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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1266618
審判番号 不服2009-24226  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-08 
確定日 2012-11-21 
事件の表示 特願2006-319610「エマルジョンコーティング剤組成物及びそれを被覆した物品」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日出願公開、特開2008-133342〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成18年11月28日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成21年 2月 6日付け 拒絶理由通知
平成21年 4月10日 意見書・手続補正書
平成21年 9月30日付け 拒絶査定
平成21年12月 8日 本件審判請求
平成24年 6月29日付け 拒絶理由通知
平成24年 8月17日 意見書・手続補正書

第2 平成24年 6月29日付け拒絶理由通知について
当審は、平成24年6月29日付けで拒絶理由を通知したが、その拒絶理由通知書の内容の概略は以下のとおりのものである。

「第1 手続の経緯
・・(中略)・・
第2 本願について
本願の請求項1ないし5に係る各発明は、平成21年4月10日付け手続補正書により補正された本願明細書及び特許請求の範囲に下記第3に示すとおり記載不備が存するものの、平成21年4月10日付けの手続補正書により補正された本願明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりの下記のものであるとして以下検討を行う。
・・(中略)・・
第3 拒絶理由
しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。
・・(中略)・・
理由3:この出願の請求項5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・(中略)・・

・・(中略)・・
4.理由3及び4について

刊行物:
1.特開平10-168392号公報(原審における「引用文献2」)
2.特開昭56-125466号公報(原審における「引用文献1」)
(以下、上記「刊行物1」及び「刊行物2」をそれぞれ「引用例1」及び「引用例2」という。)
・・(中略)・・
イ.本願の各発明との対比・検討
事案にかんがみ、本願発明5につき最初に検討し、以降本願発明1ないし4につき順次検討する。

(ア)本願発明5について
・・(中略)・・
(ア-3)小括
以上のとおりであるから、本願発明5は、引用発明2と同一であるか、引用発明2に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・(中略)・・
(4)理由3及び4についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明5は、引用発明2であるか、引用発明2に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・(後略)」

第3 当審の判断
当審の上記拒絶理由通知に対して、その指定期間内に意見書及び手続補正書が提出されたので、その補正がされた後の本願につき上記「第3 拒絶理由」と同様の理由が存するか否か再度検討を行う。

1.本願に係る発明
本願に係る発明は、平成21年4月10日付け及び平成24年8月17日付けの各手続補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)及び特許請求の範囲の記載からみて、以下の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)X-[R_(2)Si-O-]_(m)-R_(2)Si-X(Rは炭素数1?20の1価炭化水素基及び/又はアリール基から選ばれる同一又は異種の基であり、Xは加水分解性基及び/又はOH基、mは29?100の自然数)で表される両末端反応性シリコーンオイルと、RSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物、又はこれらから誘導され部分加水分解及び縮合されたオリゴマーとの混合物を加水分解及び/又は縮合して得られ、-[R_(2)Si-O-]_(m+1)-(R及びmは前記両末端反応性シリコーンオイルを示す式中のR及びmとそれぞれ同一)で示される直鎖状の連続構造を含むオルガノシリコーンレジンであって、該オルガノシリコーンレジンの分子末端がシラノール(SiOH)基であり、該オルガノシリコーンレジン中の全Si原子のうち5?60モル%が前記直鎖状の連続構造を構成するオルガノシリコーンレジン100質量部、
(B)乳化剤1?50質量部、
(C)水25?2,000質量部
(D)プロピルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸カルビトール、又は酢酸ブチルカルビトール3?40質量部を含有し、(D)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないエマルジョンコーティング剤組成物。
【請求項2】
mが29?39の自然数である請求項1記載のエマルジョンコーティング剤組成物。
【請求項3】
(A)成分であるオルガノシリコーンレジン中の有機置換基のうち、CH_(3)-基の割合が50?100モル%である請求項1又は2記載のエマルジョンコーティング剤組成物。
【請求項4】
基材表面に請求項1?3のいずれかに記載のエマルジョンコーティング剤組成物の硬化物を被覆してなる物品。」
そして、当該請求項4に係る発明は、請求項1を引用して記載されているから、書き下して表現すると、以下のとおりのものである。
「基材表面に、
(A)X-[R_(2)Si-O-]_(m)-R_(2)Si-X(Rは炭素数1?20の1価炭化水素基及び/又はアリール基から選ばれる同一又は異種の基であり、Xは加水分解性基及び/又はOH基、mは29?100の自然数)で表される両末端反応性シリコーンオイルと、RSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物、又はこれらから誘導され部分加水分解及び縮合されたオリゴマーとの混合物を加水分解及び/又は縮合して得られ、-[R_(2)Si-O-]_(m+1)-(R及びmは前記両末端反応性シリコーンオイルを示す式中のR及びmとそれぞれ同一)で示される直鎖状の連続構造を含むオルガノシリコーンレジンであって、該オルガノシリコーンレジンの分子末端がシラノール(SiOH)基であり、該オルガノシリコーンレジン中の全Si原子のうち5?60モル%が前記直鎖状の連続構造を構成するオルガノシリコーンレジン100質量部、
(B)乳化剤1?50質量部、
(C)水25?2,000質量部
(D)プロピルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸カルビトール、又は酢酸ブチルカルビトール3?40質量部を含有し、(D)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないエマルジョンコーティング剤組成物の硬化物を被覆してなる物品。」
(以下、「本願発明」という。)

2.引用例に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用した本願出願日前に頒布された刊行物である「引用例1」には、以下の(a)ないし(i)の事項が記載されている。

(a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】下記(A)、(B)、(C)および(D)成分を含んでなるシリコーンエマルジョンコーティング材組成物。
(A)平均組成式R^(2)_(a)SiO_(b)(OR^(1))_(c)(OH)_(d)で表され(ここでR^(1)、R^(2)は1価の炭化水素基を示し、a、b、cおよびdはa+2b+c+d=4、0≦a<3、0<b<2、0<c<4、0<d<4の関係を満たす数である)、その重量平均分子量がポリスチレン換算で600?5000であるオルガノシロキサン部分加水分解物。
(B)一般式HO(R^(3)_(2)SiO)_(n)H(ここでR^(3)は1価の炭化水素基を示し、nは3以上の整数である)で表される両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール。
(C)乳化剤。
(D)水。
【請求項2】前記両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオールを表す前記一般式中のnが3≦n≦50の範囲内である請求項1に記載のシリコーンエマルジョンコーティング材組成物。
【請求項3】前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分に対し1?50重量%の割合である請求項1または2に記載のシリコーンエマルジョンコーティング材組成物。
・・(後略)」

(b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐候性、耐久性、耐クラック性等に優れた被膜を形成することのできるシリコーンエマルジョンコーティング材組成物と、その製造方法に関する。」

(c)
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、長期間にわたりエマルジョンとして安定であり、硬化触媒を使用しなくても低温硬化および加熱硬化が可能で、耐候性、耐久性等に優れた硬化被膜を形成することができるとともに、その硬化被膜の耐クラック性が向上したシリコーンエマルジョンコーティング材組成物と、その製造方法を提供することにある。」

(d)
「【0016】
【発明の実施の形態】本発明の組成物の(A)成分として用いられるオルガノシロキサン部分加水分解物(以下、「オルガノシロキサン部分加水分解物(A)」と記す)は、分子末端に-OR^(1)基と-OH基(いずれもケイ素原子に直接結合している)を両方とも有し、3次元架橋性のシリコーン化合物である。
・・(中略)・・
【0018】
また、R^(1)は、1価の炭化水素基であれば特に限定はされないが、たとえば、炭素数1?4のアルキル基が好適である。オルガノシロキサン部分加水分解物(A)の調製方法としては、特に限定はされないが、たとえば、前記式(I)中のR^(1)がアルキル基(OR^(1)がアルコキシ基)であるものを得る場合について例示すると、加水分解性オルガノクロロシランおよび加水分解性オルガノアルコキシシランからなる群の中から選ばれた1種もしくは2種以上の加水分解性オルガノシランを公知の方法により大量の水で加水分解することで得られるシラノール基含有ポリオルガノシロキサンのシラノール基を部分的にアルコキシ化することにより、オルガノシロキサン部分加水分解物(A)を得ることができる。なお、この調製方法において、加水分解性オルガノアルコキシシランを用いて加水分解を行う場合は、水量を調節することでアルコキシ基の一部のみを加水分解することにより、未反応のアルコキシ基と、シラノール基とが共存したオルガノシロキサン部分加水分解物(A)を得ることができるので、前述した、シラノール基含有ポリオルガノシロキサンのシラノール基を部分的にアルコキシ化する処理が省ける場合がある。
【0019】前記加水分解性オルガノクロロシランとしては、特に限定はされないが、たとえば、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン等が挙げられる。前記加水分解性オルガノアルコキシシランとしては、特に限定はされないが、たとえば、一般式(III):R^(2)_(m)Si(OR^(1))_(4-m)(ここでR^(1)、R^(2)は前記式(I)中のものと同じであり、mは0?3の整数)で表される加水分解性オルガノシランのうち、R^(1)がアルキル基であるものが挙げられる。具体的には、m=0のテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが例示でき、m=1のオルガノトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどが例示できる。・・(中略)・・
【0021】オルガノシロキサン部分加水分解物(A)を表す前記式(I)中のa、b、cおよびdは前述した関係を満たす数である。aが3以上の場合は、コーティング被膜の硬化がうまく進行しないという不都合がある。b=0の場合は、b=0の場合は、モノマーであり、硬化被膜を形成できないという問題がある。bが2の場合は、シリカ(SiO_(2)(オルガノシロキサンではない))であり、硬化被膜にクラックを生じるという問題がある。c=0の場合は、分子末端がR^(2)基と、親水基であるOH基のみになるため、分子全体での親水性が増加してエマルジョンの長期安定性が得られない。c=4の場合は、モノマーであり、硬化被膜を形成できないという問題がある。d=0の場合は、分子末端がR^(2)基とOR^(1)基の疎水基のみになるために、エマルジョンの長期安定性には有利であるが、OR^(1)基はコーティング被膜硬化時の架橋反応性に欠けるため、十分な硬化被膜を得ることができない。d=4の場合は、モノマーであり、硬化被膜を形成できないという問題がある。
【0022】オルガノシロキサン部分加水分解物(A)の重量平均分子量はポリスチレン換算で600?5000の範囲である。600未満の場合は、コーティング硬化塗膜にクラックを生じる等の不都合があり、5000を超えると、硬化がうまく進行しないという不都合を生じる。オルガノシロキサン部分加水分解物(A)は、上記の構造を持ち、かつ、その重量平均分子量が上記所定範囲内にあるため、反応性が高い。そのため、これを含む本発明の組成物は、その塗膜の硬化に硬化触媒を必要としないとともに、加熱硬化だけでなく低温硬化も可能である。また、オルガノシロキサン部分加水分解物(A)は、反応性が高いにも関わらず、その分子末端基の親水性-疎水性バランスが良好であるため、長期間安定なエマルジョン化が可能である。
【0023】本発明の組成物の(B)成分として用いられる両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール(以下、「両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール(B)」または単に「ポリシロキサンジオール(B)」と記す)は、組成物の硬化を促進して低温硬化をより確実に達成させるとともに、組成物のコーティング硬化被膜に靭性(柔軟性)を付与して該被膜の耐クラック性を向上させるための成分である。
【0024】両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール(B)を表す前記一般式(II)中、R^(3)は、1価の炭化水素基であれば特に限定はされないが、たとえば、前記式(I)中のR^(2)として前述したものと同じものが使用できる。そのようなR^(3)を有する直鎖状ポリシロキサンジオールの中でも、硬化被膜の耐候性を低下させない点、該被膜の耐クラック性をより向上させる点および入手の容易さの点から、ジメチルシロキサンジオール、メチルフェニルシロキサンジオールが好ましい。
【0025】両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール(B)は、分子末端のOH基以外に反応基を有していないために、比較的反応性に乏しい分子である。そのため、硬化被膜中において、ポリシロキサンジオール(B)は、分子末端のみが(A)成分と結合または未結合の状態にある。ポリシロキサンジオール(B)の主鎖は、2次元構造であり、比較的動きやすい状態で存在するため、(A)成分の架橋による硬化収縮を吸収してクラックの発生を防止することができる。また、ポリシロキサンジオール(B)は、その両末端の水酸基が(A)成分のOR^(1)基と比較的容易に結合することができるため、(A)成分の分子間の架橋剤としての構造を低温で形成することができる。そのため、(A)成分のOR^(1)基に見合うポリシロキサンジオール(B)の水酸基が存在すれば、塗布被膜の低温での硬化をより確実に達成することができる。つまり、ポリシロキサンジオール(B)により、塗布被膜の柔軟化剤および硬化促進剤の両効果を得ることができる。これらの効果は、前記式(II)中のnが3≦n≦50(より好ましくは5?45)の範囲内にあるポリシロキサンジオール(B)で最も大きい。ポリシロキサンジオール(B)は、直鎖状なので、硬化応力を吸収しやすく、架橋剤としてのネットワーク構造を形成しやすい。nが大きい程、柔軟化剤としての効果が大きく、nが3未満の場合は柔軟化剤としての効果はない。nが小さいもの程、末端-OH基の反応性が高くなるため硬化剤としての効果が高い。nが50より大きい場合は、末端-OH基の反応性が低くなるため硬化剤としての効果が低く且つその分子が大きくなる傾向があるため、(A)成分中に取り込まれず、塗膜中で相分離や白濁等を招来する恐れがある。」

(e)
「【0026】
本発明の組成物中、ポリシロキサンジオール(B)の含有量は、nの大きさによって異なり、特に限定はされないが、たとえば、(A)成分に対し、好ましくは1?50重量%、より好ましくは5?20重量%の割合である。1重量%未満では十分な架橋剤としてのネットワーク構造を形成できず、50重量%を超えると未結合のポリシロキサンジオール(B)が塗膜の硬化阻害を引き起こす等の不都合が生じる傾向がある。(A)成分に対し、nが大きいものから小さいものまでポリシロキサンジオール(B)を適量混合することにより、低温での硬化性がより高く、且つ、耐クラック性の向上した硬化被膜を形成することのできるシリコーンエマルジョンコーティング材組成物を提供できる。」

(f)
「【0030】本発明の組成物中の乳化剤(C)の含有量は、特に限定されるわけではないが、たとえば、オルガノシロキサン部分加水分解物(A)とポリシロキサンジオール(B)との合計量に対し、好ましくは1?30重量%、より好ましくは2?15重量%の割合である。1重量%未満であると、乳化が困難になる傾向がある。30重量%を超えると、被膜の硬化性および耐候性が損なわれる恐れがある。
【0031】本発明の組成物の(D)成分として用いられる水(以下、「水(D)」と記す)の含有量は、特に限定されるわけではないが、たとえば、組成物全量中で、好ましくは50?90重量%、より好ましくは60?80重量%の割合である。水(D)の含有量が上記範囲を外れると、エマルジョンの安定性が低下し、沈殿物を発生する等の不都合を生じる傾向がある。」

(g)
「【0044】・・(中略)・・ 本発明の組成物を塗装する方法は、特に限定されるものではなく、たとえば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、バー、フロー、ロール、カーテン、ナイフコート等の通常の各種塗装方法を選択することができる。組成物を希釈する場合は、水による希釈が望ましいが、必要に応じては、塗布面のレベリング性または乾燥性を調節するためにブチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等の比較的高沸点の有機溶剤を組成物に少量添加してもよい。」

(h)
「【0053】
【実施例】以下、実施例および比較例によって本発明を詳細に説明する。実施例および比較例中、特に断らない限り、「部」はすべて「重量部」を、「%」はすべて「重量%」を表す。また、分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機種として東ソー(株)のHLC8020を用いて、標準ポリスチレンで検量線を作成し、測定したものである。なお、本発明は下記実施例に限定されない。
【0054】まず、(A)成分の調製例を説明する。
・・(中略)・・
【0056】(調製例A-2):メチルトリメトキシシラン70部、ジメチルジメトキシシラン30部およびテトラエトキシシラン30部を混合し、次いで、イソプロピルアルコール60部で希釈し、さらに0.01規定塩酸7.2部を水40部で希釈したものを添加し、攪拌して室温で加水分解した。得られた液を60℃恒温槽中で加熱することにより、重量平均分子量1500のオルガノシロキサン部分加水分解物の30%混合アルコール溶液を得た。これをA-2と称する。
【0057】(調製例A-3):メチルトリメトキシシラン70部およびジメチルジメトキシシラン30部に、水分散酸性コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20%)40部を添加し、室温で攪拌混合した。得られた液を60℃恒温槽中で加熱することにより、重量平均分子量1200のコロイダルシリカ混合オルガノシロキサン部分加水分解物の40%メタノール溶液を得た。これをA-3と称する。なお、上記で得られたオルガノシロキサン部分加水分解物はすべて前記平均組成式(I)を満たすものであることが確認されている。
【0058】次に、(B)成分およびそのエマルジョン化について説明する。重量平均分子量Mw=800(n≒11)の直鎖状ジメチルポリシロキサンジオール。これをB-1と称する。B-1の直鎖状ジメチルポリシロキサンジオール50部に、乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェノルエーテル(HLB 11.0)5部を添加し、均一に攪拌した。これに水45部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理を行うことにより、シリコーンジオールエマルジョンを得た。これをB-1(E)と称する。
【0059】重量平均分子量Mw=3000(n≒40)の直鎖状ジメチルポリシロキサンジオール。これをB-2と称する。B-2の直鎖状ジメチルポリシロキサンジオール50部に、乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェノルエーテル(HLB 11.0)5部を添加し、均一に攪拌した。これに水45部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理を行うことにより、シリコーンジオールエマルジョンを得た。これをB-2(E)と称する。
【0060】分子量=166(n=2)の直鎖状ジメチルポリシロキサンジオール。これをB-3と称する。次に、シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を調製した。
・・(中略)・・
(実施例2):調製例A-2で得られた(A)成分の30%混合アルコール溶液100部に、(B-1)3部、(B-2)1部、重合抑制剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB 12.6)2部を添加し、均一に攪拌後、ロータリーエバポレーターを用いてアルコールを留去した。得られた残留物36部に、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ2部を添加し、均一に攪拌した。これに、水100部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理を行うことにより、シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
・・(中略)・・
(実施例4):調製例A-3で得られたコロイダルシリカ混合(A)成分の40%メタノール溶液100部に、(B-1)3部、(B-2)1部、重合抑制剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB 5.7)2部を添加し、均一に攪拌後、ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを留去した。得られた残留物46部に、乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB 13.7)2部を添加し、均一に攪拌した。これに、水100部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理を行うことにより、シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
(実施例5):調製例A-2で得られた(A)成分の30%混合アルコール溶液100部に、(B-1)3部、(B-2)1部、重合抑制剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB 14.1)2部を添加し、均一に攪拌後、ロータリーエバポレーターを用いてアルコールを留去した。得られた残留物36部に、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ2部を添加し、均一に攪拌した。これに、水80部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理によりエマルジョン化を行った。その後、水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20%)85部を添加し攪拌することにより、シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
(実施例6):調製例A-2で得られた(A)成分の30%混合アルコール溶液100部に、重合抑制剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB 14.1)2部を添加し、均一に攪拌後、ロータリーエバポレーターを用いてアルコールを留去した。得られた残留物32部に、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ2部を添加し、均一に攪拌した。これに、水80部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理によりエマルジョン化を行った。その後、B-1(E)エマルジョン6部、B-2(E)エマルジョン2部および水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20%)85部を添加し攪拌することにより、シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
(比較例1):調製例A-1で得られた(A)成分の80%トルエン溶液100部に、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4部を添加し、均一に攪拌した。これに、水120部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理を行うことにより、比較用シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
(比較例2):調製例A-2で得られた(A)成分の30%混合アルコール溶液100部に、重合抑制剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB 14.1)2部を添加し、均一に攪拌後、ロータリーエバポレーターを用いてアルコールを留去した。得られた残留物32部に、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ2部を添加し、均一に攪拌した。これに、水80部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理によりエマルジョン化を行った。その後、水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20%)75部を添加し攪拌することにより、比較用シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
(比較例3):攪拌機、加温ジャケット、コンデンサー、滴下ロートおよび温度計を取り付けたフラスコに、水1000部、アセトン50部を計り取り、その混合溶液中に、メチルトリクロロシラン44.8部(0.3モル)とジメチル1.2,1.4,1.6ジクロロシラン38.7部(0.3モル)とフェニルトリクロロシラン84.6部(0.4モル)とトルエン200部とからなる溶液を攪拌下に滴下しながら100℃で加水分解した。滴下が終了してから2時間後に攪拌を止め、反応液を分液ロートに移し入れて静置した後、二層に分離した下層の塩酸水を分液除去し、次に、上層のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液中に残存している水と塩酸を減圧ストリッピングにより過剰のトルエンとともに留去して除去することにより、反応性分子末端シラノール基含有オルガノポリシロキサンのトルエン50%溶液を得た。
【0061】この溶液100部にメチルトリメトキシシラン5部およびジメチルジメトキシシラン5部を加えてなる混合溶液中に、ジブチルスズジラウレート0.6部とトルエン10部とからなる溶液を攪拌下に滴下しながらシラノール基のアルコキシ化を60℃で行った。滴下が終了してから40分後に攪拌を止め、ジブチルスズジラウレートおよびメタノールを過剰のトルエンとともに留去して除去することにより、重量平均分子量8000のオルガノシロキサン部分加水分解物の80%トルエン溶液を得た。これを比較用A-1と称する。
【0062】このトルエン溶液100部に、(B-1)20部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4部を添加し、均一に攪拌した。これに、水140部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理を行うことにより、比較用シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
(比較例4):調製例A-1で得られた(A)成分の80%トルエン溶液100部に、(B-3)20部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4部を添加し、均一に攪拌した。これに、水140部を攪拌下で加えた後、ホモジナイザー(300kg/cm^(2))処理を行うことにより、比較用シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を得た。
【0063】上記で得られた実施例および比較例のシリコーンエマルジョンコーティング材組成物の特性を以下の方法で評価した。
(乳化安定性):エマルジョン化の1か月後に組成物の乳化状態を目視で観察し、以下の判断基準で評価した。
【0064】
○:均一白乳色液体で、凝集沈殿物なし。
△:均一白乳色液体だが、微量の凝集沈殿物あり。
×:不均一相分離が起きていて、沈殿物あり。
(造膜性):パイレックスガラスプレートの表面に組成物をバーコータ塗装機で乾燥塗膜厚が5μmになるように塗布し、室温で乾燥させて、乾燥被膜の状態を目視で観察し、以下の判断基準で評価した。
【0065】
○:連続透明被膜。
×:不連続不透明被膜(相分離、白濁)。
(耐クラック性):アルミナプレートの表面に組成物をバーコータ塗装機で乾燥塗膜厚が5μm、10μmまたは20μmになるように塗布し、室温で乾燥させた後、150℃で20分間促進硬化させることにより得られた塗膜外観を目視で観察し、以下の判断基準で評価した。
【0066】
○:クラックなし。
△:局部的に微細クラック発生。
×:全面にクラック発生。
(硬化性):アルミナプレートの表面に組成物をバーコータ塗装機で乾燥塗膜厚が5μmになるように塗布し、室温で乾燥させた後、温度40℃、湿度90%に設定した恒温恒湿槽中で1週間硬化させ、形成された硬化被膜の鉛筆硬度をJIS-K5400に準じて測定した。
(耐候性):パイレックスガラスプレートの表面に組成物をバーコータ塗装機で乾燥塗膜厚が5μmになるように塗布し、室温で乾燥させて得られた被膜について、スガ試験機社製のサンシャインスーパーロングライフウェーザーメーター(型番:WEL-SUN-HC)を用いて1200時間の促進耐候性試験を行い、促進耐候性試験前後の色差(E値)を色差計(日本電色工業社製、品番Σ80)で測定し、ΔEを算出した。
【0067】シリコーンエマルジョンコーティング材組成物の配合を表1、2に、その評価結果を表3、4に示す。
【0068】
【表1】


【0069】
【表2】


【0070】
【表3】


【0071】
【表4】




(i)
「【0072】
【発明の効果】本発明のシリコーンエマルジョンコーティング材組成物は、水性であるため環境上の問題が少ないだけでなく、長期間にわたりエマルジョンとして安定であり、硬化触媒を使用しなくても低温硬化および加熱硬化が可能で、耐候性、耐久性等に優れた硬化被膜を形成することができる。この硬化被膜は、両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール(B)を含むので、靭性(柔軟性)を有し、そのため耐クラック性にも優れる。また、本発明の組成物は、硬化触媒を含む必要がないので、低コスト化が図れるとともに、保存中に硬化が進むことが少ない(ポットライフが長い)。
【0073】本発明に係る製造方法によれば、上記シリコーンエマルジョンコーティング材組成物を好適に製造することができる。」

3.検討

(1)引用例1に記載された発明
上記引用例1には、
「下記(A)、(B)、(C)および(D)成分を含んでなるシリコーンエマルジョンコーティング材組成物。
(A)平均組成式R^(2)_(a)SiO_(b)(OR^(1))_(c)(OH)_(d)で表され(ここでR^(1)、R^(2)は1価の炭化水素基を示し、a、b、cおよびdはa+2b+c+d=4、0≦a<3、0<b<2、0<c<4、0<d<4の関係を満たす数である)、その重量平均分子量がポリスチレン換算で600?5000であるオルガノシロキサン部分加水分解物。
(B)一般式HO(R^(3)_(2)SiO)_(n)H(ここでR^(3)は1価の炭化水素基を示し、nは3以上の整数である)で表される両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール。
(C)乳化剤。
(D)水。」
が記載され(摘示(a)の【請求項1】参照)、「前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分に対し1?50重量%の割合であ」り(摘示(a)の【請求項3】参照)、「(C)乳化剤」及び「(D)水」の量が、それぞれ「オルガノシロキサン部分加水分解物(A)とポリシロキサンジオール(B)との合計量に対し、好ましくは1?30重量%」及び「組成物全量中で、好ましくは50?90重量%」であることも記載されている(摘示(f)参照)。
また、上記引用例1には、上記「(A)」の「オルガノシロキサン部分加水分解物」につき、オルガノトリクロロシラン及びオルガノトリアルコキシシランなどのRSiX_(3)で表されるもの又はテトラアルコキシシランなどのSiX_(4)で表される加水分解性シラン化合物の部分加水分解(縮合)物が使用されることも記載されている(摘示(d)の【0018】ないし【0022】及び摘示(h)の【0056】並びに【0057】参照)。
そして、上記引用例1には、上記コーティング材組成物をパイレックスガラスプレート又はアルミナプレートの表面に塗布した上で乾燥・硬化して塗膜を形成したプレートも記載されている(摘示(h)参照)。
してみると、上記引用例1には、上記(a)?(i)の記載事項からみて、本願発明の表現に倣い表現すると、
「基材プレート表面に、
(A)平均組成式R^(2)_(a)SiO_(b)(OR^(1))_(c)(OH)_(d)で表され(ここでR^(1)、R^(2)は1価の炭化水素基を示し、a、b、cおよびdはa+2b+c+d=4、0≦a<3、0<b<2、0<c<4、0<d<4の関係を満たす数である)、その重量平均分子量がポリスチレン換算で600?5000であるRSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物の部分加水分解(縮合)物であるオルガノシロキサン部分加水分解物。
(B)前記(A)成分に対し1?50重量%の割合の一般式HO(R^(3)_(2)SiO)_(n)H(ここでR^(3)は1価の炭化水素基を示し、nは3以上50以下の整数である)で表される両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール。
(C)前記(A)成分と(B)成分の合計量に対し1?30重量%の乳化剤。
(D)組成物全量中で50?90重量%の水
を含有してなるシリコーンエマルジョンコーティング材組成物の乾燥硬化物を被覆してなるプレート」
という発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「基材プレート表面」、「シリコーンエマルジョンコーティング材組成物の乾燥硬化物」及び「プレート」は、それぞれ、本願発明における「基材表面」、「エマルジョンコーティング剤組成物の硬化物」及び「物品」に相当することが明らかである。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「基材表面にエマルジョンコーティング剤組成物の硬化物を被覆してなる物品」の点で一致し、下記の点でのみ一応相違する。

相違点:「エマルジョンコーティング剤組成物」につき、本願発明では、
「(A)X-[R_(2)Si-O-]_(m)-R_(2)Si-X(Rは炭素数1?20の1価炭化水素基及び/又はアリール基から選ばれる同一又は異種の基であり、Xは加水分解性基及び/又はOH基、mは29?100の自然数)で表される両末端反応性シリコーンオイルと、RSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物、又はこれらから誘導され部分加水分解及び縮合されたオリゴマーとの混合物を加水分解及び/又は縮合して得られ、-[R_(2)Si-O-]_(m+1)-(R及びmは前記両末端反応性シリコーンオイルを示す式中のR及びmとそれぞれ同一)で示される直鎖状の連続構造を含むオルガノシリコーンレジンであって、該オルガノシリコーンレジンの分子末端がシラノール(SiOH)基であり、該オルガノシリコーンレジン中の全Si原子のうち5?60モル%が前記直鎖状の連続構造を構成するオルガノシリコーンレジン100質量部、
(B)乳化剤1?50質量部、
(C)水25?2,000質量部
(D)プロピルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸カルビトール、又は酢酸ブチルカルビトール3?40質量部を含有し、(D)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないエマルジョンコーティング剤組成物」
であるのに対して、引用発明では、
「(A)平均組成式R^(2)_(a)SiO_(b)(OR^(1))_(c)(OH)_(d)で表され(ここでR^(1)、R^(2)は1価の炭化水素基を示し、a、b、cおよびdはa+2b+c+d=4、0≦a<3、0<b<2、0<c<4、0<d<4の関係を満たす数である)、その重量平均分子量がポリスチレン換算で600?5000であるRSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物の部分加水分解(縮合)物であるオルガノシロキサン部分加水分解物。
(B)前記(A)成分に対し1?50重量%の割合の一般式HO(R^(3)_(2)SiO)_(n)H(ここでR^(3)は1価の炭化水素基を示し、nは3以上50以下の整数である)で表される両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール。
(C)前記(A)成分と(B)成分の合計量に対し1?30重量%の乳化剤。
(D)組成物全量中で50?90重量%の水
を含有してなるシリコーンエマルジョンコーティング材組成物」
である点

(3)相違点に係る検討
上記相違点につき以下検討する。
引用発明における「シリコーンエマルジョンコーティング材組成物」の乾燥硬化物は、
「(A)平均組成式R^(2)_(a)SiO_(b)(OR^(1))_(c)(OH)_(d)で表され(ここでR^(1)、R^(2)は1価の炭化水素基を示し、a、b、cおよびdはa+2b+c+d=4、0≦a<3、0<b<2、0<c<4、0<d<4の関係を満たす数である)、その重量平均分子量がポリスチレン換算で600?5000であるRSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物の部分加水分解(縮合)物であるオルガノシロキサン部分加水分解物。
(B)前記(A)成分に対し1?50重量%の割合の一般式HO(R^(3)_(2)SiO)_(n)H(ここでR^(3)は1価の炭化水素基を示し、nは3以上50以下の整数である)で表される両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール。
(C)前記(A)成分と(B)成分の合計量に対し1?30重量%の乳化剤。
(D)組成物全量中で50?90重量%の水
を含有してなるシリコーンエマルジョンコーティング材組成物」
を基材表面に塗工した後、乾燥・硬化したものであるから、(A)成分と(A)成分に対し1?50重量%の割合の(B)成分とが反応し(摘示(d)参照)ネットワーク構造を形成した架橋生成物(摘示(e)参照)と、(A)成分と(B)成分の合計量に対し1?30重量%の不揮発分としての(C)成分の乳化剤からなるものと認められ、乾燥していることから、(D)成分の水は実質的に含有しないものと認められる。
そして、当該「架橋生成物」における(A)成分由来のSi原子の量と(B)成分由来のSi原子の量との比につき検討すると、Si原子のモル比は、それぞれ成分の仕込み重量比に概略同一である(本願明細書【0018】参照)から、100:1?50の重量比、すなわち、(B)成分に由来するSi原子量比は、0.01?33モル%であるものといえる。
それに対して、本願発明における「エマルジョンコーティング剤組成物の硬化物」は、
「(A)X-[R_(2)Si-O-]_(m)-R_(2)Si-X(Rは炭素数1?20の1価炭化水素基及び/又はアリール基から選ばれる同一又は異種の基であり、Xは加水分解性基及び/又はOH基、mは29?100の自然数)で表される両末端反応性シリコーンオイルと、RSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物・・から誘導され部分加水分解及び縮合されたオリゴマーとの混合物を加水分解及び/又は縮合して得られ、-[R_(2)Si-O-]_(m+1)-(R及びmは前記両末端反応性シリコーンオイルを示す式中のR及びmとそれぞれ同一)で示される直鎖状の連続構造を含むオルガノシリコーンレジンであって、該オルガノシリコーンレジンの分子末端がシラノール(SiOH)基であり、該オルガノシリコーンレジン中の全Si原子のうち5?60モル%が前記直鎖状の連続構造を構成するオルガノシリコーンレジン100質量部、
(B)乳化剤1?50質量部、
(C)水25?2,000質量部
(D)プロピルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸カルビトール、又は酢酸ブチルカルビトール3?40質量部を含有し、(D)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないエマルジョンコーティング剤組成物」
を基材表面に塗工した後、乾燥・硬化したものであるから、(A)成分の硬化物100重量部と、1?50重量部の不揮発分である(B)成分の乳化剤からなるものと認められ、乾燥していることから、(C)成分の水及び(D)のプロピルセロソルブなどの水混和性有機溶剤は蒸発ないし揮発により実質的に含有しないものと認められる(本願明細書【0033】参照)。なお、硬化物中のSi原子の直線構造部が占める割合については、硬化前の(A)成分のものが変化するものではないから、硬化物中の直線構造部におけるSi原子の割合は5?60モル%であるといえる。
そこで、本願発明における「エマルジョンコーティング剤組成物の硬化物」と引用発明における「シリコーンエマルジョンコーティング材組成物の乾燥硬化物」とを対比すると、両末端反応性シリコーンオイル(両末端水酸基含有直鎖状ポリシロキサンジオール)の重合度に由来する「m」の数値範囲につき「29?50」の範囲で重複し、硬化物中の直線構造部におけるSi原子の割合が5?33モル%の範囲で重複し、さらにオルガノシリコーンレジンと乳化剤の組成比についても、100重量部:1?30重量部の範囲で重複するものと認められ、その余の点で一致するものと認められる。
してみると、本願発明における「エマルジョンコーティング剤組成物の硬化物」と引用発明における「シリコーンエマルジョンコーティング材組成物の乾燥硬化物」との間に、(乾燥)硬化物としての実質的な差異が存するものとはいえない。
したがって、上記相違点は実質的な相違点であるとはいえない。

なお、付言すると、引用発明における硬化被膜は、耐候性、耐久性、靱性付与による耐クラック性に優れ、例えば鉛筆硬度H程度以上の硬度を有するものである(摘示(b)、(h)及び(i)参照)から、本願発明が引用発明に比して、特段の効果を奏するものとは認められない。
してみると、引用発明における硬化被膜を、本願における「請求項1に記載のエマルジョンコーティング剤組成物の硬化物」とした点に格別な技術的創意が存するものではなく、本願発明は、引用発明に対する選択発明として成立するものでもない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明と物に係る発明として同一である。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は、上記平成24年8月17日付け意見書において、
「(4)本願発明4(旧本願発明5)に対する理由3,4について
補正により、本願発明4(請求項4)は、(i)(A)成分として、両末端反応性シリコーンオイルと、RSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される1又はそれ以上の加水分解性シラン化合物、又はこれらから誘導され部分加水分解及び縮合されたオリゴマーとの混合物を加水分解及び/又は縮合して得られたオルガノシリコーンレジン、という構成を有するものとなったので、引用発明2(審決注:上記引用例1に記載された発明である。)における乾燥硬化物とは構成が異なり、引用発明2と同一ではなくなった。そして、引用発明2には、本願発明4に規定された加水分解性シラン化合物又はオリゴマーが記載されていない以上、引用発明2に基づいて本願発明4を容易に発明することは当業者であっても不可能である。
従って、本願発明4(旧本願発明5)に対する理由3,4は解消したと思料する。」
と主張している。

しかるに、上記引用例1には、上記3.で指摘した(a)?(i)の事項が記載されており、特に引用発明のものと認められる実施例につき、メチルトリメトキシシラン又はテトラエトキシシランなどのRSiX_(3)、SiX_(4)の構造で表される加水分解性シラン化合物の部分加水分解(縮合)物であるオルガノシロキサン部分加水分解物を「(A)」成分として使用した実施例2及び4?6も記載されている(摘示(h)参照)。
してみると、引用発明における「(A)」成分と「(B)」成分との反応硬化物と、本願発明における「(A)」のオルガノシリコーンレジンの反応硬化物とは、技術常識からみて、化学構造上の有意な差異が存するものとは認められない。
したがって、審判請求人の上記意見書における「引用発明2における乾燥硬化物とは構成が異な」る旨の主張は、引用例1の記載に基づかないものであるから、当を得ないものであって、当審の上記3.の検討結果を左右するものではない。

5.当審の判断のまとめ
よって、本願発明は、上記引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。

第4 結び
以上のとおり、本願の請求項4に記載された事項で特定される発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-18 
結審通知日 2012-09-24 
審決日 2012-10-05 
出願番号 特願2006-319610(P2006-319610)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09D)
P 1 8・ 113- WZ (C09D)
P 1 8・ 536- WZ (C09D)
P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
発明の名称 エマルジョンコーティング剤組成物及びそれを被覆した物品  
代理人 赤尾 謙一郎  

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