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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1266933
審判番号 不服2008-30494  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-01 
確定日 2012-11-28 
事件の表示 特願2003-571357「塗料、特に仕上げ塗料又はワニスにおける有機セリウムゾルの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成15年9月4日国際公開、WO03/72663、平成18年2月16日国内公表、特表2006-505631〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2003年2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年2月27日(FR)フランス)を国際出願日とする出願であって、平成20年4月3日付けで拒絶理由が通知され、同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月27日付けで拒絶査定がされたところ、同年12月1日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成21年2月19日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、その後、平成23年9月29日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成24年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成20年8月8日付け及び平成24年4月4日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤として有機セリウムゾルを含む塗料組成物であって、該セリウムゾルがセリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子、両親媒性酸系及び有機相を含み、該両親媒性酸系が11?50個の炭素原子を含有する少なくとも1種の酸であってその酸の水素を保持している原子上に少なくとも1個のα、β、γ又はδ分岐を有するものを含み、該セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子が、d_(80) が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり、該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含むことを特徴とする、前記塗料組成物。」

第3 原査定の理由及び当審が通知した拒絶の理由
原査定の理由である平成20年4月3日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由1の概要は、この出願の請求項1?13に係る発明は、本願優先日前に頒布された引用文献1?5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。その引用文献2は、特開平7-284651号公報(以下、「刊行物1」という。)である。
当審が通知した拒絶の理由の概要は、この出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない、また、発明の詳細な説明の記載が不備のため特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶理由に対する請求人の応答の結果、特許請求の範囲に記載された発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対応が明確になり、また、本願発明をどのように実施することができるのかが明確になったから、当審が通知した拒絶の理由は解消したと判断する。
当審は、しかし、本願発明は、原査定の理由のとおり、上記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物1並びに周知文献2及び3
刊行物1:特開平7-284651号公報
周知文献2:日本規格協会編,「JISハンドブック[30]塗料」,第1版第1刷,日本規格協会,2001年1月31日,p.15,21,26,36,39,40,46
周知文献3:色材協会編,「塗料用語辞典」,1版1刷,技報堂出版,1993年1月20日,p.15,19,97-98,251,369,422,451
なお、周知文献2及び3は、本願優先日前における当業者の技術常識を示すために挙げるものである。

2 刊行物1並びに周知文献2及び3の記載事項

(1)刊行物1
(1a)「【請求項1】四価金属酸化物の粒子、両親媒性酸系及び希釈剤を含有するゾルであって、前記粒子が200nm以下のd_(90) を有すること、並びに前記ゾルが次の特性:
・四価金属酸化物の粒子が微結晶凝集物、有利には二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり、この微結晶のd_(90)、有利には光度計による計数(高分解能透過型電子鏡検法)によって測定したd_(90) が5nm以下であり、凝集物の90質量%が1?5、好ましくは1?3の微結晶を含有すること;
・両親媒性酸系が、11?50個の炭素原子を有する酸であって且つ酸性水素を持つ原子に対してα、β、γ又はδ位置に少なくとも1個の枝分かれを有する前記酸少なくとも1種を含有すること:の少なくとも1つを有することを特徴とする、前記ゾル。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1b)「【0001】【産業上の利用分野】この発明は、新規の四価金属酸化物ゾル、特に新規のセリウムゾルに関する。より特定的には、この発明は、高い安定性及び調節された粒子寸法を有するオルガノゾルに関する。また、この発明は、これらのゾルの使用方法にも関する。」
(1c)「【0011】第一の具体例に相当する実施に従えば、粒子寸法条件に関しては拘束が大きいが、両親媒性酸に関しては拘束をより少なくすることができる。
【0012】本明細書において、粒子寸法特性はしばしば、d_(n) タイプの表記法(ここで、nは1?99の数である)で表わす。この表記法は多くの技術分野においてよく知られているが、しかし化学においては少々稀であるので、ここでその意味を説明する。この表記法は、粒子のn%(重量又はより正確には質量による。何故ならば、重量は物質の量ではなく、力だからである。)のものの寸法がある寸法と同等又はそれより小さいというような表記法である。即ち、『d_(90) が5nm以下である』とは、『全粒子の内の90%(質量による)のものが5nm以下の粒子寸法を有する』ということを意味する。」
(1d)「【0014】凝集物の少なくとも50質量%(統計値)が単結晶であるのが有利である。即ち、それらが単一の微結晶のみから成る{即ち、ゾルをHRTEM(高分解能透過型電子鏡検法)によって検査した時に、少なくとも、単一の微結晶のみから成るように見える}のが有利である。
【0015】さらに、技術及び加水分解条件を変えることによって、微結晶の80質量%、好ましくは90質量%が、2?5nm、好ましくは3?4nmの範囲内から予め選択される値より小さい寸法のものであるようにすることができる。」
(1e)「【0020】セリウム(随意にその不純物を含有するセリウム)は本質的に金属酸化物(随意に水和された二酸化物)の凝集物の形にあり、この酸化物の凝集物は両親媒性有機酸によって脂肪可溶性にされる。」
(1f)「【0024】有機媒体中のセリウム(IV)の化合物及び随意としての酸性状の金属陽イオンのコロイド分散液の製造方法がここに見出され、これが本発明の目的の1つを構成する。この方法は、
(a)セリウム含有水相を加水分解操作に付して二酸化セリウム(広義)を沈殿させる工程;
(b)工程(a)で得られた二酸化セリウムの懸濁液を、同時に又は連続的に、有機酸及び好ましくは有機化合物又は混合物(これは溶媒としての働きをする)を含む有機相と接触させる工程;並びに
(c)次いで有機相(これがゾルを構成する)を回収する工程:を含む。」
(1g)「【0032】セリウム(IV)塩の水溶液は所定の初期遊離酸度、例えば0.1?4Nの範囲の規定度を有していることができるということにも、注目すべきである。本発明に従えば、実際に前記したような所定の遊離酸度を有するセリウム(IV)塩の初期溶液を用いることもでき、また、この酸度を抑制するために前もってアンモニア水溶液又はアルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)水酸化物の溶液のような塩基(アンモニア水溶液が好ましい)を添加することによって殆ど完全に中和しておいた溶液を用いることもできる。後者の場合、初期セリウム溶液の中和の程度(r)は、下記の式によって実用的方法で規定することができる。
r=(n3-n2)/n1
(ここで、n1は中和後に溶液中に存在するセリウム(IV)の総モル数を表わし、n2はセリウム(IV)塩水溶液によって供給された初期遊離酸度を中和するために実際に必要なOH^(-) イオンのモル数を表わし、n3は塩基の添加によって供給されたOH^(-) イオンの総モル数を表わす。)
【0033】『中和』変法を実施する場合、全ての場合において、用いられる塩基の量は、水酸化物種Ce(OH)_(4)(r=4)の完全な沈殿を得るのに必要な塩基の量よりも必ず少なくなければならない。実際上は、中和度は、1を越えない、好ましくは0.5をも越えない値に制限される。
【0034】こうして得られた初期混合物は、次いで本発明に従う方法の第二工程(工程(a))に従って加熱される。
【0035】熱処理(a)(これは熱加水分解とも称される)を実施する温度は、80℃から反応混合物の臨界温度までの範囲、特に80?350℃の範囲であることができ、90?200℃の範囲であるのが好ましい。この処理は、採用する温度条件に応じて、通常の大気圧又は加圧下(例えば熱処理の温度に実質的に対応する飽和蒸気圧下)のいずれかにおいて実施することができる。」
(1h)「【0043】本発明の方法において用いられる液状有機媒体(溶媒、有機溶媒、有機液体、有機化合物又は混合物、或いは希釈剤とも言う)は、不活性脂肪族若しくは環状脂肪族炭化水素又はそれらの混合物、例えばミネラルスピリット若しくはペトロリウムスピリット又はミネラルエーテル若しくは石油エーテル(芳香族化合物を含有していてもよい)であることができる。その例には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン及び液状ナフテン類が含まれる。また、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレンのような芳香族溶媒も好適であり、また、Solvesso{エクソン(Exxon) 社の登録商標名}タイプの石油留分、特にSolvesso 100(メチルエチルベンゼン及びトリメチルベンゼンの混合物を本質的に含有する)及びSolvesso 150(アルキルベンゼン類、特にジメチルエチルベンゼン及びテトラメチルベンゼンの混合物を含有する)も好適である。」
(1i)「【0051】従って、10?約40個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸、脂肪族スルホン酸、脂肪族ホスホン酸、アルキルアリールスルホン酸及びアルキルアリールホスホン酸を用いることができ、これらは天然のものであってもよく、合成されたものであってもよい。これらは単独で用いることもでき、互いの混合物として用いることもできる。
【0052】模範的な例としては、タル油、椰子油、大豆油、獣脂油若しくは亜麻仁油の脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びその異性体、酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2-エチルヘキサン酸、ナフテン酸、ヘキサン酸、トルエンスルホン酸、トルエンホスホン酸、ラウリルスルホン酸、ラウリルホスホン酸、パルミチルスルホン酸及びパルミチルホスホン酸を挙げることができる。オレイン酸又はアルキルアリールスルホン酸を用いるのが好ましい。」
(1j)「【0057】本発明に従えば、金属酸化物の有機コロイド分散液が得られ、このコロイドの寸法は非常に可変的であることができ、ある種のパラメーター、特に出発原料の水性コロイド分散液の直径を変えることによって調節することができ、熱加水分解条件に依存する。」
(1k)「【0060】ここで、第二の具体例、即ち、両親媒性酸については拘束は大きいが、粒子の基本的本質については拘束が少ないものについて検討する。・・・いくつかの拘束は共通であるので、第一の部分において詳述した説明は、この第二の部分においては簡単に繰返すだけにとどめる。これらの2つのタイプの拘束に応答するゾルが最も良い。」
(1L)「【0061】両親媒性系の酸については、15?25個の範囲の炭素原子数が好ましい。・・・
・・・・・・・・・・
【0068】良好な結果を与えるカルボン酸の例としては、イソステアリン酸の名称で知られている酸の混合物の構成成分である酸を挙げることができる。この酸系は、イソステアリン酸そのものであるのが有利である。
・・・・・・・・・・
【0071】粗大な粒子の存在は、本発明に従うゾルの長期間安定性に害を及ぼすことが示され、また、より慣用的な酸から製造されたゾルの長期間安定性にさえ害を及ぼすことが示されているので、特に安定なゾルを得るためには、全四価金属酸化物粒子の内の5%以下、有利には1%以下、好ましくは0.5%以下(全て質量による)のものが0.1μmより大きい、有利には0.05μmより大きい、好ましくは0.02μmより大きいものである{即ち、0.1μmより大きい、有利には0.05μmより大きい、好ましくは0.02μmより大きい四価金属酸化物粒子の割合が全四価金属酸化物粒子の5%以下、有利には1%以下、好ましくは0.5%以下である、又は全四価金属酸化物粒子の内の95%以上、有利には99%以上、好ましくは99.5%以上(全て質量による)のものが0.1μm以下、有利には0.05μm以下、好ましくは0.02μm以下の大きさのものである}ことが好ましい。
【0072】希釈剤としては、安定なゾルをもたらすものであればどのようなものであっても、本発明の範囲内に用いることができる。
・・・・・・・・・・
【0082】本発明に従うオルガノゾルは一般的に周知の方法で、四価金属酸化物を含有する水性ゾルを前記希釈剤及び前記両親媒性酸系の存在下で加熱することによって製造される。
【0083】本発明の特に有利な特徴の1つに従えば、水性ゾル中、及び最終ゾル中に過度に粗大な粒子が存在しないように注意すべきである。特に粗大な粒子の除去は、特に粗大な粒子を選択的に除去することができるものであればどんな技術を用いて実施してもよい。この除去は、水性ゾル、オルガノゾル又はそれらの両方に対して行なうことができる。しかしながら、水性ゾルに対して分離を少なくとも1回行なうのが好ましい。
【0084】好ましい技術は遠心分離である。・・・
【0085】水性ゾルは、加水分解、好ましくは熱加水分解によって製造するのが有利である。」
(1m)「【0091】本発明はまた、塗料及びワニス産業において不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として、並びに内燃エンジン、オイルバーナー又はジェットエンジンのような自動車用液体燃料又は動力発生装置用燃料中の燃焼補助剤としての、本発明に従って製造されるオルガノゾルの使用にも関する。本発明に従うゾルはまた、化粧品中に用いることもできる。」
(1n)「【0092】【実施例】
第一の具体例の例
反応成分:特に記載がない限り、例において用いた反応成分は、次のものである。
・予備中和してr=+0.5にした硝酸第二セリウム(本出願人によるヨーロッパ特許公開第153227号を参照)
・オレイン酸抽出剤{これは、変更なしにオレイン(オレイン酸70%+リノール酸30%)に代えることができる}
・溶媒、Solvesso 150(これは特定的なものでなく、Isopar L、ヘキサン又はディーゼル油にさえ代えることができる)
【0093】例の一般的な手順:例の手順は、特に記載がない限り、次の通りである。第一工程は、寸法(TEM)が3?5nmであるCeO_(2) コロイドの水性ゾルである先駆体を合成することから成る。r=+0.5を有する硝酸第二セリウム溶液をタンタルで被覆されたオートクレーブに入れる。使用した溶液の濃度は、CeO_(2) として表わして80g/リットルである。オートクレーブ処理を、160℃において4時間(1時間かけて昇温)行なう。作業中ずっと撹拌を保つ。オートクレーブ処理の結果として、生成物が沈降する。次いでこれを母液から分離する(ろ過し、乾燥させる)。それを、次いで水に再分散させる、これは安定な水性ゾルを得るのを可能にする。このゾルの濃度は150g/リットルである。
【0094】例1
反応成分:
・予備中和してr=+0.5にした、セリウム濃度80g/リットルの硝酸第二セリウム、
・オレイン酸抽出剤。
【0095】第一工程
r=+0.5を有するCERELEC の溶液をタンタルで被覆されたオートクレーブに入れる。使用した溶液の濃度は、CeO_(2) として表わして80g/リットルである。オートクレーブ処理を、160℃において4時間(1時間かけて昇温)行なう。作業中ずっと撹拌を保つ。得られた溶液を、第4番ガラスフィルターを用いてろ過する。生成物を、次いで水に再分散させる、これは、安定な水性ゾルを得るのを可能にする。このゾルの濃度は150g/リットルだった。
【0096】製法の第二工程はコロイドを水性相から有機相に移すことである。定量的に求めた量のCeO_(2) 水性ゾルを丸底フラスコに入れ、これに、オレイン酸/セリウムのモル比が0.3になり且つSolvesso 150/オレイン酸の比が3.75になるような有機混合物を加える。本例においては、これによって、次のものを使用することになった:
・CeO_(2) 24.8g(即ち、濃度150g/リットルのゾル0.165リットル)、
・オレイン酸12.2g、
・Solvesso 150 45.7g。
次いで、この混合物を100℃において還流下で約10時間加熱する。冷却した後に、有機相を水性相から分離し、次いでこれを疎水性フィルターを用いてろ過する。
【0097】次いで、ゾルの正確な純度を、か焼法によって測定する(950℃において6時間後の固体含有率)。このようにして、測定した安定度が4か月より大きく(サンプルの持続期間)、CeO_(2) 濃度が29.1%(質量)であり且つコロイド寸法(TEMによって測定)が3?5nmであるゾルが得られた。」
(1o)「【0105】第二の具体例の例
概要
有機セリウムゾルの合成を、再分散して水性セリウムゾルを形成することができるセリウム水和物の合成及び次いでゾルの有機相への移行の2つの工程で行なう。
【0106】水性ゾルの合成
これは、アンモニウム水溶液で予備中和して0.5に近いr=[OH^(-)]/[Ce]比にした酸化セリウム80g/リットルを含有する硝酸セリウム(IV)溶液を熱加水分解することによる慣用の合成に関する。酸化セリウム濃度は80g/リットルの近辺である。オートクレーブ中で150℃において4時間熱加水分解した後に、セリウム水和物タイプの沈殿がろ過によって回収される。次いで、水和物を水中に再パルプ化することによって再懸濁させる。生成物のフラクションがゾル形態で分散され、残りは適度に安定な懸濁体を形成する。濃度160g/リットルを目標とするのが普通である。溶液のpHは酸性である(pH=1より小さい)。
【0107】第二タイプの先駆体もまた用いることができる。ここでもr=0.5に予備中和したセリウム(IV)溶液を、今回は、100℃において4時間熱加水分解する。水和物をろ過した後に、沈殿を再び水で取り出してゾルを形成させ、これを噴霧(ビュヒ又はLEA)によって乾燥させる。乾燥させた水和物を最終的に再溶解させて、濃度160g/リットルの安定なゾルを形成させる。
【0108】ゾルの有機相中への移行
ゾルの有機相中への移行は、有機溶媒に希釈した抽出剤を使用して得られる。抽出剤対セリウムのモル比は0.3に設定し、最終の有機相中のセリウムの合計量は、CeO_(2) として約40%(即ち、セリウム金属として32.5%)とする。上記の水性ゾルを有機相に接触させ、次いでゆっくり撹拌しながら、溶液を漸次100℃にする(水の還流)。
【0109】合成は、以下に説明する交換及び熟成の2段階で行なう。
・交換:有機相は初めは水性ゾルより軽いが、次第に曇ってくる。交換が極めて迅速に行われるように思われ、有機相は次第に密度が高くなり、次いで反応器の底に行く。2相が同様な密度を有する場合には、有意のエマルションが形成する。その場合、この現象を制限するために、反応器をあまり激しく撹拌しないのが得策である。交換の終りに、水性相は再び透明になるのに対し、有機相は曇ったままである。この段階の期間は、先駆体の性質に応じて2?4時間の範囲である。
【0110】・熟成:交換が完了したら、熟成と称される段階を行なう。この間に、有機相は、移行の際に水和物凝集物に同伴される硝酸塩及び水分子を放出する。有機相は次第に透明になり、窒素系の蒸気が放出されているのが観察される。最終的に、赤味がかった黒色の、安定で、完全に透明なオルガノゾルが得られる。熟成段階の期間は可変的であるが、下記の条件下では6時間より短くなることはめったにない。
【0111】実験室では、疎水性フィルターを用いてろ過することによってゾルを回収し、次いで、時間が経つにつれてある種の生成物が僅かに析出してしまう原因となる潜在的な凝集物を、遠心分離によって取り除く。
【0112】例4:イソステアリン酸による抽出、150℃ゾル
水性ゾルの合成:硝酸セリウム(IV)溶液(1.4モル/リットル、遊離酸0.58モル/リットル、d=1.433)415ミリリットルを、0.64モル/リットルのアンモニア水溶液835ミリリットルにより0.5OH^(-)/Ce/時の速度で中和して、最終的にr=[OH^(-)]/[Ce]=0.5に予備中和した80g/リットルのCeO_(2) を含有する溶液を得る。
【0113】次いで、溶液をオートクレーブに入れ、1時間かけて温度150℃にもたらし、次いで150℃において4時間放置する。冷却した後に、得られた水和物をろ過し(第4番ガラスフィルター)、酸化物含有率を900℃における強熱減量によって求める。水和物形態の酸化セリウム40gを再び水250ミリリットル中に取り出し、濃度160g/リットルを有する水性ゾルを得る。
【0114】オルガノゾルの合成:最終的にISA/Ceモル比0.3及び有機相中の最終CeO_(2) 濃度40%が得られるようにしてゾル100gを形成するために、イソステアリン酸(ISA)19.9gをSolvesso(芳香族石油留分)40.1g中に希釈する。有機相と水性相とを穏やかに撹拌しながら接触させ、次いで混合物を15時間還流する(100?103℃)。有機相を沈降させて分離した後に、疎水性フィルターを用いてろ過し、次いで必要に応じて4500rpm(回転/分)において遠心分離する。得られたゾルは、酸化セリウム濃度40質量%を有し、赤味がかった澄んだ黒色を有する。それは完全に安定である。
・・・・・・・・・・
【0117】例5(比較):オレイン酸による抽出、150℃ゾル
調製を例1(審決注:「例1」は「例4」の誤りと認める。文脈からみて直前の「例4」でなく「例1」を引用するのは不自然なので、刊行物1の優先権主張の基礎出願であるフランス特許出願94-01854及び94-12945のそれぞれに対応する公開公報2726199号及び2716388号を参照し確認した。)の通りにして行なうが、有機相としては、オレイン酸(OA、抽出剤)19.7g及びSolvesso(希釈剤)40.3gから成るものを用いた。得られたゾルは、数日間でフラスコの底に僅かな析出物(析出物は特に酸化セリウムを含有する)が出現したので、安定性に劣る。」

(2)周知文献2
表の形式で「番号」、「用語」、「定義」、「対応英語(参考)」の順に記載されているので、以下、「用語 定義」(頁及び番号)の形式で示す。
(2a)「油ワニス 塗膜形成要素として,乾性油と樹脂又はビチューメンなどを用い,加熱重合して炭化水素系溶剤でうすめて作った塗料。溶剤の蒸発,乾性油の酸化とこれに伴う重合とによって,乾燥する。樹脂又はビチューメンに対する乾性油の比の大小によって,長油ワニス・中油ワニス・短油ワニスに分ける。」(15頁1003)
(2b)「アルキド樹脂塗料 塗膜形成要素として,アルキド樹脂を用いて作った塗料。アルキド樹脂に含まれる脂肪酸には酸化形と非酸化形とがある。樹脂は脂肪酸含有量の多少によって長油・中油・短油に分ける。酸化形長油アルキド樹脂を用いて作った合成樹脂調合ペイントは建築,船舶,鋼橋などの塗装の上塗りに,酸化形短油アルキド樹脂又は酸化形中油アルキド樹脂を用いて作った塗料は鉄道車両,機械などの塗装の上塗りに用いる。JIS K 5516,JIS K5572など参照。」(15頁1005)
(2c)「調合ペイント 特にボイル油を加える必要がなく,かき混ぜて一様にすれば,はけですぐ塗れるように製造したペイント。油性調合ペイント,合成樹脂調合ペイントなど。JIS K 5511,JIS K 5516参照。」(21頁1069)
(2d)「ワニス 樹脂などを溶剤に溶かして作った塗料の総称。顔料は含まれていない。塗膜は概して透明である。
備考1.ISO用語規格では,“ワニスはクリヤー塗料の一種。主に酸化乾燥によって透明塗膜を形成するクリヤー塗料をワニスという。”と定義している。クリヤー塗料の項参照。
2.BS用語規格では,“ワニスは,主に樹脂及び/又は乾性油から作られる透明塗料。”と定義している。
3.ASTM用語規格では,“ワニスは,薄い層に塗ったとき透明な又は,半透明な固体膜を形成する液状組成物。”をいい,ビチューミナスワニス,油ワニス,スパーワニス,揮発性ワニスなどを含めている。」(26頁1115)
(2e)「乾性油 薄膜にし空気中に置くと,酸素を吸収して酸化し,これに伴って重合が起こって固化し,塗膜を形成する脂肪油。一般に,よう素価130以上のもの。あまに油,シナきり油など。」(36頁2011)
(2f)「ボイル油 乾性油・半乾性油を加熱し,又は空気を吹き込みながら加熱して,乾燥性を増進させて得た油。JIS K 5421参照。」(39頁2051)
(2g)「よう素価 油脂・樹脂に化学的に結合する酸素の量に比例し,不飽和度を推定するために用いる。試料100gと結合するハロゲンの量を換算して得るよう素のg数で表す。ウィス法とハンス法とがある。JIS K 5421参照。」(40頁2056)
(2h)「ドライヤー 通常,有機金属化合物で有機溶剤及びバインダーに可溶,酸化乾燥する塗料の乾燥過程を促進するために添加する化合物。主成分は鉛,マンガン,コバルトなどの金属石けん。液状ドライヤー,のり状ドライヤーなどがある。
備考 水可溶性の乾燥剤も存在する。」(46頁2619)

(3)周知文献3
(3a)「油変性アルキド樹脂 oil modified alkyd resin ポリエステル樹脂の一分野.やし油,大豆油,あまに油,米糠脂肪酸,トール油脂肪酸等の油脂類で変性した飽和ポリエステル樹脂の呼称.油脂類の量(油長)で分類される.(1)(審決注:○の中に数字の1である。他の数字も同様に表す。)オイルフリーアルキド樹脂(油長0%):プレコートメタル(PCM)塗料,自動車中塗り塗料,製缶塗料等に硬化剤メラミン樹脂と配合,高温加熱硬化され使用,(2)超短油アルキド樹脂(0?25%),(3)短油アルキド樹脂(25?45%):同じくメラミン樹脂と配合,熱硬化させて使用.用途は汎用焼付塗料,自動車ソリッドカラー用塗料に使用.またアルキドポリオールとしてポリイソシアネート硬化させ,家具等のウレタン塗料に,あるいは硝化綿(NC)ラッカーの可塑剤としても使用,(4)中油(45?58%),(5)長油(58?70%),(6)超長油(>70%):大豆油,あまに油等乾性油を主原料とし,金属ドライヤーで酸化重合して硬化させる.用途は重機械,重車両,橋梁,船舶等の常乾塗料に,またはパテとして利用.メラミン樹脂,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,シリコン樹脂,スチレン,アクリル,ロジン,ニトロセルロース等と反応または混合して変性された変性アルキド樹脂は特長を有して,プライマー,耐候性塗料,ラッカー等の用途に使用.→アルキド樹脂,ポリエステル樹脂」(18頁左欄14?末行)
(3b)「油変性樹脂 oil modified resin 合成樹脂あるいは天然樹脂の空気乾燥性,たわみ性,油溶性,作業性,塗装適性等を改善する目的で,それらの樹脂を油脂または脂肪酸で変性した樹脂.変性方法としては,ブレンド,共重合,あるいは共縮,重合等がある.合成樹脂の主なものは,アルキド樹脂,ウレタン化油,フェノール樹脂,エポキシ樹脂等があり,天然樹脂としてはロジン,コパール等がある.変性に用いた油脂または脂肪酸量の多少により,長油長樹脂,中油長樹脂,短油長樹脂等ということがある.」(15頁右欄1?11行)
(3c)「アルキド樹脂 alkyd resin (1)広義には,アルコールと酸の縮合反応によって生成する樹脂状物質がアルキドと命名された.その後,これらをポリエステル樹脂と総称するようになった.
(2)狭義には,無水フタル酸等の多塩基酸とグリセリン,ペンタエリスリット等の多価アルコールとの縮合物(フタル酸樹脂)およびこれを油(脂肪酸)で変性したものをいう.→油変性アルキド樹脂.
(3)フタル酸樹脂を,ロジン等の天然樹脂,フェノール等の合成樹脂あるいはスチレン等の重合性モノマーで変性したものもアルキド樹脂という場合がある.→ポリエステル樹脂.」(19頁左欄20?33行)
(3d)「アルキド樹脂塗料 alkyd resin coating =フタル酸樹脂塗料 塗料用のアルキド樹脂は無水フタル酸から作られたものが多いので,フタル酸樹脂塗料と呼ぶこともある.塗料に使用されるアルキド樹脂は油変性のものが多く,これは油の種類によって乾燥性,塗膜の性状が異なり,また油長によっても性状が違ってくる.乾性油変性形は自然乾燥または焼付け塗料に,不乾性油変性形は焼付け塗料に使用.他の樹脂との相溶性も良く,メラミン樹脂とブレンドしたものは焼付け塗料の代表的なもの.フェノール樹脂,アクリル樹脂,エポキシ樹脂,シリコーン樹脂等とブレンドすることで,耐水性,耐薬品性,耐候性等を向上させた自然乾燥塗料も多く使用.塗料形態はミネラルスピリット等の溶剤形,水とアミンまたはアンモニア中和および若干の有機溶剤を用いた水溶性,溶剤を含まない粉体塗料がある.塗装方法は自然乾燥型の場合は,刷毛,ローラー,吹付けともに作業性良好であり,焼付け型の場合は電着,浸漬,静電塗装とその適用範囲は幅広い.アルキド樹脂塗料の最大の特徴は使いやすく,美観,耐久性が良く,価格も比較的安価なことが挙げられる.」(19頁左欄34行?右欄16行)
(3e)「乾性油 drying oil ヨウ素価が130以上で,室温で酸化重合により乾燥塗膜を形成しうる油脂の総称.あまに油,きり油,オイチシカ油,サフラワー油等が含まれる.→ヨウ素価,半乾性油,不乾性油」(97頁右欄14?18行)
(3f)「乾燥剤 dryer =ドライヤー ボイル油,調合ペイント,油性系さび止めペイント,アルキド樹脂塗料,フェノール樹脂塗料に対して触媒的に働いて,酸化・重合作用を促進し,塗膜の乾燥時間を短縮させる添加剤.金属石鹸,鉛・マンガン・コバルト等の酸化物等が用いられる.一般にコバルト,鉛,マンガンのナフテン酸塩が多く用いられている.コバルト系は,最も乾燥力が強く,塗膜の表面から乾燥させる.鉛系は乾燥促進性は,やや劣り,塗膜の内部から乾燥させる.マンガン系は,その中間の働きをする.」(97頁右欄下から11行?98頁左欄1行)
(3g)「調合ペイント ready-mixed paint =溶解ペイント 塗装時にかた練りペイントのようにボイル油を加えて溶解する手数が不要で,かく拌して均一にすれば,そのまま直ちに刷毛で塗れるように製造したペイント.油性調合ペイントと展色剤にボイル油と長油性アルキドワニスを併用した合成樹脂調合ペイントがある.調合ペイントは素人にも容易に刷毛塗りできるため,2L,1L,1/5L(審決注:小文字の斜体のエルであるが、大文字の活字体で表した。)のような小さい印刷缶に入れて家庭用塗料としても販売される.」(251頁左欄下から8行?右欄2行)
(3h)「ボイル油 boiled oil =煮油 乾性油または半乾性油に触媒としてドライヤーを添加し,吹込み油と同様に加熱,空気吹込みを行って,酸化重合を行い,乾燥性を増進させた粘稠な油脂.空気酸化,漂白により添加した触媒による着色を防止できるが,さらに淡色製品を得るには,ドライヤーのカルボン酸としてリノール酸あるいはきり油脂肪酸の重金属塩が用いられる.塗装の際かた練りペイントや印刷インキの薄め液,調合ペイントや油性塗料に混合して不揮発分増加剤,塗装適性改良剤,顔料混練ビヒクル,あるいはさらにドライヤーを添加して油性ペイントの調製に利用.加熱重合油と比べて,酸素が導入されているので極性が大きく,顔料へのぬれがよい.原料としてあまに油を使用した場合は煮あまに油と呼ぶことがある(JIS K 5421).JIS K 5500のボイル油規格は,比重0.928?0.943(20℃),酸価6以下,ヨウ素価145以上,けん化価188以上,不けん化物2%以下,エーテル不溶性ヨウ塩化物試験に合格,乾燥時間30時間以内と規定されている.市販の安価なボイル油には魚油や鉱物を含むものがあり,魚油ボイル油は,色焼けおよび戻りがあり,魚油臭がはなはだしいものがある.→吹込み油,加熱重合油」(369頁左欄下から10行?右欄15行)
(3i)「ヨウ素価 iodine value;IV =ヨウ素数 有機化合物の不飽和度を示す指標の一つ.100gの油脂または樹脂が吸収したヨウ素のg数をいう.ヨウ素価の高いものは不飽和結合の多いこと,したがって乾燥性に富むことを示す.油はヨウ素価の大小によって130以上のものは乾性油,120?100は半乾性油,100以下のものは不乾性油に分類される.測定法として2つの方法がある.(1)ウィイス法:不飽和化合物に一塩化ヨウ素を作用させて,吸収されたハロゲン量をヨウ素に換算し,試料に対する百分率で表したもの.(2)ハヌス法:ウィイス法の一塩化ヨウ素の代りに一臭化ヨウ素を用いた方法.ウィイス法が一般的でハヌス法はあまり用いられない.」(422頁左欄下から6行?右欄9行)
(3j)「ワニス varnish 樹脂を溶剤に溶かしたものを揮発性ワニスといい,ダンマー,アスファルト等をミネラルスピリットに溶解した白ダンマーワニス,黒ワニス等はこれに属する.また揮発性ワニスのうち溶剤にアルコールを用いたものは酒精ワニスと呼ばれ,セラックを酒精に溶解したセラックワニスはその一例である.ラッカー,塩化ビニル樹脂塗料,塩化ゴム塗料もまた揮発性ワニスである.天然樹脂および合成樹脂等に乾性油を融合しドライヤーを加え,溶剤で希釈したものは油ワニスと呼ばれる.コーパルゴムを用いたものは油との配合割合によってボディーワニス,コーパルワニス,ゴールドサイズに分けられ,エステルゴムときり油からはスパーワニス,油溶性合成樹脂と油とからは各種合成樹脂ワニスが得られるなど,油性ワニスの種類は非常に多い.」(451頁左欄下から15行?右欄2行)

3 刊行物に記載された発明

(1)刊行物1には、その請求項1に係る発明として、
「四価金属酸化物の粒子、両親媒性酸系及び希釈剤を含有するゾルであって、前記粒子が200nm以下のd_(90) を有すること、並びに前記ゾルが次の特性:
・四価金属酸化物の粒子が微結晶凝集物、有利には二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり、この微結晶のd_(90)、有利には光度計による計数(高分解能透過型電子鏡検法)によって測定したd_(90) が5nm以下であり、凝集物の90質量%が1?5、好ましくは1?3の微結晶を含有すること;
・両親媒性酸系が、11?50個の炭素原子を有する酸であって且つ酸性水素を持つ原子に対してα、β、γ又はδ位置に少なくとも1個の枝分かれを有する前記酸少なくとも1種を含有すること:の少なくとも1つを有することを特徴とする、前記ゾル」
の発明が記載されている(摘示(1a))。このゾルは、有機相のゾル、すなわち「オルガノゾル」である(摘示(1b))。このゾルは、「塗料及びワニス産業において不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として」使用することができるものである(摘示(1m))。

(2)刊行物1の請求項1に係る発明においては、上記(1)のとおり、そのゾルが、2つの特性の少なくとも1つを有することが特定されている。この2つの特性について、刊行物1には、「粒子寸法」又は「粒子の基本的本質」についての拘束と、「両親媒性酸」についての拘束であるとして、説明がされている(摘示(1c)(1k))。そして、「粒子寸法」についての拘束が大きいが「両親媒性酸」についての拘束が少ないものを「第一の具体例」と称することが記載され(摘示(1c))、その詳細及び実施例が記載されるとともに(摘示(1d)?(1j)及び(1n))、「両親媒性酸」についての拘束が大きいが「粒子の基本的本質」についての拘束が少ないものを「第二の具体例」と称することとが記載され(摘示(1k))、その詳細及び実施例が記載されている(摘示(1L)及び(1o))。さらに、上記「第二の具体例」について記載した箇所に、「これら2つのタイプの拘束に応答するゾルが最も良い」と記載されている(摘示(1k))。
そこで、以下、これらの各態様について、刊行物1の記載内容を検討する。

(3)「第一の具体例」の態様について

ア 刊行物1には、「第一の具体例」の態様について、その作用、製造方法、製造に用いるセリウム(IV)塩水溶液、熱加水分解条件、希釈剤(溶媒)、両親媒性酸、及び粒子寸法に影響する条件について記載されている(摘示(1d)?(1j))。

イ 「粒子寸法」又は「粒子の基本的本質」についての拘束に関し、以下のように記載されている。
まず、「d_(90)」については、「本明細書において、粒子寸法特性はしばしば、d_(n) タイプの表記法(ここで、nは1?99の数である)で表わす。この表記法は多くの技術分野においてよく知られているが、しかし化学においては少々稀であるので、ここでその意味を説明する。この表記法は、粒子のn%(重量又はより正確には質量による。何故ならば、重量は物質の量ではなく、力だからである。)のものの寸法がある寸法と同等又はそれより小さいというような表記法である。即ち、『d_(90) が5nm以下である』とは、『全粒子の内の90%(質量による)のものが5nm以下の粒子寸法を有する』ということを意味する」と記載されている(摘示(1c))。
次に微結晶の凝集物の形については、「凝集物の少なくとも50質量%(統計値)が単結晶であるのが有利である。即ち、それらが単一の微結晶のみから成る{即ち、ゾルをHRTEM(高分解能透過型電子鏡検法)によって検査した時に、少なくとも、単一の微結晶のみから成るように見える}のが有利である。さらに、技術及び加水分解条件を変えることによって、微結晶の80質量%、好ましくは90質量%が、2?5nm、好ましくは3?4nmの範囲内から予め選択される値より小さい寸法のものであるようにすることができる」と記載されている(摘示(1d))。また、後記カでも示すが、「例1」には、得られたゾルは「コロイド寸法(TEMによって測定)が3?5nmである」と記載されている(摘示(1n))。
これらの記載によれば、刊行物1の請求項1に係る発明の1番目の特性である「二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり、この微結晶のd_(90)、有利には光度計による計数(高分解能透過型電子鏡検法)によって測定したd_(90) が5nm以下であり、凝集物の90質量%が1?5、好ましくは1?3の微結晶を含有する」の意味は、ゾルの、二酸化セリウムの微結晶の凝集物は、単一の微結晶からなるものと2以上の微結晶からなる凝集物の総称であり、それらの微結晶の凝集物を構成する個々の微結晶は、質量による90%が5nm以下の寸法の微結晶であり、それらの微結晶の凝集物は、質量による90%が単一の微結晶からなるものか2、3、4又は5の微結晶からなる凝集物である、というものであると認められる。

ウ 「両親媒性酸」についての拘束に関し、「10?約40個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸、脂肪族スルホン酸、脂肪族ホスホン酸、アルキルアリールスルホン酸及びアルキルアリールホスホン酸を用いることができ・・・る」こと(摘示(1i))、「模範的な例としては・・・オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びその異性体・・・を挙げることができる」こと(同)が記載されている。
この記載によれば、「第一の具体例」の態様は、両親媒性酸については、刊行物1の請求項1に係る発明の2番目の特性である「両親媒性酸」についての特定の炭素原子数や枝分かれの拘束を受けないものといえる。

エ また、「希釈剤」については、「不活性脂肪族若しくは環状脂肪族炭化水素又はそれらの混合物、例えばミネラルスピリット若しくはペトロリウムスピリット又はミネラルエーテル若しくは石油エーテル(芳香族化合物を含有していてもよい)であることができる。その例には、ヘキサン・・・が含まれる。また、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレンのような芳香族溶媒も好適であり、また、Solvesso{エクソン(Exxon) 社の登録商標名}タイプの石油留分、特にSolvesso 100(メチルエチルベンゼン及びトリメチルベンゼンの混合物を本質的に含有する)及びSolvesso 150(アルキルベンゼン類、特にジメチルエチルベンゼン及びテトラメチルベンゼンの混合物を含有する)も好適である」と記載されている(摘示(1h))。

オ さらに、「本発明に従えば、金属酸化物の有機コロイド分散液が得られ、このコロイドの寸法は非常に可変的であることができ、ある種のパラメーター、特に出発原料の水性コロイド分散液の直径を変えることによって調節することができ、熱加水分解条件に依存する」と記載されている(摘示(1j))。熱加水分解の温度は「80℃から反応混合物の臨界温度までの範囲、特に80?350℃の範囲」、圧力は「通常の大気圧又は加圧下」が挙げられている(摘示(1g))。

カ そして、実施例の欄の「第一の具体例の例」に、反応成分について、
「・予備中和してr=+0.5にした硝酸第二セリウム(本出願人によるヨーロッパ特許公開第153227号を参照)」、
「・オレイン酸抽出剤{これは、変更なしにオレイン(オレイン酸70%+リノール酸30%)に代えることができる}」、
「・溶媒、Solvesso 150(これは特定的なものでなく、Isopar L、ヘキサン又はディーゼル油にさえ代えることができる)」
と記載され、より具体的にゾルの製造を記載した「例1」には、摘示(1n)のとおりであるが、要約すれば、「予備中和してr=+0.5にした、セリウム濃度80g/リットルの硝酸第二セリウム」の溶液をオートクレーブに入れ、「オートクレーブ処理を160℃において4時間(1時間かけて昇温)」行い、その間撹拌を保ち、得られた溶液をろ過し、水に再分散して、CeO_(2) の濃度150g/リットルの「水性ゾル」を得て、これに、両親媒性酸としての「オレイン酸」と希釈剤としての「Solvesso 150」の所定量の混合物(オレイン酸/セリウムのモル比が0.3になり且つSolvesso 150/オレイン酸の比が3.75になる量;オレイン酸12.2g及びSolvesso 150 45.7g)を加えて、100℃において環流下で約10時間加熱し、冷却後に有機相を分離し、ろ過して、「安定度が4か月より大きく・・・コロイド寸法(TEMによって測定)が3?5nmであるゾルが得られた」ことが記載されている。なお、オレイン酸及びリノール酸は、枝分かれのないカルボン酸である。

キ 以上によれば、「第一の具体例」の態様は、刊行物1の請求項1に係る発明の態様であって、請求項1に特定された2つの特性のうちの「四価金属酸化物の粒子が微結晶凝集物、有利には二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり、この微結晶のd_(90)、有利には光度計による計数(高分解能透過型電子鏡検法)によって測定したd_(90) が5nm以下であり、凝集物の90質量%が1?5、好ましくは1?3の微結晶を含有すること」の特性を有する態様に対応するものであると認められる。
この特性の意味は、ゾルの、二酸化セリウムの微結晶の「凝集物」は、単一の微結晶からなるものと2以上の微結晶からなる凝集物の総称であり、それらの微結晶の凝集物を構成する個々の微結晶は、質量による90%が5nm以下の寸法の微結晶であり、それらの微結晶の凝集物は、質量による90%が単一の微結晶からなるものか2、3、4又は5の微結晶からなる凝集物である、というものであると認められる。
そして、オルガノゾルの「粒子寸法」が「d_(90) が5nm以下である」を満足するように、水性ゾル(水性コロイド分散液)を作るときの熱加水分解条件等に注意を払うようにし、そのことにより安定性の優れたオルガノゾルとしたものであり、「両親媒性酸」はオレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びその異性体等の広範なものを用いることができ、「希釈剤」もSolvesso 150、Isopar L、ヘキサン、ディーゼル油等を用いることができるものであると認められる。

(4)「第二の具体例」の態様について

ア 刊行物1には、「第二の具体例」の態様について、いくつかの拘束は上記「第一の部分」の説明と共通であることが記載されるとともに(摘示(1k))、両親媒性酸、粒子寸法、希釈剤、製造方法、遠心分離について記載されている(摘示(1L))。

イ 「両親媒性酸」についての拘束に関し、「15?25個の範囲の炭素原子数が好ましい」こと(摘示(1L))、「良好な結果を与えるカルボン酸の例としては・・・イソステアリン酸そのものであるのが有利である」こと(同)が記載されている。なお、両親媒性酸であって枝分かれを有するカルボン酸であるもので、具体的に挙げられているのは、イソステアリン酸だけである。

ウ 「粒子寸法」又は「粒子の基本的本質」についての拘束に関し、「全四価金属酸化物粒子の内の95%以上、有利には99%以上、好ましくは99.5%以上(全て質量による)のものが0.1μm以下、有利には0.05μm以下、好ましくは0.02μm以下の大きさのものである・・・ことが好ましい」ことが記載されている(摘示(1L))。
この記載によれば、「第二の具体例」の態様は、微結晶の寸法と凝集状態については、刊行物1の請求項1に係る発明の1番目の特性である「粒子寸法」又は「粒子の基本的本質」についての特定のd_(90) や凝集した数の拘束を受けないものといえる。

エ また、「希釈剤」については、「安定なゾルをもたらすものであればどのようなものであっても・・・用いることができる」と記載されている(摘示(1L))。

オ 「粗大な粒子の除去は・・・好ましい技術は遠心分離である」ことが記載されている(摘示(1L))。

カ そして、実施例の欄の「第二の具体例の例」の、具体的にゾルの製造を記載した「例4」には、摘示(1o)のとおりであるが、要約すれば、「硝酸セリウム(IV)溶液・・・を・・・予備中和した80g/リットルのCeO_(2) を含有する溶液」をオートクレーブに入れ、「1時間かけて温度150℃にもたらし、次いで150℃において4時間放置」し、冷却後にろ過し、水に再分散して、濃度160g/リットルの「水性ゾル」を得て、これに、両親媒性酸としての「イソステアリン酸」と希釈剤としての「Solvesso」の所定量からなる有機相(イソステアリン酸/セリウムモル比0.3及び有機相中の最終CeO_(2) 濃度40%が得られる量;イソステアリン酸19.9g及びSolvesso40.1g)を接触させ、15時間環流(100?103℃)し、有機相を分離し、ろ過し、必要に応じて遠心分離して、「完全に安定」なゾルが得られたことが記載されている。また、比較のゾルの製造を記載した「例5」には、調製を例4のとおり行うが、オレイン酸19.7g及びSolvesso40.3gを用いて得られたゾルは、「数日間でフラスコの底に僅かな析出物(析出物は特に酸化セリウムを含有する)が出現したので、安定性に劣る」ことが記載されている(摘示(1o))。なお、例4及び例5における粒子寸法は、明らかにされていないが、上記(3)カの「第一の具体例」の態様の「例1」のオレイン酸及びSolvesso 150を用いて得られたゾルが、安定度が4か月より大きく、コロイド寸法が3?5nmであったことからすると、この例4及び例5のゾルは、もっと大きい粒子寸法を有すると推定される。

キ 以上によれば、「第二の具体例」の態様は、刊行物1の請求項1に係る発明の態様であって、請求項1に特定された2つの特性のうちの「両親媒性酸系が、11?50個の炭素原子を有する酸であって且つ酸性水素を持つ原子に対してα、β、γ又はδ位置に少なくとも1個の枝分かれを有する前記酸少なくとも1種を含有すること」の特性を有する態様に対応するものであると認められる。
そして、オルガノゾルの「両親媒性酸」として好ましくは「イソステアリン酸」を用いることにより、安定性の優れたオルガノゾルとしたものであり、「粒子寸法」については「95%以上、有利には99%以上、好ましくは99.5%以上(全て質量による)のものが0.1μm以下、有利には0.05μm以下、好ましくは0.02μm以下の大きさのものである」と、最も限定された態様でも「99.5%以上が0.02μm(審決注:20nm)以下の大きさのもの」で、「第一の具体例」における「d_(90) が5nm以下である」と比べて緩い条件が許容されているものであり、「希釈剤」はSolvesso等の適宜のものを用いることができるものであると認められる。

(5)「これら2つのタイプの拘束に応答するゾル」の態様について
刊行物1には、上記(2)でみたとおり、上記「第二の具体例」について記載した箇所に、「これら2つのタイプの拘束に応答するゾルが最も良い」と記載されている(摘示(1k))。
「2つのタイプの拘束に応答するゾル」の態様とは、上記(3)及び(4)によれば、「第一の具体例」の態様における「粒子寸法」が「d_(90) が5nm以下である」を満足するように、水性ゾル(水性コロイド分散液)を作るときの熱加水分解条件等に注意を払うようにし、かつ、「第二の具体例」の態様における「両親媒性酸」として好ましくは「イソステアリン酸」を用いることにより、安定性の優れたオルガノゾルとするものであると認められる。
その具体的な製造について、実施例が明示されたものではないものの、刊行物1には、上記「第一の具体例」について記載した箇所に、「本発明に従えば、金属酸化物の有機コロイド分散液が得られ、このコロイドの寸法は非常に可変的であることができ、ある種のパラメーター、特に出発原料の水性コロイド分散液の直径を変えることによって調節することができ、熱加水分解条件に依存する」と記載され(摘示(1j))、両親媒性酸は、「オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びその異性体」等の広範なものが例として挙げられており(摘示(1i))、「例一の具体例の例」を記載した箇所に、「例1」の直前に「溶媒、Solvesso 150(これは特定的なものでなく、Isopar L、ヘキサン又はディーゼル油にさえ代えることができる)」と記載されていることからすると(摘示(1n))、刊行物1の「例1」に従い、ただ「両親媒性酸」として「オレイン酸」に代えて「イソステアリン酸」を用い、また「希釈剤」として「Solvesso 150」を用いるか適宜これに代えて「Isopar L」、「ヘキサン」、「ディーゼル油」を用い、製造すればよいことは、当業者には明らかであり、当業者がまず想定することといえる。したがって、そのような製造実施例も、実質的に記載されているに等しいということができる。
この態様が、刊行物1の請求項1に係る発明の態様であって、請求項1に特定された2つの特性の、両方を有する態様に対応するものであることも、当業者には明らかである。

(6)以上によれば、刊行物1には、その請求項1に記載された二酸化セリウムのゾルの発明であって、そのゾルが、その2つの特性の両方を有していて、両親媒性酸がイソステアリン酸である態様の発明が、記載されているということができる。
具体的な製造についても、刊行物1にこの態様の実施例が記載されているのではないものの、刊行物1の「例1」に従い、ただ「両親媒性酸」として「オレイン酸」に代えて「イソステアリン酸」を用い、また「希釈剤」として「Solvesso 150」を用いるか適宜これに代えて「Isopar L」、「ヘキサン」、「ディーゼル油」を用いて製造することが、まず想定されるから、実質的に製造例が記載されているに等しいといえることは、上記(5)で述べたとおりである。
そのゾルは、上記(1)で述べたように、「塗料及びワニス産業において不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として」使用することができるものなのであるから(摘示(1m))、刊行物1には、そのゾルを、塗料及びワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として使用することに関する発明、すなわち、そのゾルを、塗料又はワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として配合した塗料又はワニスの発明も、記載されているということができる。
したがって、刊行物1には、
「以下のゾルを、塗料又はワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として配合した塗料又はワニス:
該ゾルは、四価金属酸化物の粒子、両親媒性酸系及び希釈剤を含有するゾルであって、前記粒子が200nm以下のd_(90) を有すること、並びに前記ゾルが次の特性;
・四価金属酸化物の粒子が二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり、この微結晶のd_(90)、有利には光度計による計数(高分解能透過型電子鏡検法)によって測定したd_(90) が5nm以下であり、凝集物の90質量%が1?5、好ましくは1?3の微結晶を含有すること;
・両親媒性酸系が、11?50個の炭素原子を有する酸であって且つ酸性水素を持つ原子に対してα、β、γ又はδ位置に少なくとも1個の枝分かれを有する前記酸に該当するイソステアリン酸を含有すること;
の両方を有し:
該ゾルは、以下に示す「例1」に従い、ただ両親媒性酸としてオレイン酸に代えてイソステアリン酸を用い、また希釈剤としてSolvesso 150を用いるか適宜これに代えてIsopar L、ヘキサン、ディーゼル油を用いて製造されたものである;
例1
反応成分:
・予備中和してr=+0.5にした、セリウム濃度80g/リットルの硝酸第二セリウム、
・オレイン酸抽出剤。
第一工程
r=+0.5を有するCERELEC の溶液をタンタルで被覆されたオートクレーブに入れる。使用した溶液の濃度は、CeO_(2) として表わして80g/リットルである。オートクレーブ処理を、160℃において4時間(1時間かけて昇温)行なう。作業中ずっと撹拌を保つ。得られた溶液を、第4番ガラスフィルターを用いてろ過する。生成物を、次いで水に再分散させる、これは、安定な水性ゾルを得るのを可能にする。このゾルの濃度は150g/リットルだった。
製法の第二工程はコロイドを水性相から有機相に移すことである。定量的に求めた量のCeO_(2) 水性ゾルを丸底フラスコに入れ、これに、オレイン酸/セリウムのモル比が0.3になり且つSolvesso 150/オレイン酸の比が3.75になるような有機混合物を加える。本例においては、これによって、次のものを使用することになった:
・CeO_(2) 24.8g(即ち、濃度150g/リットルのゾル0.165リットル)、
・オレイン酸12.2g、
・Solvesso 150 45.7g。
次いで、この混合物を100℃において還流下で約10時間加熱する。冷却した後に、有機相を水性相から分離し、次いでこれを疎水性フィルターを用いてろ過する。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

4 対比・判断

(1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「四価金属酸化物の粒子、両親媒性酸系及び希釈剤を含有するゾル」は、「四価金属酸化物の粒子が二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり」、「両親媒性酸が・・・イソステアリン酸を含有する」ものであり、「希釈剤としてSolvesso 150を用いるか適宜これに代えてIsopar L、ヘキサン、ディーゼル油を用いて製造された」ものであり、「オルガノゾル」であるから(摘示(1b))、本願発明の「有機セリウムゾル」であって「セリウムゾルがセリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子、両親媒性酸系及び有機相を含み」といえるものに相当する。
引用発明における「両親媒性酸系が、11?50個の炭素原子を有する酸であって且つ酸性水素を持つ原子に対してα、β、γ又はδ位置に少なくとも1個の枝分かれを有する前記酸に該当するイソステアリン酸を含有する」は、本願発明における「両親媒性酸系が11?50個の炭素原子を含有する少なくとも1種の酸であってその酸の水素を保持している原子上に少なくとも1個のα、β、γ又はδ分岐を有するものを含み」に相当し、その酸は「イソステアリン酸」である。
引用発明における「・・・を・・・配合した塗料又はワニス」は、本願発明の「・・・を含む塗料組成物」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「有機セリウムゾルを含む塗料組成物であって、該セリウムゾルがセリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子、両親媒性酸系及び有機相を含み、該両親媒性酸系が11?50個の炭素原子を含有する少なくとも1種の酸であってその酸の水素を保持している原子上に少なくとも1個のα、β、γ又はδ分岐を有するものに該当するイソステアリン酸を含む、前記塗料組成物」
である点で一致し、以下の点で、一応相違する。
(相違点1)
本願発明は、ゾルが、「セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子が、d_(80) が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり、該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含む」と特定されているのに対し、引用発明は、ゾルが、特定の製造方法で製造されたものであり、「二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり、この微結晶のd_(90)、有利には光度計による計数(高分解能透過型電子鏡検法)によって測定したd_(90) が5nm以下であり、凝集物の90質量%が1?5、好ましくは1?3の微結晶を含有する」に該当するものではあるが、本願発明における上記の粒子寸法と凝集体の形態を備えるものかどうかが明示されたものではない点
(相違点2)
本願発明は、塗料組成物が「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤として有機セリウムゾルを含む」と特定されているのに対し、引用発明は、有機セリウムゾルを「塗料又はワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として配合した」ものである点

(2)上記相違点について検討する。

ア 相違点1について

(ア)相違点1に係る本願発明の「セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子が、d_(80) が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり、該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含む」の意味を、本願明細書の記載を参照して検討する。
まず「d_(80)」については、段落【0033】に、「本明細書において、粒度分布の特徴は、d_(n) 型(ここで、nは1?99の数である)の表記とする。この表記は、ある物体の寸法であってその物体の数のn%が該寸法以下である寸法を有するものを表す。例として、5ナノメートルのd_(80) とは、物体の数による80%が5ナノメートル以下の寸法であることを意味する」と記載されている。
次に、「セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子が、d_(80) が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり」については、「d_(80) が10nm以下」が「微結晶」に掛かるのか「凝集体」に掛かるのかで、2通りの解釈が可能であるが、段落【0036】?【0042】に「第2の実施形態」が説明されている中の、段落【0042】に、「微結晶凝集体によって構成される粒子のd_(80)、有利にはd_(90) は、せいぜい10ナノメートル、より具体的にはせいぜい8ナノメートルであることができる。凝集体、しかして粒子を構成する微結晶は、せいぜい5ナノメートルの寸法である」と記載されているので、「d_(80) が10nm以下」は「凝集体」に掛かり、凝集体の形態にある粒子の寸法を特定したものであると理解できる。
また、「該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含む」については、段落【0032】に、「凝集体の90重量%は、1?5種、好ましくは1?3種の微結晶を含む」と記載され、段落【0043】に、「考慮中のこの2つの実施形態及びさらなる変形例について、凝集体の80重量%が3?4種の微結晶を含む〔審決注:「3?4種の微結晶を含む」は「3?4の微結晶を含む」の誤りと認める。平成24年4月4日付けの手続補正により、明細書中の「n種の微結晶を含む」(「n」は自然数)の記載は、統一して「nの微結晶を含む」と補正されており、この箇所のみ補正しない理由が見出せない。〕」と記載されている。
さらに、段落【0034】に「粒子の凝集状態は、TEM(高分解能透過電子顕微鏡)下で又は極低温TEM技術を使用して分散体を検査することによって決定される」と記載されている。
これらの記載によれば、相違点1に係る本願発明の「セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子が、d_(80) が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり、該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含む」の意味は、ゾルの、セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子における微結晶の「凝集体」は、単一の微結晶からなるものと2以上の微結晶からなる凝集体の総称であり、それらの凝集体である粒子は、TEM(高分解能透過電子顕微鏡)下で又は極低温TEM技術を使用して分散体を検査することによって決定される凝集状態が、数による80%が10nm以下の寸法の粒子であり、重量による80%が3又は4の微結晶にからなる凝集体である、というものであると認められる。

(イ)次に、引用発明の「ゾルの特性」の「二酸化セリウムの微結晶の凝集物の形にあり、この微結晶のd_(90)、有利には光度計による計数(高分解能透過型電子鏡検法)によって測定したd_(90) が5nm以下であり、凝集物の90質量%が1?5、好ましくは1?3の微結晶を含有する」の意味は、上記3(3)キで述べたとおりである。すなわち、ゾルの、二酸化セリウムの微結晶の「凝集物」は、単一の微結晶からなるものと2以上の微結晶からなる凝集物の総称であり、それらの微結晶の凝集物を構成する個々の微結晶は、質量による90%が5nm以下の寸法の微結晶であり、それらの微結晶の凝集物は、質量による90%が単一の微結晶からなるものか2、3、4又は5の微結晶からなる凝集物である、というものであると認められる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、引用発明のゾルの上記「ゾルの特性」により特定された点と、相違点1に係る本願発明の「セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子が、d_(80) が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり、該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含む」との関係に関し、以下のことがいえる。
(i)引用発明は、二酸化セリウムの微結晶の凝集物の、質量で90%を占める単一の微結晶ないし2、3、4又は5の微結晶からなる凝集物からなる部分は、粒子の数でいえば、90%よりずっと多く、それらを構成する個々の微結晶は質量による90%が5nm以下の寸法の微結晶であるものであるので、その凝集物の寸法は、多くは10nm以下と解されるから、結局、数による80%以上が10nm以下の寸法の粒子であると解される。このことは、相違点1に係る「セリウムの酸化物及び/又は水酸化物の粒子が、d_(80) が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり」との構成を備えることに相当する。
(ii)一方、引用発明は、質量による90%が単一の微結晶からなるものか2、3、4又は5の微結晶からなる凝集物である、というものであるから、相違点1に係る本願発明の「該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含む」との構成を有するものを包含するが、それのみに特定されたものではない。
しかし、引用発明のゾルは、特定の製造方法で製造されたものであり、その「製造方法」により特定されたことにより、凝集物がより特定されたものであることも考えられるので、さらに検討する。

(エ)平成24年4月4日に請求人が提出した意見書を参照する。
当審が、平成23年9月29日付けで、特許法第36条第6項及び第36条第4項の拒絶理由を通知したのに対し、請求人は、上記意見書とともに参考資料1の有機セリウムゾルの透過電子顕微鏡写真と参考資料2のヒストグラムを提出し、上記意見書において、以下のように述べている。
「先の拒絶理由通知書においては、発明の詳細な説明には、本願所定のセリウムゾルの製造方法あるいは入手方法(市販品であれば商品名等)が具体的に記載されていないと指摘されている。
しかし、当業者であれば、本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識から本願所定のセリウムゾルを製造することが可能であると思料する。以下、その理由を説明する。
本願請求項1に係る発明は、塗料組成物に添加剤として含まれる有機セリウムゾルについて、所定のセリウムの粒子と特定の両親媒性酸系と有機相とを含むことと、そのセリウムの粒子が「d_(80)が10nm以下の微結晶の凝集体の形態にあり、該凝集体の80重量%が3?4の微結晶を含むこと」を特定している。
この本願所定のセリウムゾルは、先の拒絶理由通知書においても指摘されているとおり、特定の両親媒性酸系を用いる「第2の実施形態」である(本願明細書の段落[0036]?[0043]参照)。そして、同段落[0045]には、「上記の2つの実施形態のゾルは、欧州特許出願EP-A-0671205号に開示された方法を使用して製造できる」旨が記載されている。
この欧州特許出願は、本願出願前に公開されたものである。そうすると、この欧州特許出願における明細書等の内容は、「本願出願時の技術常識」ということができる。
この欧州特許出願の実施例(対応する特開平7-284651号公報の「第一の具体例の例」及び「例1」参照)には、セリウムゾルの製造について次のとおり記載されている。
「【0092】
【実施例】
第一の具体例の例
反応成分:特に記載がない限り、例において用いた反応成分は、次のものである。
・予備中和してr=+0.5にした硝酸第二セリウム(本出願人によるヨーロッパ特許公開第153227号を参照)
・オレイン酸抽出剤{これは、変更なしにオレイン(オレイン酸70%+リノール酸30%)に代えることができる}
・溶媒、Solvesso 150(これは特定的なものでなく、Isopar L、ヘキサン又はディーゼル油にさえ代えることができる)
【0093】例の一般的な手順:例の手順は、特に記載がない限り、次の通りである。第一工程は、寸法(TEM)が3?5nmであるCeO_(2) コロイドの水性ゾルである先駆体を合成することから成る。r=+0.5を有する硝酸第二セリウム溶液をタンタルで被覆されたオートクレーブに入れる。使用した溶液の濃度は、CeO_(2) として表わして80g/リットルである。オートクレーブ処理を、160℃において4時間(1時間かけて昇温)行なう。作業中ずっと撹拌を保つ。オートクレーブ処理の結果として、生成物が沈降する。次いでこれを母液から分離する(ろ過し、乾燥させる)。それを、次いで水に再分散させる、これは安定な水性ゾルを得るのを可能にする。このゾルの濃度は150g/リットルである。
【0094】例1
反応成分:
・予備中和してr=+0.5にした、セリウム濃度80g/リットルの硝酸第二セリウム、
・オレイン酸抽出剤。
【0095】第一工程
r=+0.5を有するCERELEC の溶液をタンタルで被覆されたオートクレーブに入れる。使用した溶液の濃度は、CeO_(2) として表わして80g/リットルである。オートクレーブ処理を、160℃において4時間(1時間かけて昇温)行なう。作業中ずっと撹拌を保つ。得られた溶液を、第4番ガラスフィルターを用いてろ過する。生成物を、次いで水に再分散させる、これは、安定な水性ゾルを得るのを可能にする。このゾルの濃度は150g/リットルだった。
【0096】製法の第二工程はコロイドを水性相から有機相に移すことである。定量的に求めた量のCeO_(2) 水性ゾルを丸底フラスコに入れ、これに、オレイン酸/セリウムのモル比が0.3になり且つSolvesso 150/オレイン酸の比が3.75になるような有機混合物を加える。本例においては、これによって、次のものを使用することになった:
・CeO_(2) 24.8g(即ち、濃度150g/リットルのゾル0.165リットル)、
・オレイン酸12.2g、
・Solvesso 150 45.7g。
次いで、この混合物を100℃において還流下で約10時間加熱する。冷却した後に、有機相を水性相から分離し、次いでこれを疎水性フィルターを用いてろ過する。
【0097】次いで、ゾルの正確な純度を、か焼法によって測定する(950℃において6時間後の固体含有率)。このようにして、測定した安定度が4か月より大きく(サンプルの持続期間)、CeO_(2) 濃度が29.1%(質量)であり且つコロイド寸法(TEMによって測定)が3?5nmであるゾルが得られた。」
(引用終わり)
当業者であれば、これらの記載を参考にして、本願明細書の記載(段落[0036]?[0043]及び実施例)の記載に基づき、本願請求項1に係るセリウムゾルを製造することができると思料する。
このことを実証するために、審判請求人は、上記欧州特許出願の「例1」の記載に基づいてセリウムゾルを製造した。ただし、オレイン酸の代わりに「イソステアリン酸」を使用し(対応する特開平7-284651号公報の段落[0052]の記載に基づく)、溶媒として「Solvesso 150」の代わりに「Isopar L」を使用した(同[0092]の記載に基づく)。
その結果を、今般提出した参考資料1及び2に示している。
参考資料1は、上記方法に従って製造された有機セリウムゾルの透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、参考資料2は、この写真から得られたヒストグラムである。
なお、このTEM写真は、透過電子顕微鏡Philips CM 30により924000倍率で撮影されたものである。
参考資料2のヒストグラムから、
・凝集体の約52重量%が3個の結晶を含み、
・凝集体の約30重量%が4個の結晶を含む
ことが分かる。
つまり、これらの結果から、製造されたセリウムゾルの凝集体の約80重量%が3?4個の結晶を含むことは明らかである。なお、ヒストグラムを得る際の測定精度のため、80%と82%とは、測定不確実性の範囲内である。
そして、特開平7-284651号公報の[0097]における「コロイド寸法(TEMによって測定)が3?5nmであるゾルが得られた」旨の記載から、製造されたセリウム粒子が「d_(80) が10nm以下の微結晶」の凝集体の形態にあることも明らかである。 したがって、上記欧州特許出願の実施例に記載された方法を参考にして、本願明細書の記載に基づき、本願請求項1に係るセリウムゾルを製造することができるといえる。」(平成24年4月4日提出の意見書、【意見の内容】の「[3]理由2について」の項)
上記意見書中の「特開平7-284651号公報」とは、刊行物1のことであるから、この意見書の記載によれば、請求人は、引用発明のゾルの粒子寸法と凝集状態が、本願発明と同じであることを、自ら認めている。

(オ)本願明細書の記載を参照する。
本願明細書には、本願発明の有機セリウムゾルの製造については、段落【0045】に、
「上記の2つの実施形態のゾルは、欧州特許EP-A-0671205号に開示された方法を使用して製造できる。所望ならば参照されたい。この方法は、本質的に、セリウムを含有する水性相、一般的にはセリウム(IV)塩の水溶液を加水分解させて酸化セリウムを沈殿させることからなる。加水分解は、該水性相を少なくとも80℃であることができる温度に加熱することによって実施される。第2段階で又はそれと同時に、得られた酸化セリウムの懸濁液を前記両親媒性系を含む有機相と接触させる。」
と記載されている。
他に、段落【0046】?【0047】に「第3の実施形態」に関し他の文献が引用されるが、この実施形態は「粒子の少なくとも90%が単結晶である」態様であるから、本願発明とは異なる。
また、実施例には、段落【0056】に
「以下の例において、本発明のゾルは、ゾルであってその粒子が微結晶の凝集体の形であるもの(そのd_(80) はせいぜい8ナノメートルであり、該粒子は2?5種の微結晶を含む)であった。このゾルの有機相はIsoparLによって構成され、そして両親媒性酸はイソステアリン酸であった(ユニケマ・インターナショナル社製のPrisorine3501)。」
と記載されているが、製造方法は何ら具体的に記載されていない。
他には、製造方法に関する記載はない。
そして、上記の「EP-A-0671205号」と、刊行物1である「特開平7-284651号公報」は、同じ2つのフランス特許出願を優先権主張の基礎出願として、前者は1995年9月13日に、後者は1995年10月31日に、それぞれ公開公報が発行されたもので、同じ内容である。
そうすると、本願明細書に、本願発明の有機セリウムゾルの製造について、刊行物1の記載内容を超えた詳細な製造方法が記載されているということはできないし、刊行物1に記載されているうちから特定の条件を選択して製造することが記載されているということもできない。

(カ)上記(ア)?(ウ)の検討に加えて上記(エ)及び(オ)を考慮すると、本願発明の有機セリウムゾルと、引用発明のゾルは、実質的に同じものであり、上記相違点1は、本願発明と引用発明との実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について

(ア)引用発明は、特定の二酸化セリウムのゾルを、塗料又はワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として配合した塗料又はワニスの発明である。このような、乾燥剤が配合される、不飽和油を含む塗料又はワニスは、具体的には、乾性油すなわち不飽和油を用いたアルキド樹脂塗料や油ワニスなどが代表的なものであることは、塗料の技術分野の当業者が直ちに想起し得ることであり、周知文献2の「JISハンドブック」や周知文献3の「塗料用語辞典」に記載される各種の塗料用語の説明(摘示(2a)?(2h)、(3a)?(3j))を参照すれば明らかなとおり、技術常識である。
一方、本願発明は、「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤として有機セリウムゾルを含む塗料組成物であって、該有機セリウムゾルが・・・」と特定された発明であり、有機セリウムゾルが添加される「塗料」については、何ら特定されていないものであるが、本願明細書の段落【0011】に、
『本明細書において、用語「塗料」は、ある種の基材上に付着される重合体特性の塗料、より正確に言えば、本質的に有機塗料、ワニス及び仕上げ塗料を示すために使用するものとする。用語「仕上げ塗料」及び「ワニス」は、考慮中の技術分野における通常の意味を有するものとする。仕上げ塗料は、一般に、木材を保護するためにそれに塗布される透明又は半透明の組成物であって、このものが下塗りであるか又は上塗りであるかに依存してほぼ10重量%又は40重量%?50重量%であることができる乾燥物含有量を有するものである。ワニスは、仕上げ塗料よりも濃縮された処方物又は組成物である。』
と記載され、段落【0012】に、
「次の樹脂を基材とする次の塗料は、本発明に関わる組成物である:アルキド樹脂であってその最も一般的に使用されてるのがグリセロフタル酸と呼ばれるもの、短鎖オイル又は長鎖オイルで変性された樹脂、アクリル酸及びメタクリル酸のエステル(メチル又はエチル)から誘導されるアクリル酸樹脂であって随意としてアクリル酸エチル、アクリル酸2-エチルヘキシル又はアクリル酸ブチルと共重合されたもの、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール及び塩化ビニル・酢酸ビニル/塩化ビニリデン共重合体のようなビニル樹脂、通常は変性されたアミノプラスト又はフェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース樹脂又はニトロセルロース樹脂。」
と記載され、段落【0053】以降の実施例においては、「例1」では「アルキド仕上げ塗料」が用いられ、「例6」及び「例7」では「グリセロフタル酸塗料」が用いられており、これらはアルキド樹脂塗料である。
そうすると、ゾルが添加される塗料の種類は、具体的に検討しても、本願発明と引用発明とで、相違するものではない。

(イ)本願発明においては、有機セリウムゾルは、「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」であると特定されている。この、「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」の意味については、本願明細書に定義する記載は見当たらないが、従来技術に関し、段落【0003】?【0004】に、
「塗料、特に仕上げ塗料及びワニスは、木材を保護するために日常的に使用されている。
しかしながら、例えば、イソシアネート複合物のような有機物質、酸化鉄のような無機物質又はUV吸収剤(例えば、ベンゾトリアゾール)のような保護用添加剤を主体とする複合処方を有する既知の仕上げ塗料及びワニスは、完全に満足のいく耐久性又はUV放射に対する保護を示すわけではない。有機UV吸収剤は時間と共に分解し得る(これらのものは表面に移動し、又は悪天候によって浸出する)。二酸化チタンのような既知の無機UV吸収剤は、UVに対して有効である程度に高濃度で使用しなければならないが、その濃度の増加は、ワニス又は仕上げ塗料の透明性、耐候性又は機械的性質に対して有害である。さらに、UV硬化性処方物がかなりの数使用されつつある。しかしながら、有機UV吸収剤は、木材への塗布中に該処方物の硬化を妨害し得る。」
と記載され、本願発明の利点について、段落【0008】に、
「該ゾルを取り入れた組成物は、改善された防水性及び機械的性質を有し、しかして、これはそれらの耐用年数又はこれらのものが保護する基材上に存在する期間を長くする。また、これらの老化特性も改善できる。」
と記載され、段落【0053】以降の実施例においては、本願発明の有機セリウムゾルを添加した塗料が、比較例としての、UV吸収剤を含まない塗料、有機UV吸収剤(チバ社製のTinuvin1130)を含む塗料、又は無機UV吸収剤(ザハトレーベン社製のHombitec RM400)を含む塗料と比較され、塗膜の比色(黒色背景での透明度、色合い)、防水性(水の接触角、色合いの変化)、老化(光照射による色合いの変化)、機械的性質(硬度、耐引掻性)等が評価されている。
そうすると、本願発明における「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」とは、「UV吸収剤」すなわち「紫外線吸収剤」としての作用を有するとともに、防水性や機械的性質を高める作用を有する「添加剤」を意味していると認められる。

(ウ)本願発明と、引用発明とで、塗料に添加又は配合されるゾルは、相違点1について上記アで検討したとおり、実質的に同じものである。

(エ)上記(ア)?(ウ)を前提に検討すると、本願発明において、その有機セリウムゾルが、「紫外線吸収剤」としての作用などにより、「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」として把握できるものであるとしても、引用発明においても、同じ塗料に同じゾルが配合されるのであるから、引用発明においても、そのゾルは、同様の作用、機能を発揮するものであるといえる。
すなわち、有機セリウムゾルを、「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」として添加したか、「塗料またはワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤」として配合したかにより、本願発明の塗料組成物と、引用発明の塗料またはワニスとが、相違するものであるということはできない。
したがって、相違点2は、本願発明と引用発明との実質的な相違点ではない。

(3)以上のとおり、相違点1及び2は、いずれも本願発明と引用発明との実質的な相違点ではないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

(4)ア なお、請求人は、平成24年4月4日に提出した意見書において、拒絶査定の備考に審査官が、
「塗料用の乾燥剤(ドライヤー)とは、塗料中の成分を硬化するための添加剤を意味しており、塗料成分の硬化が進むということは、塗膜の防水性、耐老化性及び耐引掻性が向上するということを意味しているので、本願発明と引用例2に記載された発明とに相違する点は認められず、上記意見書の主張については採用できない。」、
「また、本願発明と引用例2に記載された発明の塗料組成物は、全く同一の成分からなるものであるから、両者を「組成物」として区別することはできず、そして、引用例1の第1頁の要約及び第6頁の段落0030?0032には、酸化セリウムの無機酸化物微粒子の有機溶剤分散体をコーティング剤組成物に配合することにより、硬化性が良好で、耐擦傷性保護膜を形成し、保護被膜自身の耐候耐久性を向上させることが可能になることが記載されているところ、引用例2に記載された二酸化セリウムのオルガノゾルが、「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」としての機能を奏することは、当業者にとって自明の域を出るものではない。」
と説示したことに対して、概略、以下の主張をしている。
(i)『引用例1の「段落0008」における「シラノール縮合触媒を配合し、…高硬度で耐擦傷性に優れた硬化被膜が得られる」旨の記載から、良好な硬化性及び耐擦傷性保護膜の形成は、酸化セリウム等の無機酸化物粒子による作用ではなく、「シラノール縮合触媒」の作用によるものであると考えられる。そのため、引用例1の記載から、引用例1の無機酸化物粒子が防水性及び耐引掻性を改善させることは認識できない。また、上記のように、引用例2のセリウムゾルは、「乾燥剤(ドライヤー)」であって、「耐久性を改善させる添加剤」ではない。
したがって、引用例2に記載の二酸化セリウムのオルガノゾルが「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」としての機能を奏することは、当業者にとって自明のことではない。
よって、本願発明は、引用例2に記載された発明ではなく、また引用例1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。』(平成24年4月4日提出の意見書、【意見の内容】の「[4]特許法第29条の拒絶理由について」の項)
(ii)『本願発明と引用例2に記載された発明の塗料組成物は、全く同一の成分からなるものであるから、両者を「組成物」として区別することはできないと認定されていますが、仮にそうだとしても、本願所定の有機セリウムゾルを「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」として使用することは、上記のとおり引用例2に記載の発明とは明確に区別することができると思料します。
従いまして、上記特許法第29条の拒絶理由に対する反論を考慮しても、なお「塗料組成物」に関する本願請求項に係る発明に対する同拒絶理由が解消しないとの御心証ならば、本願請求項における「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤として有機セリウムゾルを含む塗料組成物」の記載を「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤としての有機セリウムゾルの使用」に再度変更する補正を行う機会をいただきますようよろしくお願い申し上げます。』(同上、「[4]特許法第29条の拒絶理由について」の項)
上記において、「引用例2」は、特開平7-284651号公報(原審における引用文献2)であり、刊行物1である。「引用例1」は、特開平10-102002号公報(原審における引用文献1)である。

イ 上記(i)の主張については、上記4(2)イで相違点2について検討したとおりであり、同じ塗料に同じゾルが配合されるのであるから、そのゾルを、「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」として添加したか、「塗料またはワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤」として配合したかにより、本願発明の塗料組成物と、引用発明の塗料またはワニスとが、相違するものであるということはできない。

ウ なお、上記(i)及び(ii)の主張において、請求人は、引用発明のゾルが「塗料組成物の耐久性を改善させるための添加剤」としての機能を奏することは、当業者に自明のことではないと主張している。当審は、この主張も理由がないと考える。構成が同一である以上、添加剤の機能が自明であるか否かは新規性の判断に影響を与えるものではないが、念のため、その理由を以下に簡単に示す。

(ア)「塗料組成物の耐久性を改善させる添加剤」の意味については、上記4(2)イ(イ)で検討した。紫外線吸収剤としての作用を有するとともに、防水性や機械的性質を高める作用を有する添加剤を意味していると認められる。

(イ)一方、塗料の技術分野においては、塗料に紫外線吸収剤を配合するにより塗膜の耐久性を高めることができることは、技術常識である。例えば、
周知文献3として引用した文献である「塗料用語辞典」にも、「紫外線吸収剤 ultraviolet [light] absorber 塗膜に有害な紫外線を吸収して無害な熱エネルギーに変換し,塗膜の劣化(光沢の低下,ブリスタリング,ベースコートの色の変褪色)を防ぐために加える添加剤.代表的なものにベンゾトリアゾール系,ベンゾフェノン系,シュウ酸アニリド系.シアノアクリレート系がある.→ベンゾフェノン系紫外線吸収剤,ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」と記載されている(167頁右欄)。
特公昭62-55557号公報には、多彩模様塗料についてではあるが、該塗料を構成する透明な溶媒部塗料及び着色された模様部塗料のための添加剤として、「紫外線吸収剤」が挙げられ、一般的塗料用途の添加剤であるとされている(特許請求の範囲、2頁3欄26?34行、4欄11?16行、5頁9欄11行)。
特開平10-102002号公報(引用例1:原審における引用文献1)には、光硬化性コーティング剤組成物についてではあるが、「チタン、セリウム及び亜鉛から選ばれる少なくとも1種の原子を含有し、波長が400nm以下の光線を吸収する無機酸化物微粒子」を含有する組成物が、遮光効果に優れるので保護被膜自身及び被覆された基材の耐候耐久性を向上させることが可能であるとされ(特許請求の範囲、段落【0007】)、従来技術に関連して、有機系UV吸収剤についても言及されている(段落【0002】)。

(ウ)また、塗料の技術分野においては、塗料に無機系の充填剤を配合することにより塗膜の機械的強度を高めることができることは、技術常識である。例えば、
特開平7-286116号公報(原審における引用文献4)には、活性エネルギー線硬化性被覆組成物についてではあるが、「コロイド状金属酸化物」例えば「コロイド状シリカ、コロイド状酸化チタン、コロイド状酸化アンチモン、コロイド状酸化亜鉛、コロイド状酸化スズ、コロイド状酸化タングステン等の1種または2種以上」又は「酸化アンチモン・シリカゾル、酸化チタン・シリカゾル、酸化セリウム・酸化チタンゾル、酸化鉄・酸化チタンゾル、酸化アンチモン・酸化チタンゾル、酸化タングステン・酸化スズゾル等の混晶ゾル」を含有する組成物が、その成分により耐摩耗性が向上するとされ(特許請求の範囲、段落【0009】)、従来技術に関連して、ハードコート剤の耐摩耗性を向上するため、微粉末状無機充填剤やコロイダルシリカを添加することについて、複数の文献を引用して言及されている(段落【0003】)。

(エ)さらに、引用発明において、両親媒性酸であるイソステアリン酸が用いられているのは、ゾルの二酸化セリウムの粒子を、脂肪可溶性にするためで(摘示(1e))、すなわち疎水化処理していることに他ならないから、引用発明のゾルを塗料又はワニスに配合すると、塗膜の疎水性を高め、防水性を高めることができることは、当業者に明らかである。

(オ)以上によれば、引用発明において、塗料またはワニスの不飽和油の乾燥を促進するための乾燥剤として配合される、二酸化セリウムのゾルが、無機系の紫外線吸収剤としての作用を有するものであり、塗膜の耐摩耗性を向上させる作用及び塗膜の防水性を高める作用を有するものでもあることを、当業者は直ちに理解できるといえる。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-29 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-17 
出願番号 特願2003-571357(P2003-571357)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 小出 直也
橋本 栄和
発明の名称 塗料、特に仕上げ塗料又はワニスにおける有機セリウムゾルの使用  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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