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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1266525
審判番号 不服2009-18944  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-05 
確定日 2012-11-22 
事件の表示 特願2004-268087「対称性の摩擦調整粒子を使用する高効率摩擦材料」拒絶査定不服審判事件〔平成17年4月7日出願公開、特開2005-89755〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成16年9月15日(パリ条約による優先権主張2003年9月19日、米国)の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成20年 3月 3日付け 拒絶理由通知
同年 9月 5日 意見書・手続補正書
平成21年 1月 5日付け 拒絶理由通知
同年 4月 7日 意見書・手続補正書
同年 6月 3日付け 拒絶査定
同年10月 5日 審判請求・手続補正書
同年12月10日 上申書
平成23年 4月28日付け 審尋
同年 7月27日 回答書
平成24年 3月30日付け 拒絶理由通知・補正却下の決定
同年 6月 7日 意見書・手続補正書

第2 平成24年3月30日付けの拒絶理由通知について
当審は、平成24年3月30日付けで拒絶理由を通知したが、その拒絶理由通知の内容の概略は以下のとおりのものである。

「第1 手続の経緯
・・
第2 平成21年10月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
・・
第3 本願発明について
上記第2のとおり、平成21年10月5日付け手続補正は決定をもって却下されたので、この出願の発明は、同年4月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める(以下、請求項1?11の特許を受けようとする発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明11」といい、区別せずに「本願発明」ということがある。)。
・・
第4 拒絶の理由1
本願発明1?11は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開2002-234951号公報(原審における引用文献1)
刊行物2:特開2002-201294号公報(当審で新たに引用した文献)
刊行物3:特開昭56-92983号公報(当審で新たに引用した文献)
・・
第5 拒絶の理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
・・」

第3 当審の判断
当審の上記拒絶理由に対し、指定期間内に意見書及び手続補正書が提出されたので、その補正された後のこの出願の発明につき、上記「第4 拒絶理由1」及び「第5 拒絶の理由2」と同様の理由が成立するか否か再度検討を行う。

1 拒絶の理由1について
(1)本願発明の認定
この出願の発明は、平成24年6月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。

「少なくとも一種の硬化可能な樹脂を含浸させたベース材料を含む摩擦材料であって、前記ベース材料は、i)繊維質ベース材料を含む多孔質一次層と、
ii)前記繊維質ベース材料の外部表面を被覆している幾何学的に対称な形状の摩擦調整粒子を含む二次層とを含む前記摩擦材料において、
前記二次層は、摩擦調整粒子の全重量を基準として20?35重量%の対称性の形状のシリカ粒子及び65?80重量%の炭素粒子からなる摩擦調整粒子を含み、前記シリカ粒子は、対称的な形状の珪藻土を含む、摩擦材料。」

(2)引用発明の認定
ア 刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用したこの出願の優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。

(ア-1)「【請求項1】少なくとも1種の硬化可能な樹脂を含浸させた繊維質基材を含み、該繊維質基材は、多孔質の一次層と該一次層の少なくとも1つの表面の摩擦調整粒子を含む二次層とを含み、該摩擦調整粒子は、前記繊維質基材の重量を基準として約0.2?約20重量%存在し、前記摩擦調整粒子は、前記一次層の表面積の約3?約90%を被覆する、摩擦材料。
・・
【請求項4】前記摩擦調整粒子のサイズは約0.5?約20ミクロンの範囲にわたる、請求項1に記載の摩擦材料。
【請求項5】前記摩擦調整粒子は、シリカ粒子;フェノール樹脂、シリコーン樹脂、またはエポキシ樹脂及びこれらの混合物を含む樹脂粉末;完全に炭化した炭素粉末若しくは粒子または部分的に炭化した粉末若しくは粒子及びこれらの混合物;並びにこれらの混合物を含む、請求項4に記載の摩擦材料。」
(ア-2)「【0025】摩擦調整粒子の二次すなわち上層を一次層の表面に堆積させて、繊維質基材を形成する。様々な摩擦調整粒子が、繊維質基材表面の二次層として有用である。特に、シリカ粒子の例えばケイソウ土、セライト、celatom、及び/または二酸化ケイ素は特に有用である。」
(ア-3)「【0047】摩擦調整粒子の二次層を一次層の表面に堆積させて、繊維質基材を形成する。様々な摩擦調整粒子が、繊維質基材表面の二次層として有用である。有用な摩擦調整粒子としては、シリカ粒子;樹脂粉末の例えばフェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂及びこれらの混合物;部分的及び/または完全に炭化した炭素粉末及び/または粒子及びこれらの混合物;並びにこのような摩擦調整粒子の混合物が挙げられる。特に、シリカ粒子の例えばケイソウ土、セライト(登録商標)、Celatom(登録商標)、及び/または二酸化ケイ素は特に有用である。シリカ粒子は、繊維質材料に強く結合する廉価な有機材料である。シリカ粒子は、摩擦材料に高い摩擦係数を与える。シリカ粒子はまた、摩擦材料に平滑な摩擦表面を与え、摩擦材料に良好な「シフト感触」と摩擦特性とを与え、これによって、いかなるシャダも最小になるようにする。」
(ア-4)「【0055】・・BWは本発明の摩擦材料であり・・約3?約5重量%のセライト摩擦調整粒子を含む二次層すなわち上層を有する。」

(イ)刊行物2に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用したこの出願の優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(イ-1)「【0008】
【発明の実施の形態】・・湿式摩擦材は、繊維基材と充填剤と結合剤とからなる湿式摩擦材において、充填剤として珪藻土及びモース硬度8?9.5のフィラーのうち少なくとも一方を用い・・たものである。・・
【0009】充填剤として用いる珪藻土は略円盤状のものが好ましい。これは、円盤状の珪藻土を用いることによって、湿式摩擦材の表面平滑性が向上して相手摩擦面との接触が良くなり、その結果、摩擦係数が高くなるものと推定される。なお、円盤状の珪藻土は、その直径が5?50μm程度のものが好ましい。・・なお、上記充填剤は摩擦調整剤としての機能も併せもつ。」

(ウ)刊行物3に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用したこの出願の優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(ウ-1)「特許請求の範囲
(1)多孔性、可撓性、インターフェルト型繊維シート状の摩擦材であって、約25乃至65パーセントのセルロース繊維、約5乃至20パーセントの炭素繊維、約5乃至20パーセントの難燃性有機質繊維、約30パーセントを超えないグラファイト粒子、約30パーセントを超えない珪藻土粒子及びシートの抗張力を高める効果を有する少量のサイズの混合物から成り、前記パーセントは該シートの全重量に対する重量比であるところの摩擦材。」(第1頁左下欄第5?14行)
(ウ-2)「(8)約40パーセントのセルロース繊維、約5パーセントの炭素繊維、約5パーセントの難燃性有機質繊維、約30パーセントのグラファイト、約13パーセントの珪藻土及び約5パーセントの固形サイズより成る特許請求の範囲第1項記載の摩擦材。」(第2頁左上欄第1?5行)
(ウ-3)「本発明の摩擦材には固有の特性値を示す変性材を含む。例えば、摩擦材は、摩擦の制御と摩耗の改善を図る簿片状のグラファイト及び最小の費用で運動摩擦抵抗と摩耗抵抗を改善する機能をも果す珪藻土の如き鉱物を含むことが出来る。」(第4頁右下欄第8?12行)

イ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「少なくとも1種の硬化可能な樹脂を含浸させた繊維質基材を含み、該繊維質基材は、多孔質の一次層と該一次層の少なくとも1つの表面の摩擦調整粒子を含む二次層とを含み、該摩擦調整粒子は・・シリカ粒子;・・樹脂粉末;・・炭素・・粒子・・;並びにこれらの混合物を含む・・摩擦材料」(摘示(ア-1))が記載され、さらに、「様々な摩擦調整粒子が、繊維質基材表面の二次層として有用で・・特に、シリカ粒子の例えばケイソウ土、セライト・・は特に有用である」こと(摘示(ア-2))が記載されている。
また、刊行物1には、「有用な摩擦調整粒子としては、シリカ粒子;樹脂粉末・・;・・炭素・・粒子・・;並びにこのような摩擦調整粒子の混合物が挙げられ・・シリカ粒子・・は特に有用である」(摘示ア-3)という記載や、「BWは本発明の摩擦材料であり・・約3?約5重量%セライト摩擦調整粒子を含む二次層・・を有する」(摘示(ア-4))という記載のとおり、摩擦調整粒子としてシリカ粒子を単独で用いる具体例が示されていることから、摘示(ア-1)における「シリカ粒子;・・樹脂粉末;・・炭素・・粒子・・;並びにこれらの混合物を含む」は、「シリカ粒子;・・樹脂粉末;・・炭素・・粒子・・;並びにこれらの混合物のうちのいずれかを含む」(下線は当審により付記)の誤記であり、「シリカ粒子、樹脂粉末、炭素粒子、又はこれらの混合物を含む」ことを意味するものといえる。
したがって、刊行物1には、
「少なくとも一種の硬化可能な樹脂を含浸させた繊維質基材を含み、該繊維質基材は、多孔質の一次層と該一次層の少なくとも一つの表面の摩擦調整粒子を含む二次層とを含み、該摩擦調整粒子は、ケイソウ土、セライト等のシリカ粒子、樹脂粉末、炭素粒子、又はこれらの混合物を含むものである摩擦材料」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)本願発明についての検討
ア 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における、摩擦材料が「少なくとも一種の硬化可能な樹脂を含浸させた繊維質基材」を含む構成は、本願発明における、摩擦材料が「少なくとも一種の硬化可能な樹脂を含浸させたベース材料」を含む構成に相当する。
引用発明における「繊維質基材」が「多孔質の一次層」と「該一次層の少なくとも一つの表面の摩擦調整粒子を含む二次層」とを含む構成は、本願発明における「ベース材料」が「i)繊維質ベース材料を含む多孔質一次層」と「ii)前記繊維質ベース材料の外部表面を被覆している摩擦調整粒子を含む二次層」とを含む構成に相当する。
また、引用発明における「これらの混合物」とは、「シリカ粒子」、「樹脂粉末」及び「炭素粒子」から任意に選択した2以上の粒子又は粉末の混合物を意味すると解されるところ、「シリカ粒子」と「炭素粒子」の混合物は、その選択肢の一つであるといえる。
そうすると、引用発明における「二次層」が「摩擦調整粒子」を含み、その「摩擦調整粒子」が「シリカ粒子、樹脂粉末、炭素粒子、又はこれらの混合物」を含むことは、「二次層」が「シリカ粒子」と「炭素粒子」の混合物である摩擦調整粒子である場合を含むから、それは、本願発明における「二次層」が「炭素粒子及びシリカ粒子からなる摩擦調整粒子」を含むことに相当するといえる。
さらに、引用発明における「シリカ粒子」が「ケイソウ土、セライト等」であることは、本願発明における「シリカ粒子」が「珪藻土」を含むことに相当する。
なお、「ケイソウ土」及び「セライト」がいずれも珪藻土を意味することは、当業者の技術常識である(化学大事典編集委員会編,「化学大辞典4 縮刷版」,縮刷版第32刷,共立出版株式会社,1989年8月15日,383頁,「セライト」[2]欄参照)。
してみると、本願発明と引用発明は、
「少なくとも一種の硬化可能な樹脂を含浸させたベース材料を含む摩擦材料であって、前記ベース材料は、i)繊維質ベース材料を含む多孔質一次層と、
ii)前記繊維質ベース材料の外部表面を被覆している摩擦調整粒子を含む二次層とを含む前記摩擦材料において、
前記二次層は、シリカ粒子及び炭素粒子からなる摩擦調整粒子を含み、前記シリカ粒子は、珪藻土を含む、摩擦材料」
という点で一致し、以下の相違点1及び2のみで一応相違する。

相違点1
珪藻土が、本願発明では、「対称的な形状」のものであるのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点

相違点2
炭素粒子及びシリカ粒子からなる摩擦調整粒子が、本願発明では、「摩擦調整粒子の全重量を基準として20?35重量%の対称性の形状のシリカ粒子及び65?80重量%の炭素粒子からなる」のに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点

なお、本願発明では、引用発明で特定されていない、二次層に「幾何学的に対称な形状」の摩擦調整粒子が含まれることが特定されているものの、その特定事項は、相違点1に示した珪藻土(摩擦調整粒子)が対称的な形状であることと実質的に同じ事項であるため、新たな相違点とはしていない。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
(ア-1)刊行物2には、「湿式摩擦材は・・充填剤として・・円盤状の珪藻土を用いることによって、湿式摩擦材の表面平滑性が向上して相手摩擦面との接触が良くなり、その結果、摩擦係数が高くなること」、「上記摩擦材は摩擦調整剤としての機能を併せもつ」こと(摘示(イ-1))が記載されており、この記載からみて、湿式摩擦材に用いる摩擦調整剤として円盤状の珪藻土が好適であり、それによって表面平滑性が向上し、摩擦係数が高くなることが示されているといえる。
一方、刊行物1には、「摩擦調整粒子としては・・シリカ粒子の例えばケイソウ土、セライト・・は特に有用で・・シリカ粒子は・・摩擦材料に平滑な摩擦表面を与え、摩擦材料に良好な「シフト感触」と摩擦特性を与え、これによって、いかなるシャッダも最小になるようにする」(摘示(ア-3))と記載されており、摩擦調整粒子として、摩擦材料に平滑な摩擦表面を与える珪藻土を用いることが示唆されているといえる。
また、円盤状という用語が、一般的に丸い、平坦な対称的な形状を意味することは自明であるから、その円盤状の珪藻土とは、丸い、平坦な円盤状の対称的な形状のものであると認められる。
そうすると、引用発明における「ケイソウ土、セライト等のシリカ粒子」として、表面平滑性を向上させ、摩擦係数が高くするために、平坦な円盤状の「対称的な形状」の珪藻土を用いることは、当業者が容易に想到できたことである。

(ア-2)なお、審判請求人は、平成24年6月7日付けの意見書(以下、「意見書」という。)の【意見の内容】3.(2)において、「刊行物2には、円盤状の珪藻土を用いることによって湿式摩擦材の性能を向上させることが記載されている・・しかしながら、刊行物2には、円盤状の珪藻土を、炭素粒子のような不規則な表面形状を有する粒子と組み合わせることによって、摩擦材料の特性をさらに改善することについては、記載も示唆もされていない。刊行物2は、円盤状の珪藻土とアルミナとの組み合わせが最も優れていると述べているものの・・これはアルミナの形状に着目したものではなく、充填剤としてのモース硬度に着目した結果に過ぎない。アルミナが炭素粒子とは全く異なる材料であることは明らかであり、さらに刊行物2のアルミナがどのような形状を取るものであるかは不明である」と主張している。
しかしながら、本願発明では、炭素粒子が「不規則な表面形状を有する」とは特定されておらず、技術常識を考慮しても炭素粒子であれば不規則な表面形状であるともいえないから、それに基づく上記主張は採用できない。

(イ)相違点2について
(イ-1)刊行物3には、「約30パーセントのグラファイト、約13パーセントの珪藻土・・より成る・・摩擦材」(摘示(ウ-1)及び(ウ-2))が記載され、さらに、「摩擦の制御と摩耗の改善を図る・・グラファイト」及び「最小の費用で運動摩擦抵抗と摩耗抵抗を改善する機能をも果す珪藻土」は「固有の特性を示す変性材」として摩擦材に含まれること(摘示(ウ-3))が記載されている。
なお、「前記パーセントは・・全重量に対する重量比」(摘示(ウ-1))である。
また、摩擦材におけるグラファイトと珪藻土の重量比を、両者のみの重量比として換算すると、グラファイトが約70重量%で珪藻土が約30重量%である。
さらに、グラファイトにおける「摩擦の制御と摩耗の改善」という特性及び珪藻土における「最小の費用で運動摩擦抵抗と摩耗抵抗を改善する機能を果す」という特性は、いずれも摩擦調整材の特性であると認められる。
よって、刊行物3には、摩擦材において摩擦調整材の特性を有するグラファイトと珪藻土を約70重量%と約30重量%で含むことが記載されていると認められる。
してみると、引用発明における摩擦調整粒子が、上記アで示したように、シリカ粒子と炭素粒子の混合物であるといえる以上、その重量比を、炭素粒子70重量%、シリカ粒子30重量%程度となるように調整してみることによって、「摩擦調整粒子の全重量を基準として20?35重量%の対称性の形状のシリカ粒子、及び65?80重量%の炭素粒子」を含むものとすること、すなわち、引用発明における摩擦調整粒子を本願発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が適宜にできた設計的事項である。

(イ-2)なお、審判請求人は、意見書の【意見の内容】3.(2)において、「刊行物2には・・アルミナが炭素粒子とは全く異なる材料であることは明らかであり・・珪藻土とアルミナとの最適な比率についてもまったく開示されていない・・刊行物3には、摩擦材料中に30%のグラファイトと13%の珪藻土を含むことが開示されている・・しかし、刊行物3におけるグラファイトと珪藻土は、いずれも対称性の形状を有するとは記載されていない。したがって、刊行物3にも、対称性の形状の粒子と、不規則な表面形状を有する粒子とを組み合わせることは記載も示唆もされておらず、また、当然その最適な比率についてもまったく開示されていない」と主張している。
しかしながら、本願発明では、炭素粒子が「不規則な表面形状を有する」とは特定されておらず、それに基づく上記主張は採用できない。

ウ 効果について
(ア)平成20年9月5日付けの手続補正、平成21年4月7日付けの手続補正、平成21年10月5日付けの手続補正、平成24年6月7日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の段落【0057】には、「ベース材料に上部層として適用すると、摩擦調整粒子のそのような丸い、平坦な円盤は、特徴的な平積みパターンを提供し、これにより摩擦面におけるオイル滞留及びオイルの流れを改善する」と記載され、段落【0058】には、「摩擦調整材料層は、表面に液体潤滑剤を維持し、摩擦材料のオイル滞留性能を高める・・かくしてその表面に油膜を残しておくことができ・・優れた摩擦係数特性と優れたスリップ耐久性特徴を提供する」と記載されている。さらに、段落【0080】?【0101】に記載された実施例では、改善されたμ-スリップ速度特性が示され、スリップ耐久性に優れることが示されている。
これは、上記アで示した相違点1に基づく効果として、優れた摩擦係数特性と優れたスリップ耐久性特徴が提供されることを示すものであると認められる。
本願明細書の段落【0060】には、「炭素粒子とシリカ粒子との混合物をさらに含み得ることは本発明の範囲内である」と記載されているものの、本願明細書のいずれにおいても、上記アで示した相違点2に基づく効果についての記載や示唆は認められず、その効果は当業者にとっても明らかであるとはいえない。
そこで、相違点1に基づく効果、すなわち、優れた摩擦係数特性と優れたスリップ耐久性特徴が提供される点について検討する。
刊行物2には、上記イ(ア)で示したとおり、円盤状の珪藻土によって表面平滑性が向上し、摩擦係数が高くなることが示されている。
また、刊行物3には、上記イ(イ)で示したとおり、珪藻土が運動摩擦抵抗と摩耗抵抗を改善する機能を果たすことが示されており、運動摩擦抵抗の改善によりスリップの発生が低減されること、つまりスリップ耐久性が改善されることは当業者に明らかである。
そうであれば、引用発明と刊行物2及び3に記載された発明を組み合わせて得られる摩擦材料によって、優れた摩擦係数特性と優れたスリップ耐久性特徴が提供されることは、当業者に明らかである。
してみると、本願発明の効果は、当業者が予測できる範囲内のものである。

(イ)なお、審判請求人は、意見書の【意見の内容】3.(3)において、「本発明者らは、形状的に対称性のシリカ粒子と不規則な形状の摩擦調整材料との組み合わせが、摩擦材料に特に有用であることを見出し、本願発明を完成させたものである・・本願特許請求の範囲に記載の発明の特徴である「20?35重量%の対称性の形状のシリカ粒子、及び65?80重量%の炭素粒子からなる摩擦調整粒子」は、この一態様といえる・・このような形状的に対称な粒子と不規則な粒子との組み合わせにより、摩擦材料の性能が向上することは、特に本願明細書の各実施例に詳しく説明されている。例えば、図8aは、μ-スリップ速度を示すグラフであり、ここでは、形状的に対称な粒子と不規則な形状の粒子とを組み合わせたコーティングを具備する摩擦材料(点線)が、従来の材料(実線)と比較して、スリップ速度にかかわらず一定の摩擦力を保持していることが示されている(本願明細書の図8a、段落0107)。図9aにも、温度条件を変えて同様の比較実験を行った結果が示されている。このように、本願発明の摩擦材料は、従来技術によって製造された摩擦材料に比べて高い摩擦性能を有するものである・・上記の形状的に対称な粒子と不規則な粒子との組み合わせによる有利な効果については、刊行物1?3にはまったく記載も示唆もされていない」と主張している。
しかしながら、本願明細書の段落【0094】には、「図8aは、μ-スリップ速度を示すグラフで・・点線-36%の樹脂取り込み飽和で最初に実施した、10℃における織材料における対称的な形状の摩擦調整粒子と不規則な形状の摩擦調整粒子との混合物の部分コーティングを有する実施例2」と記載され、段落【0096】には、「図9aは、μ-スリップ速度を示すグラフで・・点線-36%の樹脂取り込み飽和で最初に実施した、30℃における織材料の対称的な形状の摩擦調整粒子と不規則な形状の摩擦調整粒子との混合物の部分コーティングを有する実施例1」と記載されているように、図8a及び図9aによって示される摩擦性能は、摩擦調整粒子の材料が特定されてない対称的な形状の摩擦調整粒子と不規則な形状の摩擦調整粒子との混合物の部分コーティングを二次層とする摩擦材料についてのものに過ぎない。すなわち、図8a及び図9aによって示される摩擦性能は、「二次層は、対称性の形状のシリカ粒子及び炭素粒子からなる摩擦調整粒子を含む」と特定した本願発明についてのものであるとはいえない。
また、審判請求人は、「本願特許請求の範囲に記載の発明の特徴である「20?35重量%の対称性の形状のシリカ粒子、及び65?80重量%の炭素粒子からなる摩擦調整粒子」は・・一態様といえる」と主張しているものの、本願明細書には、対称性の形状のシリカ粒子の重量%と炭素粒子の重量%についての記載や示唆は認められず、その数値範囲に臨界的な意義は認められない。
してみると、形状的に対称な粒子と不規則な粒子との組み合わせによる有利な効果についての上記主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)並びに刊行物2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(4)まとめ
上記(3)で示したとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)並びに刊行物2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 拒絶の理由2について
(1)はじめに
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定されている。 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号判決)である。
以下、この観点に立って検討する。

(2)発明の課題について
本願発明の課題は、本願明細書の段落【0029】記載からみて、「従来技術のものと比較して信頼性があり且つ優れた特性をもつ改良摩擦材料を提供すること」及び「「防震性:anti-shudder」、「ホットスポット」耐性、耐高熱性、高摩擦安定性並びに、耐久性、多孔率、強度及び弾力性を備えた摩擦材料を提供すること」であると認められる。

(3)検討
ア 本願発明は、「二次層は、炭素粒子及び丸い、平坦な円盤状の対称性の形状のシリカ粒子の混合物を含」む構成を特徴の一つとするものである。
一方、本願明細書の段落【0057】には、「本発明の一側面において、規則正しい形状をもつ摩擦調整材料は、セライトの丸い、平坦な円盤を含」み、「摩擦調整粒子のそのような丸い、平坦な円盤は、特徴的な平面積みパターンを提供し、これにより摩擦面におけるオイル滞留及びオイルの流れを改善する」と記載され、【図1a】及び【図1b】には、平坦な対称性の形状の摩擦調整材料が平面積みパターンをなす状態が示されている。
そして、本願明細書の段落【0053】における「摩擦材料は、摩擦材料の多孔質構造の中にくまなく自動変速装置流体が良好に流れるので、より低温で動作するかまたは変速装置に発生する熱がより少ないと思われる」という記載や、本願明細書の段落【0058】における「摩擦調整材料層は、表面に液体潤滑剤を維持し、摩擦材料のオイル滞留性能を高め・・かくしてその表面に油膜を残しておくことができ・・優れた摩擦係数特性と優れたスリップ耐久性特徴を提供する」という記載も考慮すると、上記平積みパターンによって摩擦面におけるオイル滞留及びオイルの流れが従来と比較して実質的に改善されるのであれば、「ホットスポット」耐性、耐高熱性、高摩擦安定性、耐久性等に優れた摩擦材料が提供できることは当業者が認識できるものといえる。
しかしながら、上記本願明細書の記載からでは、上記平積みパターンによってオイル滞留及びオイルの流れが従来のものと比較してどの程度改善されるのかは当業者にとっても明らかであるとはいえず、それを裏付けるようなデータや論理的な説明は、本願明細書のいずれにも認められない。
なお、本願明細書の段落【0058】では、「摩擦調整材料層は、表面に液体潤滑剤を維持し、摩擦材料のオイル滞留を高める」という記載によってオイル滞留が改善される機構について一応説示されているものの、その記載の前段で「摩擦調整粒子は、約0.1?約80ミクロンの平均径をもち・・特定の態様では、約0.1?約0.15ミクロンである」と記載されているように、オイル滞留が改善される機構についての論理的な説明は、あくまで本願発明の特定事項ではない摩擦調整粒子の特定の平均径を前提とするもので、上記平積みパターンによってオイル滞留が従来のものと比較して実質的に改善されることを裏付けるものとはいえない。
まして、丸い、平坦な円盤状の対称性の形状のシリカ粒子が炭素粒子と混合される場合には、上記で示したとおりの平面積みパターンが形成されるか否かさえ不明であるところ、摩擦材料が従来技術のものと比較して優れた「ホットスポット」耐性、耐高熱性、高摩擦安定性、耐久性等を有するものとなることを当業者が認識できるものではない。
イ また、本願発明は、「二次層は、摩擦調整粒子の全重量を基準として20?35重量%の前記対称性の形状のシリカ粒子、及び65?80重量%の前記炭素粒子を含む」構成も特徴の一つとするものである。
一方、本願明細書の段落【0032】には、「摩擦調整粒子は、炭素粒子と対称的な形状のシリカ粒子との混合物を含むことができる」と記載されている。
しかしながら、対称性の形状のシリカ粒子の重量%と炭素粒子の重量%については、本願明細書のいずれにも記載や示唆は認められず、それによって摩擦材料が従来技術のものと比較していかなる点で優れた特性を有するのか、当業者にとっても明らかでない。
ウ さらに、出願時の技術常識に照らしても、上記ア及びイで示した特徴を有する本願発明において、摩擦材料が従来技術のものと比較して何らかの優れた特性を有すると認められるような出願時の技術常識は認められない。
エ してみると、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(2)で示した発明の課題を解決できると認識できるものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項6に記載された事項で特定される発明(本願発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、この出願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号及び第4号の規定に該当し、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-29 
結審通知日 2012-07-02 
審決日 2012-07-13 
出願番号 特願2004-268087(P2004-268087)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
P 1 8・ 537- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 村守 宏文
木村 敏康
発明の名称 対称性の摩擦調整粒子を使用する高効率摩擦材料  
代理人 社本 一夫  
代理人 松本 謙  
代理人 小林 泰  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  

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