• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1266248
審判番号 不服2010-24299  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-28 
確定日 2012-11-15 
事件の表示 特願2004-551743「レーザ走査装置および熱処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日国際公開、WO2004/044955、平成18年 2月16日国内公表、特表2006-505953〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年11月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年11月6日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月4日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年6月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月28日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。
そして、平成23年12月9日付の審尋に対して、平成24年3月14日に回答書が提出されたものである。


第2 平成22年10月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、その内容は以下のとおりである。

〈補正事項1〉
補正前の請求項1の「前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱するように構成され」を、補正後の請求項1の「前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱し、前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有するように構成され」と補正する。
〈補正事項2〉
補正前の請求項10を、削除する。
〈補正事項3〉
補正前の請求項11、12を、それぞれ、補正後の請求項10、11に繰り上げる。
〈補正事項4〉
補正前の請求項13を、補正後の請求項12に繰り上げるとともに、補正前の請求項13の「請求項12において」を、補正後の請求項12の「請求項11において」と補正する。
〈補正事項5〉
補正前の請求項14を、補正後の請求項13に繰り上げる。
〈補正事項6〉
補正前の請求項15を、補正後の請求項14に繰り上げるとともに、補正前の請求項15の「請求項14において」を、補正後の請求項14の「請求項13において」と補正する。
〈補正事項7〉
補正前の請求項16を、補正後の請求項15に繰り上げる。
〈補正事項8〉
補正前の請求項17を、補正後の請求項16に繰り上げるとともに、補正前の請求項17の「請求項16において」を、補正後の請求項16の「請求項15において」と補正する。
〈補正事項9〉
補正前の請求項18を、補正後の請求項17に繰り上げるとともに、補正前の請求項18の「請求項16において」を、補正後の請求項17の「請求項15において」と補正する。
〈補正事項10〉
補正前の請求項19を、補正後の請求項18に繰り上げるとともに、補正前の請求項19の「請求項16において」を、補正後の請求項18の「請求項15において」と補正する。
〈補正事項11〉
補正前の請求項20、21を、それぞれ、補正後の請求項19、20に繰り上げる。
〈補正事項12〉
補正前の請求項22を、補正後の請求項21に繰り上げるとともに、補正前の請求項22の「請求項21において」を、補正後の請求項21の「請求項20において」と補正する。
〈補正事項13〉
補正前の請求項23、24を、それぞれ、補正後の請求項22、23に繰り上げる。
〈補正事項14〉
補正前の請求項25を、補正後の請求項24に繰り上げるとともに、補正前の請求項25の「a.前記領域を加熱可能な波長を有する連続放射線ビームを生成する工程、および」を、補正後の請求項24の「a.前記領域を加熱可能な第1の強度プロファイルおよび波長を有する連続的な放射線ビームを生成する工程と、
b.連続的な前記放射線ビームの前記第1の強度プロファイルを、前記基板において像を形成する第2の強度プロファイルに変更する工程と、」と補正し、補正前の請求項25の「b.」を、補正後の請求項24の「c.」と補正し、補正前の請求項25の「前記放射線ビームをブリュースター角でもって走査する」を、補正後の請求項24の「前記放射線ビームの前記像をブリュースター角でもって走査する」と補正し、補正前の請求項25の「走査する工程
を含み」を、補正後の請求項24の「走査する工程と、
を含み」と補正し、補正前の請求項25の「前記放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光されている」を、補正後の請求項24の「前記放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光され、前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有する」と補正する。
〈補正事項15〉
補正前の請求項26を、補正後の請求項25に繰り上げるとともに、補正前の請求項26の「請求項25において」を、補正後の請求項25の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項26の「工程b」を、補正後の請求項25の「工程c」と補正する。
〈補正事項16〉
補正前の請求項27を、補正後の請求項26に繰り上げるとともに、補正前の請求項27の「請求項26において」を、補正後の請求項26の「請求項25において」と補正し、補正前の請求項27の「工程b」を、補正後の請求項26の「工程c」と補正する。
〈補正事項17〉
補正前の請求項28と29を、削除する。
〈補正事項18〉
補正前の請求項30を、補正後の請求項27に繰り上げるとともに、補正前の請求項30の「請求項25において」を、補正後の請求項27の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項30の「c.前記連続放射線ビーム」を、補正後の請求項27の「d.連続的な前記放射線ビーム」と補正する。
〈補正事項19〉
補正前の請求項31を、補正後の請求項28に繰り上げるとともに、補正前の請求項31の「請求項25において」を、補正後の請求項28の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項31の「前記連続放射線ビーム」を、補正後の請求項28の「連続的な前記放射線ビーム」と補正し、補正前の請求項31の「c.」を、補正後の請求項28の「d.」と補正する。
〈補正事項20〉
補正前の請求項32を、補正後の請求項29に繰り上げるとともに、補正前の請求項32の「請求項25において」を、補正後の請求項29の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項32の「c.」を、補正後の請求項29の「d.」と補正する。
〈補正事項21〉
補正前の請求項33を、補正後の請求項30に繰り上げるとともに、補正前の請求項33の「請求項32において」を、補正後の請求項30の「請求項29において」と補正し、補正前の請求項33の「d.」を、補正後の請求項30の「e.」と補正する。
〈補正事項22〉
補正前の請求項34を、補正後の請求項31に繰り上げるとともに、補正前の請求項34の「請求項32において」を、補正後の請求項31の「請求項29において」と補正し、補正前の請求項34の「d.」を、補正後の請求項31の「e.」と補正する。
〈補正事項23〉
補正前の請求項35を、補正後の請求項32に繰り上げるとともに、補正前の請求項35の「請求項32において」を、補正後の請求項32の「請求項29において」と補正し、補正前の請求項35の「d.」を、補正後の請求項32の「e.」と補正する。
〈補正事項24〉
補正前の請求項36を、補正後の請求項33に繰り上げるとともに、補正前の請求項36の「請求項25において」を、補正後の請求項33の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項36の「c.」を、補正後の請求項33の「d.」と補正する。
〈補正事項25〉
補正前の請求項37を、補正後の請求項34に繰り上げるとともに、補正前の請求項37の「請求項25において」を、補正後の請求項34の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項37の「c.」を、補正後の請求項34の「d.」と補正する。
〈補正事項26〉
補正前の請求項38を、補正後の請求項35に繰り上げるとともに、補正前の請求項38の「請求項37において」を、補正後の請求項35の「請求項34において」と補正する。
〈補正事項27〉
補正前の請求項39を、補正後の請求項36に繰り上げるとともに、補正前の請求項39の「請求項37において」を、補正後の請求項36の「請求項34において」と補正し、補正前の請求項39の「d.」を、補正後の請求項36の「e.」と補正し、補正前の請求項39の「e.」を、補正後の請求項36の「f.」と補正する。
〈補正事項28〉
補正前の請求項40を、補正後の請求項37に繰り上げるとともに、補正前の請求項40の「請求項25において」を、補正後の請求項37の「請求項24において」と補正する。
〈補正事項29〉
補正前の請求項41を、補正後の請求項38に繰り上げるとともに、補正前の請求項41の「請求項40において」を、補正後の請求項38の「請求項37において」と補正し、補正前の請求項41の「c.」を、補正後の請求項38の「d.」と補正する。
〈補正事項30〉
補正前の請求項42を、補正後の請求項39に繰り上げるとともに、補正前の請求項42の「請求項40において」を、補正後の請求項39の「請求項37において」と補正し、補正前の請求項42の「c.」を、補正後の請求項39の「d.」と補正する。
〈補正事項31〉
補正前の請求項43を、補正後の請求項40に繰り上げるとともに、補正前の請求項43の「請求項25において」を、補正後の請求項40の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項43の「c.」を、補正後の請求項40の「d.」と補正する。
〈補正事項32〉
補正前の請求項44を、補正後の請求項41に繰り上げるとともに、補正前の請求項44の「請求項25において」を、補正後の請求項41の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項44の「c.」を、補正後の請求項41の「d.」と補正する。
〈補正事項33〉
補正前の請求項45を、補正後の請求項42に繰り上げるとともに、補正前の請求項45の「請求項25において」を、補正後の請求項42の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項45の「工程b」を、補正後の請求項42の「工程c」と補正する。
〈補正事項34〉
補正前の請求項46を、補正後の請求項43に繰り上げるとともに、補正前の請求項46の「請求項25において」を、補正後の請求項43の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項46の「c.」を、補正後の請求項43の「d.」と補正する。
〈補正事項35〉
補正前の請求項47を、補正後の請求項44に繰り上げるとともに、補正前の請求項47の「請求項25において」を、補正後の請求項44の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項47の「工程b」を、補正後の請求項44の「工程c」と補正する。
〈補正事項36〉
補正前の請求項48を、補正後の請求項45に繰り上げるとともに、補正前の請求項48の「請求項25において」を、補正後の請求項45の「請求項24において」と補正する。
〈補正事項37〉
補正前の請求項49を、補正後の請求項46に繰り上げるとともに、補正前の請求項49の「請求項25において」を、補正後の請求項46の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項49の「工程b」を、補正後の請求項46の「工程c」と補正する。
〈補正事項38〉
補正前の請求項50を、補正後の請求項47に繰り上げるとともに、補正前の請求項50の「請求項25において」を、補正後の請求項47の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項50の「工程b」を、補正後の請求項47の「工程c」と補正し、補正前の請求項50の「前記連続放射線ビーム」を、補正後の請求項47の「連続的な前記放射線ビーム」と補正する。
〈補正事項39〉
補正前の請求項51を、補正後の請求項48に繰り上げるとともに、補正前の請求項51の「請求項25において」を、補正後の請求項48の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項51の「工程b」を、補正後の請求項48の「工程c」と補正する。
〈補正事項40〉
補正前の請求項52を、補正後の請求項49に繰り上げるとともに、補正前の請求項52の「請求項51において」を、補正後の請求項49の「請求項48において」と補正し、補正前の請求項52の「工程b」を、補正後の請求項49の「工程c」と補正する。
〈補正事項41〉
補正前の請求項53を、補正後の請求項50に繰り上げるとともに、補正前の請求項53の「請求項25において」を、補正後の請求項50の「請求項24において」と補正し、補正前の請求項53の「c.前記連続放射線ビーム」を、補正後の請求項50の「d.連続的な前記放射線ビーム」と補正し、補正前の請求項53の「d.」を、補正後の請求項50の「e.」と補正し、補正前の請求項53の「前記連続放射線ビーム」を、補正後の請求項50の「連続的な前記放射線ビーム」と補正する。
〈補正事項42〉
補正前の請求項54を、補正後の請求項51に繰り上げるとともに、補正前の請求項54の「請求項53において」を、補正後の請求項51の「請求項50において」と補正する。
〈補正事項43〉
補正前の請求項55を、補正後の請求項52に繰り上げるとともに、補正前の請求項55の「請求項54において」を、補正後の請求項52の「請求項51において」と補正し、補正前の請求項55の「e.」を、補正後の請求項52の「f.」と補正する。
〈補正事項44〉
補正前の請求項56を、補正後の請求項53に繰り上げるとともに、補正前の請求項56の「請求項16において」を、補正後の請求項53の「請求項15において」と補正する。
〈補正事項45〉
補正前の請求項57を、補正後の請求項54に繰り上げるとともに、補正前の請求項57の「請求項56において」を、補正後の請求項54の「請求項53において」と補正する。
〈補正事項46〉
補正前の請求項58を、補正後の請求項55に繰り上げるとともに、補正前の請求項58の「請求項56において」を、補正後の請求項55の「請求項53において」と補正する。
〈補正事項47〉
補正前の請求項59を、補正後の請求項56に繰り上げるとともに、補正前の請求項59の「請求項16において」を、補正後の請求項56の「請求項15において」と補正する。
〈補正事項48〉
補正前の請求項60を、補正後の請求項57に繰り上げるとともに、補正前の請求項60の「請求項59において」を、補正後の請求項57の「請求項56において」と補正する。
〈補正事項49〉
補正前の請求項61を、補正後の請求項58に繰り上げるとともに、補正前の請求項61の「請求項59において」を、補正後の請求項58の「請求項56において」と補正する。
〈補正事項50〉
補正前の請求項62?64を、それぞれ、補正後の請求項59?61に繰り上げる。
〈補正事項51〉
補正前の請求項65を、補正後の請求項62に繰り上げるとともに、補正前の請求項65の「請求項64において」を、補正後の請求項62の「請求項61において」と補正する。
〈補正事項52〉
補正前の請求項66を、補正後の請求項63に繰り上げるとともに、補正前の請求項66の「請求項64において」を、補正後の請求項63の「請求項61において」と補正する。
〈補正事項53〉
補正前の請求項67を、補正後の請求項64に繰り上げる。
〈補正事項54〉
補正前の請求項68を、補正後の請求項65に繰り上げるとともに、補正前の請求項68の「請求項67において」を、補正後の請求項65の「請求項64において」と補正する。
〈補正事項55〉
補正前の請求項69を、補正後の請求項66に繰り上げるとともに、補正前の請求項69の「請求項67において」を、補正後の請求項66の「請求項64において」と補正する。
〈補正事項56〉
補正前の請求項70、71を、それぞれ、補正後の請求項67、68に繰り上げる。
〈補正事項57〉
補正前の請求項72を、補正後の請求項69に繰り上げるとともに、補正前の請求項72の「請求項43において」を、補正後の請求項69の「請求項40において」と補正する。
〈補正事項58〉
補正前の請求項73を、補正後の請求項70に繰り上げるとともに、補正前の請求項73の「請求項72において」を、補正後の請求項70の「請求項69において」と補正する。

上記補正事項1?58は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面とみなされる翻訳文に記載した事項の範囲内においてなされたものである、と認められる。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

2 補正目的の適否
(1)補正事項1について
補正事項1は、補正前の請求項1の「前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱するように構成され」を、補正後の請求項1の「前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱し、前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有するように構成され」とする補正であるが、これは、補正前の請求項1の「前記像」が、補正後にあっては、「前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有する」ことを特定したものである。
したがって、補正事項1は、補正前の請求項1の発明特定事項である「前記像」を概念的により下位のものに限定する補正であるから、補正事項1は、特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とする補正に該当する。

(2)補正事項2、17について
補正事項2、17は、請求項の削除を目的とする補正に該当する。

(3)補正事項14について
補正事項14において、補正前の請求項25の「a.前記領域を加熱可能な波長を有する……放射線ビームを生成する工程、および」を、補正後の請求項24にあっては「a.前記領域を加熱可能な第1の強度プロファイルおよび波長を有する……放射線ビームを生成する工程と、
b.連続的な前記放射線ビームの前記第1の強度プロファイルを、前記基板において像を形成する第2の強度プロファイルに変更する工程と、」とする補正、補正前の請求項25の「前記放射線ビームをブリュースター角でもって走査する」を補正後の請求項24の「前記放射線ビームの前記像をブリュースター角でもって走査する」とする補正、及び、補正前の請求項25の「前記放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光されている」を補正後の請求項24の「前記放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光され、前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有する」とする補正は、いずれも、特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とする補正に該当する。
また、補正前の請求項25の「連続放射線ビーム」を補正前の請求項25の「連続的な放射線ビーム」とする補正、補正前の請求項25の「b.」を補正後の請求項24の「c.」とする補正、及び、補正前の請求項25の「走査する工程
を含み」を、補正後の請求項24の「走査する工程と、
を含み」とする補正部分は、明りょうでない記載の釈明と認められる。
したがって、補正事項14は、前記特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。

(4)補正事項3?13、15、16、18?58について
補正事項3?13、15、16、18?58は、補正事項2、17で請求項を削除したことに伴って、請求項を繰り上げ、また、必要に応じて、引用する請求項を変更し、また、補正事項14で用語を変更したことに伴って、必要に応じて、用語を変更した補正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。

(5)補正目的の適否のまとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号、第2号、及び、第4号に規定する要件を満たす。

そこで、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを、請求項1に係る発明について検討する。

3 独立特許要件を満たすかどうかの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
「基板の領域を熱処理する装置であって、
連続的な第1の放射線ビームを提供可能な連続放射線源と、
前記第1の放射線ビームを受けて、前記基板に像を形成する第2の放射線ビームを形成するように構成された光学系と、
前記基板を支持するように構成されたステージと、
を軸に沿って含み、
前記第1の放射線ビームは、前記基板の領域を加熱可能な第1の強度プロファイルおよび波長を有し、
前記光学系および前記ステージのうち少なくとも1つは、走査方向において前記基板に関して前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱し、前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有するように構成され、
前記軸は、前記基板の表面の法線と入射角Φを形成し、前記入射角Φは、ブリュースター角であり、前記第2の放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光されている、装置。」

(2)引用例の表示
引用例1:特開2000-306834号公報

(3)引用例1の記載と引用発明
(3-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2000-306834号公報(以下「引用例1」という。)には、「レーザ照射方法およびレーザ照射装置および半導体装置」(発明の名称)に関して、図1?図4、図6、図8、図22とともに、次の記載がある。

ア 発明の背景等
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は薄膜トランジスタで構成された回路を有する半導体装置に関する。例えば液晶表示装置に代表される電気光学装置およびその様な電気光学装置を部品として搭載した電気機器の構成に関する。なお、本明細書中において半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、上記電気光学装置および電気機器も半導体装置である。
【0002】
【従来の技術】近年、ガラス等の絶縁基板上に形成された非晶質半導体膜や結晶性半導体膜(単結晶でない、多結晶、微結晶等の結晶性を有する半導体膜)、すなわち、非単結晶半導体膜に対し、レーザアニールを施して、結晶化させたり、結晶性を向上させる技術が、広く研究されている。上記半導体膜には、珪素膜がよく用いられる。」
・「【0012】
【発明が解決しようとする課題】上記パルス発振エキシマレーザビームを線状に加工し、例えば非単結晶珪素膜に対し、該線状レーザビームを走査させながら照射した場合、ビームとビームの重なりの部分で縞ができてしまう現象が目立った。(図22参照。)」

イ 課題を解決するための手段
・「【0018】連続発光のエキシマレーザを使えば、本明細書の課題であるパルスレーザの照射跡が出来なくなる。よって、非常に均質性の高い膜が得られる。
【0019】パルスレーザを照射したことにより生じる珪素膜の起伏を図22に示し、連続発光レーザを照射したことにより生じる珪素膜の起伏を図1に示す。」

ウ 発明の実施の形態
・「【0024】
【発明の実施の形態】ここでは、連続発光エキシマレーザを使って非晶質珪素膜を結晶化する具体的方法を述べる。
【0025】まず、基板として125×125×0.7mmのガラス基板(コーニング1737)を用意する。この基板は600℃までの温度であれば充分な耐久性がある。該ガラス基板上に下地膜として酸化珪素膜を200nm成膜する。さらに、その上から非晶質珪素膜を55nmの厚さに成膜する。成膜は、共にプラズマCVD法にて行う。またはスパッタ法等の公知の成膜方法にて成膜すればよい。」
・「【0027】本実施例では、連続発光エキシマレーザとして、1000WのKrFエキシマレーザを使う。発振波長は248nmである。
【0028】基板1枚をレーザ処理する間、該レーザのエネルギーは、そのエネルギーの変動が±10%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±1%以内に収まっていると、均質な結晶化が行える。」
・「【0035】ここでは、上記レーザを適当な光学系を用いて5mm(ドライバーの幅に対応させる。)×0.1mmのサイズに変換する。光学系には、シリンドリカルレンズアレイと集光用のシリンドリカルレンズを組み合わせたものを使用する。光学系を構成するレンズの材質は、紫外光を透過させる合成溶融石英を用いる。レンズ表面には波長248nmで透過率99%以上が得られるように、ARコート処理を施す。透過率と耐レーザ性を高めるためである。
【0036】該光学系の構成は例えば、図3に示すものにするとよい。1000Wの連続発光エキシマレーザを安定に発振させうるビーム径は直径0.3mm程度の円形ビームであると算出されている。よって、まずシリンドリカルレンズ301、302で構成されるビームエキスパンダーでビームを1方向に広げ、次にシリンドリカルレンズアレイ303でビームを分割し、さらに集光用シリンドリカルレンズアレイ304で照射面に5mm長のビームを形成させる。
【0037】上記シリンドリカルレンズに直角にシリンドリカルレンズ305を配置し、概略0.3mm幅となっているビームを照射面で0.1mm幅にする。」
・「【0042】上記、照射面でのビーム形状が線状である連続発光エキシマレーザの、該線方向におけるエネルギー分布が±5%以内であると珪素膜に対し均質な結晶化を行える。好ましくは、±3%以内、より好ましくは、±1%以内にするとより均質な結晶化が行える。
【0043】図2にレーザ照射装置の外観を示す。レーザ発振装置201から連続発光エキシマレーザビームが出射され、光学系202により線状に加工され、被処理基板204に照射される。
【0044】レーザ照射は、XYステージ205上で行う。XYステージに上記基板を設置し、XYステージ205の1点にレーザが照射されるようにレーザ照射装置を設置する。レーザのピントは基板表面に合うように調整する。XYステージ205には位置決め精度が10μmのものを使用する。
【0045】例えば、3.5インチのドライバー画素一体型の液晶表示装置で、画素とドライバーの間の隙間は、300μm程度ある。よって、画素にレーザを照射せず、ドライバーのみにレーザを照射するには、上記のXYステージの精度があれば十分である。
【0046】レーザ照射は例えば、図4に示すように該XYステージを走査させながら行う。このとき、画素領域208にはレーザが当たらないようにする。走査のスピードは、実施者が適宜決めればよいが、目安は、0.1?10m/sの範囲で適当なものを選ぶ。走査スピードが所望のスピードに達するまで、照射前にXYステージを助走させる必要がある。この処理をソースドライバー領域206と、ゲートドライバー領域207に対し行う。
【0047】こうして、レーザアニール工程が終了する。上記工程を繰り返すことにより、多数の基板を処理できる。」

エ 実施例2
・「【0065】〔実施例2〕上記実施例1で計算したスポットサイズは非常に小さいので、大量生産には使いにくい。そこで、本実施例では、歪み点温度が高い石英基板を基板に使用することでレーザビームのサイズを飛躍的に大きくした例を示す。石英基板は珪素膜の融点温度に加熱されても全く変形、変質しない。よって、ビームサイズを広げることができる。本実施例中、照射対象は、発明実施の形態で示した珪素膜基板で、基板をガラス基板から厚さ1.1mmの石英基板に置換したものとする。
【0066】本実施例では、1000Wの連続発光エキシマレーザを線状ビーム(サイズ125mm×0.4mm)に加工し使用する例を示す。該レーザを線状ビームに加工する手段を図8に示す。
【0067】図8に示す装置は、レーザ発振装置406からのレーザ光(この状態では概略矩形形状を有している)を407、408、409、410、412で示す光学系を介して、線状ビーム405として照射する機能を有している。ステージ413は1方向に動作する1軸ステージである。これを走査させることで、ステージ413上に配置する基板をレーザ照射する。
【0068】なお、レーザ発振装置から出射されるレーザビームのサイズは、もともと直径0.3mm円ビームであるが、これを図示しない2組のビームエキスパンダーを使って概略10×35mmの楕円に広げる。411はミラーである。
【0069】上記光学系はすべて石英製である。石英は、エキシマレーザの波長域の透過率が十分高いために使用された。また、使用するエキシマレーザの波長(本明細書では248nm)にあわせ適当なコーティングを光学系表面に施した。これにより、レンズ単体で透過率99%以上が得られた。また、レンズの耐久性も増した。
【0070】407はシリンドリカルレンズアレイと呼ばれ、ビームを多数に分割する機能を有する。この分割された多数のビームは、シリンドリカルレンズ410で1つに合成される。
【0071】この構成は、ビーム内の強度分布を均一にするために必要とされる。また、シリンドリカルレンズアレイ408とシリンドリカルレンズ409との組み合わせも上述したシリンドリカルレンズアレイ407とシリンドリカルレンズ410の組み合わせと同様な機能を有する。
【0072】シリンドリカルレンズアレイ407とシリンドリカルレンズ410の組み合わせは、線状レーザビームの長手方向における強度分布を均一にする機能を有し、シリンドリカルレンズアレイ408とシリンドリカルレンズ409の組み合わせは、線状レーザビームの幅方向における強度分布を均一にする機能を有している。
【0073】シリンドリカルレンズアレイ408とシリンドリカルレンズ409の組み合わせにより、いったんビーム幅wのビームが形成される。ミラー411を介して、さらに、ダブレットシリンドリカルレンズ412を配置することにより、より細い(ビーム幅wよりも細い)線状レーザビームを得ることができる。
【0074】図8の光学系で形成される線状レーザビームのエネルギー分布は、その幅方向の断面をみると、矩形状の分布を示した。すなわち、エネルギー密度について非常に均質性の高い線状レーザビームを得ることができた。」
・「【0081】また、シリンドリカルレンズアレイ407は、レーザの光路に沿って、照射面から、2100mmレーザ寄りに配置した。
【0082】また、シリンドリカルレンズアレイ408は、レーザの光路に沿って、照射面から、1980mmレーザ寄りに配置した。
【0083】また、シリンドリカルレンズ409は、レーザの光路に沿って、照射面から、1580mmレーザ寄りに配置した。
【0084】また、シリンドリカルレンズ410は、レーザの光路に沿って、照射面から、1020mmレーザ寄りに配置した。
【0085】また、ダブレットシリンドリカルレンズ412は、レーザの光路に沿って、照射面から、275mmレーザ寄りに配置した。」

オ 実施例5
・「【0105】〔実施例5〕本実施例では、基板の全面をレーザで結晶化する方法を示す。発明実施の形態では、ドライバー領域のみの結晶化を行ったが、本実施例では、基板全面をレーザ照射する。
【0106】使用するレーザは、図2に示したものとする。ビーム長は5mmあるので、5mmずつ走査位置をずらしながら、基板全面にレーザ照射する。レーザの1走査領域とその隣の走査領域の重なり部分を制御することが重要である。
【0107】レーザの重なり部分は、先に述べたように特性がやや悪い。よって、この重なり部分が素子領域に入らないようにする。該重なり部分はレーザビーム長さ方向の端にあるエネルギーの減衰する領域に当てる。該減衰領域は、レーザビームを形成する光学系の精度にもよるが、現在の技術水準で50μm程度に抑えることができる。
【0108】よって、本実施例で使用する5mm長のレーザビームを50μmずつ重ね合わせて基板全面にレーザを照射する。該重ね合わせの領域には、素子のチャネル領域やオフセット領域、LDD領域がこないようにする。
【0109】上記全面照射の様子は図6に示す。」

カ 発明の効果
・「【0234】
【発明の効果】本発明により、レーザビームによるレーザアニールの効果の面内均質性を向上させることができる。」

キ 図面
・図2には、レーザ発振装置201、光学系202、被処理基板204を載置するXYステージ205が、レーザビームの光路に沿って配置されていることが、図示されている。
・図6には、線状レーザビームを、前記線状レーザビームの線方向と垂直な方向で走査することが、図示されている。

(3-2)引用発明
上記ア?キによれば、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「連続発光エキシマレーザビームが出射される連続発光エキシマレーザからなるレーザ発振装置201と、
前記連続発光エキシマレーザビームを被処理基板204に照射するために線状に加工する光学系202と、
前記基板204を設置したXYステージ205と、
を光路に沿って含み、
前記連続発光エキシマレーザビームは直径0.3mm程度の円形ビームであるとともに発振波長は248nmであり、
前記XYステージ205を走査させながら前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射することによりレーザアニールを行い、
前記基板204の照射面での前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームの、該線方向におけるエネルギー分布が、好ましくは、±3%以内、より好ましくは、±1%以内であることを特徴とする、レーザアニール装置。」

(4)対比
(4-1)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「前記XYステージ205を走査させながら前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射することによりレーザアニールを行」う「レーザアニール装置」において、引用発明の「前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207」は、本願補正発明の「基板の領域」に対応し、引用発明の「レーザアニール装置」は、本願補正発明の「熱処理する装置」に対応するので、引用発明の「前記XYステージ205を走査させながら前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射することによりレーザアニールを行」う「レーザアニール装置」は、本願補正発明の「基板の領域を熱処理する装置」に相当する。

イ 引用発明の「連続発光エキシマレーザビームが出射される連続発光エキシマレーザからなるレーザ発振装置201」において、引用発明の「連続発光エキシマレーザビーム」は、本願補正発明の「連続的な第1の放射線ビーム」に対応し、引用発明の「連続発光エキシマレーザからなるレーザ発振装置201」は、本願補正発明の「連続放射線源」に対応するので、引用発明の「連続発光エキシマレーザビームが出射される連続発光エキシマレーザからなるレーザ発振装置201」は、本願補正発明の「連続的な第1の放射線ビームを提供可能な連続放射線源」に相当する。

ウ 引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビームを被処理基板204に照射するために線状に加工する光学系202」において、前記「レーザビームを被処理基板204に照射する」と前記「被処理基板204」に前記「レーザビーム」の像ができるから、引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビームを被処理基板204に照射する」ことは、本願補正発明の「前記第1の放射線ビームを受けて、前記基板に像を形成する」ことに対応する。また、引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビームを」「線状に加工する」ことは、本願補正発明の「第2の放射線ビームを形成する」ことに対応する。
したがって、引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビームを被処理基板204に照射するために線状に加工する光学系202」は、本願補正発明の「前記第1の放射線ビームを受けて、前記基板に像を形成する第2の放射線ビームを形成するように構成された光学系」に相当する。

エ 引用発明の「前記基板204を設置したXYステージ205」は、本願補正発明の「前記基板を支持するように構成されたステージ」に相当する。

オ 引用発明の「光路に沿って含み」において、「光路」は光軸を有することは、明らかであるので、引用発明の「光路に沿って含み」は、本願補正発明の「軸に沿って含み」に相当する。

カ 引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビームは直径0.3mm程度の円形ビームであるとともに発振波長は248nmであ」ることにおいて、引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビーム」は、「レーザアニール」に用いられるから、「前記連続発光エキシマレーザビーム」の「照射」領域を加熱可能であることは、明らかである。
そして、引用発明の「直径0.3mm程度の円形ビーム」は、「加工」して「前記基板204」の前記「レーザアニール」を行うための「ビーム」であるから、本願補正発明の「前記基板の領域を加熱可能な第1の強度プロファイル」に相当し、引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビーム」の「発振波長は248nmであ」ることは、本願補正発明の「前記基板の領域を加熱可能」な「波長を有」することに相当する。
したがって、引用発明の「前記連続発光エキシマレーザビームは直径0.3mm程度の円形ビームであるとともに発振波長は248nmであ」ることは、本願補正発明の「前記第1の放射線ビームは、前記基板の領域を加熱可能な第1の強度プロファイルおよび波長を有」することに相当する。

キ 引用発明の「前記XYステージ205を走査させながら前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射することによりレーザアニールを行」うことにおいて、引用発明の「前記XYステージ205を走査させながら前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射する」ことは、本願補正発明の「前記光学系および前記ステージのうち少なくとも1つは、走査方向において前記基板に関して前記像を走査」することに相当し、引用発明の「前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射することによりレーザアニールを行」うことは、本願補正発明の「前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱」することに相当する。
したがって、引用発明の「前記XYステージ205を走査させながら前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを前記基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射することによりレーザアニールを行」うことは、本願補正発明の「前記光学系および前記ステージのうち少なくとも1つは、走査方向において前記基板に関して前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱」することに相当する。

ク 引用発明の「前記基板204の照射面での前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームの、該線方向におけるエネルギー分布が、好ましくは、±3%以内、より好ましくは、±1%以内である」ことにおいて、引用発明の「前記基板204の照射面での前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビーム」は、「照射」により「前記基板204の照射面」に像を形成することは、明らかである。
また、引用発明の「該線方向」は、引用例1の図6及び図9の記載を参照すれば、本願補正発明の「前記走査方向に垂直な方向」に相当する。
そして、引用発明の「エネルギー分布が、好ましくは、±3%以内、より好ましくは、±1%以内である」ことは、「エネルギー分布」が±2%であるとの態様を含んでいるから、本願補正発明の「+/-2%の均一強度を有する」に相当する。
したがって、引用発明の「前記基板204の照射面での前記線状に加工した連続発光エキシマレーザビームの、該線方向におけるエネルギー分布が、好ましくは、±3%以内、より好ましくは、±1%以内である」ことは、本願補正発明の「前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有する」ことに相当する。

(4-2)一致点及び相違点
そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「基板の領域を熱処理する装置であって、
連続的な第1の放射線ビームを提供可能な連続放射線源と、
前記第1の放射線ビームを受けて、前記基板に像を形成する第2の放射線ビームを形成するように構成された光学系と、
前記基板を支持するように構成されたステージと、
を軸に沿って含み、
前記第1の放射線ビームは、前記基板の領域を加熱可能な第1の強度プロファイルおよび波長を有し、
前記光学系および前記ステージのうち少なくとも1つは、走査方向において前記基板に関して前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱し、前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有するように構成される、装置。」

《相違点》
本願補正発明は、「前記軸は、前記基板の表面の法線と入射角Φを形成し、前記入射角Φは、ブリュースター角であり、前記第2の放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光されている」のに対して、引用発明は、このような構成を有していない点。

(5)相違点についての判断
ア 例えば、以下の周知文献1に記載されているように、レーザアニールにおいて、基板に照射されるレーザ光をp-偏光とし、ブリュースター角となるような入射角で前記基板に照射することは、周知技術である。

イ 周知文献1:特開平1-173707号公報
拒絶査定で「周知例」として提示された、上記周知文献1には、「半導体基板のレーザアニールを行うに際し、レーザ光の偏光を直線偏光とし、かつ前記直線偏光を入射面に対して平行としたレーザ光を用い、前記レーザ光を前記半導体基板固有のブリュースター角で入射させてアニールを行うレーザアニール方法。」(特許請求の範囲)が記載され、その実施例が第1図とともに第2ページ上右欄第13行?同ページ下左欄第15行に説明されており、特に、「第1図は本発明の実施例におけるレーザアニール方法を示すものである。以下にその詳細を説明する。第1図aにおいて、レーザ発振器1aから出た、紙面に平行な偏光方向Pをもつレーザ光Lは、全反射ミラー2aによって、試料4a固有のブリュースター角となるように入射角θ^(i)を調整された後、凸レンズ3aを通して、X-Yステージ5bに取り付けられた試料4aに照射される。試料4aとしてシリコンを用いた場合、θ^(i)=16.2°としたときに、反射による損失は皆無となり、試料により吸収されるエネルギーは、垂直入射の場合の約1.43倍となる。」(第2ページ上右欄第13行?同ページ下左欄第4行)ことが、記載されている。

ウ そして、引用発明においても、「照射」する「連続発光エキシマレーザビーム」の反射を防止して、該「連続発光エキシマレーザビーム」のエネルギーをより有効に活用しようとすることは、当業者であれば、当然に想起したものと認められる。
すると、引用発明の「レーザアニール装置」において、「線状に加工した連続発光エキシマレーザビームを被処理基板204のソースドライバー領域206とゲートドライバー領域207に対して照射する」際に、上記アに記載の周知技術を適用して、本願補正発明のように「前記軸は、前記基板の表面の法線と入射角Φを形成し、前記入射角Φは、ブリュースター角であり、前記第2の放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光されている」ようになすことは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

エ なお、審判請求人は、平成24年3月14日に提出した回答書において、
・「本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」ともいう)は、特許請求の範囲に記載された、「前記(基板に照射される)像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有する」こと(以下、「第1の事項」ともいう。)と、「前記軸は、前記基板の表面の法線と入射角Φを形成し、前記入射角Φは、ブリュースター角であり、前記第2の放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光されている」こと(以下、「第2の事項」ともいう。)を備えるものである。
一般的に、半導体基板は、シリコン、酸化シリコンおよび窒化シリコンなど複数の異なる材料からなる表面を含むため、基板の表面は様々な反射率を有する。このような基板を熱処理する場合、基板の温度分布は、表面材料の材料固有の反射率によって影響を受けると考えられる。本願発明1は、上記第1の事項と第2の事項を備えることで、このような基板であっても、基板の温度分布をより均一にする効果を奏する。」、
・「例えば、10.6μmのシリコンの反射率は、通常、3.75程度であることが知られており、10.6μmの酸化シリコンや、窒化シリコンの反射率は、2程度であることが知られている。したがって、通常のレーザービームを照射した場合、シリコンは33%のレーザービームを反射するのに対し、酸化シリコンや、窒化シリコンは11%のレーザービームを反射する。つまり、シリコンからなる部分と、酸化シリコンや、窒化シリコンからなる部分との間で、約22%程度の反射率の差が発生することになる。
したがって、引用文献4(審決注:当該審決における「引用例1」)に開示される手段でもって、完全に均一なプロファイルを有する線状レーザービームを照射したとしても、線状レーザービームが照射された像のプロファイルは、基板上に様々な反射率を有する部材があるため、20%程度のばらつきを有することは明らかである。
これに対し、本願発明1は、第2の事項を備えることで、基板の表面において、入射放射線に対する反射率が異なる材料(例えば、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコンなど)を有する半導体基板であっても、入射角がブリュースター角であることにより、それぞれの異なる材料からの反射率を均一化にすることができる。」、
との主張をしている。

オ しかしながら、上記各主張は、「熱処理する」対象の基板が半導体基板であり、シリコン、酸化シリコンおよび窒化シリコンなど複数の異なる材料からなる表面を含んでいることを前提とする主張である。
しかしながら、本件補正後の請求項1には、「熱処理する」対象の基板が、シリコン、酸化シリコンおよび窒化シリコンなど複数の異なる材料からなる表面を含んでいることについては、何ら記載されておらず、したがって、本願補正発明は、「熱処理する」対象の「基板」の表面が均一な材料で形成されているものを包含している。
したがって、前記各主張は、特許請求の範囲の記載に基づく主張ではなく、前記主張を採用することはできない。

(6)独立特許要件を満たすかどうかの検討のまとめ
以上のとおり、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 小括
以上の次第で、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
1 以上のとおり、本件補正(平成22年10月28日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので、本願の請求項1?73に係る発明は、平成21年11月10日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書または図面の記載からみて、その請求項1?73に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
「基板の領域を熱処理する装置であって、
連続的な第1の放射ビームを提供可能な連続放射線源と、
前記第1の放射ビームを受けて、前記基板に像を形成する第2の放射線ビームを形成するように構成された光学系と、
前記基板を支持するように構成されたステージと、
を軸に沿って含み、
前記第1の放射ビームは、前記基板の領域を加熱可能な第1の強度プロファイルおよび波長を有し、
前記光学系および前記ステージのうち少なくとも1つは、走査方向において前記基板に関して前記像を走査して、前記第2の放射線ビームを用いて、前記領域の熱処理が十分である温度へと前記領域を加熱するように構成され、
前記軸は、前記基板の表面の法線と入射角Φを形成し、前記入射角Φは、ブリュースター角であり、前記第2の放射線ビームは、前記基板に関してp-偏光されている、装置。」

2 引用例1の記載と引用発明
引用例1の記載と、引用発明については、前記「第2 平成22年10月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件を満たすかどうかの検討」の「(3)引用例1の記載と引用発明」において、「(3-1)引用例1の記載」で摘記したとおりであり、「(3-2)引用発明」において認定したとおりである。

3 対比・判断
前記「第2 平成22年10月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」における、「1 本件補正の内容」の「〈補正事項1〉」、及び、「2 補正目的の適否」の「(1)補正事項1について」で検討したように、本願補正発明は、本件補正前の発明の「前記像」が、本件補正後においては「前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有する」ものであることを限定したものである。逆に言えば、本件補正前の発明(本願発明)は、本願補正発明から、上記の「前記像は、前記走査方向に垂直な方向において、+/-2%の均一強度を有する」という限定をなくしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記前記「第2 平成22年10月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件を満たすかどうかの検討」において検討したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-18 
結審通知日 2012-06-20 
審決日 2012-07-03 
出願番号 特願2004-551743(P2004-551743)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正池渕 立後谷 陽一  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
恩田 春香
発明の名称 レーザ走査装置および熱処理方法  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 布施 行夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ