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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1267393
審判番号 不服2012-1408  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-25 
確定日 2012-12-13 
事件の表示 特願2008-214314「圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月 8日出願公開,特開2009- 2352〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成18年11月30日に出願した特願2006-322874号の一部を平成20年8月22日に新たな特許出願としたものであって,平成23年4月18日付けで拒絶理由通知がなされ,平成23年6月21日付けで意見書が提出され,平成23年10月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年1月25日に拒絶査定に対する不服審判の請求がなされ,平成24年7月30日及び同年8月7日になされた当審からの確認に対し,それぞれ平成24年8月7日及び同月8日に請求人から回答がなされ,平成24年8月28日付けで上記確認及び回答内容を記録した応対記録が当審により作成されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は平成20年8月22日に提出された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載によれば,特許請求の範囲の請求項1に記載された,次の事項により特定されるとおりのものである。

「密閉容器(1)と,この密閉容器(1)内に配置された圧縮要素(2)と,上記密閉容器(1)内に配置されると共に上記圧縮要素(2)をシャフト(12)を介して駆動するモータ(3)とを有し,上記圧縮要素(2)と上記モータ(3)のロータ(6)とを上記シャフト(12)を介して一体に組み付けて一体構造部(8)を形成した圧縮機において,
上記モータ(3)のステータ(5)のコイル(520)は,集中巻きであり,
上記ロータ(6)の円筒状のロータコア(610)の内側には,小径部(610a)と大径部(610b)とが設けられ,
上記小径部(610a)には,上記シャフト(12)が固定され,
上記大径部(610b)には,上記圧縮要素(2)に設けられて上記シャフト(12)を支持する軸受け(7)が挿入され,この軸受け(7)により,上記シャフト(12)は,片持ちされ,
上記一体構造部(8)の固有振動数は,圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きいことを特徴とする圧縮機。」

3.引用例
(1)原査定の拒絶の理由で引用された特開2001-73948号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は冷凍冷蔵機器や空調機器等に使用される電動圧縮機に関するものである。」

(イ)「【0003】図7において,1は電動圧縮機の密閉容器で,内部下方に設けた圧縮機構部2と,この圧縮機構部2の上方に設けた電動機部3とを備えている。4は電動機部3の回転子14に取付られた軸で,クランク部4aを備えている。
【0004】5は鉄系材料の鋳物からなるシリンダブロックで,前記軸4が挿入される軸受部6と,この軸受部6とほぼ直角に形成されたシリンダ7とが形成されている。
【0005】9はシリンダ7内を摺動するピストンで,圧縮室10を形成し前記クランク部4aとコネクティングロッド8を介して連結されている。11は前記クランク部4aの先端に取付られた給油管で,密閉容器1の底部に貯溜する潤滑油12を圧縮機構部2や軸4に給油して摺動部の潤滑をスムースにさせている。
【0006】前記電動機部3は,積層電磁鋼板よりなる固定子鉄心に巻線を巻装した固定子13と,積層電磁鋼板よりなる回転子鉄心15に2次導体を設けてなる回転子14とから構成される2極の誘導電動機である。
【0007】また,回転子鉄心15の圧縮機構部2に対向する側の端部にはボア部16が設けられており,軸受部6がボア部16の内側まで延在している。」

(ウ)「【0009】回転子14の回転に伴い,軸4のクランク部4aに連結されたコネクティングロッド8を介してピストン9が往復動し,圧縮室10内の冷媒ガスを圧縮して吐出管(図示せず)を通じて冷凍冷蔵機器や空調機器等のシステムに向けて吐出される。
【0010】ここで圧縮機構部2の軸受部6,シリンダ7,コネクティングロッド8およびピストン9等の各摺動部への給油は,軸4の下端に装着された給油管11が回転してそのポンプ作用により潤滑油12を汲み上げて給油する構成となっている。
【0011】近年省エネルギーや小型化の観点から冷凍冷蔵機器や空調機器の消費電力量の低減や高さ方向を小さくするための検討が盛んに行われ,小型化については,回転子をできるだけ圧縮機構部に近づけているためボア部に軸受の一部を延在させて回転子の回転振れを抑制するとともに,電動圧縮機の全高を低くしている。」

(エ)「【0013】従来電動圧縮機に使用されてきた2極の誘導電動機についても低鉄損の電磁鋼板の採用やコア形状の最適化,あるいは使用材料の増量等様々な高効率化の検討がなされてきた。しかしながら,誘導電動機はトルクを発生して負荷を回転させるための電力のほかに,磁気回路を形成するための励磁電力が必要であるため,電動機の効率は飽和傾向にあり,さらに大幅に効率を向上させることは困難な状況にある。
【0014】そこで,電動機のさらなる高効率化の手段として,回転子に永久磁石を内蔵することにより,励磁電力が不要となり高い効率が得られる2極の自己始動形永久磁石式同期電動機を電動圧縮機に適用することに着目した。
【0015】この自己始動形永久磁石式同期電動機の一実施例について図8および図9を用いて説明する。
【0016】なお,電動圧縮機としては電動機部が異なるだけなので,この点について説明する。
【0017】17は同期電動機の回転子で,電磁鋼板が積層された回転子鉄心18と,この回転子鉄心18に軸4を嵌合する軸孔19とからなっている。20は回転子鉄心18の軸方向の端部に設けたボア部であり,図示しないがシリンダブロック5の軸受部6の一部が延在している。20aはボア部20のボア径である。
【0018】そして回転子17に2個の平板形で同極性の永久磁石21を突き合わせ角度αで山形状に挿入配置して回転子磁極の一つの極を形成し,回転子全体で2極の回転子磁極を形成している。ここで,永久磁石21の幅寸法をPとする。
【0019】また,回転子鉄心18に設けた多数の導体バー22と,回転子鉄心18の軸方向の両端に位置する短絡環23とをアルミダイカストで一体成型して始動用かご形導体を形成している。
【0020】24は永久磁石21が脱落するのを防止する保護用の非磁性体からなる端板である。また,25は隣り合う永久磁石間の磁束短絡を防止するための磁束短絡防止用バリアであり,前記始動用かご形導体とアルミダイカストで同時成型されている。」

(オ)【図7】には,回転子鉄心15の内側に小径部が設けられている態様,該小径部に軸4が固定されている態様,軸受部6が軸4を支持する態様,及び軸受部6により軸4が片持ちされる態様が示されている。
また,【図8】及び【図9】には,同期電動機の電動機部3として,回転子17を構成する回転子鉄心18の内側に小径部である軸孔19と,ボア部20とが設けられている態様が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「密閉容器1と,この密閉容器1内部に設けられた圧縮機構部2と,上記密閉容器1内部に設けられると共に上記圧縮機構部2のピストン9を軸4,クランク部4a及びコネクティングロッド8を介して往復動させる同期電動機の電動機部3とを備え,上記圧縮機構部2のピストン9は上記軸4に備えられたクランク部4aとコネクティングロッド8を介して連結されており,上記軸4は上記同期電動機の電動機部3の回転子17の小径部である軸孔19に嵌合されている電動圧縮機において,
上記同期電動機の電動機部3の固定子13の巻線は,巻装され,
上記回転子17には回転子鉄心18が設けられ,上記回転子鉄心18の内側には小径部である軸孔19とボア部20とが設けられ,
上記小径部である軸孔19には,上記軸4が固定され,
上記ボア部20の内側まで,上記圧縮機構部2のシリンダ7が形成されたシリンダブロック5の上記軸4を支持する軸受部6の一部が延在し,この軸受部6により,上記軸4は,片持ちされる,
電動圧縮機。」

(2)原査定の拒絶の理由で引用された特開平2-196188号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)第3ページ右下欄14-19行
「[産業上の利用分野]
本発明は,ルームエアコン,冷蔵庫などに使用されるインバータ駆動のローリングピストン形ロータリ圧縮機に係り,特に信頼性を確保し,回転軸系の振動を低減するためのロータリ圧縮機の構造に関する。」

(イ)第4ページ左下欄8-10行
「本発明の第5の目的は,回転軸の軸振動の低振動を確保し,かつ軸・軸受間の摺動損失が小さく高性能のロータリ圧縮機を提供することにある。」

(ウ)第4ページ右下欄14-18行
「第5の目的を達成するために,本発明のロータリ圧縮機は,圧縮機の設定最高回転数の5倍超える範囲に軸系の1次の固有振動数を有するように設定し,かつ,軸受の摺動部分の軸径を小径化したものである。」

(エ)第5ページ左上欄10行-11行
「高速運転域での軸系のふれまわりを大幅に低減できる。」

(オ)第5ページ右上欄18行-左下欄15行
「圧縮機構部は,シリンダ1,シリンダ1内を偏心して転動回転するローラ2,ローラ2に転動回転を与えるクランク3,クランク3と一体形成された回転軸4,回転軸4を支持し,圧縮室を形成する端板を兼ねる第1の軸受8,第2の軸受9,・・・この圧縮機構部は,ケース19内の下方の位置に収められ,底部に溜められた潤滑油17の中に半分程度浸漬されている。前記ケース16内に上方には,モータ5が収められており,このモータ5は,ケース19内に焼きばめ等により固定された固定子5bと前記回転軸4に固定された回転子5aとからなる。」

(カ)第11ページ左上欄13行-左下欄6行
「以上は,回転軸のモータ側軸端部付近に油分離部と油回収部を設け,油分離部で分離した油を油回収部に溜めて,前記軸端部を支承する第3の軸受を潤滑する方法を説明したが,以下に述べる事を併用してもよい。
低速運転域では,一定の電流値で圧縮機を駆動すると,圧縮機構部のガス圧縮トルクとモータの駆動トルクが一致しないため,回転子5aの加速,減速が生じ,回転振動が生じる。従って,圧縮機構部のガス圧縮トルクにモータの駆動トルクが合致するように,コンピュータによりモータの駆動電流値を制御する。こうすることにより,低速域から高速域まで振動の小さいロータリ圧縮機が得られる。
又,一般にロータリ圧縮機は,圧縮機の回転速度が12000rpm以上では性能が低下するため,それ以上の回転速度では運転しない。回転軸系の振動は,圧縮機の回転周波数の5倍以上に回転軸系の1次の固有振動数を設定すると十分な減衰により,圧縮機の振動は著しく小さくなる。従って,前記回転速度内では,回転軸系の1次の固有振動数を1000Hz以上になるように回転軸径を設定することにより,特に高速回転域において,振動の小さいロータリ圧縮機が得られる。
又,吸入管路系の一次の固有振動数と圧縮機の設定最高回転周波数を一致させるように,吸入管路長さを設定すると,慣性過給効果により,圧縮機の回転速度を12000rpm以上としても,圧縮機の性能を低下させないで運転することができる。この時は,回転系の1次の固有振動数を圧縮機の設定最高回転周波数の5倍以上になるように回転軸径を設定することにより特に高速回転速度域においても振動の小さいロータリ圧縮機を得ることができる。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると引用例2には,次の技術(以下,「引用例2記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「ケース16と,このケース16内に収められたシリンダ1およびシリンダ1内のローラ2と,上記ケース16内に収められ,上記シリンダ1内のローラ2を回転軸4に一体形成されたクランク3で転動回転させるモータ5とを有し,上記シリンダ1内のローラ2は上記回転軸4と一体形成されたクランク3で転動回転され,上記回転軸4は上記モータの回転子5aに固定されている圧縮機において,
圧縮機の軸系のふれまわりを低減し回転軸の軸振動を低減するために,
回転軸系の固有振動数を,圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きくする。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「密閉容器1内部に設けられた」態様は,本願発明の「密閉容器(1)内に配置された」態様に相当する。また,引用発明の「圧縮機構部2」は,本願発明の「圧縮要素(2)」に相当する。

(イ)引用発明の「密閉容器1内部に設けられる」態様は,本願発明の「密閉容器(1)内に配置される」態様に相当する。また,引用発明の「圧縮機構部2のピストン9」は「圧縮機構部2」の一部であり,引用発明の「軸4,クランク部4a及びコネクティングロッド8を介」する態様は本願発明の「シャフト(12)を介」する態様に相当し,引用発明の「往復動させる」態様は,本願発明の「駆動する」態様に相当するから,結局,引用発明の「圧縮機構部2のピストン9を軸4,クランク部4a及びコネクティングロッド8を介して往復動させる」態様は,本願発明の「圧縮要素(2)をシャフト(12)を介して駆動する」態様に相当する。そして,引用発明の「同期電動機の電動機部3」は,本願発明の「モータ(3)」に相当し,引用発明の「備え」た態様は,本願発明の「有し」た態様に相当する。

(ウ)引用発明の「圧縮機構部2のピストン9は軸4に備えられたクランク部4aとコネクティングロッド8を介して連結されて」いる態様は,「圧縮機構部2は軸4に連結されて」いる態様と言い換えられ,引用発明の「軸4は同期電動機の電動機部3の回転子17の小径部である軸孔19に嵌合されている」態様は,「軸4は同期電動機の電動機部3の回転子17に嵌合されている」態様と言い換えられるから,両態様からすると,「圧縮機構部2は軸4に連結されて」その「軸4は同期電動機の電動機部3の回転子17に嵌合されて」いるので,両態様を併せると「圧縮機構部2と同期電動機の電動機部3の回転子17とを軸4を介して一体にしている」態様と言い換えられ,引用発明の「回転子17」は,本願発明の「ロータ(6)」に相当するから,結局,引用発明の「圧縮機構部2のピストン9は軸4に備えられたクランク部4aとコネクティングロッド8を介して連結されており,上記軸4は同期電動機の電動機部3の回転子17の小径部である軸孔19に嵌合されている」態様は,本願発明の「圧縮要素(2)とモータ(3)のロータ(6)とをシャフト(12)を介して一体に」した態様に相当する。

ここで,本願発明の「一体に組み付けて一体構造部(8)を形成した」態様について検討するに,本願の請求項1には「圧縮要素」と「ロータ」とを「シャフト」を介して一体に組み付けて一体構造部を形成したと記載されているところ,「圧縮要素」がどのようなものを指しているか,また「一体に組み付け」るとはどのようにして一体にすることを指しているかは,必ずしも明確ではない。そこで,本願発明の「一体構造部」について,本願の発明の詳細な説明の記載を参酌する。
本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0018】
上記圧縮要素2は,上記密閉容器1の内面に取り付けられるシリンダ21と,このシリンダ21の上下の開口端のそれぞれに取り付けられている上側の端板部材50および下側の端板部材60とを備える。上記シリンダ21,上記上側の端板部材50および上記下側の端板部材60によって,シリンダ室22を形成する。
【0019】
上記上側の端板部材50は,円板状の本体部51と,この本体部51の中央に上方へ設けられたボス部52とを有する。上記本体部51および上記ボス部52は,上記シャフト12に挿通されている。
・・・
【0024】
上記下側の端板部材60は,円板状の本体部61と,この本体部61の中央に下方へ設けられたボス部62とを有する。上記本体部61および上記ボス部62は,上記シャフト12に挿通されている。
【0025】
要するに,上記シャフト12の一端部は,上記上側の端板部材50および上記下側の端板部材60に支持されている。つまり,上記上側の端板部材50および上記下側の端板部材60は,軸受け7を構成し,上記シャフト12は,上記軸受け7により,片持ちされている上記シャフト12の一端部(支持端側)は,上記シリンダ室22の内部に進入している。
【0026】
上記シャフト12の支持端側には,上記圧縮要素2側の上記シリンダ室22内に位置するように,偏心ピン26を設けている。この偏心ピン26は,ローラ27に嵌合している。このローラ27は,上記シリンダ室22内で,公転可能に配置され,このローラ27の公転運動で圧縮作用を行うようにしている。
・・・
【0032】
図1に示すように,上記モータ3は,上記ロータ6と,このロータ6の径方向外側にエアギャップを介して配置された上記ステータ5とを有する。・・・
【0035】
上記ロータ6は,ロータコア610と,このロータコア610に埋設された(図示しない)磁石とを有する。・・・
【0036】
上記ロータコア610の内側には,上部に小径部610aと下部に大径部610bとが設けられている。・・・上記小径部610aには,上記シャフト12が固定されている。・・・
【0043】
ここで,上記一体構造部8の固有振動数を,圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きくした理論を説明する。基本加振力成分と回転子の振れ回りによる1N成分との間で発生する変調成分,つまり,回転数の(極数±1)倍の加振力が大きくなることは理論上わかっている。圧縮機用として一般的に使われるモータの極数は4極が多く,回転数の極数±1,すなわち回転数の3倍または5倍の加振力が大きくなる。そこで,上記一体構造部8の固有振動数を最高回転数の5倍よりも大きくしておくことで,圧縮機の運転時の回転数の範囲内で,回転数の3倍または5倍の周波数と固有振動数が,一致することが無くなり,運転時の大きな騒音及び振動を防止できる。」

これらの記載及び【図1】の図示内容を総合すると,特に,一体構造部8の固有振動数は回転子の振れ回りと関連した説明がなされていることから,本願発明における「一体構造部(8)」は,「圧縮要素(2)」のシリンダ室22を形成するシリンダ21,上側の端板部材50および下側の端板部材60と,圧縮作用を行うローラ27と,「ロータ(3)」と,偏心ピン26を設けた「シャフト(12)」とを一体にしてなり,回転子の振れ回りと関連する「シャフト(12)」の振動に影響する部分と解され(なお,平成24年8月28日当審作成の応対記録における,平成24年8月7日付け請求人の回答において,「一体構造部は,圧縮要素,シャフト,ロータからなり,圧縮要素は,シリンダ,上側と下側の端板部材,ローラを含み,シャフトは,偏心ピンを含む」と主張し,平成24年8月8日付け請求人の回答において,「このシャフトの曲げの変形モードに対して,シャフトに固定されていなくともシャフトを拘束している端板部材(軸受を含む)やシリンダは,影響を与えます。このため,加振力の原因となる固有振動数の測定のための一体構造部に,シャフトに固定されていない端板部材やシリンダを含めています。」と,請求人は主張している。),「一体構造部(8)」を構成する態様が,すなわち「一体に組み付けて一体構造部(8)を形成した」態様といえる。
一方,引用発明では,圧縮機構部2のピストン9は軸4に備えられたクランク部4aとコネクティングロッド8を介して連結されており,上記軸4は同期電動機の電動機部3の回転子17の小径部である軸孔19に嵌合されている。そうすると,引用発明は,圧縮機構部2のシリンダ室を形成するシリンダブロック5と,圧縮作用を行うピストン9とコネクティングロッド8と,回転子17と,クランク部4aを設けた軸4とを一体にしてなるものを含むのであって,回転子の振れ回りと関連する軸4の振動に影響する部分を有するから,本願発明の「一体構造部」に相当するものを有し,すなわち,本願発明の「一体構造部」に相当するものを構成する態様を有するといえる。
したがって,引用発明の「圧縮機構部2のピストン9は軸4に備えられたクランク部4aとコネクティングロッド8を介して連結されており,上記軸4は同期電動機の電動機部3の回転子17の小径部である軸孔19に嵌合されている」態様は,本願発明の「圧縮要素(2)とモータ(3)のロータ(6)とをシャフト(12)を介して一体に組み付けて一体構造部(8)を形成した」態様に相当する。

また,引用発明の「電動圧縮機」は,本願発明の「圧縮機」に相当する。
(エ)引用発明の「固定子13の巻線」は,本願発明の「ステータ(5)のコイル(520)」に相当し,引用発明の「巻装され」た態様と,本願発明の「集中巻きであ(り)」る態様とは,巻方式を採用したとの概念で共通している。

(オ)引用発明の回転子17が円筒状であることは技術的に自明であるので,引用発明の「回転子17に」「設けられ」た「回転子鉄心18」は,本願発明の「ロータの円筒状のロータコア」に相当する。また,引用発明の「小径部である軸孔19」は,本願発明の「小径部(610a)」に相当し,引用発明の「ボア部20」は,本願発明の「大径部(610b)」に相当する。よって,引用発明の「回転子17には回転子鉄心18が設けられ,上記回転子鉄心18の内側には小径部である軸孔19とボア部20とが設けられ」た態様は,本願発明の「ロータの円筒状のロータコアの内側には,小径部と大径部とが設けられ」た態様に相当する。

(カ)引用発明の「圧縮機構部2のシリンダ7が形成されたシリンダブロック5の軸4を支持する軸受け部6」は,本願発明の「圧縮要素に設けられ(て)」た「軸受け(7)」に相当し,引用発明の「ボア部20の内側まで,」「軸受け部6の一部が延在」する態様は,本願発明の「大径部には,」「軸受けが挿入され」る態様に相当するから,結局,引用発明の「ボア部20の内側まで,圧縮機構部2のシリンダ7が形成されたシリンダブロック5の軸4を支持する軸受け部6の一部が延在」する態様は,本願発明の「大径部(610b)には,圧縮要素(2)に設けられてシャフト(12)を支持する軸受け(7)が挿入され」る態様に相当する。

したがって両者は,
「密閉容器と,この密閉容器内に配置された圧縮要素と,上記密閉容器内に配置されると共に上記圧縮要素をシャフトを介して駆動するモータとを有し,上記圧縮要素と上記モータのロータとを上記シャフトを介して一体に組み付けて一体構造部を形成した圧縮機において,
上記モータのステータのコイルは,巻方式を採用し,
上記ロータの円筒状のロータコアの内側には,小径部と大径部とが設けられ,
上記小径部には,上記シャフトが固定され,
上記大径部には,上記圧縮要素に設けられて上記シャフトを支持する軸受けが挿入され,この軸受けにより,上記シャフトは,片持ちされる,
圧縮機。」
の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
モータのステータのコイルに採用する巻方式に関し,本願発明は「集中巻き」と特定しているのに対し,引用発明はかかる特定がない点。
[相違点2]
本願発明は「一体構造部の固有振動数は,圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きい」と特定しているのに対し,引用発明はかかる特定がない点。

5.判断
上記相違点について,以下に検討する。
[相違点1]について
例えば原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-51841号公報の段落【0007】(「集中巻固定子の自己始動式永久磁石界磁同期電動機とこれを用いた圧縮機を提供する」という記載。)や,同特開2004-282934号公報の段落【0001】(「集中巻きされた固定子巻線を固定子に備えた・・・自己始動型永久磁石式同期電動機等の駆動用電動機及びこれを用いた圧縮機に関する。」という記載。),さらには,特開2005-180312号公報の【請求項3】,【請求項6】及び段落【0061】-【0067】(特に,【請求項6】の「同期電動機を構成した・・・電動圧縮機。」という記載,及び段落【0066】の「固定子216は・・・突極集中巻方式にて巻装した巻線部224とを備えている。」という記載。)や本願の明細書の段落【0002】に従来技術として記載された特許第3586145号公報の段落【0019】(「圧縮機の一実施形態の全体構造を示す縦断面図であり,・・・電動機10は・・・同期電動機であって,・・・固定子巻き線13は・・・集中巻方式の巻線である。」という記載。)に示されているように,圧縮機のモータ(同期電動機)のステータのコイルの巻方式として集中巻を採用することは,周知技術である。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用することにより,本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易である。

[相違点2]について
引用例2記載技術は,本願発明及び引用発明と同様に,密閉容器(「ケース16」が相当)内に配置された(「収められた」が相当)圧縮要素(「シリンダ1」及び「ローラ2」が相当)と,上記密閉容器内に配置され(「収められ」が相当),上記圧縮要素をシャフト(「クランク3」及び「回転軸4」が相当)を介して駆動する(「転動回転させる」が相当)モータ(「モータ5」が相当)とを有し,上記圧縮要素と上記モータのロータ(「回転子5a」が相当)とをシャフトを介して一体に形成した圧縮機に係るものであって,圧縮機の軸系のふれまわりを低減し回転軸の軸振動を低減するために,回転軸系の固有振動数を,圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きくするものである。ここで,上記「回転軸系」がいかなる構成であるかは引用例2の記載からは必ずしも明らかではないが,その固有振動数を工夫すること,及び引用例2に係る上記摘記事項(イ)及び(エ)からすると,少なくとも回転軸4の振動に影響する部分を構成するものと解すべきである。そうすると,引用例2記載技術における「シリンダ1」及び「ローラ2」と「回転子5a」とを「クランク3」及び「回転軸4」を介して一体に形成したものは,それが「回転軸4」を含む以上,少なくとも回転軸4の振動に影響する部分を構成することは明らかであるから,これらが回転軸系を構成するといえる。
してみると,引用発明は,回転子の回転振れ,すなわち軸4の振動を抑制することを課題としており(引用例の【0011】段落の「回転子をできるだけ圧縮機構部に近づけているためボア部に軸受の一部を延在させて回転子の回転振れを抑制する」との記載(摘記箇所(ウ)参照),引用例2記載技術も,電動圧縮機の軸系のふれまわりを低減し回転軸の軸振動を低減することを課題としているから,この引用発明と引用例2記載技術との課題の共通性に鑑みて,引用発明の回転軸の振動に影響する部分である一体構造部に,引用例2記載技術の回転軸の振動に影響する部分である回転軸系の固有振動数を,圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きくすることを適用して,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得たことである。そして,上記適用するに際し,回転軸の振動に影響する部分として「一体構造部」と特定することは,平成24年8月28日当審作成の応対記録における,平成24年8月8日付け請求人の回答において,「密閉容器に取り付けた後,圧縮機の外側からでは,加振力に関係するシャフトの曲げの変形モードによる固有振動数の測定が不可能なため,密閉容器を除く一体構造部で,固有振動数を規定しております。また,密閉容器に取り付けた後では,ロータを叩いて加振力を発生させることもできないため,一体構造部の固有振動数を測定することもできません。」との主張にあるように,固有振動数の測定等の測定性や組み立て性などを考慮することによる,適用させる上での単なる設計的事項にすぎない。

そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明,上記周知技術及び引用例2記載技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお,審判請求人は審判請求書の請求の理由において,「引用文献1(注:引用例1)の片持ち構造は,回転子の回転振れを抑制するための構造であり,片持ち構造である限り固有振動数を高くすることができないという既成概念が有りました。一方,引用文献2(注:引用例2)の両持ち構造は,回転軸系の剛性を高めて,回転軸系の固有振動数を圧縮機の運転時の最高回転数の5倍以上にするための構造であり,引用文献1の片持ち構造の目的と引用文献2の両持ち構造の目的は,全く,異なります。したがって,固有振動数が低くなる片持ち構造の引用文献1の発明に,固有振動数を高くして圧縮機の運転時の最高回転数の5倍以上にする両持ち構造の引用文献2の発明を,組み合わせる動機付けが全く有りません」旨,主張している。
しかし,上記のとおり,引用発明は,ボア部に軸受の一部を延在させて回転子の回転振れを抑制することを課題とし,引用例2記載技術は,回転軸系の振動を低減することが課題であるから,シャフトおよびこれと一体のロータの回転に伴う振動を抑えるという点で,両者の課題は共通するのであるから,これらを組み合わせる動機付けがないということはできない。
また,審判請求人は同請求の理由において,「引用文献1の「片持ち」と引用文献2の「両持ち」とは,思想的に正反対のもので,互いに相反するものですから,引用文献1と引用文献2とを組み合わせるのには,明確な阻害事由があって,当業者(通常の技術者)といえども引用文献1と引用文献2とは組み合わせることができません」とも主張している。
しかし,引用例2記載技術における,固有振動数を高めるための手段として,質量や剛性を増やすことは技術常識であって,一体構造部の材質を変えたり,回転軸の太さや長さをを変えたりするなどの手段も取り得るから,圧縮機の設定最高回転数の5倍を超える範囲に固有振動数を設定することは,シャフトを両持ちとすることを必須とするものではない。したがって,シャフトの両持ちか片持ちかの相違が引用発明への引用例2記載技術の適用を妨げることにはならない。
そして,審判請求人は,引用文献3(注:特開2005-51841号公報)および4(注:特開2004-282934号公報)について,同請求の理由において,「集中巻きをすると,加振力が大きくなって騒音,振動が大きくなろうとするから,それを防止するために,引用文献3,4では,必然的に,軸受に剛性の高い両持ち構造を採用しているのであります。したがって,当業者は,集中巻きにおいて,騒音,振動を低減するために,両持ちを採用し,片持ちを採用することはなく,引用文献3,4を,引用文献1に記載のものに適用することは,当業者には予測できないことです。」と主張する。
しかし,引用文献3および4記載の発明が,ステータのコイルが集中巻きであるために,両持ち構造を採用している旨の技術的因果関係を明らかにするものではないから,上記主張は採用の限りではない。そして,上記のとおり特開2005-180312号公報には図6に軸受けがロータの大径部に挿入され「シャフト104」を片持ちする電動圧縮機か図示され,同じく上記特許第3586145号公報には図3に軸受けがロータの大径部に挿入され「クランクシャフト7」を片持ちする圧縮機が図示されているように,シャフトの片持ち構造を採用したものであって,圧縮機のモータのステータのコイルを集中巻とすることが開示されているから,上記主張は採用できない。
さらに,審判請求人は同請求の理由において,「(i)ステータのコイルは,集中巻きである点。(ii)シャフトは,片持ちされている点。(iii)軸受けは,ロータの大径部に挿入されている点。(iv)一体構造部の固有振動数は,圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きい点。の一体不可分の結合について,一切考慮していな」い旨主張する。
しかし,ステータのコイルが集中巻きであることと,一体構造部の固有振動数が圧縮機の運転時の最高回転数の5倍よりも大きいこととは,技術的に不可分であるとはいえないから,上記主張には技術的根拠がないというべきである。
以上のとおりであるから,審判請求人の上記各主張はいずれも採用できない。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,上記周知技術及び引用例2記載技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-09 
結審通知日 2012-10-16 
審決日 2012-10-30 
出願番号 特願2008-214314(P2008-214314)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏原 郁昭  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 堀川 一郎
槙原 進
発明の名称 圧縮機  
代理人 田中 光雄  
代理人 磯江 悦子  
代理人 山崎 宏  
代理人 仲倉 幸典  

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