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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1266368
審判番号 不服2010-4401  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-01 
確定日 2012-11-14 
事件の表示 特願2003-536435「新規N-アセチルグルコサミン転移酵素、それをコードする核酸及びそれに対する抗体並びにこれらの癌若しくは腫瘍診断用途」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月24日国際公開、WO03/33710〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成14年10月16日(優先権主張平成13年10月16日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?14に係る発明は、平成22年3月1日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有し、N-アセチルガラクトサミニル基の非還元末端にN-アセチルグルコサミンをβ-1,3結合で転移する活性を有するタンパク質。」

そして、本願配列表の配列番号1は以下のアミノ酸配列である(なお、枠囲いは当審による。)。


2.先願発明
原査定の拒絶の理由で引用された、特願2002-565108号(国際公開第2002/064795号、特表2004-520832号公報参照)の出願(以下、「先願」という。)は、2002年2月8日(パリ条約に基づく優先権主張、2001年2月9日、米国、2001年2月15日、米国、2001年2月27日、米国、2001年3月7日、米国、2001年3月9日、米国、2001年3月23日、米国、2001年3月23日、米国)を国際出願日とする出願であって、本願の優先日後の2002年8月22日に国際公開されたものであり、その国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、下線と枠囲いは当審で付加した。)。

(ア)(公表公報・国際公開)請求項1
「以下の(a)乃至(d)からなる群から選択した、単離されたポリペプチド。
(a)SEQ ID NO:1-11からなる群から選択した或るアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)SEQ ID NO:1-11からなる群から選択したアミノ酸配列に対して少なくとも90%が同一であるような天然アミノ酸配列を含むポリペプチド
(c)SEQ ID NO:1-11からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片
(d)SEQ ID NO:1-11からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片」

(イ)(公表公報)段落番号【0194】
(国際公開)第51ページ第25?31行
「また他の例として、SEQ ID NO:4は、残基Q44から残基C377まで、ヒトのβ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼbGnT-3(GenBank ID g12619296)と55%同一であることがBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)によって示された(表2参照)。BLAST確率スコアは7.14e-94であり、これは観察されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:4はまた、1つのグリコシルトランスフェラーゼドメインを有するが、これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメイン群のPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された (表3参照)。」

(ウ)(公表公報・国際公開)表1
「Incyte ポリペプチド ・・・ ポリヌクレオチド ・・・
プロジェクトID SEQ ID NO: SEQ ID NO:
・・・(略)・・・
6928818 4 ・・・ 15 ・・・
・・・(以下略)」

(エ)(公表公報・国際公開)表5
「ポリヌクレオチド Incyte 代表的ライブラリ
SEQ ID NO: プロジェクトID
・・・(略)・・・
15 6928818CB1 ESOGTUE01
・・・(以下略)」

(オ)(公表公報・国際公開)表6-1
「ライブラリ ・・・ ライブラリの説明
・・・(中略)・・・
ESOGTUE01 ・・・ この5’に偏向してランダムプライムさ
れたライブラリは、61才の白人男性の
食道部分切除、近位胃切除、幽門筋切開
、および所属リンパ節切除時に取り除い
た食道腫瘍組織から単離したRNAを用
いて作製した。・・・(以下略) 」

(カ)(公表公報・国際公開)配列番号4


(キ)(公表公報・国際公開)配列番号15


上記記載事項(ア)?(キ)の記載から、先願明細書等には、「配列番号4アミノ酸配列に対して少なくとも90%が同一であるような天然アミノ酸配列を含むポリペプチド。」(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.先願の優先権主張について
先願は、2001年2月9日付け米国仮出願60/268,113号、2001年2月15日付け米国仮出願60/269,215号、2001年2月27日付け米国仮出願60/272,271号、2001年3月7日付け米国仮出願60/274,091号、2001年3月9日付け米国仮出願60/274,423号、2001年3月23日付け米国仮出願60/278,480号、及び2001年3月23日付け米国仮出願60/278,479号を基礎とするパリ条約に基づく優先権主張を伴うものである。
そして、先願発明に関する記載事項(ア)?(キ)はそれぞれ、上記米国仮出願のうち、2001年2月27日付け米国仮出願60/272,271号明細書の対応する以下の箇所に初めて記載された事項である。

記載事項(ア):請求項1
記載事項(イ):第26ページ第4?11行
記載事項(ウ):表1
記載事項(エ):表5
記載事項(オ):表6
記載事項(カ):配列番号1
記載事項(キ):配列番号2

したがって、先願は先願発明について、米国仮出願60/272,271号に基づく優先権の利益を享受するものであり、その優先日(2001年2月27日)は本願の優先日(2001年10月16日)よりも前である。
よって、先願は特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の「他の特許出願」に該当する。

4.対比
本願発明と先願発明を対比すると、先願発明のポリペプチドもタンパク質であるといえるから、両者はいずれもタンパク質である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(a)前者が本願配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するのに対し、後者が先願明細書等の配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%が同一であるような天然アミノ酸配列を含むものとされ、本願の配列番号1に示されるアミノ酸配列によって特定されていない点。

(b)前者が「N-アセチルガラクトサミニル基の非還元末端にN-アセチルグルコサミンをβ-1,3結合で転移する活性を有する」ものと特定されているのに対し、後者ではこのような特定がなされていない点。

5.相違点の判断
(相違点(a)について)
生物個体間において、対立遺伝子(アレル)によってコードされるタンパク質の変異体(いわゆるアレル変異体(allelic variant))は一般的に見られるものであるところ、先願明細書等の「配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%が同一であるような天然アミノ酸配列」との記載(記載事項(ア))から、先願発明の課題には、上記配列番号4のタンパク質のみならず、そのアミノ酸がわずかに置換されたアレル変異体を提供することも含むものと認められる。
そして、このようなアレル変異体を、元のタンパク質のアミノ酸配列における1ないし数個のアミノ酸残基を置換させることにより、あるいは、元のタンパク質をコードする遺伝子に基づきプローブやプライマーを作成し、適当なサンプルから当該遺伝子の対立遺伝子をクローニングすることによって得ることは、タンパク質工学等の技術分野における周知技術である。
したがって、先願明細書等の配列番号4のアミノ酸配列、あるいはそれをコードする配列番号15の塩基配列に上記周知技術を付加することにより、配列番号4のアミノ酸がわずかに置換されたアレル変異体も得られるものであるといえる。
一方、本願発明のタンパク質は、先願明細書等の配列番号4のアミノ酸配列と同じ384アミノ酸の長さであり、その304位のイソロイシン(Ile)をロイシン(Leu)に置換したものと見ることができる(上記「第2 3.(1)」及び記載事項(カ)の配列表の枠囲い参照)。
そして、イソロイシンとロイシンは側鎖アルキル鎖の分岐の仕方が異なるだけの構造異性体であり、両者は極めて類似した化学的、物理的性質を有するものであるから、イソロイシンをロイシンに置換したタンパク質も、元のタンパク質と同様の性質、機能を有する蓋然性が高いといえる。
してみれば、本願配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質も、先願明細書等の配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質と同様の性質、機能を有するものに過ぎないものと認められる。
したがって、本願発明のタンパク質は、先願明細書等の記載に周知技術を付加して得られるものであるが、本願の配列番号1のアミノ酸配列を特定したことにより、先願明細書等に記載されたタンパク質にはない、新たな効果が奏せられるものとはいえない。
よって、上記相違点は課題解決のための具体的手段における微差にすぎず、実質的な相違点とはいえない。

(相違点(b)について)
本願発明の「N-アセチルガラクトサミニル基の非還元末端にN-アセチルグルコサミンをβ-1,3結合で転移する活性を有する」との特定は、本願配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質の機能・特性等を記載したものにあたると認められる。
しかしながら、物の機能・特性を表現した場合、その機能・特性が、その物が固有に有しているものである場合は、当該表現は物を特定するのに役立っておらず、その物自体を意味しているに過ぎないというべきである。
そして、上記特定事項に示された、上記タンパク質の機能・特性は、当該タンパク質が固有に有しているものであるため、結局、当該タンパク質自体を意味しているに過ぎない。
したがって、本願発明の上記特定事項によって、本願発明と先願発明を区別することはできず、上記相違点(b)は実質的なものとはいえない。

以上から、本願発明は、先願発明と同一のものである。

6.出願人・発明者について
本願の出願時における出願人は、「独立行政法人産業技術総合研究所」及び「株式会社ジェー・ジー・エス」であり、先願の出願人は「インサイト・ゲノミックス・インコーポレイテッド」である。
また、本願の発明者は「成松 久」、「稲葉 二朗」及び「岩井 俊恵」であるが、先願の発明者は「サンジャンワラ、マデュスダン・エム」ほか18名である。
したがって、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められない。

7.請求人の主張について
請求人は審判請求書の請求の理由を補正する平成22年4月21日付け手続補正書において、以下の(i)?(iii)の趣旨の主張を行っている。

(i)本願発明と先願発明は同一ではない。アミノ酸配列は非常に類似しているが、完全に同一のものではない。アミノ酸残基が1個違うだけでも、その残基がタンパク質の生理活性に重要な部位に位置しているか、あるいは立体構造を維持するために重要な部位に位置しているような場合には、タンパク質の生理活性が失われる等して全く異なるタンパク質となり得る。このことはこの分野で周知の事項である。アミノ酸配列が完全一致していないタンパク質が同一の活性を有するかどうかは全く不明である。

(ii)本願発明のタンパク質が有する活性と先願のタンパク質について推測された活性も大きく相違する。
すなわち、先願明細書の第0194段落には、配列番号4は1つのグリコシルトランスフェラーゼドメインを有すること、このドメインは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメイン群のPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定されたドメインであることが記載されており、第0428段落の表3-2にはこのドメインがガラクトシルトランスフェラーゼドメインである旨が示されている。表3-2にはまた、配列番号4がグリコシル転移酵素(glycosyltransferase、糖転移酵素)であることが記載され、糖供与体がUDP-GAL(UDP-ガラクトース)であることを意味していると解される記載がある。
先願の配列番号4のアミノ酸配列について推測されている活性は、ガラクトースを転移する活性であって、本願発明のN-アセチルグルコサミンを転移する活性ではない。
したがって、先願明細書等にはN-アセチルグルコサミン転移酵素は全く開示されていない。

(iii)先願1では、タンパク質の活性が実験により証明されておらず、所定の活性を有する単離されたタンパク質が開示されているとは言えない。推定アミノ酸配列をコンピューター解析に付してモチーフやドメインを予測し、それに基づいて糖転移酵素活性を有するものと推測しているだけである。
タンパク質の活性はそのアミノ酸配列やコードする塩基配列から特定することは極めて困難である。糖転移酵素であれば、転移する糖が何か、糖の受容体基質が何か、どのような結合態様で糖を結合させるか等の事項が特定されなければ産業上利用することができず、これらの事項は実際にタンパク質を合成して確認してみなければ判明しないことであり、塩基配列及びアミノ酸配列のみから確定することはできない。
本願明細書の実施例で行っているような具体的な確認は、先願では何ら行なわれておらず、産業上利用できる糖転移酵素が先願には全く開示されていない。

上記の主張について、以下検討する。
(上記主張(i)について)
一般論として、2つのタンパク質で異なるアミノ酸残基が、当該タンパク質の生理活性に重要な部位に位置しているか、あるいは立体構造を維持するために重要な部位に位置しているような場合には、タンパク質の生理活性が失われるといったことも考え得る。
しかしながら、本願発明のタンパク質の304位のアミノ酸が、請求人が主張するように、タンパク質の生理活性に重要な部位に位置しているか、あるいは立体構造を維持するために重要な部位に位置していること、あるいは本願発明のタンパク質と先願明細書等の配列番号4のタンパク質が、異なる生理活性を有することを裏付ける具体的根拠は何ら示されていない。
また、仮に304位のアミノ酸が、タンパク質の生理活性や構造維持に重要な部位に位置したとしても、上述のとおり、ロイシンとイソロイシンは極めて類似した構造異性体であるから、304位のイソロイシンからロイシンの置換によっても、元のタンパク質の生理活性が維持される蓋然性の方が高いと考えるべきである。
加えて、本願配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、及び先願明細書の配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質は、いずれもヒト由来のタンパク質であり、その発現部位も、後者では食道腫瘍組織であるところ(本願明細書の表1、2参照)、前者も食道、胃、大腸の腫瘍組織由来の株化細胞や正常組織で発現している点で一致している(記載事項(エ)(オ)参照)。
したがって、本願配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質は、先願明細書の配列番号4のアミノ酸配列を有するタンパク質の一つのアレル変異体に過ぎないものである。
よって、上記主張は採用できない。

(上記主張(ii)及び(iii)について)
上記「第2 3.(5)」でも述べたとおり、本願発明の「N-アセチルガラクトサミニル基の非還元末端にN-アセチルグルコサミンをβ-1,3結合で転移する活性を有する」との特定事項によって、本願発明と先願発明を区別することはできない。
また、特許法第29条の2の規定を適用するためには、先願発明が特許を受ける必要はなく、出願公開されれば足りるのであるから、先願発明のタンパク質について、その活性等、産業上利用できることの開示は必要ないと解すべきである(なお、先願明細書等には、その配列番号4のアミノ酸配列について、ガラクトースを転移する活性を有するものと一義的に推定されているわけではなく、本願発明と同様のβ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼにも関連している可能性も示唆されている点で、請求人の主張は正確性を欠くものである(記載事項(イ)参照)。)。
もっとも、先願明細書等に物の発明が記載されているというためには、本願優先日における技術常識に基づいて、その物を作れることが明らかであるように記載されている必要があると解すべきである。
しかしながら、先願明細書等には、先願発明のタンパク質について、そのアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列、当該タンパク質が発現している組織等の記載がなされている(記載事項(ウ)(カ)(キ)参照)から、周知技術に基づけば、当該タンパク質の適当なアミノ酸を別の類似するアミノ酸に置換することや、上記塩基配列に基づくプローブやプライマーを異なるサンプルに用いるなどして、上記タンパク質のアレル変異体を取得することができることが明らかであるといえる。
したがって、上記主張は採用できない。

8.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、先願の特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-05 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-24 
出願番号 特願2003-536435(P2003-536435)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伏見 邦彦渡邉 潤也  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 中島 庸子
新留 豊
発明の名称 新規N-アセチルグルコサミン転移酵素、それをコードする核酸及びそれに対する抗体並びにこれらの癌若しくは腫瘍診断用途  
代理人 谷川 英次郎  
代理人 谷川 英次郎  

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