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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1267658
審判番号 不服2012-818  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-16 
確定日 2012-12-20 
事件の表示 特願2008-545277「X線発生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月29日国際公開、WO2008/062519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年(2006年)11月21日を国際出願日とする特願2008-545277号であって、平成23年7月7日付けで拒絶理由が通知され、同年9月9日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年10月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年1月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において同年6月22日付けで、前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋を行ない、同年8月27日付けで回答書が提出された。

第2 平成24年1月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年1月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲に係る発明は、平成23年9月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載の、

「【請求項1】
電子銃とターゲットとを容器内に収容し、前記電子銃から照射された電子ビームを前記ターゲットに衝突させ、衝突部位から発生したX線を前記容器に設けられたX線窓から取り出すように構成されたX線発生装置であって、電子銃を、前記電子ビームを出射するカソードと、カソード・ターゲット間に配設された少なくとも2つ以上の中間電極とで構成し、これら中間電極のうち前記カソードに最も近い第1電極周りの熱容量を他の電極よりも大きくし、この第1電極に前記容器と同電位の電位を与えるとともに、この電位は接地電位であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線発生装置において、前記カソード、ターゲットおよび前記第1電極を除く前記中間電極を含めた装置内の全ての電極の電位が正の電位であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のX線発生装置において、前記第1電極には導電部材からなり熱容量の大きな第1電極保持部材を介して電位が与えられるようにすることによって、前記第1電極周りの熱容量を大きくするとともに、前記第1電極に電位が与えられることを特徴とするX線発生装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のX線発生装置において、前記第1電極を直接的に前記容器に当接させることで、前記第1電極周りの熱容量を大きくするとともに、前記第1電極に電位が与えられることを特徴とするX線発生装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のX線発生装置において、前記第1電極と前記容器との間に単数または互いに当接した複数の導電部材を配設し、その導電部材を前記第1電極に当接させるとともに前記容器に当接させ、前記導電部材を介して前記第1電極を前記容器に間接的に接触させることで、前記第1電極周りの熱容量を大きくするとともに、前記第1電極に電位が与えられることを特徴とするX線発生装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のX線発生装置において、前記第1電極をMo(モリブデン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Ir(イリジウム)あるいはそれらのいずれかを含む物質で形成することを特徴とするX線発生装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のX線発生装置において、前記第1電極をステンレス鋼で形成することを特徴とするX線発生装置。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のX線発生装置において、前記第1電極を融点が2000℃未満の低融点金属あるいはそれを含む物質で形成することを特徴とするX線発生装置。
【請求項9】
請求項8に記載のX線発生装置において、前記低融点金属は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ni(ニッケル)あるいはそれらのいずれかを含む合金であることを特徴とするX線発生装置。」が

「【請求項1】
電子銃とターゲットとを容器内に収容し、前記電子銃から照射された電子ビームを前記ターゲットに衝突させ、衝突部位から発生したX線を前記容器に設けられたX線窓から取り出すように構成されたX線発生装置であって、電子銃を、前記電子ビームを出射するカソードと、カソード・ターゲット間に配設された少なくとも2つ以上の中間電極とで構成し、これら中間電極のうち前記カソードに最も近い電極を第1電極としたとき、前記カソードと前記第1電極の距離がサブミリオーダーであるようにするとともに、前記第1電極を前記容器に直接的に当接することでこの第1電極の電位を前記容器と同電位とし、さらにこの電位を接地電位とし、第1電極周りの熱容量を他の電極の熱容量よりも大きくすることを特徴とするX線発生装置。」と補正された。

そして、この補正は、本件補正前の請求項1を、本件補正前の請求項4の内容及び「カソード」と「第1電極」の距離について「サブミリオーダーであるようにする」とする特定事項によって限定する補正事項、本件補正前の表現を変更して文章を整えた補正事項、及び、本件補正前の請求項2-9を削除する補正事項からなる。よって、本件補正は、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正事項を含むものであるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成24年1月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-163098号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はX線管などを備えたX線発生装置に関する。
【0002】
【従来の技術】X線発生装置は、X線を放出するX線管を組み込んだ装置であり、医療用あるいは工業用の診断装置などに数多く利用されている。X線管についても、X線発生装置の用途に応じて種々のものが実用化されている。例えば、X線で検査対象物の微細構造などを検査する際には、X線の発生領域である陽極ターゲット上の電子ビームの焦点寸法を数μmから数10μm程度としたX線管、いわゆるマイクロフォーカスX線管が用いられている(例えば特開2001-273860号公報参照)。
【0003】上述したマイクロフォーカスX線管は、例えばX線を放出する陽極ターゲットと陰極をそれぞれ真空容器内に配置した構造を有している。陰極はヒータによる加熱で電子ビームを発生するカソード電極、管電流を制御するグリッド電極、陽極ターゲット上における電子ビームの焦点寸法を制御するフォーカス電極などから構成されている。
【0004】このような構成を有するX線管では、例えばカソード電極、陽極ターゲット、あるいはグリッド電極を接地電位に設定し、陽極ターゲットに所定の管電圧を印加することが一般的である。X線管の動作状態は、例えばフォーカス電極やグリッド電極に印加する電圧を制御することにより調整される。フォーカス電極に印加する電圧を制御する場合、管電圧を生成する陽極ターゲット用電源とは別に、フォーカス電極に印加するフォーカス電圧を生成するためのフォーカス電極用電源が用いられる。」

「【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】図1は本発明の第1の実施形態によるX線発生装置の構成を示す図である。同図に示すX線発生装置は、マイクロフォーカスX線管10を有している。マイクロフォーカスX線管10は全体が真空容器11で構成されており、真空容器11内の一方の側には陰極12が配置され、また他方の側には陽極13が配置されている。陽極13は陽極ターゲット14を有している。
【0017】陰極12は、例えば電子ビームeを発生するカソード電極15と、カソード電極15を加熱するヒータ16と、電子ビームeの流れ(例えば管電流)を制御するグリッド電極17と、電子ビームeを集束して陽極ターゲット14上に形成される電子ビームの焦点形状を制御するフォーカス電極18とから構成されている。
【0018】この実施形態のX線発生装置では、グリッド電極17が接地電位Gとされている。陽極ターゲット14と接地電位Gとの間には出力可変の管電圧発生部19が接続されており、陽極ターゲット14にはグリッド電極17に対して正の管電圧Vtが印加される。管電圧Vtは所定の値に制御されている。
【0019】また、カソード電極15と接地電位Gとの間には出力可変のバイアス電圧発生部20が接続されており、カソード電極15にはグリッド電極17に対して正のバイアス電圧Vbが印加される。このカソード電極15とグリッド電極17との間のバイアス電圧Vbによって、X線管10の管電流が制御される。ヒータ16にはヒータ電圧発生部21からDCあるいはACの所定電力が供給される。
【0020】管電圧発生部19の両端には、分圧部31が並列に接続されている。分圧部31は2個の抵抗R_(1)、R_(2)により構成されている。これら2個の抵抗R_(1)、R_(2)は直列に接続されており、例えば管電圧発生部19の電位の高い側から順に、第1の抵抗R_(1)および第2の抵抗R_(2)とされている。第1の抵抗R_(1)と第2の抵抗R_(2)との接続点aはフォーカス電極18に接続されており、第2の抵抗R_(2)の両端の電圧がフォーカス電圧Vfを形成している。
【0021】すなわち、分圧部31は管電圧Vtを第1の抵抗R1および第2の抵抗R2に基づいて分圧し、第2の抵抗R_(2)の両端にフォーカス電圧Vfを生成するものである。そして、フォーカス電極18と接地電位Gとの間には、分圧部31で管電圧Vtを分圧することにより生成したフォーカス電圧Vfが印加される。フォーカス電極18にはグリッド電極17に対して正のフォーカス電圧Vfが印加されている。
【0022】上記構成を有するX線発生装置において、カソード電極15で発生した電子ビームeはグリッド電極17で管電流が制御され、さらにフォーカス電極18で集束されて陽極ターゲット14上に衝突する。陽極ターゲット14への電子ビームeの衝突によって、陽極ターゲット14から例えば矢印Y方向にX線が放出される。この際、フォーカス電極18に印加されるフォーカス電圧Vfは、管電圧Vtとの関係において、
Vf=Vt×R_(2)/(R_(1)+R_(2)) ……(1)
となる。
【0023】(1)式から分かるように、フォーカス電圧Vfと管電圧Vtは図7に示したような比例関係を有している。このフォーカス電圧Vfと管電圧Vtの比例関係は、基本的に管電圧Vtに脈動などの変動があっても維持されるため、管電圧Vtの変動が電子ビームの焦点径に与える影響を小さくすることができる。その結果として、陽極ターゲット14上に電子ビームの微小焦点を再現性よく形成することが可能となる。
【0024】このように、第1の実施形態のX線発生装置によれば、電子ビームの焦点形成に対して電圧変動の影響を少なくすることができ、それによって陽極ターゲット14上に電子ビームの微小焦点を再現性よく形成することが可能となる。さらに、分圧部31で管電圧Vtを分圧してフォーカス電圧Vfを生成しているため、従来のX線発生装置のようにフォーカス電圧発生部を管電圧発生部19とは別途に設ける必要がなく、X線発生装置の装置構成を簡易化することが可能となる。なお、この実施形態ではグリッド電極17を接地電位Gに設定したが、例えば陽極ターゲット14を接地電位に設定した場合も同様の動作となる。」

「【図1】



イ 引用例1に記載された発明の認定
図1から、カソード電極15と陽極ターゲット14の間にグリッド電極17とフォーカス電極18が配置され、これらの電極のうち、グリッド電極17が最もカソード電極15に近いことが見て取れる。
よって、上記記載を総合すれば、引用例1には、
「真空容器11内の一方の側には陰極12が配置され、また他方の側には陽極13が配置され、
陽極13は陽極ターゲット14を有し、
陰極12は、電子ビームeを発生するカソード電極15と、カソード電極15を加熱するヒータ16と、電子ビームeの流れ(例えば管電流)を制御するグリッド電極17と、電子ビームeを集束して陽極ターゲット14上に形成される電子ビームの焦点形状を制御するフォーカス電極18とから構成され、カソード電極15と陽極ターゲット14の間にグリッド電極17とフォーカス電極18が配置され、これらの電極のうち、グリッド電極17が最もカソード電極15に近く、
上記構成を有するX線発生装置において、カソード電極15で発生した電子ビームeはグリッド電極17で管電流が制御され、さらにフォーカス電極18で集束されて陽極ターゲット14上に衝突し、陽極ターゲット14への電子ビームeの衝突によって、陽極ターゲット14からX線が放出され、
グリッド電極17が接地電位GとされているX線発生装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-6295号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はX線の放出源をして使用されるX線管に関する。
【0002】
【従来の技術】X線管には陽極が回転する回転陽極型X線管、あるいは陽極が回転しない固定陽極型X線管などがある。回転陽極型X線管は、陽極ターゲットが回転できるように、陽極ターゲットを回転支持機構によって支持している。そして、回転状態の陽極ターゲットに電子ビームを衝突させ、X線を放出させる構造になっている。」

「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態について図1を参照して説明する。
【0014】符号11は回転陽極型X線管を構成する真空容器で、真空容器11の一部たとえば管軸m方向に伸びる円筒部11aの部分にX線を取り出すX線出力窓12が設けられている。真空容器11はたとえばガラスなどの絶縁物および金属で形成されている。図1の場合、少なくともX線出力窓12周辺たとえばX線出力窓12が取り付けられた円筒部11aは金属で構成されている。そして、円筒部11aで囲まれた内部に、たとえば基体部分がMo合金で形成された陽極ターゲット13が配置されている。
【0015】陽極ターゲット13は陽極構体の一部を構成し、たとえば図示上半分を構成する第1部分13Aと、図示下半分を構成する第2部分13Bとを機械的に結合して構成され、全体の外側部分は肉厚の厚い厚肉部131に形成され、全体の中央部分は肉厚の薄い薄肉部132に形成されている。」

「【0027】陽極ターゲット13の図示上方に陰極23が配置されている。陰極23はその中心軸nが管軸mに対して傾いた向きに配置され、電子ビームeはたとえば真空容器11側に向かって外向きに放出される。
【0028】動作時、真空容器11の金属部分はたとえば接地して0Vの電位に、陰極23は-70kVの電位に、陽極ターゲット13は+70kVの電位に設定され、陰極23および陽極ターゲット13間に電子光学系が形成される。
【0029】上記した構成において、陰極23で発生した電子ビームeは電子光学系によって偏向、集束され、たとえば陽極ターゲット13の環状溝16内のX線放射層Xa、Xb上にX線焦点を形成し、X線放射層Xa、XbからX線が放出される。このとき、X線を取り出す方向すなわち利用されるX線束の中心軸R方向とX線放射層Xa、Xbに入射する電子ビームeはほぼ平行し、放出されたX線はX線出力窓12から出力される。」

「【0033】次に、本発明の他の実施形態について図2を参照して説明する。図2は、図1に対応する部分に同じ符号を付し重複する説明を一部省略する。
【0034】この実施形態の場合、陰極23の前方に、真空容器11の金属部分を介して接地されたビーム成型電極31が配置されている。ビーム成型電極31の一部に電子ビームが通過する貫通孔31aが設けられ、電子ビームeは貫通孔31aを通過する際に成型され、環状溝16内のX線放射層Xa、Xb上にX線焦点を形成する。」

「【図2】



エ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-30641号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、X線を発生させるX線管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】X線管は、高真空の封止筐体(管)内に、カソード、ヒータ及びグリッド電極等より成る電子銃と、集束電極と、陽極ターゲットと、を備え、上記カソードをヒータにより加熱して当該カソードから電子を放出させ、この電子をグリッド電極、集束電極を介して、高電圧を印加した陽極ターゲットに集束入射することによりX線を発生させるものである。
【0003】このX線管の組立では、筐体と一体化された集束電極に対向して電子銃を筐体内に挿入して当該電子銃の位置(電子進行方向での位置)を決め、電子銃のカソードとは反対側の蓋部分を、筐体に固定して当該筐体を封止する。
【0004】ここで、X線管では所定のX線を得るべく、電子銃からの電子ビームを陽極ターゲット上に10μm程度に絞る必要があり、この所定の焦点径を得るには、集束電極と電子銃のグリッド電極との間隔を、高精度に所定の間隔とする必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記X線管にあっては、電子銃を集束電極に対向して筐体内に挿入した時点で、当該電子銃の蓋部分により筐体が蓋されて、グリッド電極と集束電極との間の実際の間隔を測定・検査することができないため、電子銃の位置決め調整によりグリッド電極と集束電極との間隔を高精度に所定の間隔とするのは非常に難しく、さらにこの電子銃の位置決め調整に非常に時間を費やすといった問題があった。
【0006】因みに、集束電極に対してグリッド電極が所定の間隔に対して例えば100μmずれると、所定の焦点径(10μm程度)を得ることはできない。
【0007】本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、グリッド電極の軸線方向(電極並設方向)での位置決めを正確且つ容易にでき、品質の向上及び組立コストの低減を実現できるX線管を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のX線管は、真空に封止された筐体内で、カソードを加熱して電子を放出させ、この電子をグリッド電極、集束電極を介して陽極ターゲットに集束させてX線を発生させるX線管において、一方側の端部がグリッド電極に固定され、他方側の端部が集束電極に当接すると共に、グリッド電極から集束電極に向かう電子が通過可能に筒状にされたスペーサを備えたことを特徴としている。
【0009】このような本発明に係るX線管によれば、グリッド電極から集束電極に向かう電子を遮らないように筒状にされると共に、一方側の端部がグリッド電極に固定され他方側の端部が集束電極に当接するスペーサにより、グリッド電極と集束電極との間隔が所定の間隔に設定される。このため、グリッド電極の軸線方向(電極並設方向)での位置決めが正確且つ容易になされる。また、陽極ターゲットから集束電極を介してカソード側に向かう余分なX線は、筒状を成すスペーサ及び当該スペーサを固定するグリッド電極によりカソード側に対して遮蔽される。このため、X線の筐体からの漏洩がより確実に防止されるようになる。
【0010】ここで、スペーサの他方側の端部と集束電極とは、嵌合部により嵌め合わされているのが好ましい。
【0011】このような構成を採用した場合、嵌合部の嵌め合いにより、スペーサの他方側の端部の上記電極並設方向に直交する方向での位置決めが正確且つ容易になされると共に、当該端部及びグリッド電極が集束電極に支持されて、耐震性が向上される。
【0012】また、スペーサの一方側の端部とグリッド電極とは、嵌合部により嵌め合わされているのが好ましい。
【0013】このような構成を採用した場合、グリッド電極にスペーサの一方側の端部を固定するにあたって、嵌合部の嵌め合いにより、グリッド電極に対する当該端部の位置決めが正確且つ容易になされる。
【0014】また、筐体は、冷却媒体により冷却されているのが好ましい。
【0015】このような構成を採用した場合、グリッド電極の熱は、当該グリッド電極に固定されるスペーサ、このスペーサが当接する集束電極、筐体を介して積極的に冷却媒体に放熱される。このため、グリッド電極での異常発熱が防止されるようになる。
【0016】また、スペーサは、周壁にガス抜き用の穴を備えているのが好ましい。
【0017】このような構成を採用した場合、筒状を成すスペーサ及び当該スペーサを固定するグリッド電極を境界部として画成される陽極ターゲット側の空間部とカソード側の空間部とが、ガス抜き用の穴により連通されるため、筐体内の真空引きが容易になされるようになる。
【0018】また、スペーサ及び筐体は導電体であり、集束電極は筐体に電気的に接続され、スペーサには所定の電位が供給されているのが好ましい。【0019】このような構成を採用した場合、所定の電位がスペーサ、集束電極を介して筐体に供給され、スペーサ、集束電極及び筐体の電位は常に所定に維持される。このため、カソードからの電子は正常に陽極ターゲットに集束されると共に、筐体に電位を別に供給するのが不要にされる。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係るX線管の好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】図1は、第1実施形態に係るX線管の要部を示す断面図である。図1に示すように、X線管1は、マイクロフォーカスX線管であり、電子80を発生・放出する電子銃部2と、この電子銃部2からの電子80を受けてX線81を発生させるX線発生部3と、を備えている。これらの電子銃部2及びX線発生部3は、各構成部品を収容する筐体としての筒状の容器21,31より各々の外郭が構成される。これらの容器21,31は導電体より成り、互いに直交するように連結されている。容器21内と容器31内とは、容器21,31の境界部に形成された集束電極25により仕切られると共に、この集束電極25に形成された開口25aを通して連通され、容器21内には電子銃50が、容器31内には陽極ターゲット32が、各々配置されている。また、容器21,31は密封されて、その内部は真空状態にされている。
【0022】容器21内に配置された電子銃50は概略、発熱源としてのヒータ76と、このヒータ76により加熱されて電子80を発生・放出する熱電子源としてのカソード73と、このカソード73から放出された電子80を加速・集束させる第1、第2グリッド電極71,72と、この第2グリッド電極72と集束電極25との間に介在して当該第2グリッド電極72と集束電極25との間隔を所定の間隔に設定するスペーサ8と、上記第1、第2グリッド電極71,72、ヒータ76、カソード73に所定の電圧を容器外部より供給するための複数のピン5と、これらのピン5が貫通固定されると共に容器の蓋部として機能するステム4と、を備える。
【0023】上記ステム4、ヒータ76、カソード73、第1、第2グリッド電極71,72及びスペーサ8は、集束電極25側に向かってこの順に並設され、これら構成部品の各軸心が一致すると共に集束電極25の開口25aの軸心、筒状を成す容器21の軸心と同軸に位置するように配置されている。
【0024】さらに詳細に説明すれば、上記カソード73は、絶縁体より成る筒体74の先端に設けられ、この筒体74内に、当該カソード73を加熱する上記ヒータ76が設けられている。上記第1グリッド電極71は、カソード73より集束電極25側に配置され、この第1グリッド電極71より集束電極25側に、上記第2グリッド電極72が配置される。この第2グリッド電極72は、第1グリッド電極71の集束電極25側に、複数のセラミック棒(絶縁体)9を介して支持され、上記カソード73及びヒータ76を有する筒体74は、第1グリッド電極71の集束電極25側とは反対側に、絶縁体75を介して支持されている。
【0025】第1、第2グリッド電極71,72は、各々円板状を成すと共に、各々の上記カソード73に対向する位置に、カソード73からの電子80が通過する開口71a,72aを備える。第2グリッド電極72は、カソード73からの電子80を容器31内のターゲット32側に引っ張る電極である。また、第1グリッド電極71は、第2グリッド電極72によりターゲット32側に引っ張られる電子80をカソード73側に押し戻す電極であり、この第1グリッド電極71に供給する電圧を調整することで、ターゲット32側に向かう電子80が増減される。また、第1、第2グリッド電極71,72の開口71a,72aにより、図2に示すように、カソード73からの電子80をターゲット32に集束させる微小電子レンズ群が構成されている。
【0026】図1に戻って、第2グリッド電極72と集束電極25との間には、本実施形態の特徴を成すスペーサ8が介在している。このスペーサ8は、カソード73からターゲット32に向かう電子80が通過可能に筒状にされると共に軸線方向に所定長を有し、一方側の端部8bが第2グリッド電極72の端面に固定され、他方側の端部8cが集束電極25に当接される。この所定長を有するスペーサ8が第2グリッド電極72と集束電極25との間に介在することで、当該第2グリッド電極72と集束電極25との間隔が所定の間隔に設定されている。ここで言う所定の間隔とは、所望の焦点径を得るのに必要な第2グリッド電極72と集束電極25との間隔である。
【0027】このスペーサ8は、例えばステンレス等の導電体より成り、このスペーサ8を固定する上記第2グリッド電極72は、例えば耐熱性の良いMo(モリブデン)より成る。このように、本実施形態では、通常の溶接をし難いMoを第2グリッド電極72として用いているため、Ni(ニッケル)リボン7を複数個用いて抵抗溶接により第2グリッド電極72とスペーサ8とが連結されている。このNiリボン7による連結は、第2グリッド電極72の端面とスペーサ8の一方側の端部8b内周面との間でなされている。」

「【0045】また、X線管1は絶縁油に浸漬されているため、第2グリッド電極72の熱は、当該第2グリッド電極72に固定されたスペーサ8、このスペーサ8が当接する集束電極25、容器21,31を介して積極的に絶縁油に放熱され、これにより第2グリッド電極72での異常発熱を防止できる。
【0046】また、スペーサ8を非導電体とすると、X線管1の動作時に、当該スペーサ8が帯電して、カソード73からの電子80が正常にターゲット32の先端面32aに集束されない虞があるが、本実施形態では、スペーサ8を導電体として、当該スペーサ8に第2グリッド電極72を介してグランド電位が供給されるため、スペーサ8の異常帯電が防止され、カソード73からの電子80を正常にターゲット32の先端面32aに集束できる。
【0047】さらにまた、第2グリッド電極72、スペーサ8、集束電極25を介して容器21,31にもグランド電位が供給されるため、別のグランド電位供給手段を用いて容器21,31にグランド電位を供給する必要がなく、部品点数の減少を図ることができる。」

「【図1】



(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「電子ビームeを発生するカソード電極15と、カソード電極15を加熱するヒータ16と、電子ビームeの流れ(例えば管電流)を制御するグリッド電極17と、電子ビームeを集束して陽極ターゲット14上に形成される電子ビームの焦点形状を制御するフォーカス電極18とから構成され」る「陰極12」が、本願補正発明の「電子銃」に相当し、引用発明の「陽極ターゲット14」が本願補正発明の「ターゲット」に相当し、引用発明の「真空容器11」が本願補正発明の「容器」に相当するから、引用発明の「真空容器11内の一方の側には陰極12が配置され、また他方の側には陽極13が配置され、陽極13は陽極ターゲット14を有」することが、本願補正発明の「電子銃とターゲットとを容器内に収容」することに相当する。

引用発明の「X線発生装置」の「真空容器11」がX線を取り出す(X線)窓を備えることは当然であることを踏まえると、引用発明の「X線発生装置において、カソード電極15で発生した電子ビームeはグリッド電極17で管電流が制御され、さらにフォーカス電極18で集束されて陽極ターゲット14上に衝突し、陽極ターゲット14への電子ビームeの衝突によって、陽極ターゲット14からX線が放出され」ることが、本願補正発明の「前記電子銃から照射された電子ビームを前記ターゲットに衝突させ、衝突部位から発生したX線を前記容器に設けられたX線窓から取り出すように構成されたX線発生装置」であることに相当する。

引用発明の「グリッド電極17」と「フォーカス電極18」が本願補正発明の「中間電極」に相当するから、引用発明の「陰極12は、電子ビームeを発生するカソード電極15と、カソード電極15を加熱するヒータ16と、電子ビームeの流れ(例えば管電流)を制御するグリッド電極17と、電子ビームeを集束して陽極ターゲット14上に形成される電子ビームの焦点形状を制御するフォーカス電極18とから構成され」ることが、本願補正発明の「電子銃を、前記電子ビームを出射するカソードと、カソード・ターゲット間に配設された少なくとも2つ以上の中間電極とで構成」することに相当する。

引用発明の「カソード電極15と陽極ターゲット14の間にグリッド電極17とフォーカス電極18が配置され、これらの電極のうち、グリッド電極17が最もカソード電極15に近く」、「グリッド電極17が接地電位Gとされている」ことが、本願補正発明の「これら中間電極のうち前記カソードに最も近い電極を第1電極としたとき」、第1電極の「電位を接地電位と」することに相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「電子銃とターゲットとを容器内に収容し、前記電子銃から照射された電子ビームを前記ターゲットに衝突させ、衝突部位から発生したX線を前記容器に設けられたX線窓から取り出すように構成されたX線発生装置であって、電子銃を、前記電子ビームを出射するカソードと、カソード・ターゲット間に配設された少なくとも2つ以上の中間電極とで構成し、これら中間電極のうち前記カソードに最も近い電極を第1電極としたとき、第1電極の電位を接地電位とするX線発生装置。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
カソードと第1電極の距離が、本願補正発明は「サブミリオーダー」であるようにするのに対し、引用発明は、その点が明確でない点。

(イ)相違点2
本願補正発明は、「第1電極を容器に直接的に当接することでこの第1電極の電位を容器と同電位とし」、「第1電極周りの熱容量を他の電極の熱容量よりも大きくする」ものであるのに対して、引用発明は、その点の特定がない点。

(4)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
X線発生装置の精密化のためにX線ビームの微小化を図る必要があり、そのために装置を小型化することが要請され、しいては、カソード電極と、カソード電極に最も近い中間電極(グリッド電極)との間の距離をできるだけ接近させる必要があることは、X線発生装置において自明の技術課題である。
そして、引用発明においても、上記自明の課題を解決すべく、カソード電極とグリッド電極との間の距離をできるだけ接近させるようにすることは当業者が容易に想到し得ることであり、そして、カソード電極とグリッド電極との間の距離として、サブミリオーダーとすることは、例えば、特開2005-38825号公報(【0051】において「0.1?0.5mm」と記載されている)、特開2003-36805号公報(【0038】において「0.1mm」と記載されている)にも記載されているように通常のことである点に鑑みれば、引用発明において、カソード電極とグリッド電極をサブミリオーダーの距離に近接させて、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
引用発明は、「グリッド電極17が接地電位Gとされている」ことが特定されているものである。
一般に、部材に接地電位を与える手法として、接地電位にある電気容量の大きなものに電気的に接続することは、通常行われている周知の手法である。
また、引用例2,3には(引用例2においては【0034】、引用例3においては【0018】、【0019】及び【0047】参照)、カソードと陽極ターゲットの間の電極を接地するに際して、当該電極と容器(筐体)を接続し、両者の電極を同電位とすることが記載されており、X線発生装置においても、電極を、容量が大きく、接地電位にある容器(筐体)に接続して、接地電位を与えるとすることは周知の技術である。
そして、電極を容器(筐体)に接続したとき、電極の熱を当該容器を通じて放熱することができることは引用例3にも記載されている(【0015】及び【0045】参照)ように当業者が予測し得ることであり、そして、その際においては、容器(筐体)に接続された電極が他の電極より熱容量が大きくなるのは、技術常識から当然であるといえる。
以上のとおりであるから、引用発明において、上記の周知技術を採用し、グリッド電極を真空容器に接続して接地して、グリッド電極の熱容量を他の電極の熱容量より大きくし、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明並びに周知技術及び技術常識から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年1月16日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年9月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成24年1月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成24年1月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成24年1月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、本件補正前の請求項4の内容及び「カソード」と「第1電極」の距離について「サブミリオーダーであるようにする」とする特定事項によって限定する補正、並びに、本件補正前の表現を変更して文章を整えた補正をしたものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成24年1月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明並びに周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明並びに周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-17 
結審通知日 2012-10-23 
審決日 2012-11-06 
出願番号 特願2008-545277(P2008-545277)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 輝雄桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
北川 清伸
発明の名称 X線発生装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  

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