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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1267385
審判番号 不服2011-22828  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-24 
確定日 2012-12-14 
事件の表示 特願2007-520948「記録担体の情報層内にマークを記録するための書込パワーを最適化する方法、およびかかる最適化方法を用いる記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月26日国際公開、WO2006/008690、平成20年 3月 6日国内公表、特表2008-507074〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年7月7日(パリ条約による優先権主張 国際事務局受理 2004年7月16日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成22年11月24日付け拒絶理由通知に対して平成23年5月30日付けで手続補正がなされたが、同年6月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成23年5月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
第1の相と第2の相との間で可逆変化可能な相を有する情報層を、放射ビームで照射することにより、記録担体の該情報層内にマークを記録するための、書込パワーを最適化する方法であって、
少なくとも3つの異なる書込パワーを適用することにより、適用される変調方法により許容される最も短いランレングスを有する最短マークを少なくとも含むテストマークのパターンを、前記記録担体上に記録する工程と、
前記少なくとも3つの異なる書込パワーの適用により記録された、前記最短マークのランレングスを測定する工程と、
前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれに基づいて、最適な書込パワーを決定する工程とを含むことを特徴とする方法。」

3.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平4-137224号公報(平成4年5月12日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「記録特性測定モードにはパルス幅調整用テーブル作成モードと記録パワー探索モードの2種類がある。記録特性測定時には最初に記録パワー探索モードが実行され、その後にパルス幅調整用テーブル作成モードが続けて実行される。この両モードとも、それぞれ専用のテストパターン、および記録パワー探索モードには記録パワーレベルがコントローラからレーザドライバ12に入力され、これらの信号に対応してレーザが変調される。そのレーザ光が光ピックアップ3において光ディスク面上に集光され、テスト信号が記録される。そしてその記録マークの再生信号を用いて記録特性測定系で特性検出、変更操作が行われる。」(6頁左上欄11行?右上欄3行)

(2)「記録パワー設定用判定回路16は各記録パワー設定値ごとに再生信号のデューティ(厳密には二値化後の再生信号に関する立ち上がり-立ち下がり間隔と立ち下がり-立ち上がり間隔との差の平均値)を算出する。記録パワー探索モード時にはさらに算出結果と同時にそのデータの記録パワー設定値をレーザドライバ12に送信し、レーザドライバ12ではデューティが50%になるときの記録パワー設定値を設定する。記録条件チェックモード時にはその結果が一定範囲に入っているかどうかを調べ、その結果をコントローラに送信する。コントローラではこの信号を受けて一定範囲内でない場合に記録特性測定モードに入る手続きを行う。」(6頁左下欄8行?右下欄1行)

(3)「第2図は記録特性測定モードで使用される特性検出用テストパターン波形の1例である。第2-(a)図は記録パワー探索モード用の波形で、マーク長記録に使用される最短の記録パルス間隔の繰り返しである。そして所定の繰り返し回数ごとにその記録パワー設定値を徐々に変え、記録パワーをあげる。この記録パワー変更範囲は、装置の使用環境が保証範囲内である限り、最適な記録パワー時の信号振幅が含まれるように設定しておく。また、記録時に用いるレーザ光源自体が破壊されない程度の範囲内で記録パワーを変化させるように、記録パワーの変更範囲を制限しておく。この変更範囲はレーザに流れる電流値とレーザパワーとの関係が経時的に変動するため、半導体レーザチップ内の後方モニタなど、光出力強度を検出する機構の出力信号を参照して決定する必要がある。」(7頁左上欄14行?左上欄9行)

(4)「以上が本発明の一実施例に関する各構成要素、およびその動作説明である。次に全体の動作フローについて第12図に用いて説明する.まずこの光ディスク装置の電源が投入されると、以下に説明する装置の初期設定動作を行う。
はじめに第2-(a)図に示す記録パターンに従ってレーザドライバ回路12を駆動し、光ディスク1上に記録を行う。そしてその場所を再生して得られる再生波形について、エッジタイミング検出回路13、および記録パワー設定用判定回路17から最適な記録パワーを探索する。その結果、算出された最適な記録パワー値をレーザドライバ回路12に設定する。」(15頁右上欄5?17行)

(5)「本特許は書換えが可能であり、その原理が熱を用いた記録方法である、あらゆる情報記録方式、および記録媒体にあてはまる記録パワーや記録パルス間隔という記録条件の制御に関する基本的な方式に関する記述である。特に熱拡散効果が高く、かつ記録条件に敏感、すなわち記録パワーや環境温度、記録媒体の構成、および記録装置の特性等のわずかな変化で記録特性の差として現れる様な記録方式、および記録媒体の場合、記録データの信頼性を確保する上で必要不可欠な技術である。例えば光磁気ディスク、および交換結合力を利用した、重ね書きが可能な光磁気ディスク、重ね書きが可能な相変化を利用した光ディスクなどにおいて実用性の実現にはこの技術が重要である。」(17頁右下欄19行?18頁左上欄12行)

引用例に記載された光ディスク装置の初期設定動作を最適な記録パワーを探索する方法の発明として捉えることができることを踏まえて上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「重ね書きが可能な相変化を利用した光ディスクについて、最適な記録パワーを探索する方法であって、
はじめに、マーク長記録に使用される最短の記録パルス間隔の繰り返しであって、所定の繰り返し回数ごとにその記録パワー設定値を徐々に変え、記録パワーをあげる記録パターンに従ってレーザドライバ回路を駆動し、光ディスク上に記録を行い、
そして、その場所を再生して得られる再生波形について、エッジタイミング検出回路、および記録パワー設定用判定回路から、各記録パワー設定値ごとに再生信号のデューティ(厳密には二値化後の再生信号に関する立ち上がり-立ち下がり間隔と立ち下がり-立ち上がり間隔との差の平均値)を算出して、デューティが50%になる最適な記録パワーを探索し、
その結果、算出された最適な記録パワー値をレーザドライバ回路に設定する方法。」

4.対比

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)「重ね書きが可能な相変化を利用した光ディスク」は、「第1の相と第2の相との間で可逆変化可能な相を有する情報層を、放射ビームで照射することにより、」「該情報層内にマークを記録する」「記録担体」であるから、引用発明の「光ディスク」は、本願発明の「記録担体」に相当する。引用発明の「記録パワー」は、本願発明の「書込パワー」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「第1の相と第2の相との間で可逆変化可能な相を有する情報層を、放射ビームで照射することにより、記録担体の該情報層内にマークを記録するための、書込パワーを最適化する方法であ」る点で共通する。
(2)引用発明の「マーク長記録」は、本願発明の「適用される変調方法」に相当する。引用例の第13図及び第14図を参照すると、引用例においては、記録パターン(レーザ出力波形)が”H”レベルの部分に記録マークが形成されることを前提としているといえるから、第2-(a)図に示す、「マーク長記録に使用される最短の記録パルス間隔の繰り返しであ」「る記録パターンに従ってレーザトライバ回路を駆動し、光ディスク上に記録を行」うと、マーク長記録に使用される最短のマーク長の繰り返しである記録マークが形成される。
したがって、本願発明と引用発明とは、「異なる書込パワーを適用することにより、適用される変調方法により許容される最も短いランレングスを有する最短マークを少なくとも含むテストマークのパターンを、前記記録担体上に記録する工程」を含む点で共通する。
(3)引用発明においては、「マーク長記録に使用される最短の記録パルス間隔の繰り返しであ」「る記録パターンに従ってレーザドライバ回路を駆動し、光ディスク上に記録を行い、」「その場所を再生して得られる再生波形について、」「再生信号のデューティ(厳密には二値化後の再生信号に関する立ち上がり-立ち下がり間隔と立ち下がり-立ち上がり間隔との差の平均値)を算出」するから、最短のマークの公称マーク長からの、形成されたマーク長のずれに応じて、「二値化後の再生信号に関する立ち上がり-立ち下がり間隔と立ち下がり-立ち上がり間隔との差」が生じ、「再生信号のデューティ」が50%からずれる。
したがって、引用発明の「二値化後の再生信号に関する立ち上がり-立ち下がり間隔と立ち下がり-立ち上がり間隔との差の平均値」は、本願発明の「前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれ」に相当する。
(4)引用発明において、「デューティが50%になる」か否かは、最短のマークの公称マーク長からの、形成されたマーク長のずれに依存するから、本願発明と引用発明とは、「前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれに基づいて、最適な書込パワーを決定する工程」を含む点で共通する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「第1の相と第2の相との間で可逆変化可能な相を有する情報層を、放射ビームで照射することにより、記録担体の該情報層内にマークを記録するための、書込パワーを最適化する方法であって、
異なる書込パワーを適用することにより、適用される変調方法により許容される最も短いランレングスを有する最短マークを少なくとも含むテストマークのパターンを、前記記録担体上に記録する工程と、
前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれに基づいて、最適な書込パワーを決定する工程とを含む方法。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)「異なる書込パワー」について、本願発明は、「少なくとも3つの」異なる書込パワーであるのに対し、引用発明は、そのような限定がない点。

(2)「前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれ」を求めるために、本願発明は、「前記」「異なる書込パワーの適用により記録された、前記最短マークのランレングスを測定する工程」を含むのに対し、引用発明は、「再生信号のデューティ(厳密には二値化後の再生信号に関する立ち上がり-立ち下がり間隔と立ち下がり-立ち上がり間隔との差の平均値)を算出」する点。

5.判断

そこで、上記相違点について検討する。

相違点(1)について
引用発明において、記録パワーの刻み数は、最適な記録パワーを探索する精度に応じて設定すればよいことは明らかであって、引用例の第2-(a)図からは、少なくとも4つの記録パワーが設定されていることが読み取れる。
したがって、引用発明において、記録パワーの刻み数を少なくとも3つとすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

相違点(2)について
「前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれ」を求めるために、「前記最短マークのランレングスを測定」した上で「前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれ」を求めるか、あるいは、直接「前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれ」に相当する「二値化後の再生信号に関する立ち上がり-立ち下がり間隔と立ち下がり-立ち上がり間隔との差の平均値」を算出するかは、いずれの方法でも問題なく「前記最短マークの前記公称ランレングスからの、測定された前記ランレングスのずれ」を求めることができるから、当業者が適宜選択し得る設計的事項である。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用例から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。

6.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-23 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-06 
出願番号 特願2007-520948(P2007-520948)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 勇太  
特許庁審判長 小松 正
特許庁審判官 齊藤 健一
関谷 隆一
発明の名称 記録担体の情報層内にマークを記録するための書込パワーを最適化する方法、およびかかる最適化方法を用いる記録装置  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 津軽 進  

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