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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1267335
審判番号 不服2010-19224  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-25 
確定日 2012-12-13 
事件の表示 特願2008-512076「胃内壁保護剤」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月26日国際公開、WO2008/075621〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年12月14日(国内優先権主張 平成18年12月20日)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に対して平成22年5月21日付けで手続補正がなされたが、その後拒絶査定がなされ、これに対し、拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明について

本願に係る発明は、平成22年5月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
下記式(1)で表される複合ハイドロタルサイト粒子を有効成分とする胃内壁保護剤。
(Mg_(a)Zn_(b))_(1-x)Al_(X)(OH)_(2)(A^(n-))_(x/n)・mH_(2)O (1)
但し式中、A^(n-)はCO_(3)^(2-)、SO_(4)^(2-)またはCl^(-)を示し、nは1または2を示し、x、a、bおよびmはそれぞれ下記条件を満足する値を示す。
0.18≦x≦0.4、0.5≦a<1、0<b≦0.5、0≦m<1」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先権主張の日の前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願2006-303973号(特開2008-120703号)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。原審における引用出願9にあたる。)には、次のことが記載されている(下線は当審で付した。)。

(1-1)
「【請求項1】
下記式(1)
・・・
(但し、式中、M^(2+)はMgまたはMgとCaを、M^(3+)はAlおよび/またはFeをそれぞれ示し、A^(n-)はn価のアニオンを示し、x,y,mおよびnはそれぞれ次の範囲にある。0<x<0.5,0<y≦1,0≦m<4,nは1以上の整数)で表されるZn固溶ハイドロタルサイト類、・・・を有効成分として含有する抗潰瘍剤。」(【特許請求の範囲】)

(1-2)
「【請求項2】
請求項1の式(1)のハイドロタルサイト類が、下記式(4)
【化4】
[(Zn)_(y)Mg_(1-y)]_(1-x)Al_(x)(OH)_(2)(CO_(3)^(2-))_(x/2)・mH_(2)O (4)
(但し、式中、xとyは次の特定範囲にある。0.2≦x<0.4,0<y≦1)で表される特定の組成である請求項1記載の抗潰瘍剤。」(【特許請求の範囲】)

(1-3)
「本発明は、新しい抗潰瘍剤に関する。更に詳しくは、Znを固溶している金属水酸化物または金属酸化物を有効成分とする制酸作用(胃酸中和)と傷ついた組織の修復作用を同時に実現する抗潰瘍剤に関する。」(【0001】)

(1-4)
「胃潰瘍治療剤としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムゲル(塩基性炭酸アルミニウム)、そして現在最も多く使用されているハイドロタルサイト;Mg_(6)Al_(2)(OH)_(16)CO_(3)・4?5H_(2)O、等のいわゆる制酸剤(胃酸を中和し、ペプシンを失活させ、それらの潰瘍面への攻撃から守る)、ジメチジン等のH_(2)ブロッカー(塩酸の分泌阻止剤)、L-カルノシン亜鉛錯体等の亜鉛錯体(潰瘍面保護、組織修復剤)等がある。」(【0002】)

(1-5)
「Znイオンに潰瘍組織の修復作用が認められており、硫酸亜鉛にも抗潰瘍作用があるが、強い刺激性があり嘔吐等の副作用が強い。そこで安全性の高い亜鉛錯体が開発され、組織修復にはある程度の効果があるが、胃酸とペプシンによる潰瘍面の攻撃に対する防衛作用が無いため、効果として不十分である。制酸剤は、長年の使用実績があり安全性が高いが、胃粘膜修復作用が無く、効果が限定的である。
したがって本発明の目的は、胃酸とペプシンの攻撃を防ぎながら、同時に潰瘍面を修復できる多機能型抗潰瘍剤を提供することにある。」(【0003】)

(1-6)
「本発明の抗潰瘍剤は、胃内pHを3?5に長時間保つことにより、潰瘍部分が胃酸とペプシンにより悪化するのを効果的に防ぎつつ、同時に徐放されるZnイオンにより潰瘍部分の組織修復を進めることができる。」(【0009】)

(1-7)
「本発明の抗潰瘍剤は、胃酸を速やかに中和し、pHをペプシンが失活する3以上に上昇すると共に胃酸によって固溶しているZnが容易に溶解し、吸収され易いZnイオンを放出し、このZnイオンが本来有する組織修復作用を最大限引き出すことを可能にした。本発明の式(1)?(3)のZn含有固溶体は、いずれも胃酸(pH≒1)に対して高い溶解性を示すが、その中でも特に好ましいのは式(1)および(4)で表されるハイドロタルサイト類である。」(【0010】)

(1-8)
「本発明の抗潰瘍剤は、副作用が少ない。例えば、創傷治癒作用が知られている硫酸亜鉛は、嘔吐に至る強い刺激性がある。これは、硫酸亜鉛が水溶性であるために高濃度のZnイオンが放出されることによる。及び硫酸イオンの毒性にもよる。本発明の抗潰瘍剤は、水に不溶であるため、Znイオンの放出作用が温和で徐放性でもあることが、副作用の少なさを発現していると考えられる。」(【0012】)

(1-9)
「【実施例2】
【0023】
金属塩水溶液として、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、硝酸アルミニウム(Mg=1.0モル/リットル,Zn=0.2モル/リットル,Al=0.4モル/リットル)を用いる以外は、実施例1と同様に行った。但し、NaOH水溶液の供給量を約214ml/分として、pHを目的の9.0に調節して行った。
【0024】
得られた粉砕物のX線回析は、ハイドロタルサイト類と固定された。この粉末の化学組成は次の通りであった。
[(Zn)_(1.17)Mg_(0.83)]_(0.75)Al_(0.25)(OH)_(2)(CO_(3))_(0.125)・0.5H_(2)O制酸反応試験結果を表1に示す。」

(1-10)
「【表1】




(【0030】)

(1-11)
「表1の結果から、胃酸pHを中和し、ペプシンを失活させ、胃酸分泌を誘起させないための好適pH3?5に長時間維持し、尚且つ、潰瘍部分の細胞、組織の修復に働くZnイオン放出が良好なものは、本発明の実施例1及び2のZn固溶ハイドロタルサイト類である。」(【0031】)

前記(1-2)における式(4)のハイドロタルサイト類の具体物として、前記(1-9)に、「[(Zn)_(1.17)Mg_(0.83)]_(0.75)Al_(0.25)(OH)_(2)(CO_(3))_(0.125)・0.5H_(2)O」が記載されている。

ここで、当該化学式における「(Zn)_(1.17)」は、正しくは「(Zn)_(0.17)」であると解される。
蓋し、前記(1-2)における式(4)には、「(Zn)_(y)」、「0<y≦1)」、「Mg_(1-y)」と記載されることから、前記(1-9)の化学式における「Mg_(0.83)」の0.83に足して1となる1以下の数値を求めれば、0.17となるからである。
また、先願明細書の実施例1において得られた粉末の化学組成は、「(Zn)_(0.67)」、「Al_(0.33)」であるところ、これらの比率は、該粉末の原料の水溶液における濃度の「Zn=1.0モル/リットル」と「Al=0.5モル/リットル」の比率である2:1にほぼ等しく、実施例3においても同様の対応関係が存する。
そして、実施例2においては、原料の金属塩水溶液の濃度が、「Mg=1.0モル/リットル,Zn=0.2モル/リットル,Al=0.4モル/リットル」であり、他方、粉末の化学組成は、「[(Zn)_(1.17)Mg_(0.83)]_(0.75)Al_(0.25)・・・」である。後者における「Mg」と「Al」との比率は、(0.83×0.75):0.25=0.6225:0.25であり、これは、前者における「Mg」と「Al」との比率である1:0.4にほぼ等しい。
ここで、「(Zn)_(1.17)」が、正しくは「(Zn)_(0.17)」であるとすると、後者における「Zn」と「Al」との比率は、(0.17×0.75):0.25=0.1275:0.25であり、これは、前者における「Zn」と「Al」との比率である0.2:0.4にほぼ等しい。
したがって、上述の対応関係を実施例2において考えれば、「(Zn)_(1.17)」は、正しくは「(Zn)_(0.17)」であることは当業者に明らかである。

さらに、前記(1-9)の化学式における「CO_(3)」が、正しくは「CO_(3)^(2-)」であることも、技術常識および前記(1-2)の式(4)に「CO_(3)^(2-)」と記載されることより当業者に明らかである。

したがって、前記(1-1)、(1-2)、及び(1-9)を考慮すると、先願明細書には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「下記式
[(Zn)_(0.17)Mg_(0.83)]_(0.75)Al_(0.25)(OH)_(2)(CO_(3)^(2-))_(0.125)・0.5H_(2)O
で表されるZn固溶ハイドロタルサイト類の粉末を有効成分とする抗潰瘍剤。」

2.対比、判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「[(Zn)_(0.17)Mg_(0.83)]_(0.75)Al_(0.25)(OH)_(2)(CO_(3)^(2-))_(0.125)・0.5H_(2)O」は、本願発明の式(1)において、A^(n-)がCO_(3)^(2-)であり、n=2、x=0.25、a=0.83、b=0.17、m=0.5である態様に相当する。
(イ)本願明細書【0004】における「・・・ハイドロタルサイト粒子に微量かつ特定量のZnを固溶体として含有させた複合ハイドロタルサイト粒子・・・」との記載に鑑みれば、引用発明の「Zn固溶ハイドロタルサイト類」は、本願発明の「複合ハイドロタルサイト」に相当するといえる。
(ウ)引用発明の「粉末」は、本願発明の「粒子」に相当する。
したがって、本願発明は、
「下記式(1)で表される複合ハイドロタルサイト粒子を有効成分とする剤。
(Mg_(a)Zn_(b))_(1-x)Al_(X)(OH)_(2)(A^(n-))_(x/n)・mH_(2)O (1)
但し式中、A^(n-)はCO_(3)^(2-)、SO_(4)^(2-)またはCl^(-)を示し、nは1または2を示し、x、a、bおよびmはそれぞれ下記条件を満足する値を示す。
0.18≦x≦0.4、0.5≦a<1、0<b≦0.5、0≦m<1」
である点において引用発明と一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点>
本願発明は、その用途が「胃内壁保護剤」であるのに対し、引用発明は、その用途が「抗潰瘍剤」である点

そこで、上記相違点について検討する。
本願発明における「胃内壁保護」とは、胃粘膜を保護すること、胃内壁の潰瘍を予防することを意味する(【0003】?【0005】,【0007】など)ものと認められる。
一方、前記(1-3),(1-5)?(1-7),(1-10),(1-11)に記載されるように、引用発明の抗潰瘍剤は、制酸作用によって、胃内pHを3?5に長時間保つことにより、潰瘍部分を胃酸とペプシンから保護しつつ、同時に、徐放されるZnイオンにより、潰瘍部分の組織修復を進めることができるものである。
してみると、潰瘍部分も胃内壁であるので、引用発明の抗潰瘍剤は胃内壁保護剤に他ならないと判断するのが相当である。
ここで、仮に、本願発明の「胃内壁保護剤」における「胃内壁」が、潰瘍部分以外の健康な部分を意味すると解釈したとしても、以下に述べるように拒絶理由が解消するものではない。先願明細書に明記されるのは、潰瘍部分についての作用のみであるが、引用発明は、潰瘍が生じている部分ですら修復し、これを潰瘍の無い健康な粘膜とする作用を有するのであるから、潰瘍が無い粘膜においても、これを胃酸とペプシンから保護しつつ、潰瘍が無い状態を維持すること、すなわち、胃内壁の潰瘍を予防する作用を有することは自明である。
したがって、引用発明における「抗潰瘍剤」は、本願発明における「胃内壁保護剤」であるといえる。

3.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定に該当し特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-09 
結審通知日 2012-10-16 
審決日 2012-10-29 
出願番号 特願2008-512076(P2008-512076)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡山 太一郎  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 岩下 直人
渕野 留香
発明の名称 胃内壁保護剤  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  

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