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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1266804
審判番号 不服2011-27719  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-22 
確定日 2012-11-29 
事件の表示 特願2006- 76903「成型方法及び成型装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月 4日出願公開、特開2007-253346〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年 3月20日の出願であって、平成22年11月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成23年 1月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年11月29日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として、平成23年12月22日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものであり、その後、平成24年 4月12日付けで審尋がなされ、これに対して平成24年 5月21日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成23年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年12月22日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
1 平成23年12月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、平成23年 1月21日付け手続補正書により補正された(以下、「本件補正前の」という。)特許請求の範囲の請求項1?3を下記のとおりに補正しようとする事項を含むものである。
「【請求項1】
成形機に対して交換可能に構成される開閉可能な成形型から、成形した成形品を前記成形型の型開き状態において取り出す際に、成形品を取り外すための前記成形型ごとに異なる取外し手段を用い、該取外し手段の着脱動作及び所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を自動的に行う取出し手段により、成形品の取出しを行う成形方法であって、
前記取外し手段ごとに対応して異なる構成を備えた支持手段を介して前記成形型に載置支持された前記取外し手段を前記取出し手段に装着させるステップと、
前記成形型にて成形品の成形を行うとともに、前記成形型を型開き状態として前記取出し手段による前記取外し手段の着脱操作及び前記取出し手段の移動動作により成形品の取出しを行い、前記成形品の成形及び取出しを必要に応じて所定回数繰り返すステップと、 前記取出し手段に装着されている前記取外し手段を脱着させ、前記支持手段を介して該取外し手段を前記成形型に載置支持するステップと、
を含むことを特徴とする成形方法。
【請求項2】
キャビティを有する開閉可能な成形型と、該成形型を着脱可能に支持する成形機とを備え、前記成形型にて成形した成形品を、前記成形型の型開き状態から取り出す際に、成形品を取り外すための前記成形型ごとに異なる取外し手段を用いる成形装置であって、
前記取外し手段の着脱動作及び所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を自動的に行う取出し手段と、
前記成形型に設けられ前記取外し手段を載置支持する前記取外し手段ごとに対応して異なる構成を備えた支持手段と、
を備えたことを特徴とする成形装置。
【請求項3】
前記取外し手段と前記取出し手段との着脱機構として、オートツールチェンジャーを用いたことを特徴とする請求項2に記載の成形装置。」
(なお、上記下線は、補正箇所を示している。)

2 補正の適否について
(1)補正の目的
上記の補正事項は、本件補正前の特許請求の範囲の
ア 請求項1における「前記取外し手段に対応する構成を備えた支持手段」を、「前記取外し手段ごとに対応して異なる構成を備えた支持手段」と、
イ 請求項2における「前記取外し手段に対応する構成を備えた支持手段」を、「前記取外し手段ごとに対応して異なる構成を備えた支持手段」と、
それぞれ、限定的に補正しようとするものである。

上記補正の根拠は、本願の願書に最初に添付した明細書【0035】の次の記載によるものであり、それ以上の記載ないし開示はない。(なお、以下の下線は当審によるものである。)
「・・・なお、ATスタンド40は、前述したように成形型2ごとに異なる構成のアタッチメント20に対応する構成を備えるものとなるため、支持台43や支持突部45などを基本的な構成として適宜異なる構成を備えることとなる。」
したがって、異なる構成のアタッチメント20に対応する構成として、必要に応じて、適宜異なる構成の支持手段とする程度の技術思想が開示されているにすぎず、その技術思想の範囲におけるものとして、必要に応じて適宜「前記取外し手段ごとに対応して異なる構成を備えた支持手段」との構成を設定したにすぎないものである。

ここで、本件補正の目的について、審判請求書及び回答書では上記と異なる主張を行っている。当該審判請求書及び回答書での主張に関する判断は後記することとし、上記本件補正の目的を上記のとおりに解釈して判断する。
上記解釈のとおりであれば、本件補正自体は、当初明細書等に記載された範囲と認定でき、上記本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、次に独立特許要件について検討する。

(2)独立特許要件
本件補正による補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるのか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるのか否か)について検討する。

ア 刊行物及びその摘記事項
(ア)原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平3-61015号公報(以下「引用刊行物」という。)には、「型成形機」(発明の名称)に関して、図面とともに次の技術事項が記載されている。

「〔従来の技術〕
金型を用いて製品の成形を行なう型成形機、例えばプラスチック製品の射出成形機等には、製品の損傷を防ぐべく、製品をチャックで把持して金型から取り出すよう構成した製品取出装置を備えたものがある。
また、上記チャックは、製品を確実に把持することができるように、製品に対応した専用品が用いられており、金型が交換された場合には、新らたな金型によって成形される製品に対応した専用のチャックに交換される。」(1頁右欄1?11行)

「〔発明が解決しようとする課題〕
・・・ また、上記射出成形機Aでは、チャック交換装置Fに新らたなチャックを収容したのちに、交換する金型の種類を変更したような場合、上記チャックを、変更した金型と対応するチャックに交換することを忘れることが起こり易い。このような作業ミスを起こした場合には、製品とチャックとが対応しないために、金型から製品を取り出せなかったり、製品がチャックによって傷つけられることがあった。
本発明は上記実状に鑑みて、製品取出装置の制御が容易で、しかも金型とチャックとが対応しないというような作業ミスの発生を可及的に防止することのできる型成形装置を提供することを目的とする。」(2頁左上欄6行?右上欄6行)

「〔実施例〕
以下、本発明を、一実施例を示す図面に基づいて詳細に説明する。
第1図に、本発明をプラスチック製品の射出成形機に適用した例を示す。
この射出成形機1は、相対向して配置された固定側ダイプレート2と可動側ダイプレート3とを備えており、これら両ダイプレート2,3間には、金型10が装着されている。
上記金型10は、固定側ダイプレート2に取り付けられた固定側金型11と、可動側ダイプレート3に取り付けられた可動側金型12とによって構成されている。
一方、上記固定側ダイプレート2には、コラム4が立設されており、このコラム4には、アーム5が支持されている。さらに該アーム5には、ハンド6が上記アーム5に沿って移動自在に設置されている。上記コラム3,アーム4,ハンド5,および上記ハンド5(当審注:「コラム4,アーム5,ハンド6,および上記ハンド6」の誤記と認められる。)に取り付けられる後述するチャック100によって製品取出装置20が構成される。
図に明示するように、金型10の上部には、チャック保持手段としてのブラケット13,14が立設されている。上記ブラケット13,14の上部には、それぞれ係合段部13a,14aが形成され、この係合段部13a,14aには、上記金型10によって成形される製品と対応した専用のチャック100が載置保持されている。また、チャック100がブラケット13,14に保持されることにより、射出成形機1に対するチャック100の位置決めが成されている。
第1図は、ダイプレート2,3間に金型10を取り付けた直後、いわゆる型段取り直後の状態を示している。ここで図示していないチャックセットボタンを押すと、ハンド6のヘッド6aが下降して、該ヘッド6aにチャック100が装着される。このとき、ヘッド6aとチャック100との間で図示していないエアー・電気カプラーが互いに接続され、動力系および制御系の接続が行なわれることは言うまでもない。こののちヘッド6aは所定位置まで上昇し、これによりチャックセット作業は完了する。
製品の成形作業が開始されると、金型10が開成され製品が露呈したときチャック100が下降して製品を把持し、次いでチャック100が上動することによって製品が金型10から取り出される。こののち、製品取出装置20の動作により製品は所定の収容場所まで送り出され、次いてハンド5が実線で示す位置まで復帰し、次なる製品の取り出し作業に備える。
ここで、第1図中実線で示すハンド5の位置は、製品取出位置であるとともに、上述した如くチャック交換位置でもある。よって、チャックの交換時に製品取出装置20を、大きく移動させる必要がなく、上記装置20の制御は極めて容易となる。
また、上記製品取出位置およびチャック交換位置を、共に製品取出装置20を制御する際の原点に設定しておくことにより、上記制御は更に容易なものとなる。
金型を交換する場合には、先ず図示していないチャックリセットボタンを押すことによりハンド6のヘッド6aが下降し、チャック100がブラケット13,14上に収容される。次いてヘッド6aとチャック100とが切り離され、こののちハンド6は所定位置まで上昇し、これによりチャックリセット作業が完了する。
上記チャックリセット作業が完了したのち、金型10をチャック100とともにダイプレート2,3から取り外し、次いで新らたな金型をダイプレート2,3間に装着する。このとき上記金型のブラケットには、該金型に対応した専用のチャックを装着させておくことは言うまでもない。
ここで、上記金型とチャックとは、近接して準備されているので、金型の種類とチャックの種類とが対応しているかどうかを容易に確認することができる。
なお、本発明は、プラスチック製品の射出成形機にのみ適用されるものではなく、種々の型成形機においても有効に適用できることは言うまでもない。
〔発明の効果〕
以上、詳述した如く、本発明に関わる型成形機によれば、金型に、該金型によって成形される製品に対応した専用のチャックを保持するための保持手段を設けたので、製品取出装置における製品取出位置とチャック交換位置と極く近い位置関係となり、チャックの交換時に上記製品取出装置を大きく移動させる必要がない。これによって上記製品取出装置の制御が容易になる。
また、次に交換する金型とチャックとを準備する場合、チャックは金型に近接して一体的に保持されるため、金型とチャックとの種類の確認が容易かつ確実に行なえる。これにより、製品の損傷等を招くチャックの選択ミス等の発生を未然に防ぐことができる。」(2頁右上欄19行?3頁左下欄13行)

上記記載を整理すると、引用刊行物には、
「 固定側ダイプレート2と可動側ダイプレート3とを相対向して配置し、固定側ダイプレート2に取り付けられた固定側金型11と、可動側ダイプレート3に取り付けられた可動側金型12とによって構成されている金型10と、金型10を固定側及び可動側ダイプレート2,3から取り外し、次いで新らたな金型をダイプレート2,3間に装着する射出成形機1とを備え、金型10が開成され製品が露呈したときチャック100が下降して製品を把持し、製品を金型10から取り出す、金型10によって成形される製品と対応した専用のチャック100を用いる射出成形機1であって、
上記固定側ダイプレート2には、アーム5が支持されているコラム4が立設され、該アーム5には、ハンド6が上記アーム5に沿って移動自在に設置され、上記コラム4,アーム5,ハンド6,および上記ハンド6に取り付けられるチャック100を有し、
チャックセットボタンの操作により、ハンド6のヘッド6aが下降して、該ヘッド6aにチャック100を装着し、ヘッド6aとチャック100との間でエアー・電気カプラーが互いに接続され、動力系および制御系の接続が行なわれ、ヘッド6aは所定位置まで上昇し、これによりチャックセット作業を完了させ、
金型10が開成され製品が露呈したときチャック100が下降して製品を把持し、次いでチャック100が上動することによって製品を金型10から取り出し、製品を所定の収容場所まで送り出し、次いてハンド5を所定の位置まで復帰させ、次の製品の取り出し作業に備える、製品取出装置20と、
金型10の上部に、ブラケット13,14を立設し、該ブラケット13,14の上部には、それぞれ係合段部13a,14aが形成され、この係合段部13a,14aに、チャック100を載置保持する
射出成形機1」(以下「刊行物発明」という。)が開示されている。

イ 当審の判断
(ア)対比
本願補正発明と刊行物発明とを対比すると、
a 刊行物発明の「金型10」が、本願補正発明の「成形型」に相当し、同様に「射出成形機1」が「成形機」及び「成形装置」に、「製品」が「成形品」に、「チャック100」が「取外し手段」に、「(チャック100を除く)製品取出装置20」が「取出し手段」に、「ブラケット13,14」が「支持手段」に、それぞれ相当する。
b 刊行物発明の「金型10によって成形される成形された製品と対応した専用のチャック100」は、本願補正発明の「成形品を取り外すための前記成形型ごとに異なる取外し手段」に相当する。
また、
(a)金型10は、射出成形機1の為の金型であり、固定側金型11と可動側金型12とからなっている事から、両者の間に製品が形成されるキャビティを有しており、両者が開閉可能であることは明らかである。
(b)金型10は、射出成形機1に対して交換可能であり、着脱可能に支持されていることも明らかである。
したがって、刊行物発明の「固定側ダイプレート2と可動側ダイプレート3とを相対向して配置し、固定側ダイプレート2に取り付けられた固定側金型11と、可動側ダイプレート3に取り付けられた可動側金型12とによって構成されている金型10と、金型10を固定側及び可動側ダイプレート2,3から取り外し、次いで新らたな金型をダイプレート2,3間に装着する射出成形機1とを備え、金型10が開成され製品が露呈したときチャック100が下降して製品を把持し、製品を金型10から取り出す、金型10によって成形される製品と対応した専用のチャック100を用いる射出成形機1」は、本願補正発明の「キャビティを有する開閉可能な成形型と、該成形型を着脱可能に支持する成形機とを備え、前記成形型にて成形した成形品を、前記成形型の型開き状態から取り出す際に、成形品を取り外すための前記成形型ごとに異なる取外し手段を用いる成形装置」に相当する。
c 刊行物発明の「チャックセットボタンの操作により、ハンド6のヘッド6aが下降して、該ヘッド6aにチャック100を装着し、ヘッド6aとチャック100との間でエアー・電気カプラーが互いに接続され、動力系および制御系の接続が行なわれ、ヘッド6aは所定位置まで上昇し、これによりチャックセット作業を完了させ・・・製品取出装置20」は、チャックセットボタンの操作により、以後の動作が行われるのであるから、チャックの着脱を自動的に行う制御が行われていることは明らかである。したがって、上記刊行物発明の構成は、本願補正発明の「取外し手段の着脱動作及び所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を自動的に行う取出し手段」との構成において、「取外し手段の着脱動作を自動的に行う取出し手段」の点で一致する。
d 刊行物発明の「金型10が開成され製品が露呈したときチャック100が下降して製品を把持し、次いでチャック100が上動することによって製品を金型10から取り出し、製品をは所定の収容場所まで送り出し、次いてハンド5を所定の位置まで復帰させ、次の製品の取り出し作業に備える、製品取出装置20」は、チャック100の移動及びチャック100による製品の取り出し操作を行う装置であるから、本願補正発明の「取外し手段の着脱動作及び所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を自動的に行う取出し手段」とは、取外し手段の「所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を行う取出し手段」の点で一致する。

そうすると、両者は、
「キャビティを有する開閉可能な成形型と、該成形型を着脱可能に支持する成形機とを備え、前記成形型にて成形した成形品を、前記成形型の型開き状態から取り出す際に、成形品を取り外すための前記成形型ごとに異なる取外し手段を用いる成形装置であって、
前記取外し手段の着脱動作を自動的に行い、前記取外し手段の所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を行う取出し手段と、
前記成形型に設けられ前記取外し手段を載置支持する支持手段と、
を備えた成形装置。」
の点で一致するものの、次の点で相違する。

*相違点1:取り出し手段の自動化について、本願補正発明では、「取外し手段の着脱動作及び所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を自動的に行う」のに対して、刊行物発明では、チャックの着脱動作は自動的に行っているが、その他の操作について自動的に行なっているのか否か特定されていない点。

*相違点2:本願補正発明の支持手段が「取外し手段ごとに対応して異なる構成を備えた」ものであるのに対して、刊行物発明のブラケット13,14はそのような構成について特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
ここで、上記各相違点1、2について検討する。
a 相違点1について
刊行物発明の「製品取出装置」は、「ヘッド6aとチャック100との間でエアー・電気カプラーが互いに接続され、動力系および制御系の接続が行なわれ」ており、チャックセットボタンの操作により、「チャック」の着脱動作を自動的に行うものであり、前記「チャック」の所定の移動動作並びに前記「チャック」の操作も行うものである。
してみると、同じ製品取出装置における複数の操作において、その一部の動作において自動化を図っていることから、他の動作も適宜必要に応じて自動化を図ること、即ち、チャックの所定の移動動作並びに当該チャックの操作を自動で行うことは当業者ならば容易に想到し得たものである。

b 相違点2について
引用刊行物には、従来技術である射出成形機として、「製品をチャックで把持して金型から取り出すよう構成した製品取出装置を備えた」ものがあり、「チャックは、製品を確実に把持することができるように、製品に対応した専用品が用いられており、金型が交換された場合には、新らたな金型によって成形される製品に対応した専用のチャックに交換される」旨説明され、「交換する金型の種類を変更したような場合」に、「製品とチャックとが対応しないために、金型から製品を取り出せなかったり、製品かチャックによって傷つけられる」ようなことがあるため、「金型とチャックとが対応しないというような作業ミスの発生を可及的に防止すること」を目的とする旨、記載されている。
そして、金型を交換した場合には、その金型によって形成される製品自体の形状や寸法が異なるものであるから、形状や寸法が異なる種々の製品に対応した専用のチャック自体のそれぞれが、異なる形状や寸法となるであろう事は明らかである。
また、そのような種々の専用チャックを載置保持する手段としてのブラケットについて、引用刊行物には、その構造が極めて単純化された図が示されているにすぎず、具体的な構造は示されていない。また、その説明として下記の記載があるのみである。
「金型10の上部には、チャック保持手段としてのブラケット13,14が立設されている。上記ブラケット13,14の上部には、それぞれ係合段部13a,14aが形成され、この係合段部13a,14aには、上記金型10によって成形される製品と対応した専用のチャック100が載置保持されている。また、チャック100がブラケット13,14に保持されることにより、射出成形機1に対するチャック100の位置決めが成されている。」
即ち、ブラケットの2つの係合段部によって、チャックを載置保持することが一応説明されているものの、係合段部にさえ載せれば、そのような単純構造の単一形状のブラケットで、任意構造の全てのチャックを載置保持する事が可能である旨の説明はなされておらず、上記の単純化された図示及び説明された構造のみを用いなければならない特段の説明もなされていない。
また、単一形状のブラケットとした場合、形状や寸法の異なるチャックを載置するに際して、その異なる程度によっては、チャックのずり落ち、傾きの防止、或いはチャック載置後のヘッド6aへ装着のための所定位置での載置保持の為の制御・構造等、制御の困難性或いは安定した作業の妨げ等の種々の問題が生じることも明らかである。
してみると、制御性良く安定な作業を行わせるために、異なる形状や寸法の程度に応じて、個々の異なるチャックに対応したブラケットを適宜設け、必要に応じて一対一対応させる程度のことは、当業者ならば容易に想到し得たものである。

さらに、本願補正発明により得られる作用効果は、本願明細書の「【0035】・・・ なお、ATスタンド40は、前述したように成形型2ごとに異なる構成のアタッチメント20に対応する構成を備えるものとなるため、支持台43や支持突部45などを基本的な構成として適宜異なる構成を備える」ことによって得られる程度のものであり、引用刊行物の記載事項から当業者であれば予測しうる程度のものであって、格別のものではない。

よって、本願補正発明は、刊行物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)まとめ
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)審判請求人の主張について
本件審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、
「 本願発明においては、成形型2に対応する取外し手段(アタッチメント20)を一対一で対応させて確実にセットし、対応しない支持手段には取外し手段を指示させることができない構成とすることにより、取外し手段(アタッチメント20)の種類を誤った場合に支持手段(ATスタンド40)に支持させてしまう可能性をなくしているのである。
つまり、本願発明は引用文献3の技術と比較して、成形型2に対する取外し手段(アタッチメント20)の装着精度を向上させることが可能となるのであり、引用文献3の記載から、本願発明に容易に想到することができるものではない。」
との主張を行っている。

また、平成24年 5月21日付け回答書において、
「1.引用文献3においては、「金型10によって成形される製品」と「チャック100」とが対応することは記載されているものの、「チャック100」の種類によって「ブラケット13、14」を異なった形状等とすることは記載されていません。また、図1における「ブラケット13、14」は、単に板状又は棒状の部材が立設されているのみであり、「チャック100」の種類に対応して異なる形状とするほどの複雑な構造を有していません。
2.そもそも、引用文献3に記載の如く「金型10によって成形される製品」と「チャック100」とが対応する構成であれば、「ブラケット13、14」は引用文献3の図1における「ブラケット13、14」の如く、いかなる形状の「チャック100」をも支持できる汎用的な形状であれば足ります。このため、当業者は「チャック100」の種類によって「ブラケット13、14」を異なる形状等とする必要がありません。
3.即ち、『前記専用のチャックの支持を行うというチャック保持手段自体の自明の作用や当該作用が確実に行われるようにするという自明の事項を勘案』しても、「チャック保持手段」は引用文献3の如く「全ての種類のチャックを確実に支持可能な汎用的形状」とすることが自然です。つまり、『大きさ・形等の異なる各種のチャックに応じて、それを保持するブラケット13、14(本願の「支持手段」に相当。)をそれぞれ異なる構成とすること』は『当業者が適宜行う設計変更の範囲内の事項』とはいえません。
4.加えて、「チャック100」の種類によって「ブラケット13、14」を異なる形状等とした場合は、「ブラケット13、14」を汎用的形状とした場合よりも多くの設備コストが必要となるため、当業者は当該構成を想到することが妨げられます。
5.一方、本願発明は上記の阻害要因に関わらず、あえて支持手段(ATスタンド40)を取外し手段(アタッチメント20)ごとに対応して異なる構成としています。これにより、成形型2に対する取外し手段(アタッチメント20)の装着精度を向上させるという、従来技術にはない有利な効果を奏しています。このように、当業者が引用文献3に基づいて「支持手段(ATスタンド40)が取外し手段(アタッチメント20)ごとに対応して異なる構成」を想到することは困難といえます。即ち、本願発明は各引用文献に記載された発明に基づいて容易になし得たものではありません。」
との主張を行っている。

しかしながら、上記主張のような、取外し手段(アタッチメント20)の種類を誤って、支持手段(ATスタンド40)に支持させることを防止するとの特定の目的を達成させるために、アタッチメント20、即ち取外し手段ごとに、ATスタンド40、即ち支持手段をそれに一対一対応させてそれぞれに異なる構成を積極的に備えるという技術思想は、本願明細書には記載されておらず、【0035】を含めた本願明細書全体の記載には、単に、ATスタンド40、即ち支持手段は、支持台43や支持突部45などを基本的な構成として、「適宜異なる構成を備える」程度の技術思想が開示されているにすぎない。
してみると、取外し手段(アタッチメント20)の種類を誤って、支持手段(ATスタンド40)に支持させることを防止するとの特定の目的を達成させるために、意図的に「前記取外し手段ごとに対応して異なる構成を備えた支持手段」とする構成を採用するとの補正は、出願当初明細書の記載に基づかない新規の構成を追加する補正ということになる。
したがって、上記の主張を採用することはできない。

なお、回答書で主張している阻害要因としての1?4の点については、「上記(2)イ(イ)b相違点2について」で判断しているようにその主張を採用することはできない。
また、回答書において「支持手段(ATスタンド40)が取外し手段(アタッチメント20)ごとに対応して異なる構成」をより明確にするべく提案された補正案である「前記取外し手段の位置決め凹部ごとに対応して異なる位置決めピンを備えた支持手段」は、即ち、位置決めピン自体を異ならせることについては、下記のように出願当初明細書に記載されておらず、上記新規事項の点をより明確にしているにすぎない。
<本願明細書の記載事項>
「【0032】・・・ 支持台43の支持面43a上には、その載置支持するアタッチメント20の位置決めのための位置決めピン44が設けられている。本実施形態においては、支持面43a上の二箇所に位置決めピン44が設けられている。つまり、アタッチメント20は、位置決めピン44により位置決めされた状態で支持台43の支持面43a上に載置支持される。・・・
【0033】・・・ここで、アタッチメント20の支持部31を構成する横板部31cには、ATスタンド40の支持台43上に設けられる位置決めピン44に対応する切欠き状の位置決め凹部31dが形成されている。つまり、支持部31の位置決め凹部31d内に、支持台43上の位置決めピン44が位置することにより、ATスタンド40の支持台43に対するアタッチメント20の水平方向の位置決めがなされる。・・・」


第3.本願発明について
1 本願発明
平成23年12月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであるところ、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項2に記載された次のとおりのものである。
「キャビティを有する開閉可能な成形型と、該成形型を着脱可能に支持する成形機とを備え、前記成形型にて成形した成形品を、前記成形型の型開き状態から取り出す際に、成形品を取り外すための前記成形型ごとに異なる取外し手段を用いる成形装置であって、
前記取外し手段の着脱動作及び所定の移動動作並びに前記取外し手段の操作を自動的に行う取出し手段と、
前記成形型に設けられ前記取外し手段を載置支持する前記取外し手段に対応する構成を備えた支持手段と、
を備えたことを特徴とする成形装置。」

2 引用刊行物及びその摘記事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された引用刊行物の摘記事項は、上記「第2 2 (2)ア 刊行物及びその摘記事項」及び「第2 2 (2)イ 当審の判断」に記載されたとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 2 (1) 補正の目的」で検討したように、本願補正発明は、本願発明を限定的に減縮したものであるから、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 2 (2)イ 当審の判断」に記載したとおり、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の請求項1、3に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-27 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-15 
出願番号 特願2006-76903(P2006-76903)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村松 宏紀  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 加藤 友也
井上 茂夫
発明の名称 成型方法及び成型装置  
代理人 矢野 寿一郎  

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