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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1265794
審判番号 不服2011-16766  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-04 
確定日 2012-11-07 
事件の表示 特願2006-516273「ガラス窓をオーバーモールドするための方法、シール接合部、および該方法を実現するための型」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月23日国際公開、WO2004/110720、平成18年11月30日国内公表、特表2006-527107〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2004年6月9日(パリ条約による優先権主張、外国庁受理、2003年6月10日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成21年8月14日付けで拒絶理由通知がなされ、平成22年2月16日付けで意見書および手続補正書が提出され、同年3月29日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、同年10月5日付けで意見書および手続補正書が提出され、平成23年3月28日付けで拒絶査定がなされ、同年8月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1-12に係る発明は、平成22年10月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「窓の表面の少なくとも一部分に、プラスティックまたは反応性材料を射出することによって、窓(1)をオーバーモールドするための方法であり、
窓が、型内に配置され、該型が、成形キャビティ(5)を画定する少なくとも2つの型要素(2、3)と、オーバーモールド境界を画定する少なくとも1つのシール(6)とを備え、
型が閉じられ、且つ材料が射出され、
硬化または重合の後に、型が開かれ、且つオーバーモールドされた窓が取り外され、前記シール(6)が、型要素(3)に機械加工された溝(8)内にインサートされる輪郭形成されたストリップであり、且つ摩擦接触によりおよび/または相補的形状の係合により保持される、方法であって、
前記シール(6)が、ISO 727-1規格にしたがって測定される以下のヤング率を有し、すなわち、
a.2barから10barの低型内射出圧力に対して40MPaから200MPaであり、
b.シールが、剛性のTPEから作られ且つISO 727-1規格にしたがって30MPaの引張強度を有して、200barの型内圧力の下で200MPaであり、または、
c.300barの高型内射出圧力に対して220Mpaから400MPaであることを特徴とする、方法。」(以下、「本願発明」という。)

第3.引用刊行物の記載事項
本願の優先日前に、日本国内において頒布された特開平2-147220号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「2.特許請求の範囲
1.窓ガラス周縁部でガスケットを成形してガスケット付窓ガラスを製造する方法において、少くとも2つの型部分からなるガスケットを成形するための成形型であって、しかも窓ガラスの面に接して窓ガラス面のガスケットが形成される部分と他の部分とを区画する弾性シール体が上記型部分の少くとも1つに設けられてなる成形型、と窓ガラスとを組み合せて成形型内面と窓ガラス周縁部表面で構成されたガスケットが成形されるキャビティーを形成し、しかも該型部分と弾性シール体との接触面に弾性シール体を成形型と窓ガラスを組み立てると同時にあるいは組み立てた後に駆動しうる押圧手段によって押圧し、次いで該キャビティーにガスケット材料を射出してガスケットの成形を行うことを特徴とするガスケット付窓ガラスの製造方法。」(第1頁左下欄第5行-右下欄第3行)

(1b)「[従来の技術]
……近年、ガスケットを窓ガラスの周縁部に一体的に形成するガスケット付き窓ガラスの製造方法が提案されている。この製造方法の一例を第5図によって説明すると、まず、窓ガラス1を、成形型2の上型3と下型4の間に挟むようにして、成形型2内に配置する。これによって、上型3と下型4の内面および窓ガラス1の周縁部との間にガスケットを形作るキャビティー5が形成される。なお、上型2と下型3の窓ガラス1表面と接触する部分には、窓ガラス1表面をシールするため、弾性シール体6,7が配置されている。この状態で、ゴム、エラストマーあるいは合成樹脂の溶融物あるいはゴム、エラストマーあるいは合成樹脂を形成し得る原料混合物などのガスケット材料をキャビティー5に射出し、ガスケット材料を固化させることによって、ガスケットを窓ガラス1の周縁部に一体に成形する。」(第2頁左下欄第2行-右下欄第13行)

(1c)「[発明の解決しようとする課題]
ところが上記のようなガスケット付き窓ガラスの製造方法では、射出時に射出圧力によって弾性シール体が変形して型と弾性シール体の間に隙間を生じこの隙間に射出材料が浸入してバリを生じて成形物の外観を悪くしたり、脱型を困難にしたり、或いは弾性シール体の弾性が見掛け上硬くなってガラス割れ防止の効果が減少する等の問題点があった。
たとえば成形時に弾性シール体と型の隙間に射出材料が浸入するのを防ぐためには射出圧力によって変形しない程度の硬い弾性シール体を使用する。或いはあらかじめ弾性シール体を型に強く押しつけておく等の方法があるが、これらの方法はいずれも弾性シール体を実質的に硬くしてフレキシブル性を失なわせるため、結果として成形型2、弾性シール体6,7、窓ガラス1などの形状の不均一などにより、応力が窓ガラス1に集中し易く、このため成形型2中の窓ガラス1が破損し易いという問題があった。この応力による破損は、窓ガラス1が、複雑な形状に曲げ加工されていたり、深曲げ加工(曲率半径が小さい、あるいは曲げ角度が大きい曲げ加工)されているものに特に起き易い。また、曲げ加工された窓ガラス1の曲率精度が不充分である場合も少くなく、この窓ガラス1の形状の不均一さも破損の原因になっていると考えられる。」(第3頁左上欄第1行-右上欄第8行)

(1d)「本発明では、弾性シール体を成形型の型部分に押し付け、弾性シール体とこの型部分との密着性を高めたことにより、弾性シール体の変形により両者の接触面にすき間を生じたりキャビティーに射出されたガスケット材料による内圧によってキャビティーからこのすき間にガスケット材料が漏れ出すおそれが少なくなる。」(第3頁右下欄第5行-第11行)

(1e)「本発明において、成形型は少くとも2つの型部分からなり、……代表例は2つの型部分の組み合せからなる2分割型であり、通常は上下方向に分割されるため、通常これら型部分は上型と下型と呼ばれている。以下の説明において、型部分を上型と下型と呼ぶが、……。上型と下型との組み合せからなる成形型においては、通常上型、下型のいずれにも弾性シール体と押圧手段を設けるかまたは上型のみに弾性シール体と押圧手段を設け、下型には弾性シール体を設けないか、たとえ設けても押圧手段を設けない。
……
弾性シール体はガスケットが成形されるキャビティーに対応して成形型の型部分に設けられる。その形状は通常種々の断面形状を有する帯状体である。弾性シール体の材料としては、天然ゴム、合成ゴム、合成樹脂エラストマーなどの弾性材質を採用することができる。例えば、……等の合成ゴム、シリコーンエラストマー、ポリウレタンエラストマーその他の合成樹脂エラストマーがあり、耐熱性、射出成形圧力、射出材料に対する耐久性を考慮して適切なものを選択できる。そのヤング率としては1?5,000kg/cm^(2)が適しており、さらに10?500kg/cm^(2)がシールの完全さとガラス割れ防止の観点から特に好ましい。」(第4頁右上欄第9行-第5頁左上欄第13行)

(1f)「まず第1図に示すように上型12と下型13の間に窓ガラス10を挟むように配置する。この状態で上型12と下型13とを組み合せることにより、上型12の内面、下型13の内面および窓ガラスの周縁部表面によって構成されたキャビティー14が形成される。これにより、弾性シール体15,16が型締圧で窓ガラス面に弾性をもって圧着される。この弾性シール体15,16は弾性変形により。窓ガラス10の形状に応じて変形することでその表面に密着して、窓ガラス10に応力集中を生じることなく良好なシールを行うことができる。
さらにその後押圧手段に流体圧を作用させて弾性シール体15を上型12の接触面(下型13の対応する面も同じ)に押し付ける。これにより窓ガラス10への弾性シール体15,16の押付け力を増加させるとともに弾性シール体15,16を接触面22に圧着させる。」(第6頁右上欄第7行-左下欄第4行)

(1g)「さらに、ガスケットは合成樹脂やゴムなどからなり、特にエラストマーや軟質合成樹脂からなることが好ましい。成形型に射出されるガスケット材料は合成樹脂の溶融物や成形型内で反応して合成樹脂となる流動性合成樹脂原料混合物からなる。……
さらにまた、本発明における成形型を用いた射出成形としては、特に反応射出成形(RIM)が好ましい。この方法は、上記原料混合物を射出して成形を行う方法の1種であり、射出時原料成分を急速に混合して成形型に射出するとともに成形型内で原料混合物を急速に反応させて合成樹脂成形物を得る成形方法である。この方法は溶融合成樹脂の射出成形に比べて、成形キャビティー内の流動性が良好でしかも成形キャビティー内圧が低いため……。」(第7頁左下欄第18行-第8頁左上欄第6行)

(1h)第1図には、窓ガラス10の周縁部表面をシールするための弾性シール体15、16が、上型12と下型13の凹部内に設けられ、押圧手段17、18により、上型12、下型13との接触面にそれぞれ押し付けられる様子が示されている。

(1i)第5図には、窓ガラス1の周縁部表面をシールするための弾性シール体6、7が、それぞれ、上型3、下型4の表面に設けられた溝内にインサートされた帯状体として構成される様子が示されている。

第4.引用刊行物1記載の発明
引用刊行物1には、上記摘記事項(1a)、(1f)-(1h)によれば、窓ガラス10の周縁部に、合成樹脂の溶融物や成形型内で反応して合成樹脂となる流動性樹脂原料混合物を射出することによって、窓ガラス10表面にガスケットを一体形成する方法であり、
窓ガラス10が成形型11内に配置され、該成形型11が、その内面と窓ガラス周縁部表面でガスケットを成形するキャビティー14を構成する上型12、下型13と、窓ガラス面のガスケット形成部分と他の部分を区画する弾性シール体15、16と、該弾性シール体15、16を、上型12、下型13内部との接触面にそれぞれ押圧する押圧手段17、18とを備えており、
上型12、下型13が閉じられ、且つ材料が射出され、
材料固化後に、上型12と下型13が開かれ、且つガスケットが一体形成された窓ガラスが取り出され、前記弾性シール体15、16が輪郭形成された帯状体であることが記載されている。

一方、同摘記事項(1a)、(1e)によれば、上型12のみに、弾性シール体と押圧手段を設け、下型13には弾性シール体を設けないか、設けても押圧手段を設けないこと、すなわち、下型13に押圧手段を設けずに弾性シール体を設けることについても示されている。

したがって、引用刊行物1には、
「窓ガラス10の周縁部に、合成樹脂の溶融物や成形型内で反応して合成樹脂となる流動性樹脂原料混合物を射出することによって、窓ガラス10表面にガスケットを一体形成する方法であり、
窓ガラス10が成形型11内に配置され、該成形型11が、その内面と窓ガラス周縁部表面でガスケットを成形するキャビティー14を構成する上型12、下型13と、窓ガラス面のガスケット形成部分と他の部分を区画する弾性シール体15、16と、該弾性シール体15を上型12内部との接触面に押圧する押圧手段17とを備えており、
上型12、下型13が閉じられ、且つ合成樹脂の溶融物や成形型内で反応して合成樹脂となる流動性樹脂原料混合物が射出され、
合成樹脂の溶融物や成形型内で反応して合成樹脂となる流動性樹脂原料混合物固化後に、上型12と下型13が開かれ、且つガスケットが一体形成された窓ガラスが取り出され、前記弾性シール体15、16が輪郭形成された帯状体である方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第5.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における、「窓ガラス10」、「窓ガラス10の周縁部」、「合成樹脂の溶融物や成形型内で反応して合成樹脂となる流動性樹脂原料混合物」、「窓ガラス10表面にガスケットを一体形成」、「成形型11」、「その内面と窓ガラス周縁部表面でガスケットを成形するキャビティー14を構成する上型12、下型13」、「窓ガラス面のガスケット形成部分と他の部分を区画する」、「ガスケットが一体形成された窓ガラス」、「帯状体」は、それぞれ、本願発明における「窓」および「窓(1)」、「窓の表面の少なくとも一部分」、「プラスティックまたは反応性材料」、「窓(1)をオーバーモールドする」、「型」、「成形キャビティ(5)を画定する少なくとも2つの型要素(2、3)」、「オーバーモールド境界を画定する」、「オーバーモールドされた窓」、「ストリップ」に相当する。
また、引用発明では、「弾性シール体15、16」と「弾性シール体15を上型12内部との接触面に押圧する押圧手段17」を備えているが、本願発明は「少なくとも1つのシール(6)」を備えるものであって、「シール(6)」以外のシールが、押圧手段を有することを排除するものではないから、引用発明の「弾性シール体15、16と、該弾性シール体15を上型12内部との接触面に押圧する押圧手段17とを備え」は、本願発明の「少なくとも1つのシール(6)とを備え」に相当する。

よって、両者は、
「窓の表面の少なくとも一部分に、プラスティックまたは反応性材料を射出することによって、窓をオーバーモールドするための方法であり、
窓が、型内に配置され、該型が、成形キャビティを画定する少なくとも2つの型要素と、オーバーモールド境界を画定する少なくとも1つのシールとを備え、
型が閉じられ、且つ材料が射出され、
硬化または重合の後に、型が開かれ、且つオーバーモールドされた窓が取り外され、前記シールが輪郭形成されたストリップである、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では、「前記シール(6)が、型要素(3)に機械加工された溝(8)内にインサートされ、且つ摩擦接触によりおよび/または相補的形状の係合により保持される」のに対し、引用発明では、下型13におけるシール体16の保持状態が明らかでない点。

(相違点2)
本願発明では、「前記シール(6)が、ISO 727-1規格にしたがって測定される以下のヤング率を有し、すなわち、
a.2barから10barの低型内射出圧力に対して40MPaから200Paであり、
b.シールが、剛性のTPEから作られ且つISO 727-1規格にしたがって30MPaの引張強度を有して、200barの型内圧力の下で200MPaであり、または、
c.300barの高型内射出圧力に対して220Mpaから400Paである」のに対し、引用発明では、そのような限定がない点。

上記相違点について検討する。
・(相違点1)について
引用刊行物1の上記摘記事項(1b)、(1i)、あるいは、下記周知文献の記載によれば、ガスケットを窓ガラスの周縁部に射出により一体的に形成する方法において、窓ガラス表面をシールする部材を、型表面に加工された溝内にインサートすることは、周知の手法であり、また、下記周知文献には、さらに相補的形状の係合によって保持を行うことも示されている。

周知文献:特開平2-182424号公報
第1図には、窓ガラス表面をシールする部材を、金型表面に加工された 溝内にインサート保持する様子が、また、第4図(b)には、溝内におけ る該部材の保持を、さらに相補的形状の係合によって行う様子が示されて いる。

また、溝の加工を、機械加工とすることも周知の事項である。
したがって、引用発明において、上記周知事項を適用し、相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になしえたことである。

・(相違点2)について
引用刊行物1の上記摘記事項(1e)によれば、弾性シール体は、耐熱性、射出成形圧力、耐久性を考慮して選択でき、ヤング率としては、1?5,000kg/cm^(2) 、すなわち、約0.098?490Mpaが適しており、さらにシール性とガラス割れ防止の両立の点から、より最適なヤング率を選ぶことも示されている。
そして、この弾性シール体は、押圧手段を設ける弾性シール体および押圧手段を設けない弾性シール体の両方を意味するものと解される。
一方、同摘記事項(1g)によれば、原料混合物の射出においては、反応射出成形(RIM)が好ましく、溶融合成樹脂の射出に比べ、キャビティー内圧が低いことが示されており、一般に、反応射出成形(RIM)では、型内の圧力は数kg/cm^(2)?10kg/cm^(2)、すなわち、数bar?約9.8barである(例えば、特開平3-86508号公報、第1頁右欄第7-9行参照)。
とすれば、引用発明において、反応射出成形(RIM)を実施する際、あるいは、それよりも圧力の高い溶融合成樹脂の射出を行う際、それぞれの圧力に応じ、シール性およびガラス割れ防止の観点から、弾性シール体のヤング率を最適の範囲に設定し、相違点2に係るaあるいはcの構成とすることは、当業者が適宜なしえた事項である。

なお、(相違点2)に係る構成の上記解釈は、審判請求人の平成22年10月5日付け意見書(「2.(1)」)における主張に沿うものである。

そして、本願発明が、引用発明および周知技術からは予測しえない格別の効果を奏するものとも認められない。
よって、本願発明は、引用発明および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-05 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-26 
出願番号 特願2006-516273(P2006-516273)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥野 剛規  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 田村 耕作
須藤 康洋
発明の名称 ガラス窓をオーバーモールドするための方法、シール接合部、および該方法を実現するための型  
代理人 大崎 勝真  
代理人 川口 義雄  

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