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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E06B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E06B
管理番号 1265667
審判番号 不服2011-14751  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-08 
確定日 2012-11-08 
事件の表示 特願2006- 56729「シャッターを備える装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開、特開2007-231672〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年3月2日の出願であって,平成23年4月6日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年7月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,平成24年5月9日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,回答がなされなかったものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年7月8日になされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成23年7月8日になされた手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1を,次のように補正しようとする補正事項を含むものである。
「【請求項1】
自重降下により開口部を閉鎖するシャッターと,
火災を検知する感知器と,
バッテリを内蔵し,前記感知器の火災信号を受信して前記シャッターのシャッターカーテンの閉鎖の信号を発信する連動制御器と,を備え,
前記シャッターは,前記連動制御器からの信号を直接受信して前記シャッターカーテンを閉鎖するように作動する自動閉鎖装置と,前記シャッターカーテンの閉鎖中に障害物を感知して前記自動閉鎖装置に前記シャッターカーテンの停止の信号を送信可能とする,障害物を検知する手段と,を具備する危害防止装置,を有し,
前記危害防止装置を作動させるための電力が前記連動制御器に具備された前記バッテリから直接供給されるとともに,前記連動制御器は前記シャッターカーテンの閉鎖が完了するまで前記危害防止装置に電力を供給し続けることを特徴とする,シャッターを備える装置。」

上記補正は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「自動閉鎖装置」が「連動制御器」から受信する信号について,直接受信するものであることを限定するとともに,「バッテリ」から供給される「危害防止装置を作動させるための電力」が,直接供給されるものであることを限定するものであると認められるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
2-1 引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2003-176679号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の記載がある(下線は当審にて付与。)
(1-a)「【請求項1】 自重降下をして開口部の閉鎖をするシャッターカーテンと,該自重降下を制動するブレーキ手段と,火災等における異常信号の入力に伴いブレーキ手段の制動解除をするブレーキ解除手段と,シャッターカーテンに設けられ,障害物検知をする障害物検知手段と,該障害物検知手段の障害物検知に基づき前記ブレーキ解除手段に対してブレーキ作動状態に復帰させるための指令を出力して自重降下を緊急停止させる緊急停止手段とを備えて構成される自重降下シャッターの安全装置。
【請求項2】 請求項1において,ブレーキ解除手段は,異常信号が入力したことで通電されてブレーキ解除作動をし,通電が停止されることでブレーキ作動状態に復帰させるものであり,緊急停止手段は,前記ブレーキ解除手段に対する通電を停止するためのスイッチ手段により構成されている自重降下シャッターの安全装置。」

(1-b)「【0008】一方,12は自動閉鎖装置であって,該自動閉鎖装置12は,後述する連動制御器13からの作動信号に基づいて駆動する解除用モータ14,該解除用モータ14の駆動に基づき前記ブレーキ9を機械的に解除すべく作動するブレーキ解除作動部15,ブレーキ9が解除状態になったことを検知して前記解除用モータ14を停止させるためのマイクロスイッチ16,ブレーキ9を解除状態に保持すべく連動制御器13からの作動信号に基づいて作動するロック用電磁クラッチ17等を用いて構成されている。そしてこの自動閉鎖装置12は,連動制御器13から作動信号が出力されていない状態では,解除用モータ14,ロック用電磁クラッチ17共に通電されず,この状態ではブレーキ9に関与しないが,作動信号が出力されて解除用モータ14およびロック用電磁クラッチ17に通電されると,解除用モータ14の駆動に基づいてブレーキ解除作動部15が作動してブレーキ9の機械的な解除を行うと共に,ロック用電磁クラッチ17によりブレーキ解除状態が維持されるようになっており,これによりシャッターカーテン2は,ブレーキ9による制動が解除されて自重により降下して開口部を自動閉鎖するようになっている。一方,前記自重降下中に自動閉鎖装置12への通電が断たれると,ロック用電磁クラッチ17によるブレーキ解除状態保持が解除されてブレーキ9が自動的に制動状態に復帰し,これによりシャッターカーテン2の自重降下に制動がかかって緊急停止するようになっている。
【0009】また,前記連動制御器13は,停電でも作動するようバッテリ(通常はDC24Vに設定されている)が内蔵されたものであって,該連動制御器13は,火災等の非常を感知する例として採用される煙感知器18が接続されており,該煙感知器18の感知作動を受けて前記自動閉鎖装置12に通電すべく作動信号を出力するようになっている。
【0010】一方,シャッターカーテン2の最下端の座板2aには,シャッターカーテン2の下降中に障害物が接当することで相対的に上動する可動板19aと,該可動板19aが上動することでスイッチ接点19bが切換わるマイクロスイッチ19cとを用いて構成される座板スイッチ19が設けられており,該座板スイッチ19により障害物の検知を行う構成となっているが,上記マイクロスイッチ19cから延びるコード19dは,シャッターケース3に内装されるコードリール19eに巻装されていて,シャッターカーテン2の上下動に伴って巻取り巻戻されるようになっている。
【0011】さらに,前記座板スイッチ19のスイッチ接点19bは,本実施の形態においてはb接点(常時閉接点)に設定されていて,図6の電気回路図に示す如く,前記連動制御器13のプラス側出力用端子Cと,自動閉鎖装置12の解除用モータ14およびロック用電磁クラッチ17共有のプラス側入力用端子Dとを接続する出力用回路Eに組み込まれている。そして,座板スイッチ19による障害物検知が成されていない状態では,スイッチ接点19bが閉成していて連動制御器13からの電源を自動閉鎖装置12に供給できるようになっているが,障害物検知が成されることでスイッチ接点19bが開成し,これにより前記自動閉鎖装置12への通電が断たれるように構成されている。
【0012】叙述の如く構成されたものにおいて,煙感知器18が感知作動した非常時には,連動制御器13から自動閉鎖装置12に通電すべく作動信号が出力され,これにより前述したようにブレーキ9の制動が解除されてシャッターカーテン2の自重降下による開口部の閉鎖がなされることになるが,このものにおいて,自重降下するシャッターカーテン2が避難者に接当したような場合には,これが座板スイッチ19により検知されて前記自動閉鎖装置12への通電が停止され,これによりブレーキ9が働いてシャッターカーテン2は緊急停止することになる。そして,前記座板スイッチ19による障害物検知がなくなると,自動閉鎖装置12への通電が再開されて,シャッターカーテン2の自重降下が続行されることになる。」

(1-c)「【要約】・・・
【解決手段】 自重降下シャッターに,シャッターカーテンの自重降下を制動するブレーキと,煙感知器18の感知に基づき,連動制御器に内蔵のバッテリ電源が通電されてブレーキの制動解除をする自動閉鎖装置12と,障害物検知をする座板スイッチと,停電時であっても障害物検知に基づき前記自動閉鎖装置に対する通電を停止して自重降下を緊急停止させるスイッチ接点19bとを設けた。」

(1-d)図6には,連動制御器13と自動閉鎖装置12とがスイッチ接点19bのみを介して接続された電気回路図が図示されている。

ここで,記載事項(1-b)の「連動制御器13は,火災等の非常を感知する例として採用される煙感知器18が接続されており,該煙感知器18の感知作動を受けて前記自動閉鎖装置12に通電すべく作動信号を出力する」,「座板スイッチ19による障害物検知が成されていない状態では,スイッチ接点19bが閉成していて連動制御器13からの電源を自動閉鎖装置12に供給できるようになっているが,障害物検知が成されることでスイッチ接点19bが開成し,これにより前記自動閉鎖装置12への通電が断たれる」からみて,連動制御器13から自動閉鎖装置12への通電と作動信号の供給が合わせてなされているものと認められる。

以上を総合すると,上記記載事項(1-a)?(1-d)からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる(以下,「刊行物1記載の発明」という。)。
「自重降下をして開口部の閉鎖をするシャッターカーテンと,
火災等の非常を感知する例として採用される煙感知器18が接続されており,該煙感知器18の感知作動を受けて前記自動閉鎖装置12に通電すべく作動信号を出力する連動制御器13と,
連動制御器13から作動信号が出力されていない状態では,解除用モータ14,ロック用電磁クラッチ17共に通電されず,この状態ではブレーキ9に関与しないが,作動信号が出力されて解除用モータ14およびロック用電磁クラッチ17に通電されると,解除用モータ14の駆動に基づいてブレーキ解除作動部15が作動してブレーキ9の機械的な解除を行うと共に,ロック用電磁クラッチ17によりブレーキ解除状態が維持されるようになっており,これによりシャッターカーテン2は,ブレーキ9による制動が解除されて自重により降下して開口部を自動閉鎖する自動閉鎖装置12と,
シャッターカーテン2の下降中に障害物が接当することで相対的に上動する可動板19aと,該可動板19aが上動することでスイッチ接点19bが切換わるマイクロスイッチ19cとを用いて構成される座板スイッチ19が設けられ,
連動制御器13と自動閉鎖装置12とがスイッチ接点19bのみを介して接続されており,
自重降下するシャッターカーテン2が避難者に接当したような場合には,これが座板スイッチ19により検知されて前記自動閉鎖装置12への通電が停止され,これによりブレーキ9が働いてシャッターカーテン2は緊急停止させる緊急停止手段と,を有し,
前記連動制御器13は,停電でも作動するようバッテリ(通常はDC24Vに設定されている)が内蔵されたものであり,
連動制御器に内蔵のバッテリ電源が自動閉鎖装置12に通電されてブレーキの制動解除をするものであって,
前記座板スイッチ19による障害物検知がなくなると,自動閉鎖装置12への通電が再開されて,シャッターカーテン2の自重降下が続行される自重降下シャッター。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2001-248372号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。
(2-a)「【0025】図3は,制御手段4の内部構成を示す回路図である。この回路は,強制閉鎖モードに関連する連結解除手段10に関与する構成のみ記載されており,開閉機Mの駆動等他の制御回路は図示は省略している。外部電源ACは,電源回路20で整流されて駆動回路25側に出力される。電源回路20内部には,補助電源21が設けられており,切替回路22によって外部電源ACの供給断時に補助電源21に切り替わるよう構成されている。
【0026】切替回路22は,外部電源ACの供給時に通電状態となる駆動リレーR1と,この駆動リレーR1の通電期間中は外部電源AC側に切り替わった状態を保持し,外部電源ACの供給断時に補助電源21側に切り替わる2つのリレー接点R1-1,R1-2からなる。補助電源21は,外部電源ACの供給期間中に充電される2次電池によって構成されており,この補助電源21は外部電源ACの切断直後から容量に対応した所定時間の間,駆動回路25に電源を供給することができる。
【0027】駆動回路25は,電源回路20から供給された電源(DV24V)が駆動リレーR2,及び強制閉鎖用SW3dに接続されている。強制閉鎖用SW3dは常開接点であるため,通常時は,駆動リレーR2が非通電状態にある。対応して,通常状態においてリレー接点R2-2,R2-3は防災信号の入力端子30側に切り替わった状態が保持されている。この状態で防災信号が入力されると,防災信号が入力端子30?出力端子31を介して連結解除手段10に出力される(シャッター1が自重降下する)ようになっている。
【0028】一方,火災発生等で強制閉鎖用SW3dが操作されると,駆動リレーR2が通電状態となり,リレー接点R2-1,R2-2が切り替わり,電源回路20からの電源が連結解除手段10に出力され,シャッター1を自重降下させることができる。強制閉鎖用SW3dには並列に自己保持用リレー接点R2-3が設けられており,駆動リレーR2の通電後は,この自己保持用リレー接点R2-3が自己保持状態となり,強制閉鎖用SW3dの操作が解除されても連結解除手段10への電源供給が継続され,シャッター1を全閉するまで継続できるようになっている。」

(2-b)「【0036】シャッター1の自重降下時に,シャッター1が障害物に接触した場合には(S6-YES),障害物感知手段15は検出部15bに入力した感知信号に基づき,制御手段4にシャッター1を停止させる停止信号を出力する。この際,連結解除手段10は,解除ピン7を待避しクラッチ7を連結させるとともに,ブレーキをかける。制御手段4は,停止信号の入力に基づき開閉機Mに供給する電源を切断しシャッター1を直ちに停止させる(S8)。なお,検出部15bは制御手段4における開閉機Mを駆動するための電源供給ラインの一部を直接切断すべくリレー接点を介在させる等の回路構成にする事もできる。
【0037】このように,防災信号の入力でシャッター1が自重降下する場合においても,障害物感知手段15による障害物を感知できるようになる。この後,出入口における障害物感知状態が解除されると(S9-YES),障害物感知手段15は障害物の非感知状態に復帰し,連結解除手段10は解除ピン7を突出させクラッチを連結解除してシャッター1を再降下させる(S10)。この後,障害物が感知されない場合(S6-NO),全閉まで降下すれば(S7ーYES),終了する。シャッター1の全閉状態は,後述するようなリミットスイッチなどの下限位置検出手段を用いて検知する構成としてもよい。障害物が感知されない状態(S6-NO)が所定時間経過することを監視してシャッター1が全閉と判断し,自動的に連結解除手段10への電源供給を遮断して解除ピン11を待避させクラッチ7を連結させる初期状態に復帰させる事もできる。」

(2-c)「【0049】上記実施形態では,防災信号が単パルスなど短時間のみ供給される構成を前提として防災制御盤27(補助電源28)を用いる構成としたが,防災信号が連続的に供給される構成においては,防災制御盤27の構成は不要であり,防災信号の信号線を直接制御手段4の入力端子30に直接接続すればよい。」

2-2 補正発明と刊行物1記載の発明との対比
<一致点>
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「火災等の非常を感知する例として採用される煙感知器18」は,補正発明の「火災を検知する感知器」に相当し,以下同様に,
「座板スイッチ19」は,「障害物を検知する手段」に,
「自重降下シャッター」は,「シャッターを備える装置」に,
それぞれ相当する。

刊行物1記載の発明の「自動閉鎖装置12に通電すべく作動信号を出力する連動制御器13」から「作動信号が出力されて解除用モータ14およびロック用電磁クラッチ17に通電されると」「制動が解除されて自重により降下して開口部を自動閉鎖する自動閉鎖装置12」と,補正発明の「連動制御器からの信号を直接受信して前記シャッターカーテンを閉鎖するように作動する自動閉鎖装置」は,「連動制御器からの信号を受信して前記シャッターカーテンを閉鎖するように作動する自動閉鎖装置」である点で共通する。

刊行物1記載の発明は,「シャッターカーテン2の下降中に障害物が接当することで相対的に上動する可動板19aと,該可動板19aが上動することでスイッチ接点19bが切換わるマイクロスイッチ19cとを用いて構成される座板スイッチ19が設けられ,自重降下するシャッターカーテン2が避難者に接当したような場合には,座板スイッチ19により検知されて・・・シャッターカーテン2は緊急停止」し,「座板スイッチ19による障害物検知がなくなると,・・・シャッターカーテン2の自重降下が続行される」ことからみて,刊行物1記載の発明の「座板スイッチ19」はシャッターカーテンの閉鎖中に障害物を感知するものであると認められる。
してみれば,刊行物1記載の発明の「シャッターカーテン2の下降中に障害物が接当することで相対的に上動する可動板19aと,該可動板19aが上動することでスイッチ接点19bが切換わる」こと,及び,「自重降下するシャッターカーテン2が避難者に接当したような場合には,これが座板スイッチ19により検知」することは,補正発明の「シャッターカーテンの閉鎖中に障害物を感知」することに相当する。

本願明細書の段落0024の「シャッターカーテン2が障害物に接触し座板スイッチ10が閉成すると,タイマー回路21での制御により電磁クラッチ24への通電が遮断されることで電磁クラッチ24は解放されてブレーキが制動状態へ復帰し,シャッターカーテン2の自重降下は停止する。」との記載,「自動閉鎖装置7の電気回路は,・・・ブレーキ解除用モータ23へ通電する回路と,電磁クラッチ24へ通電する回路が構成されている。」との記載からみて,補正発明の「障害物を感知して前記自動閉鎖装置に前記シャッターカーテンの停止の信号を送信可能とする」には,引用発明のような障害物を感知した座板スイッチにより,自動閉鎖装置によるシャッターカーテンの閉鎖を停止すべく,自動閉鎖装置への通電を遮断することも含まれるものと解される。
してみれば,刊行物1記載の発明の「自重降下するシャッターカーテン2が避難者に接当したような場合には,これが座板スイッチ19により検知されて前記自動閉鎖装置12への通電が停止され,これによりブレーキ9が働いてシャッターカーテン2は緊急停止させる」は,補正発明の「障害物を感知して前記自動閉鎖装置に前記シャッターカーテンの停止の信号を送信可能とする」に相当する。

補正発明において,「危害防止装置」は,「自動閉鎖装置」と「障害物を検知する手段」を備えるものであることから,刊行物1記載の発明の「自動閉鎖装置」と「緊急停止手段」をあわせたものは,補正発明の「危害防止装置」に相当する。

刊行物1記載の発明の「前記自動閉鎖装置12に通電すべく作動信号を出力する連動制御器13」を前提とする「連動制御器に内蔵のバッテリ電源が自動閉鎖装置12に通電されてブレーキの制動解除をする」構成と,補正発明の「前記危害防止装置を作動させるための電力が前記連動制御器に具備された前記バッテリから直接供給される」構成は,「前記危害防止装置を作動させるための電力が前記連動制御器に具備された前記バッテリから供給される」点で共通する。

刊行物1記載の発明の「連動制御器に内蔵のバッテリ電源が自動閉鎖装置12に通電されてブレーキの制動解除をするものであって,前記座板スイッチ19による障害物検知がなくなると,自動閉鎖装置12への通電が再開されて,シャッターカーテン2の自重降下が続行される」と,補正発明の「連動制御器は前記シャッターカーテンの閉鎖が完了するまで前記危害防止装置に電力を供給し続ける」は,「連動制御器は前記シャッターカーテンの閉鎖のために前記危害防止装置に電力を供給する」点で共通している。

したがって,両者は以下の点で一致している。
「自重降下により開口部を閉鎖するシャッターと,
火災を検知する感知器と,
バッテリを内蔵し,前記感知器の火災信号を受信して前記シャッターのシャッターカーテンの閉鎖の信号を発信する連動制御器と,を備え,
前記シャッターは,前記連動制御器からの信号を受信して前記シャッターカーテンを閉鎖するように作動する自動閉鎖装置と,前記シャッターカーテンの閉鎖中に障害物を感知して前記自動閉鎖装置に前記シャッターカーテンの停止の信号を送信可能とする,障害物を検知する手段と,を具備する危害防止装置,を有し,
前記危害防止装置を作動させるための電力が前記連動制御器に具備された前記バッテリから供給されるとともに,
前記連動制御器は前記シャッターカーテンの閉鎖のために前記危害防止装置に電力を供給する,シャッターを備える装置。」

そして,以下に示す点で相違している。
<相違点>
[相違点1]
自動閉鎖装置が連動制御器から受信する信号と,自動閉鎖装置を含む危害防止装置を作動させるために連動制御器に具備されたバッテリから供給される電力について,
補正発明では,信号を直接受信し,電力を直接供給しているのに対して,
刊行物1記載の発明では,信号を受信し,電力を供給しているものの,直接行っているかについて明記のない点。

[相違点2]
危害防止装置への電力の供給について,
補正発明は,「前記連動制御器は前記シャッターカーテンの閉鎖が完了するまで前記危害防止装置に電力を供給し続ける」のに対して,
刊行物1記載の発明は,連動制御器がシャッターカーテンの閉鎖のために危害防止装置に電力を供給しているものの,閉鎖が完了するまで危害防止装置に電力を供給し続けるものであるかについて明記のない点。

2-3 各相違点についての判断
「相違点1について」
記載事項(1-b)の「座板スイッチ19による障害物検知が成されていない状態では,スイッチ接点19bが閉成していて連動制御器13からの電源を自動閉鎖装置12に供給できるようになっているが,障害物検知が成されることでスイッチ接点19bが開成し,これにより前記自動閉鎖装置12への通電が断たれるように構成されている」,記載事項(1-d)の「連動制御器13と自動閉鎖装置12とがスイッチ接点19bのみを介して接続された電気回路図」からみて,「スイッチ接点19b」の開閉により「連動制御器13」と「自動閉鎖装置12」の電気的な接続の有無が切り換えられるものと認められ,「スイッチ接点19b」は単に電気的な接続の有無を切り換えるのみであることから,「スイッチ接点19b」を介して接続されていることが,「連動制御器13」と「自動閉鎖装置12」とが直接接続されていると解することを妨げるものではない。

してみると,記載事項(1-b),(1-d)からみて,連動制御器13から自動閉鎖装置12への通電と作動信号の供給が直接なされているものと認められる。

また,請求人は,審判請求書において「新請求項1に記載の発明によれば、連動制御器から直接に信号や電力が提供されることが記載されており、危害防止用の連動中継器が介在する余地がなく、危害防止用の連動中継器がないことは明らかです。」と主張しているが,刊行物1記載の発明も「連動中継器」に相当する構成を有していないことは明らかである。

以上のことから,相違点1は,補正発明と刊行物1記載の発明の実質的な相違点ではない。

「相違点2について」
刊行物2記載の発明の「補助電源21」,「連結解除手段10」,「障害物感知手段15」は,それぞれ補正発明の「バッテリ」,「自動閉鎖装置」,「障害物を検知する手段」に相当する。

刊行物2には,記載事項(2-a),(2-b)からみて,電源回路20の補助電源21から連結解除手段への電源供給によりシャッター1を自重降下させ,障害物感知手段15の感知信号に基づきシャッター1の自重降下を停止した後,障害物感知状態が解除されると,シャッター1を再降下させ,全閉まで降下させるものにおいて,連結解除手段10への電源供給はシャッター1を全閉するまで継続させる技術が記載されているものと認められる。

ここで,刊行物1記載の発明は「自重降下をして開口部の閉鎖をするシャッターカーテン」に関する発明であり,シャッターを確実に閉鎖させたいとの課題を内在するものであることは明らかである。そして,確実に閉鎖するために,刊行物1記載の発明のバッテリの容量を十分なものとすることは,必要な安全率やコストなどを勘案しつつ,当業者が当然考慮することである。

してみれば,刊行物1記載の発明と刊行物2に記載のシャッターとは火災等の発生時に自重降下させる際にバッテリによる電源供給を行うものであって,障害物を検知する手段による検知により自重降下を停止するものである点で共通しており,シャッターを確実に閉鎖することは刊行物1に記載の発明も当然有する課題であることから,当該課題を解決するために刊行物1記載の発明の危害防止装置である自動閉鎖装置への電力の供給に,刊行物2記載のシャッターの全閉まで電源供給を継続する技術を適用して,相違点2に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして,補正発明の作用効果は,刊行物1記載の発明,刊行物2に記載の事項から予測できる程度のものである。

また,請求人は審判請求書において,「シャッターに対して連続して電力を供給することが記載されている引用文献3(当審注:審決における刊行物2に相当)の『開閉体制御装置』は,本願でいうところの危害防止用の「連動中継器」に相当します。すなわち,引用文献3は危害防止用の連動中継器そのものの発明であり,本願はこのような危害防止用の連動中継器を不要とすることが特徴となっております。他の文献につきましても危害防止用の連動中継器を備えているか,又は従来通りの連動制御器の記載しかありません。
従いまして,引用文献3のような文献があっても,これを他の文献と組み合わせて,本願のように危害防止用の連動中継器を不要としつつ,かつ,連続的に危害防止装置を動作させ続けてシャッターの閉鎖を確実に完了させることが可能である構成に容易に想到することはできないと思料いたします。」と主張しているが,上述のとおり,刊行物1に連動中継器を必要としない基本的な構成が開示されており,刊行物1記載のシャッターを備える装置の電力供給手法に,刊行物2にシャッターの全閉まで電源供給を継続する技術を適用するに際し,刊行物2に記載のシャッターが「連動中継器」を備えたものであることが,刊行物1に記載の発明に刊行物2に記載の事項を適用することを妨げるような事情であるとは認められない。
さらに,刊行物2の記載事項(2-c)には,「防災制御盤27」を用いないシャッターについても開示されているのであるから,この場合には刊行物2に記載の「制御手段4」は,補正発明の「連動制御器」に相当するものと認められ,刊行物2には「連動中継器」を用いない構成についても開示されているものと認められる。

なお,本願明細書の「【0023】・・・火災による停電時であっても通常時に商用電源により充電された非常用バッテリーを用い・・・」,「【0035】・・・自動閉鎖装置7への通電がなくなるとブレーキの制動状態へ復帰する構造の物を使用する場合,自重降下を継続させるには自動閉鎖装置7の作動が維持されることが必要であるため,自動閉鎖装置7の作動時間Tが長くなり,コンデンサの静電容量Cが大きくなる。そのため,自動閉鎖装置7に電磁ソレノイドの様な瞬間的な電気で開閉用モータの制動及び制動解除を切り替える構造の物を使用することで,コンデンサの静電容量Cを小さくすることが可能である。」等の記載からみて,補正発明において危害防止装置に電力を供給するための手法の実施例として開示されているのは,電力の供給源として,商用電源により充分に充電されたバッテリーを用いるものや瞬間的な電気の出力により制御を行うことで電力の消費を抑えるものであると認められるところ,
刊行物1に「【0016】さらに,前記第一?第三の実施の形態のものにおいて,連動制御器13はDC24Vを連続して出力するように構成されているが,図9に示す第四の実施の形態の連動制御器13は,内蔵されるバッテリの容量を節約するためにパルス信号を出力するように構成されており,このため,連動制御器13から出力されるパルス信号を自己の回路で連続出力するための回路が組み込まれている。・・・電源(AC100V)からトリクル充電により連続充電されるバッテリ27が設けられている。・・・」と記載され,
刊行物2に「【0026】・・・補助電源21は,外部電源ACの供給期間中に充電される2次電池によって構成されており,この補助電源21は外部電源ACの切断直後から容量に対応した所定時間の間,駆動回路25に電源を供給することができる。」と記載されていることからみて,
補正発明の危害防止装置に電力を供給するための手法の実施例における具体的手法についても当業者であれば容易に想到しうるものである。

したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
平成23年7月8日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年12月17日付けで手続補正された請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
自重降下により開口部を閉鎖するシャッターと,
火災を検知する感知器と,
バッテリを内蔵し,前記感知器の火災信号を受信して前記シャッターのシャッターカーテンの閉鎖の信号を発信する連動制御器と,を備え,
前記シャッターは,前記連動制御器からの信号を受信して前記シャッターカーテンを閉鎖するように作動する自動閉鎖装置と,前記シャッターカーテンの閉鎖中に障害物を感知して前記自動閉鎖装置に前記シャッターカーテンの停止の信号を送信可能とする,障害物を検知する手段と,を具備する危害防止装置,を有し,
前記危害防止装置を作動させるための電力が前記連動制御器に具備された前記バッテリにより供給されるとともに,前記連動制御器は前記シャッターカーテンの閉鎖が完了するまで前記危害防止装置に電力を供給し続けることを特徴とする,シャッターを備える装置。」(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された,刊行物1,2とその記載事項は,前記「第2 2 2-1」の「(1)」,「(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2」で検討した補正発明から
「自動閉鎖装置」が「連動制御器」から受信する信号が,直接受信するものであること,及び,「バッテリ」から供給される「危害防止装置を作動させるための電力」が,直接供給されるものであることに関する構成を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2 2」の「2-2」,「2-3」に記載したとおり,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1記載の発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないものであることから,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-06 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-24 
出願番号 特願2006-56729(P2006-56729)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E06B)
P 1 8・ 575- Z (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辻野 安人  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 横井 巨人
中川 真一
発明の名称 シャッターを備える装置  
代理人 山本 典輝  

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