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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1267358
審判番号 不服2011-12774  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-15 
確定日 2012-12-13 
事件の表示 特願2000-595180「カラー映像ディスプレイの画質向上フィルタ用染料組合わせ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月27日国際公開、WO00/43814、平成14年11月26日国内公表、特表2002-540442〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判に係る出願(以下「本願」という)は、平成12年1月21日(パリ条約による優先権主張 平成11年1月21日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年12月4日付けで手続補正がなされ、平成22年5月18日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年7月23日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成23年3月10日付けで平成22年7月23日付け手続補正についての補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成23年6月15日に請求された拒絶査定不服審判事件であり、当該請求と同時に手続補正がなされ、平成23年8月2日付けで、参考資料及び実験成績証明書が提出された。
その後、前置報告書の内容について審判請求人の意見を求めるために、平成24年6月15日付けで審尋がなされ、同年7月25日付けで当該審尋に対する回答書が提出された。



第2 平成23年6月15日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年6月15日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前、すなわち、平成21年12月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。

「 ネオンガスに由来するオレンジ発光による590nmで放出された可視光を吸収可能な赤色染料、又は前記赤色染料を少なくとも一種含む染料の組合わせを有し、前記赤色染料、又は前記染料の組合わせが550nm<λ<610nmの範囲で吸収ピーク(λ)を有し、前記吸収ピークの吸収バンド幅が80nm以下であることを特徴とする、プラズマディスプレイ装置のコントラスト及びカラー向上用フィルタ。」


2.本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下のように補正することを含むものである(下線は補正箇所を示す)。

「 ネオンガスに由来するオレンジ発光による590nmで放出された可視光を吸収可能な染料、又は前記染料を少なくとも一種含む染料の組合わせを有し、前記染料が550nm<λ<610nmの範囲で吸収ピーク(λ)を有し、前記吸収ピークの吸収バンド幅が80nm以下であり、前記染料が下記a)、b)の特性を有することを特徴とする、プラズマディスプレイ装置のコントラスト及びカラー向上用フィルタ。
a)白色光(400nmから700nm)の85MJ/m^(2)の露光下で、劣化が20%未満である。
b)70℃、相対湿度70%、72時間という負荷条件の下で、劣化が20%未満である。」


3.目的要件違反について
本件補正による特許請求の範囲の請求項1についての補正は、以下の補正事項1及び補正事項2からなるものと認められる。

(補正事項1)
「赤色染料」を「染料」に補正する。

(補正事項2)
「染料」について、
「a)白色光(400nmから700nm)の85MJ/m^(2)の露光下で、劣化が20%未満である。
b)70℃、相対湿度70%、72時間という負荷条件の下で、劣化が20%未満である。」
という特性を有するものであると補正する。

3-1.補正事項1について
補正事項1は、平成22年5月18日付け拒絶理由の理由2において「赤色染料」について技術的な矛盾を含んでいるとされた事項に関してなされたものであり、その不明りような点を明確にするためのものと認められるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものである。

3-2.補正事項2について
本願の明細書の段落【0024】等の記載内容から、補正事項2の発明特定事項は、染料(もしくは該染料を有するフィルム)が光学的安定性を有するためのものであると認められる。
一方、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(「1.」参照)では、染料(もしくは該染料を有するフィルム)が光学的安定性を有するための事項は何ら特定されていない。
してみれば、補正事項2は、その補正の前後の発明において、解決しようとする課題が同一ではない。
よって、補正事項2は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、補正事項2が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項のその他の各号に掲げる事項、すなわち、請求項の削除、誤記の訂正、及び、明りようでない記載の釈明を目的とするものではないことは明らかである。

3-3.目的要件違反についてのむすび
以上のように、補正事項2は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号のいずれの事項を目的とするものでもなく、補正事項2を含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


4.明確性違反について
仮に本件補正における補正事項2が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、以下の理由により、本件補正は却下すべきものである。

本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明(以下「補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて検討する。

補正発明において、「染料」が
「a)白色光(400nmから700nm)の85MJ/m^(2)の露光下で、劣化が20%未満である。」
とする特性を有することについて検討する。
本願の特許請求の範囲、明細書及び図面には、当該特性における「劣化」が、どのようなものであるかについて何ら記載されていない。
この点について、請求人は、平成23年8月2日付け(手続補足書)で提出された参考資料に基づいて、審判請求書において、「吸光度の変化によって光学フィルタの劣化を評価することは、本願の出願時における技術常識でした。」と主張する。
ここで、所定の露光下における吸光度の変化は、当該露光光が染料に対して何らかの作用を及ぼすことによるものと認められる。そうすると、吸光度の変化は、露光する光の波長範囲だけでなく波長分布にも影響されると認められるところ、補正発明においては、どのような波長分布の露光下における劣化であるのか不明である。仮に標準的な白色光源の波長分布による400nmから700nmの露光光であるとしても、それ以外の範囲、すなわち、400nm以下及び700nm以上の波長の光の分布も劣化に影響すると認められる(一般に、それら範囲外の波長範囲における光が多く存在するほど、劣化するものと推測される)ところ、当該範囲の成分についてどのような条件での露光下における劣化であるのか不明である。
また、「85MJ/m^(2)」のエネルギー量を、どのように与えるのかについても不明である。すなわち、強い光により短時間で85MJ/m^(2)の露光を与えるか、弱い光により長時間かけて85MJ/m^(2)の露光を与えるかによっても、吸光度の変化は異なると認められる(一般に、同じエネルギー量であれば、短い時間で露光するほうがより劣化するものと推測される)。
よって、染料の「劣化」が請求人の主張するような、染料の吸光度の変化であるとしても、露光光の波長分布及び露光時間等の条件が特定されなければその技術的な意味が明確とはならない。
以上のように、補正発明を特定するために必要と認められる事項である「劣化」について、その技術的な意味が明確でないから、補正発明は明確でない。

したがって、仮に本件補正における補正事項2が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、本件補正は、その補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するので、独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


5.本件補正についての補正の却下の決定のむすび
以上のように、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は請求の理由において、平成22年7月23日付け手続補正についての補正の却下の決定に対して不服を申し立てているが、当該補正は本件補正と同じ内容の補正であり、本件補正と同様の理由により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は「第2」で述べたとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成21年12月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(「第2」の「1.」参照)。


2.引用発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平09-092162号公報(以下「引用例」という)には、以下の技術事項が記載されている(後述の引用発明の認定において関連する記載に下線を付した)。

『【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、各種の薄型表示パネルとして使用されるプラズマディスプレイ装置に係り、特に、蛍光体を紫外線のエネルギで励起して可視光を得るプラズマディスプレイパネルに関する。』

『【0007】
【発明が解決しようとする課題】以上のフィルタ技術により、赤,緑,青の3原色の色純度は徐々に改善されていくものと推定されるが、プラズマディスプレイパネルの場合、パネルに封入された放電ガスの発光色が色純度の改善を妨げる大きな要因となっている。通常、パネルに封入される放電ガスは、放電効率を考えて、ネオンガス(Ne)を主体としてキセノンガス(Xe)やヘリウムガス(He)、アルゴンガス(Ar)などを混入したものが広く使用されている。ネオンガスの発光スペクトルは、図7に例示したように、500nmの後半から700nmにかけて分布する幾つかのピーク波長成分の組合せであり、その中で最もエネルギが大きいのは、585nmの成分である。このため、ネオンガスの放電色は、一般に、ネオンオレンジと呼ばれる橙色となる。』

『【0036】図7は図2における前面ガラス基板1の表面に設けられた光選択性フィルタ11の分光透過率特性(破線)と、プラズマディスプレイパネル内に封止された上記放電ガスの放電スペクトル(実線)とを示す特性図である。
【0037】同図において、実線で示す放電ガスの発光スペクトルは、ネオンガスにキセノンガスを3%混合した放電ガスの放電によって得られたエネルギ分布である。このスペクトルは数種類のピーク成分からなっており、最もエネルギの大きい成分の波長は、585nm近辺であって、図4に示した赤の蛍光体5Rの発光スペクトルのピーク波長と、図5に示した緑の蛍光体5Gの発光スペクトルのピーク波長との間での赤側寄りに位置している。そして、さらに、赤側の波長成分とともに、この放電ガスは橙色に発光する。このピーク波長は放電ガスの成分によって若干シフトするが、ネオンガスをベースとした放電ガスの場合、そのピークの波長は550nm付近から600nm付近までに納まる。
【0038】これに対して、図2での前面ガラス基板1の表面に設けられた光選択性フィルタ11は、有機顔料を含んだシリカの薄膜コートなどの手段によって形成されている。その分光透過率は、図7に破線で示すように、丁度585nm付近にディップを持ち、530nm付近から600nm付近までの波長の透過光のエネルギを低減する特性を示している。このため、光選択性フィルタ11は、赤や緑の蛍光体5R,5Gの主波長成分のエネルギをほとんど低減させずに透過しながら、放電ガスの放電光のエネルギを低減する。これにより、システム全体の色純度を高め、色再現の範囲を拡大させることになる。』





上記段落【0038】及び図7のグラフから、光選択性フィルタが有する有機顔料は、585nm付近に吸収ピークを有し、該吸収ピークの半値幅は50nm程度であると認められる。
上記事項及び上記摘記事項を含む引用例全体の記載、並びに、当業者の技術常識から、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という)。

「 ネオンガスにキセノンガスを3%混合した放電ガスの橙色に発光する最もエネルギの大きい成分である波長585nm付近において吸収ピークを有し、前記吸収ピークの半値幅は50nm程度であり、この特性により、赤や緑の蛍光体5R,5Gの主波長成分のエネルギをほとんど低減させずに透過しながら、放電ガスの放電光のエネルギを低減する有機顔料を含んだシリカの薄膜コートなどの手段によって形成された、
プラズマディスプレイ装置に用いられる光選択性フィルタ。」


3.対比
引用発明と本願発明を対比する。

(ア)引用発明の「有機顔料」は、「ネオンガスにキセノンガスを3%混合した放電ガスの橙色に発光する最もエネルギの大きい成分である波長585nm付近において吸収ピークを有し、前記吸収ピークの半値幅は50nm程度」であるから、ネオンガスに由来するオレンジ発光による590nmで放出された可視光を吸収可能であることは自明である。また、本願の明細書の段落【0027】の記載から、本願発明の「吸収バンド幅」とは、吸収ピークの半値幅であると認められる。よって、引用発明の「有機顔料」と本願発明の「染料」とは、「ネオンガスに由来するオレンジ発光による590nmで放出された可視光を吸収可能」であり、かつ、「550nm<λ<610nmの範囲で吸収ピーク(λ)を有し、前記吸収ピークの吸収バンド幅が80nm以下である」色素である点で一致する。

(イ)引用発明の「光選択性フィルタ」は、「赤や緑の蛍光体5R,5Gの主波長成分のエネルギをほとんど低減させずに透過しながら、放電ガスの放電光のエネルギを低減する有機顔料を含んだ」ものであり、プラズマディスプレイ装置のコントラスト及びカラー表示性能を向上させるものであるといえるから、引用発明の「プラズマディスプレイ装置に用いられる光選択性フィルタ」は、本願発明の「プラズマディスプレイ装置のコントラスト及びカラー向上用フィルタ」に相当する。

したがって、引用発明と本願発明とは、
「 ネオンガスに由来するオレンジ発光による590nmで放出された可視光を吸収可能な色素、又は前記色素を少なくとも一種含む色素の組合わせを有し、前記色素、又は前記色素の組合わせが550nm<λ<610nmの範囲で吸収ピーク(λ)を有し、前記吸収ピークの吸収バンド幅が80nm以下である、プラズマディスプレイ装置のコントラスト及びカラー向上用フィルタ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
フィルタが有する色素が、本願発明では「赤色染料」であるのに対し、引用発明では「有機顔料」である点。


4.相違点についての判断
まず、「赤色染料」について、「第2」の「3-1.」で述べたように、その不明りょうな点を明確にするために、本件補正では「染料」と補正されたものであり、“赤色”については明確な技術的意義がないことは明らかであるから、以下、単に“染料”として判断する。
フィルタに特定の波長の光を吸収する特性を与えるための色素として、顔料及び染料はいずれも周知であり、いずれを用いるかは、当業者が適宜選択するものであると認められる(例えば、特開平10-319232号公報の段落【0002】、特開平11-002716号公報の段落【0029】参照)。
また、引用発明において、色素として染料を用いることに、特段の阻害要因は認められない。
よって、引用発明において、色素として染料を用いることは、当業者であれば容易に想到できたものである。その際、引用発明は、「赤や緑の蛍光体5R,5Gの主波長成分のエネルギをほとんど低減させずに透過しながら、放電ガスの放電光のエネルギを低減する」ことを意図したものであるから、色素を染料に変更した場合においても、不要な放電ガスの放電光、すなわち、オレンジ発光による可視光を吸収し、かつ、透過すべき赤や緑の蛍光光を吸収しないよう、吸収バンド幅を狭く(50nm程度と)することは、当業者であれば容易に想到できたものである。
なお、請求人である出願人は、平成22年7月23日付け意見書において、顔料では画像の明るさを向上できないと主張するが、そのような顔料と染料との作用効果の違いは、当業者が予測し得ないような格別なものではなく、明るさを向上するという周知の要求に応じて当業者が適宜選択する程度のことにすぎない。


5.効果について
本願発明全体の効果についても、当業者が予測し得ない格別なものとはいえない。


6.本願発明についてのむすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受ける事ができない。

したがって、その余の請求項に係る発明に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-03 
結審通知日 2012-10-09 
審決日 2012-10-26 
出願番号 特願2000-595180(P2000-595180)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 博之  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 吉川 陽吾
伊藤 昌哉
発明の名称 カラー映像ディスプレイの画質向上フィルタ用染料組合わせ  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 志賀 正武  
代理人 柳井 則子  
代理人 鈴木 三義  

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