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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1266934
審判番号 不服2009-1078  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-13 
確定日 2012-11-28 
事件の表示 特願2001-511940「ヒアルロン酸と成長因子を用いた骨成長促進方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月 1日国際公開、WO01/07056、平成15年 2月12日国内公表、特表2003-505422〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2000年7月26日(パリ条約による優先権主張1999年7月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年10月6日付けで拒絶査定がなされたのに対し、平成21年1月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、当審からの平成23年11月16日付け拒絶理由通知に対し、平成24年4月16日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1?10に係る発明は、平成24年4月16日付け誤訳訂正書における特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
関節内部位において、疾患を有する、負傷した又は異常な骨を治療するための組成物であって、
骨成長の速度及び規模を増大するために有効な量のヒアルロン酸と成長因子の混合物を含み、且つ、前記骨成長の速度及び規模の増大を達成するための時間にわたって所望の骨成長部位である関節内部位において、前記混合物が残存するための粘性及び生分解性を有する、前記組成物。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用例

平成23年11月16日付け当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物Aである「Michael L. Radomsky et al., Clinical Orthopaedics and Related Research, 1998年, No.355S, p.S283-S293」(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(英文のため日本語訳で記載する。また、下線は当審で付加した。)

(1a)「線維芽細胞増殖因子ファミリーメンバーとして特別に興味深い塩基性線維芽細胞増殖因子は、有糸分裂誘発、走化性、分化および血管形成を促進させる。また、血管系、神経系および骨格系の発達において重要な役割を果たし、特定組織の維持および生存を助長し、創傷治癒と組織修復を促進させる。動物試験により、新たな骨折部に線維芽細胞増殖因子を直接注入することによって、仮骨形成が促進され、骨折に対する機械的安定性が得られ、治癒が加速し、能力が回復することが明らかになった。」(S283頁左欄第7?20行)
(1b)「骨折部位で線維芽細胞増殖因子を存在させるために用いられる基質は、治療の有効性において重要な役割を果たす。ここでは、注入可能なヒアルロン酸ナトリウムゲル中の塩基性線維芽細胞増殖因子の、骨折治癒促進における有効性の評価について記述する。ウサギを対象にして、新たに発生した腓骨骨折部に直接投与する場合は、塩基性線維芽細胞増殖因子とヒアルロナンを単回投与することにより、骨折部位では、仮骨形成の促進、骨形成の増大および機械的強度の早期回復が発生する。ヒアルロン酸ゲルは、骨折治癒を促す環境を作り出すために必要な期間、注入部位で塩基性線維芽細胞増殖因子を封鎖するための貯蔵場所の役目を果たす。結論としては、塩基性線維芽細胞増殖因子及びヒアルロン酸ナトリウムが骨折治癒を加速させるために相乗的に作用することから、骨折の治療として臨床評価を行う場合には、この両者を併用することが適している。」(S283頁左欄第21行?右欄第14行)
(1c)「骨折治癒以外の整形外科において、FGFの効果を調査する多数の研究結果が報告されている^(20,23,32,35-37)。Shidaらは、bFGFが軟骨に及ぼす効果を調査した際、bFGFにより軟骨細胞の増殖が促進され、関節軟骨が発達し、その後軟骨が腫張することを明らかにした^(32)。」(S284頁右欄下から2行?S285頁左欄第6行)
(1d)「骨折治癒に用いるための基質
組織の修復に成長因子を有効に利用するには、成長因子を局所的に送達させる基質と組み合わせて投与し、組織の再生を促進する環境を確立する必要がある。この方法では、基質は、細胞反応全体の型を決定する際に主要な役割を果たす。ヒアルロナンなどの天然グリコサミノグリカンポリマーは、理想的な物理的特性、化学的特性および生物学的特性を有し、骨折治療にbFGFを使用する場合に、有効な基質として機能を果たす。
ヒアルロナンは、負電荷を持つ直鎖状の多糖であり、ほとんどの組織の細胞外基質でみられるグルクロン酸とN-アセチルグルコサミンが交互に連なった残基から成る。ヒアルロナンの主要な機能的役割は、その流体力学的特性および特異的細胞表面受容体と分泌された基質タンパク質との相互作用に直接関連がある。最も特徴的なヒアルロナンの物理的特性は、この重合体溶液の粘弾性および剪断減粘性である。ヒアルロナンは、細いゲージの針から容易に投与することができる非常に粘度の高い水溶性ゲルを形成する^(19)。ヒアルロナンのこのような特性から、タンパク質およびペプチドのほか、従来の医薬品を持続して全身投与を行う担体として使用できるようになった^(9,18,22,28)。高分子量の外因性ヒアルロナンも、in vitroおよびin vivoでの間葉細胞の補充および分化に及ぼす影響によって、新しい骨の形成を加速させた^(27,30)。」(S285頁左欄第33行?右欄第23行)
(1e)「組換え型ヒトbFGFは、Scios(Mountain View、カリフォルニア)の提供を受けた。細菌誘導ヒアルロナン(分子量1.2?1.3 x 106)は、Lifecore(Minneapolis、ミネソタ)の提供を受けた。鶏のトサカから精製したヒアルロナンは、Anika Therapeutics(Woburn, マサチューセッツ)の提供を受けた。フィブリノゲンおよびトロンビンは、Sigma(St Louis, ミズーリ)の提供を受けた。製剤は無菌状態で調製され、クエン酸ナトリウム緩衝液、フィブリンゲルまたはヒアルロナンゲルに適切な濃度のbFGFを含ませた。」(S286頁左欄第5?15行)
(1f)「ウサギ腓骨の骨切り術
bFGFを投与した場合の腓骨は、未処置の部位で観察される仮骨よりも頑強で、大きかった。これに伴い、bFGF投与群では、骨量も多く(図2)、骨芽細胞活動(図3)の増大が持続した。23日目には、仮骨総数および新しい骨面積が最大となり、30日目までに減少した。これは、正常な骨折治癒および再構築と同じパターンである。対照群またはbFGF投与群の骨切り術部位において、有意な壊死またはその他の病理的炎症の変化は、認められなかった。」(S288頁右欄第7行?S289頁左欄第8行)
(1g)「ウサギ骨折モデルでは、骨折時に単回投与することにより仮骨が大きくなり、骨量、骨芽細胞数および活性が増大する。bFGF含有ヒアルロナンゲル投与群では、骨折した骨の機械的強度が全体的に増大した。このような変化はいずれも、骨折治癒の正常な順序を変えることなく発生し、明白な病理的プロセスはいずれも発生しない。これらのデータは、以前に公表されたFGFが骨折治癒において重要な役割を担っている可能性があることを示唆する報告^(5)を裏付けるものである。」(S290頁右欄下から3行?S291頁左欄第9行)

平成23年11月16日付け当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物Bである「神宮司誠也,関節外科-基礎と臨床-,1995年,Vol.14 No.8,p43-49」(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。)

(2a)「成長因子関節内投与による影響
では,関節内に投与するとどうなるのか。著者らは2つの実験をした。ひとつは生後1カ月のラットの膝関節,即ち,成長しつつある関節に,もう一つは成長したマウス(生後10週)の膝関節にbasic FGFを投与し,その影響について検討した。成長しつつある関節では投与後1週間後より関節軟骨の辺縁部が増大した(図4)^(12))。同部の比較的未熟な軟骨細胞が増殖し,軟骨細胞が過形成されたものと思われた。増大した軟骨組織はその後表層を残し,内軟骨性骨化にて骨組織へと置換された。成長したマウスでは,関節軟骨組織は増大せず,関節軟骨組織近傍の軟骨膜や滑膜の細胞が増殖し,投与後7日目では軟骨組織となり,投与後14日目には内軟骨性骨化にて骨組織へと置換された(図5)。その組織学的形態より骨棘が形成されたと考えられた。本来の関節軟骨組織は増大しなかったが,プロテオグリカンの産生は上昇していた。結局,成長しつつある関節においても,成長した関節においても,幼弱な軟骨細胞や,その後軟骨細胞になりうる細胞,即ち軟骨前駆細胞がbasicFGF投与により増殖促進作用を受け,関節内に軟骨組織形成が誘導されたと考えられた。」(第46頁左欄第6行?第47頁右欄第3行)
(2b)「結局,変形性関節症については従来の関節を温存する方法の適応を広げる,その成績をより安定させるのに成長因子が補助的に役にたつ可能性はあるのではないかと考えており,今後の研究の親展が期待される。」(第48頁右欄第3?7行)

平成23年11月16日付け当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物Cである国際公開第97/49412号(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。(英文のため、日本語訳で記載する。また、下線は当審で付加した。)

(3a)「1.(1)自己架橋ヒアルロン酸、または自己架橋ヒアルロン酸と非架橋ヒアルロン酸の混合物、および(2)医薬的に受容し得る賦形剤、希釈剤または担体、を含む、関節障害を処置するための医薬組成物。」(請求項1)
(3b)「4.少なくとも1の薬理学的に活性な物質を更に含む請求項1?3のいずれかに記載の医薬組成物。」(請求項4)
(3c)「10.薬理学的に活性な物質が麻酔剤、上皮親和性ビタミン、ホルモンタイプの抗炎症/鎮痛剤、サイトカイン、サイトカイン受容体、または増殖因子である請求項4に記載の医薬組成物。」(請求項10)
(3d)「13.自己架橋ヒアルロン酸と非自己架橋ヒアルロン酸の割合が約95:05?約05:95である請求項3に記載の医薬組成物。」(請求項13)
(3e)「15.請求項1に記載の医薬組成物の有効量を関節障害によって影響を受けている患者に関節内に投与することを含む処置方法。」(請求項15)
(3f)「本発明の製剤の更なる目的は、関節障害の処置のために関節に注入される外来のHAの滞留時間を増加させることである。」(第3頁第15?18行,注;「HA」は「ヒアルロン酸」を意味する。)
(3g)「従って、場合により適当な医薬賦形剤または担体および/または関節内使用の薬剤を伴う、新しい、ヒアルロン酸(HA)および/または自己架橋多糖(ACP)をベースにした組成物を提供するのが本発明の目的であり、該組成物は関節障害の処置のための適当な粘弾性的な性質を有する。」(第3頁第20?26行)
(3h)「ACP単独の理想的でないレオロジー的性質は、患者の条件および処置すべき関節に従って2つの成分の割合を変えて、ACPと非改変HAの混合物から作った医薬組成物を製造することにより、埋め合される。」(第6頁第27?31行)
(3i)「本発明のACP/HA製剤は、医薬組成物へとすることができ、麻酔薬、抗生物質、ステロイド性および非ステロイド性の抗炎症剤、ソマトスタチナ等のホルモンタイプの抗炎症剤、上皮親和性のビタミン、IL-1およびIL-6等のサイトカイン、サイトカイン受容体、FGF等の増殖因子等の適当な医薬的に活性な薬剤、および許容し得る賦形剤と組合せ得る。更に、HAが銀、銅、亜鉛およびカルシウム塩と塩化された、ACPおよびHAの混合物から出発する医薬組成物を用いることも可能である。これらの医薬組成物は、関節内使用のため半固体または液体の製品に製剤化し得る。」 (第7頁第1?14行)
(3j)「本組成物に用いるACP誘導体は、ヒアルロン酸の自己架橋誘導体である。」 (第7頁第22?24行)

引用例1で用いられている「bFGF含有ヒアルロナンゲル」((1g))は、bFGFすなわち塩基性線維芽細胞増殖因子とヒアルロナンゲルを含有する組成物であり((1b))、該組成物は、ウサギの腓骨骨折部に直接投与することにより、仮骨形成の促進、骨形成の増大および機械的強度の早期回復により骨折を治癒させるためのものである((1a)、(1b)、(1f)、(1g)))。
よって、引用例1には「腓骨骨折部に直接投与することにより、骨折を治癒させるための組成物であって、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とヒアルロナンゲルを含有する組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

4.対比

本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ヒアルロナン」は、本願発明における「ヒアルロン酸」に相当し、引用発明における「骨折部」、「骨折を治癒させる」及び「塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とヒアルロナンゲルを含有する組成物」は、本願発明における「疾患を有する、負傷した又は異常な骨」、「骨を治療する」及び「ヒアルロン酸と成長因子の混合物を含む組成物」、にそれぞれ相当する。
また、引用例1では、bFGF含有ヒアルロナンゲル投与群では、骨折した骨の機械的強度が全体的に増大し、骨折治癒が正常な順序どおりに発生したことを示す実験結果が記載されているので((1g))、引用発明の組成物は、本願発明と同様に「骨成長の速度及び規模を増大するために有効な量」の混合物を含むものと認められる。
よって、本願発明と引用発明とは、
「疾患を有する、負傷した又は異常な骨を治療するための組成物であって、骨成長の速度及び規模を増大するために有効な量のヒアルロン酸と成長因子の混合物を含む、組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明の組成物の適用部位は「所望の骨成長部位である関節内部位」であるのに対し、引用発明の組成物の適用部位は「腓骨骨折部位」である点。

[相違点2]
本願発明の組成物は「骨成長の速度及び規模の増大を達成するための時間にわたって所望の骨成長部位である関節内部位において、前記混合物が残存するための粘性及び生分解性を有する」ものであるのに対し、引用発明の組成物にはこのような特定はない点。

5.判断

(1)相違点1について

引用例1において、具体的に実験結果が示されているのは、bFGF含有ヒアルロナンゲルを腓骨骨折部位に適用した場合のみであるが((1g))、「新たな骨折部に線維芽細胞増殖因子を直接注入することによって」((1a))、「骨折部位で線維芽細胞増殖因子を存在させるために」及び「骨折の治療として臨床評価を行う場合には」((1b))との記載にあるように、引用例1のbFGF含有ヒアルロナンゲルの適用部位は腓骨骨折部位のみに限定されてはいないのであるから、当業者は、bFGF含有ヒアルロナンゲルを腓骨骨折部位以外の他の部位にも適用することを、自然に想起するはずである。
そして、引用例1には、bFGFにより軟骨細胞の増殖が促進され関節軟骨が発達した旨の報告がある旨の背景技術が記載されており((1c))、また、引用例2には、ラットの膝関節にbFGFを投与した場合、軟骨組織形成を経て新たな骨組織が形成されたことを示す実験結果が示されているので、引用発明の組成物において用いられるbFGFが、関節内投与により新たな骨組織を形成する、すなわち骨成長を促進する作用を有するものであることは、本願優先日前に知られていた事項である。
してみると、引用例2の記載を勘案すれば、引用発明の組成物の適用部位として「所望の骨成長部位である関節内部位」を選択することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
さらに、引用例3において、FGF等の増殖因子等の医薬的に活性な薬剤を含有する外来HA(ヒアルロン酸)製剤を、関節障害の処置のために関節に注入することが記載されているように((3a)?(3j))、引用発明においてbFGFを局所的に送達させる有効な基質として用いられているヒアルロン酸((1d))が、関節障害の治療目的で関節内投与される組成物において用いられるものであることも、本願優先日前に知られていた事項であるので、引用例3の記載を勘案することによっても、引用発明の組成物の適用部位として「所望の骨成長部位である関節内部位」を選択することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
なお、請求人は、平成24年4月16日付け意見書の「5.拒絶理由4(特許法)第29条第2項)について(4)」において、刊行物B(引用例2)の図5Cでは「望ましくない骨棘」が形成されている旨を指摘している。
しかし、引用例2における「また,前にも述べた実験のように骨棘を局所的に誘導し,関節の安定性の向上を図ることも可能かもしれない。」(第48頁左欄第34?36行)との記載からみて、前記「骨棘」は「望ましくない」ものというより、むしろ「関節の安定性の向上を図る」ためのものであると解される。また、さらには、引用例2において、成長因子は変形性関節症において役にたつ可能性があるのではないか、と結論づけられている((2b))ことからみて、引用例2に「骨棘」が記載されていることは、引用発明の組成物を所望の骨成長部位である関節内部位に適用するにあたり、特段の支障となる事項ではない。

(2)相違点2について

引用例1には、ヒアルロナン(ヒアルロン酸)などの天然グリコサミノグリカンポリマーは、理想的な物理的特性、化学的特性および生物学的特性を有し、骨折治療にbFGFを使用する場合の有効な基質として機能を果たすこと、及び最も特徴的なヒアルロナンの物理的特性は、この重合体溶液の粘弾性および剪断減粘性であることが記載されているので((1d))、引用発明におけるbFGFを所望の局所部位に送達させるために、基質であるヒアルロナン(ヒアルロン酸)の粘性等を最適化することは、当業者が当然に考慮する事項である。
また、引用発明の有効成分であるbFGFが十分に作用を発揮するために、ヒアルロン酸とbFGFの混合物が所望の局所部位において所望の時間にわたって残存することは、当然に要求される事項であるところ、引用発明におけるヒアルロン酸は、骨折部位でbFGFを存在させるために用いられる基質であって、骨折治癒を促す環境を作り出すために必要な期間、注入部位でbFGFを封鎖するための貯蔵場所となるためのものである((1b))。
そして、引用発明の組成物は所望の局所部位に直接注入されるものであるから((1a))、組成物が適切な生分解性を有することも当然に要求される事項であることは、当業者には自明の事項である。
さらに、引用例3に、FGF等の増殖因子等の医薬的に活性な薬剤を含有する外来HA(ヒアルロン酸)製剤を、関節障害の処置のために関節に注入する場合に、外来HA製剤の滞留時間を増加させるために、患者の条件および処置すべき関節に従って、架橋HAと非架橋HAとを適切な割合で用い、所望の粘弾性を得ることが記載されている((3a)?(3j))ことを勘案すれば、引用発明の組成物を「所望の骨成長部位である関節内部位」に適用するにあたり、「骨成長の速度及び規模の増大を達成するための時間にわたって所望の骨成長部位である関節内部位において、前記混合物が残存するための粘性及び生分解性を有する」ようにすることは、当業者が適宜調整し得た事項であり、格別の困難性を要したとは認められない。

(3)効果について

本願明細書には、ラットの骨膜と頭頂骨との間に試験製剤を注入した実験結果及びウサギの腓骨骨折部位に試験薬剤を投与した実験結果等が記載されているが、試験製剤を、本願発明における「所望の骨成長部位である関節内部位」に投与した実験結果は示されていないので、本願発明の構成をとることにより、引用例1?3の記載から、当業者が予測し得る範囲を超える格別顕著な効果が得られたとは認められない。

(4)小括

以上(1)?(3)のとおりであるから、本願発明は、その優先日前に頒
布された刊行物である引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび

以上のように、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-28 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-19 
出願番号 特願2001-511940(P2001-511940)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 前田 佳与子
中村 浩
発明の名称 ヒアルロン酸と成長因子を用いた骨成長促進方法  
代理人 池田 成人  
代理人 山田 行一  

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