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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1266805
審判番号 不服2011-27726  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-23 
確定日 2012-11-29 
事件の表示 特願2007- 63557「車両用制動制御装置及び車両制動制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月31日出願公開、特開2008- 18923〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年3月13日(優先権主張 平成18年年6月16日)の出願であって、平成23年9月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年12月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

2.平成23年12月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年12月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
自車前方に存在する障害物の位置を検出する障害物検出手段と、
前記自車の走行状態を検出する車両走行状態検出手段と、
運転者によるステアリングホィールの操作状態を検出するステアリング操作状態検出手段と、
前記自車に制動力を付与する制動力手段と、
前記検出された障害物の位置と前記検出された前記自車の走行状態とから、前記自車が前記障害物を回避不可能と判断したときに、前記制動力手段に制動力を付与する制御を行う制動力制御開始判断手段と、
前記制動力制御開始判断手段によって、前記自車が前記障害物を回避できないと判断したときに、前記検出された障害物の自車に対する位置と前記検出された車両走行状態と前記自車に与えられる制動力と前記検出されたステアリングホィールの操作状態とから、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能か否かを判断する障害物回避判断手段と、
前記障害物回避判断手段によって、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能と判断したときに、前記制動力手段に付与される制動力を低下させる制御を行う制動力制御手段とを有し、
前記制動力制御開始判断手段は、前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、かつ、自車から障害物までの距離を自車の速度で除算した時間値が判断閾値以下であると共に障害物と自車との走行方向に対して直交する方向の離間距離が実際の障害物の占有領域よりも領域が広い準占有領域の幅と自車の幅との和の値により定められた判断閾値以下のときに、制動力制御の開始を判断することを特徴とする車両用制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動制御装置であって、
前記制動力制御手段は、前記障害物回避判断手段が前記障害物の回避できないと判断したときに、前記自車に付与する制動力を増加させるように前記制動力手段を制御する車両用制動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置であって、
前記制動力制御手段は、前記運転者のブレーキペダルの操作により自車に付与される制動力とは独立して制動力を自車に付与する車両用制動制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車両用制御装置であって、
前記制動力制御手段は、前記運転者のブレーキペダルの操作により自車に付与される制動力を増加方向へ補正する車両用制動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両用制御装置であって、
さらに、前記検出されたステアリングホィールの操作状態と前記自車に与えられる制動力とから前記自車の走行軌跡を予測する走行軌跡予測手段を有し、
前記障害物回避判断手段は、現在付与している制動力よりも小さな制動力を付与したときに、前記走行軌跡予測手段により予測される自車の走行軌跡と前記障害物との位置関係から障害物回避の判断を行う車両用制動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用制御装置であって、
前記走行予測軌跡手段は、走行軌跡の予測演算を行う際の制動力を運転者のブレーキペダルの操作によって発生する制動力と仮定し、前記制動力制御手段は前記障害物回避判断手段が前記障害物の回避を可能と判断したときに制動力の増加を禁止する車両用制動制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の車両用制御装置であって、
前記障害物回避判断手段は、前記走行予測軌跡手段が、自車に付与される制動力をゼロと仮定して、前記走行軌跡の予測演算を行い、当該走行軌跡に基づいて前記障害物の回避を可能と判断したときに、前記制動力制御手段は、制動力の付与を禁止する車両用制動制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の車両用制御装置であって、
さらに、前記自車が走行している道路上の走行可能領域と走行不可能領域との道路境界を検出する道路境界検出手段を有し、
前記障害物回避判断手段は、前記障害物のみならず前記道路境界も回避対象に含めて判断する車両用制動制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の車両用制御装置であって、
前記障害物検出手段は、障害物の移動速度を検出し、
前記制動力制御開始判断手段及び前記障害物回避判断手段は、障害物の移動を考慮して障害物の回避の判断を行うことを特徴とする車両用制動制御装置。
【請求項10】
自車前方に存在する障害物の位置を検出するステップと、
前記自車の走行状態を検出するステップと、
運転者によるステアリングホィールの操作状態を検出するステップと、
前記自車に付与される制動力を検出するステップと、
前記検出された障害物の位置と前記検出された前記自車の走行状態とから、前記自車が前記障害物を回避不可能と判断したときに、前記自車に制動力を付与する制御を行うステップと、
前記自車が前記障害物を回避できないと判断したときに、前記検出された障害物の自車に対する位置と前記検出された車両走行状態と前記自車に与えられる制動力と前記検出されたステアリングホィールの操作状態とから、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能か否かを判断するステップと、
前記現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避できると判断されたときに、前記制動力手段に付与される制動力を低下させる制御を行うステップと、を有し、
前記自車に制動力を付与する制御を行うステップは、前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、かつ、自車から障害物までの距離を自車の速度で除算した時間値が判断閾値以下であると共に障害物と自車との走行方向に対して直交する方向の離間距離が実際の障害物の占有領域よりも領域が広い準占有領域の幅と自車の幅との和の値により定められた判断閾値以下のときに、制動力制御の開始を判断するステップであることを特徴とする車両用制動制御方法。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記制動力制御開始判断手段は、前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに、前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、制動力制御の開始を判断する」を「前記制動力制御開始判断手段は、前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、かつ、自車から障害物までの距離を自車の速度で除算した時間値が判断閾値以下であると共に障害物と自車との走行方向に対して直交する方向の離間距離が実際の障害物の占有領域よりも領域が広い準占有領域の幅と自車の幅との和の値により定められた判断閾値以下のときに、制動力制御の開始を判断する」に減縮するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2000-142281号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レーザーレーダー等の物体検知手段で物体を検知し、自車が物体と接触する可能性が有ると推定された場合に、前記接触を回避すべく制動装置を自動的に作動させる車両の走行安全装置に関する。
【0002】
【従来の技術】レーザーレーダー、ミリ波レーダー、CCDカメラ等の物体検知手段で前走車等の物体の相対距離や相対速度を検知し、この物体に自車が接触する可能性が有る場合に、警報手段を作動させて運転者に自発的な接触回避操作を促すとともに、自動制動装置を作動させて物体との接触の回避を図り、あるいは接触が発生した場合の被害を最小限に抑える車両の走行安全装置は既に知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、接触を回避するための自動制動が実行されている間に運転者が自発的にステアリング操作を行うと、そのステアリング操作が自動制動と干渉して効果的な接触回避が難しくなったり、運転者に違和感を与えたりする問題がある。例えば、運転者のステアリング操作で接触回避が可能な場合に自動制動がそのまま継続されると、運転者に強い違和感を与えることになり、逆にステアリング操作による接触回避が困難で自動制動に頼らざるを得ない状況で自動制動が解除されてしまうと、自動制動の効果を充分に発揮できなくなってしまう。
【0004】本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、物体との接触を回避するための自動制動と運転者の自発的なステアリング操作とを調和させて最大限の接触回避効果を得ることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、自車の進行方向の物体を検知する物体検知手段と、自車が検知された物体と接触する可能性を推定する接触可能性推定手段と、接触可能性推定手段が接触の可能性が有ると推定したときに自車の制動装置を自動的に作動させる自動制動手段とを備えた車両の走行安全装置において、運転者のステアリング操作に基づくステアリング操作量を検知するステアリング操作量検知手段を備えてなり、自動制動手段は、その作動中にステアリング操作量検知手段が運転者のステアリング操作を検知したとき、接触可能性推定手段で推定した接触可能性およびステアリング操作量検知手段で検知したステアリング操作量の少なくとも一方に基づいて決定される時間または速度で自動制動を解除することを特徴とする。
【0006】上記構成によれば、接触可能性推定手段が自車が物体に接触する可能性が有ると推定して自動制動手段が接触を回避すべく自動制動を実行している間に、運転者が自発的に接触を回避しようとしてステアリング操作を行ったとき、接触可能性推定手段で推定した接触可能性およびステアリング操作量検知手段で検知したステアリング操作量の少なくとも一方に基づいて決定される時間または速度で自動制動を解除するので、状況に応じて自動制動を速やかに解除したり、あるいは緩やかに解除したりして、自動制動による接触回避効果を最大限に確保しながら、運転者のステアリング操作が自動制動と干渉するのを防止することができる。」
(い)「【0026】図3に示すように、電子制御ユニットUには、接触可能性推定手段M1と、自動制動手段M2と、ステアリング操作量検知手段M3と、自車運動状態検知手段M4とが設けられる。
【0027】接触可能性推定手段M1は、レーダー装置S_(1) で検知した自車と物体との相対距離および相対速度、ならびに後述する自車運動状態検知手段M4で検知した自車の運動状態に基づいて、自車と物体との接触可能性の大小を推定する。例えば、自車と物体との相対距離が所定の閾値を下回った場合や、自車が物体に接近する相対速度が所定の閾値を上回った場合に、物体と接触する可能性が高いと推定する。このとき、自車の車速や正の加速度が大きいと、制動による接触回避やステアリング操作による接触回避が困難であることに鑑み、前記各閾値を自車の車速や加速度の大小に基づいて補正することにより、一層的確な推定を行うことができる。更に、レーダー装置S_(1) で検知した自車と物体との左右方向のオーバーラップ量や、ヨーレートセンサS_(5) で検知した自車の旋回状態を併せて考慮することも可能である。
【0028】ステアリング操作量検知手段M3は、操舵角センサS_(3) 、操舵トルクセンサS_(4) 、ヨーレートセンサS_(5) および横加速度センサS_(6) からの信号に基づいて、運転者によるステアリング操作を検知するとともに、そのステアリング操作の操作量を検知する。
【0029】接触可能性推定手段M1が自車と物体とが接触する可能性があると推定すると、警報装置7が作動して音声や画像で運転者に自発的な制動を促すとともに、自動制動手段M2が電子制御負圧ブースタ2を作動させてマスタシリンダ3にブレーキ油圧を発生させ、このブレーキ油圧を油圧制御装置4を介してブレーキキャリパ5_(FL),5_(FR),5_(RL),5_(RR)に供給して自動制動を実行する。
【0030】この自動制動の実行中にステアリング操作量検知手段M3が運転者による自発的なステアリング操作を検知すると、接触可能性推定手段M1で推定した接触可能性に応じて、あるいはステアリング操作量検知手段M3で検知したステアリング操作量に応じて、自動制動手段M2による自動制動の解除勾配(解除時間あるいは解除速度)が変更される。
【0031】自車運動状態検知手段M4は、車輪速センサS_(2) …で検知した自車の車速、その車速の時間微分値である自車の加速度、ヨーレートセンサS_(5) で検知した自車の旋回状態等の基づいて自車の運動状態を検知する。この自車の運動状態は接触可能性推定手段M1に入力され、上述したように接触可能性を推定する際に考慮される。」
(う)「【0032】次に、本実施例の作用を図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0033】先ず、ステップS1で接触可能性推定手段M1により自車が物体と接触する可能性である接触可能性を推定する。具体的には、レーダー装置S_(1) で検知した自車と物体との相対距離を、同じくレーダー装置S_(1) で検知した相対速度で除算して接触までの予測時間を算出し、この接触予測時間を図5に示すマップに適用することにより接触可能性を算出することができる。接触可能性は0から1までの数値で表され、「0」は接触可能性が最も低い状態に対応し、「1」は接触可能性が最も高い状態に対応する。図5から明らかなように、接触予測時間が短いために接触の回避が困難なときには接触可能性は高くなり、逆に接触予測時間が長いために接触の回避が容易なときには接触可能性は低くなる。
【0034】尚、接触予測時間を算出する際に、前述したように自車運動状態検知手段M4で検知した自車の速度、加速度、旋回状態等を考慮すれば一層精密な接触予測時間を算出することができ、それに応じて接触可能性の精度も向上する。
【0035】また接触可能性を推定する他の手法として、レーダー装置S_(1) で検知した物体の位置と、自車運動状態検知手段M4により推定した自車の移動軌跡との関係から、ステアリング操作により物体を回避するのに必要な横移動量を算出し、この横移動量を図6に示すマップに適用することにより接触可能性を算出することができる。図6から明らかなように、物体を回避するのに必要な横移動量が小さい場合には接触可能性は低くなり、逆に物体を回避するのに必要な横移動量が大きい場合には接触可能性は高くなる。
【0036】最終的な接触可能性は、図5のマップで算出した接触可能性と図6のマップで算出した接触可能性とを乗算して算出することができる。また接触予測時間および横移動量をパラメータとする2次元マップを用いて、前記最終的な接触可能性を直接算出することも可能である。
【0037】続くステップS2で、前記ステップS1で推定した接触可能性が予め設定した警報閾値を越えていれば、運転者の自発的な接触回避を促すべく、ステップS3で警報装置7を作動させる。接触可能性が警報閾値以下であるとき、あるいは接触可能性が警報閾値を越えた状態から警報閾値以下に変化すれば、ステップS4で警報装置7を不作動にする。
【0038】続くステップS5で、前記ステップS1で推定した接触可能性が予め設定した自動制動閾値を越えていれば、続くステップS6で既に自動制動モードがセットされているか否かを判断する。すなわち、今回のループのステップS5で始めて接触可能性が自動制動閾値を越えれば、ステップS6で自動制動モードが未だセットされていないため、ステップS7に移行して自動制動モードをセットするとともに、ステップS8で自動制動指令を出力する。その結果、運転者が自発的な制動を行わなくても、自動制動手段M2が電子制御負圧ブースタ2を作動させることにより、マスタシリンダ3が発生したブレーキ油圧が油圧制御装置4を介してブレーキキャリパ5_(FL),5_(FR),5_(RL),5_(RR)に伝達され、物体との接触を回避すべく自動制動が実行される。この自動制動により発生する車両Vの減速度は中程度の大きさ、すなわち0.4G?0.6G程度に設定される。
【0039】次のループのステップS6では既に自動制動モードがセットされているため、ステップS9に移行して自動制動解除勾配を算出する。自動制動中に運転者が物体との接触を回避すべく自発的なステアリング操作を行うと、そのステアリング操作と干渉しないように自動制動が解除されるが、前記自動制動解除勾配は自動制動を解除する速度に対応するものである。
【0040】図7は接触可能性推定手段M1で推定した接触可能性に基づいて自動制動解除勾配を算出するマップを示すもので、接触可能性が低いとき、つまり運転者の自発的なステアリング操作で物体を充分に回避できるときには、自動制動解除勾配を大きくして自動制動を速やかに解除し、自動制動が運転者のステアリング操作と干渉するのを回避して違和感が発生しないようにする。逆に、接触可能性が高いとき、つまり運転者の自発的なステアリング操作で物体を回避するのが難しいときには、自動制動解除勾配を小さくして自動制動を緩やかに解除し、自動制動による減速効果を最大限に確保しながら運転者のステアリング操作との干渉を回避する。
【0041】図8はステアリング操作量検知手段M3で検知した舵角速度に基づいて自動制動解除勾配を算出する他のマップを示すもので、このマップはステアリング操作量としてのステアリングホイール10の舵角速度の最大値を、つまり操舵角センサS_(3) で検知した操舵角の時間微分値として舵角速度を算出し、その舵角速度の所定時間内の最大値をパラメータとしている。舵角速度が大きいときは、ステアリング操作によって物体との接触を回避できる可能性が高い場合であり、この場合には自動制動解除勾配を大きくして自動制動を速やかに解除し、自動制動が運転者のステアリング操作と干渉するのを回避して違和感が発生しないようにする。逆に、舵角速度が小さいときは、ステアリング操作によって物体との接触を回避できる可能性が低い場合であり、この場合には自動制動解除勾配を小さくして自動制動を緩やかに解除し、自動制動による減速効果を最大限に確保しながら運転者のステアリング操作との干渉を回避する。
【0042】尚、図8のマップではステアリング操作量である舵角速度をパラメータに採用しているが、他のステアリング操作量として操舵トルクセンサS_(4) で検知した操舵トルク、ヨーレートセンサS_(5 )で検知したヨーレートまたは横加速度センサS_(6) で検知した横加速度、あるいはそれらの時間微分値をパラメータに採用することができる。
【0043】最終的な自動制動解除勾配は、図7のマップで算出した自動制動解除勾配と図8のマップで算出した自動制動解除勾配との関数として算出することができる。また接触可能性および舵角速度をパラメータとする2次元マップを用いて、前記最終的な自動制動解除勾配を直接算出することも可能である。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「自車の進行方向の物体を検知する物体検知手段と、
車輪速センサで検知した自車の車速、その車速の時間微分値である自車の加速度、ヨーレートセンサで検知した自車の旋回状態等に基づいて自車の運動状態を検知する自車運動状態検知手段と、
ステアリング操作量検知手段と、
電子制御負圧ブースタ、油圧制御装置を備える制動装置と、
検知した自車と物体との相対距離および相対速度、ならびに自車運動状態検知手段で検知した自車の運動状態に基づいて、自車と物体との接触可能性の大小を推定する接触可能性推定手段と、
接触可能性推定手段が自車と物体とが接触する可能性があると推定すると、電子制御負圧ブースタを作動させてマスタシリンダにブレーキ油圧を発生させ、このブレーキ油圧を油圧制御装置を介してブレーキキャリパに供給して自動制動を実行する自動制動手段と、を有し、
自動制動手段は、自動制動の実行中にステアリング操作量検知手段が運転者による自発的なステアリング操作を検知すると、接触可能性推定手段で推定した接触可能性に応じて、運転者の自発的なステアリング操作で物体を充分に回避できるときには、自動制動解除勾配を大きくして自動制動を速やかに解除し、運転者の自発的なステアリング操作で物体を回避するのが難しいときには、自動制動解除勾配を小さくして自動制動を緩やかに解除する自動制動解除手段を備えている車両の走行安全装置。」
(2-2)引用例
特開2004-155241号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌用の制動制御装置に係り、更に詳細には前方障害物との衝突の可能性があると判断された場合には制動力を増加させる車輌用制動制御装置に係る。」
(き)「【0028】
各車輪の制動力は制動装置20の油圧回路22によりホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路22はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ28により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置30により制御される。
【0029】
マスタシリンダ28にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ32が設けられ、ステアリングコラムにはステアリングシャフト34の回転角を操舵角θとして検出する操舵角センサ36が設けられている。また車輌12には例えばレーザ光や電波を利用して前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vreを検出するレーダーセンサ38が設けられている。尚操舵角センサ36は車輌の右旋回方向を正として操舵角を検出する。
【0030】
図示の如く、圧力センサ32により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号、操舵角センサ36により検出された操舵角θを示す信号、レーダーセンサ38により検出された前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する相対速度Vreを示す信号は電子制御装置30に入力される。尚図には詳細に示されていないが、電子制御装置30は例えばCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータを含んでいる。
【0031】
電子制御装置30は、図2に示されたフローチャートに従い、レーダーセンサ38により検出された前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vreに基づき前方障害物との衝突の虞れを判定し、前方障害物との衝突の虞れがあるときには原則として通常時に比してマスタシリンダ圧力Pmに対するホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧Pbi(i=fl、fr、rl、rr)の比を高くするが、前方障害物との衝突の虞れがある場合であっても、運転者により操舵が行なわれているときには、運転者により操舵が行なわれていないときに比して、マスタシリンダ圧力Pmに対する各車輪の制動圧Pbiの比を低くする。」
(く)「【0037】
ステップ30に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づき図3に示されたグラフに対応するマップより衝突防止用目標制動圧Pbctが演算され、ステップ40に於いては例えば操舵角θの微分値θdが演算されると共に、操舵角θの大きさ及び微分値θdの大きさがそれぞれ基準値以上であるか否かの判別により運転者により操舵が行われているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ120へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ50へ進む。尚運転者により操舵が行われているか否かの判別は車輌のヨーレート若しくは横加速度又はこれらの何れかと操舵角θ若しくは微分値θdとの組合せに基づいて行われてもよい。」
(け)「【0042】
ステップ120に於いては目標制動圧Pbtがステップ30に於いて演算された衝突防止用目標制動圧Pbctに設定された後ステップ130へ進み、ステップ130に於いては各車輪の制動圧が目標制動圧Pbtになるよう制御され、しかる後ステップ10へ戻る。尚この場合、各車輪の制動圧は増減圧制御弁の開閉履歴より各車輪の制動圧が推定されることにより目標制動圧Pbtになるよう制御されてもよく、また図には示されていないが各車輪のホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RL内の圧力を制動圧として検出する圧力センサが設けられ、それらの圧力センサの検出値が目標制動圧Pbtになるよう制御されてもよい。
【0043】
かくして図示の実施形態によれば、ステップ20に於いて前方障害物との衝突の虞れがあると判定されると、ステップ30に於いてマスタシリンダ圧力Pmに基づき衝突防止用目標制動圧Pbctが演算され、ステップ40に於いて運転者により操舵が行われているか否かの判別が行われ、運転者により操舵が行われているときにはステップ50及び60に於いてそれぞれ操舵による衝突回避が可能であるか否かの判別及び制動による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われる。
【0044】
運転者により操舵が行われていない場合や運転者により操舵が行われているが操舵による衝突回避が不可能である場合には、ステップ120に於いて目標制動圧Pbtが衝突防止用目標制動圧Pbctに設定されるが、運転者により操舵が行われており操舵による衝突回避が可能であるが制動による衝突回避が不可能である場合には、ステップ110に於いて目標制動圧Pbtが原則として衝突防止用目標制動圧Pbctよりも低い制限制動圧Pbsに設定される。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「物体検知手段」は前者の「障害物検出手段」に相当し、以下同様に、「自車運動状態検知手段」は「車両走行状態検出手段」に、「ステアリング操作量検知手段」は「ステアリング操作状態検出手段」に、「制動装置」は「制動力手段」に、「車両の走行安全装置」は「車両用制動制御装置」に、それぞれ相当する。
後者の「自動制動手段」における「接触可能性推定手段が自車と物体とが接触する可能性があると推定する」は、前者の「制動力制御開始判断手段」における「前記検出された障害物の位置と前記検出された前記自車の走行状態とから、前記自車が前記障害物を回避不可能と判断した」に相当するから、後者の「自動制動手段」は前者の「制動力制御開始判断手段」に相当する。
後者の「自動制動解除手段」における「自動制動の実行中に」は、前者の「障害物回避判断手段」における「前記制動力制御開始判断手段によって、前記自車が前記障害物を回避できないと判断したときに」に相当し、
後者の「自動制動解除手段」における「運転者の自発的なステアリング操作で物体を充分に回避できるとき」は、前者の「障害物回避判断手段」における「ステアリングホィールの操作状態」から「現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能か否かを判断する」こと、及び、前者の「制動力制御手段」における「前記障害物回避判断手段によって、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能と判断したとき」に相当し、以上の限りにおいて、後者の「自動制動解除手段」は前者の「障害物回避判断手段」と一致しており、
後者の「自動制動解除手段」における「自動制動解除勾配を大きくして自動制動を速やかに解除し」は、前者の「制動力制御手段」における「前記制動力手段に付与される制動力を低下させる制御を行う」に相当する。
後者の「自動制動解除手段」は「自動制動手段」に備えられているが、実質的にみれば、後者の「車両の走行安全装置」が「自動制動解除手段」を備えているということができる。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「自車前方に存在する障害物の位置を検出する障害物検出手段と、
前記自車の走行状態を検出する車両走行状態検出手段と、
運転者によるステアリングホィールの操作状態を検出するステアリング操作状態検出手段と、
前記自車に制動力を付与する制動力手段と、
前記検出された障害物の位置と前記検出された前記自車の走行状態とから、前記自車が前記障害物を回避不可能と判断したときに、前記制動力手段に制動力を付与する制御を行う制動力制御開始判断手段と、
前記制動力制御開始判断手段によって、前記自車が前記障害物を回避できないと判断したときに、ステアリングホィールの操作状態から、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能か否かを判断する障害物回避判断手段と、
前記障害物回避判断手段によって、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能と判断したときに、前記制動力手段に付与される制動力を低下させる制御を行う制動力制御手段とを有している車両用制動制御装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明は、「前記検出された障害物の自車に対する位置と前記検出された車両走行状態と前記自車に与えられる制動力と前記検出されたステアリングホィールの操作状態とから、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能か否かを判断する」のに対し、引用例1発明は、「運転者の自発的なステアリング操作で物体を充分に回避できるときには、自動制動解除勾配を大きくして自動制動を速やかに解除」するものであり、本願補正発明の用語に倣うと、「ステアリングホィールの操作状態」から「現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能か否かを判断する」点。
[相違点2]
本願補正発明の「前記制動力制御開始判断手段」は、「前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、かつ、自車から障害物までの距離を自車の速度で除算した時間値が判断閾値以下であると共に障害物と自車との走行方向に対して直交する方向の離間距離が実際の障害物の占有領域よりも領域が広い準占有領域の幅と自車の幅との和の値により定められた判断閾値以下のときに、制動力制御の開始を判断する」のに対し、引用例1発明の「自動制動手段」は、「検知した自車と物体との相対距離および相対速度、ならびに自車運動状態検知手段で検知した自車の運動状態に基づいて、自車と物体との接触可能性の大小を推定する接触可能性推定手段」が「自車と物体とが接触する可能性があると推定する」と、「電子制御負圧ブースタを作動させてマスタシリンダにブレーキ油圧を発生させ、このブレーキ油圧を油圧制御装置を介してブレーキキャリパに供給して自動制動を実行する」点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
引用例1発明は、「運転者の自発的なステアリング操作で物体を充分に回避できるときには、自動制動解除勾配を大きくして自動制動を速やかに解除」するものであるが、「運転者の自発的なステアリング操作で物体を充分に回避できる」かどうかを適切に判断するには、「自車の進行方向の物体」と「自車」との位置関係、ステアリング操作量・操作速度、「自車」の速度、「自車」に作用している「制動力」等を検知し、それらに基づいて判断すべきこと、少なくともそのように判断することが好適であることは当業者に明らかである。
(4-2)相違点2について
引用例1(特に【0037】)には、「推定した接触可能性が予め設定した警報閾値を越えていれば、運転者の自発的な接触回避を促すべく、ステップS3で警報装置7を作動させる」と記載されており、警報装置の作動時に運転者が制動操作を行なうことは当然に想定される。また、警報装置ないしその作動がなくても、接触の可能性があると判断すれば、運転者が自発的に制動操作することは普通にみられる事象である。引用例1発明において、このように運転者により制動操作がなされた場合にも、自車の物体との接触可能性が依然として解消しないときに自動制動を実行すべきことは明らかである。
引用例2には、上記に摘記したように、前方障害物との衝突の虞れがあると判定されると、マスタシリンダ圧力Pmに基づき図3のグラフのマップより衝突防止用目標制動圧Pbctが演算され、運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応じてマスタシリンダ28が駆動される通常時に比して、マスタシリンダ圧力に対するホイールシリンダの制動圧の比が高くなるように各車輪の制動圧を制御することが示されている。引用例1発明において上記のように「自動制動を実行する」にあたって、引用例2の上記事項を適用することは技術合理的であり、自然である。また、運転者の意思に基づく各種ペダルや操作レバーの操作と、運転者の意思によらない不慮の操作や誤検出等を区別するために、所定値以上の操作が検知された場合に運転者による意図的な操作が行なわれたと判断することは設計的事項であり、また、広く知られているともいえる。
引用例1発明の「接触可能性推定手段」は「検知した自車と物体との相対距離および相対速度、ならびに自車運動状態検知手段で検知した自車の運動状態に基づいて、自車と物体との接触可能性の大小を推定する」ものであり、引用例1の特に【0033】の「具体的には、レーダー装置S1 で検知した自車と物体との相対距離を、同じくレーダー装置S1 で検知した相対速度で除算して接触までの予測時間を算出し、この接触予測時間を図5に示すマップに適用することにより接触可能性を算出することができる。」という記載に留意すると、引用例1発明は、実質的に、「自車から障害物までの距離を自車の速度で除算した時間値が判断閾値以下である」かどうかを判断しているといえる。また、このような判断は当然の必須の事項であるともいえる。
引用例1の特に【0027】には、接触可能性推定手段に関して、「更に、レーダー装置S1 で検知した自車と物体との左右方向のオーバーラップ量」を「併せて考慮することも可能である。」と記載されており、横方向(走行方向と直交する方向)の離間距離を併せて考慮すべきことが記載ないし示唆されている。この場合、幾何学的にみると第一次的には、現在位置における自車と物体との(各中心線の)横方向離間距離と、自車の横方向寸法(車幅)の半分と物体の横方向寸法の半分との和との大小を判断することになるが、特開2005-324699号公報(特に【0024】)に、目標横方向移動距離に関してではあるが、所定のマージンαを考慮することが示されているように、衝突ないし接触を回避するために所定の余裕をみることは常識的である。引用例1発明の接触可能性の推定にあたっても、自車の横方向寸法(車幅)の半分と物体の横方向寸法の半分との和に対してではなく、物体の転倒や移動等の不測の事態に備えて、自車の横方向寸法(車幅)の半分と物体の横方向寸法の半分との和に相応の余裕を加え、その値に対して、自車と物体との横方向の離間距離の大小を判断するように構成することは格別困難なことではなく、むしろ当然に配慮すべき技術常識であるといえる。
なお、以上においては、自車の横方向寸法(車幅)の半分等、具体的に検討したが、本願補正発明は、「実際の障害物の占有領域よりも領域が広い準占有領域の幅と自車の幅との和の値により定められた判断閾値」というにすぎず、これは、実質的にみると、引用例1発明の接触可能性推定において横方向距離を併せて考慮するにあたって、衝突ないし接触を回避するために所定の余裕をとるという常識的事項を述べているにすぎない。
そして、本願補正発明の効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得たものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成23年12月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成23年3月30日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)。
「【請求項1】
自車前方に存在する障害物の位置を検出する障害物検出手段と、
前記自車の走行状態を検出する車両走行状態検出手段と、
運転者によるステアリングホィールの操作状態を検出するステアリング操作状態検出手段と、
前記自車に制動力を付与する制動力手段と、
前記検出された障害物の位置と前記検出された前記自車の走行状態とから、前記自車が前記障害物を回避不可能と判断したときに、前記制動力手段に制動力を付与する制御を行う制動力制御開始判断手段と、
前記制動力制御開始判断手段によって、前記自車が前記障害物を回避できないと判断したときに、前記検出された障害物の自車に対する位置と前記検出された車両走行状態と前記自車に与えられる制動力と前記検出されたステアリングホィールの操作状態とから、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能か否かを判断する障害物回避判断手段と、
前記障害物回避判断手段によって、現在時点で自車に作用している制動力を低下させて前記障害物を回避可能と判断したときに、前記制動力手段に付与される制動力を低下させる制御を行う制動力制御手段とを有し、
前記制動力制御開始判断手段は、前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに、前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、制動力制御の開始を判断することを特徴とする車両用制動制御装置。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、2、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「前記制動力制御開始判断手段は、前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、かつ、自車から障害物までの距離を自車の速度で除算した時間値が判断閾値以下であると共に障害物と自車との走行方向に対して直交する方向の離間距離が実際の障害物の占有領域よりも領域が広い準占有領域の幅と自車の幅との和の値により定められた判断閾値以下のときに、制動力制御の開始を判断する」を「前記制動力制御開始判断手段は、前記運転者がブレーキペダルを所定値以上で操作しているときに、前記運転者が前記障害物を認知して回避行動を行ったとして、制動力制御の開始を判断する」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?10に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-25 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-16 
出願番号 特願2007-63557(P2007-63557)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60T)
P 1 8・ 575- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 道広  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 窪田 治彦
島田 信一
発明の名称 車両用制動制御装置及び車両制動制御方法  
代理人 西脇 民雄  

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