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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1267484 |
審判番号 | 不服2012-4298 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-03-06 |
確定日 | 2012-12-12 |
事件の表示 | 特願2007-248443「静電チャック部材」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月16日出願公開、特開2009- 81223〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件出願は、平成19年9月26日の特許出願であって、同23年3月22日付の拒絶理由通知に対して同23年5月31日に意見書と手続補正書が提出されたが、同23年11月24日付けで拒絶をすべき旨の査定がされたものである。平成24年3月6日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書について再度手続補正書が提出され、当審による同24年6月18日付審尋に対して同24年8月24日に回答書が提出されている。 2.平成24年3月6日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年3月6日付けの手続補正を却下する。 [理由] 2.1 補正の内容の概要 平成24年3月6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするとともにそれに関連して明細書の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。 2.1.1 補正前 「電極層と電気絶縁層とからなる静電チャック部材において、この部材最外層に、元素の周期律表の3A族元素の酸化物の溶射被覆層を設けてなり、かつこの溶射被覆層の表面を、該溶射被覆層を構成する溶射粒子が相互に融合していると共に、平均粗さ(Ra)が0.8?3.0μmの緻密化再溶融層としたことを特徴とする静電チャック部材。」 2.1.2 補正後 「電極層と電気絶縁層とからなる静電チャック部材において、この部材最外層に、元素の周期律表の3A族元素の酸化物の溶射被覆層を設けてなり、かつこの溶射被覆層の表面を、該溶射被覆層を構成する溶射粒子が相互に融合していると共に、平均粗さ(Ra)が0.8?3.0μm、100μm以下の層厚を有する緻密化再溶融層としたことを特徴とする静電チャック部材。」 2.2 補正の適否 本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、緻密化再溶融層について「100μm以下の層厚を有する」という事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかであるので、さらに、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。 2.3 補正発明 補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記2.1.2に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「静電チャック部材」であると認める。 2.4 刊行物記載の発明 これに対して、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-70175号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。 a.(発明の詳細な説明、段落1) 「【0001】 本発明は、半導体加工プロセスにおける薄膜形成装置やプラズマ処理装置などで用いられる部材とその製造方法に関し、とくにハロゲン化合物を含む環境でプラズマ加工処理時に用いられる容器用部材、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、化学蒸着、レーザ精密加工、プラズマスパッタリングなどに使用される容器用部材などとして用いられる耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材とその製造方法に関するものである。 本発明に係る溶射皮膜被覆部材は、耐プラズマエロージョン性に優れる他、優れたパーティクルの付着、堆積機能および再飛散防止機能が求められる半導体加工処理装置用部材の他、半導体の精密加工部材あるいはこれらの装置の構造部材(加工室の壁面)などの分野での利用が可能である。」 b.(同、段落15) 「【0015】 (3)さらに、本発明は、基材の表面に直接、または該基材の表面にまず金属質アンダーコートを施した後、その上にトップコートとして、粒径50?80μmのセラミックからなる溶射粉末材料を溶射してセラミック溶射皮膜を形成し、その溶射皮膜の表面を電子ビーム照射処理することにより、該皮膜の最表層部に、この部分を溶融-凝固させて電子ビーム照射層を形成することを特徴とする耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材の製造方法を提案する。」 c.(同、段落20) 「【0020】 (1)酸化物セラミック溶射皮膜の形成 基材の表面に直接、または該基材表面に形成した金属質アンダーコートの上にトップコートとして、Al_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)あるいはAl_(2)O_(3)-Y_(2)O_(3)複酸化物からなる酸化物セラミックスの溶射皮膜を、50?2000μmの厚さに形成する。この溶射皮膜の膜厚が50μmより薄いと、トップコートとしての寿命が短くなり、一方、2000μmより厚いと、溶射成膜時に発生する熱収縮に起因する残留応力が大きくなって、皮膜の耐衝撃性や基材との密着力が低下する。」 d.(同、段落33) 「【0033】 上記した溶射皮膜表面のRsk>0で表示される表面粗さは、図1に示すように、凸部形状が鋭く針状となっているので、プラズマエッチング環境では凸部が優先的にスパッタリングされて耐プラズマエロージョン特性が悪くなるおそれが生じる。そこで、本発明では、プラズマエロージョン特性を改善するために、Al_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)あるいはAl_(2)O_(3)-Y_(2)O_(3)複酸化物の溶射皮膜の表面を、電子ビーム照射処理して溶射粒子を溶融-凝固させ、該溶射皮膜の最表層(0.5?5μm)の部分を、即ち、前記粗さ曲線で示されるスキューネス値の中心線より上の針状凸部の形状を、図2に示すように、台形状の凸部に変化させることとした。」 e.(同、段落38,39) 「【0038】 また、酸化物セラミック溶射皮膜の表面を電子ビーム照射すると、前記酸化物セラミックス、Al_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)あるいはAl_(2)O_(3)-Y_(2)O_(3)複酸化物粒子の結晶構造が変化し、電子ビーム照射前の皮膜に比較して、耐プラズマエロージョン性を向上させることができる。この効果は溶射皮膜がプラズマエロージョンの作用を受けて、自らが環境汚染パーティクルの発生源となる欠点を補うこととなる。 【0039】 酸化物セラミック溶射皮膜の表面に電子ビーム照射を行った場合、皮膜成分の結晶構造は、発明者らが知見したところによると、より安定化する方向に変化する。即ち、Al_(2)O_(3)の場合、皮膜溶射後の結晶構造は、γ相であるが、電子ビーム照射後はα相に変化し、Y_(2)O_(3)の結晶構造は、立方晶、単斜晶から立方晶に、またAl_(2)O_(3)-Y_(2)O_(3)複酸化物は上記Al_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)単独の変化を併せもつように結晶構造が変化し、その何れの変化においても、耐プラズマエロージョン性が向上する。」 刊行物記載の酸化物セラミック溶射皮膜としてY_(2)O_(3)の溶射皮膜を採用した場合に注目して上記の刊行物記載事項を補正発明に照らして整理すると、刊行物には以下の発明が記載されていると認めることができる。 「半導体加工プロセスにおける薄膜形成装置やプラズマ処理装置などで容器用部材などとして用いられる耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材において、基材の表面にY_(2)O_(3)の溶射皮膜を50?2000μmの厚さに形成し、このY_(2)O_(3)の溶射皮膜の表面を電子ビーム照射処理して溶射粒子を溶融-凝固させた層とした溶射皮膜被覆部材。」(以下、「刊行物記載発明」という。) 2.5 対比 補正発明と刊行物記載発明とを対比すると以下のとおりである。 刊行物記載発明の「半導体加工プロセスにおける薄膜形成装置やプラズマ処理装置などで容器用部材などとして用いられる耐プラズマエロージョン性に優れる溶射皮膜被覆部材」は、半導体加工プロセスにおいて用いられる部材であるという限りで、補正発明の「静電チャック部材」と共通している。 また、刊行物記載発明の「Y_(2)O_(3)の溶射皮膜」は、「元素の周期律表の3A族元素の酸化物の溶射被覆層」であり、刊行物記載発明において「基材の表面にY_(2)O_(3)の溶射皮膜を50?2000μmの厚さに形成」することは、補正発明において「部材最外層に、元素の周期律表の3A族元素の酸化物の溶射被覆層を設け」ることに相当する。 また、刊行物記載発明の「Y_(2)O_(3)の溶射皮膜の表面を電子ビーム照射処理して溶射粒子を溶融-凝固させた層」は、溶射被覆層の表面を、該溶射被覆層を構成する溶射粒子が相互に融合している緻密化再溶融層であるという限りで、補正発明の「緻密化再溶融層」と共通している。 したがって、補正発明と刊行物記載発明とは、以下の点で一致及び相違しているということができる。 [一致点] 「半導体加工プロセスにおいて用いられる部材において、この部材最外層に、元素の周期律表の3A族元素の酸化物の溶射被覆層を設けてなり、かつこの溶射被覆層の表面を、該溶射被覆層を構成する溶射粒子が相互に融合している緻密化再溶融層とした半導体加工プロセスにおいて用いられる部材。」である点。 [相違点1] 半導体加工プロセスにおいて用いられる部材が、補正発明では、電極層と電気絶縁層とからなる静電チャック部材であるのに対して、刊行物記載発明では、静電チャック部材を含んでいるのかどうか明らかでない点。 [相違点2] 補正発明では、緻密化再溶融層は、平均粗さ(Ra)が0.8?3.0μm、100μm以下の層厚を有するのに対して、刊行物記載発明では、緻密化再溶融層の平均粗さ(Ra)と層厚との具体的な範囲が明らかでない点。 2.6 相違点の検討 2.6.1 相違点1について 半導体加工プロセスにおいて用いられる部材の一つとして電極層と電気絶縁層とからなる静電チャック部材があることは、特に例示するまでもなく従来周知であり、刊行物記載発明の溶射皮膜被覆部材として上記静電チャック部材を選択することに格別の困難性は見当たらない。 2.6.2 相違点2について 緻密化再溶融層の層厚については、原審の平成23年3月22日付け拒絶理由通知書でその旨述べているように、刊行物記載発明では、溶射皮膜の膜厚を50?2000μmに形成しており、当該溶射皮膜の膜厚を50?100μmとすれば、緻密化再溶融層の層厚は、おのずと100μm以下となる。 また、溶射被覆層の表面を、溶射被覆層を構成する溶射粒子が相互に融合している緻密化再溶融層とするに当たって、当該緻密化再溶融層の平均粗さ(Ra)及び層厚をどの程度とするかは、必要に応じて適宜決定すればよい単なる設計的事項にすぎず、平均粗さ(Ra)を0.8?3.0μmとすることに臨界的な意義も認められないため、補正発明の平均粗さとすることに格別の困難性もない。 なお、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-256098号公報には、熱放射性および耐損傷性に優れるY_(2)O_(3)溶射皮膜被覆部材において、基材の表面にY_(2)O_(3)の溶射皮膜を形成した後に、この溶射皮膜を電子ビーム照射またはレーザビーム照射することによって、溶射皮膜を黒色化すると同時に緻密・平滑化することが記載されている。(段落【0017】の(i)、(iii)、同【0028】等参照。) 2.6.3 まとめ 補正発明によってもたらされる効果も、刊行物記載発明及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。 したがって、補正発明は、刊行物記載発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、本件出願については、平成24年8月24日付の回答書で補正案が提示されているが、緻密化再溶融層を「溶射被覆層の表面全体を、該溶射被覆層を構成する溶射粒子が相互に融合している」ものとすることは、上記特開2005-256098号公報にも記載されており、補正による格別の進歩性が認められないので採用しない。 3. 本件出願の発明について 3.1 本件発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし6に係る発明は平成23年5月31日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記2.1.1に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「静電チャック部材」(以下、「本件発明」という。)である。 3.2 刊行物記載の発明 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記2.4に示したとおりである。 3.3 対比・検討 本件発明は、上記2.で検討した補正発明から、緻密化再溶融層について「100μm以下の層厚を有する」という発明特定事項を削除したものである。 そうすると、本件発明を特定する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が上記2.6.3に示したとおり、刊行物記載発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.4 むすび したがって、本件出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきである。 よって、結論のとおり審決する。 . |
審理終結日 | 2012-10-01 |
結審通知日 | 2012-10-09 |
審決日 | 2012-10-22 |
出願番号 | 特願2007-248443(P2007-248443) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 浅野 麻木 |
特許庁審判長 |
豊原 邦雄 |
特許庁審判官 |
野村 亨 長屋 陽二郎 |
発明の名称 | 静電チャック部材 |
代理人 | 中村 盛夫 |
代理人 | 小川 順三 |
代理人 | 藤谷 史朗 |
代理人 | 藤谷 史朗 |
代理人 | 中村 盛夫 |
代理人 | 小川 順三 |