる。
【0053】この等化回路31から等化されたシンボルデータが出力されると、QPSKシンボル誤差検出器32では上記シンボルデータ中のQPSKシンボルについて本来の振幅値および位相値からのずれが検出される。すなわち、フェージングによる受信波の振幅および位相の変動量が検出される。そして、この変動量の検出値を基に、補間回路33において上記メモリ27に保持されたデータ領域中のQAMシンボルについての振幅および位相の変動量の補間が行なわれる。これにより、メモリ27に保持されたデータ領域のすべての時間スロットおよび周波数スロットについて、基準シンボル受信された時点からの振幅および位相の変動量が検出される。
【0054】そうして各スロットの振幅および位相の変動量が検出されると、補正回路30において、先に基準シンボル誤差検出器28で検出された各キャリアの振幅誤差および位相誤差が上記振幅および位相の変動量の検出値を基に補正され、この補正された振幅誤差信号および位相誤差信号が等化回路31に供給される。したがって等化回路31では、メモリ27に保持されていた最初のデータ領域のすべてのスロットが上記振幅誤差信号および位相誤差信号を基に等化処理される。
【0055】そしてこの等化された上記最初のデータ領域のシンボルデータは、メモリ34を介してデマルチプレクサ35に入力され、ここでヌルシンボルおよび基準シンボルが除かれたのち、QAMシンボルおよびQPSKシンボルが分離されて後段の信号処理回路に供給される。
【0056】以後、メモリ27に復調シンボルデータの次のデータ領域が保持されるごとに、以上述べた等化制御が繰り返し行なわれる。なお、これらの等化制御では、それぞれ先行するデータ領域に対する等化制御においてその最後の時間スロットで得られた補正回路30の出力を初期値として等化制御が行なわれる。
【0057】したがって、このような受信装置を用いれば、伝送フレームの情報シンボルデータ領域中に周期的に挿入された複数のQPSKシンボルにより受信波の振幅変動および位相変動が検出され、この検出結果を基に基準シンボルにより検出された各キャリアの振幅誤差および位相誤差が補正されて、復調シンボルデータの波形等化が行なわれる。このため、伝送フレーム中に多くの基準シンボルが挿入されていなくても、フェージングによる振幅変動および位相変動を正確に補正することができる。」(7頁11-8頁13欄)

ニ.「【0072】図8は、本実施例に係わるOFDM受信装置の構成を示す回路ブロック図である。なお、同図において前記図3と同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0073】図8において、QPSKシンボル誤差検出器61により検出された位相誤差信号は平均化回路62に入力され、この平均化回路62で平均化される。そして、この平均化回路62から出力された信号は、加算器63でAFC回路25から出力された信号に加算されて周波数制御信号となり、直交検波器23の局部発振器に入力される。このため、再生キャリア周波数は、AFC回路25により生成される周波数検出情報だけでなく、QPSKシンボルの位相変動によっても制御されることになる。
【0074】ここで、QPSKシンボルの位相変動は、伝送路の変動によって生じるだけでなく、再生キャリアの周波数誤差によっても生じる。フェージングによる位相の変化はランダムであるが、キャリアの周波数誤差による位相の変化は全キャリアで一定である。したがって、図8に示したようにQPSKシンボル誤差検出器61により得られた位相誤差信号を平均化回路62で平均化することにより、再生キャリアの周波数誤差を検出することができる。そして、この周波数誤差を表わす信号をAFC回路25の出力信号に加算して直交検波器23に供給することにより、再生キャリアのより正確な周波数同期が達成できる。」(9頁15-16欄)

上記引用例の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
(a)まず、上記イ.及び図8によれば、無線伝送システムの受信装置で位相変動量から周波数制御信号を生成し、再生搬送波周波数を制御するから、『無線伝送システムで再生搬送波周波数を制御する方法』が記載されている。

(b)また、上記ロ.(【0035】、【0036】)ハ.(【0044】)並びに図1,図3及び図8によれば、ヌルシンボルと呼ばれる基準シンボル、各キャリアの位相及び振幅が既知である基準OFDMシンボル、多値QAMシンボル、QPSKシンボルの情報シンボルが伝送されるから、『シンボルの少なくとも1つが基準OFDMシンボルである複数のシンボルを含む』無線変調波信号が用いられ、
送信装置から無線伝送路を介して到来した無線変調波信号は周波数変換器21で所定の中間周波数に周波数変換され、中間周波のOFDM変調波信号が直交検波器23に入力、すなわち、受信された後、当該直交検波器からベースバンドのOFDM変調波信号を出力する、すなわち、変換するから引用例には、『中間周波のOFDM変調波信号を受信し、前記中間周波のOFDM変調波信号をベースバンドのOFDM変調波信号に変換』することが記載されている。

(c)また、上記ハ.(【0046】)、図3,及び図8によれば、前記直交検波器22から出力されたOFDM変調波信号中のOFDMシンボルの有効シンボル部に対してFFT演算を行い、各キャリアの振幅及び位相を表わす複素データが得られ、当該複素データは情報シンボルを含むから、引用例には、『前記ベースバンドのOFDM変調波信号を情報シンボルに』変換することが記載されている。

(d)また、上記ハ.(【0048】-【0054】)、図3及び図8によれば、基準OFDMシンボルにより検出された振幅誤差信号及び位相誤差信号により、情報シンボルを等化、すなわち修正するといえるから、引用例には、『前記基準OFDMシンボルに基づき、情報シンボルを修正する』ことが記載されている。

(e)また、上記ニ.(【0073】、【0074】)によれば、OFDM変調波信号中のQPSKシンボル、すなわち受信シンボルから、QPSKシンボル誤差検出器61により検出された位相誤差信号は、平均化回路25に入力され、該平均化回路25は平均化された信号を出力させることにより、再生キャリア(搬送波周波数)の周波数誤差(オフセット)を検出し、該出力された平均化された信号はAFC回路25により生成される信号と加算され周波数制御信号となり、直交検波器23の局部発信器に入力されるから、引用例には、『受信シンボルについての位相誤差を計算し、該位相誤差から周波数制御信号を発生し、前記周波数制御信号に応答して、直交検波器23の再生搬送波周波数を制御する』ことが記載されている。
そして、それぞれの動作は再生搬送波周波数を制御する方法のステップといえる。

したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「無線伝送システムで再生搬送波周波数を制御する方法であって、
シンボルの少なくとも1つが基準OFDMシンボルである複数のシンボルを含む中間周波のOFDM変調波信号を受信するステップと、
前記中間周波のOFDM変調波信号をベースバンドのOFDM変調波信号に変換するステップと、
前記ベースバンドのOFDM変調波信号を情報シンボルに変換するステップと、
前記基準OFDMシンボルに基づき、前記情報シンボルを修正するステップと、
受信シンボルについての位相誤差を計算するステップと、
該位相誤差から周波数制御信号を発生するステップと、
前記周波数制御信号に応答して、直交検波器23の再生搬送波周波数を制御するステップとを含む
方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)まず、引用発明の「無線伝送システム」、「再生搬送波周波数」は、それぞれ本願発明の「無線通信システム」、「搬送波周波数」に相当する。
また、引用発明の「再生搬送波周波数を制御する方法」は、再生搬送波周波数の周波数誤差(オフセット)を位相誤差から計算(推定)するステップを含むから、本願発明の「搬送波周波数オフセットを推定する」ことに相当する。
(イ)また、引用発明の「シンボル」、「基準OFDMシンボル」、「中間周波のOFDM変調波信号」、「ベースバンドのOFDM変調波信号」は、それぞれ本願発明の「シンボル」、「基準シンボル」、「パスバンド信号」、「ベースバンド信号」に相当する。したがって、引用発明の、「シンボルの少なくとも1つが基準OFDMシンボルである複数のシンボルを含む中間周波のOFDM変調波信号を受信するステップと、前記中間周波のOFDM変調波信号をベースバンドのOFDM変調波信号に変換するステップ」は、本願発明の「シンボルの少なくとも1つが基準シンボルである複数のシンボルを含むパスバンド信号を受信するステップと、前記パスバンド信号をベースバンド信号に変換するステップ」に相当する。
(ウ)また、引用発明の「情報シンボル」と本願発明の「周波数領域コンステレーション」とは、ベースバンド信号から変換される『所定の情報』として共通しているから、引用発明の「前記ベースバンドのOFDM変調波信号を情報シンボルに変換するステップ」と、本願発明の「前記ベースバンド信号を周波数領域コンステレーションに変換するステップ」は、「前記ベースバンド信号を所定の情報に変換するステップ」の点で共通である。
(エ)また、引用発明の「基準OFDMシンボル」の少なくとも部分的に基づき情報シンボルを修正するといえるから、引用発明の「前記基準OFDMシンボルに基づき、前記情報シンボルを修正するステップ」と、本願発明の「前記基準シンボルに少なくとも部分的に基づき前記周波数領域コンステレーションを修正するステップ」は、「前記基準シンボルに少なくとも部分的に基づき前記所定の情報を修正するステップ」の点で共通である。
(オ)また、引用発明の「受信シンボル」と、本願発明の「第1の受信シンボル」、「後続の受信シンボル」は、「受信シンボル」の点で一致し、また、引用発明の「位相誤差」は、本願発明の「第1の位相誤差」、「第2の位相誤差」は、「位相誤差」の点で共通であるから、引用発明の「受信シンボルについての位相誤差を計算するステップ」と、本願発明の「第1の受信シンボルについての第1の位相誤差および少なくとも後続の受信シンボルについての第2の位相誤差を計算するステップ」は、「受信シンボルについての位相誤差を計算するステップ」の点で共通である。
(カ)また、引用発明の「周波数制御信号」は、前記受信シンボルから求めた位相誤差に基づく『制御信号』である点で、本願発明の「第1の制御信号」と共通である。したがって、引用発明の「該位相誤差から周波数制御信号を発生するステップ」と、本願発明の「前記第1位相誤差と前記第2の位相誤差の間の差を表す第1の制御信号を発生するステップ」は、「該位相誤差から制御信号を発生するステップ」の点で共通する。
(キ)また、引用発明では、「前記周波数信号」に応答して、「直交検波器23の再生搬送波周波数を制御」することにより、中間周波のOFDM変調波信号を該周波数信号で制御された再生搬送波により直交検波しベースバンドのOFDM変調波信号に変換しているから、結局、受信信号を修正するといえる。他方、本願発明では、「前記第1の制御信号」に応答して、「前記ベースバンド信号の位相を修正する」、すなわち、受信したパスバンド信号から変換したベースバンド信号を修正しているから、受信信号の修正を行っているといえ、両者は「前記制御信号に応答して、受信信号の修正を行うステップ」として共通である。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「無線通信システムで搬送波周波数オフセット(CFO)を推定するための方法であって、
シンボルの少なくとも1つが基準シンボルである複数のシンボルを含むパスバンド信号を受信するステップと、
前記パスバンド信号をベースバンド信号に変換するステップと、
前記ベースバンド信号を所定の情報に変換するステップと、
前記基準シンボルに少なくとも部分的に基づき前記所定の情報を修正するステップと、
受信シンボルについての位相誤差を計算するステップと、
該位相誤差から制御信号を発生するステップと、
前記制御信号に応答して受信信号を修正するステップとを含む方法。」

<相違点>
(相違点1)
「所定の情報」に関し、本願発明では、「周波数領域コンステレーション」であるのに対し、引用発明では「情報シンボル」である点。
(相違点2)
「受信シンボルについての位相誤差」に関し、本願発明は「第1の受信シンボルについての第1の位相誤差および少なくとも後続の受信シンボルについての第2の位相誤差」であるのに対し、引用発明では後続の受信シンボルについての第2の位相誤差について不明である点。
(相違点3)
「制御信号」に関し、本願発明では、「前記第1位相誤差と前記第2の位相誤差の間の差を表す第1の制御信号」を発生しているのに対し、引用発明では「該位相誤差から周波数制御信号」を発生している点。
(相違点4)
「受信信号を修正するステップ」に関し、本願発明では「前記ベースバンド信号の位相」すなわち、受信した信号の位相を直接的に修正しているのに対し、引用発明では「直交検波器23の再生搬送波の周波数」、すなわち、受信した信号を検波再生するための再生搬送波の周波数を修正し、受信した信号の位相を間接的に修正している点。
(相違点5)
同じく「受信信号を修正するステップ」に関し、本願発明では受信したパスバンド信号から変換したベースバンド信号を修正しているのに対し、引用発明では受信した中間周波のOFDM信号をベースバンドのOFDM信号に変換することと同時に修正している点。

4.検討
上記(相違点1)について検討する。
OFDM信号を受信する受信器で所定のキャリア(搬送波)の復調シンボルのコンステレーションから位相誤差を求め、該位相誤差に基づき再生搬送波の周波数ずれ及び位相ずれを検出し、受信信号を修正することは、原審の拒絶理由で引用した特開平8-265288号公報(要約、【0021】、【0022】及び図3参照)にあるように、当業者に周知の手段であり、引用発明において当該周知技術を採用することに格別困難性は認められない。

次に、(相違点2)及び(相違点3)について検討する。
OFDM信号を受信する受信器において、OFDM信号の角度を検出し、該検出した角度の角度変化をシンボル間で2回差分をとることにより、キャリア周波数誤差を求めること、及び、該求めたキャリア周波数誤差に基づき、キャリア周波数誤差補正信号を生成することは、原審の拒絶理由で引用した特開2001-308821号公報(特に、要約、【0093】、【0112】及び図3の「第2の減算回路25」等参照)に見られるように当業者に周知の技術であり、当該周知技術における「角度変化」、「キャリア周波数誤差」及び「キャリア周波数誤差補正信号」が、本願発明の「位相誤差」、「搬送波周波数オフセット」及び「第1の制御信号」に相当することは当業者に自明の事項である。
したがって、引用発明において、当該周知技術を採用し、(相違点2)、(相違点3)に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

最後に、(相違点4)及び(相違点5)について検討する。
受信した信号の位相誤差を取り除くために、中間周波の信号の段階で、受信した信号の位相を間接的に修正する構成(引用例(図8)や特開2001-308821号公報(図2))、及び、ベースバンドの段階で、受信した信号の位相を直接的に修正する構成(例えば、原審の拒絶理由で引用した特開平10-276166号公報(【0022】、【0025】、【0029】及び図1)や特開平9-168039号公報(図1))はいずれも当業者に周知の構成であり、いずれの構成を採用するかは当業者が適宜選択すべき設計事項程度と認められる。
したがって、引用発明において、上記周知技術に基づき(相違点4)、(相違点5)にかかる構成とすることも格別のことではない。

そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測しうるものであって、格別のものではない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-14 
結審通知日 2012-06-18 
審決日 2012-06-29 
出願番号 特願2004-526227(P2004-526227)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 洋高野 洋  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 萩原 義則
遠山 敬彦
発明の名称 無線通信システムにおける搬送波周波数オフセットの推定  
代理人 朝日 伸光  
代理人 岡部 正夫  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  

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