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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J |
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管理番号 | 1266377 |
審判番号 | 不服2010-18331 |
総通号数 | 157 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-13 |
確定日 | 2012-11-14 |
事件の表示 | 特願2006-551545「スペクトル推定を使用する通信システムのためのチャネル推定」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日国際公開、WO2005/074218、平成19年 7月19日国内公表、特表2007-520175〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2005年1月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年1月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成21年2月13日付け拒絶理由通知に対し、同年5月14日に意見書および手続補正書の提出があったが、平成22年4月9日付けで拒絶査定となり、これに対し同年8月13日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出があったものである。 なお、平成23年10月31日付けの当審よりの審尋に対し、平成24年5月1日に回答書の提出があった。 第2.補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年8月13日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下のように補正前の平成21年5月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項21に記載された発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項21に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。 (本願発明) 「 【請求項21】 通信システムにおける通信チャネルのためのチャネル推定を行う方法であって、 通信チャネルの複数の異なる組のサブバンドのための複数の部分的な周波数応答推定値を得ることであって、各部分的な周波数応答推定値がシステムの総バンド幅の一部分において異なる時間に受信されるシンボルに基づいて生成されることと、 複数の部分的な周波数応答推定値に基づいて、相関行列を求めることと、 Tが1よりも大きい整数であるとき、相関行列に基づいてT個の雑音固有ベクトルを得ることと、 T個の雑音固有ベクトルに基づいて、通信チャネルのためのチャネル推定値を得ることとを含む方法。」 (補正後の発明) 「 【請求項21】 通信システムにおける通信チャネルのためのチャネル推定を行う方法であって、 前記通信チャネルの複数の異なる組のサブバンドのための複数の部分的な周波数応答推定値を得ることであって、各部分的な周波数応答推定値が前記システムの総バンド幅の一部分において異なる時間に受信されるシンボルに基づいて生成されることと、 前記複数の部分的な周波数応答推定値に基づいて相関行列を求めることと、 Tが1よりも大きい整数であるとき、前記相関行列に基づいて固有値分解を使用してT個の雑音固有ベクトルを得ることと、 前記T個の雑音固有ベクトルに基づいて前記通信チャネルのためのチャネル推定値を得ることとを含む方法。」 2.補正の適否 (1)新規事項の有無、補正の目的要件 上記補正は、「通信チャネル」、「システム」ほかに「前記」の記載を追加して構成を明瞭にするとともに、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「固有値分解を使用して」との構成を追加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。 (2)独立特許要件 本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。 [補正後の発明] 上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。 [引用発明及び周知技術] A.原審の拒絶理由に引用された特開2000-341239号公報(以下、「引用例」という。)には、「直交周波数分割多重信号の伝送方法および伝送装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【請求項4】信号源において所定数の特定周波数成分の振幅及び位相を特定パターンを用いて連続して変調するステップを有し、 受信側において受信した特定周波数成分の振幅及び位相を数値化し、受信データベクトルを得る第1のステップと、 前記第1のステップから得られる受信データベクトルを受信信号に含まれる特定パターンの振幅及び位相を有する参照信号で除算し、規格化データベクトルを得る第2のステップと、 前記第2のステップから得られる規格化データベクトルの相関行列を生成する第3のステップと、 前記第3のステップから得られる相関行列に移動平均を施す第4のステップと、 前記第4のステップから得られる移動平均後の相関行列に対してスーパーレゾリューション法を適用することにより、参照信号とした特定パターンに対するDFT時間窓タイミング及び多重波の遅延時間を推定する第5のステップと、 前記第5のステップから得られるDFT時間窓タイミングの推定値をもとにDFT時間窓タイミングクロックを調節する第6のステップを有する直交周波数分割多重信号の伝送方法。 【請求項5】複数の信号源が、同一の周波数領域にある特定周波数成分の振幅及び位相を互いに異なる特定パターンを用いて連続して変調して多重伝送を行うことを特徴とする請求項4記載の直交周波数分割多重信号の伝送方法。 【請求項6】前記第3のステップから時間サンプルが異なる複数の相関行列を平均する相関行列平均化ステップを有し、平均した相関行列に移動平均を施すことを特徴とする請求項4、または5記載の直交周波数分割多重信号の伝送方法。」 (2頁1?2欄) ロ.「【0001】 【発明の属する技術分野】直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing;以下、OFDMと称す)伝送方法に関し、より特定的には、有線または無線の伝送路を介し、直交周波数分割多重信号を用いてデータ伝送する方法、及びその受信装置に関する。 【0002】 【従来の技術】OFDM方式では、送信側で信号を変調する際に逆離散的フーリエ変換(IDFT)処理を行う。受信側では復調に際し離散的フーリエ変換(DFT)処理を行う。この際、送信側での時間窓信号と同期するDFT時間窓タイミングクロックを生成しなければならない。 【0003】従来は、特開平9-247122号公報に示されるように、伝送信号に振幅が他のシンボルに比べて大きいか、または0の同期シンボルを設けてタイミングクロックを生成していた。しかし、この手法では伝送路中の大きな雑音やマルチパス環境下において振幅変動を受けた場合に、同期用シンボルを検出することが困難となる。 【0004】また、同期シンボルを用いない手法として、特開平8-274745号公報に示されるように、特定周波数成分の振幅を0にして送信し、復調においてDFT処理後の特定周波数成分の振幅が最小になるようにタイミングを漸近的に調節する手法がある。しかし、この手法ではタイミングの調整が複数回に及び、調節に時間がかかってしまう。 【0005】また、従来の手法では同じ周波数を持つ複数のOFDM信号を受信した場合にそれぞれのOFDM信号に対するDFT時間窓タイミングを求めることができない。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】同期シンボルを設けることなく、漸近的手法によらずに多重波環境や大きな雑音を有する環境下でも,精度よくDFT時間窓タイミングクロックを求める受信装置を提供し、OFDM方式の伝送信号を低い誤り率で伝送することを目的とする。 【0007】さらに、同じ周波数を持つ複数のOFDM信号を受信した場合に,それぞれのOFDM信号に対するDFT時間窓タイミングクロックを求めることを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】所定数の特定周波数成分の振幅及び位相を特定パターンを用いて連続して多重変調して送信し、受信側において、特定周波数成分の受信データベクトルの相関行列に対して固有値展開に基づくスーパーレゾリューション法を適用する。」 (2頁2欄?3頁3欄) ハ.「【0009】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。 【0010】(第1の実施の形態)本発明の第1の実施の形態を説明する。以下の数式において、Tは転置、*は複素共役転置を示す。 【0011】図1に示すように、OFDM信号源11においてOFDMシンボルの全キャリアのうちN本をパイロットキャリアとして特定パターンCで変調する。この特定パターンには、データが既知のBPSK変調等が用いられる。N本のパイロットキャリアは周波数軸上で等間隔に選ばれる。変調されたOFDM信号は、伝送路2を介し受信部3で受信される。 【0012】図2は、受信装置の構成図である。はじめに、DFT部1で1シンボル分のデータを時間窓タイミングクロックClock#aでDFTを施し、周波数領域データを得る。受信データベクトル取得部2で、周波数領域データからN個のパイロットキャリア部分の複素数データ、 【0013】 【数1】 【0014】を得る。参照データベクトル記憶部3で、受信信号に含まれる特定パターンと同じ振幅および位相を持った参照データベクトル 【0015】 【数2】 【0016】を用意する。規格化データベクトル生成部4で、受信データベクトルを参照データベクトルで除算 【0017】 【数3】 【0018】し、規格化データベクトル 【0019】 【数4】 【0020】を得る。相関行列作成部5で、規格化データベクトルに対する相関行列 【0021】 【数5】 【0022】を作る。 【0023】次に、相関行列移動平均部6で、相関行列内における移動平均(詳細は、T.J.Shan, M.Wax, and T.Kailath, "On Spatial Smoothing for Direction-of-Arrival Estimation of Coherent Signals," IEEE Trans. ASSP,33, pp.806-811, Aug. 1985.)を施す。 【0024】移動平均には、前方移動平均、後方移動平均を用い、移動平均後の相関行列の次数がnであるとすると、 【0025】 【数6】 【0026】であらわされる。(数6)の演算で、多重波間の相関が除去される。」 (3頁3?4欄) ニ.「【0027】推定部7において、移動平均後の相関行列に対し、スーパーレゾリューション法を適用し、多重波の遅延時間を求める。 【0028】推定部7における遅延時間推定法には、例えば、MUSIC法(詳細は、 R.O.Schmidt :“Multiple Emitter Location and Signal Parameter Estimation",IEEE Trans. Antennas Propagat., AP-34, 3, pp.276-280,Mar. 1986)や、 ESPRIT法(R.Roy, and T.Kailath, "ESPRIT-Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques," IEEE Trans. Acoust. Speech, Signal Processing, ASSP-37,7,pp.984-995,Jul.1989.)などのスーパーレゾリューション法が適用できる。遅延時間推定法に、MUSIC法を適用した場合を以下に説明する。 【0029】受信信号に含まれる到来信号波の数をLとする。移動平均後の相関行列Rxxを固有値展開 【0030】 【数7】 【0031】し、固有値を大きさの順にソートする。 【0032】 【数8】 【0033】ここで、信号電力と雑音電力に相当する固有値に分けることができ、雑音電力より大きな固有値の数から多重信号の数を推定する。ここで、L個の一般固有ベクトル 【0034】 【数9】 【0035】の張るL次元部分空間は、信号部分空間A 【0036】 【数10】 【0037】と一致する。また、n-L個の固有値に対応する一般固有ベクトル 【0038】 【数11】 【0039】が張るn-L次元部分空間は雑音部分空間と呼ばれる。相関行列Rxxはエルミート行列で、エルミート行列の固有ベクトルは互いに直交するという性質から、信号部分空間と雑音部分空間は直交補空間の関係にある。すなわち、 【0040】 【数12】 【0041】が成り立つ。 【0042】したがって、 【0043】 【数13】 【0044】のような評価関数を定義すると、L個の信号の各到来遅延時間 【0045】 【数14】 【0046】のとき、(数13)は、分母が0となり((数12)が成り立つ)、無限大の値を持つ。 【0047】そこで、(数13)において、τを0から 【0048】 【数15】 【0049】まで変化させ、そのピーク値に相当する時間が遅延時間に相当する。推定された遅延時間のうち信号電力が大きい第一番目の遅延時間がClock#aと本来の時間窓タイミングとのずれに相当し、その推定値をもとに、タイミングクロック調節部8で時間窓タイミングクロックClock#aを調節する。図5は(数13)によって求められるMUSICスペクトラムで,例えば到来波が2波場合,先行波の遅延時間がクロックのずれに相当する。タイミングクロックを調節後,データ復調部9でデータを復調する。」 (3頁3欄?4頁6欄) ホ.「【0050】(第2の実施の形態)次に本発明の第2の実施の形態を説明する。 【0051】受信信号の雑音レベルが高く、推定精度が落ちる場合の実施の形態を説明する。これは図3に示すように、上述した実施例に相関行列の平均操作を行う相関行列平均化部10を加えたもので、連続して受信される複数シンボルから得られる相関行列を(数16)の演算により平均化することで、雑音成分が抑圧される。 【0052】 【数16】 【0053】なお、平均化のために用いるシンボルの数は雑音レベルに応じて決めればよい。」 (4頁6欄?5頁7欄) 上記引用例の記載及び関連する図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、 まず、引用例記載の「直交周波数分割多重信号の伝送方法」は、上記ハ.【0011】および【図1】にあるように、 「OFDM信号源11」から送信される「変調されたOFDM信号」が、「伝送路2」を介し「受信部3」で受信されるシステムにおける伝送方法であるから、『通信システム』において実行される方法であって、「伝送路2」が『通信チャネル』を構成するのは技術常識であるので、『通信システムにおける通信チャネルのための方法』である。 また、この『通信チャネル』(伝送路2)は、上記ロ.【0003】、【0006】に「マルチパス環境」、「多重波環境」と記載があるように、信号が長さの異なる複数の経路を通って伝搬することによる「多重波の遅延時間」を生ずるものであって、 この課題に対処するため引用例記載の方法は、上記イ.【請求項4】の「第5のステップ」、ニ.【0028】、【0049】にあるように、受信器側の「推定部7」(【図2】、【図3】)において「多重波の遅延時間を推定」する方法である。 また、この「多重波の遅延時間」の推定を受信側において可能とするための前提として、引用例記載の「OFDM信号源11」から送信される「変調されたOFDM信号」の単位である「OFDMシンボル」は、上記ハ.【0011】にあるように、「OFDMシンボルの全キャリアのうちN本をパイロットキャリアとして特定パターンCで変調する」ものであって、 ここで、「OFDMシンボルの全キャリア」が占める周波数領域は、この通信システムの『総バンド幅』ということができ、そのうちのN本(複数)が占める(部分的な)周波数領域が「パイロットキャリア」に割り当てられているものであり、各「パイロットキャリア」1本の占める周波数領域は『サブバンド』ということが出来る。 また、この「多重波の遅延時間」の推定の具体的方法として、上記ハ.【0012】?【0019】にあるように、まず、受信側の「規格化データベクトル生成部4」において、受信される「OFDMシンボル」の「周波数領域データ」(総バンド幅)の一部分である「N個のパイロットキャリア部分の複素数データ」から「受信データベクトル」を得て、既知の「参照データベクトル」で除算し、「規格化データベクトルX」を生成しており、 前記前提に関する認定を参酌すれば、『通信チャネルの複数のサブバンドのための規格化データベクトル』が『前記システムの総バンド幅の一部分において受信されるシンボルに基づいて生成』されているということができる。 更に、引用例記載の「多重波の遅延時間」の推定方法では、上記ハ.【0021】【数5】にあるように、「規格化データベクトルX」に基づいて「相関行列R」を求めており、 上記ハ.【0027】?【0038】によれば、該「相関行列R」を移動平均した後「スーパーレゾリューション法」を適用し、「固有値展開」して得られたn個の「固有値を大きさの順にソート」して「信号電力と雑音電力に相当する固有値に分け」ており、 上記ハ.【0038】?【0039】には、「n-L個の固有値に対応する一般固有ベクトル【数11】EN(数式略)が張るn-L次元部分空間は雑音部分空間と呼ばれる」とあるから、該n-L個の「一般固有ベクトルEN」は、これをn-L個の『雑音固有ベクトル』ということができる。 そして上記ハ.【0043】?【0049】の記載、特に【数13】の「評価関数:P(τ)」によれば、引用例記載の方法では、該n-L個の『雑音固有ベクトル』に基づいて、前記通信チャネルの「多重波の遅延時間」の推定値を得るものである。 したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。 (引用発明) 「 通信システムにおける通信チャネルのための多重波の遅延時間の推定を行う方法であって、 前記通信チャネルの複数のサブバンドのための規格化データベクトルを得ることであって、規格化データベクトルが前記システムの総バンド幅の一部分において受信されるシンボルに基づいて生成されることと、 前記規格化データベクトルに基づいて相関行列を求めることと、 前記相関行列に基づいて固有値展開を使用してn-L個の雑音固有ベクトルを得ることと、 前記n-L個の雑音固有ベクトルに基づいて前記通信チャネルのための多重波の遅延時間の推定値を得ることとを含む方法。」 [対比・判断] 補正後の発明と引用発明を対比すると、 まず、引用発明の「多重波の遅延時間の推定(値)」と、補正後の発明の「チャネル推定(値)」は、「推定(値)」の点で一致する。 また、引用発明の「規格化データベクトル」は、「通信チャネルの複数のサブバンドのための規格化データベクトル」であって、「前記システムの総バンド幅の一部分において受信されるシンボルに基づいて生成」されるから、引用例の「N個のパイロットキャリア部分」に対応する周波数における通信チャネルの部分的な周波数応答の推定値と言えるものであって、補正後の発明の「部分的な周波数応答推定値」に相当する。 また、引用発明の「固有値展開」と補正後の発明の「固有値分解」は、いずれも数学用語としては同等であるが、これらの用語が使用される文脈に関して検討しても、引用例の上記ニ.【0028】には「スーパーレゾリューション法」の一種として「MUSIC法」が例示され、本願【請求項12】や本願明細書の【0062】、【0064】にも同様の「MUSIC技術」の記載があるから、実質的な差異もない。 したがって、両者は以下の点で一致し、また相違している。 (一致点) 「 通信システムにおける通信チャネルのための推定を行う方法であって、 前記通信チャネルの複数のサブバンドのための部分的な周波数応答推定値を得ることであって、部分的な周波数応答推定値が前記システムの総バンド幅の一部分において受信されるシンボルに基づいて生成されることと、 前記部分的な周波数応答推定値に基づいて相関行列を求めることと、 前記相関行列に基づいて固有値分解を使用して雑音固有ベクトルを得ることと、 前記雑音固有ベクトルに基づいて前記通信チャネルのための推定値を得ることとを含む方法」 (相違点1) 「推定(値)」が、補正後の発明では「チャネル推定(値)」であるのに対し、引用発明では「多重波の遅延時間の推定(値)」である点。 (相違点2) 「部分的な周波数応答推定値」の生成に関し、 補正後の発明では「前記通信チャネルの複数の異なる組のサブバンドのための複数の部分的な周波数応答推定値を得ることであって、各部分的な周波数応答推定値が前記システムの総バンド幅の一部分において異なる時間に受信されるシンボルに基づいて生成される」のに対し、 引用発明では「前記通信チャネルの複数のサブバンドのための規格化データベクトルを得ることであって、規格化データベクトルが前記システムの総バンド幅の一部分において受信されるシンボルに基づいて生成される」点。 (相違点3) 「相関行列」に関し、補正後の発明では「複数の部分的な周波数応答推定値に基づいて相関行列を求める」のに対し、引用発明では「前記規格化データベクトルに基づいて相関行列を求める」点。 (相違点4) 「雑音固有ベクトル」の個数に関し、補正後の発明では「Tが1よりも大きい整数であるとき、」との条件を有する「T個の雑音固有ベクトル」であるのに対し、引用発明では単に「n-L個の雑音固有ベクトル」である点。 そこで、まず、上記相違点1の「推定(値)」について検討するに、 引用発明の「多重波の遅延時間の推定(値)」における「多重波の遅延時間」とは、通信チャネルを多重波となって通過してくる信号(シンボル)の「遅延時間」であるから、「通信チャネル」の特性(値)の一種であり、これを推定することは「チャネル推定(値)」と言えることであって、相違点1は格別のことではない。 つぎに、相違点3の「複数の部分的な周波数応答推定値に基づいて相関行列を求める」点について検討する。 引用例の上記ホ.【0051】、図3には、引用例の第2の実施の形態として、「受信信号の雑音レベルが高く、推定精度が落ちる場合」には、引用例図2の構成に「相関行列平均化部10」を加えて、「連続して受信される複数シンボルから得られる相関行列を(数16)の演算により平均化する」ことで、雑音成分を抑圧することが記載されている。 ここで「連続して受信される複数シンボルから得られる相関行列」は、【0052】【数16】に「Rm」(m=1?M)とあるように複数(M個)あり、これらの各相関行列がそれぞれ対応する(M個の)受信シンボルから生成されるのであるから、相関行列の生成式(ハ.【0021】【数5】)からして、対応する「規格化データベクトル」(部分的な周波数応答推定値)も複数存在するのは明らかである。 したがって、「複数の部分的な周波数応答推定値に基づいて相関行列を求める」点は、引用例の上記記載より当業者であれば容易になし得たことであって、相違点3も格別のことではない。 つぎに、相違点2の「部分的な周波数応答推定値」の生成について検討する。 まず、上記相違点3について検討したように、「連続して受信される複数シンボル」から相関行列を得る場合には、対応する「規格化データベクトル」(部分的な周波数応答推定値)も複数存在するのであるから、「複数の部分的な周波数応答推定値を得る」ものである。 また、この場合に「連続して受信される複数シンボル」は、各々のシンボルが時間軸上で直列に送信されてくるのであるから、各「異なる時間に」受信されるシンボルとなることも自明である。 そして、「異なる組の」サブバンドの点については、パイロット信号に使用されるサブバンドの組を時間的に変更して異なる組とすることは、原審の拒絶理由にも引用された、特開2000-286822号公報(【0034】?【0038】、図9)のほか、例えば特開2001-358694号公報(図3,4)、特開2001-358695号公報(図3,4)にあるように周知の技術であるから、当業者であれば適宜になし得ることである。 したがって、「前記通信チャネルの複数の異なる組のサブバンドのための複数の部分的な周波数応答推定値を得ることであって、各部分的な周波数応答推定値が前記システムの総バンド幅の一部分において異なる時間に受信されるシンボルに基づいて生成される」とした相違点2も格別のことではない。 最後に、相違点4の「雑音固有ベクトル」の個数について検討する。 補正後の発明の「Tが1よりも大きい整数であるとき、」との条件については、本願明細書の説明中には直接該当する記載は見あたらず、この「T」の値に関する臨界的意義も明確ではないが、「雑音固有ベクトル」の個数についての記載として本願明細書【0042】には、 「 DにおけるM個の固有値は、最も小さいものから、最も大きいものに順序付けられ、順序付けの後に、{λ1,λ2,...λM}として示される。なお、λ1は、最小固有値であり、λMは、最大固有値である。Dにおける固有値が順序付けられると、それに対応して、Vにおける固有ベクトルが順序付けられる。DにおけるM-L個の最小固有値(すなわち、λ1ないしλM-L)は、雑音分散σ2に等しく、“雑音”固有値と呼ばれる。M-L個の雑音固有値に対応するVにおけるM-L個の固有ベクトル(すなわち、順序付け後のVのM-L個の最左列)は、Rの“雑音”固有ベクトルと呼ばれ、{r1,r2,...rM-L}として示される。雑音固有ベクトルは、Qの列に直交する。」 との記載があり、(相関行列の)固有値分解により得られた固有値をソートし、雑音電力に対応する固有値の固有ベクトルを「雑音固有ベクトル」とする点で、引用例の上記ニ.【0029】?【0039】の記載に対応することが認められる。 引用発明の「雑音固有ベクトル」の個数は「n-L個」であるが、ここで「n」は相関行列の次数(引用例ハ.【0024】)であり、「L」は多重波を構成する各信号の個数(引用例ニ.【0044】)に相当するものと認められ、これらの整数値の取り得る範囲に特に「n-L」を1以下とする限定条件は見あたらないから、引用発明においても「n-L」の値は1よりも大きい整数であることが除外されるものとは認められない。 したがって、「n-L」に対応する「T」の値は「1よりも大きい整数である」とした相違点4も格別のことではない。 また、補正後の発明が奏する効果も引用発明及び周知技術から容易に予測出来る範囲内のものである。 そして、当審の審尋に対する回答書を参酌しても、上記認定を覆すに足りるものは見あたらない。 よって、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.結語 以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合していない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。 2.引用発明及び周知技術 引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の[引用発明及び周知技術]で認定したとおりである。 3.対比・判断 そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-15 |
結審通知日 | 2012-06-19 |
審決日 | 2012-07-04 |
出願番号 | 特願2006-551545(P2006-551545) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福田 正悟 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
藤井 浩 神谷 健一 |
発明の名称 | スペクトル推定を使用する通信システムのためのチャネル推定 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 砂川 克 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 佐藤 立志 |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 山下 元 |
代理人 | 野河 信久 |
代理人 | 市原 卓三 |
代理人 | 竹内 将訓 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 勝村 紘 |
代理人 | 堀内 美保子 |