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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10L
管理番号 1266948
審判番号 不服2010-12996  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-15 
確定日 2012-11-28 
事件の表示 特願2006-199405「ガソリンエンジン用燃料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月16日出願公開、特開2006-312750〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成10年3月27日の特許出願(特願平10-81502号)の一部を平成18年7月21日に新たな特許出願としたものであって、平成21年12月24日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年3月8日付けで意見書が提出されたが、同年3月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、平成24年6月5日付けで拒絶理由通知がなされ、同年7月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 平成24年6月5日付け拒絶理由通知書における拒絶理由
平成24年6月5日付け拒絶理由通知書では、要するに、本件審判に係る出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものであることが指摘されている。

3 特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している(以下、「明細書のサポート要件」ともいう。)。
そして、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許出願人(特許拒絶査定不服審判の請求人)が証明責任を負うべきものである(必要であれば、知的財産高等裁判所特別部平成17年(行ケ)第10042号判決文参照。)。以下、このような観点に立って検討する。

4 本願の特許請求の範囲の記載について
本願の特許請求の範囲の記載は、平成24年7月19日付け手続補正書により補正された次のとおりのものである。
「【請求項1】
ガソリンエンジン用燃料に用いる各基材について、二重結合濃度Cd(mol/L)、芳香環濃度Ca(mol/L)およびナフテン環濃度Cn(mol/L)を測定し、
1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>6.2 (1)
の式を満たし、芳香環濃度Caを6(mol/L)以下とするように各基材の混合割合を決定するガソリンエンジン用燃料の製造方法。」
(以下、この請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)

5 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
ア 本願明細書(平成24年7月19日付け手続補正書により補正されたもの)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
本発明は、熱効率がよく、かつ、環境汚染源の発生が少ないガソリンエンジン用燃料、および、その製造方法に関する。」(段落【0001】)
(イ)「【背景技術】
ガソリンエンジン用燃料(いわゆる、ガソリン)は、自動車用燃料などとして大量に利用される。このため、燃料の使用による環境への影響が憂慮され、環境を配慮した燃料が望まれている。通常、ガソリンエンジン用燃料は、原油から蒸留され、または、さらに種種の処理をされた石油基材を配合して製造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
どのようなガソリンエンジン用燃料が環境性能に優れるかの判断が難しい。すなわち、環境性能に優れるためには、基本的には熱効率が高く、燃費に優れ、したがって二酸化炭素排出量が低減できることが重要であり、さらに、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量の低いことが必要となる。これらの性能を満足するために必要なガソリンエンジン用燃料の特性は明らかにされていなかった。
また、製造されたガソリンエンジン用燃料の環境性能は、実際にその燃料を用いてエンジンを運転し、性能を測定することが必要となるが、特性が変動する多数の基材から製造される燃料の環境特性を測定し、その配合を決定することは実質的には困難である。
本発明の目的は、ガソリンエンジン用燃料の環境性能を評価する手法を開発し、それに基づき、高い熱効率を有し、燃費に優れ、かつ、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低く、環境特性に優れたガソリンエンジン用燃料の製造方法を提供することにある。」(段落【0002】?【0005】)
(ウ)「【課題を解決するための手段】
本発明は、
[1] ガソリンエンジン用燃料に用いる各基材について、二重結合濃度Cd(mol/L)、芳香環濃度Ca(mol/L)およびナフテン環濃度Cn(mol/L)を測定し、
1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>6.2 (1)
の式を満たし、芳香環濃度Caを6(mol/L)以下とするように各基材の混合割合を決定するガソリンエンジン用燃料の製造方法、
に関する。」(段落【0006】)
(エ)「【発明の効果】
本発明によるガソリンエンジン用燃料は、燃料中の二重結合濃度Cd、芳香環濃度Caおよびナフテン環濃度Cnが、1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>6.2の式を満たし、更に芳香環濃度Caを6(mol/L)以下を満足するものであり、熱効率、燃費に優れ、排気ガス中の規制成分が低減され、環境特性に優れたガソリンエンジン用燃料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
(二重結合濃度)
燃料中1リットル中の二重結合のモル濃度である。・・・・
(芳香環濃度)
燃料中1リットル中の芳香環のモル濃度である。・・・・
(ナフテン環濃度)
燃料中1リットル中のナフテン環のモル濃度である。・・・・
(各濃度の適切な範囲)
ガソリンエンジン用燃料を構成する代表的な化合物(またはそれらの混合物)をモデル燃料として用い、燃費を測定し、その燃料中の二重結合濃度Cd、芳香環濃度Caおよびナフテン環濃度Cnを算出した。そして、これらの濃度と燃費の相関関係を詳細に検討したところ、1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>0.9の条件を満たすことにより、通常優れたガソリン基材とされるアルキレート基材よりも燃費に優れることを見いだした。好ましくは、1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>4とすることで、さらに燃費を向上できる。
・・・・
エンジン内火炎速度、二重結合濃度Cd、芳香環濃度Caおよびナフテン環濃度Cnは、加成性が成り立つので、各基材の濃度をその基材の配合率で重み付けした総和の濃度として、燃料中の各濃度を算出することにより、その燃料の燃費、熱効率を予想できる。したがって、各基材のこれらの濃度を測定し、1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>0.9の条件を満たすように基材の混合割合を決めることにより、高い熱効率を有し、かつ、環境特性に優れたガソリンエンジン用燃料を効率よく製造することができる。」(段落【0007】?【0015】)
(オ)「【実施例】
(モデル燃料)
単一化合物およびそれらの混合物を用いて燃料A?H、J?Nを作成した。燃料Iは、炭素数8のイソパラフィンを主成分とするアルキレート基材である。これらの火炎速度、二重結合濃度Cd、芳香環濃度Caおよびナフテン環濃度Cnを表1、表2に示す。
・・・・
これらの測定結果を表1、表2に示す。排気ガス中の排出未燃炭化水素濃度、排出窒素酸化物濃度および燃費は、燃料I(アルキレート基材)を基準とした増減率で評価した。
1.43Ca+0.66Cn-0.33Cdの値が0.9以上である燃料A?Fでは、燃費が2%以上改善されている。他方、1.43Ca+0.66Cn-0.33Cdの値が、0または負の燃料H?Nでは、燃費は改善されない。」(段落【0017】?【0022】)
(カ)「【表1】

【表2】

」(【表1】、【表2】)
イ 上記アに摘記した本願明細書の記載によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、ガソリンエンジン用燃料の特性として、熱効率が高く、燃費に優れ、さらに、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低いという環境性能が所望されているところ、特性が変動する多数の基材から製造されるガソリンエンジン用燃料の環境性能を、実際にその燃料を用いてエンジンを運転して測定し、その配合を決定することは実質的に困難であったこと(上記ア(イ))、従来技術におけるこのような課題の存在に鑑み、ガソリンエンジン用燃料の二重結合濃度Cd(mol/L)、芳香環濃度Ca(mol/L)及びナフテン環濃度Cn(mol/L)が「1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>0.9」という条件を満たすことにより、燃費に優れたガソリンエンジン用燃料を効率よく製造することができ、「1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>4」という条件を満たすことにより、さらに燃費を向上でき、「1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>6.2」という式(1)を満たすとともにCaを6以下とすることにより、熱効率、燃費に優れ、排気ガス中の規制成分である窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低減され、環境特性に優れたガソリンエンジン用燃料を製造できることが記載されている(上記ア(ア)?(エ))と認められる。
具体的には、(Cd、Ca、Cn)=(0.0、9.5、0.0)で式(1)の左辺の値が13.6である燃料A、(Cd、Ca、Cn)=(0.0、0.0、10.8)で式(1)の左辺の値が7.2である燃料B、(Cd、Ca、Cn)=(3.2、3.6、3.2)で式(1)の左辺の値が6.2である燃料C、(Cd、Ca、Cn)=(0.0、3.2、0.0)で式(1)の左辺の値が4.6である燃料D、(Cd、Ca、Cn)=(0.0、0.0、4.5)で式(1)の左辺の値が3.0である燃料E、及び(Cd、Ca、Cn)=(3.0、0.0、3.0)で式(1)の左辺の値が1.0である燃料Fを用いると、基準となる燃料Iに比べて燃費が2.9?12.0%改善したのに対し、(Cd、Ca、Cn)=(2.3、0.0、2.3)で式(1)の左辺の値が0.8である燃料G、(Cd、Ca、Cn)=(27.6、0.0、13.8)で式(1)の左辺の値が0.0である燃料H、(Cd、Ca、Cn)=(0.0、0.0、0.0)で式(1)の左辺の値が0.0である燃料J?L、(Cd、Ca、Cn)=(2.4、0.0、0.0)で式(1)の左辺の値が-0.8である燃料M、及び(Cd、Ca、Cn)=(8.0、0.0、0.0)で式(1)の左辺の値が-2.6である燃料Nを用いると、基準となる燃料Iに比べて燃費が高々0.8%という低い改善率にとどまるか(燃料G)悪化した(燃料H、J?N)ことが記載されている(上記ア(オ)、(カ))と認められる。
また、式(1)の左辺の値が7.2でCaが0.0である燃料Bは、基準となる燃料Iに比べて、燃費が5.6%改善し、熱効率が3.3ポイント改善し、排出未燃炭化水素濃度が25.7%減少(改善)し、排出窒素酸化物濃度が52.0%増加(悪化)したことについても記載されている(上記ア(オ)、(カ))と認められる。
そして、上記ア(ア)?(エ)の記載によれば、熱効率が高く、燃費に優れ、さらに、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低いという環境性能を有するガソリンエンジン用燃料を製造することが課題とされ、ガソリンエンジン用燃料の二重結合濃度Cd(mol/L)、芳香環濃度Ca(mol/L)及びナフテン環濃度Cn(mol/L)が「1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>6.2」という式(1)を満たし、芳香環濃度Ca(mol/L)を6以下とすることが、上記課題を解決するために不可欠な手段であるとされていることが認められるところ、Cd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とした具体例である燃料Bにおいてさえ、基準となる燃料Iに比べて、燃費、熱効率、排出未燃炭化水素濃度は改善するものの、排出窒素酸化物濃度は増加(悪化)していることを踏まえると、Cd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすることで、上記課題を解決できると当業者において認識できることを裏付ける記載は、具体例についての記載も含め本願明細書の発明の詳細な説明には一切存在しない(なお、燃料Cは式(1)の不等号の要件を満たしていないし、排出窒素酸化物濃度も増加している。)。
仮に、燃料Bが上記課題を解決できたものであるとみても、この燃料B以外には、ガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすることで、上記課題を解決できると当業者において認識できることを裏付ける記載は存在しない。
また、燃料H、J?Lは、いずれも式(1)の左辺の値が0.0となる点で基準となる燃料Iと共通するものの、その燃料Iに比べて、燃費はいずれも悪化し、熱効率は、燃料Jのみで等しく、燃料H、K、Lで改善し、排出窒素酸化物濃度は、燃料Jのみで減少、燃料H、K、Lで増加し、排出未燃炭化水素濃度は、燃料H、Kで減少、燃料J、Lで増加していることからみて、これらの具体例についての記載は、式(1)の左辺の値と燃費、熱効率、排出窒素酸化物濃度、排出未燃炭化水素濃度との間に何らかの関係が存することを当業者において認識できることを裏付けるものということはできないし、むしろそのように当業者が認識することを妨げるものであるように解される。

6 発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
ア 本願発明は、特性値を表す3つの技術的な変数(パラメータ)が一定の数式を満たすことを発明特定事項とするものであり、いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数式を満たすことと得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式を満たせば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要する。
イ そこで、本願明細書の記載が、特許請求の範囲の請求項1の記載との関係で、上記アの明細書のサポート要件に適合するか否かについてみると、上記5で検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、ガソリンエンジン用燃料を製造する際の従来の課題を解決し、ガソリンエンジン用燃料の環境性能を、実際にその燃料を用いてエンジンを運転して測定することなく、熱効率が高く、燃費に優れ、さらに、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低いという環境性能を有するガソリンエンジン用燃料を効率よく製造するための手段として、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用したことが記載されているものの、その発明特定事項中の式(1)及びCaを6以下とすることがどのように導かれたのかについて、その理論的な説明も記載されておらず、その発明特定事項を採用することの有効性を示すための具体例としては、その発明特定事項を採用しない具体例(燃料A、C?N)が13個開示されているものの、その発明特定事項を採用した具体例(燃料B)が1つのみである。
他方、本願発明は、ガソリンエンジン用燃料の二重結合濃度Cd、芳香環濃度Ca及びナフテン環濃度Cnが、本願請求項1に規定された「1.43Ca+0.66Cn-0.33Cd>6.2」という式(1)を満たし、Caを6以下とすることで、上記性能(熱効率が高く、燃費に優れ、さらに、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低い)を有するガソリンエンジン用燃料を製造できるというのであるところ、少なくともガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnという3つの技術的な変数の関数に基づいてガソリンエンジン用燃料の上記性能が得られるか否かを区別できるということが、意見書等における審判請求人の釈明においても当業者が理解できる程度に十分な説明がなされておらず、ましてや、本願出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できることであったということは到底できない。
また、式(1)の左辺の値が7.2でCaが0.0である燃料Bは、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用した具体例であるところ、この燃料Bは、基準となる燃料Iに比べて、排出窒素酸化物濃度が増加(悪化)するものの、燃費、熱効率及び排出未燃炭化水素濃度がともに改善していることからみて、上記性能を有するガソリンエンジン用燃料の具体例であり、本願発明の課題を解決できたものであると解釈できないこともない。しかし、仮に、そのように解釈したとしても、燃料Bをそれ以外の具体例である燃料A及びC?Nから区別するには、例えば、「10.7<Ca+Cn+Cd<10.9」の式を満たすか否かとか、燃料がシクロペンタンを80vol%以上含むか否かというように、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用したか否かということ以外の事項により区別することも可能であることは自明であるし(上記ア(カ))、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用した具体例が燃料Bの1つしか示されておらず、加えて、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用しない場合にも、燃費、熱効率及び排出未燃炭化水素濃度がともに改善し、本願発明の課題を解決できたと解される具体例(燃料A、C、Eなど)も示されており、そもそも、少なくともガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnという3つの技術的な変数の関数に基づいてガソリンエンジン用燃料の上記性能が得られるか否かを区別できるということ自体が、本願出願時において、当業者に理解できることであったということができないことは明らかであるから、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用した具体例(燃料B)を1つしか含まない具体例(燃料A?N)をもって、ガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすることにより、上記性能を有するガソリンエンジン用燃料を製造できることを的確に裏付けているということは到底できない。
さらに、仮に、単に燃費の優れたガソリンエンジン用燃料を製造することが課題とされ、この課題を解決するために、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用したものと解すると(このような課題は窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量等についての要請からみて実質的には想定し得ないが)、本願発明は、ガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすることで、燃費の優れたガソリンエンジン用燃料を製造できるものとされていることになる。
しかしながら、本願発明の課題をそのように解しても、少なくともガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnという3つの技術的な変数の関数に基づいて燃費の優れたガソリンエンジン用燃料が得られるか否かを区別できるということが、本願出願時において、当業者に理解できることであったということはできないし、また、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用した具体例(燃料B)を1つしか含まない具体例(燃料A?N)をもって、ガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすることにより燃費の優れたガソリンエンジン用燃料を製造できることを的確に裏付けているということもできない。
そうすると、本願明細書に接する当業者において、ガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすれば、ガソリンエンジン用燃料を製造する際の従来の課題を解決し、ガソリンエンジン用燃料の環境性能を、実際にその燃料を用いてエンジンを運転して測定することなく、燃費の優れたガソリンエンジン用燃料を製造できることが、上記具体例(燃料A?N)により裏付けられていると認識することは、本願出願時の技術常識を参酌しても、不可能というべきであって、本願明細書の発明の詳細な説明におけるこのような記載だけでは、本願出願時の技術常識を参酌して、ガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすることで、燃費の優れたガソリンエンジン用燃料を製造できると(熱効率が高く、燃費に優れ、さらに、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低いという環境性能を有するガソリンエンジン用燃料についてはなおさら)当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているということはできないから、本願の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合しない。

7 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成24年7月19日付け意見書において、本願発明の要件を満足する燃料B及びCは、本願発明の要件を満足しない燃料A、D?H及びJ?Nに比較して、燃費改善率に優れ、また、熱効率は高く、未燃炭化水素濃度の減少率は大きいことが本願明細書に示されており、したがって、本願発明の要件を満足するガソリンエンジン用燃料は、本願発明の課題を解決できることは明らかであると主張している。
しかしながら、燃料Cは式(1)の不等号の要件を満たしていないから、本願発明の要件を満足するものではない。また、本願発明の課題は、本願明細書の発明の詳細な説明における「本発明の目的は、ガソリンエンジン用燃料の環境性能を評価する手法を開発し、それに基づき、高い熱効率を有し、燃費に優れ、かつ、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低く、環境特性に優れたガソリンエンジン用燃料の製造方法を提供することにある。」との記載(上記ア(イ))からみて、「高い熱効率を有し、燃費に優れ、かつ、窒素酸化物や未燃炭化水素の排出量が低く、環境特性に優れたガソリンエンジン用燃料の製造方法を提供すること」であるから、排出窒素酸化物濃度が増加(悪化)する燃料B及びCは、環境特性に優れたガソリンエンジン用燃料ということはできず、本願発明の課題を解決できたものと解することはできない。
また、審判請求人の上記主張は、本願発明の課題は、「熱効率が高く、燃費に優れ、未燃炭化水素の減少率が大きいガソリンエンジン用燃料を製造すること」であるという前提に立脚しているようにも解されるが、仮にこのように解しても、上記6に述べたように、本願の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合しない。
さらに、審判請求人は、同意見書において、式(1)は、多くの実験データから重回帰分析により求めたものであるとも主張しているが、そのようなことについては、本願明細書中に一切記載されていないし、重回帰分析という手法が一般的に用いられているとしても、その重回帰分析に用いた実験データがどれなのか本願明細書中に記載されていない以上、本願明細書の記載に接した当業者において、式(1)がどのように導かれたのかを理解することはできず、式(1)の妥当性を評価することもできないから、ガソリンエンジン用燃料のCd、Ca及びCnが式(1)を満たし、Caを6以下とすれば、本願発明の課題を解決できると当業者において認識できるということはできない。
審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。

8 むすび
以上のとおり、本件審判に係る出願は、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合しておらず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-26 
結審通知日 2012-10-01 
審決日 2012-10-17 
出願番号 特願2006-199405(P2006-199405)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
目代 博茂
発明の名称 ガソリンエンジン用燃料の製造方法  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  
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