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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1266529
審判番号 不服2010-14357  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-30 
確定日 2012-11-22 
事件の表示 特願2005-181804「偽装防止媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月11日出願公開、特開2007- 3673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年6月22日の出願であって、平成22年3月25日付けでなされた拒絶査定に対して、同年6月30日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、当審において、平成24年3月14日付けで通知された拒絶理由に対して、同年4月27日付けで手続補正書が提出され、さらに、同年5月30日付けでなされた最後の拒絶理由の通知に対して、同年7月31日付けで手続補正書が提出されたものである。


第2 平成24年7月31日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年7月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は、特許請求の範囲を、
補正前の
「【請求項1】
偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材上に光吸収層が形成され、該光吸収層上の少なくとも1部にアクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなる回折構造層が形成され、該回折構造層上の全面にコレステリック液晶層が形成され、該回折構造層は、2μm厚みで黒色顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂からなる該光吸収層上に形成され、該光吸収層側の面に微細な凹凸を有する回折構造形成層と、該回折構造形成層の微細な凹凸形成面に部分的に形成された回折構造効果層とからなり、該回折構造効果層が、光を反射するように金属材料又は金属酸化物材料からなり、回折構造層の一部に設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
前記回折構造層部分が数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されていることを特徴とする請求項1項記載の偽造防止媒体。」から、
「【請求項1】
偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム上に光吸収層が形成され、該光吸収層上の全面にアクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなる回折構造形成層が形成され、回折構造層上の全面にコレステリック液晶層が形成され、該回折構造層は、2μm厚みで黒色顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂からなる該光吸収層上に形成され、該光吸収層側の面に微細な凹凸を有する回折構造形成層と、該回折構造形成層の微細な凹凸形成面に部分的に形成された回折構造効果層とからなり、該回折構造効果層が、光を反射するように金属材料又は金属酸化物材料からなり、回折構造層の一部に設けられており、前記回折構造層部分が数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されていることを特徴とする偽造防止媒体。」
に補正する事項が含まれている。

2.新規事項の有無について
(1)補正後の規定内容
上記補正事項により、請求項1における、補正前の「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材」は、フィルムという表現が追加され、「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」と補正された。
それにより、請求項1は、当該基材フィルムの上に、順に、光吸収層、回折構造層(回折構造効果層、回折構造形成層)、コレステリック液晶層が形成された「偽造防止媒体」の発明が請求されている。

(2)次に、出願当初の特許請求の範囲、明細書、図面には、「偽造防止媒体」に関してどのような記載事項があったのか確認してみる。
まず、出願当初の特許請求の範囲には、「偽造防止媒体」の発明について、「【請求項1】偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、少なくとも基材上の一部分に回折構造層部分と、見る角度によって色彩変化を生じるコレステリック液晶層部分が一体となり形成されていることを特徴とする偽造防止媒体。【請求項2】前記コレステリック液晶層と基材の間に全面あるいはその一部に光吸収層が設けられていることを特徴とする請求項1記載の偽造防止媒体。【請求項3】前記コレステリック液晶層部分あるいは回折構造体層部分が数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項記載の偽造防止媒体。」及び「【請求項6】偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、少なくとも物品上の一部分に回折構造層部分と、見る角度によって色彩変化を生じるコレステリック液晶層部分が一体となり形成されていることを特徴とする偽造防止媒体。【請求項7】前記コレステリック液晶層と物品の間に全面あるいはその一部に光吸収層が設けられていることを特徴とする請求項6記載の偽造防止媒体。【請求項8】前記コレステリック液晶層部分あるいは回折構造体層部分が 数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されていることを特徴とする請求項6乃至7のいずれか1項記載の偽造防止媒体。」との記載があり、
同じく出願当初の明細書には、「偽造防止媒体」について、「【0028】図1は、本発明の偽造防止媒体の一実施例を示す正面図であり、図2は、その側断面図である。【0029】本発明の偽造防止媒体1は、例えば、図1および2に示したように、基材2の一部に回折構造層部3およびコレステリック液晶層4を有してなるものである。また、偽造防止の観点から、これらの層は、図1のように絵柄、文字、数字等の特定の情報を有する形状に設けることが好ましい。」との記載がある。
また、出願当初の特許請求の範囲には、「偽造防止媒体」に係る発明とは別に、偽造防止媒体に使用する「偽造防止体」に係る発明も請求されており、「【請求項4】上記請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偽造防止媒体に使用する偽造防止体であって、透明基材フィルムの一方の面の全面あるいは一部に、見る角度によって色彩変化を生じるコレステリック液晶層が設けられ、他方の面の一部に回折構造層部分、かつその全面に接着層が積層されていることを特徴とする偽造防止体。」及び「【請求項9】上記請求項6乃至8のいすれか1項記載の偽造防止媒体に使用する偽造防止体であって、透明基材フィルムの一方の面の全面あるいは一部に、見る角度によって色彩変化を生じるコレステリック液晶層が設けられ、他方の面の一部に回折構造層部分、かつその全面に接着層が積層されていることを特徴とする偽造防止体。」との記載があり、
請求項1?3,6?8に規定される「基材」に対して「偽造防止体」を接着することにより「偽造防止媒体」が形成されるものであることが理解される。
また、出願当初の図3?6には、「偽造防止体」の実施例が示されている。
そして、基材と称されるものとして、「偽造防止体」の「透明基材フィルム」と、「偽造防止媒体」の「基材」とがあり、両者は区別されていることがわかる。

(3)そこで、本件補正後の請求項1における「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」が、「偽造防止体」の「透明基材フィルム」と、「偽造防止媒体」の「基材」とのうち、どちらに対応するものであるかを検討する。
当該「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」の上に形成される層の種類と順番から判断するに、出願当初の「偽造防止体」では、「透明基材フィルム」上に、順に、光吸収層、回折構造層(回折構造効果層、回折構造形成層)、コレステリック液晶層が形成された例はなく、「偽造防止媒体」の「基材」とした場合の層構成に基本的に一致するといえるので、当該「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」は、「偽造防止媒体」の「基材」に対応するものであるということができる。

(4)次に、「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」の事項が、「偽造防止媒体」の「基材」として、出願当初の特許請求の範囲、明細書または図面に記載されていたか否かを検討する。
出願当初の実施例1(【0049】?【0053】。請求人の説明する補正の根拠箇所)には、確かに、「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから成る透明基材フィルム5」との記載があるが、実施例1は、「偽造防止体」の作製に関するものであり、実施例1の「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから成る透明基材フィルム5」とは、「偽造防止体」の「透明基材フィルム」に係るものであり、「偽造防止媒体」の「基材」に係るものではない。また、当然のことながら、実施例1の「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから成る透明基材フィルム5」の上に形成される層構成は、本件補正後の請求項1における「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」の上に形成される層構成とは、異なるものである。
また、出願当初の特許請求の範囲、明細書または図面の他の箇所をみても、「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」については、記載も示唆もない。

(5)そうすると、本件補正後の請求項1に係る発明の「偽造防止媒体」における「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」は、出願当初の特許請求の範囲、明細書または図面に記載した事項ではない。
なお、本件補正前の請求項1に係る発明に、フィルムの表現を外しただけの、「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材」が規定されており、これについて出願当初の特許請求の範囲、明細書または図面に記載した事項ではない旨の指摘が、最後の拒絶理由の通知において既になされていたことを付記しておく。

(6)まとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件について
(1)本願補正発明
上記「2.」で示したように、本件補正後の請求項1には、新規事項が認められるが、「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム基材」からなるものが、基材2(カード基材)ではなく、基材フィルム5であった等の仮定をおくと、補正前の「該光吸収層上の少なくとも1部にアクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなる回折構造層が形成され」を「該光吸収層上の全面にアクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなる回折構造形成層が形成され」に補正する事項は、特許請求の範囲の減縮に該当するといえるから、
ここでは、一応、合理的と思われる、以下のような記載を想定し(下線部を変更した)、それら事項からなる発明(以下、「本願補正発明」という。)について予備的に独立特許要件の判断を示しておく。

「【請求項1】
偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、基材上に光吸収層が形成され、該光吸収層上の全面にアクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなる回折構造形成層が形成され、回折構造層上の全面に厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルムが位置し、該基材フィルム上の全面にコレステリック液晶層が形成され、該回折構造層は、2μm厚みで黒色顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂からなる該光吸収層上に形成され、該光吸収層側の面に微細な凹凸を有する回折構造形成層と、該回折構造形成層の微細な凹凸形成面に部分的に形成された回折構造効果層とからなり、該回折構造効果層が、光を反射するように金属材料又は金属酸化物材料からなり、回折構造層の一部に設けられており、前記回折構造層部分が数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されていることを特徴とする偽造防止媒体。」

(2)引用例
本願の出願前に頒布された、
刊行物1:特開2005-88381号公報、
刊行物2:特開平4-104188号公報、
刊行物3:特開平11-7244号公報、
刊行物4:国際公開第00/13065号、
刊行物5:特開平8-339156号公報
には、以下の事項が図面とともに記載されている。 なお、下線は当審で付した。

(a)刊行物1
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、不正な意図に基づく偽造や改ざん等により得られたものとの区別を可能にした真偽判定用媒体に関する。また、本発明は、そのような真偽判定用媒体を物品に適用するのに適するラベルの形態や転写シートの形態に加工したものにも関する。さらに本発明は、真偽判定用媒体を適用したシートや情報記録体にも関する。」

(イ)「【0028】
図1(a)に例示するように、本発明の真偽判定用媒体1は、基材2の図中の上面に配向膜3、入射光の回転方向が反転する反転層4、および光選択反射パターン層4がこの順に積層されたものであり、また、基材2の図中の下面に、ホログラム形成層6および反射性7(当審注:以下の文章から反射性層7の誤記と認める。)が順に積層された積層構造を有するものである。ホログラム形成層6はその下面側にホログラムの微細凹凸を有しており、反射性層7は微細凹凸に沿って積層されている。このように反転層4および光選択反射パターン層4等がホログラム形成層5および反射性層7と基材をはさんで積層されているので、それぞれの形成の際に互いに影響を及ぼすことを少なくできる利点が生じる。
【0029】
図1(b)に例示するように、本発明の真偽判定用媒体1は、基材2の図中の下面に配向膜A(符号;3a)、光選択反射パターン層4、配向膜B(符号;3b)、入射光の回転方向が反転する反転層4、ホログラム形成層6、および反射性層7がこの順に積層された積層構造を有するものであってもよい。やはりホログラム形成層6はその下面側にホログラムの微細凹凸を有しており、反射性層7は微細凹凸に沿って積層されている。このように基材の一方の側にのみ各層が積層されていると、露出した基材を保護層として利用することが可能になる利点が生じる。
【0030】
上記二例において、入射光の回転方向が反転する反転層4は、ネマチック液晶層もしくはスメクチック液晶層からなるものであり、また、光選択反射パターン層4は、入射光のうち、左円偏光もしくは右円偏光のいずれか一方を反射する光選択反射性を有する素材からなる層であり、例えばコレステリック液晶層からなるものであり、層の有無、もしくは層の厚薄によりパターンが形成されているものである。」

(ウ)図1は次のとおり。

ここで、図1から、「ホログラム形成層6」「基材2」は、 「真偽判定用媒体1」の全面に形成されていることが理解される。


(エ)「【0035】
基材2としては、厚みを薄くすることが可能であって、機械的強度や真偽判定用媒体を製造する際の加工に耐える耐溶剤性および耐熱性を有するものが好ましい。使用目的にもよるので、限定されるものではないが、フィルム状もしくはシート状のプラスチックが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアリレート、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、ポリエチレン/ビニルアルコール等の各種のプラスチックフィルムを例示することができる。」
また、実施例1では、PETフィルムを基材2としている。

(オ)「【0038】
光選択反射パターン層4は、コレステリック液晶層からなる。配向状態にあるコレステリック液晶層は、入射した光のうち、左円偏光もしくは右円偏光のいずれか一方のみを反射する性質を有している。光選択反射パターン層4は、コレステリック液晶の溶剤溶液をパターン状に適用し、乾燥させることにより形成することができ、あるいは、このとき、重合性のコレステリック液晶を用いて紫外線重合性組成物を調製して用い、パターン状に適用し、乾燥後に、紫外線を照射して重合させて形成することもできる。
【0039】
光選択反射パターン層4をパターン状に形成するには、各種の印刷法によることが好ましく、また、光選択反射パターン層4を二種類以上設ける場合において、少なくともそれらのうちの一種類を均一一様な層として形成するには、各種の塗布法によることが好ましい。
【0040】
ホログラム形成層6は、透明な樹脂材料からなる層の片面にレリーフホログラムの微細凹凸が形成されたものである。
【0041】
ホログラム形成層6を構成するための透明な樹脂材料としては、各種の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、もしくは電離放射線硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としてはアクリル酸エステル樹脂、アクリルアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、もしくはポリスチレン樹脂等が、また、熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、もしくはフェノール樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、1種もしくは2種以上を使用することができる。これらの樹脂の1種もしくは2種以上は、各種イソシアネート樹脂を用いて架橋させてもよいし、あるいは、各種の硬化触媒、例えば、ナフテン酸コバルト、もしくはナフテン酸亜鉛等の金属石鹸を配合するか、または、熱もしくは紫外線で重合を開始させるためのベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物、ベンゾフェノン、アセトフェノン、アントラキノン、ナフトキノン、アゾビスイソブチロニトリル、もしくはジフェニルスルフィド等を配合しても良い。また、電離放射線硬化性樹脂としては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、アクリル変性ポリエステル等を挙げることができ、このような電離放射線硬化性樹脂に架橋構造を導入するか、もしくは粘度を調整する目的で、単官能モノマーもしくは多官能モノマー、またはオリゴマー等を配合して用いてもよい。
【0042】
上記の樹脂材料を用いてホログラム形成層6を形成するには、・・・(中略)・・・
【0043】
レリーフホログラムの微細凹凸に沿って形成する反射性層7としては、反射性の金属薄膜もしくはホログラム形成層6とは光の屈折率の異なる透明層のいずれであってもよく、前者を用いる場合には不透明なホログラムが、また、後者を用いる場合には透明なホログラムが得られ、いずれの場合にも、観察者側からの照明によって見える反射型ホログラムとなる。」

(カ)「【0048】
図1(a)を引用して説明した真偽判定用媒体1を例に、真偽判定の方法を説明する。まず、本発明の真偽判定用媒体1を自然光下で観察すると、図3(a)に模式的に示すように、反射性層7による光の反射によりホログラム形成層6の下面に微細凹凸として記録されたホログラム9を見ることができ、このとき、光選択反射パターン層5は透明であるため、そのパターン(ここでは文字「A」である。)10は潜像となっており、全く見えないか、ごく不明瞭にしか見えない。従って、全体としては、単なるホログラム9として認識される。
【0049】
次に、光選択反射パターン層5が右円偏光のみを反射する性質を有するとすれば、光選択反射パターン層5上に右円偏光を入射すると、文字「A」の部分で反射が起きるので、「A」の文字が顕像となったパターン10’が得られ、また「A」の文字は、光選択反射パターン層5を構成するコレステリック液晶のらせんピッチに基づいて着色して見える。パターン10’以外の部分、即ち、反転層4の部分では、入射光の回転方向が反転して反射が起きるため明るく見えるから、背景のホログラム9が暗くならず、その上に文字「A」である顕像となったパターン10’が見える状態となる(図3(b))。
【0050】
しかしながら、この光選択反射パターン層5上に左円偏光を入射すると、左円偏光は反射しないので、文字「A」は顕像化されず、ホログラム9のみ見える状態となるが、光選択反射パターン層5の下層の反転層4により、入射光の回転方向が反転して反射が起きるため明るく見えるから、背景のホログラム9が暗くならず、視認しやすい。」

(キ)ここで、図3は次のとおり。

(ク)「【0055】
図1および図2を引用して説明した本発明の真偽判定用媒体1は、図4を引用して次に説明するように、ラベルや転写シートの形態に加工することにより、真偽判定用媒体1を適用すべき種々の物品に対する適用を容易とすることができる。
【0056】
図4(a)は、ラベルの形態に関するもので、図示の例のものは、基材2、光選択反射パターン層5、配向膜3、および反転層4が順に積層した積層構造からなる真偽判定用媒体1の反転層4側に接着剤層12を積層して真偽判定用媒体ラベル11を構成したものである。真偽判定用媒体ラベル11を構成するための真偽判定用媒体1としては、上記の積層構造のものに限らず、図1もしくは図2を引用して説明した種々の積層構造、またはそれらから配向膜3を省いた積層構造のものであってよい。
【0057】
図4(a)を引用した上記説明におけるように、反転層4側に接着剤層12を積層した方が真偽判定用として用いる際にはより好ましいが、基材2側に接着剤層が積層することもあり得る。いずれの側に接着剤層を積層するかは、種々の物品にラベルを適用したときに、反転層4側もしくは基材2側のいずれが入射面になるかによって決める。真偽判定用媒体1が、トリアセチルセルロースフィルムのように、配向膜3を必要とする基材を用いて構成されているときは、上記のように潜像が見えるためには、右円偏光もしくは左円偏光の入射を反転層4側から行なっても、基材2側から行なってもよいが、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムやポリカーボネート樹脂フィルムのように表面が配向性を有し、配向膜を必要としない基材を用いて構成されているときは、右円偏光もしくは左円偏光の入射を反転層4側から行なう必要がある。なお、基材2側に接着剤層が積層されている場合には、反転層4側に保護層を積層してもよい。なお、接着剤層12は、種々のタイプの接着剤層であり得るが、感熱接着剤層もしくは粘着剤層であることが好ましい。【0058】
図4(b)は、転写シートの形態に関するもので、図示の例のものは、基材2、光選択反射パターン層5、配向膜3、および反転層4が順に積層した積層構造からなる真偽判定用媒体1の反転層4側に接着剤層12を積層し、基材2側に剥離性基材14の剥離性面14a側を積層して真偽判定用媒体転写シート13を構成したものである。真偽判定用媒体転写シート13を構成するための真偽判定用媒体1としては、上記の積層構造のものに限らず、図1もしくは図2を引用して説明した種々の積層構造、またはそれらから配向膜3を省いた積層構造のものであってよい。」

(ケ)ここで、図4は次のとおり。

(コ)「【0061】
図5は、主にシート状物を対象とした真偽判定用媒体1の適用について説明するための図である。図5(a)に示すものは、情報記録体16の表面の一部に真偽判定用媒体1が積層されて構成された、真偽判定可能な情報記録体15である。情報記録体16は紙やプラスチックシート等を基材とするシート状物で、図示の例では、金券として利用するための金額、発行会社名、注意書等の文字、もしくは彩紋等の情報17が、印刷等の手段により形成され記録されたものである。
【0062】
図5(b)に示すものは、真偽判定用媒体1を、シート状物に予め内蔵させ、視認可能に構成したもので、紙やプラスチックシート等に貫通孔とはならない凹部状の開口部19を形成し、開口部19から真偽判定用媒体1が見えるよう構成したもので、真偽判定用媒体1は適用を容易にするため、一例として0.5mm?5mm程度のごく狭い幅の図中縦長のスレッド状に裁断されており、紙の場合であれば、紙を構成する数層を積層する際に、表層を構成する層には開口部19を設けておき、シート状物の層間にスレッド状の真偽判定用媒体1をはさむ等して適用することにより形成されたものである。スレッド状の真偽判定用媒体1には、必要に応じて、円偏光照射時の視認性を高める目的で基材の片面等に暗色系等の着色を行ない、また、シート状物に内蔵させた状態における、スレッド状の真偽判定用媒体1とシート状物との接着性を確保するために、片面もしくは両面に接着剤層、好ましくは感熱接着剤層を積層しておくとよい。このようなシート状物に真偽判定用媒体1を適用したものは、情報記録体、特に金券やその他の経済的価値を有する印刷物に利用するのに適している。」

(サ)ここで、図5は次のとおり。


これら記載事項を含め、刊行物1の記載全体を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「情報記録体16の表面の一部に、真偽判定用媒体1が接着剤層を介して積層されて構成された、真偽判定可能な情報記録体であって、
真偽判定用媒体1は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材2の上面に配向膜3、入射光の回転方向が反転する反転層4、および光選択反射パターン層5がこの順に積層され、基材2の下面に、ホログラム形成層6および反射性層7が順に積層された積層構造を有し、ホログラム形成層6はその下面側にホログラムの微細凹凸を有しており、反射性層7は微細凹凸に沿って積層された反射性の金属薄膜であり、光選択反射パターン層5はコレステリック液晶層からなり、
ホログラム形成層6、基材2は、 真偽判定用媒体1の全面に形成されている、
真偽判定可能な情報記録体。」

(b)刊行物2
「2.特許請求の範囲
(1)透明な基材シート、その片面上に部分的に施された金属蒸着層、および該金属蒸着層上または該基材シートのもう一方の面上に全面に付与された回折格子もしくはホログラム層から構成されていることを特徴とする、部分蒸着層および回折格子もしくはホログラム層を有するシート。
(2)透明または不透明な基材シート、その片面上に全面に付与された回折格子もしくはホログラム層、およびその上に部分的に施された金属蒸着層から構成されていることを特徴とする、部分蒸着層および回折もしくはホログラム層を有するシート。」

「〔産業上の利用分野〕
本発明は、部分蒸着層および回折格子もしくはホログラム層を有するシートおよびその製造方法に関する。本発明のシートは、蒸着層部分に対応する回折光もしくはホログラム像を与え、装飾性に富んでいる。
〔従来の技術〕
従来、ホログラムを利用した装飾用シートは、基材シート上に部分的に(通常は装飾模様に対応して)ホログラムを形成することにより製造されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし従来の部分的ホログラム形成法は、模様に対応するホログラム原版の製造に多数の工程と時間を必要とし、費用がかかる。
従って、本発明の課題は、ホログラムを利用した装飾シートを簡単かつ経済的な手段で提供することである。
〔課題を解決するための手段〕
・・・(中略)・・・
これら本発明のシートは、下記の方法により製造することができる。
透明な基材シートの片面に部分的に金属蒸着層を設け、次いで該部分的金属蒸着層上にまたは該基材シートのもう一方の面上に全面に回折格子もしくはホログラム層を形成するか、あるいは透明または不透明な基材シートの片面に全面に回折格子もしくはホログラム層を形成し、次いでその上に部分的に金属蒸着層を設ける。
本発明による部分蒸着層および回折格子もしくはホログラム層を有するシートの基本的構成を第1図に断面図として示す。この図において、1は基材シート、2は部分金属蒸着層、3は回折格子もしくはホログラム層である。」 (第1頁右下欄?第2頁右上欄)

ここで第1図は次のとおり。


「〔発明の効果〕
本発明のシートは、従来のものと異なり、全面に回折格子もしくはホログラム層を有しているが、蒸着層の部分においてのみ回折光またはホログラム像が可視化され、これにより模様状の回折光またはホログラム像が得られる。非蒸着部の回折光またはホログラム像はほとんど目立たず、無視することができる。このように、全面に回折格子またはホログラム層を設けうることにより、回折格子またはホログラム原版の製造を著しく簡略化でき、その結果、従来よりも少ない工程、時間および費用で、装飾性に富んだシートを提供することかできる。」(第3頁右下欄?第4頁左上欄)

(c)刊行物3
「【請求項1】 基材と接着剤層と表面が平滑な金属薄層と透明または半透明樹脂層とをこの順序で接着して成る積層構造を有し、前記透明または半透明樹脂層の表面にはホログラム模様が形成されていることを特徴とするホログラム薄葉体。
【請求項2】 前記透明または半透明樹脂層の表面には、前記ホログラム模様を消去しない厚みで印刷適性付与用の透明または半透明の樹脂が塗布されている請求項1のホログラム薄葉体。
【請求項3】 前記金属薄層が、所望の平面パターン模様をなして形成されている請求項1または2のホログラム薄葉体。
【請求項4】 前記基材の裏面には、粘着剤層を介して離型シートが添着されている請求項1,2または3のホログラム薄葉体。」

「【0008】
【発明の実施の形態】まず、本発明のホログラム薄葉体の1例Aを図1に示す。図1はホログラム薄葉体Aを構成する積層構造を示す断面図である。図1で示したように、ホログラム薄葉体Aは、基材1の上に、接着剤層2,金属薄層3および透明または半透明の樹脂層4がこの順序で互いに接着した積層構造になっている。
【0009】そして、このホログラム薄葉体Aの場合、金属薄層3の少なくとも上面3aは平滑表面になっており、また透明または半透明の樹脂層4の表面には、微小凹凸から成るホログラム模様5が形成されていることを特徴とする。」

「【0025】図8は、本発明の別のホログラム薄葉体Cを示す断面図である。このホログラム薄葉体は、図8で示したように、図1で示したホログラム薄葉体Aにおける金属薄層3が所望の平面パターン模様をなして形成されているものである。すなわち、金属薄層3は1枚の薄層として透明または半透明の樹脂層4の裏面に位置するのではなく、金属薄層3にはその平面パターン模様に対応する金属不存在の個所が形成されている。」

ここで図8は次のとおり。


(d)刊行物4
「技術分野
本発明は、カード、商品券、金券、切符、紙幣、パスポート、身分証明書、証券、公共競技投票券などの対象物の偽造を防止する真正性識別フィルム及び真正性識別システム並びに真正性識別フィルムの使用方法に関する。」(明細書第1頁)

「(実施の形態1-1)
図1は、本発明による真正性識別フィルムの実施の形態1-1を示した断面図である。
真正性識別フィルム10は、反射性フィルム11と、保護層12と、光吸収層13と、基板フィルム14とを備えている。
反射性フィルム11は、入射した光のうち、左円偏光又は右円偏光のいずれか一方の光のみを反射させて反射光を生成する層である。また、反射性フィルム11の片側界面には、ホログラム形成部11aが設けられている。ホログラム形成部11aは、反射性フィルム11で反射する反射光と同一の円偏光の光を反射光と異なる方向に反射して、ホログラム像を形成する。すなわち反射性フィルム11は、反射性フィルム11の保護層12側表面および層内部において、左円偏光又は右円偏光のいずれか一方の光のみを反射させ、反射光を生成する。反射光と同一の円偏光の光は、更にホログラム形成部11aまで達し、このホログラム形成部11aにおいて反射光と異なる方向に反射してホログラム像を形成する。
反射性フィルム11は、コレステリック液晶相を有する。このコレステリック液晶相の平均的な螺旋軸方位は、膜厚方向と平行である。なお、コレステリック液晶については、後で詳細に説明する。
反射性フィルム11は、コレステリック液晶配向を固定化した高分子フィルム又はコレステリック液晶粒子を担体中に分散したフィルムなど光学的に選択反射性及び円偏光選択性を示す媒体すべてを用いることが可能であるが、特に液晶配向を固定化した高分子フィルムを好適に用いることができる。
・・・(中略)・・・
ホログラム形成部11aは、エンボス・ホログラムのマスター型を用意し、そのマスター型の表面の微小凹凸を反射性フィルム11の片側界面に転写して形成する。転写の方法としては、プレス機、圧延機、カレンダーロール、ラミネーター、スタンパーなどで加熱加圧する方法が挙げられる。また、別の方法としては、ホログラムのマスター型上でコレステリック液晶層を直接塗布配向させる方法が挙げられる。ホログラム形成部11aで反射した光は、反射性フィルム11で反射する反射光と異なる方向へ反射してホログラム像を形成する。
保護層12は、反射性フィルム11を保護する層である。・・・(中略)・・
光吸収層13は、反射性フィルム11を透過した光を吸収する層である。光吸収層13は、例えば、墨インクのような黒色インクを用いることができる。このとき、光吸収層13は、反射性フィルム11の透過光を吸収するので、透過光による余分な反射を防止できて、ホログラムの画像を目視確認しやすくなる。
また、光吸収層13は、デザイン性の観点などから、反射性フィルム11を透過した光のうち特定の波長帯域の光のみ吸収するように、色インクなどからなる着色層で形成してもよい。
基板フィルム14は、真正性識別フィルム10に自己支持性を付与するフィルムである。」(明細書第6?8頁)

ここで図1(FIG.1)は次のとおり。


「(変形形態)
以上説明した上記各実施の形態1-1,1-2,1-3に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の均等の範囲内である。
・・・(中略)・・・
さらに、ホログラム像を鮮明にするために、ホログラム形成部11a,15aに蒸着層を設けてもよい。・・・(中略)・・・
また、保護層12は、反射性フィルム11が十分硬質であるときは、設けなくてもよい。」(明細書第14?15頁)

(e)刊行物5
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、情報記録媒体,特にプリベイトカード,キャシュカードのように偽造防止と装飾効果の高いホログラムを有するホログラムカードに係り、詳しくは機械および目視による検証機能を具備し容易に作製し得る検証機能付ホログラムカード及びその製造方法に関するものである。」

「【0020】次に、その上にアクリルポリオール20部と、トリレンジイソシアネート5部と、メチルエチルケトン60部と、トルエン20部の配合比の組成物からなるホログラム形成組成物をグラビアコーティング法により塗布厚さ2.0[μm]で塗布し(ステップ205)、乾燥温度110[℃]で乾燥させてホログラム形成層6を形成する(ステップ206)。ホログラム形成層6としては、エンボス成形性が良好でプレスムラが生じ難く明るい再生像が得られるものが望ましく、上記のような2液反応型ウレタン樹脂を使用することにより良い結果が得られる。この様な2液反応型ウレタン樹脂は、耐熱性、耐溶剤性、加工性等の諸物性から、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等のポリオール成分と、イソシアネート基を持つプレポリマーとから成るポリオール硬化型ウレタン樹脂が適している。上記イソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が適用できる。
【0021】この場合、図7に示すように、ホログラム形成層6に、約160[℃]で加熱した微細なホログラムの凹凸パターンが形成されたニッケル製のプレス版12を押圧し、ホログラム形成面11を形成する(ステップ207)。」


(3)対比・判断
本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の
(ア)「情報記録体16」、
(イ)「真偽判定可能な情報記録体」、
(ウ)「ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材2」、
(エ)「光選択反射パターン層5」及び「光選択反射パターン層5はコレステリック液晶層からなる」、
(オ)「ホログラム形成層6」及び「ホログラム形成層6はその下面側にホログラムの微細凹凸を有しており」、
(カ)「反射性層7」及び「反射性層7は微細凹凸に沿って積層された反射性の金属薄膜であり」、
(キ)「ホログラム形成層6」と「反射性層7」をあわせたものは、
それぞれ、本願補正発明の
(ア)「基材」、
(イ)「偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体」、
(ウ)「透明ポリエチレンテレフタレートの基材フィルム」、
(エ)「コレステリック液晶層」、
(オ)「回折構造形成層」及び(基材側の面に)「微細な凹凸を有する回折構造形成層」、
(カ)「回折構造効果層」及び「該回折構造効果層が、光を反射するように金属材料又は金属酸化物材料からなり」、
(キ) 「回折構造層」
に実質的に相当する。

また、刊行物1記載の発明では、「ホログラム形成層6」の全面に「ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材2」が設けられているといえるので、これは、本願補正発明の「回折構造層上の全面に」「透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルムが位置し」に実質的に相当する。

そうすると、両発明の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、基材上に回折構造形成層が形成され、回折構造層上の全面に、透明ポリエチレンテレフタレートの基材フィルムが位置し、該基材フィルム上にコレステリック液晶層が形成され、該回折構造層は、該基材側の面に微細な凹凸を有する回折構造形成層と、該回折構造形成層の微細な凹凸形成面に形成された回折構造効果層とからなり、該回折構造効果層が、光を反射するように金属材料又は金属酸化物材料からなり、回折構造層に設けられている、偽造防止媒体。」

[相違点1]
本願補正発明は、回折構造効果層(金属材料からなる反射性層)が、回折構造形成層の微細な凹凸形成面に部分的に形成され、回折構造層の一部に設けられているのに対して、
刊行物1記載の発明は、部分的に形成する旨の特定がない点。

[相違点2]
本願補正発明は、回折構造形成層(ホログラム形成層)が、アクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなるのに対して、
刊行物1記載の発明は、その特定がない点。

[相違点3]
本願補正発明は、回折構造層(回折構造形成層及び回折構造効果層からなる)部分が、数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されているのに対して、
刊行物1記載の発明は、その明記がない点。

[相違点4]
本願補正発明は、コレステリック液晶層が、基材フィルム上の全面に形成されているのに対して、
刊行物1記載の発明は、光選択反射パターン層5(コレステリック液晶層)が、基材2の全面には形成されていない点。

[相違点5]
本願補正発明は、2μm厚みで黒色顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂から光吸収層が、基材と回折構造層の間に形成されており、該光吸収層上の全面に回折構造形成層が形成されているのに対して、
刊行物1記載の発明は、そのような光吸収層がない点。

[相違点6]
本願補正発明は、透明ポリエチレンテレフタレートの基材フィルムの厚みが、50μmであるのに対して、
刊行物1記載の発明は、その特定がない点。

そこで、相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物2,3には、回折構造効果層(金属蒸着層)を、該回折構造形成層(ホログラム形成層)の下面に部分的に形成し、回折構造層の一部に設ける技術が記載されている。
そして、刊行物1の図3には、星形状のホログラム9が示されているところ、刊行物2,3の技術を適用して、例えばこの星形状のホログラム9の下側のみに、回折構造効果層(反射性層7)を設けたもの、すなわち、反射性層7がホログラム形成層6の微細な凹凸形成面に部分的に形成されたものとすることは、当業者であれば容易に思い付くことである。
したがって、刊行物1記載の発明において、刊行物2,3の技術を参考にして、回折構造形成層の微細な凹凸形成面に部分的に形成された回折構造効果層とし、該回折構造効果層が回折構造層の一部に設けられているものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点2について)
刊行物5には、回折構造形成層(ホログラム形成層)として、アクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなるものが示されている。
刊行物1記載の発明において、そのような材料を採用することは、当業者にとって容易である。

(相違点3について)
本願補正発明における「前記回折構造層部分が数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されている」の意味は、本願の図1,2に示される回折構造層3のごとく、回折構造層(回折構造形成層及び回折構造効果層からなる)それ自体が、パターン状に形成されている態様と、回折構造形成層における微細な凹凸が形成された部分がパターン状に形成されている態様の2つが想定されるところ、
いずれの態様も、偽造防止媒体に形成される回折構造層として、周知なものである。例えば、特開2000-163535号公報(請求項1等)、特開2000-168278号公報(【0007】等)、特開2001-307015号公報(【0003】等)、特開2005-91699号公報(【0018】等)、特開2004-117636号公報(請求項1,3,7、等)を参照。
そうすると、刊行物1記載の発明において、本願補正発明で規定する「前記回折構造層部分が数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されている」の如くなすことは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点4について)
刊行物1記載の発明は、コレステリック液晶層は、光選択反射パターン層5とされるところ、刊行物1の【0030】(上記(イ)参照)には、パターンは、層の有無だけでなく、層の厚薄により形成してもよい旨の記載があるし、また、刊行物4には、パターン層ではなく、全面に形成されたのコレステリック液晶層が用いられている。そして、刊行物1の図3(b)では、A形状の顕像が示されているけれども、部分的な像でなく、全面的なベタ像であっても、十分に検査は可能である。したがって、コレステリック液晶層を全面に設けることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点5について)
一般に、偽造防止検査用のコレステリック液晶層において、その選択反射性の効果を引き立てるために、コレステリック液晶層の下方(光透過側)に光吸収層(暗黒色等の着色をした層)を設けることは、周知の技術である。例えば、刊行物1の【0062】(上記(コ)参照)、刊行物4(光吸収層13)参照。
そして、刊行物4にみるように、コレステリック液晶層の下方にホログラム形成部がある場合には、光吸収層は、ホログラム形成部によるホログラム像の視認性を邪魔しない位置、すなわち、ホログラム形成部よりもさらに下方に設けることは、技術的に当然なことである。
また、光吸収層の材質については、刊行物4に「例えば、墨インクのような黒色インクを用いることができる」と記載されている。そして、一般に、着色層を、顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂からなるインキ等を用いて形成することは、本願出願前に公知または周知であったといえる。例えば、特開2001-42795号公報(【0031】【0032】等)、特開2000-25337号公報(【0020】等)、特開平6-278362号公報(【0031】等)、特開平7-96656号公報(【0032】等)、特開2002-11984号公報(【0060】等)、特開昭62-204942号公報(実施例)を参照。
加えて、本願補正発明において光吸収層の厚みを2μmにした点に格別の技術的意義は認められない。
また、光吸収層上の全面に回折構造形成層を形成することは当業者が適宜なし得ることである。
そうすると、刊行物1記載の発明において、コレステリック液晶層の選択反射性の効果を引き立てるために、コレステリック液晶層の下方に光吸収層を設けることとし、その設置位置を回折構造層(ホログラム形成層6と反射性層7)の下方とし、しかも2μm厚みで黒色顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂からなるものとし、相違点5に係る本願補正発明の如くなすことは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点6について)
本願補正発明において基材フィルムの厚みを50μmとした点に格別の技術的意義は認められないから、刊行物1記載の発明において基材フィルムの厚みを50μmにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点1?6全体として)
刊行物1記載の発明は、主として、コレステリック液晶の光選択反射パターンを用いることにより顕像をみせており、本願補正発明は、主として、回折構造形成層(ホログラム形成層)に形成された回折構造効果層(反射層)の部分パターンを用いることにより顕像をみせている点で、両者は一応相違するが、刊行物2?5の技術や周知技術を勘案すると、本願補正発明のような顕像化を行うことに困難性はないというべきである。

(効果について)
コレステリック液晶層と、回折構造効果層(反射層)を用いた回折構造層(ホログラム層)との併用による顕像化は、それぞれの層を全面層にするか部分層(パターン化層)にするかによる4種類の組み合わせがあるに過ぎないものであって、それぞれの組み合わせのメリット、デメリットは当業者が予測し得る程度のことであり、請求人の主張する効果は独特なものといえない。

(4)まとめ
よって、本願補正発明は、刊行物1?5に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.補正却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、仮にこれに違反しないとしても、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、いずれにしても、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願の請求項1に係る発明
平成24年7月31日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1,2に係る発明は、平成24年4月27日付けの手続補正書により補正された請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】
偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材上に光吸収層が形成され、該光吸収層上の少なくとも1部にアクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなる回折構造層が形成され、該回折構造層上の全面にコレステリック液晶層が形成され、該回折構造層は、2μm厚みで黒色顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂からなる該光吸収層上に形成され、該光吸収層側の面に微細な凹凸を有する回折構造形成層と、該回折構造形成層の微細な凹凸形成面に部分的に形成された回折構造効果層とからなり、該回折構造効果層が、光を反射するように金属材料又は金属酸化物材料からなり、回折構造層の一部に設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。」

2.新規事項について
当審において通知した平成24年5月30日付けの拒絶理由では、以下の指摘をした。

「 第2 新規事項について
平成24年4月27日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

1.特許請求の範囲の請求項1において、補正前の「偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、基材上に光吸収層が形成され」が、基材の厚みと材料が限定がされて、「偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材上に光吸収層が形成され」と補正された。
ここで、当該「基材」とは、その上に光吸収層が形成されるものであるから、本願の図面でいえば、図2の基材2(カード基材)を指すものであり、図6の基材フィルム5を指すものではない。
請求人は、補正の根拠が実施例の記載にあると主張するが、該当すると思われる実施例1(出願当初から変更なし)には、基材フィルム5が「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム」であることは記載されているが、基材2(カード基材)の厚みや材料については全く記載がない。 また、明細書や図面の他の箇所をみても、基材2(カード基材)が「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム」からなることは記載がない。」

この指摘内容は、上記「第2 2.新規事項の有無について」で指摘したのと同じである。
また、請求項1の「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材」は、補正却下された手続補正における請求項1の「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレート基材フィルム」から、「フィルム」を省いたものであるが、当該基材は、請求項1の記載全体を考慮すると、本願の図面でいえば、図2の基材2(カード基材)を指すものであり、図6の基材フィルム5を指すものではないことは、明らかである。
よって、平成24年4月27日付けでした手続補正は、平成24年5月30日付けで通知した拒絶理由で指摘したとおり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3.進歩性について
(1)想定した本願発明
上記「2.」で示した不備等があったが、当審において通知した平成24年5月30日付けの拒絶理由では、請求項1について、「厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルム」からなるものが、基材2(カード基材)ではなく、基材フィルム5であった等の仮定をおいて、一応、合理的と思われる、以下のようなクレーム記載を想定し(下線部を変更した)、それら事項からなる発明(以下、「本願発明1」という。)について予備的に独立特許要件の判断を示した。

「【請求項1】
偽造防止策が必要とされる偽造防止媒体であって、基材上に光吸収層が形成され、該光吸収層上の少なくとも一部に回折構造層が形成され、該回折構造層上の全面に、厚み50μmの透明ポリエチレンテレフタレートの基材フィルムが位置し、該基材フィルム上の全面にコレステリック液晶層が形成され、該回折構造層は、2μm厚みで黒色顔料及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂からなる該光吸収層上に形成され、アクリルポリオール及びイソシアネート硬化剤からなり、該光吸収層側の面に微細な凹凸を有する回折構造形成層と、該回折構造形成層の微細な凹凸形成面に部分的に形成された回折構造効果層とからなり、該回折構造効果層が、光を反射するように金属材料又は金属酸化物材料からなり、回折構造層の一部に設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。」

(2)引用例
平成24年5月30日付けの拒絶理由で提示した引用文献は、上記「第2 3.」で示した、刊行物1?5である。

(3)対比・判断
そして、本願発明1は、本願補正発明から、実質的に、「前記回折構造層部分が数字、文字、図形、記号等の少なくとも一つ以上を用いて示すようなパターン状に形成されている」の事項を省いた程度のものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件を実質的に全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.」で示したとおり、刊行物1?5に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1?5に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、平成24年4月27日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、仮に当該要件を満たしていたとしても、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、いずれにしても、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-11 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-09 
出願番号 特願2005-181804(P2005-181804)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 575- WZ (G02B)
P 1 8・ 55- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 理弘  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 住田 秀弘
立澤 正樹
発明の名称 偽装防止媒体  

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