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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1267394
審判番号 不服2012-1414  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-25 
確定日 2012-12-13 
事件の表示 特願2001-243894「有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月28日出願公開、特開2003- 59657〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年(2001年)8月10日を出願日とする特願2001-243894号であって、平成23年4月22日付けで拒絶理由が通知され、同年6月23日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年10月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年1月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年6月23日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおり次のように特定されるものである。

「少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に、少なくとも1層の有機発光体を含む発光層を有し、かつ該陰極がアルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、該アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を形成する工程中または該工程の後に、該素子を50℃?120℃の温度範囲で熱処理し、ついで冷却し、アルミニウムからなる金属層を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。」

第3 引用例
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-325871号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、有機化合物から成る発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。」
「【0005】以上に示した様な有機電界発光素子においては、通常、陽極としてはインジウム錫酸化物(ITO)のような透明電極が用いられるが、陰極に関しては電子注入を効率よく行うために仕事関数の低い金属電極が用いられ、マグネシウム合金やカルシウム等が使われている。有機電界発光素子の最大の問題点は素子の寿命であり、寿命を制限する一つの要因が陰極材料に由来するダークスポット(素子の発光部で発光しない部分をさす)の発生である。このために、長期間保存する場合に、有機電界発光素子内のダークスポットの数・大きさが増加して、結果として素子の寿命が短いものとなっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これまでに開示されている有機電界発光素子では、電界発光は陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子との再結合によりもたらされる。一般に、キャリアの注入は、電子の場合、陰極と有機発光層との界面における注入障壁を乗り越えて行われなければならない。この電子注入障壁を低くして注入効率を向上させるために、マグネシウム合金やカルシウム等の低仕事関数の金属電極が陰極として使用されている。しかしながら、これらの金属材料は有機発光層との密着性が悪いために、陰極が有機発光層から剥離、又は、酸化して、長期間の保存中に素子の発光特性が劣化したり、ダークスポットが発生することが問題となっていた。素子を作製する時に基板加熱を行ったり、作製した後で加熱処理して、陰極と有機発光層との間の密着性を向上させることは可能ではあるが、加熱の際に陰極と有機発光層との間で反応がおき、発光特性の低下が避けられなかった。」

「【0050】を、界面層4として先に示した有機シリコン化合物(4)を15nmの膜厚で設けたこと以外は実施例1と同様にして、図2に示す構造の有機電界発光素子を作製した。この素子を真空中で100℃、1時間加熱処理した後の輝度-電圧特性を加熱処理前の特性とともに図4に示す。加熱処理することにより駆動電圧は加熱処理する前より低下させることができた。」

2 引用例1に記載された発明の認定
上記記載を総合すれば、引用例1には、
「陽極としてはインジウム錫酸化物(ITO)のような透明電極が用いられるが、陰極に関しては電子注入を効率よく行うために仕事関数の低い金属であるマグネシウム合金やカルシウム等が使われている有機電界発光素子の製造方法に関し、
上記の陰極として使用されている金属材料は有機発光層との密着性が悪いために、陰極が有機発光層から剥離、又は、酸化して、長期間の保存中に素子の発光特性が劣化したり、ダークスポットが発生するという課題を有し、当該課題を解決するために、素子を作製する時に基板加熱を行ったり、作製した後で加熱処理して、陰極と有機発光層との間の密着性を向上させる有機電界発光素子の製造方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

第4 本願発明と引用発明の対比
1 対比
ここで、本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「陰極に関しては電子注入を効率よく行うために仕事関数の低い金属であるマグネシウム合金やカルシウム等が使われている」ことが、本願発明の「陰極がアルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を含む」ことに相当し、また、本願発明の有機電界発光素子においても「一対の陽極および陰極からなる電極間に、少なくとも1層の有機発光体を含む発光層を有」するものであることは当然であるから、引用発明の「陽極としてはインジウム錫酸化物(ITO)のような透明電極が用いられるが、陰極に関しては電子注入を効率よく行うために仕事関数の低い金属であるマグネシウム合金やカルシウム等が使われている有機電界発光素子の製造方法」が、本願発明の「少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に、少なくとも1層の有機発光体を含む発光層を有し、かつ該陰極がアルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」に相当する。

(2)引用発明の「陰極に関しては電子注入を効率よく行うために仕事関数の低い金属であるマグネシウム合金やカルシウム等が使われ」、「陰極として使用されている金属材料は有機発光層との密着性が悪いために、陰極が有機発光層から剥離、又は、酸化して、長期間の保存中に素子の発光特性が劣化したり、ダークスポットが発生するという課題を有し、当該課題を解決するために、素子を作製する時に基板加熱を行ったり、作製した後で加熱処理して、陰極と有機発光層との間の密着性を向上させる」ことと、本願発明の「アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を形成する工程中または該工程の後に、該素子を50℃?120℃の温度範囲で熱処理し、ついで冷却し、アルミニウムからなる金属層を形成する」こととは、「アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を形成する工程中または該工程の後に、該素子を熱処理」するものである点で一致する。

2 一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に、少なくとも1層の有機発光体を含む発光層を有し、かつ該陰極がアルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、該アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を形成する工程中または該工程の後に、該素子を熱処理する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

3 相違点
(1)相違点1
アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を形成する工程中または該工程の後の熱処理に関し、本願発明においては、当該熱処理の温度範囲を「50?120℃」と特定しているのに対し、引用発明においてはその点の特定がない点。

(2)相違点2
本願発明においては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を形成する工程中または該工程の後の熱処理後に「冷却し、アルミニウムからなる金属層を形成する」のに対して、引用発明においてはその点の特定がない点。

第5 当審の判断
1 相違点の検討
(1)相違点1について
熱処理の温度範囲については、金属電極層と有機層の密着性の向上等の素子の改善の効果を奏するためにはある程度以上の温度が必要であり、一方で、熱処理温度を高めすぎると有機層などを劣化させることになるため、特定の温度範囲において熱処理することが要請されることは当然であるといえるところ、当該熱処理の温度範囲をどの程度に設定するかは、上記の要請に応じて当業者が適宜設定し得ることである。
そして、本願発明における「50?120℃」という設定温度は、有機EL装置において有機層などを劣化させることのない熱処理のための加熱温度として通常に設定され得る温度である設定温度といえる(例えば、引用例1においても実施例(【0050】)では上記「50?120℃」という設定温度の範囲内の「100℃」で素子を加熱処理していることからも、この点は裏付けられる。)から、上記温度範囲を設定することに格別の困難性は認められない。

(2)相違点2について
有機EL素子において、電子注入性を高めるため、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の陰極の層の上(有機層と反対側)に、アルミニウム等の低抵抗の電極(保護電極)を設けることは、例えば、特開平11-40352号公報(原査定の拒絶の理由に引用された文献、【0050】参照)や特開2001-185364号公報(原査定の備考において引用された文献、【0028】【0029】参照)等にも記載されているように周知の技術である。
引用発明においても、電子注入性を高めることは自明の技術課題といえるから、当該技術課題を解決するために、上記周知技術を採用し、マグネシウム合金やカルシウム等からなる陰極層の上にアルミニウムからなる保護電極の層を設けること、すなわち、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する層を形成する工程中または該工程の後の熱処理後にアルミニウムからなる保護電極の層を形成することは,当業者が容易に想到し得ることである。
そして、「アルカリ金属やアルカリ土類金属等の陰極の層を形成する工程」と「アルミニウム等の低抵抗の電極(保護電極)を形成する工程」を別工程で行うことは普通に行われてることであり(上記の特開2001-185364号公報の【0048】及び【0050】参照)、また、一般に、各製造工程のどの工程とどの工程の間でどれだけの時間をあけるかということ、あるいは、どの工程とどの工程の間に冷却工程を設けるかということについては、製造装置の構成から設定される段取り、素子自体の特性や製造方法に起因する要請等に応じて適宜設定し得ることにすぎないから、「アルカリ金属やアルカリ土類金属等の陰極の層を形成する工程」後に、(冷却工程のための時間を設けて)冷却し、「アルミニウム等の低抵抗の電極(保護電極)を形成する工程」を行うとし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることに格別の困難性は認められない。

2 本願発明によってもたらせる効果について
そして、本願発明によってもたらされる明細書に記載の効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

3 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-10 
結審通知日 2012-10-16 
審決日 2012-10-29 
出願番号 特願2001-243894(P2001-243894)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 素川 慎司  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
神 悦彦
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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