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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1266627
審判番号 不服2010-5349  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-10 
確定日 2012-11-21 
事件の表示 特願2004-508594「飲料組成物及び飲料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月11日国際公開、WO03/101225、平成17年9月15日国内公表、特表2005-527234〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年6月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年5月31日、フィンランド)を国際出願日とする出願であって、平成21年5月26日付けの拒絶理由通知に対して、平成21年8月28日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成21年11月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成23年9月2日付けの審尋に対し、平成24年3月5日に回答書が提出されたものである。

第2 平成22年3月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年3月10日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「心理的及び肉体的パフォーマンスを維持し改良するために過度の集中を必要とする長期持続的な活動の間で使用するための、グルコース、フルクトース、ガラナ、及びタウリンを含む飲料組成物であって、生理学的な活性量でフラボノイドを含むマツ樹皮抽出物またはグレープシード抽出物、並びに生理学的な活性量でL-カルニチンを更に含むことを特徴とする飲料組成物。」(下線は、補正箇所を示す。)
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「パフォーマンス」について、「心理的及び肉体的」との限定を付加したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
本願優先日前に頒布された刊行物である、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(原査定の引用文献)、には以下の事項がそれぞれ記載されている。下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:国際公開第01/5253号の記載事項の当審訳(訳文は対応日本語公報である特表2004-500031号公報によるもので、段落番号も併せて記載した。)
(1a)「【0004】
本発明者らは、驚くべきことには、必要とされる活力を提供するのに適切であり、同時に過度のインスリン応答を引き起こす血中グルコースの過度に高い濃度を回避する濃度まで血中グルコース濃度を速やかに増大させることにより、前記に関連する問題点を克服する組成物を見いだした。本発明の組成物は、消費後の長い時間にわたって望ましい血中グルコース濃度を持続して、活力および精神的機敏さを提供する。
【0005】
(発明の概要)
本発明は、消費者の活力レベルおよび精神的機敏さを提供かつ持続するのに有用である組成物、キットおよび方法に関する。本明細書に示される組成物は、飲料組成物、飲料濃厚物、および本質的に乾燥した組成物を含む。」(1頁下から下から6行?2頁5行)

(1b)「【0020】
本発明者らが発見したように、本発明の組成物は、消化可能な炭水化物のバランスのとれた複雑な混合物を含有し、それが活力および精神的機敏さの開始および持続を提供する。さらに、本発明者らは、本発明の組成物における使用において効果的な炭水化物および炭水化物濃度を選択することにおいて、選択される炭水化物およびその濃度が消化および腸管吸収の充分な速度を許容してグルコースの定常的維持を提供することが重要であり、その結果として消費者に活力および機敏さを提供することを見いだした。
【0021】
本発明において用いられる単糖類が消費者に対して即時の活力を提供し、一方、二糖類およびさらなる程度において複合糖質成分は消化管内において加水分解されて、消費者に対してより後期の、および持続される活力の開始を提供することが見いだされた。同様に本明細書に示されるように、1つまたは複数の刺激性成分および/または1つまたは複数のフラバノール類の含有が、この内部応答を高める。したがって、本明細書により詳細に議論されるように、活力および精神的機敏さの持続の最適化のために、組成物に対して1つまたは複数の刺激性成分および/または1つまたは複数のフラバノール類を提供することが特に好ましい実施形態である。
【0022】
(単糖類)
本発明において用いられる単糖類は、一般式C_(n)H_(2n)O_(n)(式中nは3以上の整数である)を有する分子である。本発明における単糖類は、消化可能すなわち哺乳類の肉体による代謝が可能である。本発明において用いてもよい単糖類の非制限的な例は、ソルビトール、マンニトール、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リブロース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、およびソルボースを含む。本発明における使用に好ましい単糖類は、グルコースおよびフルクトースを含み、最も好ましくはグルコースである。」(4頁5行?25行)

(1c)「【0028】
(飲料組成物)
本発明の飲料組成物は、ある期間にわたる活力および精神的機敏さの開始および持続を提供することが見いだされた単純糖質および複合糖質の選択された混合物を含む。本明細書において見いだされたように、本明細書に記載される飲料組成物は、血中のグルコース濃度の迅速かつ一時的なピークなしに、それらが消費者に対して平滑(smooth)でかつ持続される活力を提供するので、特に有用である。」(5頁下から7行?2行)

(1d)「【0051】
(本発明の組成物の任意選択成分)
本発明の組成物は、追加の任意選択の成分を含んで、例えば、活力、精神的機敏さ、官能特性および栄養水準を提供することにおけるそれらの性能を高めてもよい。例えば、1つまたは複数の刺激性成分、フラバノール類、乳ベース固体、可溶性繊維、ノンカロリー甘味料、栄養素、風味剤、着色料、防腐剤、乳化剤、油、炭酸化成分などを、本発明の組成物中に含んでもよい。そのような任意選択の成分を、本発明の組成物中に分散、可溶化または他の方法で混合してもよい。これらの成分は、飲料組成物の特性、特に活力および精神的機敏さの提供を実質的に妨げないことを条件として、本発明の組成物中に添加することができる。本発明における使用に適当な任意選択成分の非制限的な例を以下に挙げる。
【0052】
(刺激性成分)
本発明中に1つまたは複数の刺激性成分を含んで、典型的飲料組成物中の刺激性成分に通常関連する緊張および神経質を伴うことなく、活力およびしたがって精神的機敏さのさらなる開始および持続を消費者に対して提供してもよい。理論によって制限されることを意図することなしに、本発明者らは、1つまたは複数の刺激性成分の含有が本発明の組成物の摂取に関連する血糖応答を遅延させるのに役立ち、そのようにして使用者に対して活力のさらなる維持を提供することを見いだした。1つまたは複数の刺激性成分は、組成物が摂取される際の活力の開始および特に持続に寄与するので、1つまたは複数の刺激性成分を含むことが、本発明の特に好ましい実施形態である。
・・・
【0054】
加えて、1つまたは複数のこれら刺激性成分が、例えば、コーヒー、茶、コーラナッツ、カカオの莢、マテ茶、ヤウポン、ガラナペーストおよびヨコ(yoco)中に存在する。天然草木の抽出物が刺激成分の好ましい源である。なぜなら、それらが刺激性成分のバイオアベイラビリティを遅延させる他の成分を含有する可能性があり、それによってそれらが緊張および神経質を伴うことなしに精神的爽快さおよび機敏さを提供してもよいからである。」(10頁4行?11頁25行)

(1e)「【0061】
(フラバノール類)
本発明の、別の任意選択だが特に好ましい成分は、1つまたは複数のフラバノール類である。理論によって制限されることを意図することなしに、本発明者らは、1つまたは複数のフラバノール類の包含が、本発明の組成物の摂取に関連する血糖応答を遅延するのに役立ち、それによって使用者に対して活力のさらなる持続をもたらすことを見いだした。1つまたは複数のフラバノール類は、組成物が摂取される場合の活力の開始および特に持続に寄与するので、1つまたは複数のフラバノール類を含むことは、本発明の特に好ましい実施形態である。
【0062】
フラバノール類は、種々の草木(例えば、果実、野菜および花卉)中に存在する天然物質である。本発明において用いてもよいフラバノール類は、例えば果実、野菜、緑茶または他の天然源から、当業者によく知られている任意の適当な方法によって抽出することができる。例えば、酢酸エチルまたは塩素化有機溶媒を用いる抽出は、緑茶からフラバノール類を単離する一般的方法である。フラバノール類を、単一の草木または草木の混合物のいずれから抽出してもよい。多くの果実、野菜および花卉はフラバノール類を含有するが、その程度は緑茶に比べて低い。フラバノール類を含有する草木は、当業者に知られている。茶の樹およびCatechu gambir(uncaria科)の他の構成植物から抽出される最も一般的なフラバノール類は、例えばカテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン没食子酸エステル、エピガロカテキン没食子酸エステルを含む。」(12頁21行?行)

(1f)「【0118】
(本発明のキット)
飲料組成物、飲料濃厚物、および本質的に乾燥した組成物を含む本発明の組成物を、本明細書に記述されるようなキットにおいて用いることが可能である。本発明のキットは、言葉、絵および/または類似物によって該キットの使用者に知らせる情報と共に、1つまたは複数の本発明の組成物を含み、該キットの使用は、活力、活力増強、活力維持(例えば、円滑および/または安定的な活力、精神的機敏さ、および緊張および/または不安を伴わない覚醒のようなもの)、爽快、充足、および栄養補給を含むがこれらに制限されない1つまたは複数の一般的な健康および/または一般的な生理学的利益を提供する。
【0119】
(本発明の方法)
本発明の方法は、本発明の組成物を、哺乳類、好ましくはヒトに経口投与して(すなわち摂取を通じて)、そのような哺乳類に活力および/または精神的機敏さを提供することを含む。好ましくは、本発明の組成物は、心身を爽快にさせる活力源または食間の空腹を満足させる手段を所望する消費者によって摂取される。また好ましくは、該組成物は、激しい仕事を行っている、もしくは行った消費者によって、または活力の消耗を経験する消費者によって摂取される。本発明の組成物は、例えば活力、栄養補給、および/または水分補給のための通常の栄養要求に対するサプリメントとして摂取されることが可能である。投与の頻度は制限がないが、しかしながらそのような投与は、典型的に少なくとも週に1回、より好ましくは少なくとも週に3回および最も好ましくは少なくとも毎日1回である。
【0120】
本明細書において用いられる限りは、哺乳類(好ましくはヒト)に関連する「経口投与」という用語は、1つまたは複数の本発明の組成物を、哺乳類が摂取すること、または(好ましくは活力および/または精神的機敏さの提供の目的のために)摂取することを指導することを意味する。好ましくは、該組成物は、本明細書中に記述されてきた飲料組成物、濃厚物または本質的に乾燥した組成物である。哺乳類が1つまたは複数の組成物を摂取することを指導される場合、そのような指導は、活力、活力増強、活力維持(例えば円滑および/または安定な活力、精神的機敏さ、および緊張および/または不安を伴わない機敏さのようなもの)、爽快、充足、および栄養補給を含むがこれらに制限されない、1つまたは複数の一般的な健康および/または一般的な生理学的利益を組成物の使用が提供することが可能であり、および/または提供するであろうことを使用者に指示、および/または情報提供することであってもよい。」(25頁17行?26頁行)

(1g)「【0122】加えて、および最も好ましくは、本明細書に用いられる限りは、「精神的機敏さの提供」、「活力」など(本明細書において、平易のために総合して精神的機敏さと呼ぶ)の用語は、本明細書中で記述されるように、消費者の精神的機敏さの知覚および/または活力を増強することを意味する。」と記載され、これに続き、「精神的機敏さ」及び「精神的機敏さの維持」の評価方法について記載され、最後に、「【0130】この評価方法を用いて、本明細書において好ましい試験組成物は、プラシーボ組成物および/または基準組成物と比較して、著しく良好な精神的機敏さを提供および/または維持する。」と記載されている。(26頁下から3行?28頁下から2行)

(1h)「実施例1」?「実施例4」において、「成分」として、「グルコース」、「ガラナ抽出物」及びフラバノール類である各種茶の抽出物が含有されたものが記載されている。(29?32頁の「実施例1」?「実施例4」)

(1i)「【請求項1】
(a)組成物の重量において、約0.1%から約15%までの1つまたは複数の単糖類と;
(b)組成物の重量において、約0.1%から15%までの二糖類と;
(c)組成物の重量において、約0.1%から15%までの1つまたは複数の複合糖質と;
(d)約60%より多い水と
によって特徴付けられる飲料組成物。
【請求項2】
(a)組成物の重量において、約1%から約5%までの1つまたは複数の単糖類であって、該単糖類はグルコースおよびフルクトースからなる群から選択される単糖類と;
(b)組成物の重量において、約1%から約8%までのスクロースと;
(c)組成物の重量において、約1%から約5%までの1つまたは複数の複合糖質と
によって特徴付けられる請求項1に記載の飲料組成物。
【請求項3】
(a)組成物の重量において、約1%から約5%までのグルコースと;
(b)組成物の重量において、約1%から約8%までのスクロースと;
(c)組成物の重量において、約1%から約5%までの1つまたは複数の複合糖質と
によって特徴付けられる前記請求項のいずれかに記載の飲料組成物。
【請求項4】
前記複合糖質は、マルトデキストリンであり、単糖類対マルトデキストリンの比が、組成物の重量において、約1:5から約10:1までであることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の飲料組成物。
【請求項5】
1つまたは複数の刺激性成分によってさらに特徴付けられる前記請求項のいずれかに記載の飲料組成物。
【請求項6】
組成物の重量において、少なくとも約0.01%の1つまたは複数のフラバノール類によってさらに特徴付けられる前記請求項のいずれかに記載の飲料組成物。
【請求項7】
茶、アロエベラ、ガラナ、ヤクヨウニンジン、イチョウ、サンザシ、ハイビスカス、ローズヒップ、カモミール、ペパーミント、ウイキョウ、ショウガ、カンゾウ、ハスの実、モクレン、ライトヤシ(saw palmetto)、サルサパリラ、ベニバナ、オトギリソウ、ウコン、カルダモン、ナツメグ、ケイヒ、ブッコ(buchu)、シナモン、ジャスミン、サンザシの実、キク、ヒシ(water chestnut)、サトウキビ、ライチ、タケノコ、バニラ、コーヒーなどからなる群から選択される1つまたは複数の植物によってさらに特徴付けられる請求項14に記載の飲料組成物。」(35頁2行?36頁6行)

(2)刊行物2:特開平11-318402号公報の記載事項
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】プロアントシアニジンを含有する抗疲労ドリンク剤【請求項2】プロアントシアニジンとビタミンA、B1、B2、B3、B12、B15、C、D、Eの中から選ばれた少なくとも1種のビタミンを含有する抗疲労ドリンク剤。
【請求項3】プロアントシアニジンがブドウ種子、皮の抽出物又は赤ワインエキスである請求項1又は2の抗疲労ドリンク剤。」

(2b)「【0002】
【従来の技術】ある種のビタミンを有効成分とする疲労回復剤や疲労予防剤として、錠剤やドリンク剤等の形態で市販されており、特にドリンク剤の需要は年々増加傾向にある。これらは有効成分としてビタミン類のほかに各種の成分を配合し、それぞれの商品特徴を出し、市場競争を展開しているのが実情である。商品特徴は配合物の種類や量がポイントであり、例えばブドウ糖、グルクロノラクトン等の糖類、タウリン、アルギニン塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸類、カフェイン等のほか、鉄やマンガン等の無機物、にんにく、朝鮮人参、ハーブ等の抽出物等、その種類は極めて多岐にわたっている。しかしながら従来のこれら商品は、効果の点で、あるいは価格の点で必ずしも満足できるものではない。」

(2c)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、プロアントシアニジンが抗疲労に著しい効果があることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、プロアントシアニジンを有効成分とする抗疲労ドリンク剤である。
【0005】
【発明の実施の形態】以下本発明を具体的に説明する。本発明で用いられるプロアントシアニジンは、各種植物体中に存在する縮合型タンニン、すなわちフラバン-3-オールまたはフラバン-3,4-ジオールを構成単位として縮合もしくは重合により結合した化合物群であって、これらは酸処理によりシアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジン等のアントシアニジンを生成するところからこの名称が与えられているものであり、上記構成単位の2量体、3量体、4量体さらに10量体以上の高分子のプロシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジン等のプロアントシアニジンおよびそれらの立体異性体等を含むものであり、各種植物体、例えばぶどう種子、皮、クランベリー果実、りんご果実、小豆あるいは杉、檜、松の樹皮等から抽出して得ることができる。また赤ワイン、ビール、リンゴ酒からも得ることができる。これらのプロアントシアニジンを主成分とする製品は市販もされており、例えばぶどう種子を原料とする「KPA」「グラヴィノール」(キッコーマン(株))、りんご未熟果を原料とする「アップルフェノン」(ニッカウヰスキー(株))、松の樹皮を原料とする「ピクノジェノール」(ホーファーリサーチ社(スイス))等である。」

(2d)「【0008】
【発明の効果】本発明による抗疲労ドリンク剤は、これを服用することにより疲れにくくなり、また疲労回復にも効果がある。したがってスポーツを行なう前や途中で摂取することにより、持久力向上が期待でき、また使用するプロアントシアニジンは植物の抽出物であるので安全性にも問題がなく、しかも安価である。」

(3)刊行物3:国際公開第99/61038号の記載事項の当審訳
(3a)「栄養サプリメントを供給する飲料の例は多くある。米国特許5626849(ハスチング等)は、減量を促進するための組成物に関する。組成物は、クロム、L-カルニチン、γ-リノレン酸、(-)ヒドロキシクエン酸、コリン、イノシトール、抗酸化剤及びハーブを含む。」(1頁24行?27行)

3 対比・判断
(1)刊行物1(特に上記(1i)の【請求項1】)には、「1つまたは複数の単糖類」、「スクロース」、「複合糖質」及び「水」を含有した飲料組成物が記載され、この飲料組成物は、「消化可能な炭水化物のバランスのとれた複雑な混合物を含有し、それが活力および精神的機敏さの開始および持続を提供する」(上記(1b))ものであることが記載されている。
さらに、活力、精神的機敏さ、官能特性および栄養水準を提供する性能を高め、維持するために、任意選択成分として、「複数の刺激性成分、フラバノール類」等を含んでよいこと(上記(1d))、刺激性成分としては「ガラナペースト」等の天然草木の抽出物が好ましいこと(上記(1d))、フラバノール類は、種々の草木中に存在する天然物質であることが記載さている(上記(1e)。
そして、刊行物1の実施例(上記(1h))には、「ガラナ抽出物」、及び「フラバノール類」として茶抽出物を含有するものが記載されている。

これらの記載事項を総合すると、刊行物1には、
「(a)組成物の重量において、約0.1%から約15%までの1つまたは複数の単糖類と;
(b)組成物の重量において、約0.1%から15%までの二糖類と;
(c)組成物の重量において、約0.1%から15%までの1つまたは複数の複合糖質と;
(d)約60%より多い水と;
(e)組成物の重量において、少なくとも約0.01%の1つまたは複数の天然草木抽出フラバノール類と、
(f)ガラナ抽出物と、
を含有する、活力および精神的機敏さの提供及び維持のための飲料組成物」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。
ア 刊行物1発明の「(a)組成物の重量において、約0.1%から約15%までの1つまたは複数の単糖類」を含有することと、本願補正発明の「グルコース」を含むこととは、グルコースは単糖類の一種であるから、単糖類を含む点で共通する。

イ 刊行物1発明の「(e)組成物の重量において、少なくとも約0.01%の1つまたは複数の天然草木抽出フラバノール類」について、任意成分であるフラバノール類は、活力、精神的機敏さ、官能特性および栄養水準を提供する性能を高めるために含有させるものであるから(上記(1d))、生理学的に活性量で含有させることは明らかである。
一方、本願補正発明の「生理学的な活性量でフラボノイドを含むマツ樹皮抽出物またはグレープシード抽出物」について、「フラボノイド」は、本願明細書段落【0015】に「フラボノイドは、一般的に植物中で色素として見出される光化学物質に属する植物起源のフェノール性化合物を指す。それらは典型的に同じ基本構造を有するが、フラボノール、フラボン、フラバノン、及びフラバノールというサブクラスに分割できる。」と記載されており、フラバノールを包含するものである。そして、「マツ樹皮抽出物またはグレープシード抽出物」は、「天然草木抽出物」の一種といえる。
そうすると、両者は、生理学的な活性量でフラボノイドを含む天然草木抽出物である点で共通する。

ウ 本願補正発明の「ガラナ」は、本願明細書段落【0011】及び【0060】の表1に「ガラナ抽出物」と記載されているから、刊行物1発明の「(f)ガラナ抽出物」は、本願補正発明の「ガラナ」に相当する。

エ 刊行物1発明の「活力および精神的機敏さの提供及び維持のための」飲料組成物と、本願補正発明の「心理的及び肉体的パフォーマンスを維持し改良するために過度の集中を必要とする長期持続的な活動の間で使用するための」飲料組成物とは、心身を活性化しそれを持続するための飲料組成物である点で共通する。

オ 本願明細書段落【0025】「 前記飲料組成物は更に、以下の物質または物質群の一つ以上を有効量で含んでも良い:炭水化物」と記載されており、本願補正発明は、単糖類であるグルコースやフルクトース以外に、二糖類及び複合糖類を含有することを排除するものではない。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
グルコース、ガラナを含む飲料組成物であって、生理学的な活性量でフラボノイドを含む天然草木抽出物を含む、心身を活性化しそれを持続するための飲料組成物である点。

(相違点1)
単糖類が、本願補正発明では、グルコース及びフルクトースを含むのに対して、刊行物1発明は、1つまたは複数の単糖類であり、単糖類の種類を規定していない点。

(相違点2)
天然草木抽出物が、本願補正発明では、「マツ樹皮抽出物またはグレープシード抽出物」であるのに対して、刊行物1発明は、植物の種類や部位を特定していない点。

(相違点3)
本願補正発明が、「タウリン」及び「生理学的な活性量でL-カルニチン」を含有するのに対して、刊行物1発明は、これらの成分を含有していない点。

(相違点4)
心身を活性化しそれを持続するための飲料組成物が、本願補正発明では「心理的及び肉体的パフォーマンスを維持し改良するために過度の集中を必要とする長期持続的な活動の間で使用」するためのものであるのに対して、刊行物1発明では、活力および精神的機敏さの提供及び維持のための飲料組成物である点。

(3)そこで、上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
刊行物1(上記(1b)、(1i)の【請求項2】)には、「1つまたは複数の単糖類」として、グルコースおよびフルクトースが好ましいことが記載されているから、刊行物1発明において、「1つまたは複数の単糖類」として、単糖類を2種類用い、グルコース及びフルクトースとすることに格別の困難性があるとはいえない。

イ 相違点2について
刊行物2には、ブドウ種子や松の樹皮から抽出される成分であるプロアントシアニジンが、抗疲労に著しい効果があること(上記(2c))、プロアントシアニジンを有効成分とする抗疲労ドリンク剤を服用することにより疲れにくくなり、疲労回復にも効果があり、スポーツを行なう前や途中で摂取することにより、持久力向上が期待できること(上記(2d))が記載されている。そして、「プロアントシアニジン」について、刊行物2(上記(2c))には、「フラバン-3-オールまたはフラバン-3,4-ジオールを構成単位として縮合もしくは重合により結合した化合物群」であることが記載され、「フラボノイド」の一種であることは技術常識である(さらに必要ならば、大木等編「化学大辞典」1996年4月1日東京化学同人発行2033頁左欄「フラボノイド」の項参照)。
そうすると、刊行物1発明の活力および精神的機敏さの提供及び維持のための飲料組成物において、天然草木抽出フラバノール類として、抗疲労に著しい効果がある、マツ樹皮抽出物またはグレープシード抽出物を用いることは当業者が容易になし得たことといえる。

ウ 相違点3について
刊行物2(上記(2b))には、疲労回復や疲労予防ドリンクの技術分野の従来技術として、「タウリン」を含有するものが商品となっていることが記載されている。また、刊行物3(上記(3a))には、従来技術の栄養サプリメント飲料の例として、減量を促進するための組成物に、L-カルニチンを含むことが記載されている。
そして、刊行物2及び3で従来技術として記載されているように、タウリン及びL-カルニチンが、脂質代謝改善、体力増強・疲労回復を目的とした飲料等の食品に、本願優先日前に広く用いれれていたことは、刊行物2及び3に加え、以下に例示した刊行物に記載されるとおりである。

・特開2001-46021号公報(【請求項2】、【0013】、【0023】、【0027】、【0028】、【0042】)には、L-カルニチン及びタウリン等を含有した体力増強・疲労回復用素材を用いた飲料等の食品が記載され、L-カルニチンの作用について「【0013】L-カルニチンは脂質代謝、特に脂肪酸の酸化において、ミトコンドリア内へ脂肪酸を運ぶ役割をし、脂肪のエネルギーへの燃焼を促進する。体内でも生合成されるが、強度のスポーツや労働時に、十分量が合成されているかどうかは不明であり、食事などからの摂取の有効性が提唱されつつある。」、タウリンの作用について「【0023】又、タウリンは硫黄分子を含む含硫アミノ酸であり、体中の全ての組織に存在しており、神経伝達物質,心機能維持,胆汁の分泌などの重要な作用を持つばかりか、降血圧作用やコレステロール低下作用,肝機能改善作用,解毒作用など多彩な機能の存在が知られている。」と記載されている。

・特開2001-57868号公報(【請求項2】、【0013】、【0017】、【0023】、【0027】)には、L-カルニチン及びタウリン等を含有した脂質代謝改善用素材を用いた食品が記載され、上記文献と同様のL-カルニチン及びタウリンの作用が記載されている。

・特表2001-517227号公報(第4頁6?13行、第5頁下から3?第6頁13行)に、従来からL-カルニチン含有栄養補給剤が使用されている理由は、脂肪の酸化を促進して骨格筋に多量のエネルギーを供給すること、タウリンは、重要な代謝的及び栄養的特性を有し、L-カルニチンの結合すると相補的な機能を果たすことが記載されている。

・特開平3-94655号公報(特許請求の範囲、第2頁左下欄14行?第3頁左上欄1行、第3頁右上欄12?18行、第4頁左下欄最終行?右下欄12行)には、カルニチン及びタウリンを含有する、栄養状態の改善やダイエット食等として利用できる栄養補給組成物が記載され、カルニチンは脂質代謝に関連することが記載されている。

・特表平4-500073号公報(第2頁左下欄4行?右下欄11行)には、L-カルニチンは、筋肉および心筋のようなミトコンドリアの豊富な細胞のエネルギープロセスの保護剤および共同因子としで働くことが記載され、たまにスポーツをする人、レベルの高いスポーツをする人の栄養を補足することが記載されている。

・特開平11-171777号公報(【0012】)には、肉体疲労の改善に有効な成分として、タウリンが記載されている。

そして、刊行物1発明の飲料組成物は、活力および精神的機敏さの提供及び維持のためのものであることから、これに、体力増強・疲労回復等を目的とした食品に用いることが本願優先日前に広く知られていた、タウリン及びL-カルニチンを生理学的な活性量で含有させることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

エ 相違点4について
(ア) 本願補正発明の「心理的及び肉体的パフォーマンスを維持し改良するために過度の集中を必要とする長期持続的な活動の間で使用」することについて、本願明細書段落【0006】に
・「本発明の飲料組成物は、心理的及び肉体的パフォーマンスを改善して維持するために過度の集中を必要とする長期持続的スポーツ活動の間での消費のために企図されるいる」、
・「一つの重要な点は、血糖バランスの制御と維持である。」、
・「活動の間でのリラックスのようなパフォーマンスに寄与し、協調能力と心の緊張の維持を持続する他の側面も考慮される」、
・「カフェインのような従来の刺激剤の副作用、例えば筋肉の微動及び緊張なく、適切で一定の血糖バランスが維持されるべきである。」、
・「前記パフォーマンスのためには、血液循環及びエネルギー代謝を改良することが好ましい。」、
・「更に神経系の安定した機能性は、集中と協調能力にとって重要である。」と記載されている。
しかしながら、本願明細書には、実施例には飲料組成物の具体的な組成が記載されるに止まり、実際上記機能を有するか確認はされていない。

(イ)一方、刊行物1発明の「活力および精神的機敏さの提供及び維持のための飲料組成物」について、刊行物1には、
・「本発明の組成物は、消費後の長い時間にわたって望ましい血中グルコース濃度を持続して、活力および精神的機敏さを提供する。」(上記(1a))、
・「消化可能な炭水化物のバランスのとれた複雑な混合物を含有し、それが活力および精神的機敏さの開始および持続を提供する。」、「選択される炭水化物およびその濃度が消化および腸管吸収の充分な速度を許容してグルコースの定常的維持を提供することが重要であり、その結果として消費者に活力および機敏さを提供する」(上記(1b))
・「刺激性成分の含有が本発明の組成物の摂取に関連する血糖応答を遅延させるのに役立ち、そのようにして使用者に対して活力のさらなる維持を提供する」、「刺激性成分は、組成物が摂取される際の活力の開始および特に持続に寄与する」(上記(1d))
・「活力、活力増強、活力維持(例えば、円滑および/または安定的な活力、精神的機敏さ、および緊張および/または不安を伴わない覚醒のようなもの)、爽快、充足、および栄養補給を含む」(上記(1f))、と記載されている。

(ウ)そして、上記(ア)と(イ)はともに、血糖値を適切で一定に維持することにより、心理的及び肉体的な活力を発揮してそれを維持することを表現したものであるといえ、刊行物1発明において、上記のとおり、相違点1ないし3に係る構成を採用することにより、必然的に奏される作用を表現したものといえ、これを用途として記載し「心理的及び肉体的パフォーマンスを維持し改良するために過度の集中を必要とする長期持続的な活動の間で使用」するとすることに格別の困難性はない。

オ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、上記「エ(ア)」に記載したとおりのものであり、これらは、刊行物1ないし3の記載事項及び周知技術から予測し得るもので、格別顕著なものとはいえない。

カ 請求人の主張について
請求人は、前置審査についての審尋に対する回答書で、本願補正発明の飲料組成物の効果について、血糖バランスのようなエネルギーバランスをを維持し、ストレス応答を減少させるために重要な役割を果たす脈拍数を低下させることが、2008年11月のHarriet Hagglund(University of Helsinki, Division of nutrition(ヘルシンキ大学栄養学部))による修士論文に示されていること、ガラナ及びタウリンのような刺激性の物質を含むことを鑑みれば、脈拍数を低下させ、エネルギーバランスをを維持する本願発明の飲料組成物の効果は、驚くべきものであることを主張している。
しかしながら、上記修士論文は、本願優先権主張日後のものであり、さらに「市販のFlow(登録商標)飲料」の組成も明らかでなく、参酌することはできない。
また、仮に参酌したとしても、上記「エ(イ)」で示した刊行物1の記載事項、及び心拍は減少については「Nutr.Res.、1997、Vol.17、No.3,第405-414頁」(前置報告書で引用された文献)に、L-カルニチンの作用として「補給後、ピークのトレッドミルスピードは5.68%増加し、平均酸素消費量(VO_(2))及び心拍は減少し、呼吸交換率値は、下落傾向を示した。」(要約の欄)と記載されていることから、予測し得たものといえる。

(4)したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年3月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし25に係る発明は、平成21年8月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、下記のとおりである。

「パフォーマンスを維持し改良するために過度の集中を必要とする長期持続的な活動の間で使用するための、グルコース、フルクトース、ガラナ、及びタウリンを含む飲料組成物であって、生理学的な活性量でフラボノイドを含むマツ樹皮抽出物またはグレープシード抽出物、並びに生理学的な活性量でL-カルニチンを更に含むことを特徴とする飲料組成物。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし3、および、その記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「パフォーマンス」の限定事項である「心理的及び肉体的」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-19 
結審通知日 2012-06-26 
審決日 2012-07-09 
出願番号 特願2004-508594(P2004-508594)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 敬司  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 齊藤 真由美
菅野 智子
発明の名称 飲料組成物及び飲料の製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  

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