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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1267622
審判番号 不服2011-6346  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-24 
確定日 2012-12-20 
事件の表示 特願2007-245149「磁気共鳴診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月10日出願公開、特開2008- 626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年10月3日に出願した特願平9-271423号の一部を新たな特許出願として平成19年9月21日に出願したものであって、
平成22年12月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けにて手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成24年1月17日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、その応答期間内の同年3月26日に意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?6に係る発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1及び4は次のとおりである。(以下、請求項1及び請求項4に係る発明をそれぞれ「本願発明1」及び「本願発明4」という。)
「【請求項1】静磁場に重ねて傾斜磁場を印加可能な傾斜磁場印加手段と、前記静磁場中の被検体にRFパルスを送信すると共に前記被検体からのMR信号を受信可能なRF送受信手段と、前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御する制御手段とを備えた磁気共鳴診断装置において、
前記MR信号に基づいて前記被検体の血流画像を再構成する再構成手段を備え、
前記制御手段は所定のパルスシーケンスに従って前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御するようになっており、
前記パルスシーケンスは、付加的効果を与える少なくとも1種類のプリパルスと、前記被検体の3次元領域から3DFT法に従ってMR信号を収集するイメージングシーケンスとを含み、
前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む一部の領域と前記一部の領域以外の領域とで共通であり、前記一部の領域は前記3次元k空間において少なくともスライスエンコード方向に関して低周波領域であり、
前記一部の領域以外の領域に対しては、前記少なくとも1種類のプリパルスが印加され、
前記一部の領域に対しては、前記一部の領域以外の領域に比べて多くの種類のプリパルスが印加されることを特徴とする磁気共鳴診断装置。
【請求項4】静磁場に重ねて傾斜磁場を印加可能な傾斜磁場印加手段と、前記静磁場中の被検体にRFパルスを送信すると共に前記被検体からのMR信号を受信可能なRF送受信手段と、前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御する制御手段とを備えた磁気共鳴診断装置において、
前記MR信号に基づいて前記被検体の血流画像を再構成する再構成手段を備え、
前記制御手段は所定のパルスシーケンスに従って前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御するようになっており、
前記パルスシーケンスは、付加的効果を与えるプリパルスと、前記被検体の3次元領域から3DFT法に従ってMR信号を収集するイメージングシーケンスとを含み、
前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む低周波領域と前記低周波領域以外の高周波領域とで共通であり、
前記3次元k空間においてスライスエンコード方向に関して低周波領域のMR信号を収集するときには前記プリパルス印加し、一方、前記高周波領域のMR信号を収集するときには前記プリパルスを印加しないようになっていることを特徴とする磁気共鳴診断装置。」

第3 当審の拒絶理由通知
当審における拒絶理由通知の概略は、以下のとおりである。
本願の請求項1?5に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-88099号公報(以下、「刊行物1」という)に記載された発明および周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、(相違点についての検討)で引用した特開平9-38063号公報は、「(3-5)本願発明5について」で引用した特開平8-71055号公報の誤記である。

第4 引用刊行物記載の発明 (下線は当審で付与した。)
1 刊行物1には、「MRイメージング装置」について図面とともに次の事項が記載されている。

(1ーア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 静磁場を発生する手段と、スライス選択用、読み出し用及び位相エンコード用の各々の傾斜磁場を発生する手段と、RF信号を照射する手段と、NMR信号を受信する手段と、受信したNMR信号からデータを収集する手段と、これらを制御して位相エンコード用傾斜磁場を変化させてパルスシーケンスを繰り返すとともに、この各パルスシーケンスにおいて自由水のプロトンの共鳴周波数から少し離れた周波数のRF信号照射を付加し、かつこの付加されるRF信号の照射強度を上記の位相エンコード用傾斜磁場の変化に基づきコントロールする手段とを備えることを特徴とするMRイメージング装置。」

(1-イ)「【0003】ところで、このMRイメージング装置において、近年、MT(magnetizationtransfer)効果によるコントラスト改善法が知られるようになってきた(S.P.Wolf and R.S.Balaban; Mag. Reson. Med. vol10, p135, 1989, B.S.Hu et al.; Mag. Reson. Med. vol26, p231, 1992、特開平3-173529号公報などを参照)。これは生体組織中の自由水のプロトンと、膜や蛋白質などの巨大分子のプロトンおよびその周囲にあってその運動が制限されている水のプロトン(ここでは説明の便宜上、結合水と称する)との相互作用を捉えて画像のコントラストとするもので、MTの大きさによりつくられる画像のコントラストはMTC(magnetization transfer contrast)と呼ばれている。このMT効果は、単に画像のコントラストの改善のみならず、組織性状を反映するものとして、医学的な診断に役立つことが期待されている。
【0004】従来、このMTC画像を得るために、グラジェントエコー法やスピンエコー法などの撮像シーケンスに、水の共鳴周波数から少し離れた(周波数オフセットを持つ)周波数帯域のプリサチュレーションパルスやbinominal pulseと呼ばれる特殊な形のプリサチュレーションパルス(ここではこれらを総称してMTCパルスと呼ぶ)を付加する方法がとられている。このMTCパルスを照射することにより、結合水の、通常の方法では画像化されない緩和の早いプロトンを部分的に共鳴させて飽和させることができる。そして、このとき得られる自由水のプロトンからのNMR信号の強度が間接的にこの結合水のプロトンの飽和の影響を受け、画像コントラストが変化する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のように比較的パワーの大きいRFパルスをMTCパルスとして照射すると、RF加熱が起こり、とくに人体を被検体とする場合に問題となる。
【0006】この発明は、上記に鑑み、従来と同等なコントラストを得ながら、RF加熱による温度上昇をできるだけ抑えることができるように改善したMRイメージング装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、この発明によるMRイメージング装置においては、1つの画像を再構成するために位相エンコード量を変化させながらパルスシーケンスを繰り返していくとき、その位相エンコード量の変化に基づき、MTCパルスの照射強度を変化させることが特徴となっている。」

(1-ウ)「【0008】
【作用】たとえば位相エンコード量が小さいパルスシーケンスではMTCパルスを照射し、位相エンコード量が大きいパルスシーケンスではMTCパルスの照射強度をゼロにする(つまり照射しない)。MTCパルスが照射されると、蛋白質などの巨大分子に結合したプロトンのスピンの位相がばらばらになって飽和する。するとMT効果によって、この巨大分子の周囲にある自由水のプロトンのスピンの位相情報が影響される。そのため、自由水のプロトンからのNMR信号に、結合水のプロトンと相関のある情報が付加される。ところで、この結合水のプロトン情報が付加された信号が得られるのは、上記のように位相エンコード量が小さいパルスシーケンスのみである。しかし、この位相エンコード量が小さいパルスシーケンスで得られるデータは、2次元フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるので、再構成画像のコントラストへの寄与度が大きい。これに対して位相エンコード量が大きいパルスシーケンスで得られるデータは生データ空間の周辺部に配置されるので、再構成画像のコントラストへの寄与度は小さい。つまり、再構成画像のコントラストを支配する生データ空間の中央部に配置されるデータを取得するパルスシーケンスについてのみ、MTCパルスを付加することになる。そのため、撮像シーケンスの一部に限定してMTCパルスを付加することによりRF加熱による温度上昇を抑えながら、撮像シーケンスの全部についてMTCパルスを付加した場合と同等のコントラストの画像を得ることができる。
【0009】
【実施例】以下、この発明の好ましい一実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。図4に示すMRイメージング装置により、図2に示すようなパルスシーケンスを図1に示すように繰り返す。つまり、位相エンコード量をたとえば256通りに変化させながらパルスシーケンスを繰り返して256ラインのデータを収集し、256×256のマトリクスの画像を再構成する場合、位相エンコード量が最初負の方向に大きく順次ゼロに近づきゼロになった後正の方向に順次大きくなるように変化させられるとして、位相エンコード量が大きい最初の期間aと最後の期間cとではMTCパルス3を付加せず、位相エンコード量がゼロ付近で小さくなっている期間bのみMTCパルス3を付加することとしている。
【0010】まず、図4に示したMRイメージング装置について説明すると、静磁場を発生するための主マグネット11と、この静磁場に重畳するように傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル12とが備えられている。傾斜磁場コイル12はX、Y、Zの3軸方向に磁場強度がそれぞれ傾斜する傾斜磁場Gx、Gy、Gzを発生するように3組のコイルから構成される。この静磁場及び傾斜磁場が加えられる空間に、図示しない被検体(患者)が配置され、その被検体にRFコイル13が取り付けられる。
【0011】傾斜磁場コイル12には傾斜磁場電源21が接続され、Gx、Gy、Gzの各傾斜磁場発生用電力が供給される。この傾斜磁場電源21には波形発生器22からの波形信号が入力されてGx、Gy、Gzの各傾斜磁場波形が制御される。RFコイル13にはRFパワーアンプ33からRF信号が供給され、これにより被検体へのRF信号照射が行なわれる。このRF信号は、RF信号発生器31より発生させられたRF信号を、変調器32で、波形発生器22から送られてきた波形に応じてAM変調したものとなっている。
【0012】被検体で発生したNMR信号はRFコイル13により受信され、プリアンプ41を経て位相検波器42に送られる。位相検波器42において、受信信号はRF信号発生器31からのRF信号を参照信号として位相検波され、検波出力がA/D変換器43に送られる。このA/D変換器43にはサンプリングパルス発生器24からサンプリングパルスが入力されており、このサンプリングパルスに応じて検波出力のデジタルデータへの変換が行なわれる。そのデジタルデータはホストコンピュータ51に取り込まれる。
【0013】ホストコンピュータ51は、取り込まれたデータを処理して画像を再構成するとともに、シーケンサー23を介してシーケンス全体のタイミングを定める。すなわち、シーケンサー23は、ホストコンピュータ51の制御の下に、波形発生器22、RF信号発生器31、サンプリングパルス発生器24等にタイミング信号を送り、波形発生器22から各波形信号が出力されるタイミングを定めるとともに、RF信号発生器31からのRF信号発生タイミングを定め、さらにサンプリングパルス発生器24からのサンプリングパルス発生タイミングを定める。また、ホストコンピュータ51は、波形発生器22に波形情報を送り、Gx、Gy、Gzの各傾斜磁場パルスの波形、強度等を制御するとともに、RFコイル13から被検体に照射するRF信号のエンベロープを定め、さらにRF信号発生器31に信号を送ってRF信号の周波数を制御する。したがって、このホストコンピュータ51により、グラジェントエコー法などの撮像シーケンスに基づいたパルスシーケンス全体の制御がなされるとともに、MTCパルス3の周波数や波形、それを付加するか否かの制御がなされる。」

(1-エ)「【0014】ここでは、図2に示すように撮像シーケンスとしてグラジェントエコー法に基づくパルスシーケンスを行なうようにしており、この撮像シーケンスにMTCパルス3を付加するようにしている。図2に示すように、この撮像シーケンスはα°のフリップ角度を持つ励起パルス1を、スライス選択用傾斜磁場(ここではGzを用いている)のパルスとともに加え、読み出し用の傾斜磁場(ここではGxを用いている)のパルスと、位相エンコード用の傾斜磁場(ここではGyを用いている)とを加えてエコー信号2を発生させるという、よく知られたグラジェントエコー法によるものとなっている。MTCパルス3はこの撮像シーケンスの励起パルス1の直前に加えられ、自由水の共鳴周波数から少しずれた(周波数オフセットを持った)周波数帯域を有するようにキャリア周波数が定められる(RF信号発生器31からのRF信号の周波数が定められる)。励起パルス1の周波数は自由水の共鳴周波数とされる。なお、この図2のシーケンスでは、撮像シーケンスの前後に位相をばらばらにするスポイラーパルス(Gz、Gy、Gxの各パルス)を加えるようにしている。
【0015】そして、MTCパルス3の波形が、ホストコンピュータ51の制御の下に波形発生器22により定められる。この波形で、変調器32においてRF信号発生器31からのRF信号をAM変調することにより、MTCパルス3の信号強度を定める。ここでは、上記のように最初の期間aではMTCパルス3の信号強度をゼロにし(オフにし)、つぎの期間bでは信号強度を最大にし、最後の期間cではふたたびゼロにしている(図1参照)。すなわち、図2に示すパルスシーケンスを位相エンコード用傾斜磁場Gyを変化させながらn回繰り返すが、通常、位相エンコード用傾斜磁場Gyは負の最大量から徐々にゼロに近付け、ゼロになった後徐々に正の方向に大きくしていくので、最初の期間aに属する繰り返し期間#1、#2、#3、…ではMTCパルス3をオフにし、位相エンコード量がゼロ付近になっているつぎの期間bに属する繰り返し期間…、#k、#k+1、…ではMTCパルス3をオンにし、位相エンコード量が正方向に大きい最後の期間cに属する繰り返し期間…、#nではMTCパルス3をオフにする。
【0016】このn回の各繰り返し期間で得たエコー信号2より1ラインずつのデータが収集され、これら1ラインずつのデータが収集された順番に図3のように生データ空間に配置される。こうして2次元的に並べられたデータを2次元フーリエ変換することにより、2次元の画像が再構成される。たとえばnを256とし、1つのエコー信号2から256回サンプリングして256点のデータを得るものとすると、生データ空間は256×256のマトリクスとなり、再構成される画像も256×256のマトリクスとなる。」

(1-オ)「【0018】なお、上記は一つの実施例について述べたものであり、種々に変更可能である。たとえば、MTCパルス3を付加して得たデータは生データ空間の中央部に配置されるもの、つまり位相エンコード量が小さいときのデータであればよいので、MTCパルス3を最初と最後の期間a、cでオフ、中間の期間bでオンというような順序には限定されない(位相エンコード量の変化の仕方で変わる)。また、MTCパルス3をオフにした期間(図1では期間a、c)では、その分、各繰り返し期間を短くすることも可能である。そうすることによりn回の繰り返し期間からなる1つの画像を得るための全体の時間を短縮することができる。また、上記ではMTCパルス3をオンか、オフかに制御しているが、変調波形を制御することによりその中間の値もとり得るようにし、MTCパルス3のエンベロープを、位相エンコード量(の絶対値)に対応させて徐々に変化させるようにしてもよい。これにより結合水の緩和の早いプロトンの飽和の程度を変化させることができ、それに応じて生データ空間上のデータの変化を制御することができるため、所望のコントラストの画像を得ることができる。さらに、2次元フーリエ変換による2次元画像の再構成のみでなく、3次元フーリエ変換による3次元画像の再構成にも適用可能である。」

上記(1ーア)?(1-オ)の記載と図1?17を参照すると、上記刊行物1には、
「静磁場を発生するための主マグネット11と、この静磁場に重畳するように傾斜磁場を印加する、X、Y、Zの3軸方向に磁場強度がそれぞれ傾斜する傾斜磁場Gx、Gy、Gzを発生するように3組のコイルから構成される傾斜磁場コイル12と
RF信号照射が行なわれNMR信号が受信されるRFコイル13と、
検波出力のデジタルデータへの変換が行なわれるA/D変換器43と、
撮像シーケンスに基づいたパルスシーケンス全体の制御をするとともに、プリサチュレーションパルスの周波数や波形、それを付加するか否かの制御をし、取り込まれたデータを処理して3次元フーリエ変換による3次元画像の再構成をするホストコンピュータ51と、
を備えたMRイメージング装置において、
フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が小さいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスを照射し、生データ空間の周辺部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が大きいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスの照射強度をゼロにする(つまり照射しない)MRイメージング装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

第5 対比・判断
1 本願発明4について
(1) 本願発明4と引用発明とを対比する。
ア その構造・機能からみて、引用発明の「傾斜磁場コイル12」、「RFコイル13」、「プリサチュレーションパルス」、および「MRイメージング装置」は、それぞれ、本願発明4の「傾斜磁場印加手段」、「RF送受信手段」、「プリパルス」、および「磁気共鳴診断装置」に相当することが明らかである。

イ 引用発明の「ホストコンピュータ51」は「撮像シーケンスに基づいたパルスシーケンス全体の制御をするとともに、プリサチュレーションパルスの周波数や波形、それを付加するか否かの制御を」するのであるから、本願発明4の「所定のパルスシーケンスに従って前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御する」「制御手段」を備えていることは明らかである。

ウ 引用発明の「ホストコンピュータ51」は「撮像シーケンスに基づいたパルスシーケンス全体の制御をするとともに、プリサチュレーションパルスの周波数や波形、それを付加するか否かの制御をし、取り込まれたデータを処理して3次元フーリエ変換による3次元画像の再構成をする」のであり、「フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が小さいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスを照射」するから、本願発明4の「付加的効果を与えるプリパルスと、前記被検体の3次元領域から3DFT法に従ってMR信号を収集するイメージングシーケンスとを含」む「前記パルスシーケンス」を備えていることは明らかである。

エ 「フーリエ変換される生データ空間の中央部」が「3次元k空間の原点付近を含む低周波領域」であり、「生データ空間の周辺部」が「低周波領域以外の高周波領域」であり、「プリサチュレーションパルスを照射」と「プリパルス印加」とは共に「プリパルスを加える」ことで共通するから、引用発明の「フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が小さいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスを照射し、生データ空間の周辺部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が大きいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスの照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」と、本願発明4の「前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む低周波領域と前記低周波領域以外の高周波領域とで共通であり、
前記3次元k空間においてスライスエンコード方向に関して低周波領域のMR信号を収集するときには前記プリパルス印加し、一方、前記高周波領域のMR信号を収集するときには前記プリパルスを印加しないようになっている」
とは、「前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む低周波領域と前記低周波領域以外の高周波領域とで共通であり」「3次元k空間において少なくとも一つのエンコード方向に関して低周波領域のMR信号を収集するときには、前記プリパルスを加え、一方、前記高周波領域のMR信号を収集するときには前記プリパルスを加えないようになっている」点で共通するといえる。

そうすると、両者は、
(一致点)
「静磁場に重ねて傾斜磁場を印加可能な傾斜磁場印加手段と、前記静磁場中の被検体にRFパルスを送信すると共に前記被検体からのMR信号を受信可能なRF送受信手段と、前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御する制御手段とを備えた磁気共鳴診断装置において、
前記制御手段は所定のパルスシーケンスに従って前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御するようになっており、
前記パルスシーケンスは、付加的効果を与えるプリパルスと、前記被検体の3次元領域から3DFT法に従ってMR信号を収集するイメージングシーケンスとを含み、
前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む低周波領域と前記低周波領域以外の高周波領域とで共通であり、
前記3次元k空間において少なくとも一つのエンコード方向に関して低周波領域のMR信号を収集するときには前記プリパルスを加え、一方、前記高周波領域のMR信号を収集するときには前記プリパルスを加えないようになっていることを特徴とする磁気共鳴診断装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
パルスシーケンスのプリパルスを加えるタイミングについて、本願発明4では、「前記3次元k空間においてスライスエンコード方向に関して低周波領域のMR信号を収集するとき」であるのに対して、引用発明では、「フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が小さいパルスシーケンス」であり、スライスエンコード方向に関しては不明である点。

(相違点2)
パルスシーケンスのプリパルスの加えかたについて、本願発明4では、「印加」と「印可しない」であるのに対して、引用発明では、「照射」と「照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」である点。

(相違点3)
磁気共鳴診断装置について、本願発明4では、「前記MR信号に基づいて前記被検体の血流画像を再構成する再構成手段を備え」ているのに対して、引用発明では、そのような構成が特定されていない点。

(2) 相違点についての判断
(相違点1について)
刊行物1の(1-ウ)には「【0008】・・・位相エンコード量が小さいパルスシーケンスで得られるデータは、2次元フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるので、再構成画像のコントラストへの寄与度が大きい。これに対して位相エンコード量が大きいパルスシーケンスで得られるデータは生データ空間の周辺部に配置されるので、再構成画像のコントラストへの寄与度は小さい。つまり、再構成画像のコントラストを支配する生データ空間の中央部に配置されるデータを取得するパルスシーケンスについてのみ、MTCパルスを付加することになる。そのため、撮像シーケンスの一部に限定してMTCパルスを付加することによりRF加熱による温度上昇を抑えながら、撮像シーケンスの全部についてMTCパルスを付加した場合と同等のコントラストの画像を得ることができる。」と記載されており、フーリエ変換される生データ空間の再構成画像のコントラストへの寄与度が大きい中央部に配置されるデータが得られるタイミングにプリパルスを印加する思想が記載されており、さらに2次元フーリエ変換される生データ空間を3次元フーリエ変換される生データ空間に拡張すると、スライスエンコード方向が含まれるとともに、生データ空間の中央部は、スライスエンコード方向の低周波領域を含むのであるから、引用発明において、発熱をおさえるために、前記スライスエンコード方向の低周波領域のみにてプリパルスを印可する、すなわち、本願発明4のごとく構成することは、当業者が容易に想到するものといえる。

(相違点2について)
本願発明4においては、パルスシーケンスにプリパルスを「印可」する場合と「印可しない」場合とを区別してはいるが、時間については何も限定していない。そうすると本願発明4は、プリパルスを印可しない場合に比べて、プリパルスを印可する場合にパルスシーケンスの時間が延びる場合も、プリパルスを印可してもパルスシーケンスの時間が変わらない場合も共に含んでいる。
したがって、引用発明では「照射」及び「照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」ことが、パルスシーケンスの時間に影響しないとしても、本願発明4のパルスシーケンスにプリパルスを「印可」及び「印可しない」ことは、「照射」及び「照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」ことを含むといえるから、この点において両発明は実質的に相違しないといえる。

(相違点3について)
MR信号に基づいて前記被検体の血流画像を再構成する再構成手段を備えたものは、例えば、本願出願前に頒布され、当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平9-38063号公報、特開平8-71055号公報に記載されているようにMRAとして周知技術であり、磁気共鳴診断装置として同一の技術分野であるから、動機付けも十分あり、阻害要因もないから、引用発明をこのように構成することは当業者が容易に想到するものといえる。

(効果について)
そして、本願発明4の作用効果は、引用発明および周知技術からから当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

したがって、本願発明4は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本願発明1について
(1) 本願発明1と引用発明とを対比する。
上記「第5 1(1)」のア?イの記載は、本願発明1と引用発明との対比でも同様である。

ウ 引用発明の「ホストコンピュータ51」は「撮像シーケンスに基づいたパルスシーケンス全体の制御をするとともに、プリサチュレーションパルスの周波数や波形、それを付加するか否かの制御をし、取り込まれたデータを処理して3次元フーリエ変換による3次元画像の再構成をする」のであり、「フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が小さいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスを照射」するから、本願発明1の「付加的効果を与える少なくとも1種類のプリパルスと、前記被検体の3次元領域から3DFT法に従ってMR信号を収集するイメージングシーケンスとを含」む「前記パルスシーケンス」を備えていることは明らかである。

エ 「フーリエ変換される生データ空間の中央部」が「3次元k空間において少なくともスライスエンコード方向に関して低周波領域」であり、「生データ空間の周辺部」が「低周波領域以外の高周波領域」であり、「プリサチュレーションパルスを照射」と「プリパルス印加」とは共に「プリパルスを加える」ことで共通するから、
引用発明の「フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が小さいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスを照射し、生データ空間の周辺部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が大きいパルスシーケンスではプリサチュレーションパルスの照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」と、
本願発明1の「前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む一部の領域と前記一部の領域以外の領域とで共通であり、前記一部の領域は前記3次元k空間において少なくともスライスエンコード方向に関して低周波領域であり、
前記一部の領域以外の領域に対しては、前記少なくとも1種類のプリパルスが印加され、
前記一部の領域に対しては、前記一部の領域以外の領域に比べて多くの種類のプリパルスが印加される」
とは、「前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む一部の領域と前記一部の領域以外の領域とで共通であり、前記一部の領域は前記3次元k空間において少なくとも一つのエンコード方向に関して低周波領域であり、
前記一部の領域に対してはプリパルスが加えられる」点で共通するといえる。

そうすると、両者は、
(一致点)
「静磁場に重ねて傾斜磁場を印加可能な傾斜磁場印加手段と、前記静磁場中の被検体にRFパルスを送信すると共に前記被検体からのMR信号を受信可能なRF送受信手段と、前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御する制御手段とを備えた磁気共鳴診断装置において、
前記制御手段は所定のパルスシーケンスに従って前記傾斜磁場印加手段と前記RF送受信手段とを制御するようになっており、
前記パルスシーケンスは、付加的効果を与えるプリパルスと、前記被検体の3次元領域から3DFT法に従ってMR信号を収集するイメージングシーケンスとを含み、
前記イメージングシーケンスは、前記3DFT法の3次元k空間の原点付近を含む一部の領域と前記一部の領域以外の領域とで共通であり、前記一部の領域は前記3次元k空間において少なくとも一つのエンコード方向に関して低周波領域であり、
前記一部の領域に対してはプリパルスが加えられる磁気共鳴診断装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
パルスシーケンスのプリパルスを加える3DFT法の3次元k空間での一部の領域と一部の領域以外の分け方とプリパルスの種類数について、本願発明1では、「一部の領域は前記3次元k空間において少なくともスライスエンコード方向に関して低周波領域であり、
前記一部の領域以外の領域に対しては、前記少なくとも1種類のプリパルスが印加され、
前記一部の領域に対しては、前記一部の領域以外の領域に比べて多くの種類のプリパルスが印加される」のに対して、引用発明では、「フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるデータが得られる位相エンコード量が小さい」領域とそれ以外であり、スライスエンコード方向に関しては不明であり、プリサチュレーションパルスを上記領域に照射し、上記領域以外には照射しないが種類数は特定していない点。

(相違点2)
パルスシーケンスのプリパルスの加えかたについて、本願発明1では、「印加され」であるのに対して、引用発明では、「照射」と「照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」である点。

(相違点3)
上記「1(1)(相違点3)」の記載は、本願発明1と引用発明との対比でも同様である。

(2) 相違点についての判断
(相違点1について)
刊行物1の(1-ウ)には「【0008】・・・位相エンコード量が小さいパルスシーケンスで得られるデータは、2次元フーリエ変換される生データ空間の中央部に配置されるので、再構成画像のコントラストへの寄与度が大きい。これに対して位相エンコード量が大きいパルスシーケンスで得られるデータは生データ空間の周辺部に配置されるので、再構成画像のコントラストへの寄与度は小さい。つまり、再構成画像のコントラストを支配する生データ空間の中央部に配置されるデータを取得するパルスシーケンスについてのみ、MTCパルスを付加することになる。そのため、撮像シーケンスの一部に限定してMTCパルスを付加することによりRF加熱による温度上昇を抑えながら、撮像シーケンスの全部についてMTCパルスを付加した場合と同等のコントラストの画像を得ることができる。」と記載されており、フーリエ変換される生データ空間の再構成画像のコントラストへの寄与度が大きい中央部に配置されるデータが得られるタイミングにプリパルスを印加する思想が記載されており、さらに2次元フーリエ変換される生データ空間を3次元フーリエ変換される生データ空間に拡張すると、スライスエンコード方向が含まれるとともに、生データ空間の中央部は、スライスエンコード方向の低周波領域となるから、引用発明において、少なくともスライスエンコード方向の低周波領域を一部の領域とし、発熱をおさえるために、該一部の領域にプリパルスを加えることに格別の困難性は認められない。
さらに、目的に応じた複数種のプリパルスは、当審拒絶理由にて「(3-5)本願発明5について」で引用された文献である特開平8-71055号公報に「【0003】このような磁気共鳴イメージング装置では、脂肪抑制機能、動静脈分離機能、STC機能(Saturation Transfer Contrast)等の機能を用いて撮影を行なうことが多い。脂肪抑制機能は、スライス面の脂肪のプロトンに由来するNMRスペクトルを抑制して脂肪画像を除去する。つまり、撮影対象となるスライス面に脂肪のプロトンが共鳴する周波数でプリパルスを印加して脂肪成分を飽和させることにより、脂肪の画像を除去することが可能となる。
【0004】動静脈分離機能は、動脈と静脈との流れる方向が異なることを利用し、スライス面に隣接するいづれか一方の面側をプリパルスで飽和させることにより、この面側から流入する血液を抑制する。即ち、動脈と静脈とを分離することができる。
【0005】STC機能は、スライス面内の高分子の成分を抑制し、これに伴って水成分の信号を低下させる。このとき、病変部では水成分の低下量が小さいので正常組織と病変部との間にコントラストを付けることができる。」と記載されているように周知技術であるから、引用発明に、さらにこれらのプリパルスを適宜採用して、発熱に注意してスライスエンコード方向の低周波領域とそれ以外の領域の両方に付加して用いることで、前記一部の領域以外の領域に対しては、少なくとも1種類のプリパルスが印加されること、すなわち、相違点1のごとく構成することは、当業者が容易に想到するものといえる。

(相違点2について)
本願発明1においては、パルスシーケンスにプリパルスが「印可され」る場合をプリパルスの種類数で区別しているが時間については何も限定していない。そうすると本願発明は、プリパルスを印可しない場合に比べて、プリパルスを印可した場合にパルスシーケンスの時間が延びる場合も、プリパルスを印可してもパルスシーケンスの時間が変わらない場合も共に含んでいる。
したがって、引用発明では「照射」及び「照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」ことが、パルスシーケンスの時間に影響しないとしても、本願発明1のパルスシーケンスにプリパルスが「印可され」ることは、「照射」及び「照射強度をゼロにする(つまり照射しない)」ことを含むといえるから、この点において両発明は実質的に相違しないといえる。

(相違点3について)
上記「第5 1(2)(相違点3について)」の記載は、本願発明1と引用発明との対比でも同様である。

(効果について)
そして、本願発明1の作用効果は、引用発明および周知技術からから当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

したがって、本願発明1は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び4は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項について言及するまでもなく、本願出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-06 
結審通知日 2012-08-07 
審決日 2012-11-05 
出願番号 特願2007-245149(P2007-245149)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
後藤 時男
発明の名称 磁気共鳴診断装置  
代理人 村松 貞男  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 中村 誠  

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