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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1266343 |
審判番号 | 不服2009-21101 |
総通号数 | 157 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-10-30 |
確定日 | 2012-11-12 |
事件の表示 | 特願2000-522885「ポリエチレングリコール-GRF結合体の部位特異的調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月10日国際公開、WO99/27897、平成13年12月 4日国内公表、特表2001-524505〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、1998年12月1日(パリ条約による優先権主張1997年12月3日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成21年10月30日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 配列番号:1のアミノ酸配列を含むヒト成長ホルモン放出因子(hGRF)からなるヒト成長ホルモン放出因子-ポリエチレングリコール(hGRF-PEG)結合体であって、配列番号:1のLys^(12),配列番号:1のLys^(21)及びhGRFのアミノ末端基(N^(α))の少なくとも一つのアミノ基からなる群から選択されるアミノ酸のみに共有結合したhGRFあたり、hGRFが少なくとも一つのポリエチレングリコール(PEG)ユニットを有し、そしてhGRF-PEG結合体はトリアジン基を有さない、上記結合体。」 なお、請求項1の下線部について実際には「配列番号:17のLys^(21)」と記載されているが、本願明細書にはアミノ酸配列は一つ(配列番号:1)しか記載されておらず、また同じアミノ酸配列について図1にはアミノ末端基、12位及び21位のリジンが矢印でPEG化可能位置として表示されていることから、「配列番号:17のLys^(21)」は「配列番号:1のLys^(21)」の明らかな誤記と認め、本願の請求項1に係る発明を上記のように認定した。 また、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年10月30日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりの(ただし、上記で認定した請求項1を引用する)ものであり、以下のとおりのものである。 「【請求項2】 1PEG単位がLys^(21)に共有結合している請求項1記載のhGRF-PEG結合体。」 2.引用例の記載 本願の優先日前に頒布された以下の刊行物には、次の事項が記載されている。なお、いずれの刊行物も原文は英語であるため、訳文を示す。また、下線は当審で付加した。 (1)Int. J. Peptide Protein Res., 1995, Vol.46, p.253-264(原審における引用文献3。以下、「引用例1」という。) (1a)(第253ページ要約第1?12行) 「成長ホルモン放出因子の強力なアナログである、[Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2)の位置特異的PEG化(NH_(2)-末端、側鎖及びカルボキシ末端)のための条件が開発された。・・・(中略)・・・hGRFアナログの生理的活性が、培養されたラット下垂体細胞による成長ホルモン放出の刺激を指標として、インビトロで確認された。・・・(中略)・・・Lys^(21)又はAsp^(25)でのPEG化は生理的活性を顕著に変化させなかった。」 (1b)(第253ページ左欄第1行?右欄第9行) 「モノメトキシポリ(エチレングリコール) (PEG)-修飾タンパク質は、タンパク質分解に対する耐性の向上、抗原性及び免疫源性の減少、並びに低毒性を有するものとして報告されてきた(1)。これらの変更された生化学的/物理的性質は、官能性のPEG誘導体への複合体化により、幾つかのタンパク質に組み込まれてきた。その結果として得られたPEG化タンパク質は、改良された薬物動態プロファイルや向上された血漿半減期を示し、幾つかは有望な治療薬として開発されている(2-6)。」 (1c)(第254ページ右欄第27?40行) 「[Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2)のLys^(12)及びLys^(21)における側鎖のPEG化(4a、b、及び5a、b)も、スキーム3で説明される2つの方法のいずれかにより行われた。直接的な側鎖のPEG化はFmoc-Lys(PEG-CH_(2)-CO-Nle)-OHを用いた固相カップリング、続いてレジン担体に固定されたPEG化ペプチドの組立て及びTFAによる切離しにより達成された。これと類似の事後的PEG化方法として、Lys^(12)又はLys^(21)の側鎖をLys(Alloc)で保護して用いる方法も開発された。レジン担体に結合したペプチドの組立ての後、パラジウム触媒を用いた保護基脱離反応によりN^(ε)-アリルオキシ-カルボニル基が選択的に外され、PEG-CH_(2)-CO-Nle-OHによりPEG化された(7)。」 (1d)(第257ページ表1) 「 表1 PEG化された[Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2)アナログの生理的活性 GRF アナログ PEG化位置 活性^(a) hGRF(1-44)-NH_(2) - 1.00 [Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2) - 3.81 ・・・(中略)・・・ 4a [Ala^(15),Lys(Nle-PEG_(5000))^(21)]-hGRF(1-29)-NH_(2 ) 21 3.24 ・・・(中略)・・・ ^(a)インビボでのラット下垂体細胞によるGHホルモン放出刺激能力によって示される、hGRF(1-44)に対する相対活性(以下略)」 (2)国際公開第97/17367号(国際公開日1997年5月15日。原審における引用文献4。以下、「引用例2」という。) (2a)(第4ページ第28行?第5ページ第8行) 「ヒトGRFは以下に示される44アミノ酸からなるペプチドである。 ・・・(中略)・・・ 最小の活性コアはhGRF(1-29)NH_(2)である Tyr Ala Asp Ala Ile Phe Thr Asn Ser Tyr Arg Lys Val Leu Gly Gln 1 5 10 15 Leu Ser Ala Arg Lys Leu Leu Gln Asp Ile Met Ser Arg 20 25 (配列番号:2)。」 (2b)(第5ページ第32?33行) 「本発明は特に(Gly又はAla)^(15)又は^(32)GRFを含むペプチドの高収率生産方法であって、以下を含むものに関連する: ・・・(後略)」 3.対比 請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、請求項1の記載を引用しないものとして記載すると、 「配列番号:1のアミノ酸配列を含むヒト成長ホルモン放出因子(hGRF)からなるヒト成長ホルモン放出因子-ポリエチレングリコール(hGRF-PEG)結合体であって、配列番号:1のLys^(21)のみに共有結合したhGRFあたり、一つのポリエチレングリコール(PEG)ユニットを有し、そしてhGRF-PEG結合体はトリアジン基を有さない、上記結合体。」となる。 一方、記載事項(1a)?(1d)によれば、引用例1には、hGRF(1-29)-NH_(2)の15位がAlaに置換され、また21位LysにおいてPEGが結合した、[Ala^(15),Lys(Nle-PEG_(5000))^(21)]-hGRF(1-29)-NH_(2)の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 本願発明と引用発明を対比すると、後者のhGRF(1-29)-NH_(2)は本願の配列番号:1のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列であり(例えば記載事項(2a)等参照)、またその15位をAlaに置換したペプチドもGRF(成長ホルモン放出因子)ペプチドと認識されている(例えば記載事項(2b)等参照)。 また、上記PEG化の反応に用いられた原料や試薬にトリアジン基は含まれていないことから(記載事項(1c)参照)、引用発明のペプチドもトリアジン基を含まないことは明らかである。 したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 両者が「成長ホルモン放出因子-ポリエチレングリコール(GRF-PEG)結合体であって、Lys^(21)のみに共有結合したGRFあたり、一つのポリエチレングリコール(PEG)ユニットを有し、そしてGRF-PEG結合体はトリアジン基を有さない、上記結合体。」 である点。 [相違点] 成長ホルモン放出因子として、本願発明では配列番号:1のアミノ酸配列で表される合成ペプチド(hGRF(1-29)-NH_(2))を用いるのに対して、引用発明では配列番号:1のアミノ酸配列における15位のGlyがAlaに置換された合成ペプチド([Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2))を用いる点。 4.判断 引用例1の記載事項(1a)には、[Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2)が、hGRF(ヒトGRF)の強力なアナログであることが記載されている。 また、引用例2の記載事項(2a)には、天然のhGRFは、15位がGlyである44アミノ酸からなるペプチドであり、その最小の活性コアが、そのN末端側の29アミノ酸からなり、15位にGlyを含む、hGRF(1-29)NH_(2)であることが記載されている。 そして、引用例2の記載事項(2b)には、hGRFについて、その15位がGlyであるペプチドも、同15位がAlaであるペプチドも、GRFペプチド(天然hGRFのアナログ)として同等に扱われることが記載されている。また、15位がGlyであるhGRF(1-29)-NH_(2)と、15位がAlaである[Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2)は、29のアミノ酸のうち1アミノ酸でのみ(より具体的にはアミノ側鎖のメチル基の有無でのみ)相違するものであるから、両者は同様の挙動を示すものといえる。 したがって、PEGと共有結合させるhGRFのアナログとして、引用例1の[Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2)に代え、引用例2に記載されたhGRF(1-29)-NH_(2)を用いて、hGRF-PEG結合体とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、その効果について、本願明細書を参酌すると、 (i)本願発明が天然GRFと同程度のズブチリシン分解速度(図3a)及び天然GRFに比べてやや遅いキモトリプシン分解速度(図3b)を示すこと、 (ii)ルシフェラーゼを指標としたGRF受容体との結合活性が天然GRF(44アミノ酸からなるGRF)と比べて本願発明では22?29倍低下(EC_(50)値が前者の0.10?0.19nMに対し、後者では2.20?4.9nM)すること(図5?7)、 (iii)成長ホルモン(GH)放出活性がhGRFと比べて本願発明では約15倍低下(EC_(50)値が前者の3.88?5.96nMに対し、後者は57.77?91.69nM)すること(図8、9)、 (iv)ラットを用いたインビトロ実験において、血漿GRFレベルがhGRFより長く維持され、血清GHの放出が延長されたこと(図10、11) が理解できる。 しかしながら、上記(ii)及び(iii)について、例えば引用例1の記載事項(1a)、(1d)には、Lys^(21)にPEG化されたGRFペプチドのGH放出活性が、元のペプチドと比べて活性がほとんど低下していない(PEG化により、活性が元の85%維持される)ことが記載されている。 また、上記(i)及び(iv)について、引用例1の記載事項(1b)には、タンパク質のPEG化によりタンパク質分解に対する耐性が向上し、抗原性及び免疫源性が減少するほか、薬物動態プロファイルが改良され、血漿半減期が向上することが記載されており、当該タンパク質の生物活性の持続も、動態プロファイルの改良や血漿半減期の向上に基づいて、当然に予測される効果である。 したがって、本願発明の構成を採用したことによる効果は、当業者の予測しうる程度のことに過ぎず、格別顕著なものとはいえない。 以上の理由により、本願発明は、当業者が引用例1及び2の記載に基づいて容易に発明することができたものである。 5.請求人の主張について 請求人は審判請求書の請求の理由についての、平成21年11月25日付け手続補正書において、以下の(ア)及び(イ)の主張をしている。 (ア)引用例1の表1(257頁)及びAbstractには、上記アナログのN末端基又はLys^(12)のPEG化は生物活性を75%から100%まで低下させたと記載されている。即ち、引用例1は本願発明の構成要件を採用するに際しての阻害要因を教示している。 (イ)引用例1に記載された効能強化hGRF(1-29)アナログにおけるPEG化の結果は、生物活性を損なうこと無しに何れの残基をPEG化することができるかを予測するのに使用できないことを意味するから、引用例1には本願発明の構成を採用するための示唆又は動機付けがない。 しかしながら、上述したとおり、引用例1には、hGRFアナログである[Ala^(15)]-hGRF(1-29)-NH_(2)のLys^(21)のPEG化は、生物活性をさほど低下させずに、タンパク質分解に対する耐性の向上、抗原性及び免疫源性の減少、薬物動態プロファイルの改良、並びに血漿半減期の向上といった性質を付与しうることが記載ないし示唆されており、本願発明の構成を採用するための示唆又は動機付けがないとはいえない。 したがって、上記(ア)、(イ)の主張はいずれも採用できない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-21 |
結審通知日 | 2012-06-22 |
審決日 | 2012-07-03 |
出願番号 | 特願2000-522885(P2000-522885) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安藤 公祐、佐々木 秀次 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 新留 豊 |
発明の名称 | ポリエチレングリコール-GRF結合体の部位特異的調製方法 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 富田 博行 |