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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1267437
審判番号 不服2010-5732  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-16 
確定日 2012-12-05 
事件の表示 特願2003-528132「ピリメタニルおよびイプロジオンを含有する殺真菌組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月27日国際公開、WO03/24228、平成17年 1月27日国内公表、特表2005-502719〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年 9月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年 9月18日、(FR)フランス)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月21日付けの拒絶理由通知に対して、平成21年 6月 2日に意見書が提出されたが、同年11月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年 3月16日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、平成23年 9月21日付けで審尋がなされ、平成24年 1月26日に回答書が提出されたものである。


第2 平成22年 3月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年 3月16日付けの手続補正を、却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成22年 3月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「ピリメタニルおよびイプロジオンを、1/3から3の範囲好ましくは1/2から2の範囲のそれぞれの割合で含有する殺真菌組成物」
を、
「ピリメタニルおよびイプロジオンを、1/2から2の範囲のそれぞれの割合で含有する殺真菌組成物」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)目的要件
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ピリメタニルおよびイプロジオン」について、その比を「1/3から3の範囲好ましくは1/2から2の範囲」であったものを「1/2から2の範囲」と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」といい、上記補正後の明細書を「本件補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについてみると、以下のとおり、本件補正発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
そうすると、請求項1についての上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものとはいえない。

以下、詳述する。

ア 刊行物
a 特開平6-56610号公報(原査定における引用文献1に同じ。以下、「刊行物1」という。)
b 特開平5-112408号公報(原査定における引用文献2に同じ。以下、「刊行物2」という。)

イ 刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1には、以下の事項が記載されている。
1a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 a) 2-アニリノ-4,6-ジメチルピリミジン、および
b) 異なった化合物の種類の殺菌性化合物
を含む殺菌性組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の組成物を菌または菌の存在場所に適用することからなる、植物病原性の菌を撃退する方法。」

1b 「【0001】
【発明の分野】本発明は有用な殺菌性を有する組成物に関する。DDR特許第151 404号には、殺菌活性を有するアニリノピリミジン化合物の群が記載されている。ここで、本発明者らは本明細書に開示されている化合物のうちのひとつ、すなわち一般名がピリメタニルである2-アニリノ-4,6-ジメチルピリミジンを異なった化合物の種類(chemical class)の殺菌剤と組み合わせた場合、特に有用な殺菌性組成物が得られるということを発見した。従って、本発明は、
a) 2-アニリノ-4,6?ジメチルピリミジン、および
b) 異なった化合物の種類の殺菌性化合物
を含む殺菌性組成物を提供する。」

1c 「【0002】成分(b)は、一般に
(i) コナゾールステロイド脱メチル化阻害剤
(ii) N原子を介してピペリジンまたは2,6?ジメチルモロホリンに結合された1-〔3-(4-tert-ブチルフェニル)-2-メチルプロピル〕基に基づくステロイド還元阻害剤
(iii) ジチオカルバメート殺菌剤
(iv) シクロアルキルチオ基がN原子を介して場合により水素化されているフタルイミド基に結合されたフタルイミド殺菌剤
(v) アニリド殺菌剤
(vi) mbc殺菌剤
(vii) カルバメート殺菌剤
(viii) 銅化合物殺菌剤
(ix) スズ化合物殺菌剤
(x) ストロビルリン型殺菌剤
(xi) クロロタロニル、ジメトモルフ、フェンピクロニル、フルアジナム、ヒメキサゾール、ヌアリモール、ペンシクロン、ピリフェノクス、チシオフェン、プロベナゾール、ピロキロン、トリクラゾール、4級アンモニウム化合物、フルジオキソニル、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(及びこれらの二つの混合物)、フルメシクロクス、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート及び硫黄からなる群より選ばれる殺菌剤
から選ばれる化合物である。
【0003】コナゾールはイミダゾールまたは1,2,4-トリアゾールに基づく、ハロゲン化フェニル基を含む化合物としてISO規格257に定義されている。例としては、プロクロラズ(及びその金属錯体、特にマンガン又は銅錯体)、プロピコナゾール、フルシラゾール、ヘキサコナゾール、テブコナゾール、ジフェノコナゾール、ブロムコナゾール、シプロコナゾール、ジニコナゾール、フェンブコナゾール、イミベンコナゾール、フルコナゾール、テトラコナゾール、ミクロブタニル、ペンコナゾール、フルキンコナゾール、アザコナゾール、イマザリル、トリフルミゾール、エポキシコナゾール、トリチコナゾール、メトコナゾール、及びコード番号SSF 109を有する殺菌剤が含まれる。
【0004】(ii)のタイプの殺菌剤の例には、フェンプロピモルフ及びフェンプロピジンが含まれる。
(iii)のタイプの殺菌剤の例にはマンコゼブ及びチラムが含まれる。
(iv)のタイプの殺菌剤の例には、フォルペット、カプタフォール及びカプタンが含まれる。
(v)のタイプの殺菌剤の例には(a) アニリノ窒素が窒素に隣接した位置で二つのオキソ置換基を担持する環を含む3′,5′-ジクロロアニリド殺菌剤、例えばイプロジオン、ビンクロゾリン又はプロシミドン、または(b) アセトアニリド殺菌剤、例えばメタラキシル又はオフレース、(c) スルフアニリド殺菌剤、例えばジクロフルアニド、(d) ベンズアニリド殺菌剤、例えばフルトラニル、および(e) ヘテロアリールアニリド殺菌剤、例えばチフルツアミドが含まれる。
【0005】(vi)のタイプの殺菌剤の例にはカルベンダジム、ベノミル及びチオファネートメチルが含まれる。
(vii)のタイプの殺菌剤の例にはジエトフェンカルブ及びプロパモカルブが含まれる。
(viii)のタイプの殺菌剤の例にはボルドウ混合物、オキシン-銅、銅オキシクロリド、及び銅ナフテネートが含まれる。
(ix)のタイプの殺菌剤の例には、トリブチルチンオキシド、及びトリブチルチンナフテネートが含まれる。
【0006】ストロビルリンタイプの殺菌剤((x)のタイプの殺菌剤)は、酢酸がメトキシメチレン又はメトキシイミノ置換基も担持しているアリール酢酸のメチルエステルである。アリール基は通常2-置換されたフェニル基である。このような化合物の例は、ヨーロッパ特許178826、203606、203608、206523、229974、226917、242070、242081、243012、243014、251082、256667、260794、260832、267734、270252、273572、274825、278595、291196、299694、307101、307103、310954、312221、312243、329011及び336211を含む幅広い数の特許明細書に開示されている。」

1d 「【0010】本発明者らは、本発明の組成物が個々の成分を越える優れた性質を有しており、しばしば相乗作用が見られ、農作物の収率が増加しうるということを発見した。成分(a)対成分(b)の重量比は、広い範囲にわたって変化することができる。(a)対(b)の適切な範囲は25:1から1:25であり、特に5:1から1:5である。さらに、上記した活性成分に関連して殺菌性の成分間の相互作用に逆に影響することのない他の殺菌剤を使用することができる。」

1e 「【0011】本発明の組成物は広範囲の真菌、例えば小麦、大麦、オート麦及びライ麦等の穀類農作物のウドンコ病菌並びに他の葉の疾病、例えばふ枯病〔セプトリアノドラム(Septoria nodorum)〕、雲形病〔リンコスポリウムセカリス(Rhynchosporium secalis)〕、眼点〔シュードセルコスポレラヘルポトリコイデス(Pseudocercosporella herpotrichoides)〕、及びさび病〔例えば、プシニアグラミニス(Puccinia graminis)〕、対して活性である。本発明のある種の組成物は種子伝播菌、例えば小麦のなまぐさ黒穂病〔チレチアカリエス(Tilletia caries)〕、大麦及びオート麦の裸黒穂病〔ウスチラゴヌダ(Ustilago nuda)及びウスチラゴホルデイ(Ustilago hordei)〕、オート麦の斑点病〔ピレノホラアベネ(Pyrenophora avenae)〕、及び大麦の斑葉病〔ピレノホラグラミニス(Pyrenophora graminis)〕を抑制するのに使用することができる。この組成物はまたイネのいもち病〔ピリクラリアオリゼ(Pyricularia orizae)〕の抑制のためイネに、園芸農作物、例えばリンゴ黒星病〔ベンチュリアイネカリス(Venturia inaequalis)〕の抑制のためリンゴの木に、ウドンコ病〔スフェロテカパノサ(Sphaerotheca pannosa)〕、さび病及び黒斑病の抑制のためバラ及び他の観賞植物に、ボトリチスシネラ(Botrytis cinerea)の抑制のため多くの農作物に、ドラースポット〔スクレロチニアホメオカルパ(Sclerotinia homeocarpa)〕の抑制のため芝生に、そして柑橘果実、ジャガイモ、砂糖大根、リンゴ、西洋ナシの貯蔵物腐敗菌〔ペニシリウム種(Penicillium spp.)、アスペルギルス種(Aspergillus spp.)及びボトリチス種(Botrytis spp.)〕を抑制するために貯蔵製品に適用することができる。撃退され得る他の疾病には、ヘルミントスポリウム種(Helminthosporirum spp.)及びセロスポラ種(Cerospora spp.)が含まれる。」

1f 「【0016】本発明の組成物は種子、特に穀類の種子の処理、特に種子伝染病を制御するのに有用である。種子は種々の処方タイプ、例えば粉剤、有機溶媒中の溶液又は水性処方物、例えば流動性の懸濁濃縮物を用いて慣用の方法で処理される。穀類の穀粒が貯蔵室又は容器に貯蔵される場合、穀類の穀粒それ自体の処理のかわりに又は加えて、本発明の組成物で貯蔵室又は容器を処理することはしばしば好都合である。種子の粉衣に関する適用の適当な比率は種子キログラムあたり2-アニリノ-4,6-ジメチルピリミジン0.005?5.0g、例えば種子キログラムあたり0.01?1.0gである。
【0017】別法として、本発明の組成物は植物に菌が現れ始めたときに又は菌が現れる前に、保護手段として例えば噴霧又は散布により直接植物に適用することができる。いずれの場合も、好ましい適用方法は葉面噴霧である。本発明の組成物が直接植物に適用される場合、適切な適用比率は0.005?2キログラム/ヘクタール、好ましくは0.1?1キログラム/ヘクタールである。従って、本発明は、本発明の混合物を菌または菌の存在場所に適用することからなる植物病原体の菌を撃退する方法を含有する。本発明を以下の実施例で例証する。ここでは、インビトロ試験が述べられており、相乗作用効果が観察された。」

1g 「【0018】
【実施例】2-アニリノ-4,6-ジメチルピリミジンおよび成分(b)殺菌剤は、寒天中で必要とされる活性成分の濃縮物が得られる量で、融解した寒天中に組み込まれた。次いで融解した寒天をペトリ皿に注ぎ込み固まるにまかせた。特定の菌の寒天培養物の5mmの菌糸体のプラグを、菌糸体表面を下にして各プレートの中央に移した。皿を20℃でインキュベートした。次いでコロニーの直径を種々の時間に測定し、そして同様に接種されたが活性成分を含まない、標準として使用した寒天皿の成長と比較して、成長のパーセント制御を計算した。
【0019】活性成分間で相乗作用が存在することを示すために、結果をColby S.R.,“Calculating Synergistic and Antagonistic Responses of Herbicide Combinations”in Weeds,1967 15,20?22に記載されている方法により処理した。この方法では、処理されていない対照と比較した配合の「予想された」成長抑制のパーセント、Eは下記の式により得られる。
【0020】
【数1】

【0021】ここで、Aは生成した濃縮物において単独に使用された、2-アニリノ-4,6-ジメチルピリミジンによる抑制%であり、そしてFは生成した濃縮物において単独に使用された、成分(b)による抑制%である。観察された混合物による抑制がEよりも大きいならば、その結果は相乗作用を示している。表に得られた比率で相乗作用の証拠が示されている。
【0022】1) プロクロラズ
a) Pyricularia oryzae
【表1】
・・・
【0023】2) クロロタロニル
a) Botrytis cinerea
【表2】
・・・
【0024】3) フェンプロピジン
a) Botrytis cinerea
【表3】
・・・
【0025】b) Gaeumannomyces graminis
【表4】
・・・
【0026】4) プロピコナゾール
a) Pseudocercosporella herpotrichoides
【表5】
・・・
【0027】5) フルシラゾール
a) Botrytis cinerea
【表6】
・・・
【0028】6) マンゼブ
a) Pyricularis oryzae
【表7】
・・・
【0029】7) チラム
a) Botrytis cinerea
【表8】
・・・
【0030】8) イプロジオン
a) Botrytis cinerea
【表9】

【0031】9) エポキシコナゾール
a) Botrytis cinerea
【表10】
・・・
【0032】10) ブロムコナゾール
a) Sclerotinia sclerotiorum
【表11】
・・・
【0033】11) シプロコナゾール
a) Botrytis cinerea
【表12】
・・・
【0034】b) Sclerotium rolfsii
【表13】
・・・
【0035】12) ジニコナゾール
a) Botrytis cinerea
【表14】
・・・
【0036】b) Sclerotinia sclerotiorum
【表15】
・・・
【0037】13) フルキノコナゾール
a) Fusarium nivale
【表16】
・・・
【0038】14) テブコナゾール
a) Botrytis cinerea
【表17】
・・・
【0039】15) ビンクロゾリン
a) Sclerotium rolfsii
【表18】
・・・
【0040】16) ベノモイル
a) Fusarium nivale
【表19】
・・・
【0041】17) ジフェノコナゾール
a) Botrytis cinerea
【表20】
・・・
【0042】18) ヘキサコナゾール
a) Botrytis cinerea
【表21】
・・・
【0043】19) チオファネートメチル
a) Botrytis cinerea
【表22】
・・・
【0044】20) ヒメキサゾール
a) Botrytis cinerea
【表23】
・・・
【0045】21) オフレース
a) Fusarium nivale
【表24】
・・・
【0046】22) BAS 490F
a) Botrytis cinerea
【表25】
・・・
【0047】23) ICIA 5504
a) Botrytis cinerea
【表26】
・・・」

(イ)刊行物2には、以下の事項が記載されている。
2a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式
【化1】

(式中、Rはメチル基、エトキシ基、ハロゲン原子または1-プロピニル基を示す)にて示される2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体と2,6-ジクロロ-4-ニトロアニリン、3-(3,5-ジクロロフェニル)-N-イソプロピル-2,4-ジオキソイミダゾリジン-1-カルボキシミド、N-(3,5-ジクロロフェニル)-1,2-ジメチルシクロプロパン-1,2-ジカルボキシミド、アルミニウムトリスエチルホスホネートまたはポリオキシンから選ばれる1種以上を有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物。」

2b 「【0002】
【従来の技術】本発明の農園芸用殺菌剤組成物の一方の有効成分である2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体はイネいもち病、キュウリうどんこ病、各種作物の灰色かび病、リンゴ黒星病、斑点落葉病などに卓効を示す農園芸用殺菌剤として知られる公知化合物である(特開昭62-106084号公報、特開昭63-208581号公報及び東独特許第151404号)。他方の有効成分である2,6-ジクロロ-4-ニトロアニリン(一般名CNA)、3-(3,5-ジクロロフェニル)-N-イソプロピル-2,4-ジオキソイミダゾリジン-1-カルボキシミド(一般名イプロジオン)、N-(3,5-ジクロロフェニル)-1,2-ジメチルシクロプロパン-1,2-ジカルボキシミド(一般名プロシミドン)、アルミニウムトリスエチルホスホネート(一般名ホセチル)及びポリオキシンも作物病害防除剤として広く使用されている公知の殺菌剤である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】農園芸作物の栽培に当たり、作物の病害に対して多数の防除薬剤が使用されている。しかしながら同時期に複数の病害が発生し、1種の有効成分だけではその防除効果が不十分であったり、薬剤耐性菌の出現によりその薬剤の使用が制限されることがしばしばある。本発明の農園芸用殺菌剤組成物の一方の有効成分である2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体は灰色かび病を有効に防除するものの、同時期に発生する菌核病には効果が不十分である。また、他の病害に関しても低薬量の施用では効果が不安定になることがある。他の有効成分であるCNAは菌核病には有効であるが、低濃度においては防除効果が低く、同時に発生する灰色かび病には無効でありイプロジオン、プロシミドンは低濃度において菌核病に対する防除効果が低く、灰色かび病には薬剤耐性菌の出現によりその防除効果が不安定になってきている。また、ホセチル、ポリオキシンはリンゴ斑点落葉病には有効であるが、同時防除が必要な黒星病には有効でない。そのため、両剤とも幅広い殺菌スペクトラムと安定した効果を具備する共力剤の出現が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らはかかる課題を解決するために鋭意検討した結果、2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体にCNA、イプロジオン、プロシミドン、ホセチルまたはポリオキシンから選ばれる1種以上を有効成分として配合してなる本発明の農園芸用殺菌剤組成物が、幅広い殺菌スペクトラムを有しかつ、低薬量の施用においても安定した効果を示し、しかも、単独施用では実用効果の得られない低薬量の施用においても、共力作用を発揮して極めて高い防除効果を示すことを見いだし本発明を完成したものである。即ち、本発明は一般式
【0005】
【化2】

【0006】(式中、Rはメチル基、エトキシ基、ハロゲン原子または1-プロピニル基を示す)にて示される2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体から選ばれる化合物と2,6-ジクロロ-4-ニトロアニリン、3-(3,5-ジクロロフェニル)-N-イソプロピル-2,4-ジオキソイミダゾリジン-1-カルボキシミド、N-(3,5-ジクロロフェニル)-1,2-ジメチルシクロプロパン-1,2-ジカルボキシミド、アルミニウムトリスエチルホスホネートまたはポリオキシンから選ばれる1種以上を有効成分として含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤組成物を提供するものである。」

2c 「【0008】2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体の代表化合物としては2-アニリノ-4、6-ジメチル-ピリミジン(化合物1)、2-アニリノ-4-エトキシ-6-メチル-ピリミジン(化合物2)、2-アニリノ-4-ヨード-6-メチル-ピリミジン(化合物3)、2-アニリノ-4-ブロム-6-メチル-ピリミジン(化合物4)および2-アニリノ-4-メチル-6-(1-プロピニル)-ピリミジン(化合物5)が挙げられる。なお、化合物番号は以下の記載において参照される。
【0009】本発明の殺菌剤組成物は各種蔬菜類、マメ類の灰色かび病はもちろん、菌核病、うどんこ病に有効である。また、リンゴ斑点落葉病、うどんこ病および黒星病のほか、ナシ黒斑病および黒星病にも高い効果を示す。」

2d 「【0010】本発明の農園芸用殺菌剤組成物を施用する場合、有効成分に他の成分を加えずにそのまま使用してもよいが、通常は農薬製剤上汎用される担体、界面活性剤、分散剤または補助剤などを配合して常法により水和剤、粉剤、水性懸濁液剤等に製剤する。これらの製剤には有効成分として0.5%?90.0%、好ましくは2.0%?80.0%を含有する。また、2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体とCNA、イプロジオン、プロシミドン、ホセチルまたはポリオキシンから選ばれる化合物の重量比は1:0.05?1:100、好ましくは1:0.1?1:20である。」

2e 「【0013】次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、有効成分及びその他成分の配合割合は本発明の主旨を損なわない範囲で任意に変更しうるものである。また、実施例中の%は重量を意味する。
【0014】実施例1
化合物1 2%、ポリオキシン1%、珪藻土5%及びクレー92%を均一に粉砕混合して粉剤を得る。
【0015】実施例2
化合物2 10%、プロシミドン20%、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩4%、ナフタレンスルホン酸ナトリウム1%及びクレー65%を均一に粉砕混合して水和剤を得る。
【0016】実施例3
化合物1 5%、CNA50%、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル5%及びクレー40%を均一に粉砕混合して水和剤を得る。
【0017】実施例4
化合物3 20%、イプロジオン8%、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル3%、リグニンスルホン酸ナトリウム2%及びクレー67%を均一に粉砕混合して水和剤を得る。
【0018】実施例5
化合物5 5%、ホセチル25%、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル3%、リグニンスルホン酸ナトリウム2%及びクレー65%を均一に粉砕混合して水和剤を得る。
【0019】実施例6
化合物6 10%、CNA40%、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル3%、リグニンスルホン酸ナトリウム2%及びクレー45%を均一に粉砕混合して水和剤を得る。
【0020】実施例7
化合物5 20%、ポリオキシン20%、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩4%、エチレングリコール10%及び水46%を湿式粉砕して懸濁剤を得る。
【0021】実施例8
化合物1 5%、イプロジオン35%、エチレングリコール10%及び水50%を湿式粉砕して懸濁剤を得る。
【0022】実施例9
化合物2 5%、イプロジオン20%、ラウリルアルコール硫酸エステルのナトリウム塩2%、リグニンスルホン酸ナトリウム5%、カルボキシメチルセルロース2%及びクレー66%を均一に混合粉砕する。この混合物に水20%を加えて練合し、押出式造粒機を用いて14?32メッシュの粒状に加工したのち、乾燥して粒剤とした。
【0023】次に本発明の農園芸用殺菌組成物の奏する効果を試験例を挙げて具体的に説明する。
試験例1 インゲン菌核病予防効果試験
9cm×9cmの塩化ビニール製鉢にインゲン種子(品種:江戸川)を6粒づつ播種し、温室内で7日間育成させた。初生葉が展開したインゲン幼苗に実施例4、6および7に準じて調製した水和剤またはゾル剤を所定濃度になるように水で希釈し、1鉢当たり10ml散布した。風乾後、インゲン菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)の菌糸磨砕液を噴霧接種し、20?23℃の湿室内に入れた。接種5日後に初生葉の発病程度を下記基準により指数調査し、得られた数値をもとに数1により被害度を求め、さらに数2により防除価を求めた。結果を表1に示した。尚、無処理区の被害度は70%であった。
【0024】発病指数0:発病を認めず
〃 1:1/3未満の発病面積
〃 2:1/3?2/3未満の発病面積
〃 3:2/3以上の発病面積
【0025】
【数1】
・・・
【0026】
【数2】
・・・
【0027】
【表1】

【0028】試験例2 キュウリうどんこ病予防効果試験
9cm×9cmの塩化ビニール製鉢にキュウリ種子(品種:相模半白)を12粒づつ播種し、温室内で7日間育成させた。子葉が展開したキュウリ幼苗に実施例2、3および7に準じて調製した水和剤またはゾル剤を所定濃度になるように水で希釈し、1鉢当たり10ml散布した。風乾後、キュウリうどんこ病菌(Sphaerotheca fuliginea)の胞子を接種し、25?30℃の温室内に入れた。接種10日後に子葉の発病程度を下記基準により指数調査し、得られた数値をもとに数3により被害度を求め、さらに数2により防除価を求めた。結果を表2に示した。尚、無処理区の被害度は98?100%であった。
【0029】発病指数0:発病を認めず
〃 1:病斑がわずか(数個)認められる。
〃 2:病斑が葉面積の1/4を占める。
〃 3:病斑が葉面積の1/4?1/2を占める。
〃 4:病斑が葉面積の1/2以上をを占める。
〃 5:枯死
【0030】
【数3】
・・・
【0031】
【表2】

【0032】試験例3 キュウリ灰色かび病予防効果試験
9cm×9cmの塩化ビニール製鉢各々にキュウリ種子(品種:相模半白)を12粒づつ播種し、温室内で7日間育成させた。子葉が展開したキュウリ幼苗に実施例3および8に準じて調製した水和剤またはゾル剤を所定濃度になるように水で希釈し、1鉢当たり10ml散布した。風乾後、キュウリ灰色かび病菌(Botrytis cinerea)の菌糸磨砕液を噴霧接種し、20?23℃の湿室内に入れた。接種3日後下記の基準により鉢全体の発病程度を調査し、得られた数値をもとに数4により被害度を求め、さらに数2により防除価を求めた。結果を表3に示した。尚、無処理区の被害度は98?100%であった。
【0033】発病指数 0: 発病を認めず
〃 1: 25%未満の発病面積
〃 2: 26?50%の発病面積
〃 3: 51?75%の発病面積
〃 4: 76%以上の発病面積
【0034】
【数4】
・・・・
【0035】
【表3】

【0036】試験例4 ナシ黒斑病防除効果試験
圃場に植えたナシ苗木(品種:二十世紀)を強剪定し供試した。実施例5に準じて調製した水和剤を所定濃度になるように水で希釈し、1樹当り700ml散布した。7日間隔で4回散布し、最終散布16日後に下記基準により1樹当り10徒長枝の葉の発病程度を指数で調査し、得られた数値をもとに数5により被害度を求め、数2により防除価を求めた。結果を表4に示した。尚、無処理区の被害度は21%であった。
【0037】発病指数0:病斑を認めず
〃 1:病斑数3個以下
〃 2:病斑数4?10個
〃 3:病斑数11個?病斑面積25%未満
〃 4:病斑面積25%?50%未満
〃 5:病斑面積50%以上
〃 6:落葉
【0038】
【数5】
・・・
【0039】
【表4】
・・・
【0040】
【発明の効果】本発明の殺菌剤組成物は、それぞれの有効成分の単独施用では実用効果の得られない低薬量施用において、両者を混合することにより共力的に作用し相乗効果が得られ、実用的な高い防除効果を示すものである。その結果、各種蔬菜類、マメ類に発生する灰色かび病および菌核病に対して同時防除を可能にするものである。さらに、本発明の殺菌剤組成物は各種蔬菜類のうどんこ病、リンゴ斑点落葉病、うどんこ病および黒星病のほか、ナシ黒斑病および黒星病にも高い効果を示すものである。」

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、a)2-アニリノ-4,6-ジメチルピリミジン、およびb)異なった化合物の種類の殺菌性化合物を含む殺菌性組成物が記載される(摘記1a)とともに、その2-アニリノ-4,6-ジメチルピリミジンの一般名がピリメタニルであることが記載される(摘記1b)。そしてその組成物成分b)の一例としてイプロジオンが示されるとともに(摘記1c)、例8としてピリメタニルとイプロジオンを組み合わせた具体例が示される(摘記1g)。
また、その「殺菌」とは「真菌」に対するものであることが示されている(摘記1e)。
そうすると、刊行物1には、
「ピリメタニルおよびイプロジオンを含む殺真菌性組成物」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

エ 刊行物2に記載された発明
刊行物2には、2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体と、CNA、イプロジオン、プロシミドン、ホセチルまたはポリオキシンから選ばれる化合物とを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物が記載されている(摘記2a、2b)。そして該組成物の有効成分の組み合わせとして、実施例8にはピリメタニルとイプロジオンを組み合わせた具体例が示される。
そうすると、刊行物2には、
「ピリメタニルとイプロジオンを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

オ 引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ピリメタニル」、「イプロジオン」及び「殺真菌性組成物」は、それぞれ、本件補正発明の「ピリメタニル」、「イプロジオン」及び「殺真菌組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「ピリメタニルおよびイプロジオンを含有する殺真菌組成物」
である点において一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)組成物におけるピリメタニルおよびイプロジオンの含有量が、本件補正発明では「1/2から2の範囲のそれぞれの割合」とされるのに対し、引用発明1では両者の混合割合が特定されていない点

カ 引用発明1との対比に係る判断
(ア) 相違点1について検討するに、引用発明1の殺真菌組成物において、有効成分であるピリメタニル及びイプロジオンについてその混合比を検討し、求める効果が得られる範囲を規定することは当業者が通常なす程度の事項にすぎない。

(イ) 刊行物1には、ピリメタニル及びイプロジオンの混合物として、例8においてピリメタニル及びイプロジオンを0.25ppm:0.05ppmすなわち5:1で混合する例が示されるのみであり、これは本件補正発明で規定される範囲外の量比である。このことから本件補正発明の含有比とすることが刊行物1の記載及び技術常識から容易であるとはいえないかについて検討する。
刊行物1には、ピリメタニル及びイプロジオンに相当する成分(a)及び成分(b)の量比について「適切な範囲は25:1から1:25であり、特に5:1から1:5である」との記載がなされている。これに対して、成分(a)であるピリメタニルに対する成分(b)の具体的な量比が示される例1ないし例23では、成分(a):成分(b)が25:1、5:1、1:1、1:5、または1:25であるものについて試験されている。この両者を併せて考えれば、刊行物1に示される上記各具体例は、混合の適切な範囲として本文に記載された端点(25:1、5:1、1:5、1:25)及び中心点(1:1)について効果を確認する試験がなされたものと認められる。
そうすると、刊行物1の記載を参照しその例8に接した当業者であれば、刊行物1には、ピリメタニル及びイプロジオンの混合物の場合、5:1を端点とし1:5までの範囲である、刊行物1に特に適切な範囲として示された混合比の範囲において所望の効果が得られることが期待されるとの示唆があると一応考え得るといえる。
そして、上記(ア)に示したとおり、有効成分の混合比を検討し、求める効果が得られる範囲を規定することは当業者が通常なす程度の事項にすぎないから、5:1?1:5までの範囲が好適であろうという一応の予測のもと、その範囲内である2:1?1:2に相当する「1/2から2の範囲のそれぞれの割合」とすることに何らの困難性はなく、容易であるというべきである。

(ウ) 本件補正発明の効果とは、本件補正明細書の段落【0014】?【0019】に記載されるような「広範な活性スペクトルを有する」「予防効果及び治療効果の両方を有する」「イプロジオンに対して耐性である真菌株を有効に制御することができる」「少ない用量で有効である」「予防、治療、根絶および抗胞子形成特性を有する」などの点として記載されている。
これに対して、刊行物1には、その殺真菌性組成物は「広範囲の真菌・・・に対して活性である」こと(摘記1e)、「別法として、本発明の組成物は植物に菌が現れ始めたときに又は菌が現れる前に、保護手段として例えば噴霧又は散布により直接植物に適用することができる」こと(摘記1f)、「個々の成分を超える優れた性質を有しており、しばしば相乗作用が見られ、農作物の収率が増加しうるということ」(摘記1d)が既に示されていることから、「広範な活性スペクトルを有する」「予防効果及び治療効果の両方を有する」「少ない用量で有効である」「予防、治療、根絶および抗胞子形成特性を有する点は予測可能な効果であるといえる。
「イプロジオンに対して耐性である真菌株を有効に制御することができる」点について、刊行物1に直接的な記載はないが、刊行物2にはイプロジオンに対して薬剤耐性菌が出現しており、その課題を解決するために刊行物1同様にイプロジオン及びピリメタニルの組み合わせを含む殺菌剤組成物とすることが示されていることから(摘記2a、2b等)、該効果についても当業者が予測可能な事項であるといえる。
また、5:1の組成比であるものに対して、2:1?1:2の組成比としたものが格別の予測外の効果を奏するものであるということは本件補正明細書に記載されておらず、また、そのようなことがいえるといった主張も意見書及び審判請求書において証拠をもってなされてはいない。
よって、本件補正発明の効果は刊行物1及び刊行物2の記載より予測可能な範囲内の事項であり、格別であるとはいえない。

キ 引用発明2との対比
本件補正発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「ピリメタニル」、「イプロジオン」、「農園芸用殺菌剤組成物」は、それぞれ、本件補正発明の「ピリメタニル」、「イプロジオン」及び「殺真菌組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「ピリメタニルおよびイプロジオンを含有する殺真菌組成物」
である点において一致し、以下の点で相違している。

(相違点2)組成物におけるピリメタニルおよびイプロジオンの含有量が、本件補正発明では「1/2から2の範囲のそれぞれの割合」とされるのに対し、引用発明2では両者の混合割合が特定されていない点

ク 引用発明2との対比に係る判断
(ア) 相違点2について検討するに、引用発明2の農園芸用殺菌剤組成物において、有効成分であるピリメタニル及びイプロジオンについてその混合比を検討し、求める効果が得られる範囲を規定することは当業者が通常なす程度の事項にすぎない。

(イ) 刊行物2には、ピリメタニル及びイプロジオンの具体的混合物として、実施例8においてピリメタニル及びイプロジオンを5%及び35%、すなわち1:7で混合する例が示されるのみであり、これは本件補正発明で規定される範囲外の量比である。このことから本件補正発明の含有比とすることが刊行物2の記載及び技術常識から容易であるとはいえないかについて検討する。
刊行物2には、ピリメタニル及びイプロジオンに相当する成分である2-アニリノ-4-メチル-ピリミジン誘導体とイプロジオンを含む4種の化合物群から選ばれる化合物の重量比は、「1:0.05?1:100、好ましくは1:0.1?1:20である」との記載がなされている。そして具体例としては、実施例1?9として、「2.5:1、2:1、1:1、1:2、1:4、1:5、1:7」の比とした例が、また試験例1?4では「2.5:1、1:1、1:2、1:4、1:5、1:7、1:10」の比とした例が、それぞれ示されている。この両者を併せて考えれば、刊行物1に示される上記各具体例は、混合の好ましい範囲として本文に記載された範囲(10:1?1:20)のうちその内部の範囲(2.5:1?1:10)について効果を確認する試験がなされたものと認められる。
そうすると、刊行物2の記載を参照しその実施例8に接した当業者であれば、刊行物1には、ピリメタニル及びイプロジオンの混合物についても、上記の範囲の程度の混合比において所望の効果が得られることが期待されるとの示唆があると一応考え得るといえる。
そして、上記(ア)に示したとおり、有効成分の混合比を検討し、求める効果が得られる範囲を規定することは当業者が通常なす程度の事項にすぎないから、1:0.1?1:20の範囲や、2.5:1?1:10程度の範囲が好適であろうという一応の予測のもと、その範囲内である2:1?1:2に相当する「1/2から2の範囲のそれぞれの割合」とすることに何らの困難性はなく、容易であるというべきである。

(ウ) 本件補正発明の効果とは、本件補正明細書の段落【0014】?【0019】に記載されるような「広範な活性スペクトルを有する」「予防効果及び治療効果の両方を有する」「イプロジオンに対して耐性である真菌株を有効に制御することができる」「少ない用量で有効である」「予防、治療、根絶および抗胞子形成特性を有する」などの点として記載されている。
これに対して、刊行物2には、その殺菌性組成物は「幅広い殺菌スペクトラムを有」すること(摘記2b)、「防除効果を示す」ものであること(摘記2b)、「低薬量の施用においても安定した効果を示し、しかも単独施用では実用効果の得られない低薬量の施用においても、共力作用を発揮して極めて高い防除効果を示す」ものであること(摘記2b)、イプロジオンに対して薬剤耐性菌が出現しており、その課題を解決するためにイプロジオン及びピリメタニルの組み合わせを含む殺菌剤組成物とすることが示されていること(摘記2a、2b等)から、上記本件補正発明の各効果は、刊行物2の記載より予測可能な効果であるといえる。
また、1:7の組成比であるものに対して、2:1?1:2の組成比としたものが格別の予測外の効果を奏するものであるということは本件補正明細書に記載されておらず、また、そのようなことがいえるといった主張も意見書及び審判請求書において証拠をもってなされてはいない。
よって、本件補正発明の効果は刊行物2の記載より予測可能な範囲内の事項であり、格別であるとはいえない。

ケ まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。また、本件補正発明は、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることがでいたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正発明は、その特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえない。

3 むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合しないから、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。


第3 本願発明について
第1のとおり、本件補正は却下されることとなったから、この出願に係る発明は、この出願の願書に最初に添付された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ピリメタニルおよびイプロジオンを、1/3から3の範囲好ましくは1/2から2の範囲のそれぞれの割合で含有する殺真菌組成物」
(以下、「本願発明」という。)


第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
「この出願については、平成20年11月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」
というものであり、
その備考欄には、
「有効成分の組成比を検討し、最適化することは当業者が通常行う事項である」・・・「したがって、拒絶理由通知で述べたとおり、本願請求項1-10に係る発明は、依然として、引用文献1,2それぞれの記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない。」
ということが記載されている。
そしてその平成20年11月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由2とは
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができない」
というものであり、
その備考欄には
「理由1,2:請求項1-10:引用文献1」及び
「理由1,2:請求項1-10:引用文献2」
と記載されていることから、原査定の拒絶の理由とは、「本願請求項1に係る発明」すなわち「本願発明」は、先の引用文献1に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由及び、先の引用文献2に記載された発明も基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
そして、その「引用文献1および2」とは、平成20年11月21日付け拒絶理由通知書に記載された「引用文献等一覧」に示される、
「1.特開平6-56610号公報
2.特開平5-112408号公報」
である。

以下、この理由について検討する。


第5 当審の判断
当審は、本願発明は、原査定のとおり、下記刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
以下、詳述する。

1 刊行物
a 特開平6-56610号公報(原査定における引用文献1に同じ。また、上記第2の2(2)アaに示した「刊行物1」に同じ。以下、同様に「刊行物1」とい
う。)
b 特開平5-112408号公報(原査定における引用文献2に同じ。また、上記第2の2(2)アbに示した「刊行物2」に同じ。以下、同様に「刊行物2」という。)

2 刊行物に記載された事項
刊行物1及び2にはそれぞれ、上記第2の2(2)イの(ア)及び(イ)に示したとおりの事項が記載されている。

3 引用発明
刊行物1には、上記第2の2(2)ウに示したとおりの事項が記載されており、
してみると、刊行物1には
「ピリメタニルおよびイプロジオンを含む殺真菌性組成物」
の発明(上記第2の2(2)ウの「引用発明1」に同じ。以下、同様に「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

また、刊行物2には、上記2の2(2)エに示したとおりの事項が記載されており、
してみると、刊行物2には
「ピリメタニルとイプロジオンを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物」
の発明(上記第2の2(2)エの「引用発明2」に同じ。以下、同様に「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

4 引用発明1との対比
本願発明と引用発明1を対比する。
引用発明1の「ピリメタニル」、「イプロジオン」及び「殺真菌性組成物」は、それぞれ、本願発明の「ピリメタニル」、「イプロジオン」及び「殺真菌組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「ピリメタニルおよびイプロジオンを含有する殺真菌組成物」
である点において一致し、以下の点で相違している。

(相違点3)組成物におけるピリメタニルおよびイプロジオンの含有量が、本願発明では「1/3から3の範囲好ましくは1/2から2の範囲のそれぞれの割合」とされるのに対し、引用発明1では両者の混合割合が特定されていない点

5 引用発明1との対比に係る判断
相違点3について検討する。
本願発明は、本件補正発明における二成分の組成比を「好ましくは」の範囲とした、さらに広い範囲である1/3から3の範囲を規定するものである。
そうすると、二成分の含有比として「1/2から2の範囲」を好ましい範囲として含み、さらに広い「1/3から3の範囲」が規定されること以外は、本願発明は本件補正発明と実質的に同じであるから、相違点3についての検討は、上記第2の2(2)カにおいて相違点1に関して検討したものと実質的に同じであり、その効果も、同様に、刊行物1及び2の記載より予測可能な範囲内のものであって格別ではない。

6 引用発明2との対比
本願発明と引用発明2を対比する。
引用発明2の「ピリメタニル」、「イプロジオン」及び「農園芸用殺菌剤組成物」は、それぞれ、本願発明の「ピリメタニル」、「イプロジオン」及び「殺真菌組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「ピリメタニルおよびイプロジオンを含有する殺真菌組成物」
である点において一致し、以下の点で相違している。

(相違点4)組成物におけるピリメタニルおよびイプロジオンの含有量が、本願発明では「1/3から3の範囲好ましくは1/2から2の範囲のそれぞれの割合」とされるのに対し、引用発明2では両者の混合割合が特定されていない点

7 引用発明2との対比に係る判断
相違点4について検討する。
本願発明は、本件補正発明における二成分の組成比を「好ましくは」の範囲とした、さらに広い範囲である1/3から3の範囲を規定するものである。
そうすると、二成分の含有比として「1/2から2の範囲」を好ましい範囲として含み、さらに広い「1/3から3の範囲」が規定されること以外は、本願発明は本件補正発明と実質的に同じであるから、相違点4についての検討は、上記第2の2(2)クにおいて相違点2に関して検討したものと実質的に同じであり、その効果も、同様に、刊行物2の記載より予測可能な範囲内のものであって格別ではない。

8 まとめ
以上のとおりであるので、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、刊行物2に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-04 
結審通知日 2012-07-10 
審決日 2012-07-24 
出願番号 特願2003-528132(P2003-528132)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01N)
P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 周一郎  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 東 裕子
木村 敏康
発明の名称 ピリメタニルおよびイプロジオンを含有する殺真菌組成物  
代理人 大崎 勝真  
代理人 坪倉 道明  
代理人 川口 義雄  

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