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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C07D 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07D |
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管理番号 | 1266928 |
審判番号 | 不服2011-12930 |
総通号数 | 157 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-16 |
確定日 | 2012-11-30 |
事件の表示 | 特願2000-559100「縮合度の高い、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩、その製造方法及びポリマー組成物における難燃剤としての使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月20日国際公開、WO00/02869、平成14年 7月 9日国内公表、特表2002-520322〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、1999年 7月 7日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 1998年 7月 8日 オランダ国(NL))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。 平成18年 7月 6日 手続補正書 平成22年 3月15日付け 拒絶理由通知書 平成22年 6月24日 意見書・手続補正書 平成23年 2月 9日付け 拒絶査定 平成23年 6月16日 審判請求書・補正書 平成23年 8月 4日 手続補正書(審判請求書) 平成23年 9月21日付け 審尋 平成24年 2月23日 回答書 第2 平成23年 6月16日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年 6月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の目的 平成23年 6月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、その請求項1を、補正前の 「数平均縮合度nが20?200であり、且つ、1,3,5-トリアジン化合物含有量が、リン原子1モル当たり1,3,5-トリアジン化合物モル量1.1?2.0モルである、ここで該1,3,5-トリアジン化合物はメラミン、メラム、メレム、メロン、アンメリン、アンメリド、2-ウレイドメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンおよびジアミンフェニルトリアジンからなる群から選択される、ことを特徴とする1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩。」 から 「数平均縮合度nが20?200であり、且つ、メラミン含有量が、リン原子1モル当たりメラミン1.1?2.0モルであることを特徴とするメラミンのポリリン酸塩。」 へと変更する補正を含むものである。 上記は、本件補正前の請求項1における「1,3,5-トリアジン化合物」を「メラミン」に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、出願の際独立して特許を受けることができるものであるかを判断する。 2 独立特許要件について (1)特許法第36条第4項(実施可能要件)について ア 発明の詳細な説明の記載 本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明(以下、これを特許請求の範囲の請求項に記載されている順に「本件補正発明1」などという。)について、本件補正後における発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 1a 「【0004】【発明が解決しようとする課題】 例えばWO第97/44377号の記載に従い調製されるような、1.0?1.1のメラミン/リンのモル比を有する、メラミンのポリリン酸塩の一つの欠点は、一般的にポリマー中における難燃剤としての使用に適さないことである。このことは、例えばナイロン及びポリエステルのような、該塩が充分な熱安定性を示さないところの、高められた温度で通常処理されるポリマーの場合に、特に該当する。さらに、該塩のpHは比較的低く、その特性がポリマーの機械的強度、例えば衝撃強度、引張り強度、及び破壊強度、に対して悪い影響を与える傾向がある。 【0005】しかし、20?200、及び好ましくは40?200のnを有し、及び、1.1?2.0、及び好ましくは1.2?1.8のM/P比を有する、メラミンのポリリン酸塩は、ポリマーと混合されたときに、これらの欠点を示さないことが見出された。さらに、本発明に従い、nの値は広く20から200の間、好ましくは40から150の間、でなければならず、且つ、M/P比は1.1から2.0の間、好ましくは1.2から1.8の間でなければならない。さらに、本発明に従い調製された塩の10%水性スラリーのpHは、一般的に4.5より高く、及び好ましくは5.0以上である。前記pH値は、25gの塩と225gの純粋な25℃の水を300mlのビーカーに入れ、得られるスラリーを攪拌し、次いで、pHを測定することにより決定される。 【0006】前記nの値は、縮合度の数平均であり、31P固体NMRにより決定してよい。J.R.vanWazer、C.F.Callis、J.Shoolery及びR.Jonesら著、J.Am.Chem.Soc.、第78巻、第5715頁、1956年、から、隣接するリン酸基の数は、特有のケミカルシフトを与え、そのことがオルトリン酸塩、ピロリン酸塩、及びポリリン酸塩を明確に区別することを可能にすることが知られている。 【0007】さらに、20?200、好ましくは40?200のn及び1.1?2.0のM/P比を有する、所望のメラミンのポリリン酸塩を調製する方法が見出された。この方法は、メラミンをオルトリン酸の水性溶液に添加することによってメラミンとオルトリン酸とを、メラミンのオルトリン酸塩に転換すること、次いで、脱水および熱処理して、メラミンのポリリン酸塩へと転換することを含む。この熱処理は、300℃以上、及び好ましくは310℃以上の温度で行われる。メラミンのオルトリン酸塩に加えて、メラミンの他のリン酸塩、例えばオルトリン酸塩とピロリン酸塩の混合物を含む、を使用してよい。」 1b 「【0010】所望する1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を満足に調製するために必要な反応時間は、一般に、2分以上、及びより一般には、5分以上であり、且つ、一般に24時間未満である。」 1c 「【0026】実施例: 攪拌機を備えた50リットルの反応容器に、29.25リットルの純水を投入した。攪拌しながら、8.619Kgの室温のオルトリン酸(85重量%のH_(3)PO_(4))を水に加えた。発熱反応のために、希釈されたリン酸溶液の温度が上がり、そして、50℃で10分間維持した。攪拌しながら、次いで、12.245Kgのメラミンを(塊が形成されるのを防ぐために)ゆっくり、溶液に添加した。メラミンが添加された後、水を蒸発させるために反応容器の圧力を低下し及び温度を上げ、水分含有量が0.1重量%未満の生成物を得た。得られた、M/P比1.3を有するメラミンリン酸塩を、次いで、310℃まで加熱し、M/P比1.26を有するメラミンポリリン酸塩へと転換した。得られたメラミンポリリン酸塩の10重量%水性スラリーは、5より高いpHを有した。 」 イ 実施可能要件の判断 本件補正発明1は、物の発明であり、物の発明について、本件補正後における発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度の記載がされているといえるためには、本件補正後における発明の詳細な説明の記載から当業者がその物を製造することができると認められる程度の記載がされている必要がある。 本件補正後における発明の詳細な説明【0007】には、「さらに、20?200、好ましくは40?200のn及び1.1?2.0のM/P比を有する、所望のメラミンのポリリン酸塩を調製する方法が見出された。この方法は、メラミンをオルトリン酸の水性溶液に添加することによってメラミンとオルトリン酸とを、メラミンのオルトリン酸塩に転換すること、次いで、脱水および熱処理して、メラミンのポリリン酸塩へと転換することを含む。この熱処理は、300℃以上、及び好ましくは310℃以上の温度で行われる。」(1a)と記載されていることから、本件補正発明1のメラミンのポリリン酸塩を製造には、メラミンのオルトリン酸塩を300℃以上の温度での熱処理によって、メラミンのポリリン酸塩へと転換する方法が利用可能であることが説明されていると理解できる。また、熱処理の時間について、本件補正後における発明の詳細な説明には、「【0010】所望する1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を満足に調製するために必要な反応時間は、一般に、2分以上、及びより一般には、5分以上であり、且つ、一般に24時間未満である。」(1b)との一応の記載がある。そして、【0026】には、「実施例: ・・・得られた、M/P比1.3を有するメラミンリン酸塩を、次いで、310℃まで加熱し、M/P比1.26を有するメラミをポリリン酸塩へと転換した。」(1c)との記載があることから、メラミンオルトリン酸塩の310℃まで加熱することにより、メラミンポリリン酸塩に転換した具体例が記載されていることは理解できる。 そして、本件補正後における発明の詳細な説明【0006】に「前記nの値は、縮合度の数平均であり、^(31)P固体NMRにより決定してよい。J.R.vanWazer、C.F.Callis、J.Shoolery及びR.Jonesら著、J.Am.Chem.Soc.、第78巻、第5715頁、1956年、から、隣接するリン酸基の数は、特有のケミカルシフトを与え、そのことがオルトリン酸塩、ピロリン酸塩、及びポリリン酸塩を明確に区別することを可能にすることが知られている。」(1a)と記載されていることから、ポリリン酸塩の数平均縮合度を確認する方法として、^(31)P固体NMRを用いる手法があることが一応は理解できる。 しかし、本件補正後における発明の詳細な説明には、実施例における反応時間は明らかにされていない。また、得られたメラミンのポリリン酸について、数平均縮合度nを確認した結果は記載されておらず、そのnは不明である。また、オルトリン酸塩がポリリン酸塩に転換する反応のような脱水縮合反応では、反応温度と反応時間によって異なるnのものが得られることが技術常識であるところ、本件補正後における発明の詳細な説明には、メラミンのオルトリン酸塩を熱処理によってメラミンのポリリン酸塩へ転換する際の温度が「310℃以上」であり、反応時間が「2分以上、及びより一般には、5分以上であり、且つ、一般に24時間未満である。」(1b)と漠然と記載されるにとどまる。そうすると、本件補正後における発明の詳細な説明の記載から当業者がnが20?200である本件補正発明1のメラミンのポリリン酸塩を製造しようとする場合には、310℃以上の温度で、反応時間については2分から24時間の範囲で試行錯誤を繰り返して決定するほかなく、当業者に通常期待し得る程度を超える過度の負担を強いるものである。 したがって、本件補正後における発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件補正発明1のメラミンのポリリン酸塩を製造することができると認められる程度の記載がされているものであるとはいえず、本件補正発明1について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではない。 (2)特許法第36条第6項第1号への適合性(サポート要件)について ア 特許法第36条第6項第1号の規定について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。 そこで、この点を踏まえ、以下で本願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かを検討する。 イ 本件補正発明1の課題 上記(1)ア1aの「【0004】例えばWO第97/44377号の記載に従い調製されるような、1.0?1.1のメラミン/リンのモル比を有する、メラミンのポリリン酸塩の一つの欠点は、一般的にポリマー中における難燃剤としての使用に適さないことである。このことは、例えばナイロン及びポリエステルのような、該塩が充分な熱安定性を示さないところの、高められた温度で通常処理されるポリマーの場合に、特に該当する。さらに、該塩のpHは比較的低く、その特性がポリマーの機械的強度、例えば衝撃強度、引張り強度、及び破壊強度、に対して悪い影響を与える傾向がある。 【0005】しかし、20?200、及び好ましくは40?200のnを有し、及び、1.1?2.0、及び好ましくは1.2?1.8のM/P比を有する、メラミンのポリリン酸塩は、ポリマーと混合されたときに、これらの欠点を示さないことが見出された。さらに、本発明に従い、nの値は広く20から200の間、好ましくは40から150の間、でなければならず、且つ、M/P比は1.1から2.0の間、好ましくは1.2から1.8の間でなければならない。」との記載からみて、本件補正発明1は、充分な熱安定性を示し、ポリマー中における難燃剤としての使用に適するメラミンのポリリン酸塩を提供することをその課題とするものであると認められる。 ウ サポート要件の判断 本件補正後における発明の詳細な説明の記載をみると、上記(1)イで指摘したように、本件補正発明1のメラミンのポリリン酸塩を製造する方法としては、メラミンのオルトリン酸塩を300℃以上の温度での熱処理によって、メラミンのポリリン酸塩へと転換する方法が利用可能であること、及び、メラミンオルトリン酸塩を310℃まで加熱することにより、メラミンポリリン酸塩に転換した具体例が記載されていることは理解でき、また、ポリリン酸塩の数平均縮合度を確認する方法として、^(31)P固体NMRを用いる手法があることまでは理解できる。 しかし、上記(1)イで指摘したとおり、本件補正後における発明の詳細な説明の記載からは、具体的製造例として記載された実施例で得られたものの数平均縮合度nを知ることはできず、本件補正後における発明の詳細な説明には、どの程度の温度でどの程度の時間の熱処理を行えば、nが20?200である本件補正発明1のメラミンのポリリン酸塩が得られるのかを知る手がかりとなる記載もない。 さらに、たとえば、特開2004-10649号公報に、「通常のポリリン酸メラミンの重合度は10程度である」(【0073】)との記載があるように、本願の出願日より後においても、メラミンのポリリン酸塩は、通常、重合度が10程度であり、メラミンのポリリン酸塩について、20以上の数平均縮合度nを有するものを製造する条件が本願出願時に当業者に自明であったことを示す事実の存在も認められない。 そうすると、本件補正後における発明の詳細な説明には、充分な熱安定性を示し、ポリマー中における難燃剤としての使用に適するメラミンのポリリン酸塩を提供するという課題を実際に解決することができると当業者が認識できるようなメラミンのポリリン酸塩についての記載があるとはいえず、また、その記載がなくとも本件補正発明1は当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 したがって、本件補正発明1は、本件補正後における発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、本件補正後における特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、平成23年 8月 4日付けの手続補正により補正された審判請求書において、概略以下の主張をしている。 「本願発明は、・・・数平均縮合度nが20?200でありかつメラミンとリン原子とのモル比(M/P比)が1.1?2.0であるポリリン酸塩が、上記目的を達成することを見出したものです(請求項1)。上記ポリリン酸塩は、本願明細書の段落0007に記載された方法にしたがって製造することができます。実施例1は、上記製造法にしたがって実際にポリリン酸塩を製造した例を示すものであり、また、製造されたポリリン酸塩は、上記問題を伴うことなく難燃剤として使用できる、つまり本願発明の目的とするポリリン酸塩であることも示しています。そして、得られたポリリン酸塩のM/P比は1.26であり(段落0026)、これは、請求項1で特定したM/P比範囲(1.1?2.0)内です。したがって、実施例1のポリリン酸塩が、本願発明のポリリン酸塩のもう一つの要件である、20?200の数平均縮合度nを有することは明らかです。したがって、当業者は、本願発明を本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて実施することができ、また、本願の請求項に記載の発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されていると考えます。」 しかし、上記(1)イ及び(2)ウで指摘したように、【0007】の記載は、加熱時間については漠然と記載されるのみであり、【0026】の実施例においては、実際の加熱時間が記載されておらず、得られたメラミンのポリリン酸塩の数平均縮合度も不明であり、技術常識を考慮して発明の詳細な説明の記載をみても、数平均縮合度nが20?200であるメラミンのポリリン酸塩が得られているとは認められない。 イ また、請求人は、平成24年 2月23日付けの回答書において、「出願人は、本願明細書の実施例におけるメラミンポリリン酸塩の縮合度を確認すべく、実施例を追試しました。その結果を、添付の表に示します。表の第6段は、生成物の縮合度が34であることを示し、これは、請求項1の範囲内です。したがって、当業者は、実施例の記載に基づいて本願発明を実施することができ、また、本願発明は実施例によって裏付けられていると考えます。」と述べ、実験結果の表を提出している。 この「表」の訳をみると、たとえば、本件補正後における【0026】の実施例のメラミン/Pは1.3であるのに対し、「表」の訳の1行目の「出発物質中のメラミン/P(モル/モル)」の値は1.5であり、一致していない。また、「表」の欄外に「反応条件:310℃の反応温度、10時間」と記載されているが、上記(1)イ及び(2)ウで指摘したように、実施例においては、リン酸の脱水縮合によりポリリン酸を形成する反応において温度と並んで重要な条件である反応時間が明らかでないのに加え、反応スケールによっては、容器中に存在する空気からの水分や原料への熱の伝わり方が異なり、縮合度が異なると推測されるところ、上記「表」の結果が得られた実験においては、原料のモル比が記載されるのみで、どの程度の反応スケールで実験を行ったのかが明らかにされていない。これらの点から、上記の実験と実施例とで同じ縮合度のものが得られるとは認められず、実施例で得られたもののnを知ることができない点に変わりはない。また、本件補正後における明細書の漠然とした記載から本件補正発明1のメラミンのポリリン酸塩を製造しようとする場合には、当業者に通常期待し得る程度を超える過度の負担を強いることになる点も、既に上記(1)イで指摘したとおりである。 ウ 小括 したがって、請求人の主張を検討しても、本件補正後における発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものであるとはいえず、本件補正後における特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるとはいえない。 (4)独立特許要件についてのむすび 以上のとおり、本件補正後における発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではなく、本件補正後における特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないため、本件補正後における本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしておらず、本件補正発明1は、出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえない。 したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第126条第5項の規定に違反するものである。 3 むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成23年 6月16日付けの手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願において、特許を受けようとする発明は、平成18年 7月 6日付けの手続補正及び平成22年 6月24日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであると認められ、請求項1の記載は以下のとおりである(以下、請求項1に記載された事項により特定される発明を「本願発明」という。)。 「数平均縮合度nが20?200であり、且つ、1,3,5-トリアジン化合物含有量が、リン原子1モル当たり1,3,5-トリアジン化合物モル量1.1?2.0モルである、ここで該1,3,5-トリアジン化合物はメラミン、メラム、メレム、メロン、アンメリン、アンメリド、2-ウレイドメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンおよびジアミンフェニルトリアジンからなる群から選択される、ことを特徴とする1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩。」 第4 原査定の拒絶の理由 平成23年 2月 9日付けの拒絶査定には「 この出願については、平成22年 3月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由4?5([E])によって、拒絶をすべきものです。」と記載されている。 平成22年 3月15日付けの拒絶理由通知書には、「 この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。」と記載され、「理 由」の欄に 「4.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 5.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 と記載されている。 また、「記」の項目の下に 「[E] ・請求項 1?6 ・理由 4?5 ・備考 本願請求項1に係る発明のメラミンポリリン酸塩は20以上の数平均縮合度を有するものと認められる。 しかしながら、発明の詳細な説明において示されるのは、メラミンポリリン酸塩のM/P比、メラミンリン酸塩のM/P比、原料のメラミン、オルトリン酸の量のみであるところ、出願時の技術常識を参酌しても、上記実施例で製造されたメラミンポリリン酸塩が20以上の数平均縮合度を有するものであることは確認できず、また、該縮合度を有するメラミンポリリン酸塩をどのように製造するのかも理解できない。」 と記載されている。 そうすると、原査定の拒絶の理由は、「本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」という理由と、「本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」という理由とを含むものであると認められる。 第5 当審の判断 当審は、原査定のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 特許法第36条第4項(実施可能要件)について (1)発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 2a 「【0004】【発明が解決しようとする課題】 例えばWO第97/44377号の記載に従い調製されるような、1.0?1.1のメラミン/リンのモル比を有する、メラミンのポリリン酸塩の一つの欠点は、一般的にポリマー中における難燃剤としての使用に適さないことである。このことは、例えばナイロン及びポリエステルのような、該塩が充分な熱安定性を示さないところの、高められた温度で通常処理されるポリマーの場合に、特に該当する。さらに、該塩のpHは比較的低く、その特性がポリマーの機械的強度、例えば衝撃強度、引張り強度、及び破壊強度、に対して悪い影響を与える傾向がある。 【0005】【課題を解決するための手段】 しかし、20?200、及び好ましくは40?200のnを有し、及び、1.1?2.0、及び好ましくは1.2?1.8のM/P比を有する、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩は、ポリマーと混合されたときに、これらの欠点を示さないことが見出された。さらに、本発明に従い、nの値は広く20から200の間、好ましくは40から150の間、でなければならず、且つ、M/P比は1.1から2.0の間、好ましくは1.2から1.8の間でなければならない。さらに、本発明に従い調製された塩の10%水性スラリーのpHは、一般的に4.5より高く、及び好ましくは5.0以上である。前記pH値は、25gの塩と225gの純粋な25℃の水を300mlのビーカーに入れ、得られるスラリーを攪拌し、次いで、pHを測定することにより決定される。 【0006】前記nの値は、縮合度の数平均であり、31P固体NMRにより決定してよい。J.R.vanWazer、C.F.Callis、J.Shoolery及びR.Jonesら著、J.Am.Chem.Soc.、第78巻、第5715頁、1956年、から、隣接するリン酸基の数は、特有のケミカルシフトを与え、そのことがオルトリン酸塩、ピロリン酸塩、及びポリリン酸塩を明確に区別することを可能にすることが知られている。 【0007】 さらに、20?200、好ましくは40?200のn及び1.1?2.0のM/P比を有する、所望の1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を調製する方法が見出された。この方法は、1,3,5-トリアジン化合物をオルトリン酸の水性溶液に添加することによって1,3,5-トリアジン化合物とオルトリン酸とを、1,3,5-トリアジン化合物のオルトリン酸塩に転換すること、次いで、脱水および熱処理して、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩へと転換することを含む。この熱処理は、300℃以上、及び好ましくは310℃以上の温度で行われる。1,3,5-トリアジン化合物のオルトリン酸塩に加えて、1,3,5-トリアジンの他のリン酸塩、例えばオルトリン酸塩とピロリン酸塩の混合物を含む、を使用してよい。」 2b 「【0010】所望する1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を満足に調製するために必要な反応時間は、一般に、2分以上、及びより一般には、5分以上であり、且つ、一般に24時間未満である。」 2c 「【0026】実施例: 攪拌機を備えた50リットルの反応容器に、29.25リットルの純水を投入した。攪拌しながら、8.619Kgの室温のオルトリン酸(85重量%のH_(3)PO_(4))を水に加えた。発熱反応のために、希釈されたリン酸溶液の温度が上がり、そして、50℃で10分間維持した。攪拌しながら、次いで、12.245Kgのメラミンを(塊が形成されるのを防ぐために)ゆっくり、溶液に添加した。メラミンが添加された後、水を蒸発させるために反応容器の圧力を低下し及び温度を上げ、水分含有量が0.1重量%未満の生成物を得た。得られた、M/P比1.3を有するメラミンリン酸塩を、次いで、310℃まで加熱し、M/P比1.26を有するメラミンポリリン酸塩へと転換した。得られたメラミンポリリン酸塩の10重量%水性スラリーは、5より高いpHを有した。」 (2)実施可能要件の判断 本願発明は、物の発明であるので、上記第2 2(1)で検討したのと同様に、発明の詳細な説明の記載に当業者が本願発明の物を製造することができると認められる程度の記載がされているかを検討する。 発明の詳細な説明【0007】には、「さらに、20?200、好ましくは40?200のn及び1.1?2.0のM/P比を有する、所望の1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を調製する方法が見出された。この方法は、1,3,5-トリアジン化合物をオルトリン酸の水性溶液に添加することによって1,3,5-トリアジン化合物とオルトリン酸とを、1,3,5-トリアジン化合物のオルトリン酸塩に転換すること、次いで、脱水および熱処理して、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩へと転換することを含む。この熱処理は、300℃以上、及び好ましくは310℃以上の温度で行われる。」(2a)と記載されていることから、本願発明の1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を製造する方法としては、1,3,5-トリアジン化合物のオルトリン酸塩を300℃以上の温度での熱処理によって、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩へと転換する方法が利用可能であると理解できる。また、熱処理の時間について、発明の詳細な説明には、「【0010】所望する1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を満足に調製するために必要な反応時間は、一般に、2分以上、及びより一般には、5分以上であり、且つ、一般に24時間未満である。」(2b)との一応の記載がある。そして、【0026】には、「実施例: ・・・得られた、M/P比1.3を有するメラミンリン酸塩を、次いで、310℃まで加熱し、M/P比1.26を有するメラミンポリリン酸塩へと転換した。」(2c)との記載があることから、メラミンオルトリン酸塩の310℃までの加熱により、メラミンポリリン酸塩に転換した具体例が記載されていることは理解できる。 そして、【0006】に「前記nの値は、縮合度の数平均であり、^(31)P固体NMRにより決定してよい。J.R.vanWazer、C.F.Callis、J.Shoolery及びR.Jonesら著、J.Am.Chem.Soc.、第78巻、第5715頁、1956年、から、隣接するリン酸基の数は、特有のケミカルシフトを与え、そのことがオルトリン酸塩、ピロリン酸塩、及びポリリン酸塩を明確に区別することを可能にすることが知られている。」(2a)と記載されていることから、ポリリン酸塩の縮合度を確認する方法として、^(31)P固体NMRを用いる手法があることが一応は理解できる。 しかし、発明の詳細な説明には、具体的製造例における反応時間は明らかにされていない。また、得られたメラミンのポリリン酸について、数平均縮合度nを確認した結果は記載されておらず、そのnは不明である。また、オルトリン酸塩がポリリン酸塩に転換する反応のような脱水縮合反応では、反応温度と反応時間によって異なる数平均縮合度のものが得られることが技術常識であるところ、発明の詳細な説明には、1,3,5-トリアジン化合物のオルトリン酸塩を熱処理によって1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩へ転換する際の温度が「310℃以上」であることが記載されるとともに、反応時間については「2分以上、及びより一般には、5分以上であり、且つ、一般に24時間未満である。」(2b)と漠然と記載されるにとどまる。そうすると、発明の詳細な説明の記載から当業者がnが20?200である本願発明の1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を製造しようとする場合には、310℃以上の温度で、反応時間については2分から24時間の範囲で試行錯誤を繰り返して決定するほかなく、当業者に通常期待し得る程度を超える過度の負担を強いるものである。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を製造することができると認められる程度に記載されたものではないから、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 (3)小括 以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者が本願発明をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものであるとはいえない。 2 特許法第36条第6項第1号への適合性(サポート要件)について 上記第2(2)アで指摘した事項を踏まえ、以下で検討する。 (1)本願発明の課題 上記1(1)2aの「【0004】例えばWO第97/44377号の記載に従い調製されるような、1.0?1.1のメラミン/リンのモル比を有する、メラミンのポリリン酸塩の一つの欠点は、一般的にポリマー中における難燃剤としての使用に適さないことである。このことは、例えばナイロン及びポリエステルのような、該塩が充分な熱安定性を示さないところの、高められた温度で通常処理されるポリマーの場合に、特に該当する。さらに、該塩のpHは比較的低く、その特性がポリマーの機械的強度、例えば衝撃強度、引張り強度、及び破壊強度、に対して悪い影響を与える傾向がある。 【0005】しかし、20?200、及び好ましくは40?200のnを有し、及び、1.1?2.0、及び好ましくは1.2?1.8のM/P比を有する、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩は、ポリマーと混合されたときに、これらの欠点を示さないことが見出された。さらに、本発明に従い、nの値は広く20から200の間、好ましくは40から150の間、でなければならず、且つ、M/P比は1.1から2.0の間、好ましくは1.2から1.8の間でなければならない。」との記載からみて、本願発明は、充分な熱安定性を示し、ポリマー中における難燃剤としての使用に適する1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を提供することをその課題とするものであると認められる。 (2)サポート要件の判断 発明の詳細な説明の記載をみると、上記(2)において述べたように、本願発明の1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を製造する方法としては、1,3,5-トリアジン化合物のオルトリン酸塩を300℃以上の温度での熱処理によって、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩へと転換する方法が利用可能であること、及び、メラミンオルトリン酸塩を310℃まで加熱することにより、メラミンポリリン酸塩に転換した具体例が記載されていることは理解でき、また、ポリリン酸塩の縮合度を確認する方法として、^(31)P固体NMRを用いる手法があることまでは理解できる。 しかし、上記(2)で指摘したのと同様の理由で、発明の詳細な説明の記載からは、具体的製造例として記載された実施例で得られたものの数平均縮合度nを知ることはできず、発明の詳細な説明には、どの程度の温度でどの程度の時間の熱処理を行えば、nが20?200である1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩が得られるのかを知る手がかりとなる記載もない。 また、たとえば、特開2004-10649号公報に、「通常のポリリン酸メラミンの重合度は10程度である」(【0073】)との記載があるように、本願の出願日より後においても、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩の代表例であるメラミンのポリリン酸は通常、縮合度が10程度であり、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩について、20以上の数平均縮合度nを有するものを製造する条件が本願出願時に当業者に自明であったことを示す事実の存在も認められない。 そうすると、本願における発明の詳細な説明には、充分な熱安定性を示し、ポリマー中における難燃剤としての使用に適する1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩を提供するという課題を実際に解決することができると当業者が認識できるような1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩についての記載があるとはいえず、また、その記載がなくとも本願発明は当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 (3)小括 以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 3 請求人の主張について 平成23年 8月 4日付けの手続補正により補正された審判請求書及び平成24年 2月23日付けの回答書における請求人の主張を検討しても、上記第2(3)で指摘したのと同様の理由で、本願の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものであり、本願の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものであると認めるに足りる根拠が見出せない。 なお、平成24年 2月23日付けの回答書に補正案が提示されているが、本願は既に明細書の補正をすることができる期間が経過しているし、当該補正案の請求項1に記載された事項により特定される発明は、メラミンのポリリン酸塩について数平均縮合度nが20?200との特定を有するものであって、仮にこの補正案のとおりの手続補正がされても、上記の拒絶の理由は依然として解消しないから、このような手続補正をする機会を設ける必要性はない。 第6 むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものであるとはいえず、また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項1号に適合するものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。したがって、その余の点を検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第2号に該当し、拒絶をされるべきものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-21 |
結審通知日 | 2012-07-02 |
審決日 | 2012-07-18 |
出願番号 | 特願2000-559100(P2000-559100) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C07D)
P 1 8・ 536- Z (C07D) P 1 8・ 575- Z (C07D) P 1 8・ 16- Z (C07D) P 1 8・ 113- Z (C07D) P 1 8・ 121- Z (C07D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 守安 智、神保 永吉 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
齋藤 恵 村守 宏文 |
発明の名称 | 縮合度の高い、1,3,5-トリアジン化合物のポリリン酸塩、その製造方法及びポリマー組成物における難燃剤としての使用方法 |
代理人 | 松井 光夫 |