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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1266532
審判番号 不服2011-4742  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-02 
確定日 2012-11-22 
事件の表示 特願2005-103810「半導体レーザおよびそれを用いた光通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-286870〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯
本願は、平成17年3月31日の出願であって、平成22年7月26日に手続補正がなされ、同年12月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年3月2日に拒絶査定不服審判請求がなされた後、当審において平成24年6月26日付けで拒絶理由が通知され、同年8月30日に意見書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成22年7月26日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「第一導電型GaAs基板上に少なくとも第一導電型InAlGaPクラッド層、InAlGaP下部光ガイド層、InGaPもしくはInAlGaPからなる量子井戸活性層、InAlGaP上部光ガイド層、この上部光ガイド層側に形成されたノンドープ領域を含む第二導電型InAlGaP上部クラッド層、第二導電型InGaPヘテロバッファ層、第二導電型GaAsキャップ層が順次積層されてなる赤色半導体レーザにおいて、
前記上部クラッド層と上部光ガイド層との界面における第二導電型キャリア濃度が4×10^(16)cm^(-3)以下であり、
前記第二導電型上部クラッド層内において第二導電型キャリア濃度が4×10^(16)cm^(-3)となっている領域から、該上部クラッド層と上部光ガイド層との界面までの距離が70nm以下であることを特徴とする半導体レーザ。」

3 刊行物の記載及び引用発明
(1)引用文献1
当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願前に頒布された、特開2004-47962号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。)。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】
本発明は半導体装置の改善に関し、特にOMVPE(有機金属気相エピタキシャル)法で製造されるIII-V族化合物半導体装置の改善に関するものである。
【0002】【従来の技術】
III-V族化合物半導体を利用する電子素子や光素子の製造のためのOMVPE結晶成長法において、p型ドーパントとしては一般にZn、Mg、またはCが用いられる。」

イ 「【0005】ところで、近年普及が始まっているDVD(デジタル汎用ディスク)レコーダに採用されている高輝度赤色レーザ素子においては、その活性層を構成する化合物半導体材料としてAlGaInP/GaInPが利用されている(特許文献1参照)。このようなレーザ素子を高出力化することによってDVDの高速書き込みが可能になるので、その高出力化のための開発が加速されている。」

ウ 「【0007】しかし、たとえばZnを1E18cm^(-3)(なお、「E18」は「×10^(18)」を意味し、以後同様である)を超えてドーピングすれば、結晶成長中にZnが拡散し、レーザ素子中の活性層であるMQW(多重量子井戸)中を貰通するという現象が起こる。非常に薄いAlGaInPとGaInPの多層構造からなるMQW中をZnが拡散すれば、そのMQW構造が物理的に崩壊し、量子効果が消滅して発光波長が短波長化しかつ発光強度が減少するという問題がある。
【0008】以上述べたように、Alを含む発光素子においてはp型ドーパントとしてZnを採用することが望ましいが、高濃度にZnをドーピングした場合にZnの拡散が起こるという問題がある。そこで、本発明は高濃度にZnをドーピングした場合でもZnの拡散を抑制することができるIII-V族化合物半導体装置を提供することを目的としている。」

エ 「【0014】【発明の実施の形態】
図1は、本発明が適用され得るIII-V族化合物半導体装置として、レーザ素子の一例を模式的断面図で示している。このレーザ素子は、たとえばn型GaAs基板1上に順にエピタキシャル成長させられたn型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層2、(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P下部ガイド層3、MQW層(複数のGaInP井戸層と複数のAlGaInP障壁層を含む)4、(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P上部ガイド層5、アンドープのAlGaInPオフセット層6a、Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層6、およびp型GaAsコンタクト層7を含んでいる。
【0015】このように、アンドープ層であるべき上部ガイド層5内とMQW層4内へのZnの拡散を防止するために、Znドーピング層であるp型クラッド層6に隣接して、Znの拡散を見込んだアンドープのオフセット層6aを挿入することが一般に行われている。
【0016】しかし、本発明者らが行なった実験によれば、p型クラッド層6のZn濃度が1E18cm^(-3)程度でそのエピタキシャル成長温度が700℃以上の場合、厚さ200nm以上のAlGaInPオフセット層6aを設けても上部ガイド層5内またはMQW層4内へのZnの拡散を防止し得ないことが判明した。そこで本発明者らが検討したところ、オフセット層または/およびZnドープ層に圧縮歪を付与することによって、ガイド層内およびMQW層内へのZnの拡散を抑制し得ることが見出された。この理由としては、一般にZnはIII族原子の空孔を介して拡散していくが、圧縮歪みの付与によって空孔が減少するとともにその移動が抑制されるのでZnの拡散も抑制されると考えられる。」

オ 「【0017】(実施例1)
実施例1において、図1に示されたようなAlGaInP/GaInPのMQWを有するDH-LD(ダブルへテロ・レーザダイオード)装置としての試料No.1とNo.2が、一部異なる条件の下で作製された。試料No.1とNo.2のいずれにおいても、MQWの発光波長が640nmになるように、その組成と構造が設定された。また、上部ガイド層5上に厚さ150nmのアンドープのオフセット層6aが形成された。・・・
【0023】(実施例2)
実施例1に類似して、実施例2においては試料No.3、No.4、およびNo.5が作製された。ただし、これらの試料のいずれにおいても、オフセット層6aの厚さは85nmに設定された。・・・
【0027】(実施例3)
実施例1に類似して、実施例3においては試料No.6、No.7、およびNo.8が作製された。ただし、これらの試料のいずれにおいても、オフセット層6aの厚さは40nmに設定された。」

カ 「【0032】(実施例4)
実施例4において作製された資料No.9とNo.10は、図1中のオフセット層6aを含んでいないことにおいて、上述の試料No.1?8と異なっている。そして、試料No.9とNo.10の間において作製上異なる条件は、試料No.9においてはp型AlGaInPクラッド層6の格子不整合度(△a/a)を1E-4以下のほとんど歪みがない状態に設定したのに対して、試料No.10においてはp型AlGaInPクラッド層6の格子不整合度(△a/a)を3E-3にして圧縮歪みを生じる状態に設定したことである。p型AlGaInPクラッド層6の格子定数は、AlGaInPの組成比を微調整することによって設定された。
【0033】以上のような条件の下で作製された試料No.9とNo.10について、SIMS(2次イオン質量分析)が測定され、それぞれの試料に関する測定結果が図10と図11に示されている。すなわち、これらの図のグラフにおいて、横軸は上部ガイド層5とMQW層4との界面を基準にした深(nm)さを表し、左の縦軸はZnの濃度(×10^(18)cm^(-3))を表し、そして右の縦軸はAl、Ga、In、およびPの濃度を任意単位(arb.)で表している。
【0034】図10において、p型AlGaInPクラッド層6がほとんど圧縮歪を含まない試料No.9であっても、そのp型クラッド層6中のZnの濃度が1×10^(18)cm^(-3)未満で比較的低いので、Znの拡散はMQW層4までには至っていない。しかし、p型クラッド層6内にドープされたZnはアンドープの上部ガイド層5内にかなり拡散侵入しており、実質的に上部ガイド層5とMQW層4との界面からL=22nmの近距離まで拡散侵入している。
【0035】他方、図11に示されているように、p型AlGaInPクラッド層6が圧縮歪を含む試料No.10においても、試料No.9の場合と同様にp型クラッド層6中にドープされたZnが上部ガイド層5内に拡散侵入してはいる。しかし、この圧縮歪を含む試料No.10の場合には、p型クラッド層6内にドープされたZnは実質的に上部ガイド層5とMQW層4との界面からL=32nmの遠く離れた位置にまでしか拡散侵入しておらず、MQW層4に対する影響はほとんどないと考えられる。
【0036】本実施例4における図10と図11の比較から明らかなように、オフセット層6aを省略してp型クラッド層6自体に圧縮歪を導入することによっても、そのp型クラッド層6からのZnの拡散流出を抑制し得ることが分かる。」

キ 図1及び図11は、次のものである。

ク 上記エに照らして図1(上記キ)をみると、「アンドープのAlGaInPオフセット層6a」は、「Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層6」の「(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P上部ガイド層5」側に隣接するものであることがみてとれる。

ケ 上記カに照らして図11(上記キ)をみると、上部クラッド層内でのZnの濃度は0.6?0.9×10^(18)cm^(-3)程度であり、上部ガイド層とMQW層の界面からL(32nm)を超えた深さのZnの濃度は約0.5×10^(18)cm^(-3)であり、深さL付近からZnの濃度が減少し、上部ガイド層とMQW層の界面から約10nmの深さではZnの濃度はほぼ0となっていることがみてとれる。

(2)上記(1)によれば、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「n型GaAs基板上に順にエピタキシャル成長させられたn型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層、(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P下部ガイド層、MQW層(複数のGaInP井戸層と複数のAlGaInP障壁層を含む)、(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P上部ガイド層、アンドープのAlGaInPオフセット層、Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層、およびp型GaAsコンタクト層を含み、
アンドープ層であるべき前記上部ガイド層内と前記MQW層内へのZnの拡散を防止するために、Znドーピング層である前記p型クラッド層に隣接して、Znの拡散を見込んだアンドープの前記オフセット層を挿入したものであって、
アンドープのAlGaInPオフセット層は、Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層の(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P上部ガイド層側に隣接し、
p型クラッド層のZn濃度が1E18cm^(-3)程度である高輝度赤色レーザ素子。」

(3)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された、特開2003-51643号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0015】本実施例のAlGaInP系の半導体レーザ装置100について、断面図を図1に示す(一部のハッチングを省略する。以下の図面においても同様である。)。図1を参照して、半導体レーザ装置100は、Siドープのn型GaAsからなる基板101と、基板101上に順に積層されたSiドープのn型GaAsからなるバッファ層102(Si濃度:n=2×10^(18)cm^(-3)、膜厚:t=0.5μm)、Siドープのn型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第1のクラッド層103(n=1×10^(18)cm^(-3)、t=1.5μm)、ノンドープの(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)Pからなる光ガイド層104(t=25nm)、活性層105、ノンドープ(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)Pからなる光ガイド層106(t=25nm)、Znドープのp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pからなる第2のクラッド層107(Zn濃度:p=1×10^(18)cm^(-3)、t=0.9μm)、Znドープのp型Ga_(0.5)In_(0.5)Pからなるバッファ層108(p=1×10^(18)cm^(-3)、t=50nm)、Znドープのp型GaAsからなるキャップ層109(p=1×10^(19)cm^(-3)、t=200nm)、および、酸化シリコンからなる電流ブロック層111(t=300nm)を備える。積層された各層の一部、具体的には電流ブロック層111の外側の領域には、高抵抗領域110(図1中ハッチングで示す)が形成されている。活性層105は、ノンドープの(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)Pウェル(t=5nm、:3層)と、ノンドープGa_(0.5)In_(0.5)Pウェル(t=6nm:4層)とが交互に積層された多重量子井戸構造を有する。半導体レーザ装置100は、さらに、基板101の裏面側に形成されたn側電極112と、キャップ層109、高抵抗領域110および電流ブロック層111を覆うように形成されたp側電極113とを備える。このように、半導体レーザ装置100は、リッジ型酸化膜ストライプ構造を有する。」

イ 図1は、次のものである。


(4)引用文献3
当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願前に頒布された、特開2004-214289号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0084】(実施形態2)
図12は本発明の他の実施形態(実施形態2)である半導体レーザ素子の製造方法を示す工程断面図である。本実施形態2では実施形態1の半導体レーザ素子1において、リッジストライプ部5bとp-コンタクト層7との間にp-GaInPバッファ層40を設けて、p-コンタクト層7とリッジストライプ部5bとの間の階段状のバンドギャップの差を小さくしてヘテロ接合界面のポテンシャル障壁を低減し、シリーズ抵抗を低減する構造に本発明を適用した例である。
【0085】本実施形態2の半導体レーザ素子1は、図12(d)に示すように、p-クラッド層5のリッジストライプ部5bの両側に設けるn-電流ブロック層を、n-AlGaInP層6aと、この上に形成されるn-GaAs層6bとで形成すること、リッジストライプ部5bの上面にp-GaInPバッファ層40を形成すること、p-コンタクト層7はp-GaInPバッファ層40とn-GaAs層6bの上面を被うことで実施形態1の半導体レーザ素子1と異なるが、他の各部の構造は実施形態1の半導体レーザ素子1と同じである。n-電流ブロック層6を2層構造とすることによって、コンタクト層7の埋込成長を行なう際に結晶表面にAlを含む層が露出せず、結晶の酸化による結晶欠陥の発生を抑えるとともに、電流ブロック効果が安定する。
【0086】つぎに、本実施形態2の半導体レーザ素子1の製造について図12(a)?(d)を参照しながら説明する。図12(a)?(d)は、実施形態1の半導体レーザ素子の製造方法を示す図3(a)?(d)に対応する図であり、符号の同じものは実施形態1の半導体レーザ素子の製造と同じ材料になっている。また、図12においても単一の半導体レーザ素子部分のみを示すことにする。
【0087】実施形態1の場合と同様に、図12(a)に示すように、厚さ350?450μm程度のn-GaAs母基板(ウエハ)2aを用意する。
つぎに、MOCVD法によって、前記ウエハ2aの主面上にそれぞれ所定組成からなる半導体結晶を順次成長させ、n-クラッド層3,活性層4,p-クラッド層5,p-GaInPバッファ層40及びn-GaAsキャップ層22を順次重ねるように形成する。実施形態1の場合と異なる点はp-クラッド層5とn-GaAsキャップ層22との間にp-GaInPバッファ層40を設けることである。p-GaInPバッファ層40は、厚さが0.5μmのGa_(0.5)In_(0.5)Pからなっている。」

イ 図12は、次のものである。


4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明を比較すると、
引用発明の「n型GaAs基板」、「n型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層」、「(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P下部ガイド層」、「(複数のGaInP井戸層と複数のAlGaInP障壁層を含む)MQW層」、「(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P上部ガイド層」、「Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層」及び「高輝度赤色レーザ素子」は、本願発明の「第一導電型GaAs基板」、「第一導電型InAlGaPクラッド層」、「InAlGaP下部光ガイド層」、「InGaPもしくはInAlGaPからなる量子井戸活性層」、「InAlGaP上部光ガイド層」、「上部光ガイド層側に形成された第二導電型InAlGaP上部クラッド層」及び「(赤色)半導体レーザ」にそれぞれ相当するから、
両者は、
「第一導電型GaAs基板上に少なくとも第一導電型InAlGaPクラッド層、InAlGaP下部光ガイド層、InGaPもしくはInAlGaPからなる量子井戸活性層、InAlGaP上部光ガイド層、この上部光ガイド層側に形成された第二導電型InAlGaP上部クラッド層が順次積層されてなる赤色半導体レーザ。」
である点で一致し、

ア 本願発明は、「第二導電型InGaPヘテロバッファ層、第二導電型GaAsキャップ層が順次積層されてなる」のに対して、引用発明は、このような層を備えていない点(以下「相違点1」という。)、

イ 本願発明は、「上部クラッド層と上部光ガイド層との界面における第二導電型キャリア濃度が4×10^(16)cm^(-3)以下であり、
前記第二導電型上部クラッド層内において第二導電型キャリア濃度が4×10^(16)cm^(-3)となっている領域から、該上部クラッド層と上部光ガイド層との界面までの距離が70nm以下である」のに対して、引用発明は、それらの点が明らかではない点(以下「相違点2」という。)、及び、

ウ 本願発明は、「第二導電型InAlGaP上部クラッド層」が「上部光ガイド層側に形成されたノンドープ領域を含む」のに対して、引用発明は、「Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層」と「(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P上部ガイド層」との間に「アンドープのAlGaInPオフセット層」が含まれている点(以下「相違点3」という。)、
で相違するものと認められる。

(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。
引用発明は、リッジ状に形成したものではないためヘテロバッファ層及びキャップ層を備えたものではないが、バッファ層をInGaP、キャップ層をGaAsとしたリッジ状の半導体レーザは、本願の出願時点で周知の技術である(必要であれば、上記3(3)及び(4)に示した、引用文献2及び3を参照。)。
したがって、引用発明の構造の半導体レーザをリッジ状に形成して、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。

イ 上記相違点2について検討する。
引用発明は、アンドープ層であるべき前記上部ガイド層内と前記MQW層内へのZnの拡散を防止するものであるところ、引用発明において、第二導電型キャリア(Zn)濃度をどの程度となし、また、そのキャリア濃度の領域が「オフセット層」と「上部光ガイド層」との界面からどの程度の距離にあるようにするかは、当業者が適宜に設定するべきものである。
しかるところ、引用文献1には、「オフセット層6aを含んでいない」(上記3(1)カ)実施例4が記載され(以下「実施例4」という。)、上記実施例4においては、「上部クラッド層内でのZnの濃度は0.6?0.9×10^(18)cm^(-3)であり、上部ガイド層とMQW層の界面からL(32nm)を超えた深さのZnの濃度は約0.5×10^(18)cm^(-3)であり、深さL付近からZnの濃度が減少し、上部ガイド層とMQW層の界面から約10nmの深さではZnの濃度はほぼ0となって」おり(上記3(1)ケ)、上部ガイド層とMQW層の界面から約10nmの深さの領域と、上部ガイド層とMQW層の界面からL(32nm)の深さの領域との間に、第二導電型キャリア(Zn)の濃度が4×10^(16)cm^(-3)となっている領域が存在するものと認められる。
そして、引用発明は、上記実施例4において、「オフセット層6a」をさらに含むものであるから、上記実施例4に照らせば、引用発明において、アンドープ層であるべき前記上部ガイド層内と前記MQW層内へのZnの拡散を防止するために「上部クラッド層と上部光ガイド層との界面における第二導電型キャリア濃度」を「4×10^(16)cm^(-3)以下」となし、「前記第二導電型上部クラッド層内において第二導電型キャリア濃度が4×10^(16)cm^(-3)となっている領域から、該上部クラッド層と上部光ガイド層との界面までの距離」を「70nm以下」となして、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。

ウ 上記相違点3について検討する。
引用発明は、「アンドープ層であるべき前記上部ガイド層内と前記MQW層内へのZnの拡散を防止するために、Znドーピング層である前記p型クラッド層に隣接して、Znの拡散を見込んだアンドープの前記オフセット層を挿入したものであ」るところ、「アンドープのAlGaInPオフセット層」は、「Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層の(Al_(0.5)Ga_(0.5))_(0.5)In_(0.5)P上部ガイド層側に隣接」するものであり、また、「アンドープのAlGaInPオフセット層」及び「Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層」はいずれも同じ「AlGaInP」からなるものであるから、両者を1つの層のクラッド層とし、「アンドープのAlGaInPオフセット層」を「Znを含むp型(Al_(0.7)Ga_(0.3))_(0.5)In_(0.5)Pクラッド層」のノンドープ(アンドープ)領域として形成することにより、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性を認めることはできない。

エ 請求人の主張について
請求人は、平成24年8月30日に提出された意見書の2頁の「(3)本願発明と引用例との対比」において、「引用文献に記載の発明(実施例4)においては、確かに、上部ガイド層とMQW層の界面から約10nmの深さの領域と、上部ガイド層とMQW層の界面からL(32nm)の深さの領域との間に、第二導電型キャリア(Zn)の濃度が4×10^(16)cm^(-3)となっている領域が存在すると認められます。しかし、ここで第二導電型キャリア(Zn)の濃度が4×10^(16)cm^(-3)となっている領域は、上部光ガイド層内に存在するものであって、上部クラッド層と上部光ガイド層との界面におけるZn濃度は引用文献の図11を参照すれば、4×10^(16)cm^(-3)よりも大きくなることは明らかです。実際、その図11において上部クラッド層と上部光ガイド層との界面におけるZn濃度を求めると、大略0.6?0.7×10^(18)cm^(-3)程度と認められ、上記特徴部分(a)で規定している「4×10^(16)cm^(-3)以下」の最大値である4×10^(16)cm^(-3)と比べても、1桁以上大きくなっています。」、及び、「引用文献の実施例4では、上部クラッド層と上部光ガイド層との界面におけるZn濃度は大略0.6?0.7×10^(18)cm^(-3)程度であり、そして上部クラッド層内のどの位置においても、Zn濃度はそれよりも大きくなっています。したがって、この実施例4では、上部クラッド層内にZnキャリア濃度が4×10^(16)cm^(-3)となる領域が存在しないことは明らかです。」と主張する。
しかしながら、上記3(2)のとおり、引用発明は、引用文献1の実施例4ではなく、「アンドープのAlGaInPオフセット層」を含み、「アンドープ層であるべき前記上部ガイド層内と前記MQW層内へのZnの拡散を防止するために、Znドーピング層である前記p型クラッド層に隣接して、Znの拡散を見込んだアンドープの前記オフセット層を挿入したものであ」るから、請求人の上記主張は上記イの判断を左右するものではない。

(3)小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載の事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載の事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-21 
結審通知日 2012-09-25 
審決日 2012-10-09 
出願番号 特願2005-103810(P2005-103810)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 松川 直樹
北川 創
発明の名称 半導体レーザおよびそれを用いた光通信システム  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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