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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1267451
審判番号 不服2010-24564  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-01 
確定日 2012-12-05 
事件の表示 平成11年特許願第 90675号「アミン化合物とエステルとを含む燃料組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 9日出願公開、特開平11-310783〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成11年3月31日(パリ条約による優先権主張1998年3月31日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成21年12月10日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年6月15日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成22年6月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年11月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成22年6月15日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 ガソリン油の沸点範囲の沸点を有する主要量の炭化水素燃料と、下記成分(a)、(b)および(c)を含む50?5,000質量ppmの範囲の量の燃料用添加剤組成物とを含む燃料組成物:
(a)ポリイソブテニルエチレンジアミンおよびポリイソブチルアミンからなる群より選ばれる燃料に可溶性の脂肪族炭化水素置換アミン、ただし、ポリイソブチル基は実質的に飽和されていて、そのアミン部はアンモニアから誘導されたものであり、ポリイソブテニル基とポリイソブチル基の数平均分子量は700?3,000の範囲にある、
(b)グリセリンと炭素原子数が10?22のモノカルボン酸とのモノもしくはジエステル、および
(c)炭化水素燃料に可溶性の不揮発性キャリアー液体。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成21年12月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、当該理由1-2は、要するに、本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(理由1)、というものと、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由2)、というものを含んでいる。
刊行物1:国際公開第98/11175号

4 刊行物1の記載事項
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1には、次の事項が記載されている。
a 「Accordingly, there is a need for a detergent/friction modifier additive concentrate for gasoline that provides both deposit control and friction reduction, which is stable over the temperature range at which the concentrate may feasibly be stored, and which does not adversely affect the performance and properties of the finished gasoline or engine in which the gasoline is used.
The present invention provides an additive concentrate comprising by weight based on the total weight of the concentrate:
(a) 0.2 to 10 % ashless friction modifier which is a liquid at room temperature and pressure selected from (i) n-butylamine oleate or derivatives thereof, (ii) a substance comprising tall oil fatty acid or derivatives thereof, and (iii) a mixture of (i) and (ii),
(b) 10 to 80 % deposit inhibitor, and
(c) 10 to 80 % carrier fluid.」(2頁1?12行)
当審訳:「したがって、ガソリン用の洗剤/摩擦調整剤添加剤濃縮物として、沈着物の制御と摩擦の減少の両方に寄与するとともに、濃縮物が保管され得る温度範囲にわたり安定性があり、しかも完成ガソリン又はそのガソリンが用いられるエンジンの性能及び性質に悪影響を及ぼさないものが必要とされている。
本発明は、濃縮物の全重量に対して、
(a)(i)n-ブチルアミンオレエート又はその誘導体、(ii)トール油脂肪酸又はその誘導体を含む物質、及び(iii)(i)と(ii)との混合物から選択され、室温及び室圧で液体である、0.2?10%の無灰摩擦調整剤と、
(b)10?80%の沈着防止剤と、
(c)10?80%のキャリアー液体と、
を含む添加剤濃縮物を提供するものである。」
b 「The amount of friction modifier contained in the additive concentrate is from 0.2 to 10 wt%, preferably from 0.5 to 5 wt%, and more preferably from 1 to 4 wt%. On the basis of a total concentrate treat level in the finished gasoline of 2000 ppm by weight, this corresponds to a treat level of friction modifier in the finished gasoline of from 4 to 200 ppm, preferably 10 to 100 ppm, more preferably 20 to 60 ppm.」(3頁下から5行?同頁最下行)
当審訳:「添加剤濃縮物中に含有される摩擦調整剤の量は、0.2?10重量%、好ましくは0.5?5重量%、より好ましくは1?4重量%である。完成ガソリン中の全濃縮物処理量が2000重量ppmであることに基づくと、これに対応する完成ガソリン中の摩擦調整剤の処理量は、4?200ppm、好ましくは10?100ppm、より好ましくは20?60ppmである。」
c 「The deposit inhibitor (b) may be any suitable commercially available additive. Deposit inhibitors for gasoline, usually referred to as detergents or dispersants, are well known and a variety of compounds can be used. Examples include polyalkylene amines, and polyalkylene succinimides where the polyalkylene group typically has a number average molecular weight of from 600 to 2000, preferably from 800 to 1400, and polyether amines. A preferred detergent for the additive concentrate of the present invention is a polyalkylene amine, for example polyisobutylene amine. Examples of suitable PIB-amines are given in US Patent 4832702, the disclosure of which is incorporated herein by reference. Also, PIB-amine detergents can be obtained from, for example from Exxon Chemical Company, Oronite and BASF.
The amount of deposit inhibitor contained in the additive concentrate is from 10 to 80 wt%, preferably from 20 to 75 wt%, and more preferably from 30 to 60 wt%. Based on a total treat level of the additive concentrate of 2000 ppm by weight, this corresponds to a treat level of deposit inhibitor in the finished gasoline of from 50 to 1500 ppm, preferably 100 to 1000 ppm, more preferably 200 to 800 ppm.」(4頁1?15行)
当審訳:「沈着防止剤(b)は、市販されている好適な添加剤のいずれでもよい。ガソリン用の沈着防止剤は、通常、洗剤又は分散剤と称され、周知であり、いろいろな化合物が用いられ得る。例えば、数平均分子量が典型的には600?2000で、好ましくは800?1400であるポリアルキレン基を持つポリアルキレンアミン及びポリアルキレンスクシンイミド、並びにポリエーテルアミンなどである。本発明の添加剤濃縮物に好ましい洗剤は、ポリアルキレンアミン、例えばポリイソブチレンアミンである。PIB-アミンの好適な例は、米国特許第4832702号明細書に示されており、そこに開示された事項は参照により本明細書に組み入れられる。PIB-アミン洗剤は、例えばエクソンケミカルカンパニー、オロナイト及びBASFから入手することもできる。
添加剤濃縮物中に含有される沈着防止剤の量は、10?80重量%、好ましくは20?75重量%、より好ましくは30?60重量%である。添加剤濃縮物の全処理量が2000重量ppmであることに基づくと、これに対応する完成ガソリン中の沈着防止剤の処理量は、50?1500ppm、好ましくは100?1000ppm、より好ましくは200?800ppmである。」
d 「The carrier fluid may be any suitable carrier fluid that is compatible with the gasoline and is capable of dissolving or dispersing the components of the additive package. Typically it is a hydrocarbon fluid, for example a petroleum or synthetic lubricating oil basestock including mineral oil, synthetic oils such as polyesters or polyethers or other polyols, or hydrocracked or hydroisomerised basestocks. Alternatively the carrier fluid may be a distillate boiling in the gasoline range.」(4頁16?21行)
当審訳:「キャリアー液体は、ガソリンと相溶性であると共に添加剤パッケージの成分を溶解又は分散することができる好適なキャリアー液体のいずれでもよい。一般にそれは、液体炭化水素、例えば石油又は合成潤滑油基油であって、鉱油の他、ポリエステル、ポリエーテル、他のポリオールなどの合成油、水素化分解又は水素異性化した基油が含まれる。あるいはキャリアー液体は、ガソリン範囲で沸騰する留出物である。」
e 「In another aspect the present invention provides a fuel composition comprising combustible fuel and from 500 to 2500 ppm by weight of an additive combination comprising components (a), (b) and (c) as defined in any of the preceding claims.
The fuel used in the fuel composition of this invention is generally a petroleum hydrocarbon useful as a fuel e.g. gasoline, for internal combustion engines.」(5頁下から7?3行)
当審訳:「別の態様として、本発明は、可燃性燃料と、先行する請求項のいずれか一項に規定された成分(a)、(b)及び(c)を含む添加剤配合物500?2500重量ppmとを含む燃料組成物を提供する。
この発明の燃料組成物に用いられる燃料は、概して内燃機関用の燃料として有用な石油炭化水素、例えばガソリンである。」
f 「The invention shall now be illustrated with reference to the following Examples:
Example 1 A number of different additive concentrates were prepared by blending (a) a friction modifier, (b) a detergent, and (c) a carrier fluid. The friction modifier was selected from one of a number of commercially available products. The detergent was either a polyisobutylene-amine, a polyisobutylene succinimide or a polyether amine. These detergents are well known and commercially available. For each detergent type, the same product was used throughout the Examples to ensure direct comparability of the results. The carrier fluid, a polyether, was the same throughout the Examples.
The stability of each of the resulting additive concentrates was determined by exposing samples of the concentrate to temperatures of -20°C, -10°C, °0C, ambient and +35°C and periodically inspecting the samples for sediment formation, water content, haze, and emulsion formation. A concentrate which remained stable for at least 3 months over the entire temperature range is considered to meet the stability requirements.」(6頁12行?同頁最下行)
当審訳:「本発明は、以下の事例を参照して具体的に説明される。
事例1
多数の異なる添加剤濃縮物が、(a)摩擦調整剤と、(b)洗剤と、(c)キャリアー液体とを混合することによって調製された。摩擦調整剤は、多数の市販品の1つから選択された。洗剤は、ポリイソブチレンアミン、ポリイソブチレンスクシンイミド又はポリエーテルアミンのいずれかであった。これらの洗剤は周知であり、市販されている。洗剤の種類それぞれについて、確実に結果を直接比較できるように事例を通して同じものが用いられた。キャリアー液体は、同じポリエーテルが事例を通して用いられた。
得られた添加剤濃縮物それぞれの安定性は、濃縮物の試料を-20℃、-10℃、0℃、周囲温度及び+35℃の温度に曝露し、沈殿物の形成、含水率、曇り度及びエマルジョンの形成について同試料を定期的に検査することによって調べた。全温度範囲にわたり少なくとも3カ月間安定したままであった濃縮物が安定性の要件を満たすと考えられる。」
g 「TABLE 1」として次の表1(一部抜粋)が示されている(7頁)。

当審訳:

h 「Notes to TABLE 1
Atsurf 594 is a glycerol mono oleate friction modifier available from ICI.
Tolad 9103 is a tall oil fatty acid mixture friction modifier containing about 75 wt.% active ingredient (remainder diluent) available from Petrolite.
・・・・
PIBA is a polyisobutylene-amine detergent.
PEA is a polyetheramine detergent.
PIBS is a polyisobutylene succinimide detergent.」(8頁下から4行?9頁下から4行)
当審訳:「表1の注
アトサーフ594は、ICI製のグリセロールモノオレエート摩擦調整剤である。
トーラド9103は、ペトロライト製の約75重量%の活性成分(残り希釈剤)を含有するトール油脂肪酸混合物摩擦調整剤である。
・・・・
PIBAは、ポリイソブチレンアミン洗剤である。
PEAは、ポリエーテルアミン洗剤である。
PIBSは、ポリイソブチレンスクシンイミド洗剤である。」
i 「CLAIMS:
1. An additive concentrate comprising by weight based on the total weight of the concentrate:
(a) 0.2 to 10% ashless friction modifier which is a liquid at room temperature and pressure selected from (i) n-butylamine oleate
or derivatives thereof, (ii) a substance comprising tall oil fatty acids or derivatives therof, and (iii) a mixture of (i) and (ii);
(b) 10 to 80% deposit inhibitor; and
(c) 10 to 80% carrier fluid.
・・・・
9. A fuel composition comprising combustible fuel and from 500 to 2500 ppm by weight based on the weight of the fuel of an additive combination comprising components (a), (b) and (c) as defined in any of the preceding claims.
・・・・
11. A fuel composition according to claim 9 or 10 wherein the combustible fuel is gasoline.」(14?15頁CLAIMS)
当審訳:「請求の範囲
1.濃縮物の全重量に対して、
(a)(i)n-ブチルアミンオレエート又はその誘導体、(ii)トール油脂肪酸又はその誘導体を含む物質、及び(iii)(i)と(ii)との混合物から選択され、室温及び室圧で液体である、0.2?10%の無灰摩擦調整剤と、
(b)10?80%の沈着防止剤と、
(c)10?80%のキャリアー液体と、を含む添加剤濃縮物。
・・・・
9.可燃性燃料と、燃料の重量に対して、先行する請求項のいずれか一項に規定された成分(a)、(b)及び(c)を含む添加剤配合物500?2500重量ppmとを含む燃料組成物。
・・・・
11.前記可燃性燃料がガソリンである請求項9又は10に記載の燃料組成物。」

5 刊行物1に記載された発明
ア ガソリン用の沈着防止剤は「洗剤」とも称されること(上記4c)を踏まえると、刊行物1には、「本発明」として、「濃縮物の全重量に対して、(a)(i)n-ブチルアミンオレエート又はその誘導体、(ii)トール油脂肪酸又はその誘導体を含む物質、及び(iii)(i)と(ii)との混合物から選択され、室温及び室圧で液体である、0.2?10%の無灰摩擦調整剤と、(b)10?80%の洗剤(沈着防止剤)と、(c)10?80%のキャリアー液体と、を含む添加剤濃縮物」(上記4a及び4i)とともに、この「添加剤濃縮物」が、可燃性燃料であるガソリンに対し、500?2500重量ppm含まれる「燃料組成物」(上記4e及び4i)も記載されているということができる。
イ 刊行物1には、他方、「添加剤濃縮物」として「(a)摩擦調整剤と、(b)洗剤と、(c)キャリアー液体と」を含むものが多数調整されたことが記載されるとともに(上記4f)、上記4gの表1には、「事例番号1.01」として、「摩擦調整剤」に「アトサーフ594」を用いるとともに「洗剤」に「PIBA」を用いたものや、「事例番号1.02ないし1.04」として、「摩擦調整剤」に「トーラド9103」を用いるとともに「洗剤」に「PIBA」を用いたものが例示されている。
そして、上記4hによれば、上記「アトサーフ594」とは「グリセロールモノオレエート」であり、上記「トーラド9103」とは「トール油脂肪酸混合物」であり、上記「PIBA」とは「ポリイソブチレンアミン」である。
ウ 「事例番号1.02ないし1.04」の「添加剤濃縮物」において、「摩擦調整剤」に用いられた「トーラド9103」すなわち「トール油脂肪酸混合物」は、本発明(上記ア)の「摩擦調整剤」に該当する一方、「事例番号1.01」の「添加剤濃縮物」において、「摩擦調整剤」に用いられた「アトサーフ594」すなわち「グリセロールモノオレエート」は、本発明(上記ア)の「摩擦調整剤」に該当しないものである。
しかしながら、これらの事例は、本発明(上記ア)を具体的に説明するためのものであること(上記4f)を踏まえると、「事例番号1.02ないし1.04」の「添加剤濃縮物」は、本発明(上記ア)の一例として調整されたものと解され、「事例番号1.01」の「添加剤濃縮物」についても、これらと同様に調整され、すなわち、濃縮物の全重量に対して、0.2?10%の「摩擦調整剤」と、10?80%の「洗剤」と、10?80%の「キャリアー液体」とを含む「添加剤濃縮物」とされ、可燃性燃料であるガソリンに対し、500?2500重量ppm含まれる「燃料組成物」とされるものであると解するのが自然である。
エ なお、上記ウの解釈は、次の事実からも裏付けられる。
(ア)「事例番号1.02ないし1.04」の「添加剤濃縮物」と同様に、「事例番号1.01」の「添加剤濃縮物」に対しても、特定の温度範囲における安定性を調べるために同じ検査を行い、その結果を一つの表の中に並べて比較できるようにしており(上記4f及び4g)、しかも、当該検査は、「添加剤濃縮物」を可燃性燃料であるガソリンに添加することを想定した「完成ガソリン」の性能及び性質を調べることを目的としていること(上記4a)。
(イ)「事例番号1.01」の「添加剤濃縮物」について、上記4gの表1には、「摩擦調整剤」の「処理量(ppm)」として「100」の数値が示されているところ、この数値は、本発明(上記ア)の「摩擦調整剤」の完成ガソリン中の処理量として好ましい範囲(10?100ppm、上記4b)に一致すること。
なお、上記4gの表1の「処理量(ppm)」が「洗剤」の量でなく「摩擦調整剤」の量を表していることは、本発明(上記ア)の一例たる「事例番号1.02ないし1.04」のその数値(25、50、100ppm)が「洗剤」の処理量とされる範囲(50?1500ppm、上記4c)には完全に一致せず、「摩擦調整剤」の処理量として好ましい範囲(10?100ppm、上記4b)に一致することからみて明らかである。
オ さらに、「沈着防止剤」すなわち「洗剤」に関し、「沈着防止剤(b)は、市販されている好適な添加剤のいずれでもよい。・・・・例えば、数平均分子量が典型的には600?2000で、好ましくは800?1400であるポリアルキレン基を持つポリアルキレンアミン及びポリアルキレンスクシンイミド、並びにポリエーテルアミンなどである。本発明の添加剤濃縮物に好ましい洗剤は、ポリアルキレンアミン、例えばポリイソブチレンアミンである。」(上記4c)と記載されていることから、上記「ポリイソブチレンアミン」は、数平均分子量が800?1400のポリイソブチレン基を持つポリイソブチレンアミンであるということができる。
カ さらに、上記4dによれば、「キャリアー液体」は、「ガソリンと相溶性」であり、例えば「鉱油」や「ポリエステル」である。
キ 以上を踏まえ、「事例番号1.01」の「添加剤濃縮物」に関し、刊行物1に記載された事項を整理すると、刊行物1には、
「濃縮物の全重量に対して、グリセロールモノオレエートからなる摩擦調整剤を0.2?10%、数平均分子量が800?1400のポリイソブチレン基を持つポリイソブチレンアミンからなる洗剤を10?80%、ガソリンと相溶性であり鉱油やポリエステルからなるキャリアー液体を10?80%含む添加剤濃縮物が、可燃性燃料であるガソリンに対し、500?2500重量ppm含まれる燃料組成物。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているということができる。

6 対比
本願発明1と刊行1発明とを対比する。
ア 刊行1発明の「燃料組成物」は、「添加剤濃縮物」が「可燃性燃料であるガソリン」に対し「500?2500重量ppm」含まれるものであることから、「添加剤濃縮物」の量は微量で、「可燃性燃料であるガソリン」の量は「主要量」とみることができる。
よって、刊行1発明の「可燃性燃料であるガソリン」は、本願発明1の「ガソリン油の沸点範囲の沸点を有する主要量の炭化水素燃料」に相当する。また、刊行1発明の「添加剤濃縮物」は、本願発明1の「燃料用添加剤組成物」に相当する。
そして、本願発明1の「燃料用添加剤組成物」の量である「50?5,000質量ppm」は、本願発明1に係る請求項1の記載からみて「燃料組成物」に対する量であると解されるのに対し、刊行1発明の「添加剤濃縮物」の量である「500?2500重量ppm」は、「燃料組成物」中の「可燃性燃料であるガソリン」に対する量であるが、この量は「可燃性燃料であるガソリン」に対し微量であるから、実質的に「燃料組成物」に対する量とみることができる。そうすると、刊行1発明の「添加剤濃縮物」の量である「500?2500重量ppm」は、本願発明1の「燃料用添加剤組成物」の量である「50?5,000質量ppm」と重複する。
イ 刊行1発明の「グリセロールモノオレエート」は、本願発明1の「グリセリンと炭素原子数が10?22のモノカルボン酸とのモノエステル」に相当する。
また、刊行1発明の「ポリイソブチレン基」は、本願発明1の「ポリイソブチル基」に相当し、刊行1発明の「ポリイソブチレンアミン」は、本願発明1の「ポリイソブチルアミン」に相当するとともに本願発明1の「脂肪族炭化水素置換アミン」にも相当する。さらに、刊行1発明の「ポリイソブチレンアミン」が、本願発明1の「ポリイソブチルアミン」と同様、ガソリンのような「燃料に可溶性」であることは、当業者には自明である。
さらに、刊行1発明の「キャリアー液体」は、本願発明1の「キャリアー液体」に相当し、刊行1発明の「キャリアー液体」が「ガソリンと相溶性」であることは、本願発明1の「キャリアー液体」が「炭化水素燃料に可溶性」であることに相当する。
ウ ここで、本願発明1において、「ポリイソブテニルエチレンジアミン」と「ポリイソブチルアミン」とは、両者のいずれかが選択されるという選択肢の関係にあることからみて、本願発明1の「ポリイソブテニル基とポリイソブチル基の数平均分子量は700?3,000の範囲にある」という発明特定事項は、「ポリイソブテニル基又はポリイソブチル基の数平均分子量は700?3,000の範囲にある」ことを意味するものと解される。
そうすると、刊行1発明の「ポリイソブチレン基」の「数平均分子量が800?1400」であることは、本願発明1の「ポリイソブチル基の数平均分子量」が「700?3,000の範囲」であることと重複する。
エ 以上をを踏まえ、本願発明1と刊行1発明を対比すると、両発明は、「ガソリン油の沸点範囲の沸点を有する主要量の炭化水素燃料と、下記成分(a)、(b)および(c)を含む50?5,000質量ppmの範囲の量の燃料用添加剤組成物とを含む燃料組成物:
(a)ポリイソブチルアミンからなる燃料に可溶性の脂肪族炭化水素置換アミン、ただし、ポリイソブチル基の数平均分子量は700?3,000の範囲にある、
(b)グリセリンと炭素原子数が10?22のモノカルボン酸とのモノエステル、および
(c)炭化水素燃料に可溶性のキャリアー液体。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:「ポリイソブチルアミン」からなる「脂肪族炭化水素置換アミン」に関し、本願発明1では、「ポリイソブチル基は実質的に飽和されていて、そのアミン部はアンモニアから誘導されたもの」であるとの特定がなされているのに対し、刊行1発明では、そのような特定がなされていない点。
相違点2:「キャリアー液体」に関し、本願発明1では、「不揮発性」との特定がなされているのに対し、刊行1発明では、そのような特定がなされていない点。

7 判断
(1)相違点1について
ア 刊行物1には、「ポリイソブチレンアミン洗剤」に関し、好適な例は米国特許第4832702号明細書(以下、「引用明細書」という。)に示されており、そこに開示された事項は参照により本明細書に組み入れられるとされているので(上記4c)、引用明細書を参照すると、そこには、次の事項が記載されている。
a 「We have found that this object is achieved by a fuel or lubricant composition which contains one or more polybutyl- or polyisobutylamines of the general formula I

where R_(1) is ・・・・ and R_(2) and R_(3) are ・・・・
A preferred embodiment of the invention provides a fuel or lubricant composition which contains compounds of the general formula I in which R_(1) is ・・・・ and R_(2) and R_(3) are ・・・・」(1欄39?65行)
当審訳:「この課題は、次の一般式Iで表されるポリブチルアミン又はポリイソブチルアミンの少なくとも一種を含有する燃料組成物又は潤滑油組成物により解決されることが発見された。

ただし、R_(1)は、・・・・であり、R_(2)及びR_(3)は、・・・・である。
本発明の好ましい実施態様である燃料組成物又は潤滑油組成物は、それに含まれる一般式Iの化合物のR_(1)が・・・・であり、R_(2)及びR_(3)が・・・・であるものである。」
b 「The novel fuel or lubricant composition has a number of advantages over the prior art, for example the fact that the compounds in question are saturated compounds, ・・・・」(5欄62?68行)
当審訳:「この新しい燃料組成物又は潤滑油組成物は、従来のものと比べて多数の利点を有する。例えば、本件化合物が飽和化合物であること、・・・・等である。」
c 「The examples which follow illustrate the invention.
EXAMPLE 1
500 g of polybutene having a molecular weight M_(N) of 950, 300 g of dodecane and 2.8 g of cobalt-octacarbonyl are heated for 5 hours at 185℃. in a 2.5 l lift-type stirred autoclave under a 1:1 CO/H_(2) mixture under 280 bar, while stirring. Thereafter, the mixture is cooled to room temperature, the catalyst is removed with 400 ml of 10% strength aqueous acetic acid and the mixture is then washed neutral. The resulting oxo product is treated with 1 l of ammonia, 300 g of ethanol and 100 g of Raney cobalt in a 5 l rotating autoclave under a hydrogen pressure of 200 bar at 180℃. for 5 hours. After the mixture has cooled, the catalyst is separated off by filtration, the excess ammonia is evaporated and the solvent is removed by distillation.
・・・・
EXAMPLE 2
The procedure described in Example 1 is followed, the hydroformylation being carried out at a temperature of only 120℃. with 0.5 g of rhodium dicarbonyl acetyl-acetonate as the catalyst. Instead of the ammonia, dimethylaminopropylamine is used. The reaction temperature during the amination stage is only 80℃.」(6欄1?30行)
当審訳:「以下の事例により本発明を説明する。
事例1
分子量Mnが950のポリブテン500g、ドデカン300g及びコバルトオクタカルボニル2.8gを、2.5Lの往復撹拌式オートクレーブの中で、280バールのCO/H_(2)の1:1混合物の下に撹拌しながら185℃で5時間加熱する。次いで室温に冷却し、10%酢酸400mlを用いて触媒を除去し、さらに中性に洗浄する。得られたオキソ生成物は、アンモニア1L、エタノール300g及びラネーコバルト100gとともに、5Lの回転式オートクレーブの中で、200バールの水素の下に180℃で5時間処理する。冷却後、触媒をろ過により分離し、過剰のアンモニアは蒸発させ、溶剤を蒸留により除去する。
・・・・
事例2
事例1と同様に操作するが、ヒドロホルミル化は、触媒としてジカルボニルアセチルアセトナートロジウム0.5gを用い、120℃で実施する。アンモニアの代わりにジメチルアミノプロピルアミンを使用し、アミノ化の反応温度を80℃とする。」
イ 上記アaないしcの記載からみて、引用明細書には、「飽和化合物であるポリイソブチルアミンであって、アンモニアを用いてアミノ化されたもの」が記載されているということができる。
そして、刊行物1には、「ポリイソブチレンアミン」に関し、引用明細書に開示された事項は参照により本明細書に組み入れられるとされていることから(上記4c)、刊行物1には、引用明細書に開示されている「飽和化合物であるポリイソブチルアミンであって、アンモニアを用いてアミノ化されたもの」が実質的に記載されているということができるところ、当該「ポリイソブチルアミン」は、本願発明1の「ポリイソブチルアミン」からなる「脂肪族炭化水素置換アミン」において、相違点1に係る発明特定事項の「ポリイソブチル基は実質的に飽和されていて、そのアミン部はアンモニアから誘導されたもの」に他ならない。
したがって、相違点1は、実質的なものではない。
ウ なお、仮に、引用明細書に開示されている事項を刊行物1に組み入れないとしても、刊行物1の「ポリイソブチレン基」(「ポリイソブチル基」)が「実質的に飽和されて」いるものであることは、「ポリイソブチレン基」という記載に基づき当業者が当然に認識するはずのことであるし、ポリイソブチルアミンのようなポリアルキレンアミンに関し、そのアミン部をアンモニアから誘導することは、当業者には周知の技術事項にすぎないから(例えば、引用明細書、上記アc参照。さらに必要であれば、特開平2-173194号公報の第3頁左上欄15行?同頁右上欄1行参照。)、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、刊行物1に接した当業者であれば引用明細書に接することがなくても認識し得ることである。
よって、相違点1は、やはり実質的なものではないし、そのように解さないとしても、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、刊行1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に導くことができるものである。

(2)相違点2について
本願発明1の「不揮発性キャリアー液体」に関し、本願明細書をみると、段落【0099】に「燃料可溶性の不揮発性キャリアー液体またはオイルもまた、本発明に用いられる燃料添加剤組成物と併用してもよい。キャリアー液体は、不揮発性残渣(NVR)を実質的に増加させる化学的に不活性な炭化水素可溶性液体媒体、またはオクタン要求値を大幅には増加させることのない燃料添加剤組成物の非溶媒性液体成分である。キャリアー液体としては、鉱物油、精製した石油、合成ポリアルカンおよびアルケンなどの天然油または合成油を用いることができる。合成ポリアルカンおよびアルケンの例としては、水素化及び非水素化ポリα-オレフィン、および合成ポリオキシアルキレン誘導液体(例えば、・・・・に記載のもの)、およびポリエステル(例えば、・・・・に記載のもの)を挙げることができる。」と記載されており、この記載によれば、本願発明1の「不揮発性キャリアー液体」とは、例えば鉱物油やポリエステルであり、本願発明1の「キャリアー液体」の「不揮発性」とは、鉱物油やポリエステルがそれ自体の性質として有している程度のものと解される。
そうすると、刊行1発明の「キャリアー液体」も、鉱油(鉱物油)やポリエステルからなるものであるから、本願発明1の「キャリアー液体」と同じ程度の「不揮発性」を有しているということができる。
したがって、相違点2も、実質的なものではない。

8 むすび
以上検討したところによれば、本願発明1は、刊行1発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮にそうでないとしても、刊行1発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願発明1に係る請求項1以外の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-06 
結審通知日 2012-07-10 
審決日 2012-07-25 
出願番号 特願平11-90675
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10L)
P 1 8・ 113- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 目代 博茂
新居田 知生
発明の名称 アミン化合物とエステルとを含む燃料組成物  
代理人 柳川 泰男  

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